【本編完結】諏訪子様になった、負け戦を回避したい   作:洩矢廻戦

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 ちょっと早めの間章
 もう何話か挟もうかな?と思ったけど話の中身を薄めることになるしテンポ重視のここで間章です


14話.ドラゴンイーターの繭―間章―

 ――地底、後の歴史では旧地獄と称されるこの場所。

 まだ恐怖や信仰が当たり前だった時代、神秘で溢れた世界。

 そこに似合わない緩い空気が、一同を包み込んでいた。

 

「そんなことを言うのはこの口かしら?ん~?」

「ひゃ、ひゃえぇ…」

「あら?抵抗していいのかしらん?ぷにぷにぷにぷにぷにぷに…」

「ひゃ、ゃぇて…」

 

 ぷにぷにぷにぷにぷにぷに…

 

「…なんだこれ」

 

 また面倒臭いことになりそうだ、とは思ったものの。

 あくまでもそれはヘカーティアと名乗った女神ではなく、今も抵抗を許されず、頬をつままれたままの彼女に対してだ。

 しかしそんなてゐの予想を裏切ったのは、先ほど彼女の姿をじっと見つめて、何かに気づいた様子を見せたヘカーティアだった。

 

『変なTシャツヤロー!』

『あらぁ?』

 

 蛇に睨まれた蛙とはあのことを言うのだろう。

 口調こそおちゃらけたものではあったが、てゐは今までの人生経験で育て上げた、危機回避の本能が全力で叫ぶのを聞いた。

 人間であるはずのマエリベリーでさえ顔を真っ青にするほどの威圧感、そして「嫌な予感」と呼ばれるもの。

 しかしそんなてゐたちの前で、予想を裏切りヘカーティアは笑顔だった。

 

『…へぇ?』

 

 面白いものを見つけた、珍しいものを見たと言わんばかりの満面の笑みを見せ…

 

『ぷにぷに~』

『ホアァアァーッ!』

 

 そして冒頭の光景に繋がる。

 ちなみに彼女に拒否権はないらしく、この戯れはざっと5分ほど続いているのだが。

 てゐは言う。

 

「ちょっと、そろそろ返してくれませんかね」

「ぷにぷにぷに…」

「…あの~」

「いいわよ」

 

 ぱっと両腕を離し、素早く表情を切り替えるヘカーティア。

 しかしその両目は変わらず、頬を摩っている彼女へ向けられていた。

 

「あなた好きな色は?」

「黒と紫…」

「好きな時間は何かしら?ちなみに私は逢魔が時ね」

「うーん…強いて言えば黄昏ですかね」

「あらら、いいセンスしてるじゃない」

 

 そして始まった謎の質疑応答。

 最初あれだけ驚いていた彼女も、既に慣れてしまったのか先ほどまでの緊張した様子はない、所々敬語が混じってはいるが。

 彼女の答えにうんうんと、満足そうに頷いて言う。

 

「う~んやっぱり…あなた面白いわね」

「そ、そうっすか…?」

「うんうん、私にそっくりだわぁ、確固たる自我と補完された魂…いいわね、流石同族」

「?」

 

 てゐはその言葉の意味を理解しておらず、マエリベリーは言うまでもなく、こてんと首を傾げる彼女も同じであった。

 そして、やっと硬直から戻ってきたマエリベリーが問う。

 

「あの…そういえばあなたは…」

「ん?私は地獄の…いや地球?まぁいいや、たった今地獄の女神に…やっぱり地底の女神になったわ」

「は、はぁ…」

「よろしくねん」

 

 マエリベリーにとってはもう一人の神、洩矢諏訪子の次に会った珍しい存在…という認識だ。

 しかしそれは大きな間違いである、ヘカーティア・ラピスラズリは、洩矢諏訪子の中に宿る"彼"の知識の中と同じ、絶対的な超越者である。

 勝負など成立しない、女神の目前にいる命が枯れないのは、ひとえに気分が悪くないから。

 快不快で成立する、理不尽でどこまでも神に相応しい威光、それこそがヘカーティアという存在だ。

 ヘカーティアは言う。

 

「いやぁ最後だし、折角だから散歩しようと思ったら…ねぇ?まさかこんな将来有望な子がやって来てくれるなんて!」

「勝手にやって来て申し訳ないっすマジで…」

「別にいいわよ~?むしろドンドン遊びに来てほしいくらい!」

「は、ははは…」

 

 ガッチガチである。

 なおそれを見ているマエリベリーはぼんやりと「あの人も神様なんだぁ」としか思っていない、無知ゆえの余裕である。

 てゐも同じ神であるということ、あの大量の祟り神を従える彼女が本気で恐れて(ビビッて)いる様子からも、ヘカーティアが只者ではないということは察していた。

 それを抜きにしても、長生き故の直感が全力でヘカーティアに警告を発しているのだが。

 

「もう、そんなに緊張しなくていいわよ?というか最初みたいに気楽に話しかけて頂戴な」

「いやぁ…つい出ちゃったと言いますか…ここで言わなきゃダメだとか、そういう何かが…」

「…へぇ?本当にあぁ思ってたんだ?」

「ひゅい!?」

 

 びっくーん!と身体を震わせる彼女と、まるで妹を可愛がるようにぴったりとくっついて頬をつっつくヘカーティア。

 ヘカーティアからすれば、ただ面白がって揶揄っているだけなのだが、彼女にとっては命の危機なのだろう。

 ちなみに余談だが、後にヘカーティアと再会し、相も変わらず敬語が抜けない彼女の姿を見て、"異変解決"の宴会に参加していた少女たち全員が度肝を抜かれることになるのだが…

 ――それは、遠い先の話である。

 

「ところでヘカーティ…」

「様付けは嫌だなぁ、もっと可愛い呼び方で」

「…ヘカ様」

「あら、それは意外といいわね」

 

 渋々といった顔で絞り出した代替案だったが、どうやらお眼鏡にかなったようだ。

 最初は嫌がっていた様付けも、今では悪くないと受け入れている。

 

「ところで…ヘカ様はなぜここに…?」

 

 頬をツンツンとつつかれながら彼女は問う。

 ヘカーティアはそれに「そうねぇ…」と手を顎に添えながら言葉を選んでいた。

 ちなみに、右手は相変わらず彼女の頬をつついたままだ。

 

「引っ越しよ引っ越し、今までここを地獄として扱ってたけど…あまりにも大きくて無駄が多いからねぇ…」

「…閻魔様」

「あら知ってるのね?まぁそれもあるけど、一番は私個人のいめちぇん?って奴よ」

「………そうっすか」

 

 一同は歩く。

 初手で不意打ちを行った入道の妖怪、そして先ほど激闘を繰り広げた虹色の龍。

 どれもが強く、そして確固たる"格"の強さを持っていた。しかし今では不気味なほど静かだ。

 何かがこちらを覗く気配は感じる、何かが逃げるような音も、息をひそめるような感覚も。

 ――恐らくは、この女神が原因なのだろう。

 

「あなたたちが来た理由もなんとなく察するわ、地上でも随分目立ってたものねぇ」

「………知ってるんですか?」

「あら、あなたは…」

 

 口を挟んだマエリベリーに、ヘカーティアはじっと視線を向ける。

 そして最初の時と違い、マエリベリーの正体、特異点とも言うべきその内面へ。

 ただ、ただ面白そうに笑うだけだ。

 

「………面白いわね」

「そうでしょうか?」

「えぇ、最近高天原の連中が血気盛んでねぇ、そのくせどれも退屈なものだから…会えてよかったわ」

 

 マエリベリーはよくわからないといった表情ではあったが、てゐはヘカーティアの高天原というその言葉に、眉を顰めた。

 高天原。確かに最近外では信仰の奪い合いがあるらしい…そんな噂話は聞いたことはある、しかしそれはあくまでも噂だ。

 もしそれが本当であるなら、噂などではなく確固たる情報としてもっと広がっているはずなのだ。

 ――争いが起こったのに、誰もそれを知らないのだ。

 

(となると答えは2つ、そもそも噂が完全な欺瞞そのものか、最悪…)

 

 ――それを伝えるための、生存者が存在しないこと。

 

「いや、信仰が欲しいなら無暗に殺る必要はないか…?じゃあつまり…」

「あら、いい線行ってるわね」

 

 てゐの独り言に、ヘカーティアは見事だと讃える。

 人間同士でも未だ波紋とも呼べない程に小さく、そして巨大な炎となる布石でありながら――

 

「あなたはいいの?ダイコク様に恩があるのでしょう?」

「あの人は不干渉さ。もう自分から宣伝する必要もないくらいに信仰が根付いてる、それにあなたが思うほど器が小さいわけでもない」

「………そう」

 

 たったそれだけの会話ではあったが、ヘカーティアの中で因幡てゐという存在の価値が上がっていく。

 あくまでも中立を気取りながらも、その心は既に片方に向けられている傲慢、そしてふてぶてしさ。

 とても面白い、そして悪くない。

 やはり帰ってきて良かった、ヘカーティアは強くそう思う。

 

「さて、着いたわよ」

「………」

 

 足を止め、一同は目の前に広がる景色に息を吞む。

 足元で結晶化した光そのもの、鉱石とそれに埋まる無数の宝石たちが輝いている。

 その輝きに照らされて、目の前の繭ともいうべきそれは、今も躍動を続けていた。

 

「なんとなく察し…あぁそうか、てゐちゃんだけかもね、これの名前をちゃんと知ってたのは」

「随分名前を聞きませんでしたからね、どこかで野垂れ死んだかもしくは…その消去法ですよ」

「そ、なら二人にも紹介してあげて」

 

 轟音。

 硝子が砕け散ったかのような衝撃が、空気、そして地下の全てを震わせる、揺らす。

 同時に目の前から放たれる、紫と黒の瘴気による波動、それが繭を内側から破らんと、おどろおどろしい気配を持ちながら暴れている。

 ヒビが入る、そして修復され、しかし再びあの瘴気が襲い掛かる。

 

「これも何かの運命かな」

 

 右手を開き、祟り神を呼び出しながら彼女は言う。

 自分が初めて目を覚まし、そして初めて手に入れた配下である、あの百足の祟り神を肩に乗せる。

 彼女は、それを優しく撫でる。

 

『蟋ォ谺。縺ォ縺ッ"蠢?縺後↑縺??縺ァ縺』

「怖くない?なら良かった」

『繧ェ繝√Φ繝√Φ隕九○縺ヲ』

「うんうん、私は一途だから浮気しないってば」

 

 ヒビが更に大きくなる。

 再び轟音が辺りを支配し、繭を今にも突き破らんと、中にいるそれはこちらに向かって何度も突進を繰り返していた。

 薄く、繭越しに見えるその全長は、もし完全に封印を破った場合、更に数倍膨れ上がるのだろう。

 両者は、静かに睨み合う。

 

「…へぇ」

 

 力、存在の格、全てが彼女の従える百足の祟り神の上位互換であり、間違いなく先ほどの龍すらも越えている。

 今でさえ、山を覆いつくす程の巨体に加え、ただ対峙するだけで感じる命の危機、それは後に伝承として語り継がれる――

 

「なるほど、龍殺しか」

 

 その名は――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 山に巣食い、今にも復活を遂げようとする元凶。

 邪魔者を消し去り、山を文字通り自らの手に収めようと動く天狗。

 ただ安寧を求め、絶対的君主を求める人間たち。

 そして――

 

「た、大変です!ち、チルノちゃんが天狗に…!」

「はっ?」

 

 国を求める彼女らの思惑は、奇しくも重なり合わさった。




 昔の東方二次あるある、とりあえず天狗の集落へGO

呪術廻戦はどこまで知ってる?

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