【本編完結】諏訪子様になった、負け戦を回避したい   作:洩矢廻戦

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 久しぶりに更新。


142話.第一次月面戦争⑫IRIS OUT

 ――私なんでここにいるんだろ……?

 

「これは夢これは夢これは夢……」

 

 まるで敗残兵の如く、射命丸文は口の中で呟き続ける。

 目の前で荒れ狂う砂埃や鉄の破片、そして偶に飛び散るどこぞの誰かの内臓や血。文の性格を抜きにしても、普通なら見るに堪えない地獄絵図が繰り広げられているのだから、現実逃避に走るのも無理はない。

 だが、悲しい事に文にはそれのみに没頭できる程の余裕もなく。

 

「これは夢これは夢これはゆ……でぅわぁああッ!!??」

 

 ヒュゥ……と可愛らしい音が聞こえたかと思いきや、次に聞こえたのはドガンッ!という、文の身体を粉微塵にできるであろう質量を秘めた破片が文の足元に突き刺さる音。

 思わず二歩ほど後退し、生娘のような愛らしい悲鳴を喉から零しながら、文は再び前方に視線を向けた。

 

「クッソォオオオオッ!!私が一体何をしたってのよ――ッ!!」

 

 警備の巡回(サボり)、同僚との仲睦まじい会話(腹の底を探り合う煽り合い)、山への侵入者の排除(サボり)。

 こんなにも真面目に仕事と向き合う天狗など他に果たしているだろうか?いや、いない。

 だからこそ『清く正しい射命丸文』にとって、恩を仇で返しやがった素敵な上司様を許せる筈もなかった。

 恨み。

 

「あのクソ長……」

 

 近くに同族がいないのをいい事に、文は戦闘の騒音に紛れてネチネチと愚痴を吐き続けた。

 正直今も、怖い。

 いつあの『戦闘』の余波がこっちに飛んでくるかも分からない、心休まる一瞬が全くない。

 それならさっさとここから逃げれば……そうは思いつつも、その手段はもう使えない。

 何故か?その理由は先ほど、目の前で戦っている不死身の人間、藤原妹紅が逃げようとした文に向けてこう言ったのだ。

 

『そこから動くなよー?そうしたら守ってやるからさぁ』

 

 ふざけんなよボケが。

 人間如きが、天狗に命令するのもそうだが『守ってやる』とは何だ。

 上位種族としての自尊心(プライド)と、死への恐怖を抱いていた事は間違いない為、それに『救われた』と、一瞬でも安堵してしまった自分への嫌悪。

 その時の妹紅の目、声色を聞けば彼女にはこちらを見下す意はなく、純粋に『警告』をしただけ。

 それを思い返す度に、文の臓腑は怒りでぐつぐつと煮えたぎるようだが、残念ながら現実は変わらない。

 

「本ッ当になんで私が……」

 

 他の天狗たちと比べても聡明な文は、この『月面戦争』に込められた意味をすぐに察した。

 『儲け話』を持ってきたという八雲紫、彼女は頭のてっぺんから足の先までが胡散臭いで満ちており、当然彼女の言葉を全て信じる者は存在しない。

 が、それでも話は話。疑心暗鬼になりながらも、紫が話す月との戦争計画を聞いてからは、話が始まる前の堅い空気は霧散し、結果はこう。

 あれやこれやと巧みに欲望を刺激する紫の話術に嵌まり、結果として目先の利益以外何も目に入らない、哀れな傀儡が誕生したのだ。

 そして、しれっと文も月面戦争の参加者に……

 

 ――いや何故?

 

 改めて羅列しても、何故?

 どう考えても分かるだろう、八雲紫が絡む案件はどれも、最後はろくな事にならないのだと。

 というか、そんな事若造の自分でも分かるのに、何故他の天狗共は理解していないのだろう?とすら思っている(実際は文が賢過ぎただけ)。

 そして何故、自分はここに呼ばれてしまったのか……

 

「ハハッ!いいんじゃない!?」

「ほざけ……!」

 

 不死の妹紅と不老の豊姫が殺し合う。

 月を汚染する『穢れ』の事も、月人の価値観も全てかなぐり捨てて、豊姫は自分が持つ全力を、目の前の脅威に向けていた。

 その体質も、互いの目に宿る感情も見事に正反対。

 

 一方は戦いを楽しみ、穢れに生きる。

 そしてもう一方は、戦いを疎むと同時に、穢れから切り離して生きている。

 だが、彼女たちは決して分かり合えない。

 

 階級社会を構成する天狗は例外として、妖怪とは基本実力主義だ。

 力同士をぶつけ合い、分かり合う……そんな三文芝居のような価値観が、本当に常識として備わっているのが多いのが妖怪。

 これは彼らの出自が、人間から発せられる『負の感情』、即ち暴力という名の『根源的恐怖』に通ずるからであり……という逸話もあるらしいが、割愛。

 要するに、元は人間でありながら、蓬莱の薬によって『人外』の本質に至った妹紅と、歪ではありつつも、基本構成は『人間』のままな豊姫では相性が悪すぎる。

 戦いや属性の相性ではなく、意識の相性。

 妹紅が何かを喋る度、傷を癒す度に豊姫は嫌悪を加速させ、怒りの炎がより滾る。

 

「……いや私何も関係ないな??」

 

 と、色々考えていた射命丸文。ついに真理を悟る。

 八雲紫の計画やら、自分の予想を超えて馬鹿だった同族たちやら、乱入して来た不死の妹紅(文の上司が用意した最終兵器)についてやら。

 無駄に思考を重ねて悟る。……『やっぱこれ、自分何も関係ないな?』と。

 そもそも、第一にどうして自分はここにいるのか?

 いつも通り部屋で新聞を作っていたら、突然部屋に入って来た上司から『早く来い』と引っ張られて、なし崩しに八雲紫の『スキマ』に飛び込んだのが全ての始まり。

 過去に『私も戦争に参加したいです』なんて自分が言う筈もないし、そもそも『私は遠慮します』とはっきり上司にも伝えた筈だ。

 伝え……

 

「……」

 

 伝……

 

「……やっぱあのジジイが悪いんじゃないですか!?」

 

 そう、原因は一つ。

 自分で言うのも何だが、文は他の上司からは結構嫌われている(仕事の態度やら年上への敬意やら)せいで、地味な嫌がらせを何度か受けていた。

 今回の戦争への不参加を伝える際も、文は他の誰かに頼む訳でもなく、わざわざ趣味の時間を減らしてでも、上司に直談判をしに行ったのだ。

 ……はたてに頼まなかったのは、彼女が偶に見せるポンコツ具合があるからなのだが、その話は置いておく。

 つまるところ、悪いのは全て上司。

 

「絶対……」

 

 悪しき上司、許されざる者への不満と怒りを胸に、文は叫んだ。

 

「絶対天魔様にチクってやるぅ――!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 けたたましく轟く戦闘音すら凌駕する文の叫び。

 

「……あいつら(天狗)も大変だなぁ」

「後でねぎらってやるか……?」

 

 そこに秘められた熱量に思わず、傍観していた萃香と勇儀はコソコソとそんな事を話し合っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ドウッと暴風が突き抜ける音と共に妹紅の右半身が消し飛ぶ。

 普通の人間なら、突然身体の一部を失ってしまえば平衡感覚が狂い、一歩踏み出す事すら難しくなるだろう。だが妹紅はまるで水の中を泳ぐように、足を地面から離し、空中を滑るように滑空し、身体を捻る。

 僅か、二秒。

 対象を素粒子レベルで分解する浄化の風を浴び、身体の半分を失い、そして復活させるまでにかかる時間、それが二秒。

 蓬莱人の再生は『死』がトリガーであり、本来であれば、妹紅には反転術式を除いた肉体の再生方法は存在しない。

 だが妹紅の領域『六道神去』による蓬莱人の特性強化によって、この世で唯一真の『不死身』を体現した妹紅には、絶命の必要なく肉体を自動(オート)で再生し続ける事が可能。

 炎が人の腕を模し、それに沿う形で骨と肉、血液が生成されて肉体が復活。

 咄嗟に、扇子を盾に妹紅の拳を受け止める豊姫。

 少し遅れて、削れた服の一部が再生し、両者再び距離が開く。

 

「シッ――!」

 

 炎翼を展開。

 足裏から炎を噴射し、ブースター代わりに加速し、接近。

 しかも、妹紅は自分の身体に高温の炎を鎧のように纏っている為、接近戦をしかけつつも、相手にそれへの反撃はさせないという、嫌らしい戦法だ。

 一瞬、豊姫は眉を顰めた。

 だが一瞬で、豊姫は戦法を切り替えた。

 『山と海を繋ぐ程度の能力』による空間操作。扇子を懐に仕舞い、同時に虚空から取り出した一本の如意で妹紅の蹴りを受け止める。

 いくら不老とはいえ、豊姫は月人。

 『人』である以上、生物である以上熱には弱い。

 特に炎とは根源的恐怖の一つでもあり、それは得意か苦手かの話ではないのだ。

 だが豊姫はまるで、熱など感じていないかのように、至近距離で妹紅の炎を、熱を浴び続けていた。

 しかしダメージはない。

 何か仕掛けがある――そう気づいてからは早かった。

 

(再生……?違う、それにこっちの炎が消されてるような感覚からして……なるほど)

 

 一瞬の拮抗だったが、それでも妹紅には充分過ぎた。

 能力対象の概念、空間。

 それを自分の炎に当てる事で、熱を防いでいるのだろうと理解。

 しかし、その能力が秘める内包と外延は一体どれ程なのか――見定める必要がある。

 

「っ――ラァ!」

 

 蹴りは防がれた。そして、この程度の間合いで反応がないのなら、もっと踏み込むまで。

 次にするべき事は、超近距離での戦闘だ。

 妹紅は振り下ろした足を、豊姫の左足に向けて思い切り衝突させ、無理やり近距離を保つ。

 これには分かりやすく、豊姫も顔を不快で染めた。

 その隙を見逃す筈もなく、妹紅の左拳が豊姫の顔へ吸い込まれるように加速。

 ――しきる前に、豊姫は如意を縦にし、踏まれた左足を逆に利用し、右足を上げた。

 妹紅の体重と筋力により、豊姫の身体は左足だけでも充分バランスをとる事が可能。

 故に、自重バランスを気にする事なく、受け身に対し全力になれた。

 

「甘い……!」

 

 防がれたとはいえ、攻撃に成功した事に変わりはない。

 その時一瞬、妹紅の体重が豊姫の身体を固定する為の足ではなく、攻撃の為に腕にかかったのを、豊姫は見逃さなかった。

 如意をくるりと回転させる。

 妹紅の腕が、手の平が地面ではなく空を見る。

 そして、如意で妹紅の腕を固定した豊姫は続けて、妹紅の腕の関節を自分の肩を使ったてこの原理で破壊。

 浴びる鮮血に顔を顰めながらも、無防備となった妹紅の『顔』に向かって、咄嗟に取り出した扇子を振るう。

 再び、ドウッという轟音が響き渡り、浄化の旋風が辺りを満たす。

 ――寸前。

 

「あ」

 

 咄嗟の反撃。

 それ自体はいい、だが今回は当たり所が不味い。

 あの、少し触れただけで身体の半分が消し飛ぶ浄化の風を、もし頭に受ければ――。

 

(下手すりゃ意識落ちるかも……)

 

 まぁどうせ死なないし、まだ『六道神去』も継続中なので負ける事は絶対にない。

 蓬莱人は『魂』を起点に肉体の再生が始まるが、一撃で頭部が消し飛んだりした際には間違いなく気絶し、空白の時間が発生する。

 死ぬのは一瞬で、生き返るまでの間の『死』は本当に刹那であり、蓬莱人に敗北はない。

 ない、が……短い間とはいえ、一人の陰陽師として生きた事のある妹紅にとって、戦場での敗北=気絶でもあるのだ。

 何より、その価値感は今は亡き師匠、崔爾の教えでもある。もう彼とは二度と会えないし、彼が自分に残してくれたもの、陰陽師としての技は"縛り"を破った(ペナルティ)のせいで、それすらも今はない。

 

『どうせ家屋で好き放題寝れるというのに、わざわざ戦場で寝る馬鹿がどこにいる』

「――ハッ」

 

 浄化の風が、妹紅の顔面を削る。

 まずは皮膚を、次に肉を、そして肉すらも消し去り、残るは内臓――。

 だが、そこに届く前に、不死の身体の再生が開始した。

 今までの倍以上の速度で再生される頭部とは逆に、一切の再生が始まらないそれ以外の部位。

 何をしたのかは一目瞭然。

 

「ッ――頭以外を捨てたか!」

 

 即席の"縛り"による再生力の強化。

 豊姫がそれを察し、再び空間操作で武器を取り出し、投げつける。

 最初に用意していた『□×9(ボックスナイン)』、『F-5番』を含めた外付けの武装は既に破壊された。

 だが、壊れた武器は壊れた武器なりに、それ相応の使い道がある。

 もうとっくに外装は破壊し尽くされ、回線もショートし使い物にならない破片を豊姫は手に取り。

 

「ゥっ――死ぬとこだったぜ!!豊ひ"ッ"!?」

 

 喜色に叫ぶ妹紅の言葉を遮り、それで殴りつけた。

 ギャリギャリッ!!と、妹紅に壊されたせいで凹凸が激しい鉄の破片、それの尖った部分をわざと妹紅の顔に擦りつけ、皮膚を抉るようにぶつけた。

 殺傷能力だけで比較するなら、先ほど使った如意の方がよっぽど役に立つ。

 あれは見た目こそ無骨だが、月の科学で作った特殊合金製である為、見た目以上に重く、攻撃が鋭いのだ。

 豊姫がわざわざこの攻撃を選んだ理由、それは純粋な『痛み』であった。

 だが。

 

「あ"~~いった!?まだ喋ってる途中でしょ!」

 

 一瞬のうちに再生を終え、顔面に炎を燻らせながら抗議する妹紅。

 戦いが開始して数十分。

 未だ清らかな身体を保つ妹紅とは正反対に――豊姫は追い詰められ続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほざきなさい」

 

 一層こめかみが軋む程に顔を不快に染め、豊姫はバックステップで距離を取る。

 亀裂が走り、自重に耐えられずポロポロと崩れていく武器を雑に捨て、舌打ち。

 

 予想通り、妹紅に『痛み』を使った搦め手は効かない。

 不老不死……豊姫にとっては忌々しく、そして厄介だという評価を下す理由は、決してその不滅性だけではない。

 

 妹紅は決して、『痛み』を感じない訳ではない。――それこそが厄介の極み。

 

 痛みとは、生物が元来持つ『生存』の為、必須の機能。

 痛みがあるからこそ、生物は肉体の不調を認識でき、危機から逃げる事ができる。

 だが、蓬莱人に終わりはない。

 彼らは永遠に極小の輪廻に囚われたまま、耐えがたき『永遠』を生き続ける。

 そうなると必然的に、何度も死に生き返る蓬莱人……妹紅等は特に『痛み』への耐性がつく筈だが。――妹紅は()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 蓬莱人は自身の肉体を『ある基点』で固定した際、それ以上衰える事も、鍛える事もできない。

 どれだけ身体を動かそうとも筋肉は増えず、全身の神経も例外なく、様々な感覚――『痛み』等に耐性ができる事はない。

 

 そうなると、蓬莱人にとって『痛み』への慣れとは肉体ではなく、核となる魂の話になる。

 が、肉体は常に新鮮な『痛み』を感じながらも、それを知覚する魂は次第に『痛み』に慣れていく。

 

 『痛み』を恐れなくなった者、それは相手に気圧されぬ強さでありながら同時に――意味のない攻撃を喰らう弱さでもあるのだ。

 それに、豊姫は内心愚痴を吐く。

 

(痛みへの慣れこそあれど……攻撃に転じる時以外でも無駄な被弾もない……一番厄介な不死身の存在……いや、『無敵』ね)

 

 正しく『痛み』を受け止め、その上で不死身の理不尽を押し付ける。

 月人としての潔癖や豊姫自身の好き嫌いを差し引いても、それがどれだけ忌まわしいものか。

 蓬莱人唯一の欠点とも言える肉体の再生条件も、今の状況(『六道神去』)ではないも同然。

 

(だけど決して、()()()()()()()()()()())

 

 ――『()()』。

 藤原妹紅が持つ理不尽の不死身、それの動力である領域、『六道神去』は最大で一分しか持たない。

 恐らくは"縛り"なのだろう。豊姫はこの戦いを開始して十数分、一定周期で印を結ぶ妹紅の姿を思い出し、考える。

 

(『必殺』を省き、情報の開示というこちら側に有利を与える『必中』効果、簡易領域はまず間に合わない。仮に間に合ったとしても、領域の押し合いには絶対に勝てないでしょうね)

 

 唯一の対抗手段は相手と同じ領域、即ち簡易領域ではない、最低でも『必中』に至った『領域展開』しかないだろう。

 だが豊姫にはそれができない。そもそも、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 ()()()()()()()()()()()()()()。――ならばどうするか。

 

(残り数十秒……()()()()()()()()()()()()()()()()()())

 

 所詮相手の『不死身』は領域頼り。

 しかもそれは一定周期でかけ直さなければならないもので、掌印の隙も大きい。

 ()()()()()()()()()()()()、妹紅の掌印は釈迦如来印。

 両手を使わないといけないという一点のみでも、充分隙を狙う価値はある。

 

「レイセン」

『はい』

「『N-3番』分解、両腕にそれを回して」

 

 ディスプレイ越しに豊姫が命令を下す。

 豊姫の命令に返事をする代わりに、本部に控える『レイセン』は無言のまま機械を操作し、豊姫の細腕を機械仕掛けに変化させていく。

 

「動作補助マックス、それ以外の電源を切り落として」

『了解』

 

 レーザーや機関銃、月の科学の結晶たる兵器の電源を切る代わりに、浮いた電力を全て機械腕の動力に注ぐ。

 月の兵器をもってすれば、妹紅を殺す事自体は容易い。しかしそれでは、結局『六道神去』の効力が失われ、蓬莱人本来の『不死身』に戻った時に過剰威力で妹紅を殺してしまう。

 ()()()、意識を奪うレベルでの戦い。

 『六道神去』の効力が失われるまで、残り十数秒。

 それが終わった直後……そこを狙わなければ、勝負は永遠に終わらない。

 

「――――ッ!!」

 

 再び、妹紅の手によってスクラップにされた兵器の残骸を虚空から取り出す。

 都の意地と、権力の象徴とも言える偉大なる最新の兵器たちは、穢れた地上からやって来た、この世の誰よりも穢れた人間によって、何の価値もないゴミクズと成り下がってしまった。

 それに、思う所がない訳でもない。

 月の『最強』として、皆から託され、使いこなした幾つもの『兵器だったもの』を、豊姫は見境なく投げ続けた。

 

「はっ!」

 

 最初の数発は華麗に交わし、残る最後の破片をゴガンッ!と殴る妹紅。

 豊姫が投げつけた時よりも速く、その破片は豊姫の所へ帰って来た。

 再び、豊姫はそれを殴る。

 また妹紅に向かう破片。

 妹紅はもう一度殴り、豊姫へ返す。

 豊姫も殴る。

 殴り。

 殴り返し。

 殴り続ける。

 

『――――ッ!!!!』

 

 生身の腕と、機械に包まれた腕が破片を通じて轟音と火花を散らす。

 ガガガガガガッ!!まるで土砂崩れでも起こったかのようなその音は、本質にこそ差異があれど、ただの『人間』が奏でているものとは思えない。

 暴力と暴力に挟まれ、既に原型を失った破片はあっという間に粉塵と化し、消滅。

 それを後目に、既に妹紅は豊姫に向かって突っ込み、弾丸の如き速度での蹴りを豊姫へ炸裂させていた。

 

「チィッ――!」

 

 あと八秒。

 『六道神去』のクールタイムは既に、裏でレイセンに計らせている為間違いはない。

 妹紅もまた、自分の『無敵』が元に戻る事を分かっているのだろう、あからさまに動きが速く、より不死身の捨て身を押し付けるような動きを見せてきた。

 

「露骨に焦って来たな……!」

 

 妹紅の蹴りを受け止め、ピシッと亀裂が走る機械腕。

 能力で炎の威力自体は抑え込めているものの、妹紅の身体能力自体はそのままな為、風向きは依然として怪しいまま。

 甘く見積もっても、先ほどの蹴りは良くて三発。最悪は一発で腕が破壊されてもおかしくはない。

 

 残り――六秒。

 

 より苛烈を加速させる妹紅の攻撃。

 精密な炎翼操作により、蹴りから蹴りを繋げる異次元の体術を繰り広げながら、ジリジリと豊姫を追い詰める。

 

(だけど……)

 

 残り三秒。

 とうとう妹紅の攻撃に耐え切れず、崩れてなくなる機械腕と、エラーを吐き続ける半透明な目の周りのディスプレイ。

 だが豊姫は既に――勝利を確信していた。

 

(ずっと、ずっと最初から。武器を取り出すのは『私自身の周りから』だったでしょう?だから――)

 

 空間が捻じれ、ロケットの如く射出されるのは――最初に使った『如意』。

 だが、それに妹紅が気づく事はできなかった。

 何故なら、それは。

 

(――これは避けられない(背後からの飛び道具)!)

 

 今まで一度も警戒しなかった、背後からやってくる矮小な道具だったから。

 普通なら、それでも妹紅には一切効かない。

 『六道神去』による肉体の再生は細胞単位、故に背後から飛んでくるのがレーザーだろうが何だろうが、妹紅には意味のないものなのだから。

 だが。

 

「――がァっ……!」

 

 ――既に、『六道神去』の無敵(不死身)が終了。

 妹紅の背中、脊髄の中心を穿ったそれは、ゴギリと鈍い音を立てて突き刺さり、動きを止める。

 同時に、豊姫が間髪入れずに妹紅の腹を、腹部に鋭い拳を吸い込ませるように加速させた。

 

「腹部強打、血管迷走神経反射性の失神……不死身にはこれが効くでしょう?」

 

 不死身だろうと、不老不死だろうと関係のない。

 それは人体の反射であり、妹紅だろうと逃れられぬ――人間としての弱点。

 

「――――――――」

「終わりね」

 

 妹紅の瞼が、ゆっくりと落ち――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――領域展開」

(こいつまだ――――!?)

 

 ――る事はない。

 

 ――『六道(りくどう)(かむ)()』。

 

 死んでも生きる(賭ける)、それが人間(妹紅)なのだから。




豊姫「この無敵をいなしてしまえば私の勝ちよ」
???「それは雑魚の思想だ」

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