【本編完結】諏訪子様になった、負け戦を回避したい   作:洩矢廻戦

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 月人も昔は兎も角、今は宇宙人みたいなもんだから多少はね?


143話.第一次月面戦争⑬モジュロ

 豊姫の予想は間違ってはいない。

 『六道神去』の継続中あらゆる『死』を跳ね除ける無敵は確かに、一見すると抜け道のない難攻不落のように思えるだろう。

 何故なら腹を裂かれようと、手足がなくなろうと再生し続ける仕様、それは妹紅の意識に依存していないのだから。

 本来、思考もままならぬ頭部の損傷でさえ、妹紅を止める有効打には成り得ない。その理由は、妹紅の肉体の生成は『魂』を起点としている為である。

 

 だがそれは決して――()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 確かに蓬莱人の再生の起点は『魂』だが、蓬莱人は正確には『肉体を持って生きる精神体』そのもの。

 元人間の妹紅は無意識の内にかつての人間の肉体としての仕様に引っ張られていた。

 頭が吹き飛ぼうが戦闘を続行できる不死性を持ちつつも、窒息や催眠ガスの類で簡単に気絶してしまう中途半端な弱さ。

 豊姫はそれを看破し、そして弱点を突いた。

 しかし、それでも。

 

「凄いよ、あんた」

 

 歪曲される現実世界の中心で掌印を結んだ妹紅は言う。

 肉体を損壊させず、『六道神去』による全自動の再生が発動しない。

 そんな限り限りの力で穿った筈の腹部には、間違いなく再生の灯があった。

 

「一日でこんなに死んだのも、本気で『落ちる』って思ったのも初めてだ」

「……」

 

 それは咄嗟の『縛り』。

 最後の最後、妹紅は『六道神去』による再生とは別の――自分自身が元来持つ力、呪力による防御と()()()()()()()()()()()()()

 手足や頭に流す分、それらを全て腹部に集中し強化。これにより妹紅は豊姫の一撃による気絶(血管迷走神経反射性の失神)を防いだ。

 

 妹紅は反転術式を習得していない。

 

 何度も何度も、蓬莱山輝夜や八意永琳を超える再生速度を誇る『六道神去』による再生の『経験値』。

 それが身体に刻まれているのにも関わらず、妹紅は反転術式を通常時に使えた事がない。

 それだけ、反転術式は高度な技術だった。

 

 だが、目の前に迫る気絶という名の『敗北』の気配。

 それへの焦り。

 負けたくない、勝ちたいという衝動――妹紅の胸に宿る『勝負師』の炎。

 それが、彼女を覚醒へと至らせる。

 

「咄嗟に縛らなきゃ下手こいてたかもしれん。誇れよ、私がここまで必死になったのは云百年は前の話だ」

 

 既に傷は癒え、『六道神去』による無敵が開始された。

 『魂』を起点とした呪力は消耗したままだが、それ以外の不調はどこにもない。

 僅かな切り傷、衣服の損傷から単純な肉体の疲労も含めて、『六道神去』は全てを癒す。

 

「さぁ、これで『ふりだしに戻った』ぜ?」

 

 妹紅は笑う。

 

「不老と不老不死、どっちが長く()()かの……ね」

 

 まだ、戦いは終わらせないと――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 再び不可視の斬撃が放たれた。

 

「――『石凝姥命(いしこりどめのみこと)』よ!」

 

 依姫は刀を指揮棒のように振るい、顕現させた八咫の鏡で斬撃を受け止める。

 祝詞や掌印による威力の上昇(バフ)がないにも関わらず、神代の神秘を秘めた八咫の鏡は両断された。

 神下ろしの中断、それに気を向けるよりも優先して、依姫はまた新たな刀に手を伸ばす。

 

「『鳥之石楠船神(とりのいわくすふねのかみ)』よ!」

 

 地面に刺さる大量の刀。

 その内の一本を強く握り、右手で握る刀にその神を呼ぶ。

 

「『高木大神(たかみむすび)』よ!」

 

 同時に左手で握る刀には、それを支える新たな神を。

 鳥之石楠船神(とりのいわくすふねのかみ)の『魂を運ぶ程度の能力』。

 高木大神(たかみむすび)の『発展させる程度の能力』。

 一見すると何の相乗効果もないように思える神の組み合わせ。

 

「行け――!」

 

 依姫が二刀流になったのは一瞬。

 右手、左手の順で諏訪子に向けて刀を投擲し、また地を駆ける。

 武器を捨てた無謀な状態、当然諏訪子がその隙を見逃す筈もなく、すぐに手掌を向けて斬撃を放とうとする。

 無手と飛び道具。

 条件だけなら、今の依姫に『勝負』の土台に立つ資格はない。

 だが依姫は走る。地を強く踏み、身体を前に傾けて、一瞬で。

 依姫自身の領域の必中命令(金山彦命(かなやまひこのみこと)による刀の無限生成)とは別の、依姫自身の『神下ろし』による肉体の強化。

 

 『建御雷神(たけみかづちのかみ)』。

 

 雷神、剣の神としても祀られる事がある由緒正しき、そして『最強』の候補としても名が上がる存在。

 それを身に宿した依姫の速さは、さしもの諏訪子でも捉える事ができなかった。

 結果として、依姫が刀を捨てた無防備な状態は時間にして一秒にも満たず。

 むしろ、どう足掻いても動きを捉えられないというのに、それへ無駄に意識を向けた諏訪子の方が無防備となる。

 

「チッ……」

 

 頬に走る熱い痛みに、諏訪子は顔を顰める。

 所詮は掠り傷で、適当な反転術式でもすぐに治癒するものだが、それでも煩わしいものは煩わしい。

 飛来し、今も浮遊を続け動く刀たち。

 幸いなのは、刀そのものは『魂を運ぶ程度の能力』を宿すので精一杯なせいで、刀そのものの殺傷能力は低い事だろう。

 だが、それも――。

 

(速度が上がった……だけじゃない、この刀、偶にフェイントを挟むような動きもしてくるようになってきた……)

 

 それも今だけ。

 ただ愚直に真っすぐ、それどころか自動操縦もままならず、刀を落下させる形でしか面攻撃をできていなかった頃の依姫はいない。

 咄嗟に抜き、選んだ二本の刀と二柱の神。

 現在、目の前に大量に浮かぶファンネルとも呼べる刀たちは、全員が鳥之石楠船神(とりのいわくすふねのかみ)による『魂を運ぶ程度の能力』の制御下にある。

 だがその中の一本、諏訪子でも見抜くのに苦労する、()()()()()()()()()()()宿()()高木大神(たかみむすび)の『発展させる程度の能力』。

 

 最初の、『神籬常在』を展開したばかりの頃の未熟さや甘さは、時間が経つ度にどんどんと見えなくなってきている。

 

 この短時間で、依姫はあっという間に神の権限の――その『核心』に触れている。

 

(神を宿らせて刀を操作するんじゃない、刀に宿らせた神自身に他の刀を操作させる……解釈を広げただけで、実質神下ろしの上限のデメリットを踏み倒してくるとは……)

 

 八百万の神々、全ての権能と他の権能の組み合わせ。

 あまりにも多すぎるその力の種類が前なら、いくら本気を出した諏訪子であろうとも、戦いは『後手』に回らざるを得ない。

 

(でも、()()に賭ける意味はある)

 

 諏訪子は考察する。

 

 ①天照大御神(あまてらすおおみかみ)(恐らくは領域の必中効果、これをクリティカルで喰らえば例え自分でも死に至る)。

 ②高木大神(たかみむすび)(恐らく木の葉を散らすのは拡張能力、本質は何かの『成長』に近い)。

 ③石凝姥命(いしこりどめのみこと)(攻撃の反射、しかし祝詞なしの通常の『(カイ)』で壊せる程度)。

 ④鳥之石楠船神(とりのいわくすふねのかみ)(物体の操作、そして謎の移動能力。これを扱う時が一番、依姫の動きに隙ができる)。

 

 これに留まらず、他にも見せたいくつもの神々の権能を思い出しながら、諏訪子は考える。

 

(後は天宇受売命(あめのうずめのみこと)の神楽による攻撃の回避が……いや、ないか。あれはあくまでも『回避特化』……ブラフの可能性を抜けばだけど、今も使ってこない時点で戦闘にはほとんど使えないと見ていい)

 

 八百万……文字通り八百万種類の神。

 しかし、それの中で『今使える能力』を咄嗟に、最適なものを選ぶには、あまりにも『()()()()()()()()()

 

(高木大神(たかみむすび)鳥之石楠船神(とりのいわくすふねのかみ)はさっきので二回目?……それに最初大量の『(カイ)』をぶつけてから、あからさまに面で攻撃ができる神……火雷神(ほのいかづちのかみ)を出さなくなってきたし、向こうも大分焦ってるな)

 

 月人だろうと、何百年何千年生きた宇宙人であろうとも。

 その本質が『人間』である限り、千差万別な神の力を選ぶ際の、咄嗟の選択には『癖』が出る。

 

(鳥之石楠船神(とりのいわくすふねのかみ)は瞬間移動、それか座標交換系の力もあったから……下手に近接戦を仕掛けても逃げられる可能性大だな。……というか神と能力の種類多すぎるって……!頭がこんがらがって来た……!)

 

 正直、自分でも何がどれの能力なのかはさっぱり分かっていない諏訪子。

 こうしている間にも、全方位から襲い掛かる刀を叩き落し、斬撃を放って相殺を続けているのだが、戦況は全く変わらない。

 不利ではないが、有利とも言えない絶妙な塩梅。

 

 名前を覚えるだけでも一苦労する日本神話の神々。

 一柱の神に一つの能力ならばまだしも、鳥之石楠船神(とりのいわくすふねのかみ)の『刀を浮かせる&操作する』や『物体との座標交換』みたいに、応用を利かせたパターンも存在するのだから、必要以上に記憶容量が圧迫される。

 

 通常時ならばまだしも、必死に身体を動かす戦闘中において、この情報戦はあまりにも効果的だと言わざるを得ない。

 元より『程度の能力』で補助されている依姫は兎も角、元から難しい事を考えるのが嫌いな諏訪子には――。

 

「来い!『八栄鈴』!!」

 

 そして諏訪子は考えるのをやめた。

 今までのこんがらがった思考を吹き飛ばすように大声を張り上げ、腕を上空に向ける。

 光が集い、諏訪子の手のひらに『それ』は現れた。

 人外魔境諏訪決戦以降、異空間に封印していた特級神具・八栄鈴である。

 その効果は、『一つを極める程度の能力』。

 

「洩矢の鉄の輪――」

 

 八栄鈴を左手に、残る右手で手掌を作り、向ける。

 それは、祝詞を唱えるのとは違う威力の向上。

 手順を省略しつつも、外付けの神具による神力と能力そのものの強化(バフ)は。

 一秒の油断が命取りとなる戦場においては、最高・最適の手段であった。

 

「――『(カイ)』」

 

 幾度目かの対峙と攻撃。

 だが、今放たれたものはこれまでのを鼻で笑うような、重く鋭く、速すぎる不可視の斬撃。

 肉を、骨を。

 それらを巻き込み、魂すらも粉砕する、理を捻じ曲げる斬撃。

 

「何を――――ッ!?」

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()』。

 依姫は今から放たれる技が、自分に向けたものではなく、自分を巻き込むものであると見抜いた。

 

 速く、依姫を捉え切れない諏訪子の選んだ手段。

 それは四方八方、全方位を斬撃で埋め尽くす――()()()の『(カイ)』。

 

 思考を放棄し、細かい事を考えない戦い方。

 その脳筋極まる手段は皮肉にも、八百万の神々の力を如何にして組み合わせ、使い熟すかを模索している依姫に、冷や水を浴びせるが如き衝撃であった。

 

「『天之冬衣神(あめのふゆきぬ)』よ!!!!」

 

 『建御雷神(たけみかづちのかみ)』による身体強化を解除。

 咄嗟に選んだのは、生存に全てを賭けた全力の防御。

 天之冬衣神(あめのふゆきぬ)の『裁定する程度の能力』による斬撃の矮小化だった。

 

 依姫の刀を中心とした半透明の半球型の結界が形成される。

 それにぶつかった諏訪子の『(カイ)』はあっという間に、本来の三割程の規模に弱体化し、速度もそれと同様に低速化。

 依姫はそれを限り限りで躱しながら、手に持つ刀で数多の斬撃を振り落とし続ける。

 

「ぐっ……!」

 

 美しい顔と四肢に、決して浅くはない傷が形成される。

 血が流れ、身体がぐらつく。

 まるで雨のように降り注ぎ、そして風のように宙を駆ける数多の『(カイ)』。

 あまりにも血生臭く、そして残虐性に満ちたそれらを、致命傷を回避しつつ防ぎ切ってみせた依姫は褒められて然るべきだろう。

 

「はぁっ……はあ――ッ……!」

 

 四つある腕の内、二つは今も尚『彌虚葛籠』を維持し続け。

 本来の左腕には『八栄鈴』があり、自由に使えるのは右手のみ。

 だというのに、この始末だ。

 

「うん、大分楽しませてもらったよ」

 

 その言葉は嘘偽りのない本心であった。

 

「正直、今の私に敵はいないもんだし(ヘカ様は例外だけど)。領域が使えないとはいえ、ここまで私に食い下がれたのは本当に凄いよ」

「…………」

 

 顔を血で濡らしながら依姫は俯いた。

 

「……でも惜しいな。あと少し……本当にあと少し、領域含めて実戦経験があればね」

 

 結界の強度、完成度。

 今、自分たちを閉じ込めている『神籬常在』の構成情報を見れば、諏訪子に限らず全ての『至った者』がそう言うだろう。

 今この場で、たった今使えるようになったものとは思えない程に洗練された、そして理不尽な能力の数々。

 

「安心してよ、別に私は君らをどうこうするつもりはないし?ここに来た理由……常世神も、もうとっくに滅んだし」

 

 戦う理由はない。

 楽しかった。

 

「これ以上本気出すと、流石に私も殺さないのは疲れるというか……」

 

 一方的な感謝と、そして定めた限界を依姫に突き出す。

 

「じゃ、私はこれで」

 

 ――それら、全てが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ナメやがって」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「伊邪那美命」

 

 ――綿月依姫の逆鱗に触れる。

 

「伊邪那岐命」

 

 咄嗟に、諏訪子は依姫から距離を離す。

 その、依姫の異様な気配。

 変化に呼応するかのように、辺りに突き刺さった大量の刀たちが、()()()()()()()()()()

 

(――!?何が……)

 

 浮かぶ刀から、依姫以外の神力は感じない。

 つまり今、あの刀たちは今までの鳥之石楠船神(とりのいわくすふねのかみ)による『魂を運ぶ程度の能力』で動かしているものではない。

 全く別の要因による、()()()()()()()()()()――。

 

「――――……」

 

 諏訪子は依姫の動きを先読みしていた。

 刀を含め、今の()()に疑問こそあれど、依姫の本体に変わった所はない。

 神力の流れ、身体を動かす『起こり』を感知。

 そして案の定、依姫は右手に握った刀を思いっ切り、こちらに向かって投擲した。

 

「ハッ、洩矢の……」

 

 ――真正面から。

 事前の予測通り、諏訪子は向かって来る刀の切っ先に向けて『(カイ)』を放つ。

 刃の先から柄に至るまでを、抵抗すら許さず一発で両断する不可視の斬撃。

 何かしらの神を宿すのならば兎も角、()()宿()()()()()()()()()()()()()()()()に抵抗できる未来はない。

 

 ――筈だった。

 

 諏訪子が放つ(カイ)は、指先から放出を完了すると同時に、霧散。

 同時に、諏訪子に向かって飛ぶ刀はまるで蛇のように()()()、諏訪子の背後を取る。

 

「なっ――!?」

 

 軌道を修正した訳ではない。

 刀は諏訪子と一定の距離に近づいた途端に、その刀身を鞭のようにしならせ、伸ばしたのだ。

 

「チィッ――!」

 

 咄嗟に、チェーンソーのように細かく斬撃を纏った右手でそれを掴む。

 ――掴めてしまった。

 ブシュッ!と鮮血が僅かに吹き出すのは、諏訪子の右手から。

 先ほどまで右手を守るように纏っていた数多の斬撃は、まるで最初から存在しなかったかのように、()()()()()()()()()()()()()

 

(何だこの動き!?それに神力も……!)

 

 一向に解明できない、深まるばかりの謎。

 謎を解く手がかりも、突破口となる依姫自身の反応も、何もない。

 

「……」

 

 ザッ――。

 足音が一つ。

 

「…………」

 

 次に、また一歩、一つの足音。

 それが聞こえたと思った時には、もう依姫は地上にはいなかった。

 浮遊し、『神籬常在』の結界内全域に突き刺さっていた刀を全て、自身の周りに同じく浮遊させ、待機していた。

 飛行能力。

 勿論、今まで依姫がそんな力を使った所を諏訪子は見た事がない。

 

(反重力?いや……そんな甘くない、多分これは概念に絡む能力――!)

 

 ――悪寒。

 

(どうしたっていきなり、急にこうも……)

 

 何故、今思い出す。

 

(あの日、あの時――あの瞬間に見た死の気配(八坂神奈子)を……!)

 

 人生唯一、命がけの戦いを。

 そして味わった、全身の細胞の産毛に至るまでが、魂が泣き叫ぶような悪寒を。

 何故、今――。

 

「――――――」

 

 依姫は言葉を発さない。

 両目を瞑り、両手それぞれで手印を結ぶ。

 宙に浮かぶ刀たちは、まるで生き物であるかのように()()をうねらせ、鎌首をもたげる。

 

「ッ――!」

 

 諏訪子は動く。

 (カイ)の消失、謎の物理現象の歪曲。

 それらの正体を見破るまで、下手に攻撃を出し続けるのは悪手であると判断。

 とにかく今、必要なのは『情報』だ。

 

 依姫は変貌していた。

 

 今までの、絶対的な強さを持ちつつも、己の才能に甘えない。

 しかしまだ、決定的な『経験値』がなく、突く隙のあったあの『最強』はいない。

 ここにいるのは、依姫であって依姫ではない。

 

 ――八雲紫を欺き、世界を断絶した時のような無意識でもなく。

 

 もっと異質で、不気味な『未知』そのもの。

 

「…………」

 

 依姫の意識に呼応し、刀が動く。

 まるでゴムのように、柄や鍔を空中に固定したまま、刃のみが生き物のように動いていた。

 諏訪子の目には、やはり刀に異変は映らない。

 何の変哲もない刀、依姫の神力で強化され、切れ味と強度を増しただけの刀。

 それなら、あの異変の理由は一つ。

 

(こいつ、一体何の神を下ろした……!?)

 

 襲い掛かる、触手のように自在に動く剥き出しの刃。

 初動、頭に向かって来るそれを諏訪子は避け、足裏で神力を爆発させる事で、移動速度を更に増す。

 攻撃を外した刀たちは、諏訪子の背中を追いかける。

 しかも。

 

「ッ、また速く……」

 

 速度は落ちない。

 それどころか、まるで諏訪子の速さに追いつこうと――()()()()()()()()()()()()、ぐんぐんと更に速くなっていく。

 神力の爆発を利用した急旋回。

 急加速、停止。それらを用いても尚、その刃は諏訪子を追いかけ続けていた。

 数メートル。

 最初はたったそれだけだった刃と諏訪子の距離は、今や数十センチにまで差を縮め。

 また、足裏で神力を爆発させようと諏訪子が意識した瞬間。

 今までのとは違う爆発音が響いた。

 

「がっ――!」

 

 その次に感じたのは、背中を焼く不快な感覚。

 何が起こったかは、わざわざ振り返らなくても分かった。

 咄嗟に反転術式を施し、治療しながら、諏訪子は宙に浮かぶ依姫を見た。

 

「…………――」

 

 木端微塵に吹き飛んだ刀たち。

 その鉄の破片、鍔や柄を含めた残骸たちは、まるで渦のように依姫の背後で躍動し、収束していた。

 そして一本、また一本と。

 破壊された筈の刀が復活し、最初の光景に戻る。

 

「…………」

 

 物理法則の無視……否、歪曲。

 理を捻じ曲げる、己が心で現実を侵食する領域展開とは違う――理を好き放題する力。

 ――即ち、理の『撹拌』。

 

「なるほど。『それ』なら確かに、天照大御神を鼻で笑えるな」

 

 天照大御神とは違う。

 そして、こうして自分の能力((カイ))にまで干渉できる程の『()()()()』の高さ。

 それを持った存在、神の正体など、ほんの一握りだけ。

 ならば。

 

「道理であんたから、死の気配(八坂神奈子)を感じた訳だ」

 

 あの時、諏訪子が依姫から感じた悪寒。

 それを感じる事ができたのも、依姫がそれを与える事ができた理由にもなる。

 『あの神』なら、『あの神たち』なら、それができる。

 何より、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ――うん、大分楽しませてもらったよ。

 

 つい先ほどの、愚か極まりない自分の発言を諏訪子は恥じた。

 楽しませてもらった?まさか、本当に楽しいのはここからだろう?

 そう期待を滲ませ、諏訪子は依姫を見上げる。

 

「さっきの、あんたに向けた発言は謝るよ」

 

 思い返せば、ここ千年以上、見下す事がほとんどだった。

 こうして相手を見上げ、挑戦的に笑えた機会は、一体どれだけあっただろうか。

 

「まさか、まさかそんな『大物』を()()()()()()程とは思わなかった」

 

 認めよう。

 

「今思えばそうだった、天照大御神を呼べる時点で、舐めてかかったら駄目な存在だって事は理解できた筈なのに」

「……」

「もう()()()だろうし、改めて聞かせてよ。依姫」

 

 今まで以上の。

 期待と、興奮と、そして友愛を込めた言葉と視線を、諏訪子は向けた。

 

「矜持が傷ついたかな?」

「…………」

 

 その言葉に、依姫は久しぶりの反応を示した。

 

「…………ははっ」

 

 依姫は目を見開く。

 そこにあったのは、『してやった』という、年相応の少女らしい、可愛らしく誇らしい笑み。

 

「いや」

 

 綿月依姫の肉体に宿る神の力は――。

 『神籬常在』が綿月依姫に付与する神の力は――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 伊邪那美命(いざなみのみこと)伊邪那岐命(いざなぎのみこと)の程度の能力。

 ――『()()』と『調()()』。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「楽しくなってきました」

 

 ――神話(国産み)の力が襲い来る。




 超強くなった依姫。
 しかしこれでも本作ラスボスランキングでは二位という(ヘカーティアは色んな意味で殿堂入り)。
 一位は三部ラスボス、それもレミリアが相手する????ですかね……?

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