【本編完結】諏訪子様になった、負け戦を回避したい   作:洩矢廻戦

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 昔の東方二次ってこんな感じでしたね


4章:王折
15話.GO!!土着神GO!!


 時は少し遡る。

 山の異変の元凶、そして新たに出会った女神と数々の新たな配下。

 ただの視察としてならこの結果は上々なものだと言えるだろう。

 

「てゐ」

「わかってるっての、流石に少し気を抜き過ぎた」

 

 しかし今の彼女たちに、その収穫を喜ぶような素振りは一切見られない。

 てゐやマエリベリー含め、誰もが険しい顔のまま集まり、円座で静かに顔を見合わせている。

 あの時ヘカーティアと別れ、地上へ通じる穴を潜り抜けたまではよかった。

 おそらくそこまでは、皆がここまで張り詰めた空気とは無縁だった、唯一ほのぼのとした時間だったのだろう。

 

『諏訪子さん!』

 

 新たに加えた白龍…祟り神となった虹色の龍、虹龍と呼ぶべきか。

 それに乗って空を飛んでいる自分たちに、見知ったあの緑の少女が近づいてきた。

 その宝石のような瞳を涙で濡らしながら、自分たちに抱き着いて。

 ――大妖精は、必死に助けを求めた。

 

『チルノちゃんが…!チルノちゃんが天狗に…!』

『…は?』

『お願い…助けて…!』

 

 ――答えは既に決まっていた。

 その涙も、悲痛な叫びも理由として微々たるものに過ぎず。

 ただ純粋に、彼女たちを()()()()。神と崇められる故の原初的行動。

 いつ、一体誰が。考えることは沢山あるが、とにかく動かなければ話は始まらない。

 そして現在に至る――

 

「天狗…か」

 

 最初に、口を開いたのは彼女だった。

 

「ごめん、私のミスだ」

「いや、それは違うさ」

 

 監視用の祟り神を付けるべきだったと、彼女はそう後悔する。

 ぞぞぞ…そんな音が背中から聞こえるくらいの、おどろおどろしい瘴気が漏れ出る土着神に対し、てゐは慣れたように肩を叩く。

 ちなみにだが、部屋の隅で今も変わらず拘束されたままの龍と言えば、今も垂れ流しのその瘴気に冷や汗を垂れ流しているのだが…

 てゐはその少女に似合わない、年季の入った胡坐のまま続けた。

 その表情には、焦燥感など微塵も宿っていなかった。

 

「あいつは真っ直ぐだが馬鹿じゃない、そこらの餓鬼と違って、知らない奴にわざわざ付いていくようなことはしないさ」

「…だから攫われたのも気にしなくていいって?」

「少なくとも"最悪"はない。あいつのことを舐めすぎだ、そんなんじゃ今まであんな生き方はできてないんだよ」

「…そっか」

 

 だから心配するな。そうてゐは言う。

 大妖精もそうだが、チルノも自我を持つ妖精という時点で、並の妖怪と比べてもそれなりの年月を過ごしている。

 いくら普段の態度がああであるとはいえ、間違いなくチルノもまた、歴史に残る特殊な妖精そのものなのだ。

 そして、自然そのものである妖精にとって、死とはそれほど珍しいものではない。

 妖精は自然、自然は妖精であり。自然が不滅であるなら妖精もまた不滅、その輪廻の鎖が切れることは絶対にない。

 それは"彼"も知っている、ピチュる…復活…様々な単語で、昔はそれと慣れ親しんできた。

 

 だが、ここは違う。

 

 ここはデジタルの世界じゃない、空気も大地も、偽りのない全てが本物の、命ある美しい世界。

 いつか訪れ、そして生まれる幻想の世界、忘れ去られた者たちの楽園も、全てが空想ではない現実。

 復活できるから、妖精だから大丈夫…そんな考えは既に今の"彼"には、洩矢諏訪子の中には存在しなかった。

 彼女は、既にこの世界の虜なのだから。

 

「攫われた…というかは上手い具合に口先で誘導されて、連れていかれたってのが正しいだろうね。…それもかなり上手いやつだ、あいつは勘がいいから、悪意のある嘘はすぐに見抜くんだ」

「じゃあ…チルノちゃんは…」

「今のところは大丈夫、だが…相手も哀れなもんだ」

「…?」

 

 心配そうに問う大妖精。

 てゐがちらりと視線を横に向ければ、怒りと後悔の狭間でぐちゃぐちゃになったような、彼女の表情ととんでもない量の瘴気。

 これを自分たちに向けられたら…そして今からその犠牲となる天狗に、てゐは最大限の哀れみを向けた。

 ちなみに同情はない、当然である。

 いくら大丈夫だろうとはいえ、自分たちがしてやられた、という現実はとても不快なものだからだ。

 

「じゃあやることは決まったけど…」

「あぁ、そうさね…」

 

 馬鹿正直に交渉しに行くか、それとも戦覚悟で殴り込みに行くか。

 頭に浮かぶ様々な選択と、その後にやって来るであろう面倒事の予想。

 う~~ん…二人は息を合わせてそう唸ってから。

 

「…あ」

「あ」

 

 じろり。

 彼女はてゐに目配せをして、龍に視線を向ける。

 突如向けられた生暖かい視線に、少し身体を震わせて。

 

「…な、なんだ…?」

 

 じーーっ…

 穴が空きそうなほど見つめられ、龍は声を小さくしながら。

 

「な、なんなんだ…」

「てゐ、この子にさせようか?」

「どうせ向こうの狙いもこれだろうしね、乗ってやろうじゃないか」

「いいねいいね、丁度仕返しもできるし。それに最終的には…」

「あぁ。どうせ()()()()()()()()だったんだ、これを機に…」

 

 じーーーーっ…

 

「ふふふ…」

「くくく…」

「…おい」

 

 じーーーーーーっ…

 とうとう視線に耐えきれなくなったのか、龍が恐る恐る問う。

 

「わ、私に何をさせるつもりなんだ…?」

 

 ニヤリ。

 その時の二人の表情は瓜二つだったと。

 傍観していたマエリベリーは後にそう語る。

 

 

 

 


 

 

 

 

 ――ドクンッ

 遠くで一斉に、鳥たちが飛び立つ音が聞こえた。

 るんるんと鼻唄を歌いながら歩く彼女は相変わらず、しかし周りの動物たちはたまったものではないだろう。

 その背を追うマエリベリーと、手を頭の後ろで組んで余裕そうなてゐ、そして。

 

「…私は餌じゃないんだぞ」

 

 何より、縄で腕を縛られた龍を含めた、この()()が山を歩いていた。

 ちなみにこれはてゐの提案であり「もし自分たちと一緒にいて不自由ない様子の龍を見たらどう思うか」「天狗たちに裏切られたと誤解されないため」ということでこの連れ方をしているらしい。

 実際この気遣いが実を結ぶかどうかは数分後の未来で明らかになるのだが――

 彼女は話す。

 

「ここに来るのも久しぶりだねぇ」

「…あー、うん」

 

 ――ドクンッ

 近くを通っていた動物が、泡を吹きながら気絶した。

 しばらくすると、上空から鳥たちが数匹頭から落ちてきて、生物からしてはいけない音を辺りに鳴り響かせている。

 てゐは乾いた声を漏らす。

 

「道中に妖怪もいなかったし、やっぱ天狗をみんな怖がってるのかな?」

「…うん、そうだね」

 

 ――ドクンッ!

 彼女が足を動かす度、全身から薄っすらと見える祟りの気配が、隠し切れずに一定の濃度で溢れ出す。

 どうしてこんなことに…とは言わない、間違いなくこれが起こっている原因は、他ならぬてゐにもあったのだから。

 少し時を遡り、思い出す村での会話。

 

『天狗は面倒臭い生態をしててね、自分より強いやつには全力でこびへつらうんだが…逆は…』

『逆?』

『あー…つまりは誰が見ても"強い"って分かるくらいには自然体でいろ…ってこと』

『はぇ~…』

 

 やらかした。

 てゐが進言したのは、あくまでも存在の格…妖怪ならば妖力、人間なら霊力といったようなものであり。

 彼女の場合は神力だ。しかし何を履き違えたか、彼女が今制御しているのは神力ではなく瘴気。

 山の異変の元凶であり、あの地底世界で見た巨大な繭と()()()()であり――

 

「…お出ましか」

「あーもう、どうとでもなれ~…」

 

 そうして目の前に現れたのは、数十もの陣形を組んで上空を漂う天狗たち。

 陣形を組み、どれもが武装し全力で警戒心を剥き出しにして睨んでおり、てゐの予想と全く同じ現象が今目の前に起こっていた。

 勿論、こちらの要求は変わらない。

 てゐは僅かな希望を胸に、目の前の天狗に話しかける。

 

「氷の妖精がいるだろう、そいつを返してくれませんかね」

「断る」

 

 即答だった。

 なんとなく察してはいたものの、万が一のこともあるため交渉を…と思ったのだが、現実は非情である。

 そして一段と立派な翼を持った天狗、おそらく大天狗だろうそれが美しい刀をこちらに向けながら問う。

 彼女は、それに笑いながら答える。

 

「お前たちこそ、その瘴気はなんだ?」

「私は土着神だよ?この程度は当然さ」

「たわけ、領土を離れて自我を保てる土着神などどこにいる」

 

 ――目の前にいるんだよなぁ…

 彼女は勿論、てゐすらも内心で全く同じ言葉を呟いた。

 そうしてる間にも、天狗たちの警戒心は鋭く、強くなっていく。

 どうしたものか、そんな風に見える態度を見せれば。

 

「おっと…」

「即刻去れ、そうすれば()()()()()()()

 

 肌を擽る程度の小さな風。

 しかし言ってしまえば、その程度の違和感しか覚えない程の、精密性の高い風の操作。

 あっという間にてゐのみが攫われ、龍もまた縄のみを切断され、他の天狗によってその身を確保されている。

 彼女の近くにいるのは、今はマエリベリー()()

 形勢逆転…かのように見えた。

 

「もう一度言う、即刻去れ」

「へぇ、()()()()()()よく言うよ」

 

 あっという間に囲まれ、首元に刀を押し付けられたとしても、その態度は変わらない。

 マエリベリーを庇うように手を伸ばしながら、しかしその視線は冷たく、鋭い。

 てゐの首に刀を押し付けながら、大天狗はあくまでもこちらが上だという姿勢を崩さない。

 

「抵抗は無駄だ、怪しい動きを見せれば即刻こいつの首を刎ねる」

「…はぁ?いいの?」

 

 刹那。

 油断なんてもってのほか、視線を外すといった初歩的な失敗すらした覚えはない。

 ただ、その目を見ていただけ――

 

「本当に?」

 

 その、こちらを見つめる妖しい視線を――

 恐怖――

 

『おおおおおおっ!!!!!』

 

 轟音。

 大天狗を含むあらゆる天狗たちが、その青い波動に気づいた時には既に遅く。

 まず最初に落とされたのは上空の天狗たち。

 掌印を結びながら飛び出す入道の祟り神、それによって上空の天狗は全滅した。

 

「――虹龍」

 

 再び衝撃。

 大天狗が鍛え上げた勘に従い、刀を縦に構えることでなんとかそれを防いでみせる。

 虹色に輝く龍、その顎に吞まれないようするも、その内心は穏やかではない。

 いつの間にか、なんて言葉では表せない刹那の奇襲、成すすべもなく防戦一方な現実。

 神は笑う、自分へ向けられた不敬や敵意すらも面白がって。

 

「可愛い部下が、私の間合いだよ」

 

 最初に地へ落とされた天狗たちを待っていたのは、まるで地獄で燃やされる亡者のような、祟り神の軍勢である。

 皆が主の命令に従い、天狗の腕、翼…足といった部位を拘束し、最初にあった数の暴力は、更に上回る暴力によって組み伏せられた。

 再び、彼女が呼び出すのはエイのような形をした祟り神。

 それに飛び乗りながら、彼女は全速力でてゐに近づいた。

 

「遅い」

「ごめんごめん、待たせたね」

 

 取り戻すついでに、大天狗の顔面を殴って気絶させ、祟り神に座って両腕でてゐを抱える。

 いきなり飛ぶことになってしまい、先ほどから彼女の背に引っ付く形でいたマエリベリーはというと、涙目になりながら叫んでいた。

 みるみるうちに高度が上がる。

 

「ちょ、垂直垂直垂直!?」

「さてとてゐ、ここからどうする?」

「どうせいつかはやる予定だった喧嘩だ、このまま目的を果たそう」

「いいね」

 

 じゃあ決まりだと、てゐの悪戯に笑うその顔を見つめて。

 そして再び、目的地である天狗の山、目当ての人物がいるであろう場所に飛ぼうとした時だ。

 ――風が、止んだ。

 

「…お出ましか」

 

 追加で祟り神を呼び出し、油断なく目前の標的を見る。

 その男は、あの大天狗ほどの派手な装飾はなく、あるのは質素な刀と錆びた盾のみ。

 だが、それらを芸術として昇華させるほどの――

 

()()()()か」

 

 目の前の、分類するならば青年と呼ぶべき天狗に対し、てゐは見事なものだと感心するばかり。

 見ただけで分かる、その立ち姿に構え、何より強者に通じる圧倒的な存在感。

 ――今までのとは、比べ物にならないだろう。

 

「…すまんな」

「いや~?」

 

 互いに視線を交わしてから数秒。

 白狼天狗は、そうぶっきらぼうに言った。

 

「ただ喧嘩を売った、買ったという話じゃないだろう。お前()()()向かわせたな?」

「…なんのことやら」

 

 一閃。

 ただ刀を手に持って構えただけ、しかしその一瞬の光が、目に焼き付いて離れない。

 今までの妖怪と違う、あの入道のような巨体も、虹龍の種族の力…それによる暴力の押し付けでもない。

 ――純粋に、強い。

 

「犬走楓、参る」

 

 白狼天狗、楓は名乗りと共に刀を向ける。

 土着神、洩矢諏訪子は右耳を相手に向けて笑う。

 

「悪いが仕事でな、全力でお前の策に乗ってやる」

「聞こえないな、もっと近くで喋ってよ」

 

 両者の目的はただ一つ。

 この"全力の茶番"を、全力で演じるのみ。

 

 

 

 


 

 

 

 

 音で表すとすれば、ギリギリ…と言ったところか。

 彼女は一気に飛び出すと同時に、右手に握る鉄輪で相手を叩き潰す勢いで腕を振り上げた。

 楓は咄嗟に盾を構え、受け止めるのではなく受け流すようにして往なしてみせた。

 薄く盾の表面がめくれ上がる。

 

「…なんて切れ味だ」

「直撃したら死ぬかもよ?」

 

 鉄輪を手放し、彼女は傾いた姿勢のまま、空中で器用に回転して蹴りを放つ。

 武術のぶの文字もない適当な構えと力の入れ方ではあるが、間違いなく不意を突く形で放たれたそれを、楓は無防備な腹に喰らってしまう。

 たった数秒の硬直と吹っ飛び、しかしその一瞬で彼女は援軍を呼ぶ。

 

「虹龍」

 

 顎。

 楓が回る視界の中、唯一ハッキリと知覚できたのは、あの巨大な龍の牙、そしてその口。

 空中を蛇行する勢いで近づいてきたそれに、飲み込まれないよう刀を縦に構えて後方へ飛ぶ。

 顔を顰めて。

 

「っ重…」

 

 楓はたまったものじゃないと内心で吐き捨てる。

 勢いを殺すため自ら飛んだ、それなのに虹龍の体当たりによる衝撃は、それでも殺しきれないほど巨大。

 制御が間に合わず、無数の木々をなぎ倒しながら、地上に落とされ転がっていく。

 ――再び影。

 

「洩矢の鉄の輪」

 

 先ほどよりサイズは小さい、しかし問題はその数。

 五つの鉄輪が空中で高速回転を続けており、それが今にも襲い掛からんと、その矛を向けている。

 ゆらりと傾き、それらがまるで円盤を投げるかのような軌道で地上へ降り注ぐ。

 

「くっ…」

 

 刀と盾を放り投げる。

 一見すればただの自殺行為、だが元より承知。そもそもあの鉄輪を相手すれば、盾は勿論刀など逆に切り刻まれることだろう。

 死が目の前に降り注ぐ、その一瞬の間。

 

「"熱望(ねつぼう)" "戦慄(せんりつ)" "未練(みれん)吟唱(ぎんしょう)"」

 

 腰に携えていた、天狗という種族ならば皆が持つ扇。

 それを振るい、詠唱で効果を底上げした旋風が、鉄輪の側面に叩きつけられた。

 

「…!やるね」

 

 いくら凄まじい切れ味を誇るとはいえ、その材料はあくまでも鉄。

 鉄という実体、そして輪という形状を持つ以上物理法則からは逃れることはできない。

 放たれた五つの鉄輪は、見事に楓の身体をギリギリ避ける形で着地し、追撃が失敗に終わった。

 

『■■■■■ッ!!!』

 

 再び、山を震わせる咆哮が響く。

 視線を向ければ、そこには上空で身体を折りたたみ、今にも飛び出す勢いでこちらを見つめる虹龍。

 その黄色の同心円状の瞳が、楓の姿を完全に捉え、再度の突進。

 同時に、楓の耳に届く詠唱。

 

「"日輪(にちりん)" "反逆(はんぎゃく)" "孤高(ここう)新星(しんせい)"」

『――(■■)

 

 閃光。

 凝縮された時間の中、楓が咄嗟に確認できたのは六つの線。

 縦に横に、斜めに空間に刻まれた光の斬撃が、黒の炎による"弾幕"によって布陣を作っていた。

 避ける、空中へ飛びあがる。

 追尾、避ける。

 

「…~~っ!」

 

 追尾、こちらに向かう斬撃を再び避ける。

 避ける、身体を捩じって加速の準備に入る。

 放り投げた刀を掴む、ついでに盾を左に、それを合図に加速開始。

 避。

 避…

 弾幕の向こうへ。

 

「………っはは」

 

 鉄同士がぶつかる音。

 翼を、腕を、足すらも失う覚悟で避けて(グレイズ)、その弾幕を越えた先。

 気づくべきだった、途中から殺意を見せていたと錯覚していた攻撃も、この立ち姿も。

 自分だけだったのだ、本気でやっていたのは。

 ――彼女にとっては、ただの遊び。

 

「お祭りは、別名神遊び」

 

 刀は折れていない、逆に切られてもいない。

 ただ、目の前の少女の首を刈り取ろうと振った刀身は、二つの鉄輪で挟まり動きを止めていた。

 

「…勘弁してくれ」

「君との遊び、結構楽しめたよ」

 

 心底嫌だといった風な顔をする楓と、まるで新しい玩具が期待以上だといった様子の彼女。

 その時点で、勝敗は既に付いていた。

 

「なるほど、考えたね」

 

 そんな二人の様子を、祟り神の背に乗ったままのてゐが、感心したようにそう呟く。

 マエリベリーもまた、今の彼女が身に纏っているそれを見て、言う。

 その小さな身体を包む、二つの鉄輪。

 

「土星の環みたい…」

「なるほど、考えれば単純なことだったんだ。小さくすればするほど、鉄輪は速度を上げて切れ味が上がる…そして一瞬だけ巨大化させることで、今まであいつはその切れ味を維持したまま範囲だけを伸ばしてた」

 

 てゐが思い返すのは、地獄で虹龍と戦った際の彼女の失敗。

 本来小さくすれば範囲を犠牲に切れ味を、大きくすれば切れ味を犠牲に範囲を伸ばす鉄輪の特徴。

 だがあの時、彼女は鉄輪を投げ、そして巨大化させたままにしたことで切れ味が減衰し、結果虹龍に押し負けた。

 もしあそこで、鉄輪がまだ手元にあれば――

 

「元に戻せば近接の防御、逆に今まで通り斬撃を広げても鉄輪は手元…というか身体から離れない、か」

「器用ねぇ」

 

 鉄輪の切れ味があれば、楓の持つ刀ごと身体を両断することも容易かっただろう。

 だが彼女はそれをしなかった、あえてより難易度の高い、鉄輪をXの形で配置し、その側面で白刃取りの要領で受け止めてみせた。

 まるで手足のような精密動作、この数日で彼女の実力は益々伸びてきたようだ。

 マエリベリーの感心したようなため息と同時に、楓は刀を戻した。

 

「…時間か」

「あれ、終わり?」

「とぼけなくていい、最初からこれが目的だったのだろう?」

 

 優しい風だ。

 楓の言葉が終わると共に、彼女たちを包み込む柔らかい風が、髪を揺らして降り立った。

 翼を綺麗に畳みながら、くるりと華麗に着地してみせた、真っ黒な天狗。

 

「…天魔様」

「お疲れ楓。…さて、初めましてかな」

 

 天狗と言えば黒、しかし目の前の天狗、天魔は今までに見た天狗の黒には当てはまらない。

 夜のように、羽の一つ一つに淡い星のような輝きが宿っている。髪もそうだが服も黒い、黒曜石のように真っ黒で、しかし服には一筋に走る赤の模様。

 その風貌、何より身に纏う気配は正に"王"だと、彼女たちはそう確信した。

 

「見事な訪問だった、とても物騒で暴力的」

「見事な歓迎だったよ、とても物騒で暴力的だ」

 

 背の高さは下駄を履いているのもあり、天魔の方が上だ。

 互いにニコニコと笑みを見せ、しかし一切の油断を見せずに語り合う。

 

「自分で言うのもあれだけど、君の部下結構やっちゃったよ?大丈夫?」

「死んでいないならそれでいい、まぁ自尊心の方は知らんがな」

「ふーん」

「まぁ最初から()()()()()()、特に気にすることはない」

 

 ――割と適当だな。

 鉄輪を暇つぶしにくるくると回しながら、彼女はそんなことを考える。

 赤い瞳が、強く光る。

 

「立ち話もあれだ、良ければ我が家に招待しよう」

「えっマジ?」

「あぁ、あの氷の妖精もそろそろ留守番に飽きた頃だろうしな」

「…そっか」

 

 半ば確信していたとはいえ、チルノの名と無事であることを告げるその台詞に、ほっと安心した声を漏らす。

 天魔は音も風も出さず、無音で宙に飛び上がり、こちらを見つめた。

 

「既に話は広めてある、私の後に付いてくればいい」

「そっか、じゃあ遠慮なく」

『■■■■…』

 

 呼び寄せた虹龍の頭を撫で、それに飛び乗ると同時に上空へ舞い上がる。

 先ほどから待機していたてゐとマエリベリーも虹龍の背に移し、エイの祟り神を仕舞ってから進みだす。

 

「………」

 

 天魔が先陣を切り空を駆ける。

 その時一瞬、呟いた言葉は誰にも届かなかった。

 

「…ここまでは予定通り」

 

 天魔はちらりと、上空から小さく見える、あの地獄への大穴を見る。

 ()()()()()()()。彼女が山を訪れ、そして変わらず警告をして返り討ちになった部下。

 彼らには申し訳ないが、天魔は目的のため、あえて同じ演劇に身を投じた。

 ――どちらの最悪を選ぶかは、彼女次第。

 

「いい未来になることを祈ろうか」

 

 天魔は、そう静かに笑って言った。




 鉄輪をフラフープみたいに纏うイラストを見て参考にしました。

呪術廻戦はどこまで知ってる?

  • 最新の単行本(人外魔境)まで
  • アニメの内容(渋谷事変)まで
  • あまり知らない(領域展開は知ってる)
  • 全部わかる
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