【本編完結】諏訪子様になった、負け戦を回避したい 作:洩矢廻戦
0巻と壊玉で出てきたあの入道みたいな呪霊「晒し首呪霊」って言うみたいです、しかも攻撃方法が別の呪霊だと思ってたあの燃える骸骨みたいなやつという…
空気が綺麗なんて言葉があるが、今のこの景色こそがそうなのだろうと思う。
現代社会を生きてきて、アスファルトに囲まれた排気ガスの匂いに慣れ親しんだ"彼"の知るそれと、今のこの世界は比べることもできない。
一切の凹凸が見られないくらいに加工が成された、鉄板のように艶のある美しい木材を組み合わせられた、時代に見合わない建築技術の高さ。
縁側に腰かけ、ただ彼女は視界を覆いつくす程の広大な風景、山と川が織りなす芸術の画を眺めていた。
「…あ~~~…」
綺麗だと、心の底から改めてそう思う。
最初に目が覚めてから、何故か隣に立っていたミシャグジと共に歩いた道中。
竹林を歩き、その奥にある未来への布石と、初めてできた友。
仲間を増やして、そして一緒に歩いて、ご飯を食べてそして寝る。
土着神になった影響からか、特に睡眠が必要というわけではないのだが…それでも人間であった頃の名残というべきか。
それでも一度だけ、彼女は一切眠ることをせず、日が昇るまで時を過ごしたことがある。
今の空気も、その日と同じどこまでも澄んだ美しい世界そのものだった。
「…嗚呼~」
小さくだが、よくよく空を見れば天狗たちが飛んでいる。
胡麻のように小さく、真っ黒な粒にしか見えないが、それ程の高い場所を忙しく右へ左へを繰り返しているということで。
兎にも角にも。
「…いい場所だぁ」
溶けたスライムの如く、この安寧を貪ることにした。
時は少し遡る。
天魔が案内した先には、やはりと言うべきか立派な屋敷があった。
山の一面を切り取ったかのように丁寧に整備された傾斜と木々、その中で堂々たる佇まいで在るその社。
神社のようであり、しかしどこか宿を思わせる温かさ、そして天狗の王に相応しい神聖さを保ったその建築物に、ただただ見惚れるのみだった。
遠目に見ると、それこそ現代日本にもありそうな神社みたいで、しかし天魔に中へ案内されると共に、その考えは少し変わる。
ぎし…歩く度にそんな音が鳴り、そして血液に溶け、身体中に渡るように錯覚するほどに濃密な木々の香り。
そのどれもが、俗に言う"高級感"溢れるもので――
「さて、お姫様はこちらだ」
「おー!諏訪子ー!」
「おー!チルノー!」
やっぱり、彼女は心配しなくてもよかったのだ。
天魔が扉を開くと同時に目に入ったのは、八畳ほどの大きさの和室。山積みになった書類の塊が複数、机だけでなく畳の上にまで侵食している光景で。
そして、おそらくは…というより絶対勝手に座ってはいけないであろう、何処からどう見ても天魔のものであろう高級そうな座布団の上に、チルノが堂々と座っていた。
「遅いぞ!後で来るってこいつに聞いたのに全然来な」
「チルノちゃん!」
「ホゲェーッ!?」
全力の体当たりが決まった。
チルノの姿を確認した瞬間、自分の影が凄まじい勢いで躍動するのは感じていた。
止める理由も存在しない、故にたった今チルノを一発KOした大妖精を、そのままにしていたのだが。少しだけ後悔した。
大妖精の突進は残像を残す程の速度で放たれたのだった。
「大妖精~?チルノ伸びてるって」
「あっ!えーと、その…」
「気にしないでいいから、大妖精はチルノが起きるまで見守っててよ」
「…はい、諏訪子さん」
"目的"のため、天狗の山に行くと決めた時、真っ先に決めたのは大妖精の秘匿だ。
今の彼女…洩矢諏訪子の肉体は様々な妖怪、祟り神を統一した影響か、その実体だけでなく影にまで影響が出るようになった、そのため目的の為これを利用することにした。
ただ正確には影ではなく、これは普段彼女が祟り神を虚空から呼び出す際のパスを利用し、向こうからではなくこっちから向こうに行く…といった風にすぎない。
ただそれをわかりやすく、視覚的にも把握がしやすいよう、自分の影を利用しているだけで、別に彼女の影が変わったというわけではないのだ。
実際に四方八方から光源を当てられたり、真っ暗な密室だろうとこの異空間への収納は使える、控えめに言ってもかなり便利だ。
だがそれでも、やはりと言うべきかそれなりの制限があるのも事実で。
「大妖精…なるほど君がか」
「チルノから聞いてた?なら説明は不要だね」
「しかし疑問だな、何故他の者はそうやって隠さなかった?」
「できるなら最初からやってるんだよね~」
まず、マエリベリーのような人間は基本ここには入れない。
入れるにしても工夫がいる、それこそこの異空間は本来取り込んだ妖怪を祟り神にへと昇華させ、部下としていつでも呼び出せるようにするものだ。
つまりは今までに取り込んだ、数え切れないほどの祟り神がいるせいで、普通の人間はすぐに瘴気で命を奪われる。
何重にも重ねた、瘴気を発さない祟り神による専用の包装を行ってから、わざわざ収納しないといけないという、とても不便なものになる。
しかしどうやら、他の妖怪にとっては信じられないくらいに快適らしく、ずっとここにいたいと思う者もいるらしい。
しかしてゐは例外で、できればあそこに隠れるのは勘弁して欲しい…とのことで。
「ほほう?私も気づけない異空間か…興味深いな」
「それは後で教えてあげるよ、今は…でしょ?」
「では、ここなら邪魔は入らないだろう?」
「そうだね、じゃあ腹を割って話そうか、大妖精とメリーは後ろに」
互いに座って、その視線を交わし合う。
天魔の赤い瞳と、洩矢諏訪子の放つ黄金の瞳が持つ光がぶつかり合い、部屋の中を圧迫感が支配する。
まず、最初に口を開いたのは天魔だった。
「歓迎するよ洩矢諏訪子、この山…そして天狗の支配領域へようこそ」
「ありがたく、その招待を受けるよ…天魔様?」
含みのある笑顔のまま、互いに挨拶を交わす。
そうして両者共に、動きを止めてじっとして――
「……………」
「……………」
じっとして…
「……………どうする?」
「どうしようか」
会話が続かない。
勿論話すことはあるにはあるのだが、目の前の天魔が何かを探るかのように言葉を選ぶのもあって、彼女はそれを切り出せずにいる。
まるでこちらが話そうとする、話したがってることが
あー、と手を上げて。
「そうだ、
「…あぁ、君たちのおかげで彼女は完全に土着神に誘拐された被害者ということになってる、まぁ勝手に行動してそうなったわけでもあるから…しばらくは謹慎処分が下るだろうな」
「…それを決めるのが天魔じゃないの?」
「知らん、私はそういう面倒なのは嫌いだ」
鞍馬天魔にとって"天魔"という肩書は、ただの称号に過ぎない。
それに込められた意志や重みなんて知ったことではなく、ただ強いから、強いことを認められたいからこの立ち位置にいるのみ。
書類仕事?部下への細かい対応に命令?知ったことはない。
「まぁ…それでも一応天狗の端くれではある、それなりに同族のことは想うし仲間意識も結構あるんだぞ?」
「へぇ~」
「その点で言えば、君の龍に対する対応は助かった、私ならともかく下の奴らの意まで知ることは難しいからな」
妖怪だろうと、天狗であろうと同族争いというものはない方が嬉しいもの。
実際彼女、正確にはてゐだがその案が一人の天狗を周りからの悪意から守ることができた。
いや、しかしよく考えれば。
「あれ、それ辿っていけば勝手に山に入って天狗を脅かした私が悪くない?」
「……………」
「え、何その顔」
真理にたどり着いてしまった。
あえて触れなかったのかそれとも今まで自分も忘れてたのか…
兎に角、目の前の天魔の表情は正に「あっ」という気配丸出しで――
「……………」
「……………」
べしん!と頭を引っ叩かれる音がした。
「あーうー!?」
「阿呆、もっと堂々としな」
先ほどから後ろで、二人の様子を眺めていたてゐがそう言って、彼女の隣に座りながら続ける。
天魔はてゐの姿を見て、今まで以上に表情を引き締めて頭を下げた。
「これは…お久しぶりですね"因幡の白兎"殿」
「やめな、そういう堅苦しいのは嫌いなんだ」
天魔の丁寧な言葉遣いに、てゐは眉をひそめて勘弁してくれと顔を横に振った。
「お前こそ、随分と昔に比べて大成したじゃないか、まさか本当に天魔になるとはね」
「…覚えていてくれたので?」
「あぁ、記憶に残る悪餓鬼だったからねあんたは」
てゐにとっても、"今の天魔"は記憶に強く残るほどの個性的な妖怪だった。
ただ己の強さを求め、そして証明するために同族にすら戦いを挑み、他の妖怪は勿論鬼にすら立ち向かう正に猪。
それが今や天狗たちの王である天魔の座に就き、しかも昔に比べてその暴れん坊っぷりが鳴りを潜めていることも衝撃的で。
時間の流れ、そして責任の宿る位に立つことによる変化がここまで…と。
「てゐ~何私を放っておいて盛り上がってるのさ~」
「引っ付くな耳を触るな、あと重いからこっちに寄り掛かるな」
「何よ!私と過ごした夜は遊びだったわけ!?」
「ただ夜空を見ただけでしょうが」
「やだっ!てゐったら大胆♡…いだだだだだだ!?」
とりあえず隣で何か言ってる土着神は引っ張るとして。
みょーんと限界まで頬を引っ張りながら、てゐは天魔との会話を続けた。
「こいつは放っておいて、とりあえず続けようか」
「…えぇ」
今も涙目で頬を引っ張られてる彼女を見て、天魔は困惑の表情を隠さずにいる。
さもありなん、天狗の集団を蹴散らし、天魔自身一番の部下としても重宝しているあの白狼天狗ですら太刀打ちできない存在が、こうしていい様にされているのだから。
正直な話、天魔は洩矢諏訪子と戦おうとは思わなかった。
あのおどろおどろしい祟り神たち、そして鉄輪によって織りなす斬撃の雨と、未だ計り知れない本体の力。
どこまでも興味が惹かれる筈なのに、知りたいと、戦って確かめてみたいと思えたはずなのに、思えなかった。
恐ろしいと、一瞬でもそう思ってしまった。
――そしてなにより。
「…諏訪子殿」
天魔の答えは決まっている。
彼女の逆鱗には触れず、ただ従順にすれば安寧を得ることはできるがそれは違う。
天魔は知っていたから、この後起こる様々な厄災、そしてその中心に立つ人物は誰なのかを。
その時、天魔の目にはあるべき未来が映ったのだから。
息を吐いて。
「これを見て欲しいのです」
「…ん?」
口調を改め、机の上に置いたそれを、彼女は静かに見つめた。
てゐも同じく、目の前に置かれたものの正体に気づき、ほう…と感嘆の息を漏らす。
「天狗の作った刀…か?」
「…やはり見抜かれましたか」
「察するに、どこかの神が持ってた武具を見様見真似で再現したってとこかな、不純物も多いし切れ味も悪い」
てゐの目の前に置かれたのは、正にその通りで天狗の作った刀である。
本来の歴史では存在しないはず、生まれるのは未来のはずのそれを、引っ張られた頬を撫でる彼女も興味深そうに見つめていて。
逆にてゐはというと、そのあまりにもお粗末な出来に呆れ、柄を撫でながら言う。
「鋼が悪い。材料は極上なのに作るやつの技術が追い付いていない、何より打つ回数も、はっきり言って舐めてるね」
「お恥ずかしい限りで」
「まぁ…よくやってる方ではあるね、見様見真似でこれだ、ここまでできるのは尊敬するさ」
「…有難く」
実際その通りだと、てゐの隣でじっと刀を見つめながら、彼女はそう思う。
考えたこともない、一切の予備知識などを持たず、見様見真似でとはいえ鋼を打つ、削る覚悟。
それにお世辞にも鍛冶が得意とは言えないであろう天狗がだ。
自分も鉄輪を作ってはいるが、刀や剣といったものはイメージができないせいか再現することは出来ていない。
置かれた刀に手を向けて。
「…ほほう」
確かに、知識のあるてゐと違って、素人の自分でもわかるくらいには、彼女の目には汚いということはわかる。
刀身の厚みは凸凹だし、特に棟の部分が酷い、まるで鉄を熱した後すぐに、砂利に押し付けたかのようにぐっちゃぐちゃだ。
切れ味など論外、本来は背は柔らかく、刃は硬く鋭くする現代では常識のはずの剛柔の区別すらついていない。
このまま振るえば、持つ者の力次第では切ることはできるだろうが…数回もしないうちに真っ二つに折れるだろう。
ため息。
「これ、本当に切れるの?切れたとしてさ、数回で折れちゃわない?」
ついそんな疑問を口にすると、天魔はばつが悪そうな顔をして、頬を掻きながら答えた。
「その鉄はよく妖力が通るようになっており…まぁつまりはそういうことです」
「まさかのゴリ押し!?」
簡単なことである、切るではなくぶっ叩く、ぶっ切る。
人間には絶対にできない、あまりにも妖怪らしく、そして鍛冶や武芸という概念に唾を吐くかのような愚行。
いくら鍛冶素人とはいえ、その答えに彼女はご立腹だった。
「ひっでぇ!いくらなんでもそりゃないでしょ!?」
「返す言葉も」
「いや…でも何にも知識がない状態からこれは凄いよ、うんそれは凄いよ」
刀身は駄目、全てが駄目。
鉄という至高の素材全てを冒涜するあまりにも滅茶苦茶な加工には目を瞑るとして、今度はいい所を探そうとじっくり観察をする。
刀を握る手を目前に、それをゆっくりと上にあげて――
「…あっ」
柄。
刀を握る際には必ず最初に目に付き、そして刀の印象を形作る要素でもあるそれ。
細部の至るところまで入念に編まれた布と、黒と赤というシンプルでかつ美しい組み合わせ。
本来の刀では布ではなく、鮫皮と呼ばれるものを水で柔らかくしてから磨いて作るのだが、しかしこれはこれで美しい。
妖怪の握力ならばよほどのことがない限りすっぽ抜けることもないだろうし、そうなると必然的に制作者が求めるのは美しさとなる。
これはいい。
「綺麗だね、見てよてゐ」
「あ~、確かに悪くない」
「天魔、柄はいいよ柄は」
――その時、再び見えた。
「…天魔?」
彼女が首を傾げる。
てゐも何かを察して、その表情を少しだけ険しいものにして。
「…嗚呼」
天魔は、ただ目の前に映る光景を眺めていた。
空を覆いつくす紅い霧。
天狗たちが一斉に飛び立ち、襲い掛かってくる大量の、背中に翼の生えた妖怪たち。
皆が戦い、風と弾幕の嵐を張ることで応戦しているその中で。
刀を持つ白狼天狗の姿が見えた。
黒と赤の、さきほど机の上に置いたものと同じ色の組み合わせの柄。
そしてそれとは比べ物にならないほど、硬く、柔らかく、職人の技が行き届いた立派な刀。
紅葉の装飾で彩られた、そのひし形の盾に至るまでが――
「…天魔?」
意識が戻ると、彼女は首を傾げたまま。
天魔は先ほどの一瞬、現実で言うとたった数秒の内に、遥か遠い未来の景色、いずれ来るであろうその歴史を見た。
空が赤色に染まるのを見た、真っ赤に染まる館が降臨するのを見た、未来でも元気に生きている同族たちを見た。
そして何より――
「やはり、あなたもいるのか」
「?」
今とは違い、目玉の付いた少し変わった帽子を被った彼女。
それがあの未来の景色の中で、一瞬だけ天魔の目に映った。
今よりも強大で、そして恐ろしい、畏れられるに相応しい神の姿。
――いい時間だ。
「…そろそろ、種明かしと行きましょう」
天魔には、生まれつきある能力がある。
それを駆使することで戦に勝利し、天魔の座に就いた…なんてことはない。
ただ見ただけ、どちらかを優先して、自分にとっての最良を目当てに流れるように生きてきた。
それは、今でも例外ではなく――
「私には未来が見えます、しかしそれは未来視というにはいささか不便なもので」
この数年、天魔の頭にはあの最悪の景色が植え付けられていた。
山が食われ、鉱山が溶け、天狗たちは為すすべなく落とされ、踏みつぶされる血の景色。
言ったところで変わらない、抗っても意味がない未来。
いつか終わることを痛感しながらも、終わりに向かって延命を繰り返す日々だった。
「"見通す"のですよ、それも最悪な…私にとって悪い未来しかやって来ない」
"先を見通す程度の能力"
しかしそれで見られるのは最悪の未来だけ、天魔がどれだけ足掻こうとも、天狗の山と同族たちは一人残らず、"あの厄災"に蹂躙されるものだけ。
それ以外は何も見えない、どれだけ悪夢に苦しもうと、必死になって救いの未来を手繰り寄せようとも、それ以外は何も見えない。
眠れない、眠ってしまえば再びあの未来が見える。
今隣で座り、仲良く酒を飲む仲間が夢では頭を食いちぎられるのだ。
眠ってたまるか、どうせ未来は変えられないのなら、もうわかったからそんな未来は見せないでくれ。
限界まで起きて、限界まで身を削った天魔に、能力は悪趣味に笑ってみせた。
そのうち現在のように起きている時にも未来を見せてくるようになった。
「天狗としてそれなりの時を過ごしてから、この能力は私をずっと苦しめてきた。…そして、今」
――ごうごう、ごう…
あの、不気味な音が響き渡る。
「本来なら、私は今日もあの洞窟へ行き、封印の作業をする予定でした」
「…天魔」
「しかし今私はここにいます、異変を感じた部下もいるようですが、彼らでは太刀打ちできないでしょう」
「天魔」
洩矢の鉄の輪、それが天魔の首に向かって突き立てられる。
ごう…ごうと空気を揺らすその音は今この瞬間、山を震わす悍ましい何かにへと。
「何のつもり?」
「言ったでしょう、私は最悪の未来が見える…今までに見た未来は、今日も封印を成功させ、そして何十もの日が昇った日に、私含め天狗は皆殺される」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!!
「天魔…」
「諦めようかと思いました、しかしその度に未来は少し変わるんです、今日はもういい。そう思った瞬間、今までに見た未来よりも更に悲惨な、私の友人たちが今まで以上に苦しんで殺される未来が」
もはや、揺れは気のせいではなくなった。
揺れによって、屋敷内の様々な置物が倒れ、そして床に散乱していく。
――嗚呼、来るのか。
「…てゐ」
「わかってるさ、チルノたちのことは任せときな」
「…大丈夫だよね?」
「私を誰だと思ってんのさ、幸運をもたらすありがたーい兎だよ」
ニマリと笑って、てゐは心配そうに問う彼女にそう答えた。
揺れは今も勢いを止めず、更に更にと威圧感を増して。
「だから、あんたは容赦なくあれをぶっ倒せ、それに…」
「……」
「
「応っ」
これ以上の言葉は不要。
てゐの激励と同時に、彼女は気配を感じる方角、屋敷の窓へと向かって走り出す。
水面に飛び込むかのような綺麗な姿勢で潜り抜け、そして空中へ身を放り出した。
「虹龍!」
同時に、今ミシャグジ以外で最も信用ができる祟り神を呼び出し、その背に乗って空中へ。
上へ、上へと、どこまでも飛行して、目的の気配を感じる方角に。
「…あぁ」
山が揺れている。
比喩ではなく、文字通り山が一つだけ、不自然に凄まじい勢いで揺れている。
それはまるで、繭を破って羽化しようとする蟲のようでもあり。
そしてある意味、その正体に近いものでもあった。
『■■■■■■■■■■■■ッッッ!!!!!』
それの全長は、山を七巻き半するほどであった。
まるで血のように深く、そして無機質な赤と黒の装甲。
数百数千の足は全て、人間の腕と頭のみで形成されており、装甲とのアンバランスさが更に嫌悪感と恐怖心を刺激する。
それは、長い長い眠りから覚め、長い長い封印を破ったことの歓喜に震え、不気味な咆哮を響かせた。
よく見てみると、人間の村があった場所では凄まじいパニックが起こっているようで、あまりの恐怖に逃げるという選択肢が頭から抜け落ち、ただ泣き叫んでいる。
「面倒臭いことを押し付けられた…」
天魔は、きっとこれを知っていたのだろう。
彼女はしてやられたその現実に、少しだけ悔しそうな顔をして笑う。
未来は変わることはない、見るのは常に最悪の未来だけ。
――しかし
「さて…」
目が合う。
山を締め付け、そしてこちらへ巨大な口と眼球を向けるそれ。
彼女は笑って、虹龍の背に立ちながら、鉄輪を両手に挑戦的に。
「味見…と言ったところだね」
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