【本編完結】諏訪子様になった、負け戦を回避したい 作:洩矢廻戦
だらららららららららら…
その場の空気を表す言葉は困惑。
この音を聞いた時のイメージとしては、漫画やアニメに出てくるおらおらーだったりどりゃどりゃあ!といった感じの掛け声を連想する者もいるだろう。
ただそんな語録は数千年後になってようやく人類が生み出すもの、つまり今この場においては、彼女の奇行につっこむ者はおらず。
「だっらららららららら…」
掛け声にしては棒読みがすぎる、それに途中で何度か舌を動かすのに失敗してつっかえたりしている。
だがこの場にいる全ての者の視線を一身に受けながら、それでも堂々とその動きと声を止めない。
腕を前に持ってきて。
「ジャカジャカジャン♪ジャカジャカジャカジャン♪」
ぐるぐるぐる。
掛け声を変え、両腕をくるくる回して再び棒読みの詠唱が続く。
そして、彼女は拳を振り上げ、その最後を飾る言葉を。
「妖怪、大百足無事討伐!そしてぇ…」
じゃんじゃんじゃんじゃん…
「今、ここに新たなる国を…諏訪大国を建設するっ!」
天狗の山、その頂上に建てられた巨大な屋敷。
普段は天魔が独占している場所――その二階の大広間にいる一同は、皆が困惑の表情のまま固まった。
集まっているのは天魔の選りすぐりの大天狗たち数名と、数十を超える下っ端たち。
そして居心地が悪そうにそわそわと、周りの表情を窺って縮こまっている村の人間たち数名。
その中でも一際堂々としているのが一名いるが、おそらくあれが村長とやらなのだろうと推測できる。
LEDはおろか蛍光灯すら存在しない時代ではあるが、窓から差し込む陽光が充分すぎるほどに部屋の中を明るく照らしていた。
そんな部屋の中央で、彼女は続ける。
「まず欲しいのは神社でしょー…後は食べ物もだし衣服関連にも手を付けたいなー」
彼女――洩矢諏訪子が遥か昔から山に巣食っていた怪物である龍殺し、大百足を討伐したことで山に平穏が訪れた、つまりはそれを祝うのが今回の集まり。
滅びの未来を知っていた天魔は特にわかりやすく、普段の倍の速度で酒を飲み干し顔を真っ赤にして笑っている。
だがそれを知らない、本来であれば自分たちだけでなんとかできたと錯覚していた他の天狗は違い、まるで恐れ多いというような態度を取りながら、その腹の中は黒く禍々しい。
彼らからすれば、諏訪子は自分たちの脅威を頼んでもいないのに勝手に討伐、手柄を奪い、しかもこちらに貸しを押し付ける存在なのだから。
「それじゃあ…かんぱーいっ!」
尤も、それを知っているのはてゐと天魔といった視線に対する年季がある者と。
「うーん…」
「どうしたのチルノちゃん?」
「なーんか嫌な感じする…こうチクチクした…」
「うーん…普通のお水だと思うんだけどなぁ…」
視線そのものの質を察する、勘のいいチルノの数名である。
それぞれがそれぞれの思惑を隠し、黒い欲望を潜めたこの暇。
洩矢諏訪子、
時は諏訪子が天魔の屋敷で、数時間ほど暇を潰していた時にまで遡る。
大百足が討伐され、そして堂々と新たな支配者の名乗りを上げると同時に、その場にいた全ての人間、天狗たちに確かな恐怖を植え付けた日から三日。
人間と違い天狗は有り余る膂力、そして飛行能力があるためなぎ倒された木々の回収、そして地面の整理も含めて人間とは比べ物にならない程に効率的に進んだ。
ある程度後処理も済んで、瘴気によって変色した地面や雑草はまだ痛々しいものの、それ以外の大百足の存在の証は、ほとんど存在しないと言ってもいい。
元から消失反応で肉体がなくなっていたのもあったのだが、何より諏訪子の使役する百足の祟り神が、まるで下克上をするかのように一切の肉片を残さずに平らげ、文字通り大百足と一体化したからだ。
その影響か、以前に比べ黒の装甲に磨きがかかっているようにも見えるし、それに気のせいでなければ「ふんす!」とでも言いそうなくらいには上機嫌だ。
来るべき日のためにも、戦力はいくら増えても問題はない、むしろこれでは足りないくらいだ。
「坤…坤だ……」
少し早起きをしてしまった。
数日、数週間?とにかく電子機器から切り離されたこの世界では、どうやら時間の概念とやらが以前と噛み合わないらしい。
いつもなら寝ている筈の早朝、体感でだが5時くらいだろうか、そんな気持ちの良い朝に、自分は起きたのだ。
「…さて」
彼女は、
その感触は今までと同じ、今までの自分にはない何か、第三の腕を動かすかのような感覚。
目を閉じ、ゆっくりと息を吐いてから、その意識を集中させる。
「………」
ボコッ
たった数十センチの小さな規模ではあるが、確かに地面が隆起した。
今までにも鉄輪を生成し、手元に呼び出したことはあったがそれとは違う、あちらは地面からすり抜けるかのように飛び出すのだから。
しかしそれも今だけだろう、何故なら――
「………できた」
ゆっくりと飛行を続け、開いて手の上でぷかぷかと漂う緑色の石。
土着神である自分が生成したというのもあるのだろうが、そこにはおよそ8割ほどの荒魂による瘴気、そして残る純粋な神力がある。
以前の自分では出来なかった現象、そして既視感のある目の前の物体。
「七つの石…じゃなくて一つの石だし、木もまだまだ足りないか」
――私に従え、
あの言葉の後、自分の身体に満ちる謎の力を確かに感じた。
目に見えない何か、しかしどこか心と身体が満たされるような、そんな感触のそれ。
信仰、という言葉が浮かぶ。
「これからの信仰次第では…できることももっと増えるのかな」
遠い話ではある、だが間違いなくできることが増えるのは喜ばしいことだ。
右手を強く握り、その動きと連動させて目の前の石をバラバラに分解し、綺麗な光の反射による雨を作る。
それが地面に落ちるまで、静かに眺めて時間を潰す。
そんな時に、同じく目が覚めていたてゐは話しかける。
「全く、早いのに元気だねあんたは」
「てゐこそ、よく眠れた?」
「まぁね、むしろ充分すぎるくらいさ」
竹林での規律の取れた兎たちは皆、てゐによる教育の賜物なのだという。
朝早くに自然と意識を覚醒させ、そこから仲間と代わる代わる睡眠時間を確保して警戒を絶やさない。
兎と侮るなかれ、ただの竹林と侮るなかれ、迷いの竹林の実質的な主は兎であり、その長もまた強く逞しい。
壁にもたれ掛かりながら、腕を組んでこちらを見下ろす視線に、首を捻って続ける。
「諏訪子、それで?ここからどうする気?」
「まぁ国づくりはここから、でもなぁ…やっぱり一つ心残りがあってね」
「…なんだ藪から棒に」
てゐが予想していたのは、あくまでも国を作る際、絶対に必要となるであろう信仰だった。
恐れと言ってもいい、人は神を恐れ、不幸から身を守るため超常的存在に全てを委ねる。
それによって人は神へ力を与え、神は人へその力での守護を齎す。
その下地を作るために、まずは彼女が最初にしてみせた恐怖、力をひけらかす行動には納得がいった。
あの時、人間だけでなく天狗ですらも恐怖しただろう、そして同時に湧く不信感、それは自尊心の高い天狗の種族によく見られる特徴でもあるからだ。
数え切れない未来を経験し、精神が摩耗しだした天魔はともかく、他の天狗はそう簡単に、洩矢諏訪子という上司を認めようとはしないだろう。
唯一例外があるとすれば、あの天魔のお気に入りの楓と呼ばれた白狼天狗ではあるが…
「でもね…うーんやっぱしない方がいいのかなぁ」
「………何の話かは知らないけど、別に野蛮な事じゃないんだろ?」
「そりゃそうじゃん、でもなぁ…うーん本当はしたいけど…」
どうやら本気で迷っているようで、てゐの問いに全力で顔に皴を作ってうねる諏訪子。
彼女の普段の立ち振る舞い、そこから知った性格からして物騒なことを企んでいるわけではないだろう。
あれほど異次元な戦闘能力、そして恐ろしい気配を纏う土着神にしてはどこか人間臭く、優しい。
そして何の淀みもない、真っすぐな好意を因幡の白兎である自分にではなく、因幡てゐに向けてくる。
それがどうしてもむず痒く、言葉にできないくらいには悪くない感情もあるのだが、決して口にはしまい。
「うーん…」
「………」
「うーーーーん…」
「はぁ…」
てゐは、諏訪子の頭を撫で。
「これは私の独り言だけどね、神ってのは堂々としてるもんさね」
「…うん」
「たとえ民にとって不利益だろうが、それを上回るほどの威光と利益を齎せばいい、民ありきとはいえ、神は神だ」
だから。
「私は別になんでもいい、あんたがやりたいならいくらでも付き合ってやる」
「…ほんと?」
「当たり前だろ、わざわざ退屈しのぎにあの竹林から出てきたんだ、それにあんたの作る国を見てみたいしね」
「…わかった」
諏訪子はそう言って、自分の頭を撫でるてゐの手を、上から自分の手で押さえつけて顔を向ける。
視線を交わして、にぱっと笑ってから。
「宴会やろう」
「あぁいいね、確かに宴会は神らしい行事だ、それに酒も…なんだって?」
「宴会やろ宴会!異変の後は宴会でしょ!」
目をぱちくり、身体を固めて頭上に「?」マークを浮かべるてゐ。
しかしだ、何かを口にしようとしても舌が上手く回らず、それよりも先に彼女は走り出して。
「じゃあ早速天魔誘ってくる!ついでに他の天狗も…」
「は、いや、おい…ちょ」
「宴会だァーーッ!」
「待ちな!」
硬直が解け、すぐに追おうと走り出したてゐ。
しかしそれと同じタイミングで、彼女はいつぞやの地獄鴉の祟り神を呼び出し、それに乗って空へと昇っていった。
こうなればもはや止められない、完全に手遅れだ。
「…まじか」
宴会、宴会だ。
てゐは断言できる、絶対に彼女の想像する宴会とは180°違う。
どうせあの能天気な土着神は、皆が同じ席に座って笑いあう…そんな平和な光景を思い浮かべているのだろう。
しかしだ、天狗たちによる不敬の視線と悪意、それを鈍感な彼女が気づくかとかそういう話ではない。
何故なら彼女の内側には、絶対的主へと向ける底のない愛と忠誠があるのだから。
もし、天狗たちの悪意にそれらが気づいたのだとしたら――
「…まぁいっか」
舞台は今日の夜、てゐは開き直ることにした。
(???年後)
<未だ健在のオンバシラと 肉体を修復し全快となった八坂神に対し
<治癒も鈍く ミシャグジを失い鉄輪での徒手空拳もままならないダメージを負った洩矢神
<これって…
<ああ 八坂神の勝ちだ
呪術廻戦はどこまで知ってる?
-
最新の単行本(人外魔境)まで
-
アニメの内容(渋谷事変)まで
-
あまり知らない(領域展開は知ってる)
-
全部わかる