【本編完結】諏訪子様になった、負け戦を回避したい   作:洩矢廻戦

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 実はまぁまぁ地震ヤバかったけど帰って来れました
 あと地味に古代スタート総合2位あざます


5章:タタリサバイバー!!
19話.飲み準備


 天魔の屋敷から少し離れた、客人専用のあるもう一つの屋敷にて。

 

「暇ね」

 

 縁側に腰かけ、ぽけーっと緩んだ表情のままチルノはそう呟く。

 大百足討伐から約三日。

 初日の騒ぎっぷりはどこへやら、最初こそ空を埋め尽くす程には天狗たちが躍動し、山から山へ、山から里へと行ったり来たり。

 大妖精は詳しくは知らないが、天魔と呼ばれたあの女天狗とは別に、その次に偉いと聞いている大天狗たちが何かを率先して行っているようだった。

 諏訪子…新たにこの地の王となる予定の土着神に対し、彼らがどのように思っているか、その真相はわからない。

 

「暇よ」

「そ、そうだね…」

 

 二回。

 自分なりに今置かれた状況と、その後の展開を考察しているというのに、この小さな氷の妖精はお構いなしのようだ。

 返事をしない自分に不満があったのか、最初よりも更に大きい声を張り上げて、うがー!と地団太を踏んで。

 

「暇!暇だー!」

「ち、チルノちゃん…はしたないよ?」

「暇だ暇だ暇だ暇だー!」

「あわわ、チルノちゃんが悪い子に…!」

 

 ある程度地団太を踏んだ後、赤子のように寝転がり手足をバタバタ。

 そんなチルノに大妖精は両手で口を押さえ、まるで反抗期の娘を見るかのようにしおしおとした表情になる。

 

「暇だ暇だー!諏訪子はどこ行ったー!」

 

 未だ会って一週間と少し、それなのにこの懐きよう。

 大妖精は正直なところ、あの土着神に対し苦手意識が残っているのだが…どうやらチルノは違うようだ。

 チルノは良く言えば純粋、だが彼女の判断はある意味では何よりも信頼できるもので、実際にその勘とも言うべきそれによって、危機を脱したことも数えきれないほどある。

 何年、何十年何百年とずっと、復活という概念のある妖精の中でも、大妖精とチルノは一度も死を経験したことはない。

 ため息。

 

「チルノちゃん…気持ちはわかるけど我慢しないと」

「ぶー…」

「あの人も大変なんだよ、きっと…王様になるんだもん」

 

 遠目からだが、大妖精はあの時の諏訪子の後ろ姿と周りの者の景色を見た。

 いつも余裕そうで、そして自信満々な彼女は、あの時確かに僅かの"虚勢"を身体に貼りつけていた。

 計算内の自分を恐れる視線、自分を見定めようとする無機質な視線、怒りと憎悪を秘めた黒い視線。

 それらに堂々と、弱みを見せないように立ち振る舞う…そんな気配を感じたのだ。

 勿論確証はないし、もしかしたら自分の思い違いなのかもしれない、だが実際に彼女が忙しいというのは合っているだろう。

 あれから諏訪子の姿を見てないし、天狗たちの動きも落ち着きこそ取り戻しているが、今日になってまた行き来の頻度を上げている。

 また新しい風が吹く、何かが起こる前兆を、大妖精だけでなく他の者、人里にいる人間でさえも感じていた。

 チルノは口を尖らせ。

 

「うー…」

 

 ジタバタと両腕を動かすのをやめて、不満そうにそう声を漏らす。

 これはまた前の調子に戻るのに時間がかかりそうだと、大妖精が苦笑いしながら飛ぼうとした時だった。

 

「…ん、あれ…」

 

 肌にへばりつくような、粘土のように滑らかで、どこか布のような軽さを持った異質な気配。

 チルノに関しては慣れたものか、特に気にすることなくぶーぶーとラジオのように定期的に可愛らしい声を漏らすのみ。

 ガサガサッと物音が聞こえると、すぐに茂みから何かが飛び出し、それが大妖精の前でじっと止まって。

 

『れジ、れしイとは御入よぅで…』

「あれ、祟り神さん?」

 

 高さは2mほど、全長はおよそ4mの芋虫のような形で、マトリョーシカのように人間の顔が何重にも重なり、*1巨大な歯茎を露出する異形の祟り神。

 大妖精は一瞬何者かと警戒を強めていたが、その祟り神が放つ見知った気配にすぐ気づき、警戒を解いて覗き込むようにして話しかけた。

 もし諏訪子と出会う前の大妖精であれば、この時点であわあわと涙目になりながら全力で逃げていたのだろうが…悲しいことに本人でさえ自覚していない慣れがそこにはあった。

 一歩近づき。

 

『もガっもごもゴ…』

「あの…どうしたんですか…?」

 

 突如いきなり口を閉じて、その後何かを咀嚼するかのような仕草を見せる。

 頬が不自然に隆起し、ずんずんと正体不明の何かが動く気配がして。

 大妖精が何かと、一歩更に踏み込んで覗こうと――

 

『アッ』

 

 ぱっくりと、いきなりまた口を開いて――

 

「ばあっ!」

「ぴぎゃっ!!!」

 

 至近距離、まさに目前に金色の瞳。

 両手をねじ込むように祟り神の口を持ち上げ、そして成功したと言わんばかりの満面の笑みを輝かせる。

 情けない声を上げながら後退し、どてんと尻餅をついた大妖精と反比例するかのように、まず諏訪子の存在に気づいたチルノがばっと起き上がる。

 ぐぐっと身体をしならせ、全力で腕を突き出すと共に。

 

「諏訪子ーっ!」

「ぐえっ」

 

 妖精の持つ生命力をひしひしと感じる。

 とっさに迎え撃つように両腕を横に広げ、受け止めようとした諏訪子の鳩尾、そこにチルノの頭と身体から溢れる冷気が衝突。

 頭部を利用した打撃…衝撃とその誤差は0.000001秒、空間は歪み、大百足戦以上の負傷を与えるに至る――

 

「ギャーッ!骨があっ!骨がァアアアア!!!」

「諏訪子!あたい暇!」

「ま、ちょ傷口に塩…じゃなくて冷気と頭…ギャーッ!」

 

 山を食い尽くすあの大百足ですら与えられなかった致命傷、それを無意識とはいえ完全にキメてみせたチルノ。

 土着神の肉体にすらダメージを与えるその無邪気さは見事というべきか、今も完全に技が決まって負傷した鳩尾に、まるで追撃中のように頭をぐりぐりと押し付けている。

 冷や汗をダラダラと流しながら、ゆっくりとチルノを身体から離そうと――

 

「チル」

「フンっ!」

「はうっ」

 

 ――ゴンッ!めきゃっ…

 鈍く、しかし重いその音が再度、頭を叩きつけるチルノから聞こえたのを最後に、諏訪子の顔から血色が抜けていく。

 悪魔は妖精に微笑んだ…禁断の追撃"二度打ち"が炸裂。

 皮膚を破り肉を潰し、骨を粉砕し内臓を貫通(そんなことはない)…それでも生きていた。

 

「…?諏訪子?」

「だ、大丈夫…マイペンライだから気にしないで…」

 

 流石は土着神というべきか、この程度の傷くらいならばすぐに治るらしい。

 シュウウ…と治癒の煙を発しながら、なんとかチルノを抱きかかえ、話を持ち掛ける。

 

「さてさて、それじゃあチルノさんや」

「なんだ!」

「暇でしょ?てなわけで宴をやろう!」

「やる!ところで宴ってなに?」

「みんなで飯を食う!」

「やったー!」

 

 爆速で終わった。

 腰を抜かした大妖精をそっちのけで、二人仲良く「やったー!」と手を繋ぎながらくるくると回っている。

 と、その時。

 

『お、いいぃぃいぜン…』

 

 先ほどまで諏訪子を体内に収め、そして今も律儀に口を開いたまま待機していた祟り神。

 それの身体がぷるぷると震えだし、しばらくして。

 

『アッ』

「あっ」

 

 ピチューン、まるで風船が萎むように姿を消した。

 突然の祟り神の死亡(?)に大妖精が更に驚愕すると同時に、諏訪子も気づいたのか「あちゃー」と頭を抱えて。

 

「うーん…成功したと思ったんだけどなぁ、流石に二体だけじゃ長持ちしないか」

「二体…?」

「そうそう、実はあれ二体の祟り神を合体させてるんだよね」

 

 肉体のほとんどが消失し、細かい瘴気の残滓のみが残った地面に手の平を向けて、諏訪子は残滓を回収する。

 黒い霧のような形だった残滓はいつのまにか、かつて取り込む際に変化するあの球体に戻り、そしてゆっくりとそれを握る。

 再び手を開いた時、まるでマジックのようにその残滓は消えていた。

 

「まぁまだまだ試行錯誤かな、相性とかもあるみたいだし」

 

 諏訪子が言うには、このまま数多の妖怪や産土神といった、人の感情によって多くの割合を占める生き物を取り込み、同格化させて支配するのが今の自分の能力。

 だがそれで仮に、数千数万の祟り神による軍隊を形成した後はどうだろう。

 それぞれが確かに強い、しかしそれは所詮"数"の強さであって"個"の強さではない。

 強いて言うならミシャグジだが、それでも全快の自分よりやや下であり、これだけでは"数"ではない。

 戦争は数こそが全て、だがそれはあくまでも現代、そして互いに歩兵や重火器などを含めた場合によって初めて意味を持つもの。

 この世界には異能がある、異能を持った軍隊がいるのと対に、異能を持った圧倒的な個がいる。

 仮に諏訪子が今持っている数百の祟り神、彼らと本気で戦うことを想定しても、ミシャグジを含めても諏訪子が勝つだろう。

 そう、()()()()()()()()()()、つまり史実の大陸を制覇した、あの八坂神奈子も同じように勝てるに決まっている。

 

「だから個の力を高める策を考えてたんだけど…まぁ結果はこれだね」

 

 そう言って、諏訪子は最初に行ったそれを、大妖精の前で再びやって見せる。

 所有する祟り神の中でも下から数えた方が早い、ほどほどの戦力を持った祟り神を召喚。

 それを球体状に変化させ、両腕で思いっきり叩きつけるように融合、破壊…そして合わせた両手を上空に向け。

 

「ほっ」

『■…■』

 

 バチュッと水鉄砲のように上空へ向けて、真っ黒で小さな蛇の形をした祟り神が躍動する。

 それはまるで空中を泳ぐかのように、優雅に身体をくねらせ飛翔を続けていたが、数秒で尻尾から徐々に崩壊し、そして霧も残さずに消えてしまった。

 

「節約しすぎても駄目、混ぜすぎると素材が勿体ない、この辺は慣れしかないね」

「は、はぁ…」

 

 打倒八坂神奈子を信条としている諏訪子だけ、この結果に満足いかず、対抗心をめらめらと燃やしてやる気に溢れている。

 そんなことを知る由もない大妖精からすれば「今のままでも充分なんじゃ…」としか思えなかったのだが。

 諏訪子は続けて。

 

「まぁこの話は後にしよう…とりあえず宴会なんだけど…」

「ちょ、ちょっと待ってください」

 

 話題転換の意も込めて、にぱっと笑う諏訪子に対し、大妖精は待ったをかけた。

 嗚呼、多分止められないんだろうな…そう内心で確信して。

 

「その…みんなでご飯を食べる…のはいいんですけど…」

「うん」

「その…場所は…?みんなってことは天狗…あぁ後もしかして…」

「人間も呼んでぇ、天狗も誘ってぇ…まぁなんとかなるでしょ、私王様だし」

(正確にはまだだと思います…)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「てなわけで料理用意して」

「また無茶を…」

 

 時は少し流れ、天魔の屋敷にて。

 玄関から入るよりこっちの方が早いと、わざわざ空を飛んだまま窓を覗き込み、珍しく書類仕事に取り組んでいる天魔に話しかけた。

 彼女は諏訪子の姿を見て最初に、驚愕ではなくため息で答えたため、おそらくは能力の予知で気づいていたのだろう。

 ならば遠慮する必要はない、そう切り捨て。

 

「宴会の場所も用意して」

「えぇ」

「食べ物はたっくさん、あとお酒もそれなりのものを…」

「えぇ…」

「あと人もたくさん、めっちゃくちゃ多く!それこそ山の周り全部から集める勢いで…」

「…えぇ」

 

 ――嗚呼、どれもロクな未来じゃないな…

 諏訪子が提案を出すたびに、頭痛と共に新しく、電流のような衝撃が走りその未来が流れ込むせいで、天魔は諦めも込めて内心でそう呟いた。

 宴会の場所では、酔った彼女が鉄輪を振り回した結果天魔の屋敷だけでなく山のてっぺんがそぎ落とされ。

 食べ物を用意すれば、途中で酔った彼女が祟り神を呼び出し魑魅魍魎による悪夢のバイキングが。

 人をたくさん呼べば、酒に酔った彼女が住民一人一人にウザ絡みを――

 おい待て。

 

「酒を飲まない未来が…ないだと…っ」

「ん?」

 

 天魔の能力の副作用、そしてわざわざ意味のない未来を見せてくる、見せられる未来予知の能力そのもの。

 なによりその元凶である彼女が、自分の可愛さを自覚してるのかこてんと首を傾げてこちらを覗くのが腹立たしい。

 続けて。

 

「…わかりました、場所も食事も人の用意も私がやります」

「えっいいの?でも」

「任せてください、私はこれでも口先が上手く」

「私が直接誘うつもりだっ」

 

 ガシッ!

 天魔の手が諏訪子の肩に置かれ。

 

「私に任せてください、私はこれでも口先が上手く」

「え、嫌だから私が誘」

「私はこれでも口先が上手く」

 

 ギチリ…

 天魔の指が、諏訪子の肩にめり込み。

 

「私に任せてください」

「え、いや」

「私に任せてください」

「あの…私も手伝」

「私は、これでも、口先が上手く」

 

 ギチチチ…ッ

 骨が軋むほどの力で、変わらず丁寧口調ではあるものの、明らかに込められた感情は先ほどとは違うそれで。

 諏訪子がゆっくり顔を上げれば、至近距離で覗き込むように、天魔は美しい黒い髪、その向こうでギラギラとした瞳の輝きを見せ。

 

「…私に、任せてください」

「…はい」

 

 その圧に、諏訪子は泣く泣く従うことにした。

 

 

 

 


 

 

 

 

 天狗たちの長、天魔による急な集合。

 やっと大百足による山の被害を整備し、危険地帯の柵を張り終え、休憩できると思った矢先にである。

 本来ならば不満が出るだろうが、相手は天魔であり絶対的な強者、それに反抗するような意を持つことは、他ならぬ自分自身が戒めている。

 純粋にただ「何事か」それだけを思って集まったのだが――

 

「洩矢神が宴会を所望だ、これからその準備に取り掛かれ」

 

 一言、そう告げてから天魔は姿を消した。

 広がる動揺、疑惑といった感情は行き場をなくし、次第に誰でも辿り着ける答えへ。

 

 ――洩矢諏訪子だ。

 

 あの圧倒的で、忌み嫌われるべき瘴気とその実態。

 数多の祟り神を従え、同族である妖怪を食らい、魔に堕とす鬼畜外道の力。

 天狗たちは天魔を心から信頼し尊敬し、愛している、だがもしもの不安、ある一定の負の感情が爆発する時、それは何に向けられるのか。

 答えは、火を見るよりも明らかだった。

 

「天魔様…いったい何をお考えで…」

「考える余地もないだろう、あの祟り神だ、あれがきっと卑劣な手を使い…天魔様を脅しているに違いない」

「天魔様が?何を馬鹿な!あの方は最強だ、それはこの数百年で一切揺らぐことはなかった」

 

 ガヤガヤ…

 宴会の舞台として用意された()()()()()

 普段は客人用に様々な装飾品が飾られている筈の部屋も、今は宴会専用の姿に変わっているため、以前の影も形もない。

 数十にも及ぶ妖怪の気配、だがそんな雑音の中でも、彼らの声は互いによく聞こえる。

 ちらりと視線を向ければ、大量の客人…選ばれたそれなりの立場である天狗と、その側近…他ならぬ自身を含む天狗のものである青い座布団。

 その向かい側、天狗のために用意された、とても大きい、一本の長机とは違う人数分用意された専用の小さな机。

 そこには別の客人…人間の場所である証明として、赤い座布団が置かれている。

 

「これを見ろ、あの土着神め…自分だけはちゃっかりと特別なものを用意しているようだ」

 

 コソコソと話す二人の天狗、その間に割り込むようにして別の、少し身体の大きい天狗も会話に参加する。

 その言葉でようやく気付いたのか、二人の天狗は赤と青の座布団、その間の直線状にある先――本来天魔が座るであろうその場所を見た。

 確かにそこには、人間と天狗を表すものである赤と青の座布団ではなく、紫色の特別な座布団があった。

 

「フン…忌々しい…」

「天魔様を差し置いて…随分生意気な神なことで」

「あぁ、それに人間に肩入れしているのも醜いものだ」

 

 そもそもの話、天狗からすれば人間を招くこと自体も納得がいっていない。

 妖怪と人間の力の差は大きい、膂力も違う寿命も違う、傷は簡単には塞がらないし、失った手足は戻らない。

 立場、格、存在の全てが比べるのも烏滸がましい。

 だが何を血迷ったか、あの新たな神は、この地の王となることを宣言したあの女は、それを招いたのだ。

 しかも、天狗と同じ立場で。

 

「不愉快だ…実に」

「…この宴会、どうなると思いますか?大天狗様」

「…嗚呼そうだな」

 

 ぞわり、まるで鑢で肌を撫でられたかのような不快感に近い、その鋭い妖気が、器用に大天狗の隣に立つ二人の天狗にだけ感じられた。

 他の天狗は気付いていない、長い年月を過ごし、永く険しい戦いを経験したからこそ放つことができる、本物の強者の気配だ。

 大天狗は少し、言葉に悩むかのように手で髭を撫でながら、しかし同時に周りにいる同族、同じく大天狗の位を与えられた同僚を見て。

 

「私だけではない、断言する。この宴会とやらは茶番だ」

「…それは」

「皆同じ気持ちよ、天魔様こそ我らの頂点に立つ存在…有象無象の、出しゃばったあのような餓鬼にそれを奪われてたまるか」

「し、しかし彼女は…」

「阿呆、私がそれに気づかないとでも」

 

 違う、断じてそのようなことはない。

 大天狗と呼ばれる所以は、長生きしただけでは決して得られないものであり、それに裏付けされた確固たる実力と判断力がある。

 洩矢諏訪子という神、その強さは誰よりも、悔しいが誰よりも理解し、そして自分たちでは敵わないことも十二分に理解している。

 ではどうするのか、答えなど誰でも思いつく。

 

「あの金色の髪をした人間の餓鬼、それと妖精二人…合わせて三つも弱点がある」

「あ、あの兎は無視するので…?」

「阿呆が、"因幡の白兎"に手を出してみろ、天魔様で最低、最悪はダイコク様に目を付けられるわ」

 

 弱点をぶら下げた生き物ほど、戦いやすいものはない。

 洩矢諏訪子には敵わない、だがそれはあくまでも戦い、血肉躍る戦いを基準とした、どこまでも穢れた土俵の話でしかない。

 国を治める賢者でさえ、族滅を行える鬼でさえ、数多の強者は"それ"には逆らえない。

 ――戦いは、力だけではない。

 

「強敵を討ち果たすにはこれ…スサノオ様の頃から変わっとらんよ」

 

 大天狗が向ける視線の先、そこにある数百もの巨大な壺。

 そこから香る甘い香り――鬼さえ酔わせる"()"が存在感を放っていた。

 

 

 

 


 

 

 

 

「そういえばさ、メリーってお酒飲める?」

「えっ」

 

 宴会までおよそ数十分。

 以前まで来ていた洋服を畳み、今のこの時代に合わせ、諏訪子流にアレンジした和服を着たマエリベリーは、その問いにきょとんとする。

 一足先に天魔の元へ向かい、個人的な話を済ませると出ていったてゐと、それに続く大妖精たちを見送って、数分後の現在にである。

 諏訪子はマエリベリーの困惑の顔を眺めながら、膝の上に座らせたチルノの髪を弄って。

 

「いやさ、なんか今回の宴会でお酒が出るみたいなのよ、しかも鬼を酔わせるレベルの」

「え、酒?鬼でも酔わせ…?えっ?」

「なーんか天魔が気を付けてって言ってたんだけど…どう思う?」

 

 どう思う、とはどういうことなのだろう。

 先ほど彼女は自分に対し「酒を飲めるか」と聞いてきた。

 そんなの迷う必要もなくNO、というかそもそも未成年なので飲んだことはない。

 そのような法律がないから?いやそれでもわざわざ今このタイミングで聞くのだろうか?

 それに彼女は最後に「鬼の酒が出る」「気を付けろと言われた」と言った。

 

 ――主題が変わっている、彼女の問いの真意はなんだ?

 

 マエリベリーは考える、諏訪子の問いに含まれたその意味を。

 最初に聞いてきたのは「酒が飲めるか」そして最後に言ったのは「どう思う」だ。

 飲酒経験があるかどうか、まだ確定していない、分からないマエリベリーに文字通りの「酒が飲めるか」という意味を持たせる可能性は低い。

 仮にそうだとしても、途中でその質問の答えを投げ捨て「どう思う?」とは聞かないだろう、つまり先ほどの言葉は何を意味するのか。

 気を付けて、天魔が…

 ――()()()

 

「天狗は…天魔以外のだけど、彼らは何かを企んでる」

「…ほう」

「それで酒に何かが…というより酒そのものかしら、鬼も酔わせるって言うから」

 

 マエリベリーは答え合わせを始め、諏訪子もそれに満足そうな笑みを零す。

 

「どう思う…って言うのはその酒自体にね?天狗の策…出される酒をどう対処するか…どう飲まずにやりきるか…そのことを聞いてきたんでしょう?天魔でさえ警告をするほどの劇薬…その天狗との戦いをどのようにして流しきるか」

 

 その時、諏訪子はより深く、先ほどよりも満面の笑みを見せて頷いた。

 マエリベリーの考察、時間にしておよそ10秒前後でありながら、短い問答で核心に辿り着くその頭脳の素晴らしさ。

 うんうんと頷いてから、諏訪子は言う。

 

 

 

 

「いやお酒飲んだことないからさ私」

「は」

「鬼も酔わせる凄い酒…めっちゃ気になるじゃん?」

「はっ」

「飲みてぇなぁって」

「は?」

*1
ナナミン死亡後に真人が放った多重魂 撥体




 続きは月曜に
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呪術廻戦はどこまで知ってる?

  • 最新の単行本(人外魔境)まで
  • アニメの内容(渋谷事変)まで
  • あまり知らない(領域展開は知ってる)
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