【本編完結】諏訪子様になった、負け戦を回避したい   作:洩矢廻戦

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 あれ?続きは土曜のはずだって?馬鹿め3日連続投稿だよっ!
 創作意欲は作者に微笑んだ…禁断の新作投稿"二度打ち"


2話.マラソン・イート・マラソン【弐】

 とりあえず軽く旅をしよう。

 彼女は再び、ぺたんと石の上に座って、そう心の中で決心した。

 

「まずは情報収集…ここはどんな場所で、他にどんな生き物がいるのかとか…知るべきことはたくさんあるしね」

 

 正直、負けという概念は存在しないと言っても過言ではない。

 いくら精神が元一般人だろうとも、今の自分の身体は土着神の頂点、洩矢諏訪子だ。

 それだけではない、何故か今の自分には、最初からミシャグジ様が支配下に置かれているし、坤を創造する力にも不具合はない。

 更には――

 

「お前もいるしね」

『縺ェ縺ォ縺」』

 

 足元で軍隊を成して、カサカサと規律の取れた動きで旋回し続ける百足を見て、彼女は再び笑みを零す。

 偶然入手できた駒だが、これがなかなかどうして、かなり便利な祟り神だ。

 ――そう、()()()

 

「ほら、行ってこーい」

『縺ェ繧薙□縺ゅ▲』

 

 適当にその辺の石を投げ、そして宙高く舞い上がったそれに向け、手を拳銃の形にして、そう命じる。

 すると足元で旋回を繰り返していた、無数の百足たちは一瞬で空へと駆け出して、そして体当たりで石を粉々にした。

 「おぉ~」と、彼女が感心して手を叩くと、百足たちは一斉にこちらに身体を向けて、そして頭を下げて待機した。

 

『縺励c縺ゅ▲』

「いいね。なんだかんだで、君が一番重宝しそうだ」

 

 新たに支配下に置いた…いや、作った祟り神の百足。

 彼らは集団で個、個が集団そのものという珍しい生態を持っている。たとえどれだけ疲弊しようと、どれだけ身を削られようとも。

 集団の中の1()()()()()()()()()()()()、時間経過で数を無限に増やして再生できる…といった、かなり無法の生態をしていた。

 

「でもなぁ…」

 

 そんな便利で強力な祟り神の力を知っても、彼女の顔色は変わらない。

 それどころか「でも…」と、まるで親に不満を漏らす幼子のような、ぷくりと膨れた頬を見せた。

 

「たとえばこういう…」

 

 そう言いながら、彼女はガサガサと、目の前で揺れる木々に視線を向けながら、左手を掲げる。

 しん…そう、突如音が止んだ後、しばらくその体勢のまま硬直、そして数秒後、彼女はぐんっと左手を振り下ろす。

 それと同時に、木々から飛び出す、異形の妖が――

 

『×××!!』

 

 白く、美しい牙に飲まれて消える。

 

「――ミシャグジ様」

 

 バクンッ!

 反撃も、反応も間に合わず、妖の目と意識が再び動き出した時には、既に白蛇の口の中。

 

『~♡!シャーッ…!』

「お疲れ、助かったよ」

 

 もきゅもきゅと口を動かす白蛇の喉を撫で、彼女は満足そうに笑って、そう言った。

 そう、たとえ新たな手数を、祟り神を作ったとしても、この白蛇、"ミシャグジ様"という祟り神の最上位に位置する存在がいれば、他に何もいらないのだ。

 

(まぁでも、ミシャグジ様に頼り切りで…なんとかなるほど甘くはないだろうし……)

 

 そうしてしばらく、口を動かしていた白蛇の口から、紫の瘴気が漏れ出て、その口内から感じた妖力がバッタリと消えた。

 彼女はそれを確認すると、「出して」と白蛇に命令し、そして口内で出来上がった"それ"を、地面に吐き出させて。

 

「…よし、問題なしだね」

 

 地面に転がる、黒と黄が混じる球体を手に取って。

 そしてそれを――

 

「んあ……っ」

 

 飲み込んだ。

 

「っ、むぐ……ふむふむ、今日はべっこう飴か」

 

 ぺろりと、彼女は艶やかに唇を舐めて、その出来上がった球体――名付けて祟り玉を賞味する。

 どういう原理かは知らない。が、これが今の自分にとって、最も目的に近づけるショートカットなのだ。

 そして、握った右手を開いて、前に向かって突き出しながら、命令する。

 

「来い」

『アイッ』

 

 ボコボコッと、目の前の空間が捻じれ、そしてそこから新しく支配下に置いた、祟り神の姿が現れる。

 それは赤子のような、しかし目がくり抜かれたかのような顔と、しかしその下に接合された、もう1人の人間の顔が身体を作っている、おぞましい姿。

 絶句。

 

「…………」

『アーイアイアイアアアアアアアッ!イエ?ハイッ』

「…」

『フルルルルルルルルル…』

 

 ぴちゃん。

 彼女はすぐにサッ…と手をかざして、その祟り神の姿を消した。

 訪れる静寂。そして彼女はスーーッ…と、思い切り息を吸ってから。

 

「…見なかったことにしよ」

 

 そう呟いて、彼女は横に待機させていた、白蛇の頭に寝そべる形で脱力し、移動を任せて、再び祟り神を召喚する。

 勿論、今回呼んだのはあの化け物ではなく、最初に入手した群の百足だ。

 

「やっぱり君はカッコいいねぇ」

 

 空に手をかざし、その腕に纏わりつき、そして身体を擦らせる百足たちを、彼女はほっこりと見守った。

 この数時間のうちに、彼女の苦手意識やその他の価値観は完全に進化を遂げ、この程度ではもはや動揺すらしなくなったらしい。

 彼女は手を広げる。その隙間のできた指と指の間に、身体をねじ込ませ、嬉しそうに鳴き声を漏らす百足たち。

 

『縺ェ縺ォ縺」』

「他の祟り神も見習ってほしいよねぇ?みんな君みたいなら良かったのにさ」

 

 人差し指で、優しく触れるように百足の顎を擦りながら、彼女はそう呟いて足をジタバタさせる。

 しかし直に慣れるだろう。自身の目的のためには、あの戦神に勝つためには、我儘は言っていられない。

 まず、今の自分が最優先でやるべきことは――

 

「戦力の補充…だね」

 

 

 

 


 

 

 

 

 そこは、かつては人が住み、そして栄えていたのであろう廃墟。

 ひび割れた、灰色の壁と、それらを覆いつくすように配置された、数mはあるであろう、巨大な雑草。

 建物もそうだが、時代や世界観の差なのだろうか、"彼"の知識の中にあった雑草とは、あらゆる要素が違っていた。

 ――もちろん、目の前にいる彼らも違う。

 

『××…』

「多いね」

 

 彼女が一歩、廃墟へ足を踏み入れながらそう呟くと、その音に反応して、彼らは一斉にこちらを向く。

 血の匂いだ。それは彼らのむき出しになった牙、いいや、狩りに身を捧げ、血を浴びて飲むその一生が、身に染みたことによる死の気配。

 数はおよそ20。その犬にも似た、狼のように巨大で、そして禍々しい牙を持つ妖怪たちは、侵入者に赤い目を向ける。

 彼らが、一歩前へ。

 

「洩矢の鉄の輪」

 

 手のひらを横に、彼女が腕を突き出すと同時に、重厚な金属の輝きが、妖怪たちの目を照らす。

 鉄輪が回転を始める。そのあまりの速度に、彼女に向かって吸い込まれるような、風の流れが出来上がって、妖怪たちの毛が靡く。

 互いに、まだ動かない。

 

「…………」

『…………』

 

 キィイイイ…

 空気が抉られ、削られ、ぐちゃぐちゃに潰される音が、両者の静寂を誤魔化すように響き渡る。

 まだ、互いに動きはない。

 

「………」

『………』

 

 じり…

 まだ、動かない。

 

「……」

『……』

 

 土が盛り上がる。

 彼女たちの足が、身体を動かすその予兆を、大地に伝えて支えを作る。

 

「…」

『…』

 

 そして。

 

『…××ッ!!』

「ほっ!」

 

 疾駆。

 その牙を、爪を、妖怪である己の武器を振り上げながら、彼らは駆け出し腐臭をまき散らす。

 だがそれを上回る速度で、彼女は横に飛び出し、その背後に回る。

 

「あーらよっと」

 

 下から掬いあげる形で、彼女が腕を振り上げ、そして手に持つ鉄輪を、目の前の妖怪の、無防備な背中に向かって投げた。

 

『×!?~~~ッ!×!!』

 

 ギャリギャリと、骨と肉を抉る音が鳴り、そして鉄輪が更に、食い込んだ妖怪の背中で、回転する速度を上げる。

 血飛沫が、悲鳴が、残酷なその処刑は続き、そして数秒後に、ザンッ!と、その身体を両断した。

 しかし、まだ終わらない。

 

「ま~だまだっ」

 

 彼女は再び行動を開始する。

 左手に残る、もう1つの鉄輪を構え、そして妖怪の身体を両断し、飛び出したばかりの鉄輪に向けて、それを投げた。

 妖怪の身体を挟み、少しだけとはいえ、速度の下がった鉄輪に、新たに放たれたばかりの、鉄輪の持つ初速が含む、最高速度の運動量が加算される。

 ――それは、まるで蛇のようだった。

 

「そ~れそれ」

 

 物理法則を無視した、有り得ない軌道を描きながら、鉄輪たちは空中を駆けていく。

 1匹、また1匹と、最初の犠牲者と同じように、身体を両断されて絶命する。

 足を、腕を、口から裂かれる形で、その圧倒的な蹂躙が成された。

 そうしてしばらくの間、彼女は自身の身体の周りに、まるで人工衛星のように鉄輪を配置、回転させて。

 それらを仕舞って、戦いを終わらせた。

 

「ふふん、鉄輪だけでも大したもんだね」

 

 ぐーっと両腕を伸ばして、終わった戦いの余韻に身を浸らせながら、彼女は目の前の死体の群れに、目を向けた。

 

「さてさて、今回のピックアップは~…」

 

 そしてすぐに、右手をかざして、その出来上がった妖怪たちの死体に、ある変化が訪れた。

 既に絶命し、そして妖力を失った哀れな骸たちが、たちまちその姿を変え、あの奇妙な色を持つ、味の変わる祟り玉へと変化した。

 これは、彼女が試行錯誤を繰り返した結果、わかったある仕様だ。

 最初に百足を取り込んだ時とは違い、今回は白蛇の…ミシャグジ様による瘴気ではなく、自身の神力と瘴気のみで作ったこの祟り玉。

 おそらくは実力差によるものだろう。あの時、百足と自分には確かに実力差はあった、だが今回の妖怪と比べれば、まだ実力は近い。

 …それでも微々たる差だが、しかし今回の妖怪は、あれよりも更に、自身と実力差が離れている。

 故に、こうして今回は彼女だけで、祟り玉の生成を行った。

 

「んじゃ早速…」

 

 まずは1つ、それを手に取って――

 

「ぅ…っ」

 

 ごくんと、飲み込んだ。

 

「うーん…りんご?いや梨?なんか歯ごたえというか…喉を通る感触が…」

 

 もきゅもきゅ。

 既に飲み終えた後の、空っぽになった口内の余韻に浸りながら、彼女は自身の喉を摩りながら、そう呟く。

 そしてもう一度、隣に転がっていた祟り玉を拾って、それも――

 

「んぐ…」

 

 飲み込んだ。

 

「おっ?これはサイダー…?喉がパチパチして…あと冷たくて…」

 

 再び賞味。そして感想を呟き、彼女は残る十数個もの祟り玉を、自由になった両腕と手で、器用に一か所に集める。

 その間も、かつて"彼"も好きだった現代飲料の味を想起し、ニコニコと笑みを零しながら、その作業を終わらせた。

 

「さ~てさて、じゃあ…」

 

 目の前には、一か所に纏まって置かれた数十の祟り玉。

 しかしそれらが皆、赤だったり黄、緑に青といった色とりどりな見た目で、そしてどれもが食欲を唆る存在感を放っていた。

 彼女は、両手を合わせて。

 

「いっただっきまーす!」

 

 それらを、全て取り込んだ。

 

 

 

 


 

 

 

 

 旅と言っても、それは別に心躍るとか、ワクワクするといった感情とは無縁だと、彼女はそう思っていた。

 しかし違うのだ、ここはあの、アスファルトと電線に囲まれた、現代の汚れた景色とは違う。

 自然、文字通りの、人の手がかかっていない、古来より存在していた、地球という大地そのものの美術品だ。

 

「あ、ミシャグジ様。もうちょい高く上がって」

『シャーッ』

 

 器用に白蛇の額に座り、そして上手くバランスを取って、片足で「よっ!」と腕を伸ばして、木の上にある、目的のものを見る。

 そこには、数十cmもの巨大な単眼と、そして木の枝にしがみつく様に、触手を絡ませる1匹の妖怪。

 妖怪が彼女の接近に気づき、そして警戒の音を上げようとする前に、それが始まった。

 

「ほいっ」

『アイエエエ!』

 

 ギギュウと鈍い音を立てながら、単眼の妖怪は一瞬で、白く輝く祟り玉へと変化し、そして彼女の口に放り込まれる。

 ぷっくりと膨れた頬。そして彼女は両手で口を押え、首を上に、背を仰け反らせながら、ごくんっ!と、それを飲み込んだ。

 

「うめうめ…今回はバニラ?飽きがこないのはいいねぇ」

 

 ぺろりと唇を舐め、そして白蛇の頭にドサッと倒れ込みながら、この優雅な旅を楽しんだ。

 木々を見る、空を見る。そうして道中で、たまに出会う妖怪を祟り、そして自分が飲み込んで支配下に置く。

 順調だ、順調すぎるくらいだ。だがそれでも不安は消えない。

 

「ま、この程度で全盛期の神奈子を倒せるわけないか…」

 

 技術も、能力の規模も、相性もそうだ。

 あの戦神、しかも全盛期の、列島を制圧せんと猛り狂う、八坂神奈子という宿敵には、これでは遠く及ばない。

 だが、勿論勝機はある。

 

「八坂神奈子単体もそうだけど…私は"勝てば"いいんだから、戦争に」

 

 戦争とは、質以上に数が全てを決めるものだ。

 たとえ相手が人知を超えた武将だとしても、その配下を、民を全て制圧し返せるほどの、圧倒的な数の軍隊がいればいい。

 それこそが神話戦争。たとえ神だけが残ろうと、それを恐れる民がいなければ、全てが無に帰すのが無常なこの世界の法則。

 だが、彼女は違う。

 

「だからといって、タイマンを諦めるほど甘くはないよ、私は」

 

 ――両方だ。

 数も、質も、そして他ならぬ己の実力の全てを使い、そして勝って未来を変える。

 どうせなら徹底的に、祟り神として民に信仰され、そして取引に応じるといった甘えは、今の彼女にはない。

 必ず勝つ、それだけだ。

 

『シャーッ!』

「ん?どうした?」

 

 そして突然、動きを止めて前方の方に、白蛇は視線を向けて、目を細めていた。

 白蛇のその様子に疑問を感じて、彼女は同じように身体を、顔を起き上がらせながら、視線をそちらに向ける。

 ――兎がいた。

 

「あら可愛い」

 

 思わず、といった感じで零れた言葉。

 しかしそんな呑気な様子も、目の前の光景の全容を把握した瞬間、すぐに消え失せた。

 可愛らしい1匹の兎。しかしそれを追う形で、その後ろから巨大な影があった。

 

 ――妖気。

 

 しかもこれは、今まで見た中でも一番強大なものだ。

 単純な妖力だけなら、あの最初に出会った百足とは比べ物にならない。

 直感でおよそ10倍。村どころか、下手をすれば国相手でも戦えそうなほどの、その暴力的な実力の気配。

 

「…っと、なるほど。第一関門が訪れたってワケ?」

 

 笑う。

 そうだ、たとえどれほど雑魚狩りを、収集活動を繰り返すのが楽しくとも、これだけでは飽きが来る。

 口直しの、気分転換のデザート。それが目の前にやって来た。

 

「…いいね、さっさと取り込んであげよう」

 

 ぺろり。

 彼女が漏らした言葉と同時に、舌がその食欲を表現するように、彼女の唇を舐めた。

 

 

 

 


 

 

 

 

 己は絶対の強者である。

 その妖怪にとって、今では当たり前の自己評価、それが固まったのは、一体いつからだっただろうか。

 記憶を遡る。赤と白の、腐臭と共に満たされる食欲と、そして耳に残る捕食された弱者の悲鳴。

 妖怪、いや。今やその力は自然発生する妖怪の範疇には収まらず、もはや土地に根付く、神擬きのレベルにまで至っていた。

 むき出しとなった歯茎。しかしその圧倒的な咬合力は、木や石では収まらず、あらゆる鉱石を噛み砕く。

 

 己は強者である。

 

 この、丸太のように太い腕で、あらゆる弱者を叩き潰した。

 飛び散る臓物、そして鮮血。だがそれらが織りなす光景が、とても美しくてたまらない。

 そして、その恐れが、更に自分を強者にする。

 

 強者は、弱者を食いつぶす権利がある。

 

 そう、強者は弱者を弄ぶ。

 弱者は強者に、何も抵抗できずに弄ばれる。

 

「――こんにちは~」

 

 そう、弱者は強者に。

 

「私と、遊ばない?」

 

 ――何も、できない。

 

 

 

 

 

「ささっ、いつでもいいよ?」

 

 そう、無防備に両腕を広げて、そして首をこてんっ、と傾げて彼女は言う。

 坤を操る力も、そして武器である鉄輪も、今の彼女は、使う気がなかった。

 今回は、慣らし運転だ。

 

『おン?』

 

 その様子に、目の前の妖怪はまず、そう声を漏らして、そしてすぐに目の色を変えた。

 柔らかく、そして触り心地の良さそうな肌。芸術品のように、透き通って輝く金色の瞳と髪。そしてすらりとした、長く綺麗な足。

 それらが、無防備にも目の前で。

 

『お、オおオオおム、おミャエ。美味、ウマそ…』

 

 溢れる食欲。そしてそれを表現する涎が、ぽつりと地面を濡らす。

 その間、両者は視線を向けあい、そして動かずに観察を続ける。

 ――しかし、すぐに均衡は破られた。

 

『――あア"ォおッ"!!』

 

 ばちゅん!そんな水が膨れるような音が鳴り、妖怪の背中から、無数の触手が展開された。

 それらがたちまち、目の前で1本の槍のような、先端に向かって鋭くなった形に練られ、そしてそれに妖力を籠め、放たれる。

 正に、それは絶命の一撃。

 

「よっ」

 

 ひらり。

 目の前の妖怪が声を発し、そして触手を展開したと同時に、彼女は後方に飛躍すると同時に、身体を横に捻る。

 まるでスケートリンクの上にいるかのように、イナバウアーの要領で身体を反って、触手が服に触れるかどうかの、そのギリギリの距離のまま回避をした。

 そしてその一瞬の間で、彼女の力強く握られた右手、それが開かれ、黒い光が溢れ出す。

 

 ――神力。

 

 妖怪がその気配の正体に勘付くと同時に、ギギュウと圧縮された黒く光るそれが、再び形を変化させる。

 そして妖怪に襲い掛かるのは、黒から白へ、だが変化したそれは、妖怪にも負けない見た目をした化け物だった。

 前方に飛び出た、一回り大きな鼻、老人の顔に角が生えたような、アンバランスで不気味な頭部と。それらを支える、団子のように連結された、球体のような腹部。

 その、角の生えた祟り神が狙いを定め、妖怪の腹に向かって突進し、そして穿とうと更に加速する。

 

『おア"がッ…!』

 

 その、あまりの衝撃に苦痛の声を漏らし、そしてなんとか両腕を間に挟むことで、妖怪は防御に成功した。

 だが祟り神も負けずに、更に力を込めて、腕ごと腹を貫かんと身体を捻る。

 

『キ、さマ…!』

 

 その貫通力に顔を歪ませ、そして邪魔者を始末しようと、その祟り神に怒りを向けた瞬間だった。

 ――ポコッ

 

『イイイイイセンザ!アリ…』

 

 地面から生えた、新たな祟り神。

 "参"と刻まれた巨大な単眼。そしてそれらを支えるように、地面から飛び出る触手たち。

 妖怪が、その単眼の祟り神と目が合った瞬間、身体が脱力してしまう。

 

『…ッ!』

 

 バクンッ!と、最初から突進を続けていた祟り神が、これを機に更に加速、そして腹を抉るに至る。

 飛び出す鮮血、そして単眼の祟り神と、今負ったダメージによる全身の脱力。

 それらが合わさり、膝を折り、前へ倒れそうになった瞬間。

 妖怪は、それを見た。

 

「…ロックオ~ン」

 

 手を拳銃の形にして、それを自分に向けながら。

 そして、楽しそうに笑う彼女。

 

「――ばーんっ」

 

 その言葉と同時に、彼女の指から大量に発生する百足の祟り神。

 指揮に従い、規律の取れた動きで空中を疾駆し、倒れ込む妖怪の頭を、無常に齧り、破壊する。

 そうして、一気に絶命状態となった、その妖怪の死体を、彼女は笑いながら見て。

 

「さて、お味はいかがかな」

 

 ズズズ…と、かつて恐怖をまき散らした、元強者の妖怪は、白とピンクに輝く、可愛らしい色合いの祟り玉へと変化する。

 彼女は、そうして手のひらに移動する形で変化を終えた、妖怪のことを思い返しながら、口を開けて。

 

「ん…っ」

 

 ごくんと。

 

「…いいね」

 

 飲み込んだ。

 

 

 

 


 

 

 

 

 突進力に優れ、対象を貫くまで止まらない祟り神。

 "目が合っている間限定"で、対象の動きを阻害する祟り神。

 そして、今取り込んだ――

 

「来い」

『…ッ!』

 

 でろり。

 彼女が命じると同時に、目の前に現れた空間の亀裂。そしてそれをこじ開けるかのように、顕在化した巨大な手。

 その巨大な手が、目の前の隙間に指をねじ込み、そしてそれを引っ張る形で、中に隠れる祟り神の姿を見せる。

 広がる空間の隙間と、そこからこちらを覗く、血涙を流す巨大な目。

 

「ほお~?悪くない」

 

 しかしそれでも、彼女のキラキラとした笑顔は変わらない。

 それどころか「次はどんなのが来るかな」と、新たな犠牲者のことを考え、楽しみを抑えきれていない。

 その笑みは、どこまでも純粋に輝いていた。

 

「でだ、君は可愛いねぇ~」

 

 ぎゅーっ!と思い切り抱きしめながら、彼女は近くの木に隠れる形で、怯えていた兎を手に取って、そう呟く。

 一方兎の方はというと、今目の前にいる土着神が、どれほどの高みにいる存在なのかを理解し、そして不快にさせるのは不味いと、無抵抗のまま、されるがままになっていた。

 

「か~わいいねぇ?」

「……………………」

 

 足元の方で、カサカサと動く百足たちを見ながら、兎は「早く終われ」と願っているかのような。

 死んだ目をしたまま、彼女に抱かれていた。




偽諏訪子「塵も積もれば…って言うでしょ?低級の祟り神も、私の神力で強化し、群れを成して指揮に従えば…」

 的なことをやらせたい。

呪術廻戦はどこまで知ってる?

  • 最新の単行本(人外魔境)まで
  • アニメの内容(渋谷事変)まで
  • あまり知らない(領域展開は知ってる)
  • 全部わかる
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