【本編完結】諏訪子様になった、負け戦を回避したい   作:洩矢廻戦

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 危なーい!(酔っ払いのダル絡み)


21話.タタリサバイバー!!舞い上がれ!!

「おい、次」

「はい今!」

「酒が足りなくなってきた!蔵からもっと出してこい!」

「は、はい!」

「魚が足りん!誰か予備のやつ持ってないか」

「しょ、少々お待ちを!」

 

 天魔の屋敷、そこから少し離れた位置にある専用の調理場。

 火が絶えることなく揺れ続け、鍋やまな板、魚肉や獣肉といったあらゆる宴会料理の材料がある。

 それぞれ役割分担をし、肉を捌く者とそれを調理する者、そして盛り付け配膳する者。

 突如開催が決まった宴会、勿論未だ困惑したままな者もかなりの数いる、だが今はそれどころではないのだ。

 理由はどうあれ過程はどうであれ、結果天魔は宴会を受け入れ、自らもそれを求めている。

 ならば理由はそれでいい、少なくとも今ここにいる天狗たち…誅殺を目論む大天狗とは無関係の彼らはそう思っている。

 

「はぁ…」

 

 宴会が始まってから数時間ほど。

 流石に最初ほどの食事は用意する必要もなく、配膳の流れも緩やかに衰退していった。

 最初こそ間違えて自分の指を切ってしまいそうになるほどの忙しさ、そして絶え間ない仕事の雨であった分、この休憩が愛おしい。

 

(めぐむ)か」

「…?楓さん?」

 

 一応上司に小言を言われないよう、気配を殺して隠れたつもりだった。

 最初こそ「バレたか!?」と滅茶苦茶に焦ったものの、よく聞けばそれが聞き慣れた者の声であることに気づき、安堵のため息を零す。

 そこにいたのは、あの見慣れた無表情でこちらを見下ろす白狼天狗の楓。

 

「驚かせないでくださいよ、心臓に悪いなぁ」

「そうか、すまない」

 

 相変わらずだなぁ、龍はそう思う。

 別に態度が悪いだとか、そういう話ではなく…ただ抑揚がないのだ。

 天魔とは似ても似つかない純白の髪と翼、天魔を崇拝する他の大天狗からも、嫉妬の目で見られるのはいつものことだが、そんな時でも彼は変わらない。

 ずっとこの調子で、ただ静かに天魔に仕え、彼女の命令を聞いている。

 ただ仕える。言葉にすれば簡単ではあるが、それがどれほど難しいことかは想像に難くない。

 

「お前はどう思う」

「えっ」

 

 実質的とはいえ、天魔は山の頂点から降りた。

 未だ天狗たちにとっての頭は彼女だが、近いうちにその認識も変わるだろう。

 純然、不吉、覇道…どこまでも自分中心で、透き通った子供心のようなその在り方。

 そしてそれに見合わぬ莫大な瘴気、まさに圧倒的邪悪。

 大百足など取るに足らない、あれが本気で戦うような相手といえば、それこそ――

 

「…正直、納得ではあります」

「だろうな、私もお前と同じ立場ならそう思う」

「……」

「まぁ絶対口にはしないが」

「ぐっ」

 

 どこに耳があるかわからん。そう付け足してから彼は空を見上げる。

 快晴…とまでは行かないがいい天気なのは確かだ、しかし肝心の星は雲に隠れてよく見えない。

 

「私は知っていた、知っていて支えられなかった」

「……え」

 

 その時の楓の表情は、何かを悔やむかのような悲痛な顔。

 両手がギリギリと音を鳴らし、血が滲むほどの力を込めて続けた。

 

「あの人は未来を見る、その未来では情けないことに私も死んでいた」

「……それは」

「仕方がないと、あの人もそう言ったさ」

 

 楓にとっての天魔とは何か。

 昔なんて言葉では到底足りない、あれは始まりと言ってもいい、それくらい過去の…自己を作り上げた瞬間であった。

 

「だがそれで納得できるほど、心というのは優しくない」

「……」

 

 いつしか、いつの間にか彼女に仕え、そして首を垂れて座していた。

 そこからずっと、ずっと長い間彼女と共に、この天狗の山と組織の移り変わりを見守ってきた。

 一緒に、見守ってきたつもりだった。

 

「あの人だけがわかっていた、あの人だけが苦悩していた、私が惰眠を貪っている間も…あの人はずっと苦労していたというのに」

「それは…」

 

 仕方のないことなんだと思う。

 だが龍に今の楓の、その自己嫌悪と後悔を癒す術はないのだ。

 自分と天魔が違うように、楓もまた同じく違う存在であるから。

 わからないから、違うからその心に寄り添えない、だからただこの叫びを、悲痛な言葉を受け止めることができない。

 

「…すまない、言葉はいらない、少しだけすっきりした」

「…そうですか」

「あぁ、それでいい」

 

 本当に大丈夫だからと、楓は自虐的に笑って視線を戻した。

 龍は未だわからない、いつか自分も彼女の苦労を、楓の辛さを受け止められる力を得られるのか。

 そしてそれはいつになるのか、本当に自分にもできるのか。

 

「……ん?」

 

 その時、楓の白狼天狗の証である耳がピクリと動いた。

 龍は何も感じられなかったが、楓のその反応を見て何かが起きたのか、一握りの不安を胸に問う。

 

「どうしました」

「いや、これは…」

 

 その時の楓の表情。

 それはまるで理解が及ばないと、理解したくないと叫んでいるかのようなもので。

 ――その数秒後、天魔の屋敷は吹っ飛んだ。

 

 

 

 


 

 

 

 

「危なーい!」

「ぐぇ!」

 

 ひゅーいひょん!

 その一連の動きは、まさにそんな感じの軽やかさであった。

 まるでどこぞの怪盗三世お得意の、軽やかな跳躍からの抱き着き。

 てゐは顔を顰めて。

 

「見て見ててゐてゐ!これ!なんだと思う?」

「離せって、酒臭いったらありゃしない」

「なんだと思う?ねぇ見て見ててゐてゐ」

 

 諏訪子は無視して、再び手に持つそれを押し付け。

 

「だから離れろって…それに何の面白みもない会話をいちいち続けようとは」

「てゐてゐ見ててゐてゐてゐてゐてゐ」

「だーっ!うるさいッ!見りゃ分かるだろ魚だ魚!」

「え、どう見ても魚じゃん…何を今更…視力下がった?」

 

 てゐは割と本気で殴った。

 バチン!ピシャン…まるでそれは鞭のように、まるで罪人を咎めるかのような鋭さと重さで放たれ、その轟音に一同がビクン!と肩を震わせる。

 諏訪子は叩かれた頭を…ではなく膝を抱えて。

 

「オアアアアアアッ!膝小僧がァ!弁慶の泣き所さんがァ!!!」

 

 思わず耳を塞ぐレベルの叫びと共に、器用に片足でぴょんぴょん飛び跳ねて涙目になる。

 うるうる…その瞳に溜まった涙が限界に達し。

 再び絶叫。

 

「うわああああああ先生!てゐちゃんが私のことぶちましたァ!先生ーッ!!!」

「うむ、どうしたのだね洩矢くん」

 

 …私は何を見ているのだろうか…?

 おそらくこの言葉に共感できるのは、マエリベリーだけでなく他の全員が、それこそ人間や天狗の全てが該当することだろう。

 突如泣き出したと思ったら表情を変え、先ほどまでの余韻もクソもない、まるで二重人格のごとしその有様。

 ぴょんぴょん飛び跳ね、右へ左へと立ち位置を変えながら、彼女は寒い一人芝居を続ける。

 

「ひぐっ…先生!私はあの子にぶたれたんです!あの龍を継ぐ男に…」

「うむ、どうしたのだね洩矢くん」

「先生!黒ペン赤ボールペン植え大会準優勝、伊達男美男子一番隊隊長のイケパスタ君の友達の知り合いの友達!あなたならばきっと!」

「うむ、どうしたのだね洩矢くん」

「ひぐっ…あんなの痛ぇよ…辛ぇよ…」

 

 右に立った時は泣きながら訴え、左に立った時は教師のように。

 そして途中で膝を撫でながら涙を流し…

 

(あ、弁慶の泣き所ってそういう…)

(もう好きにしてくれ…)

 

 というかあれで弁慶を演じてるつもりなのだろうか、そもそも教師のボキャブラリーが貧弱ってレベルじゃなくないか。

 マエリベリーはいい、弁慶やら教師やら少しは意味を理解し読み解くことができるのだから。

 だが現代知識のないてゐ、何より天狗たちは――

 

「…………」

(滅茶苦茶引いてるじゃないの…)

 

 下手をすれば、今まで以上の恐怖が集まっているのではなかろうか。

 皆が言ってしまえば…理解の及ばぬもの、気色の悪いものを見るような空気を宴会場に充満させていた。

 マエリベリーはとにかく、早くこの地獄が終わることを祈るばかりではあるが――

 

「はいじゃあ洩矢諏訪子演出!M-1グランプリを開始しまァす!」

「え、あちょ…」

「おバカ!」

 

 哀れなり、巻き込まれた一般通過天狗。

 おそらくは厠から戻ってきたついでに、軽い口直しも含めて料理を堪能しようとしていたのだろう。

 あっという間にそれを奪われ、お盆のみをひっくり返してから右手を突き上げて再び寒い一人芝居が始まった。

 マエリベリーが立ち上がるも既に遅し。

 

「ハイ問題ィ!」

「はいはいはいはいはいはいはい!!!」

「お手付きには…死のペナルティね!やっちゃえ諏訪子!」

「そげぶっ」

 

 突き上げた右手に話しかけながら左手でお盆を猛連打、そして自分で自分を殴る有様である。

 勿論この時も彼女は本気で演じているつもりなので「身体張って演技する自分凄い」としか思っていない。

 アホである。

 ぷるぷると身体を震わせながら、再び豪快に笑いだし――

 

「はっはっは!友達の友達もまた友達…人と人は無条件で超親友(ブラザー)なのだよ洩矢くん」

「あ、あの先生が帰ってきたわ」

「おい!あんたも戻ってこいマエリベリー・ハーン!」

「先生…私やるよ、このM-1グランプリを勝ち残ってみせるよ!」

「魅せてみろ!洩矢諏訪子!!!」

「だああああああああああッッッ!!!!!」

 

 てゐの叫びが痛ましい。

 マエリベリーは既に理解、学習という名の適応…というよりは諦めで完全に頼りにならない。

 天狗たちも論外である、ただ唯一マシだと言い切れるのは、この寒い一連の流れが自分だけ…つまりは諏訪子のみで行われていることか。

 もし自分たちがこれに巻き込まれたら…恐ろしくてそこで考えるのをやめた。

 

「へっクイズ番組でわざと間違えるようなマネはしないよ?どこぞのアホと違ってね」

「ククク…酷い言われようだな…事実だからしょうがないけど」

 

 突っ込む元気すらなくなったてゐの前で再び、諏訪子による一人演劇が始まった。

 

「さぁ、闇のゲームの始まりだZE☆」

「野郎ぶっ殺してやらぁ!」

「はいスタートォ!」

 

 

 

 

 

 再び展開されるステージ、それはまさに極楽浄土。

 断崖絶壁の野外の中、彼女は己の内に潜む悪の感情と戦っていた。*1

 彼女こそもう一人の洩矢諏訪子、かつて第74回全国土着神クイズッスコンプリート大会にて優勝を搔っ攫った、この世で最も心の強ぇやつである。*2

 彼女は逆立つ髪を更にかき上げ、その顔を邪悪に染め上げる、その悪っぷりから別名ダークスワイト、ちなみに闇〇戯とは一切の関係がないし何ならオール〇イトとも無関係。

 いつの間にか装備していた黒の目隠しをずらしながら、見下すような姿勢で。

 

「バカのフリしたバカで結構…読者はエンタメを求めているのさ…引っ込んでな、三下が」

「それ毎回自分でセットしてんの?整髪料まぁまぁかからない?」

「ワックスis正義さ」

「問題行きます!」

 

 両者そこまで、そして互いに悟りの境地に至った賢者の如く。

 その眼は曇りなく、ただ冷静に目の前に置かれた赤飯を見据え、そして司会のシカイ・スワコがごほん!と喉の調子を整え。

 

「問題!現在は誤った考えであるが、当時は星の中心からのある半径の球面内では曲率が無限大になり…」

「はいピンポォン!」

「はいダークスワイト様!」

 

 懐から恵方巻を取り出したダークスワイトが、目の前に置かれたチャーハンとパスタにそれを突き立てると同時に叫ぶ。

 その衝撃でチャーハンが吹き飛び、その弾幕は隣に立っていた諏訪子の眼球に直撃した。

 凄まじいパラパラ具合である、きっとにんにくチューブを惜しみなく使い、フライパンで死ぬほど揺すりまくったのだろう。

 まさに熱砂と呼ぶべきそれに苦しむ諏訪子と、勝利を確信し笑うダークスワイト。

 

「ホアアアアアッ!目がァ!目がァアアアア!!!!」

「『カール・シュヴァルツシルト』ッ!勝ったッ!『諏訪子様になった 負け戦を回避したい』完!!」

「あ、不正解です」

「!?」

「目がァアアアア!!!!!」

 

 いつの間にかポケットから取り出したサハギン人形に頭を埋め、号泣しながら転がりまわる諏訪子。

 ちなみにダークスワイトはといえば、自信満々のその答えが不正解だったことがよほどショックだったのか、膝をついて静かに吐き出す。

 

 ――馬鹿な、ありえん…この私が…ッ!?

 

 絶対的強者、それ故の慢心。

 肉体を鋼にしようと、心に戒めの楔を打ち込もうと決して克服することのできない、ほんの一握りの慢心。

 それが、その甘さという悪魔が脳裏で囁く、己の失敗を、己の失った価値を。

 

「嘘だ…そんなの嘘だ…!」

「いや普通に不正解なんですってば」

「この私が…この私が…!そんなの嘘」

「あ、初代マリオギャラクシー発売はもう17年前だよ」

「嘘だァアアアアアア!!!!!」

 

 おしぼりで顔を拭きながら、耳元で囁く諏訪子。

 広大な宇宙ステージとオーケストラBGM、そして優れたグラフィックと心温まるストーリーの数々。

 かつて感動と喜びを与えてくれたWiiの名作スーパーマリオギャラクシーがもう…17年前であると。

 思い出す…あの心躍るチュートリアルを、涙すら流したクッパ軍団の規模のデカさを。

 そして思い出す…あのチコたちとの別れを、崩れ行くほうき星の天文台と、次へ繋がる希望とエンディングを。

 フライングマリオはとてもよかった、ストーリーガン無視でずっと飛び回っていたのは懐かしい。

 あらかじめクリスタルを割ってから制限時間ギリギリにそこにぶつかって飛行時間を延長――

 

「あ、おしぼりで顔拭くの滅茶苦茶おっさんみたいですね」

「マジ?じゃあやめるわ」

 

 銀河の思い出にトリップしているその隣。

 爪楊枝で歯を掃除していた諏訪子は、シカイ・スワコの言葉を最後に今後一切、おしぼりで顔を拭くことをやめたという。

 古事記と角川古語大辞典にすら載せられるその歴史的瞬間を前に、観客席にいたチャーハンの作り手である加茂なすは泣いた。

 その微笑みはまるで仏のようであり、そして極楽浄土へ行くことが約束された元罪人のようでもあった。

 これこそが悟り…否往生の一歩手前であり本願、祈りは届き仏は我を見捨てなかった――

 そんな加茂なすのことを完全に無視して、諏訪子は得意げに笑って。

 

「フンッ気づくのが遅いよ、私なんてうどんに触れただけでこの問題の異質性が分かった」

「香川県民でいらっしゃいますか?」

「やっぱり答えはシュワルツシルト半径だよねパパ」

「正解ッ!」

 

 額にバーコードを刻み、その上にマジックペンで十字の傷跡で上書きし終えた諏訪子。

 いつの間にかあの壺装束ではなく白コートに着替えており、更にそこには先ほどぶちまけたパスタソースがべちゃべちゃにくっついていた。

 よく見ると黄色い粉末も混じっているため、トマトソースだけでは物足りなかったのだろう、大量のチーズの痕跡がそこにあった。

 問題に正解し、その悪魔のように魅惑的でかつ恐ろしい、だが芸術作品のように均衡のとれた美少女顔が、みるみるうちに真っ青になっていく。

 その原因は、諏訪子の背後に立つ2mほどの巨大な謎の男であった。

 

「私は香川県警ポリス、諏訪子をR国に連行する」

「え、何したんすかあんた」

「違う!冤罪だ冤罪!私今日はまだプレイ時間オーバーしてないもん!」

「…()()?」

「あ」

「言い訳無用」

「いやあああああッ!!!」

 

 ガシッと一切の緩みなく首を絞められ、引きずるように諏訪子は連行されていく。

 きっと彼女はその身に罰を受けるだろう、最良とは言えないがシ〇リア送りならばまだマシであったろう。

 だが彼女が連れていかれるのはR国つまりはそういうことである。

 ()()()が動き出す――!

 

「冬の海はさぞ冷たいだろうねぇ」

「いやああああああ待って待って待って!まだ今日のAP消費してないの!私まだ夜五条育成終わってないの!!」

「何ファンパレやってんすかあんた」

「お願い!あとドラゴンスパインの探索と樹脂消費もまだだし符玄の遺物周回もまだなの!ピノコニーも早く行きたいしあとついでに今月の覇者の塔もまだ……」

「滅茶苦茶ゲームやってんじゃん!!香川なのに何考えてんだあんた!?」

 

 ――ピンポーン!

 その時、諏訪子とシカイ・スワコの両者がその音の発生源に視線を向けた。

 するとなんということだろう、先ほどまでマリオギャラクシーの話をしていたからか、どこからか取り出した当時のWii本体とテレビでマリオギャラクシー2をプレイしながら、彼女は先ほど諏訪子が捨てたおしぼりを足の先で押していたのだ。

 ニヤリと笑って。

 

「――『シュワルツシルト半径』」

「せいかーい!」

「はぁ!?ふっざけんなよアァン!?ズルだろノーカンだろ!」

「へっばーか!お前の父ちゃん目医者~」

「何が悪いんだよ!」

「はいじゃあ第二問でーす」

 

 再び諏訪子たちは真っすぐに、目の前に広がる景色に意識を張り巡らせる。

 シカイ・スワコの言葉と同時に、まずは赤色の巨大なパネルが空からガタコンッ!と建付けの悪いドアのような音を立てて落ちてきた。

 同時にズズズ…とその左側、地中からモコモコと対となる青色のパネルが生えて。

 

「次の問題!さぁ突撃してください!」

「へ…こんなの」

「楽勝すぎるね」

 

 セグウェイに乗り勝利を確信する諏訪子。

 一輪車を使いその場でサーカス団顔負けのドリフトを見せながら挑戦的に笑うダークスワイト。

 その目前にあるものとは――?

 

『嫌いなのはどっち?(母なら赤、父なら青)』

「楽勝ッ!!」

「らくしょーっ!!」

「おーっと!?答えが決まっていようと即答する時点で色々とアレな話題というのが分からないようです!」

 

 諏訪子は走る、その足で。

 ダークスワイトはこけた、ドリフト芸で体力を消費してしまったから。

 賀茂なすは泣いた、この熱く美しいデッドヒートに。

 セグウェイは飛ぶ、投げつけられたスーパーボールの如く。

 ――諏訪子は走る、その姿には一種の美が宿っていた。

 

「にゃー!」

「ん?」

 

 猫がいた。

 ――国境の長いパネルを抜けると雪国であった。

 

「にゃー!」

「はぇ~すっごいおっきい…」

 

 夜の底が白くなった、信号所にタクシーが止まった、向側の座席から猫がやって来て、来〇亭の前のガラス窓を落した。

 雪の冷気が流れこんだ。猫は窓いっぱいに乗り出す。

 その美しい毛を撫でると、猫はくすぐったそうに身体をくねらせてゴロゴロと喉を鳴らす。

 

「でも私犬派なんだよね」

「キシャーッ!」

 

 剥き出しの肉体、その躍動。

 日本刀すら躱すとされる猫の身体能力が火を噴き、諏訪子の顔面を崩壊させた。

 ぱむぱむ…そんな可愛い効果音はいつしかザリュッ!ゴキャッ!と鳥肌が立つようなものに変わる。

 にやけ面はあっという間に無残なものに、だが猫の追撃は止まらない。

 まるで木管楽器を叩くかのように、そしてピアノを演奏するかのような繊細な動きで。

 爪、肉球…否!これらの打撃は猫にして猫にあらず――

 

「私だよ!」

「お前かよ!」

 

 ダークスワイトである、腕にシルバーを巻いたダークスワイトである。

 鼻血がダラダラと流れる諏訪子、だが目の前にいる猫の正体であるダークスワイトは、心底楽しそうであった。

 生々しく、ボタボタと血が垂れるヤスリを巻き付けたバットを手に、彼女は再びそれを振り上げ――

 

「やったな!?」

「この…!」

 

 咄嗟に繰り出した諏訪子の反撃によって、バットを失い体勢を崩す。

 コンクリートに囲まれた現代社会では決して行えない、純粋たる闘争の本能。

 諏訪子は海に来ていた、目の前にいる闇の化身たるもう一人の己も、慣れない砂と海の上で、試行錯誤をしながら拳を振るう。

 嗚呼!これこそが闘争!これこそが喧嘩!

 

「お返し!」

「やるか!」

 

 あはははははは!

 うふふふふふふ!

 あはははははははは!

 ひゃははははははは!

 

「ああ…本当に…」

 

 楽しい。

 息をするように吐くお世辞でもなく、ただ周りとの和を保つための戯言でもない。

 これこそが純粋な、そしてどこまでも己のため、誰かのために行った結果のそれが。

 

(あぁ楽しい…何年振りだろう、こんなに心躍るのは)

「あっ待ってこれ!」

 

 まるで年頃のカップルのそれのように、互いに水を掛け合い笑っていた空気が終わる。

 両者の視線は海に映る、その先にある液体、()()()()()()()()()()()、海そのもの――

 

「これは…!」

「これって…!?」

 

 甘くまどろむ意識の中、それでもなおハッキリと理解できるその旨味。

 これこそ求めていたそれ、皆が欲しがり涎を垂らす――

 

「「お酒だー!!!!!」」

 

 やってよかった、異世界転生。

 ――やってよかった!

 

「やってよかった、みんなで宴会!」

 

 

 

 

 ちなみにここまでの全てが、諏訪子一人の妄想である。

*1
存在しない記憶

*2
欺瞞である




 何個かのギャグは作者の実体験入ってます

呪術廻戦はどこまで知ってる?

  • 最新の単行本(人外魔境)まで
  • アニメの内容(渋谷事変)まで
  • あまり知らない(領域展開は知ってる)
  • 全部わかる
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