【本編完結】諏訪子様になった、負け戦を回避したい   作:洩矢廻戦

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22話.スワイズム DE タタリサバイバー

 突如、目の前でクイズ大会が始まった。

 一応補足しておくと、諏訪子が先ほどまで経験していたもう一人の自分との戦い、国境を越えた雪国のパネルやらは全ては妄想である。

 そう、妄想である。

 全て妄想の中の出来事、つまり周りから見れば――

 

「あの~…てゐさ」

「聞くな」

「…どうしたらいいのかしら」

「だから聞くな」

 

 詳しく説明すると、あの弾けた妄想世界で諏訪子が行った殴り合いも、セグウェイやら猫との戯れやらも全て一人芝居である。

 つまり現実にいるその他の者たち…てゐやマエリベリー、天狗一同からすれば突如、彼女が見えない誰かに罵声を浴びせたかと思えば位置を変え、再びッ別の誰かに罵声を浴びせる地獄絵図なのだ。

 酔っぱらってるからという話ではない、理解できないし絶対にしたくない領域の話、それが目の前の彼女である。

 茶碗をひっくり返し、徳利を蹴っ飛ばしながら宴会場のど真ん中へ。

 そこで気色悪い動きをしながら「あはは」「うふふ」と笑い声を上げている。

 

 そんな彼女を見て、全員が顔を真っ青にしていた。

 

 最初に鬼酔わせの酒…天狗たちの間では「毒酒」と呼ばれ、医療または妖退治に使われる劇薬を入れようとした大天狗。

 彼に関しては最初の、自身の企みを看破されたと勘違いした時の怯えっぷりに匹敵するどころか、それ以上に今は諏訪子を恐れていた。

 なんというか、神として恐れを集めるのは間違っていないのだが…方向性が駄目なような…そう思うマエリベリーであった。

 

「て」

「聞くな」

「……はい」

 

 少し間をおいてから話しかけるも、こう。

 てゐに関してはもはや、困惑や怒りといった感情なんて残ってはいない。

 もはや考えるだけ無駄と言うべきか、これ以上関わるのすら嫌だと言うべきか…とにかく、諏訪子を見つめるてゐの表情は無表情そのものであった。

 しかし一応、律儀に出された食事は米粒残さず平らげてあるのは、彼女の行儀の良さが垣間見える。

 かく言うマエリベリーも既に食事そのものは終わっているため、詰めるようにてゐに近づいて。

 

「あれどうするのよ…」

「……」

「私だよ!お前かよ!…ひっく、いひひひひひひ…」

「また戦いだしたわよ」

「……」

 

 …いや、本当にどうしようか。

 てゐは先ほどから、この地獄の空気から逃げるように酒を飲みまくっているし、天魔も固まって動きを見せていない。

 しかもあの表情…どうやら予知能力とやらで観察した未来の中でも、今回はぶっちぎりでハズレを引き当ててしまったらしい。

 天狗も未だ衰え知らずの諏訪子の狂気に、複数人が肩を抱き合うように集まってぷるぷると震えている。

 その間も諏訪子は見えないもう一人の誰かを相手に殴り合い(シャドーボクシング)をしているし、自分で自分を殴っている。

 マエリベリーは僅かの希望、残された光に縋ろうと視線を横に――

 

「うーっあたいはさいちょ…」

「最強でしょチルノちゃん」

 

 ――チルノも酔っていた。

 飲んでもいないのに酔っていた、酒気だけでベロベロになっていた。

 

「~っ、うぅぅぅ…」

 

 両手で搔きむしるように頭を押さえる。

 もはや希望はないのか…そう諦めのため息を一つ。

 てゐもその動きに連動して更にもう一杯、流し込むように酒を飲んでいた。

 大妖精は変わらず健気で、その姿だけが今唯一の癒しであった。

 正直かなり助かる、この異様な雰囲気の中で流されず、しっかりと自分を確立できている者は精神の清涼剤となる。

 だが不思議なものだ、こういう時こそ普段通りでいそうなチルノが酔っぱら――

 

「…ん、待って?」

 

 待て。

 

「…妖精ってそんな簡単に酔っぱらうの…?」

 

 そもそも神である諏訪子が酔っぱらうのだ、妖精であるチルノも例外ではない。

 そうだ、実際に他の天狗たちも酒を飲んで…

 

「……あれ」

 

 大天狗も、その他大勢の天狗も。

 

「…待って…!」

 

 大妖精も、てゐも。

 皆酒を飲んで、酒気に当てられているはずなのに――

 

 そもそも、今自分は何かを忘れてしまっているのではないか?

 

 いやそんなはずはない…そう断言したいが状況がそれを許してはくれない。

 この異質な雰囲気に囲まれた中で、無意識のうちに自分も何かが狂ってしまったのではないか。

 眉唾ではあるが、確かに今。

 ――無意識による空白。

 

「…!まさか!」

 

 咄嗟に身体に鞭打って、最悪の予想を防ごうと立ち上がる。

 ――マエリベリーの視線の先、諏訪子の手。

 

「っ!駄目っ!」

 

 タイミングが良すぎたのだ。

 何故あのような時、何故先ほどまで目立っていなかったというのに、何故諏訪子と同じタイミングで、チルノも酔っぱらったのだ?

 てゐや天狗を見れば分かる、人外は酒に対する耐性がある、だがそれはあくまでも基本的にであって。

 人よりも高く、しかし他の人外と比べれば耐性が低い…そう考えれば辻褄が合うのだ。

 酒に弱い、諏訪子やチルノが酔っぱらった真の原因、それは――

 

 

 

 

「それを飲んじゃ駄」

「お酒だー!」

 

 床に転がる徳利の一つ。

 遠くにいるはずのマエリベリーですら、すきま風によってこちらに漂うその酒気に吐き気すら覚えるそれ。

 大天狗が逃げるように避難した際、床に落として中身が半分以上零れたその酒。

 それは、奇しくも大天狗の望み通り諏訪子の口に――

 

「っく…げぷ…」

 

 一気飲み。

 半分とはいえ一気飲み、しかも匂いだけであの泥酔っぷりだったのに、更に駄目押しでだ。

 天狗たちは先ほど以上に困惑した、それは奇しくも自分たちの企みが成功したから…というのもあるが諏訪子の反応だ。

 ごくごくとこちらにまで聞こえる程の気持ちのよい飲みっぷり、だがそれが数回響いてから、突如。

 

「………………」

「…諏訪子?」

 

 グラッ…

 

「…」

 

 ビターン!

 

「はうっ」

「諏訪子!?」

 

 気絶した。

 見るも無残な泥酔っぷり、顔どころか全身を真っ赤にして、仰向けに倒れて完全に意識を失っている。

 しばらく死んだように息が止まり、すぐにくかーっと可愛らしい寝息と共に、その胸が呼吸によって上下しだした。

 マエリベリーは息を吐いて。

 

「よ、よかったぁ…」

 

 とりあえず無事…とは言えないが大事には至っていないのは確かだ。

 マエリベリーの叫びに気づいた大妖精も、最初はあわあわと心配そうに漂ってはいたが、すぐに大丈夫だとわかってからチルノの方に戻っていった。

 悪い意味で彼女に慣れてしまっている。

 まぁとりあえずの問題は、彼女が起きてからで…

 

「これは…」

 

 ――てゐの目つきが鋭くなった。

 その原因は言うまでもない、大天狗の零した言葉と、困惑が晴れて別の意味を持った表情、それを見せたことによる確信。

 てゐの刃物のような気配と、そして目の前にいる毒を盛ろうと企んでいた大天狗、両者の視線がぶつかり合う。

 

 ――洩矢諏訪子は毒に蝕まれている。

 

 妖怪といえど、その思考回路はどこまでも人間のそれと類似したもの。

 いくら頭で恐れを、その後の不利益を理解しようとも誘惑には勝てないのだ。

 今ならもしや…といったその悪感情。

 

「洩矢神は…」

 

 

 

 

 ――ドクンッ

 

「あーあ…やっちまったねあんた」

「……な、に…?」

「主の危機に反応…愛されてるねぇあいつも」

 

 ――ドクンッ!

 

「あの~…て、てゐさ~ん?」

「チルノ、大妖精もマエリベリーと一緒に、あと私から離れたら駄目」

「うぃ~っく…」

「は、はい!」

 

 その言葉に疑問すら浮かべる間もなく、マエリベリーはてゐの背中に隠れるように立つ。

 マエリベリーにとって、戦力を度外視した純粋な信頼で言うなら、諏訪子よりもてゐの方が圧倒的に上である。そのため彼女のこの反応からして、ろくでもないことが起こるのだろうと察していた。

 その結果は見事なもので。

 

「主である諏訪子の意識が完全に途絶え、そして一瞬とはいえあんたは諏訪子に…()()の主に対し危害を加えようとした」

 

 ――ドクンッ!!

 諏訪子の身体が二回、三回と再び躍動し、震えだす。

 同時に身体から漏れ出す、その瘴気。

 

「…やはり来たか、諏訪子の支配を失ったことによる…!」

 

 溢れ出す厄、負、呪、祟…

 魑魅魍魎、百鬼夜行そのものとも言うべきその黒い波。

 それが、間欠泉のように。

 

「――祟り神の暴走!」

 

 吹き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ォおオぉオオ!!!!』

『おジぃ…オだいはいく…ら』

『縺ゅ?逕キ螻暮幕縺、縺セ繧薙?繝シ繧』

『ピーッ!』

『マ"ッでェ"ええええええええええええええええ』

 

 阿鼻叫喚の地獄絵図。

 異変に気付いた大天狗数名と、そして予め準備を終えていたてゐ、そもそも未来が見えていた天魔。

 彼女らを除く他の者は、悲しくも祟り神による暴走によって生まれた、祟り神自身による津波に巻き込まれることとなる。

 窒息もしないし圧死もしない、ただどこまでもヌメヌメ、ザラザラとした体表の不快感が絶え間なく浴びせられるだけ。

 叫び声すら防がれ、ただ全身を襲う不快感を我慢し時が過ぎるのを待つしかない、そんな地獄である。

 第一波が宴会場を飲み込む、同時に天狗たちは飛び立ちそれを回避。

 そして飛べないマエリベリーを抱えたてゐたちは。

 

「 "八十華(やそか)" "福音(ふくいん)" "(めぐ)みの白麗(はくれい)"」

 

 祟り神がこちらに着くまでの一瞬、てゐが詠唱と共に後ろに跳躍。

 彼女の身体に引っ付く形で、マエリベリー含む未だ泥酔中のチルノとそれを支える大妖精は廊下に出る。

 狭い襖に突っかかり、()()()祟り神たちの動きが止まったのを確認してから。

 

「ほうら走れ走れ!」

「ちょ、勘弁してよぉ!」

 

 走る、全力で走る。

 時に迂回し、時に部屋に入って、あらゆる撤退ルートを網羅してとにかく走る。

 祟り神は諏訪子の身体を中心に、360度に放たれ自由に外の空気を吸っている。

 そして最悪なことに、天魔の屋敷は広い、それはもう滅茶苦茶に広い。

 更に最悪なことに、事も有ろうに宴会を行っていたのはその中心…つまり天魔の屋敷中央部屋である。

 状況があまりにも嚙み合いすぎている、もしや天魔もわかってやったのではないか?それとも途中で考えるのは無駄と諦め自分からこの場所を提案したのではないか?

 真相は天魔のみぞ知る。

 

「もう嫌ーッ!」

 

 それには同意だ、そうてゐは笑いながら頷いた。

 

 

 

 

『お、オ"がァさんずるい"…ず"る"い"よ"ぉ"おおおお』

『わたれ、わたれわたれわたれ、彼岸に渡れたどり着け』

『はい…は"い"る"?』

『ケヒッイーッひひっひひひひひ!!!!』

 

 古代の世に降り立ち、神として顕現した洩矢諏訪子。

 彼女がこの地を練り歩いて約数週間、その間に取り込んだ妖怪や悪感情、祟り神は数百に至る。

 その全てが、今この天狗の山を埋め尽くし、真っ黒に染め上げ、支配していた。

 

「…天魔様」

「うん、どうした?」

「これどうするんです?」

「あははっ」

 

 殴ろうかな、楓はただ純粋にそう思った。

 天魔の屋敷は天狗たちの長の住む場所、というのもあって山の頂上にそびえ立っている。

 それが余計に悪循環を起こしているのだが…それは今置いておこう。

 

 まず、天魔の屋敷からなんとか最初に脱走したのはてゐだ。

 

 これには天魔も驚いた、少なくとも高速で空中を飛べる天狗たちとは違い、彼女も飛べはするがマエリベリー…人間を抱えているため必然的に走るしかない。

 だが同時に納得もした、確かに彼女の持つ能力があれば、運よくここから誰よりも脱出できるのは想像に難くない。

 てゐたちが出てすぐ、屋敷の隅から隅まで行き渡った祟り神を抑えきることができず、屋敷の天井が吹っ飛んだ。

 その時壊れた屋根の破片と共に、毒を盛ろうとしていた大天狗がいたのは内緒である。

 

「ああ…天魔様の屋敷が…」

「気にしなくていいさ、あの程度大したことはない」

 

 楓と共に、誰よりも先に天魔の元へ飛び立ったのは龍である。

 彼女は過去の失敗を払拭しようと、一瞬楓を抜かして屋敷に辿り着いた。

 だが不幸にもその時にちょうど、てゐたちが屋敷から出てきたのである。

 

「あ、あの…重くないかしら…?」

「………問題ない」

 

 飛ぶことのできないマエリベリーを、俗に言うお姫様抱っこをしながら飛行を続ける龍。

 天魔から「ありがとうね」と言われて役に立てた喜びが半分、もう半分をできれば直接役に立ちたかったという不満が埋め尽くしていた。

 ちなみにもう一人、てゐは久しぶりに走って疲れたという理由で、楓に支えられて飛んでいる。

 

「天魔、お前未来が見えるんだろう?ならもっとマシな未来は…」

「ちなみにその未来だとあなたも酔っぱらって一緒に諏訪子様と…」

「あ、やっぱなしで」

 

 てゐは考えないことにした、おそらくきっと多分、これが最善なのだろう…きっと。

 とにかく、予定とは違うがしっかりと、天狗たちに上下関係を叩きこむことには成功したのだ、まずはそのことに安堵しよう。

 今もぞろぞろとかつての屋敷だったものから、祟り神が湧き水のように溢れて山を下っていくその地獄絵図に、てゐは顔を顰めて。

 

「なぁ天魔」

「なんでしょう」

「なぁ…これいつまで続くんだ?」

「………」

「ッうあああああああああああああああ!!!!!」

 

 てゐの視線の先、おそらく逃げ遅れたであろう一人の天狗が祟り神に捕まり、まるで人形遊びをするかのように弄ばれている。

 羽を掴んでは投げて、それを別の祟り神が受け止めて再び別の祟り神に向けて投げ…

 見ているこっちが冷や汗をかきそうな光景であった。

 

「少なくともあれらが満足する…まででしょうね、よっぽど主に愛されていたのか…彼らの中に謀反を企む者はいない」

「うへぇ…あんな穢れそのものを良いように扱える理由がそれか?」

「"愛"が最強…とはよく言ったものです」

 

 四ツ目の怪異、一つ目の醜悪な化け物、空を優雅に飛び回る虹色の龍と漆黒の巨大烏。

 皆が彼女が支配下に置く祟り神、しかしどれもがこうして山を下ってはいても、天狗や人間に対し危害を加えていない。

 躾がしっかりしている…というのは語弊がある、ただ彼らは分かっているのだ、主が真に望む未来と結果を。

 

「天魔、これからどうする」

「…そうですね」

 

 天魔にとって、今回の出来事で残りの仕事が簡単になる。

 僅かに残っていた首が挿げ替えられることによる反抗も、過程は違うが解決した。

 ならばこの先、てゐが危惧するのはそれよりもっと遥か先の――

 

「あいつの国を作る…勿論あんたは全面協力するだろうさ」

「…えぇ、勿論」

「あいつは強い、それは言わなくてもわかってるだろう?」

「はい」

 

 間違いなく断言するが、てゐはこれから先洩矢諏訪子を超える土着神が来ることはないと思っている。

 これは予想でも、確信とも違う…言わば真実のようなもの。

 純然で不吉、どこまでも覇道を貫く唯我独尊、圧倒的邪悪の()()()()

 この古代の世、彼女に匹敵する者はいない、匹敵する者など――

 

「あいつは国を作る、そうなると」

「言わなくても結構、わかってます。…まさかもう?」

「あぁ、だいぶ()()()()()みたいだが…」

 

 天魔のその瞳が、もう一つの未来を映し出す。

 舞い上がる溶岩、吹き荒れる砂塵、空から降る柱と鉄輪。

 落雷、瘴気、未来予知にすら干渉するほどの圧倒的、莫大な神力。

 ――それを放つ、一人の神。

 

「八坂神奈子、あれが近いうちに来るだろうさ」

 

 

 

 


 

 

 

 

「やべっ眠ってた!」

 

 早朝、全ての元凶洩矢諏訪子、最高の目覚めである。

 祟り神たちは既に彼女の体内に帰っている、あくまでも主は彼女、彼女が目覚め己を欲する時にいないのは配下として失格だからだ。

 勿論、その際に最初に起こった別名「祟り神湧き水事件」の逆再生パターンが発生したのは言うまでもない。

 

「あれ、みんなは?というか屋根は?」

 

 立ち上がり、キョロキョロと周りを見渡すも、知り合いどころか他の誰か、天狗や妖怪の息すら聞こえない。

 本当にいないのだ、ちなみに酒の影響で記憶が完全に飛んでいるため、自分が一体宴会で何をしていたのかは覚えていない。

 

「うーん、やっぱ宴会は楽しかったな!」

 

 てゐが聞いていれば一発、頭にデカい一撃をお見舞いしていただろう。

 しかし残念ながら、今この場にてゐ…ツッコミ役はいないのだ。

 

「とりあえず探すか…」

 

 寝起きの身体をほぐすため、ゆっくりと立ち上がってから両腕を伸ばす。

 意識が完全に覚醒し、内に潜む祟り神たちが「おはよー!」と語りかけてくるのを感じる。

 

「みんなおはよー、宴会どうだった?」

『縺雁燕縺ョ縺願「九?豺ォ螢イ縺ョ繧ッ繧ス螂ウ?』

「ならよかった!」

 

 祟り神たちからの答えに、諏訪子は満足そうに笑ってスキップを交えて歩き出す。

 だが彼女は勘違いをしている。祟り神にとって楽しかったのは、諏訪子の肉体から解き放たれ、自由に夜空の下を行進したことであって宴会ではない。

 しかし哀しきかな、そのような致命的な誤解に気づくことなく、彼女はただ「次もやりたい」と天魔たちから殺されても文句は言えないことを呑気に考えていた。

 崩壊した天魔の屋敷を出て、彼女はもう一度ぐーっと背を伸ばして。

 

「さぁてそれじゃあ……」

 

 まずはてゐを探そうか、それとも天魔に感謝を伝えてからでもいいか?

 並ぶ選択肢に悩まされたのも束の間、肌に針が刺さったかのような、そんな違和感によって動きを止める。

 

「………ん~?」

 

 気配は脆弱なものだ。

 妖怪…それこそ先日目の前にいた大天狗のは凄かった、おそらく垂れ流す妖気とやらをそのままにしているのもあるだろう。

 それを踏まえると、今まで自分が会ってきた妖怪たちは変わり者ばかりだ。

 例えばてゐ、彼女は本来お世辞にも強いとは言えないが…あの"ダイコク様"からの加護を貰っているし、何より本人が凄まじい長生きだ。

 だがその身から流れる妖力は貧弱…いやほとんどない、0そのものだ。それほどまでに弱者への擬態が上手いとも言える。

 天魔、そして白狼天狗の楓、彼女らも凄まじい強さだ、楓はともかく、天魔と戦ったことはないがそれでも分かる。

 実力者故の直感と言うべきか、とにかく彼女らもその身から全く妖力が漏れてはいない、だが強い。

 しかし今感じている気配は違う、弱者のそれだ。

 

「垂れ流し…でもこの気配は…」

 

 誘っている?いやそれはない、もしそうなら力の流れはもっと"わかりやすい"規律のとれた流れ方だ。

 通常の気配が川の流れならば、天魔や楓のはダムのように綺麗すぎるもの、勿論てゐのは例外だ、あれを見破れる者などほとんどいないだろう。

 つまりこの気配は――

 

「ただの弱い妖怪…なら良かったんだけどね」

 

 ――この瘴気を、私は知っている。

 未だ胸の奥に刺さったまま、あの時対峙し、下してもなおその時の感覚は忘れられないのだ。

 あの、山をも食らう龍殺しの…

 

「行くか」

 

 瞬時に鉄輪を生成、それを後頭部に置くことで引力による飛行を行う。

 祟り神を呼び出すことも考えたが、万が一向こうが祟り神の気配に気づき、逃げ出そうものなら話にならない。

 てゐのそれより練度も継続時間もお粗末なものだが、自身の肉体から溢れ出す神力、瘴気を抑え込むことでステルスを実行。

 飛行を続け、目の前の山、その洞窟らしき場所に降り立った。

 

「この奥か」

 

 空から見れば、生い茂る木々が表面をを隠すおかげでパッと見ただけでは気づくことなどできないだろう。

 実際諏訪子がこの洞窟に気づけたのは、自身の気配探知によるナビゲートと純粋な勘あってこそだから。

 いつでも戦闘に入れるよう、祟り神を取り出すための軽い準備運動で握ったり開いたり。

 それを数回ほど行ってから、彼女は洞窟に足を踏み入れる。

 

「………」

 

 瘴気は依然として放たれている。

 こちらに気づく様子もなく、ただ自然体のまま恐ろしい気配を垂れ流し、洞窟の奥で待っている。

 不意に、何も見えなくなった。

 

「っと…」

 

 それもそうか、なにせ洞窟の奥なのだから。

 途中までは太陽光も届いていたが、流石に奥までは届かないらしい。

 松明やらを持ってくるべきか、いやここまで来たのだ、自身はないが己の坤を創造する力、もしくは祟り神の異能を借りて…

 そこまで考えた時。

 

「…?なんだ」

 

 洞窟の壁、そこに埋め込まれた大量の何か…

 ――鉱石、それが突如強い光を放った。

 

「わっ!」

「ぐぇっ!」

 

 ――カアアアッ!

 光は強く、電球並みに存在感を放っている。

 だがそれよりも、諏訪子は目の前で自分と同じように苦しむ少女を――

 

「…誰だお前」

「…わーお」

 

 灰色に近い濃度の、水色のロングヘアーの少女。

 あの大百足と同じ瘴気を放つそれに。

 ただ、乾いた笑いを漏らすしかなかった。




大百足「初めから、このつもりだったのかい?(取り込まず捕食)」
祟百足「祟り神に属性被りは許されませんから(レギュラーの意地)」
大百足「そうか、道半ば……残念だよ。――だが、私の意思は受け継がれる」

呪術廻戦はどこまで知ってる?

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  • あまり知らない(領域展開は知ってる)
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