【本編完結】諏訪子様になった、負け戦を回避したい   作:洩矢廻戦

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 なぁ春草、20話以上連載続けてるのに実は毎回ネタ切れって本当か?
 あぁ、その日に浮かんだネタを当日に仕上げてその日に投稿の行き当たりばったりなカーニバルだぜ


23話.古代最強の土着神―間章―

「――しっ!」

「おっと」

 

 間髪入れずに襲い掛かるそれを避け、冷静に祟り神を呼び出すことで反撃。

 ミシャグジとは違う、目の前の少女に似た暗い水色の小さな蛇、それが無数の群れを成している。

 それがぎゅうぎゅうと、少女の身体に自らの身体を押し付ける形で拘束が完了する。

 

「うーん…やっぱそういうことだよねぇ」

 

 カランッと音を立ててこちらに飛ぶ得物。

 祟り神の拘束によって力が抜け、少女の右手から落ちたそれは、現代で言うところのツルハシだ。

 落下の衝撃であらぬ方向へ飛ぶはずだったそれは、奇妙にも空中で軌道を変え、諏訪子の顔面へ向かい――

 

「洩矢の鉄の輪」

 

 それは、危なげなく防がれる。

 もはや完全に使いこなした鉄輪、それの体表の展開と回転速度の制御。

 まるでピンセットで物をつまむかのような気軽さで、人体を穿つはずの威力を秘めたツルハシを抑え込み、無力化した。

 

「危ないなぁ、手癖が悪いのは親譲りかな?()()()ちゃん」

「………!」

「同族、それとも前の自分と言った方がいいかな?まぁどっちでも同じようなものか」

 

 大百足、大蜈蚣。

 龍殺しの意思、恐れと存在の全てを継いで生まれた者。

 こうして向き合うとよりそれが理解できる。同じなのだ、あの自分にも劣らない肌を刺す不快感、瘴気のそれが。

 勿論あの大百足だった時に比べれば、今の少女から放たれる量も威圧感も話にならない。

 弱すぎる、だが生物が無条件で危機を感じるその気配は――

 

「…舐めるなッ!」

 

 グシャアッ!と鈍い音と共に、少女を抑え込んでいた祟り神が吹き飛ばされ、消失。

 へぇ…と諏訪子が面白そうに目を細めるその先では、本体にも負けない妖力、何より瘴気を纏ったショベルが突き刺さっていた。

 ツルハシとショベル、そして瘴気と彼女の前身が、その答えを確実なものにする。

 

 同時に、洞窟内に吹き荒れる瘴気。

 

 言うまでもなく、それはそよ風などのような生易しいものではない。

 目を開けるのすらやっと、風が刃物にも負けない殺傷力を纏い、肌と衣服を切り刻み続ける、純粋なまでの力そのものによる現象。

 妖力や神力、霊力といったものと対を成し、そして互いに侵食しあうはずの"瘴気"…それが他ならぬ少女自身の妖力と交じり合う。

 溶け合い、相乗し何倍何十倍にも膨れ上がるその力は、誕生したての妖怪とは思えないほどの規模だ。

 あっという間に洞窟を超え、山の表面を少し覆うほどにまで肥大化する圧倒的な威圧感。

 

 

 

 

「――分を弁えろ」

 

 山そのものを、瘴気が包み込む。

 膨大な神力に裏付けされた強者に共通する威圧感、そしてそれすらも雀の涙であると言わんばかりの――瘴気。

 呪い、祟り、純粋な恐怖そのもの。彼女がこれまでに集め、取り込んだ負の感情そのものが、何十倍どころか何乗にも膨れ上がっている。

 少女の放つ瘴気などたかが知れるもの、何の抵抗もできず、彼女はただ脱力し、ぺたんと腰を抜かして倒れこんだ。

 

「驚いたね、本当に」

 

 簡単なこと、子供でも理解できる簡単なことだ。

 大百足。全盛期の山すら覆いつくす彼ですら、この小さな土着神を倒すことはできず、逆に自分が食われることになった。

 たとえ彼の素質を受け継ごうが、それに匹敵する才能があろうが――

 

「私に勝てなかったくせにさぁ、今ならなんとかなるとでも思った?」

 

 身体が震える。

 呼吸もままならない、存在しないはずの、()()知らないはずの虐殺の記憶が想起する。

 それは事切れる寸前の、大百足が未来の自分に残した遺産であった。

 勝負に負け、敗者の汚名を押し付けられるだけならばいい、強きに敗れ。弱き存在の烙印を押され良いように使われるだけならばいい。

 だが大百足はあの時、屈辱そのものを受けた。同族…それも自分よりも圧倒的に下であった、あの祟り神の百足たちに食われたのだから。

 死の間際、強まる呪いと怨嗟が前代未聞の、数百年のインターバルを挟むことのない…同種族でありながら上位互換、才覚だけならば以前の自分を凌駕する大蜈蚣への転生を実現し、こうして彼は新しく黄泉返った。

 時間さえあれば。前と同じように龍を食らい、山を飲み込み歳を重ねれば、大百足時代など鼻で笑えるほどの圧倒的な力を手にできたはずだった。

 はずだったのだ。

 

「この程度で私に勝てると思ってる脳味噌に――驚いたって言ってんの」

 

 ――何百、何千でも足りない。

 この小さな神を殺すには、これを超えるには…

 否。抵抗すら愚かであろう、きっと彼女は――

 

「っ、はっ…はっ…!」

 

 身体の震えが加速する。

 涙が滲み、嗚咽が止まらない。

 龍すら食らう最強の妖怪、その反骨精神は完全に折られ、もはや無抵抗のまま。

 武器を握る力もなく、ただ目の前の捕食者に身を任せるだけ。

 

「………まぁいっか、とりあえず…」

 

 とんっ

 

「…ぅ」

「眠っといてねぇ」

 

 人差し指で優しく額を叩き。

 少女は――姫虫(ひめむし)百々世(ももよ)は意識を手放した。

 

 

 

 


 

 

 

 

 長い夢を見ていたような気がする。

 長い時、こうして意識を手放したのは珍しい、まぁそれの方が好都合ではあるのだが。

 人はとっくの昔にいなくなり、ここには自分と同族の仲間、たまにその他の動物がやって来る辺境。

 出会いもなく、ただ生まれた時から「他人」になる方が難しい、そんな閉鎖されたある箱庭の中である。

 

 その中でも、自分とはどのような位置にあるのだろう?

 

 まぁ嫌われていないのは確かだ、というかそれだと色々不都合があって困る。

 では好かれているのか?それも少し納得がいかない、日に会話をするのは数回ほどだから。

 仲間は自分に話しかけないし、自分も仲間に話しかけない。

 別に面倒くさいわけじゃない、ただなんとなくそうしてるだけ。

 彼女は、今日も何かおぼろげな何かを求めている。

 

「…いただきます」

 

 他の仲間たちは、同じく気の合う仲間同士で輪を作り家を共有するらしい。

 自分にとっては知らない世界の話だ。ただでさえこの箱庭で窮屈、仲間と関わるのは面倒くさいのにそれが四六時中。

 まぁ別にどうでもいい、わざわざ人の不幸を()()必要はないだろう。

 それにこういう時間も悪くはないし、むしろこれが性に合っているのだから。

 

「………」

 

 ――いや、前言を撤回しよう。

 とにかく前に置かれた…というか自分で用意した食事、それを見る。

 ()、焼いた魚と仲間たちが丹精込めて作り上げた野菜たち。

 とても美味しそうだ。美味しそうだがこれで何百…何千回目の同じ献立。

 

「…散歩するか」

 

 彼女はそう言って、半分も食べずに立ち上がる。

 すきま風が少しくすぐったいが、この箱庭では風すら変化を見せず、気色悪いくらいには温い。

 傷んだ扉を開き、外に出ると嫌でもその目に、自分が今いる場所がどういう場所なのかを叫んで訴えてくる。

 果てのない水平線、黄金に染まる広大な稲穂による絨毯、そして何十何百も建つ木造の一軒家。

 海に囲まれ、変化も特別もない止まった環境、彼女が忌む桃源郷が、相変わらず今日も輝いている。

 

「おー!お前かぁ!」

「…ども」

 

 できるだけ水平線を見ないように、足元に視線を集中させて跳ねるように歩いていると、仲間の一人が話しかけてきた。

 薪割りの帰りだったのだろう、右手に斧、左手に割ったばかりの大量の薪を抱えて光り輝くような笑顔を見せる。

 できれば関わりたくないのだが、そんな意味も込めて返事は簡単に済ませたのだが。

 

「相変わらず一人暮らしか、一人は寂しいだろう」

「…余計なお世話、そっちこそどうなのさ」

「私?まぁ最高だね、気の合う仲間と朝まで飲むのは」

 

 ガッハッハとその見た目に似合わない豪快な笑い声で、彼女は言う。

 こういう所が苦手なのだと、今更愚痴っても仕方がないのは理解しているため、ため息を零して。

 

「…ま、飲みすぎないようにね、特に今日は」

「…なに?まさか視え…」

「まぁね、帰り道には気を付けなよ」

 

 生まれた時からある力、それが今では少しだけ、ほんの少しではあるが感謝してやってもいいとさえ思えた。

 その言葉を最後に、「まさかあれか…?」とブツブツ不安そうな顔で呟く彼女は、すぐにその顔色を元に戻して。

 

「わかった、肝に銘じておく」

「そ、ならいいけど」

「しっかし便利なものだな、その不幸を視る力」

「…まぁ」

 

 生まれた時から、()()者の不幸を予知することができた。

 最初は見間違いかと思った。だがそれが歳を重ねるにつれ、現実であることは嫌でも理解させられた。

 仲間の頭、そこに纏わりつく謎の黒いモヤ、だが自分以外にはそれが見えず、そして自分だけがおかしいと後ろ指をさされる。

 気のせいだ、気にするなと自分に言い聞かせ、その黒いモヤと頭に異変を見せた仲間を無視した。

 

 だがその日のうちに、その仲間は転んで頭を打ったことで死んだ。

 

 疑われた、当然だ。

 だがその日に再び、今度は足に黒いモヤを纏った仲間が現れ、そのことを告げるとそれはもう酷かった。

 お前は不幸を呼ぶ、そう誰かが叫んだ。

 だがそう叫んだ仲間にも、首に黒いモヤが纏わりついていた、そのことは言わなかった。

 結果として、最初に告げた仲間は足をくじいただけだったが、自分を糾弾したあの仲間は、いつの間にかいなくなった。

 そのことを思い出したのはいつだったか、確かそれから数年たって、同じように首に不幸の証であるモヤを纏った仲間が現れたのだったか。

 随分薄情なことで、どうやら自分は嫌がらせで教えなかった可哀想な被害者の一人を、完全に忘れてしまっていたらしい。

 その日のうちに聞いた、その時一緒に飲んでいた仲間に「〇〇は知っているか」と。

 その時まで、顔も存在も忘れていたくせに、どうやら悪意と好奇心は生き物の脳をとことん活性化させるらしい。

 

 彼女は言った「首を吊って死んだ」と。

 

 「そうなのか」そう返して話を終わらせた。

 

「…退屈」

 

 うじゃうじゃと湧いて出る、あの不幸のモヤ。

 それは今も隣を走り去る仲間も、そしてそれが持つ鍬にすらも。

 事故に巻き込まれるだろうか、自分が忠告しなかったせいで命を落とすだろうか。

 まぁ別にいいか。そう割り切って彼女は見る。

 海に囲まれた島から、目の前に広がる水平線を。

 

「あの向こうには、何があるんだろうね」

 

 そこからこちらにやってくるモヤの群れ。

 閉ざされた箱庭から、その向こうへの渇望を胸に。

 不幸を視る白兎――てゐは呟く。




 久しぶりにランキング入りできました感謝

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