【本編完結】諏訪子様になった、負け戦を回避したい   作:洩矢廻戦

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 明日も間に合えるか


29話.山の四天王

 自分を倒すと言った者がいた。

 それはまだ、国と呼ぶのすらおこがましい…小さな村の中の話だった。

 守護者の存在しない小さな村。そこに住む彼らは神奈子という新たな上位者を認め、それを受け入れて安寧を貪る。

 対価として敵を排除し、空を操り恵みの雨を降らせる。そうして少しずつ、村は大きく豊かになっていった。

 勿論神奈子もそれは嬉しかったし、自分の力が満ちるのと共に、輝くように活気を取り戻す民の姿も愛おしいものだった。

 自分への恩返しなのだと、神奈子がしばらく国から離れていた時にこっそりと作り上げられた神社。

 いつの間にか完成した神座の上で、「お前を倒す」と宣言した少年に頬杖を突きながら見下ろした。

 

 子供、正真正銘の力なき子だ。

 

 あっという間に子供は押さえられ、そして思いっきり地面に叩き潰された。

 血相を変えて滑り込むように土下座をして謝罪する夫婦と、未だ問題をわかっていない押さえられた子供。

 隣にいた配下の一人が、怒りで顔を染め武器を取り出そうとしたのを手で制止し。

 

「よい」

 

 確かに、この少年が言ったことは重罪である。

 だが神奈子は別にどうとも思わないし、むしろ退屈しのぎにはなると評価していた。

 怒気に包まれる村がたった一人、少年に向けられているが。先ほどからずっと神奈子を見上げるその顔に、一切の澱みはない。

 子供故の無知、無知故の愚かさと救いようのなさ。

 神奈子は笑い。

 

「小僧、お前はどう私を倒すつもりだ?」

「……」

 

 視線が揺れ動いている。これでは反撃してくれと言っているようなもの。

 肉の付き方が悪い。これではまともに武器すらも振るえない。

 何より気配が駄目だ。これでは動物一匹も殺せない。

 相手をする、そもそも話すだけで時間の無駄。これ以上の評価はありえないしさっさと殺す…もしくは牢に閉じ込めるか。

 放してやれ。そう神奈子に言われてようやく、少年を押さえていた男たちは渋々といった顔で力を緩めた。

 それと同時に少年は先ほどからずっと、両手に握っていた木の枝を神奈子に見せ、村に充満する憎しみに近い怒りの気配なんて気にせずに言う。

 

「これだ!」

 

 棒、木の枝。

 勿論手入れなんてされてない、自然からそのまま持ってきた、ただの棒。

 森を歩けば誰でも手に入る、木の枝そのものである。武具ですらない。

 神奈子はそれを奪い、そして見る。

 

「……!」

「ふむ…」

 

 先ほどまで本殿に鎮座していた筈の神奈子が、一瞬で目の前に音もなく移動した。

 少年はそれに驚愕し、そしてすぐにその顔を面白そうに歪めて言う。

 

「暇だからな。付き合ってやる」

「…!そうこなくちゃ」

 

 ふと視線を向ければ、今も平伏したままの村人たちの向こう、家の陰からこちらを覗くように見つめる子供たち。

 男が二人、女が一人の別の子供たち。それらが呑気に「勝つぞー!」と意気込んでいる少年を心配そうに見つめていた。

 そして合点がいく。何故少年含め彼らの視線に畏怖の感情が宿っていないのかを。

 じ…こちらを覗く子供たちを見つめると、それに気づいてすぐに顔を引っ込めて隠れた。

 なるほど、そもそも自分を知らないのだ。

 

「来て直ぐに出かけた弊害、か」

「おーい、早くー!」

 

 少年の声に息を呑み、今まで以上の怒気が村を包み込むよりも早く、神奈子が「あぁ、今行くよ」と笑いながら言ったことでそれは収まる。

 むしろ神奈子が初めて村人に見せた、年相応の可愛らしい声色に仕草。それに心奪われた者も少なくはない。

 そんな時でも少年は変わらず、神奈子に対し挑戦的に笑い、腕を振って目的の場所に走っていく。

 彼の目にはどのように、神奈子という少女は映っていたのだろう。

 背はそこまで変わらない。髪色という違いこそあれど、確かに神だと知らないのならば、まだ自分が接触を図っていなかった同じ子供の一人…にも見えなくはない。

 自分たちとそこまで変わらないはず、それなのに大人たちから敬われ、そして自分の親すらもそれは例外ではない。

 なるほど、こう考えれば辻褄は合うし、何より子供心が生み出した愚行という風に終わらせられる。

 神奈子が着いた時には、既に彼は棒を構えていた。

 

「勝負は勝負!参ったって言わせてやるからな!」

「なるほど。剣術棒術なんでもあり、参ったと言わせれば勝ちか」

「…?おう!それでいいぜ!」

 

 勝負条件も勝利条件も不鮮明な少年の提案は、神奈子の補足によってやっと一つの形になった。

 観客はいない。強いて言えばおそらく少年の仲間であろう小さな子供たちが、今も木々の隙間からこっそりと覗き込んでいるくらい。

 他の村人、大人たちは今も平伏したままか。

 別に神奈子はひれ伏せとも、こっちに来るなとも命令したつもりはない。これは村人たち、八坂神奈子という存在を信仰する彼らの判断だ。

 神奈子は笑って。

 

「ほら、来い」

 

 そう言った時には既に、少年は走りだしていた。

 話にならない速度だ。空気を裂くどころか痺れるように刺す気配もない、完全な素人。

 身体能力は話にならない、種族も人間でとてもじゃないが有利とはいえない。

 ならせめて技術は――

 

「とーうっ!」

 

 駄目だった。

 予備動作もわかりやすく、視線もどこを狙うつもりなのかバレバレ。

 しかも単純に遅い、情けないくらいにゆっくりで、優しく言って話にならない。

 身体を横に向けると共に移動し、その愚直な振り下ろしを避けてから、神奈子は優しく手に持った棒を振る。

 

「いてっ」

「終わりだ」

 

 ポカンと軽快な音が響き、一瞬だけ少年がその衝撃に顔を顰める。

 同時に背後からも「あちゃー」という子供たちの声が聞こえてきたため、対応は合っているだろう。

 力加減に成功し、内心ほっとした神奈子は棒を肩に担ぎ。

 

「小僧。お前は無知だが真の愚者ではない、それと私はお前と違って神なん」

「まだだっ」

「聞け」

 

 神奈子が喋っている途中だというのに、少年はすぐに棒を振り上げ再び勝負を再開した。

 本人にとっては不意打ちのつもりなのだろうが、毎回身体が動くたびにうるさいくらいに視線が凄い。

 おそらく他の子供でもこれは避けられるのではないだろうか、そんな神奈子の呆れなど知ったことではないと、少年は諦めずに棒を振りまくる。

 

「諦めろ」

「あいだっ」

 

 今度はゴツンと、少し強めに頭を叩く。

 ぐぐぐぐぐ…と唸りながらしゃがみ込む少年、そして一見すると同じ背丈の少女。その格差は事情を知らぬ第三者視点からでも明らかだ。

 神奈子の視線は相変わらずで、ただ呆れるしかない少年の諦めの悪さに苦笑。

 少年は逆に、時間が経つ度に闘志を更に燃え滾らせ。

 

「うるせー!男なら女に…しかも同じ年のやつに負けられるか!」

「そうか、それだけか?」

「あぁ!それだ」

 

 神奈子の持つ棒の先。

 それが一瞬で少年の喉を抉るような角度で、そのまま脳天を貫くような姿勢で固定される。

 力は込めてない、そのため傷は付かないが圧迫感はそのままだ。

 それでも、気配の変わった神奈子を前にしても、少年は笑った。

 

「……へっ、いいぜ?やっと本気出したのか」

 

 違和感。

 少年の反応に対し、神奈子は顔を不快感で歪め、そしてそれ以上に動揺した。

 何故、何故今常に感じていた違和感を、疑問をこの少年に対し向けたのだ?

 違和感、この世に生まれ落ちる前、高天原で経験した忌むべき視線…それを浴びた時の感覚を。

 

「……」

 

 強者を倒し、証明する。

 己の強さと存在を、その価値と天下無双を。

 だが言葉に変えられない渇き。欲望と疼きは今でも収まらない。

 何故、己の身の丈を弁えぬ、愚かな人間の一人でしかないこの少年を。

 くだらない虚勢を、理解できない思想を見て。

 

「…何故」

 

 ――何故、私は苛立つのだろう。

 

 

 

 


 

 

 

 

 まだ昼だというのにも関わらず、山は活気に溢れていた。

 おそらく素手でちぎったのだろう、乱雑な切断面はそのままに、それに見合った乱雑な組み立て方で構成された「家」と呼ばれる場所。

 床なんてあるわけもなく、ゴツゴツした石ころや地面の感覚が不快感を刺激する。

 だがあくまでも、それはてゐにとっては…の話であり、生まれつき常識を外れた身体能力を持つ彼女らにとっては、この程度布に等しいものなのだろう。

 地面の硬さなどまるで気にせず、目の前の鬼は未だ傷だらけの身体を揺らして豪快に笑う。

 

「…で、その時のあいつの動きは凄くてな…それはもう美しかった」

「おー…!」

「まるで水みたいに滑らかで、動作の一つ一つが繋がってるんだ。そのせいで技の終わりなんてなかった。隙を突くことすらできず…」

「お~~!」

「私が言うのも変な話だけどね、あれぞまさに鬼神!あれほどの武の集大成は初めて見たよ!それに最後に放った雷もそれはもう…」

 

 大和の国、鬼の山。

 てゐとチルノはここの事実上の長である山の四天王、星熊勇儀の元へ訪れていた。

 八坂神奈子による信仰、国の強奪によるその副産物である鬼という勢力。

 最初は国だけを取るつもりだったのだが、伝承でも残る通り鬼というのは人間と密接に関係する妖怪だ。

 荒々しく残忍で。金銀財宝、酒は当然大人から子供すら奪い、殺し嬲る妖怪。

 だがどこまでも正直で頑な。だからこそ神奈子によって支配される前までは、鬼と人間の織りなす終わらぬ関係、鬼退治は続いていた。

 

 しかし、そこで現れたのが八坂神奈子だ。

 

 神が降臨する、頭が挿げ替えられる。

 もはや人間はそれまでにあった数々の問題、それこそ鬼退治に現を抜かす暇もなく。

 むしろ大体の妖怪、害獣は神奈子の下に滅せられる。そうして数々の妖怪が絶命し、そうして最後には鬼が残った。

 いつも通りに酒を奪い、適当に女子供を攫って人質にする。そうして鬼退治をさせて命のやり取りをする。

 次はどんな人間が来るのか、そう嬉々として何の警戒も見せず、呑気に国に一歩足を踏み入れ、そして首が落とされた。

 勇儀としては、この鬼のことをいちいち蒸し返すつもりも卑怯だと言うつもりもない。

 確かに鬼は嘘や小細工は嫌いだ。しかしだからといってわざわざ殺される覚悟もせず、それどころか既に神の領土と化した国、そこに呑気に入って人間を攫おうなど神相手に喧嘩を売るようなもの。

 

 つまり喧嘩だ。

 敗者と勝者が生まれ、今回はそれが鬼の負けだっただけ。

 

 神奈子は現在も国を大きくするために、様々な国や村に出向き信仰を増やしている。

 中には山の奥にひっそりとある、十人にも満たない少数で構成される村をわざわざ徒歩で訪れ、そして信者として国に招待したり。

 どうしても村から離れたくない、そう訴える者がいれば村と住む場所はそのままに、山ごと自分の国の一部として受け入れ、そして信仰を得るなどして勢力を拡大していった。

 そのむしろ清々しいほどに真っすぐな信仰強奪、布教は鬼である勇儀から見ても、むしろ好感の持てるものだという。

 勿論、負けた鬼たちと違いそんな神奈子を黙って見ている者…特に神は少ない。

 というよりほとんどが神奈子の実力、埋められぬ圧倒的な差を相手に自暴自棄、もしくは戦いで散ることを目的として戦いを挑んだ。

 神にとって信仰は命であり、国は血液。

 自ら鍛え上げ、そしてその分かりやすい象徴そのものである国という財産を、信仰をただ渡せと言われて渡すほど神は甘くない。

 負けて消えるのも、大人しく降伏してから消えるのではその苦しみには雲泥の差があるというのに。

 それでも諦めきれず、せめて最後だけはと戦いを挑み、そして目的通り美しく戦場で散る。

 神奈子という勝者を一人きりにして。

 先ほどからこうして、ずっと神奈子のことを語る勇儀と唯一楽しそうに話を聞くチルノ。

 ため息。

 

「……鬼ってのはああいうのばっかなのか?」

 

 といっても、てゐにはあまり実感が持てない話であった。

 神奈子が国にいない今、どうせなら軽い散策と同時に顔見知りを増やすべき。そう判断したてゐが向かったのは鬼の山である。

 話によれば、昔はここに天狗も住んでいたらしい…が、これまた奇妙に神奈子と入れ違いでどこか遠くの山へ移ったらしい。

 そのことを懐かしそうに、そして楽しそうに話す勇儀は最後に「抜け駆けしたあいつは一回殴る」と少しだけ不満を滲ませた。

 あいつが誰を指すのかはわからないが、とりあえず可哀想なその未来の犠牲者に黙祷を捧げ。

 

「なんで勇儀だけあんな傷だらけなのさ?一緒に戦ってたんだろ?」

「………」

 

 てゐが振り向いた先には、勇儀と同じく胡坐をかきながらも、しかし勇儀とは真反対に凄まじい不機嫌っぷりを見せる鬼。

 勇儀に負けぬ長さの髪、そして勇儀のそれと同じくらいに輝いた、桃色の美しい光沢。

 だがその身体が纏う邪気は、豪快で真っすぐな勇儀のそれとは真反対である。

 山の四天王、その一人である茨木華扇だ。

 

「…知るか」

「はははっ悪いね、こいつ神奈子に負けたことを思い出すといっつも不機嫌になるんだよ」

「黙れ」

 

 ギロリと、人を殺せそうなくらいに鋭い視線、自分に直接向けられたわけではない…が、それだけでてゐは情けなくビクンッ!と肩を震わせた。

 そしてそんな視線が直接向けられている本人はといえば、まるで気にしてないという風にゲラゲラと笑って。

 

「まぁまぁ…それにここでこいつらに八つ当たりでもしてみろ、私らは神奈子の客に牙を剥いたことになる」

「わかってる。ああ、憎いほどにな」

「なんだ。そんなに私に守られたのが嫌だったのか?」

 

 呼吸が止まる。

 それは華扇から放たれた濃密な殺気もあるが、そのあまりにも禍々しい妖力が原因であった。

 忌み、畏れられ嫌われ、そうして負の感情を蓄えて生まれる瘴気…それに限りなく近い嫌悪感。

 むしろ何故瘴気になっていないのか、それがわからないくらいには、華扇の持つ妖気は黒く、濁っていて血に染まったものであった。

 しかし、それも放たれたのは一瞬だけで、真っすぐ華扇を見据える勇儀の視線に負けた華扇が、舌打ちを一つしてからそれを引っ込めた。

 

「……次言ったら舌を抜く」

「ハッ…地獄の閻魔様かってんだ。あーでも、もし閻魔様とやらがここに来たら、私より先にお前の方がしょっぴかれそうだ」

「フンッ」

 

 鬼らしく豪快に、しかしどこか彼女らが好きな人間らしく。

 陽気に笑って楽しそうに喋る勇儀の姿に、一切の曇りはない。

 一応彼女は神奈子と戦い、そして負けたというのに、何故このように笑えるのか。

 そう疑問に思うてゐの前で、彼女たちは話し続ける。

 

「閻魔様とやらは、その辺の鳥にいちいち説教したりするのか?」

「ん?」

「"あなたは弱きものを痛めつけた"だの"あなたは自身よりも弱い虫や魚を殺した"だから地獄行き…なんて言うか?」

「うーん…それは違うような…」

 

 未だ要領を得ない華扇の言葉に、勇儀は自分なりに答えを探そうと首を傾げる。

 しばらくそうして「うーん…」と口にして数回、悩む様子を見てから、華扇は続けた。

 

「鬼とはそういう生き物、鳥が自分より弱い虫を殺し…魚を殺して食って生きるのと同じ。鬼とは人間を殺し、犯し痛めつけ、蹂躙してこそ」

「へぇ」

「それが鬼。生きるために殺生が許されないのなら、今頃鬼なんてとっくに絶滅してるだろうなぁ」

「どうだ?こういうやつなんだよ華扇は」

 

 ――いやどうと言われても…

 妖力の質や喋る内容といい、どうやら同じ山の四天王でもその性格は全然違うようだ。

 勇儀も鬼だ。今までにも何人かの人間は殺し、そして財宝を奪ったりもしただろう。

 だが華扇に関しては違う。てゐの先ほどから見て、聞いた感想ではあるが、彼女は鬼の中でもぶっちぎりでヤバイ。

 

 何故なら、悪意を自覚しているからだ。

 

 これがまだ悪意も知らぬ、ただ無垢に人を殺し財宝を奪うのならばまだ良かった。

 だが彼女の言い分、そして楽しそうに笑うその姿を見れば分かる通り。彼女はそれが悪いことだとしっかりと理解している。

 人を殺す。その罪の重さと醜悪さを自覚して尚「それが鬼だから」と開き直っている。

 いやむしろ、それを免罪符に悪行を楽しんでやっているようにも見える。

 

「うーん…と」

「おっ素直に言った方がいいよ?私が許可する」

「悪鬼」

「ぶっ…はははは!神奈子と同じこと言われたなぁ!華扇!」

「……」

 

 やはり、鬼とは思えないくらいに彼女は明るい。

 山の四天王。という肩書を背負う鬼だ、その実力は折り紙つきで、実際に神奈子に蹂躙されるだけだった他の鬼と違い、彼女は最後まで抗えた。

 だがそうなると、必然的にてゐが気になるのは――

 

「あー、勇儀さんや」

「勇儀でいいよ。あんたは神奈子の客だしね、それで?」

「さっき聞いてた話だと…山の四天王…その話に出てきた、山から出た鬼はどこに行ったのさ?」

「……」

 

 四天王と呼ばれるからには鬼は四人いるはずなのだ。

 てゐが先ほどから聞いていた勇儀の自慢話、神と鬼の喧嘩でも確かにそう言っていた。

 勇儀と華扇で二人、そして話の中では一人。本来は山に残っていたはずのもう一人の鬼がいない。

 そのことを聞くと、勇儀は懐かしむように言った。

 

「あいつは昔から放浪するのが好きだったからね、その時も同じだと思ってたんだよ」

 

 まるで昨日のことのように、勇儀は語る。

 昔、神奈子が来るよりももっと前の山のこと、その鬼は他の鬼と違って隠れて人間に会うのが好きだったという。

 勿論そのまま隠密を続け、酒と財宝を勝負すらせずに持ち帰り、そのまま山中の鬼を誘って宴会を開いたり。

 数日経ってからようやく、鬼に盗まれたことに気づいて「鬼退治」をしにきた人間たちを全員血祭りにあげたり。

 時には堂々と村へ行き、そして正面からあらゆる人間をなぎ倒し鬱憤を晴らす。

 しかし何度も繰り返せば慣れが来る。

 そのうちその鬼に対する危険意識が高まり、迎え撃とうと最初から武器を携え村が鬼退治を始めようとした時。

 まるでわかっていたかのように、その鬼は別の村へ遊びに行った。

 

「害悪すぎるだろ」

 

 勇儀が語ったその鬼、山の四天王伊吹萃香に対し、てゐは思わずと言った風にそう零す。

 いや、確かに鬼らしいと言えば鬼らしい話だ。

 鬼らしく絶対的な暴力を撒き散らし、そして堂々と、頑なに己を貫くその姿勢。

 山の四天王と呼ばれるだけの力と、それに見合ったとてつもない戦闘力に最悪な組み合わせであろう異能。

 

「そいつは密と疎を…まぁ極論自分を霧にして見えなくしたり、他にも自由に空を飛んだりでそれはもう色んな場所へ…」

「泣いていいね、その村の人間は」

 

 てゐは思う、せめて勇儀と能力が逆であるなら…と。

 あまりにも被害を広げるその性格、自由奔放そのものにこの能力だ。

 話になっていないだけで、実際の被害はもっとあるのだろう。そのことを勇儀もわかっているのか、萃香という鬼について語る勇儀の顔は苦笑そのもので。

 

「まっ、そういうのをずっとやってたやつだからさ。勝手に何も言わず山を出るのもしょっちゅうさ、でも…」

「?でも?」

「十年前さ。あいつがいつも通り山を出て放浪…なのに今も帰ってこない」

 

 萃香は自由奔放、故にすぐ飽きもくるため短くて一週間、長くて一か月程度で毎回帰ってきたのだという。

 だが今は、というより今現在も萃香は帰って来るどころか、顔を見せることすらしないのだという。

 帰らないのはわかる。だが能力でいくらでも伝言は伝えられる筈なのに、それすらもないのだと。

 

「…なぁそれって」

「あぁいや、それは絶対にない。山の四天王ってのは肩書だけじゃない。言葉以上の繋がりがあるんだ、もし()()なら私もわかる」

 

 てゐが一瞬思い浮かべた最悪、それは伊吹萃香の死である。

 だが勇儀もわかっていたのだろう、てゐが口に出すよりも早くそれを否定し、そして笑いながら続けた。

 

「あいつが何を考えているのか、どこにいるのかは知らない…でもあいつは私の仲間だ、大体はわかるよ」

「例えば?」

「……そうだね、なんて言おうか」

 

 勇儀は、答えを知っているようだった。

 チルノは既に知恵熱で先ほどからずっと失神したままだが、てゐは首を傾げて疑問が尽きない。

 それは華扇も同じで、勇儀が察したというその答えに気づけないままで、てゐと全く同じ仕草で頭に「?」を浮かべた。

 勇儀はそんな二人の様子に、静かに笑って。

 

「…次会った時、きっといい肴を持ってくるだろうよ」

 

 その笑みは、悪戯を思い浮かんだ子供のように輝いていた。




 星熊勇儀(怪力乱神)
先代録リスペクトの満たされた強者。
神奈子様に「贅沢者め」と羨ましがられ"ある会話"をしてから神奈子様のことを愁いている。
いつか盃は取り戻すつもり。

 茨木華扇(???)
ロスワのカセンチャンは可愛い(確信)
それはそれとして、将来仙人になる予定の彼女が全盛期はぶっちぎりの超悪いやつというギャップが好きでこの設定を採用。
カーニャ、人間殺すの好き!

 伊吹萃香(密と疎)
何故かこの時山にはいない、勇儀も華扇も今彼女がどこにいるかはわからない、だが「いい肴を作ってきそう」だと勇儀は言う。
ちなみに余談ではあるが、最近作者がハマってる曲は「嘘と慟哭」
余談ですが。




 八坂神奈子
何故俺は苛立っている……?俺はあの術師が死んで落胆しているのか?他者に満たしてもらおうなどと考えたこともないそう食らいたい時に食(割愛)

呪術廻戦はどこまで知ってる?

  • 最新の単行本(人外魔境)まで
  • アニメの内容(渋谷事変)まで
  • あまり知らない(領域展開は知ってる)
  • 全部わかる
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