【本編完結】諏訪子様になった、負け戦を回避したい 作:洩矢廻戦
ワンマンアーミー、一人軍隊はロマンだよウフフ。
あと知ってました?諏訪子様の背丈って、実は早苗よりちょっと小さいくらいなんですよ。
「ほーれよしよし…君はどこから来たのかな?」
両手で抱きかかえる形で、彼女は今も死んだように硬直したままの、兎の姿を見てそう問う。
すると、さっきまで硬直していたはずの、その兎はびくーん!と耳を直立させ、すぐにあわあわと身体を震えさせた。
(…怖がられてる…めっちゃ怖がられてる…)
そう、今の彼女は土着神。数多の祟り神を支配下に置いた怪物だ。
そんな自分に身体を掴まれ、そして楽しそうにしているのだから、兎からすればたまったものではないだろう。
なら仕方ないか。と、彼女は納得してから、兎の頭部に視線を向けながら、続けた。
「ちょいちょい。そこまで怖がられると、流石に少し傷つくんだけど」
「…っ!」
「あっ!また怖がってる!」
ピクピクと足を痙攣させ、まるで「あっ死んだ…」とでも思っているのか、魂が抜け落ちたかのように、兎の顔色が悪くなっていく。
流石にこのまま放置するのは不味い、いくら今の自分が洩矢諏訪子…祟り神を統べる土着神の頂点だとしても、無垢な兎をいたずらに殺すのは御免だ。
彼女は、兎の身体を目の高さにまで持ってきて、そして聞く。
「あんた、どこから来たの?」
動物に何かを聞き、そして答えを教えてもらう。
それは"彼"がいた現代社会では、フィクションの中でよく見られた恒例行事だ。
だが、ここは現実ではない…というより、そもそもここはゲーム、フィクション100%の世界だ。
故に、この問いにも意味がある。
「…」
チラリ。
兎は一瞬だけ視線を動かす。
「…っ!~~!!!」
「なるほど、あっちか」
チラリと、先ほど左に見えた謎の竹林。
兎はそこに目線を向けた後、兎は一瞬で目を元に戻し、その後ふるふると首を振った。
…流石にわかる。どう見ても厄ネタそのものである、自分をかつての住処から遠ざけようとしているのだろう。
だが見逃さない。今の一瞬で意識の内に入る、その立派な竹林に向かって、彼女は歩き出す。
「~~~っ!!!」
「はいはい暴れない…って」
兎を器用にあやしながら、彼女は目の前にそびえ立つ、巨大な竹林を前にする。
天を貫かんとする、その竹が誇る巨大な背丈。それらが放つ自然の存在感と、そして鼻腔を擽る和の匂い。
彼女は、掠れた声を漏らすことしかできなかった。
「…こりゃ、また見事なもんだ」
そう賞賛の声を漏らしながら、彼女は竹林の中に足を踏み入れる。
まるで異空間に迷い込んだかのような、全身を包む異様な気配と、そしてそれらと共に肌を伝う、竹が放つ自然の香り。
彼女はすーっ…と、大きく息を吸ったあと、それを吐いてから、再び歩き出す。
「…あれ?竹林?」
それと同時に、ある違和感を覚えながら。
――おかしい。
竹林の散策を始め、数分が経ってから、彼女はそう疑問を感じ、そして歩みを止める。
右にも、勿論左にも方向を変えず、前進を続けたまま、この散策を楽しんでいた。
…その筈だった。
「…まさか」
ハッと後ろを振り返れば、そこには最初、自分が入って来たはずの、竹林の出入り口が見えなくなっていた。
自分の周りを囲うように、高くそびえ立つ数多の竹が、彼女を見下ろしている。
やはり、迷った…という話ではなさそうだ。
「迷ってる…というより、迷わされた?どっちにしても面倒臭いな…」
空を飛んでみるか?いや、そもそも飛び方がわからない。
祟り神に飛ばせるか?それも駄目だ、今の自分に飛行能力を持った祟り神はいない。
それに、視界共有するにも…この竹以外何もない景色が前だと――
「…地面を隆起させるとか?」
そこまで考えて、彼女はいやいや…と首を振る。
もし、今"坤を創造する程度の能力"を使うとしよう、未だ鉄輪を召喚、操作しかまともに使えない自分がだ。
今の自分が立っている地面だけを隆起、そして操作といった、そんな精密動作ができるだろうか?
「それに、それしか能がないならまだしも…」
そうだ。それに、まだ使い慣れていない能力を無理して使うよりも、使い慣れている能力を使った方が確実だろう。
彼女はうんと頷いて、すぐに行動を開始する。
「さ、出番だよ」
『繧エ繝ウ繧ー繧帝ウエ繧峨○縺」』
右手に、再びギギュウと黒い球体を生成、そして圧縮するように形を変え、祟り神を召喚する。
彼女の前腕に匹敵するほどの、その巨大な身体をくねくねと揺らし、呼ばれた祟り神…百足たちは鳴き声を漏らしながら現れる。
だが、今までと違うのは、その数だ。
「おー…ここまで増やしたのは初めてかも」
どろりと、まるで間欠泉が噴き出すように、上に向けた手のひらから、黒く流動的な形で、百足たちが召喚される。
そして地面に垂れ、水が広がるように、その進行が開始された。
「満遍なくね、行ってこーいっ」
『謌ヲ髣倬幕蟋九□縺」』
10や20ではない、およそ50はいるであろう、百足たちの身体と装甲が、あっという間に地面を覆いつくし、漆黒の波を作った。
それらが一斉に、彼女の命令に従って、全力で走り出す。
――そう、竹林全てを覆う勢いで。
「さ~てさて…」
カサカサカサカサ…
百足たちが全力で走り、そして地面を蹴る音と、百足同士がぶつかって、装甲が弾かれる音。
それらが大量に、しかも同時に鳴っているせいだろう、凄まじい大音量となって、竹林全体に響き渡っていた。
「ふむふむ…」と、彼女はその、普通の人間が聞けば、不快さに眉を顰めるであろう移動音を聞いて、満足そうに微笑んで。
「これも風情があっていいねぇ」
『シャーッ…』
再び右手に球体を生成し、今度は"ミシャグジ様"を、巨大な白蛇を召喚し、それの背に寝転んで、そして目を瞑る。
百足たちの数は今も増加中だ。たとえこの竹林がどれだけ広くても、時間さえあれば、その全てを覆いつくせる。
あとはそこから、適当に命令を下して、脱出までの道標を作るだけ。
「さ~て…どうなるかな」
そう、呟いた時だった。
「ぎゃああああああッ!!!!」
百足の行進音にも負けない、幼い少女の悲鳴が聞こえたのは。
「あれはヤベェ…」
迷いの竹林。
人はこの場所をそう呼んで、滅多なことがないと訪れようとしない、そんな場所。
この竹林が何故、人を惑わせるのか…その理由は、空を埋め尽くすかのように、高くそびえ立つ竹と、青を隠す緑の葉。そして何より地面だ。
視界の全てを竹で覆い、その結果迷い込んだ人間の平衡感覚を奪う。それによって、真っすぐ歩いているつもりが、無意識に迂回してしまうことになり、その結果迷う。
だからこそ、人はこの迷いの竹林を恐れ、無暗に立ち入ろうとしない。
つまり、それでも竹林に入ってくる者は――
「やっべぇ…ダイコク様とは比べもんにならないってば…禍々しすぎるわ」
そんな迷いの竹林を、この少女は仕切っていた。
なんてことはない、人間が感覚を奪われ、そして途方にくれるであろうこの地質も、万年を生きた彼女にとっては、取るに足らないもの。
原初の神々、それらがまだ地上に降り、そして知恵と祝福を与えた時代から、彼女は生きている。
鬼の酒の味も、国作りの祖神、大国主からの祝福も、彼女は全てを知っている。
――知っているからこそ、前方の侵入者に恐れていた。
「厄の気配…だけじゃないね、ありゃあとんでもない化け物さね」
おそるおそる、その頭から生える小さな耳を向けて、少女は侵入者の動向を観察する。
最初、竹林の入り口から感じたのは、行方不明となっていた1匹の仲間…兎の気配。
だがそれを覆いつくす、押しつぶすかのような巨大な重圧と、そして濃厚な死の香り。
それに気づいた、他の兎は既に避難を終えた。しかし自分は違う、こんな幼い見た目でも、この竹林を仕切る頭なのだ。
だからこそ、勇気を振り絞って接近をしたものの。
「うへぇ…早く帰ってくんないかな」
少女――因幡てゐはそう呟いて、侵入者の腕の中で震える、同胞の兎に合掌をしながら、できるだけ気配を消した。
侵入者の容姿は、自分ほどではないが、未だ"少女"に分類されるほどの背丈だ。
稲穂のように輝く、その金色の髪に、そしてその全身を覆いつくす、濃密な神力と祟りの気配。
てゐはこれを知っている。
「荒魂…土着神か…?いやこっち来るなよ、地方に静かに住んどけよ…」
土着神とは基本的に、特定の地方で崇拝され、そしてその土地に住み着く神のことだ。
その土地にゆかりがあり、そしてより強く信仰と恐れを受け取るからこそ、その土地では無敵に近い力を誇る。
神とは畏怖を尊重する。自分を恐れてもらうため、そして信じて貰うため、神は己の最も優れた状態を、民に証明し続けなければならない。
――だというのに。
「意味わかんねー…なんで自由に行動してるんだよ…」
土地から離れ、あまつさえ、神としての存在を証明する、その神力を隠さない姿勢。
この竹林に入って来た理由もそうだが、てゐにとってはどう見ても、関わらないが吉な存在だ。
だからこそ、無干渉を決め込もうとした時だった。
彼女が、行動を開始した瞬間満ちる。
「さ、出番だよ」
――今までの神力が些末に見えるほどの、祟り神の気配。
「…っ…はっ…!?」
咄嗟に漏れた声を抑えようと、両手で叩く勢いで口をふさぐ。
なんとか声は聞かれなかった、だがそんなことは今やどうでもいい。
あの、彼女の右手に現れた、黒い光。
(なんだアレ…!あいつの眷属?いやいや…下手すりゃ、アレ単体を祭る神社が建ってもおかしくないほどの…!)
ギギュウと、その黒い球体の形が変化し、まるで粘土が練られるかのように、そして祟り神が顕在化する。
全長は30cmほど、しかしその全身を覆う装甲は、まるで鍛え上げられた鋼のように、黒く光り輝いている。
だが、その全身から溢れる厄の気配は、彼女の知る祭神と、遜色ないほどの恐ろしいもので。
そのむき出しになった鋭い牙が、ギラリと禍々しく光を放ち、そして地面に降り立つ。
それと同時に、彼女が笑いながら呟いた瞬間。
「行ってこーいっ」
『謌ヲ髣倬幕蟋九□縺」』
――そして、増殖しながらこちらに向かってきた。
「…はぇ?」
一瞬、呆気に取られた後、てゐはすぐに背中を向けた。
音?気づかれる?いや、それよりもまずは――
「待って待って待って待って!!!」
カサカサカサカサカサカサ…
嗚呼、見なくても聞こえる、あの大量に発生した百足の祟り神、それらが地面を駆ける音。
百足。そう、百足たちが、一斉にこちらに――
「勘ッ弁してよもおおおおっ!!!」
てゐは走る、全力で走る。
もはや恥も外聞もかなぐり捨て、衣服の汚れも気にせず、全力で逃走を開始した。
聞こえる、嗚呼なんて現実は残酷なのだろう。
全力で走っているというのに、百足たちの行進音が近づいてくる。
「ちょ、おま…待っ……」
みるみるうちに、その距離は縮まっていく。
水面すら走れる勢いで、てゐは足腰を全力で回転させながら、雑草を越え、石と石を渡って、そして走る。
だがそれでも、後ろから追ってくる百足たちは、更に速度をあげて近づいて来て。
そして、百足の頭がちょんっと、てゐの足裏に触れて――
「ぎゃああああああッ!!!!」
絶叫を漏らした瞬間、百足たちの動きは止まった。
「おや?誰かいるっぽい?」
ピタリ。
その絶叫に反応した彼女と、それにシンクロする形で、百足たちの進行が止まった。
それと同時に、「どうかした?」と、白蛇は首を捻って、彼女の頬に頭を擦りつける。
「うーん…とりあえず接触してみるか」
ぱしゃんと、白蛇の実体を仕舞いこんだ後、彼女は百足たちに「案内よろしく」と命令を下す。
そして「こっちの方です」と言わんばかりに、全方位に広がっていた百足たちが、声の発生源に向けて一直線に、隊列を組み直して道標を作った。
うねうねと揺れる、その黒い一本道を眺めながら、彼女はそれらが示す、竹林の先を見つめた。
――なるほど。
「ふむふむ、こっちかぁ」
首と肩に巻き付く形で、足を伝って近づいてきた1匹の百足の頭を撫でながら、彼女は竹林を歩いていく。
彼女自身、まだ気づいていない竹林の構造、本人が認識できないほど、ほんの少し傾斜した地面による平衡感覚の妨害。
しかし今は百足たちの目印がある、いくら地面が偏っていようと、それを頼りにすれば迷うことはない。
そしてぴょんぴょんと、彼女は機嫌よくスキップを繰り返しながら移動を続ける。
そうしてしばらく経ってから、ようやく目的地に到着した。
「おっ?」
「…やっべぇ~」
ガサガサと雑草を分けて、目の前の広い空間に出ると、そこには丁度、百足たちに包囲されていた謎の人物を見つけた。
それから感じる妖力、そして見た目から、彼女は先ほどの悲鳴の正体が、彼女なのだろうと確信した。
一方少女――てゐは目の前の至近距離に現れた、その祟り神たちを交互にチラチラと見て、そして両手を上げて。
苦笑いを零しながら、続けた。
「いや~…はは、勘弁して欲しいです~…って」
「いや何もしないって」
心外である。
しかし「この子の心配もわかる」…と、彼女はあくまでも冷静に、そして物腰を柔らかく意識して目を合わせる。
ふわふわの、頭から生える純白の耳、そして全身を包む、ピンク色のワンピース。
この少女も、"彼"の知識にあった。
――因幡てゐ、ここで会えるとは。
「私は洩矢諏訪子、一応神様だよ」
「…知ってる、こっちは因幡てゐ」
自己紹介を終え、互いに警戒心を解く。
そして、彼女はうーん…と首を捻り、そして続ける。
「まぁ安心しなよ。そっちが私を害そうとしない限り、こっちからは手を出さないから」
「いやさっき思いっ切り百足…」
「なんか言った?」
「いえ?気のせいでは?」
…いい性格をしているようだ。
じーっと目を向けて、腕を組んで眉をひそめると、彼女は調子よくぴゅーっと口笛を吹いて、手を頭の後ろで組みながら目を背けた。
さっきまで、自分を恐れていたようには見えない。
「まぁいいや…ところで、この子君の仲間だよね?」
「おっ?いやぁこれはありがたく…」
「…ホント肝据わってるよね君」
片手で持っていた兎を預け、そして「助かった…」と言わんばかりに身体を震えさせる兎を見て、てゐは「ごめんねぇ」と話しかけながら、頭を撫でていた。
…いくら「手は出さないから安心して」と言ったとはいえ、ここまで気を許すだろうか?彼女はそう疑問を覚える。
だがすぐに納得した。いや、てゐはわかっているのだろう。本当に目の前の存在が、自分を害する気はないのだと。
そしてこの程度の軽口ならば、彼女は何も気にしないとも。それはひとえに、生きてきた年数が違うから。
長く生きた者の、生存本能と、そして勘。
「で、結局何の用でここに来たのさ?言っとくけどここ、マジで何にもないよ」
「うーん…兎を返しに来た、ってだけなんだよねぶっちゃけ。本当に何もないの?」
「ないね、強いて言えば空き家だけど…特に面白いものは…」
「…空き家?」
――"彼"の知識が、強くそれに反応を示した。
竹林、空き家、そして目の前の少女…因幡てゐ。
「…竹林、そうか…」
迷いの竹林。そしてそこに建っている建物といえば、"アレ"しかないだろう。
その正体に気づき、彼女は、"彼"は再び興奮を隠さず、ニヤリと笑って顎を摩る。
ゾクリと、彼女の気配が変わったのを感じたのか、てゐは首を傾げて聞く。
「どした?」
「その空き家…ってどこにあるの?」
「…え?マジ?いや…本当にただの空き家だよ?宝も人も何も…」
「命令。早く私をそこに案内して」
「…わかりましたよ」
「祟っちゃうぞ」
「わかったってば!」
彼女は再び右手に、あの百足を召喚するときの祟り玉を発生させながら、そう急かす。
てゐは、もう抵抗は諦めたのか、やれやれと首を振って、一足先に歩き出した。
その様子を見て、「よし」と彼女は出そうとしていた百足を仕舞い、そして両手を自由にして。
彼女は、目の前のてゐを追う。
「全く…物好きな神様もいたもんだ、あんた土着神だろう」
「へぇ、そこまでわかるんだ?やっぱ年長者の知恵ってやつ?」
「まぁね、でもあんたほど禍々しい気配を持ったのは初めて。…いや凄いね、ダイコク様も吃驚するだろうよ」
ダイコク様。
彼女はてゐの言うその人名…いや、神名を聞いて、やはりと確信を深めた。
因幡てゐ。彼女はどうやら、土着神として誕生したばかりの、自分よりも遥か長い時を生きているらしい。
見た目は幼いが、確かに言葉の節々に、長生きした者特有の老獪さを感じるのだ。
「てかさ、ただの土着神がなんでこんな場所に来て、しかもそんな物騒な雰囲気醸し出してんの?」
「別に?ただふらり…と、旅がしたくてね、別に信者もいないし」
「…いや色々おかしい、って…あぁそうか」
ぴょんぴょんと、少し足場の悪くなった道を進みながら話す2人。
そしてふと訊ねた疑問に、彼女がそう返すと、てゐは何かに気づき、そして納得したのか、器用に顔だけを後ろに向けて。
彼女と目線を合わせ、そして続けた。
「あんたさぁ、あの祟り神…百足以外にどれくらいいんの?」
「さぁ?まぁ20以上はいるんじゃない?便利な配下たちだよ」
「…どうやって支配したの?」
「食べて」
ピクッ。
てゐはその言葉を聞き、その後すぐに顔色を変えて「お前マジか?」とでも言いたげな、ドン引きの表情を見せた。
その顔を見て、つい彼女は背を反らす。
「…いや荒魂だからってね…厄そのものの祟り神を?食べて?神格で調教でもなく?」
「へぇ、そんなのあるんだ」
「…あ、もういいや」
「えー?」
もうまともに考えるのは面倒臭いと、てゐはすぐにその話題を打ち切って、再び歩き出した。
彼女はそれを追いながら、そしててゐの後姿を見失わない程度に、右へ左へと視線を向けて、竹林の観察を続けた。
変わらない、相変わらずの竹、竹…そして葉の景色。しかし何故か、それでも飽きは来ない。
香りも良い、そして何より、この世界そのものが、"彼"の中では神域とされていた至上のものだから。
――思わず、声が漏れる。
「綺麗なもんだね」
「まぁね。住み心地も結構いいし、私も気に入ってるよ…っと、着いたよ」
長い長い獣道、しかし惑わず、迷わずにてゐは歩き、そして遂に目的地へ到着した。
ただの空き家だ。そう、ただの空き家で、壊れかけのボロボロの家。
だが、"彼"の心が強く跳ねる。
――嗚呼、ここは
「…ここ、か」
"彼"の知識が、歓喜の雄叫びを上げる。
壁は穴が開き、その屋根はもはや屋根ではなく、雨風どころか日光すらも防げない。
門は形すら残っておらず、その残滓を微かに、一直線に凹みのできた地面が示していた。
すぐに振り向き、「ほら、こっち」と手招きをするてゐに続いて、その空き家に彼女は入った。
「ほら、何にもないよ」
「…そうだね」
「兎たちは竹林が住処だし、私1人じゃここは広すぎる。だからこのままってわけ」
ギィ…と、軋む音を立てながら、壁の木が剥がれ、そして自重に耐えられなくなって落ちる。
そして、彼女は膝を曲げ、今立っている地面に触れて、その硬く冷たい土に「あぁ…」と声を漏らした。
――なるほど、壁だけでなく、そもそも土が悪い。
「これは、中々大変そうだ」
触れた土は硬く、柔らかさに吸水性も感じない。
これではもし、雨が降って地面が濡れた場合、水を綺麗に吸い込むことができず、そもそも植物が育たない。
それに迷いの竹林は、竹が生えている地面はまだしも…
「で、どうすんの?一応あんたの頼みで連れてきたけど…」
「そうだねぇ…」
彼女はそう言って、目の前の土、そして崩れたこの空き家に目線を向け、そして考える。
諏訪大戦まで、まだ時間はある。それに戦力の補充も、まだまだこんなものでは足りないだろう。
このままゆっくり旅を続けてもいい、だがそれでは何かが足りない、今の自分には"変化"が必要だ。
何か、革新的な何か。それが欲しい。
(…そうだ、最初に決めてたことだ)
――今の自分には、住居が必要だ。
「てゐ、ちょっとお願いがあるんだけど」
「…なんだい」
そう言って、彼女は後ろに立っているてゐに向かって、あざとくこてんっと、首を捻ってニコリと笑う。
彼女の最初の目標、それは――
「ここに住んでもいい?」
「……………は?」
ここに、家を建てることだった。
てゐちゃん下手すりゃ幻想郷の賢者たちに匹敵する年齢ってマ?
運が良ければ日曜も出せるかも。
呪術廻戦はどこまで知ってる?
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全部わかる