【本編完結】諏訪子様になった、負け戦を回避したい   作:洩矢廻戦

3 / 147
 作者は基本的に感想は全部返す人間なので、気軽にコメントしていってくださいね。
 ワンマンアーミー、一人軍隊はロマンだよウフフ。

 あと知ってました?諏訪子様の背丈って、実は早苗よりちょっと小さいくらいなんですよ。


3話.お祟りさまと素い幡【参】

「ほーれよしよし…君はどこから来たのかな?」

 

 両手で抱きかかえる形で、彼女は今も死んだように硬直したままの、兎の姿を見てそう問う。

 すると、さっきまで硬直していたはずの、その兎はびくーん!と耳を直立させ、すぐにあわあわと身体を震えさせた。

 

(…怖がられてる…めっちゃ怖がられてる…)

 

 そう、今の彼女は土着神。数多の祟り神を支配下に置いた怪物だ。

 そんな自分に身体を掴まれ、そして楽しそうにしているのだから、兎からすればたまったものではないだろう。

 なら仕方ないか。と、彼女は納得してから、兎の頭部に視線を向けながら、続けた。

 

「ちょいちょい。そこまで怖がられると、流石に少し傷つくんだけど」

「…っ!」

「あっ!また怖がってる!」

 

 ピクピクと足を痙攣させ、まるで「あっ死んだ…」とでも思っているのか、魂が抜け落ちたかのように、兎の顔色が悪くなっていく。

 流石にこのまま放置するのは不味い、いくら今の自分が洩矢諏訪子…祟り神を統べる土着神の頂点だとしても、無垢な兎をいたずらに殺すのは御免だ。

 彼女は、兎の身体を目の高さにまで持ってきて、そして聞く。

 

「あんた、どこから来たの?」

 

 動物に何かを聞き、そして答えを教えてもらう。

 それは"彼"がいた現代社会では、フィクションの中でよく見られた恒例行事だ。

 だが、ここは現実ではない…というより、そもそもここはゲーム、フィクション100%の世界だ。

 故に、この問いにも意味がある。

 

「…」

 

 チラリ。

 兎は一瞬だけ視線を動かす。

 

「…っ!~~!!!」

「なるほど、あっちか」

 

 チラリと、先ほど左に見えた謎の竹林。

 兎はそこに目線を向けた後、兎は一瞬で目を元に戻し、その後ふるふると首を振った。

 …流石にわかる。どう見ても厄ネタそのものである、自分をかつての住処から遠ざけようとしているのだろう。

 だが見逃さない。今の一瞬で意識の内に入る、その立派な竹林に向かって、彼女は歩き出す。

 

「~~~っ!!!」

「はいはい暴れない…って」

 

 兎を器用にあやしながら、彼女は目の前にそびえ立つ、巨大な竹林を前にする。

 天を貫かんとする、その竹が誇る巨大な背丈。それらが放つ自然の存在感と、そして鼻腔を擽る和の匂い。

 彼女は、掠れた声を漏らすことしかできなかった。

 

「…こりゃ、また見事なもんだ」

 

 そう賞賛の声を漏らしながら、彼女は竹林の中に足を踏み入れる。

 まるで異空間に迷い込んだかのような、全身を包む異様な気配と、そしてそれらと共に肌を伝う、竹が放つ自然の香り。

 彼女はすーっ…と、大きく息を吸ったあと、それを吐いてから、再び歩き出す。

 

「…あれ?竹林?」

 

 それと同時に、ある違和感を覚えながら。

 

 

 

 


 

 

 

 

 ――おかしい。

 竹林の散策を始め、数分が経ってから、彼女はそう疑問を感じ、そして歩みを止める。

 右にも、勿論左にも方向を変えず、前進を続けたまま、この散策を楽しんでいた。

 …その筈だった。

 

「…まさか」

 

 ハッと後ろを振り返れば、そこには最初、自分が入って来たはずの、竹林の出入り口が見えなくなっていた。

 自分の周りを囲うように、高くそびえ立つ数多の竹が、彼女を見下ろしている。

 やはり、迷った…という話ではなさそうだ。

 

「迷ってる…というより、迷わされた?どっちにしても面倒臭いな…」

 

 空を飛んでみるか?いや、そもそも飛び方がわからない。

 祟り神に飛ばせるか?それも駄目だ、今の自分に飛行能力を持った祟り神はいない。

 それに、視界共有するにも…この竹以外何もない景色が前だと――

 

「…地面を隆起させるとか?」

 

 そこまで考えて、彼女はいやいや…と首を振る。

 もし、今"坤を創造する程度の能力"を使うとしよう、未だ鉄輪を召喚、操作しかまともに使えない自分がだ。

 今の自分が立っている地面だけを隆起、そして操作といった、そんな精密動作ができるだろうか?

 

「それに、それしか能がないならまだしも…」

 

 そうだ。それに、まだ使い慣れていない能力を無理して使うよりも、使い慣れている能力を使った方が確実だろう。

 彼女はうんと頷いて、すぐに行動を開始する。

 

「さ、出番だよ」

『繧エ繝ウ繧ー繧帝ウエ繧峨○縺」』

 

 右手に、再びギギュウと黒い球体を生成、そして圧縮するように形を変え、祟り神を召喚する。

 彼女の前腕に匹敵するほどの、その巨大な身体をくねくねと揺らし、呼ばれた祟り神…百足たちは鳴き声を漏らしながら現れる。

 だが、今までと違うのは、その数だ。

 

「おー…ここまで増やしたのは初めてかも」

 

 どろりと、まるで間欠泉が噴き出すように、上に向けた手のひらから、黒く流動的な形で、百足たちが召喚される。

 そして地面に垂れ、水が広がるように、その進行が開始された。

 

「満遍なくね、行ってこーいっ」

『謌ヲ髣倬幕蟋九□縺」』

 

 10や20ではない、およそ50はいるであろう、百足たちの身体と装甲が、あっという間に地面を覆いつくし、漆黒の波を作った。

 それらが一斉に、彼女の命令に従って、全力で走り出す。

 ――そう、竹林全てを覆う勢いで。

 

「さ~てさて…」

 

 カサカサカサカサ…

 百足たちが全力で走り、そして地面を蹴る音と、百足同士がぶつかって、装甲が弾かれる音。

 それらが大量に、しかも同時に鳴っているせいだろう、凄まじい大音量となって、竹林全体に響き渡っていた。

 「ふむふむ…」と、彼女はその、普通の人間が聞けば、不快さに眉を顰めるであろう移動音を聞いて、満足そうに微笑んで。

 

「これも風情があっていいねぇ」

『シャーッ…』

 

 再び右手に球体を生成し、今度は"ミシャグジ様"を、巨大な白蛇を召喚し、それの背に寝転んで、そして目を瞑る。

 百足たちの数は今も増加中だ。たとえこの竹林がどれだけ広くても、時間さえあれば、その全てを覆いつくせる。

 あとはそこから、適当に命令を下して、脱出までの道標を作るだけ。

 

「さ~て…どうなるかな」

 

 そう、呟いた時だった。

 

「ぎゃああああああッ!!!!」

 

 百足の行進音にも負けない、幼い少女の悲鳴が聞こえたのは。

 

 

 

 


 

 

 

 

「あれはヤベェ…」

 

 迷いの竹林。

 人はこの場所をそう呼んで、滅多なことがないと訪れようとしない、そんな場所。

 この竹林が何故、人を惑わせるのか…その理由は、空を埋め尽くすかのように、高くそびえ立つ竹と、青を隠す緑の葉。そして何より地面だ。

 視界の全てを竹で覆い、その結果迷い込んだ人間の平衡感覚を奪う。それによって、真っすぐ歩いているつもりが、無意識に迂回してしまうことになり、その結果迷う。

 だからこそ、人はこの迷いの竹林を恐れ、無暗に立ち入ろうとしない。

 つまり、それでも竹林に入ってくる者は――

 

「やっべぇ…ダイコク様とは比べもんにならないってば…禍々しすぎるわ」

 

 そんな迷いの竹林を、この少女は仕切っていた。

 なんてことはない、人間が感覚を奪われ、そして途方にくれるであろうこの地質も、万年を生きた彼女にとっては、取るに足らないもの。

 原初の神々、それらがまだ地上に降り、そして知恵と祝福を与えた時代から、彼女は生きている。

 鬼の酒の味も、国作りの祖神、大国主からの祝福も、彼女は全てを知っている。

 ――知っているからこそ、前方の侵入者に恐れていた。

 

「厄の気配…だけじゃないね、ありゃあとんでもない化け物さね」

 

 おそるおそる、その頭から生える小さな耳を向けて、少女は侵入者の動向を観察する。

 最初、竹林の入り口から感じたのは、行方不明となっていた1匹の仲間…兎の気配。

 だがそれを覆いつくす、押しつぶすかのような巨大な重圧と、そして濃厚な死の香り。

 それに気づいた、他の兎は既に避難を終えた。しかし自分は違う、こんな幼い見た目でも、この竹林を仕切る頭なのだ。

 だからこそ、勇気を振り絞って接近をしたものの。

 

「うへぇ…早く帰ってくんないかな」

 

 少女――因幡てゐはそう呟いて、侵入者の腕の中で震える、同胞の兎に合掌をしながら、できるだけ気配を消した。

 侵入者の容姿は、自分ほどではないが、未だ"少女"に分類されるほどの背丈だ。

 稲穂のように輝く、その金色の髪に、そしてその全身を覆いつくす、濃密な神力と祟りの気配。

 てゐはこれを知っている。

 

「荒魂…土着神か…?いやこっち来るなよ、地方に静かに住んどけよ…」

 

 土着神とは基本的に、特定の地方で崇拝され、そしてその土地に住み着く神のことだ。

 その土地にゆかりがあり、そしてより強く信仰と恐れを受け取るからこそ、その土地では無敵に近い力を誇る。

 神とは畏怖を尊重する。自分を恐れてもらうため、そして信じて貰うため、神は己の最も優れた状態を、民に証明し続けなければならない。

 ――だというのに。

 

「意味わかんねー…なんで自由に行動してるんだよ…」

 

 土地から離れ、あまつさえ、神としての存在を証明する、その神力を隠さない姿勢。

 この竹林に入って来た理由もそうだが、てゐにとってはどう見ても、関わらないが吉な存在だ。

 だからこそ、無干渉を決め込もうとした時だった。

 彼女が、行動を開始した瞬間満ちる。

 

「さ、出番だよ」

 

 ――今までの神力が些末に見えるほどの、祟り神の気配。

 

「…っ…はっ…!?」

 

 咄嗟に漏れた声を抑えようと、両手で叩く勢いで口をふさぐ。

 なんとか声は聞かれなかった、だがそんなことは今やどうでもいい。

 あの、彼女の右手に現れた、黒い光。

 

(なんだアレ…!あいつの眷属?いやいや…下手すりゃ、アレ単体を祭る神社が建ってもおかしくないほどの…!)

 

 ギギュウと、その黒い球体の形が変化し、まるで粘土が練られるかのように、そして祟り神が顕在化する。

 全長は30cmほど、しかしその全身を覆う装甲は、まるで鍛え上げられた鋼のように、黒く光り輝いている。

 だが、その全身から溢れる厄の気配は、彼女の知る祭神と、遜色ないほどの恐ろしいもので。

 そのむき出しになった鋭い牙が、ギラリと禍々しく光を放ち、そして地面に降り立つ。

 それと同時に、彼女が笑いながら呟いた瞬間。

 

「行ってこーいっ」

『謌ヲ髣倬幕蟋九□縺」』

 

 ――そして、増殖しながらこちらに向かってきた。

 

「…はぇ?」

 

 一瞬、呆気に取られた後、てゐはすぐに背中を向けた。

 音?気づかれる?いや、それよりもまずは――

 

「待って待って待って待って!!!」

 

 カサカサカサカサカサカサ…

 嗚呼、見なくても聞こえる、あの大量に発生した百足の祟り神、それらが地面を駆ける音。

 百足。そう、百足たちが、一斉にこちらに――

 

「勘ッ弁してよもおおおおっ!!!」

 

 てゐは走る、全力で走る。

 もはや恥も外聞もかなぐり捨て、衣服の汚れも気にせず、全力で逃走を開始した。

 聞こえる、嗚呼なんて現実は残酷なのだろう。

 全力で走っているというのに、百足たちの行進音が近づいてくる。

 

「ちょ、おま…待っ……」

 

 みるみるうちに、その距離は縮まっていく。

 水面すら走れる勢いで、てゐは足腰を全力で回転させながら、雑草を越え、石と石を渡って、そして走る。

 だがそれでも、後ろから追ってくる百足たちは、更に速度をあげて近づいて来て。

 そして、百足の頭がちょんっと、てゐの足裏に触れて――

 

「ぎゃああああああッ!!!!」

 

 絶叫を漏らした瞬間、百足たちの動きは止まった。

 

 

 

 


 

 

 

 

「おや?誰かいるっぽい?」

 

 ピタリ。

 その絶叫に反応した彼女と、それにシンクロする形で、百足たちの進行が止まった。

 それと同時に、「どうかした?」と、白蛇は首を捻って、彼女の頬に頭を擦りつける。

 

「うーん…とりあえず接触してみるか」

 

 ぱしゃんと、白蛇の実体を仕舞いこんだ後、彼女は百足たちに「案内よろしく」と命令を下す。

 そして「こっちの方です」と言わんばかりに、全方位に広がっていた百足たちが、声の発生源に向けて一直線に、隊列を組み直して道標を作った。

 うねうねと揺れる、その黒い一本道を眺めながら、彼女はそれらが示す、竹林の先を見つめた。

 ――なるほど。

 

「ふむふむ、こっちかぁ」

 

 首と肩に巻き付く形で、足を伝って近づいてきた1匹の百足の頭を撫でながら、彼女は竹林を歩いていく。

 彼女自身、まだ気づいていない竹林の構造、本人が認識できないほど、ほんの少し傾斜した地面による平衡感覚の妨害。

 しかし今は百足たちの目印がある、いくら地面が偏っていようと、それを頼りにすれば迷うことはない。

 そしてぴょんぴょんと、彼女は機嫌よくスキップを繰り返しながら移動を続ける。

 そうしてしばらく経ってから、ようやく目的地に到着した。

 

「おっ?」

「…やっべぇ~」

 

 ガサガサと雑草を分けて、目の前の広い空間に出ると、そこには丁度、百足たちに包囲されていた謎の人物を見つけた。

 それから感じる妖力、そして見た目から、彼女は先ほどの悲鳴の正体が、彼女なのだろうと確信した。

 一方少女――てゐは目の前の至近距離に現れた、その祟り神たちを交互にチラチラと見て、そして両手を上げて。

 苦笑いを零しながら、続けた。

 

「いや~…はは、勘弁して欲しいです~…って」

「いや何もしないって」

 

 心外である。

 しかし「この子の心配もわかる」…と、彼女はあくまでも冷静に、そして物腰を柔らかく意識して目を合わせる。

 ふわふわの、頭から生える純白の耳、そして全身を包む、ピンク色のワンピース。

 この少女も、"彼"の知識にあった。

 ――因幡てゐ、ここで会えるとは。

 

「私は洩矢諏訪子、一応神様だよ」

「…知ってる、こっちは因幡てゐ」

 

 自己紹介を終え、互いに警戒心を解く。

 そして、彼女はうーん…と首を捻り、そして続ける。

 

「まぁ安心しなよ。そっちが私を害そうとしない限り、こっちからは手を出さないから」

「いやさっき思いっ切り百足…」

「なんか言った?」

「いえ?気のせいでは?」

 

 …いい性格をしているようだ。

 じーっと目を向けて、腕を組んで眉をひそめると、彼女は調子よくぴゅーっと口笛を吹いて、手を頭の後ろで組みながら目を背けた。

 さっきまで、自分を恐れていたようには見えない。

 

「まぁいいや…ところで、この子君の仲間だよね?」

「おっ?いやぁこれはありがたく…」

「…ホント肝据わってるよね君」

 

 片手で持っていた兎を預け、そして「助かった…」と言わんばかりに身体を震えさせる兎を見て、てゐは「ごめんねぇ」と話しかけながら、頭を撫でていた。

 …いくら「手は出さないから安心して」と言ったとはいえ、ここまで気を許すだろうか?彼女はそう疑問を覚える。

 だがすぐに納得した。いや、てゐはわかっているのだろう。本当に目の前の存在が、自分を害する気はないのだと。

 そしてこの程度の軽口ならば、彼女は何も気にしないとも。それはひとえに、生きてきた年数が違うから。

 長く生きた者の、生存本能と、そして勘。

 

「で、結局何の用でここに来たのさ?言っとくけどここ、マジで何にもないよ」

「うーん…兎を返しに来た、ってだけなんだよねぶっちゃけ。本当に何もないの?」

「ないね、強いて言えば空き家だけど…特に面白いものは…」

「…空き家?」

 

 ――"彼"の知識が、強くそれに反応を示した。

 竹林、空き家、そして目の前の少女…因幡てゐ。

 

「…竹林、そうか…」

 

 迷いの竹林。そしてそこに建っている建物といえば、"アレ"しかないだろう。

 その正体に気づき、彼女は、"彼"は再び興奮を隠さず、ニヤリと笑って顎を摩る。

 ゾクリと、彼女の気配が変わったのを感じたのか、てゐは首を傾げて聞く。

 

「どした?」

「その空き家…ってどこにあるの?」

「…え?マジ?いや…本当にただの空き家だよ?宝も人も何も…」

「命令。早く私をそこに案内して」

「…わかりましたよ」

「祟っちゃうぞ」

「わかったってば!」

 

 彼女は再び右手に、あの百足を召喚するときの祟り玉を発生させながら、そう急かす。

 てゐは、もう抵抗は諦めたのか、やれやれと首を振って、一足先に歩き出した。

 その様子を見て、「よし」と彼女は出そうとしていた百足を仕舞い、そして両手を自由にして。

 彼女は、目の前のてゐを追う。

 

「全く…物好きな神様もいたもんだ、あんた土着神だろう」

「へぇ、そこまでわかるんだ?やっぱ年長者の知恵ってやつ?」

「まぁね、でもあんたほど禍々しい気配を持ったのは初めて。…いや凄いね、ダイコク様も吃驚するだろうよ」

 

 ダイコク様。

 彼女はてゐの言うその人名…いや、神名を聞いて、やはりと確信を深めた。

 因幡てゐ。彼女はどうやら、土着神として誕生したばかりの、自分よりも遥か長い時を生きているらしい。

 見た目は幼いが、確かに言葉の節々に、長生きした者特有の老獪さを感じるのだ。

 

「てかさ、ただの土着神がなんでこんな場所に来て、しかもそんな物騒な雰囲気醸し出してんの?」

「別に?ただふらり…と、旅がしたくてね、別に信者もいないし」

「…いや色々おかしい、って…あぁそうか」

 

 ぴょんぴょんと、少し足場の悪くなった道を進みながら話す2人。

 そしてふと訊ねた疑問に、彼女がそう返すと、てゐは何かに気づき、そして納得したのか、器用に顔だけを後ろに向けて。

 彼女と目線を合わせ、そして続けた。

 

「あんたさぁ、あの祟り神…百足以外にどれくらいいんの?」

「さぁ?まぁ20以上はいるんじゃない?便利な配下たちだよ」

「…どうやって支配したの?」

「食べて」

 

 ピクッ。

 てゐはその言葉を聞き、その後すぐに顔色を変えて「お前マジか?」とでも言いたげな、ドン引きの表情を見せた。

 その顔を見て、つい彼女は背を反らす。

 

「…いや荒魂だからってね…厄そのものの祟り神を?食べて?神格で調教でもなく?」

「へぇ、そんなのあるんだ」

「…あ、もういいや」

「えー?」

 

 もうまともに考えるのは面倒臭いと、てゐはすぐにその話題を打ち切って、再び歩き出した。

 彼女はそれを追いながら、そしててゐの後姿を見失わない程度に、右へ左へと視線を向けて、竹林の観察を続けた。

 変わらない、相変わらずの竹、竹…そして葉の景色。しかし何故か、それでも飽きは来ない。

 香りも良い、そして何より、この世界そのものが、"彼"の中では神域とされていた至上のものだから。

 ――思わず、声が漏れる。

 

「綺麗なもんだね」

「まぁね。住み心地も結構いいし、私も気に入ってるよ…っと、着いたよ」

 

 長い長い獣道、しかし惑わず、迷わずにてゐは歩き、そして遂に目的地へ到着した。

 ただの空き家だ。そう、ただの空き家で、壊れかけのボロボロの家。

 だが、"彼"の心が強く跳ねる。

 ――嗚呼、ここは()()

 

「…ここ、か」

 

 "彼"の知識が、歓喜の雄叫びを上げる。

 壁は穴が開き、その屋根はもはや屋根ではなく、雨風どころか日光すらも防げない。

 門は形すら残っておらず、その残滓を微かに、一直線に凹みのできた地面が示していた。

 すぐに振り向き、「ほら、こっち」と手招きをするてゐに続いて、その空き家に彼女は入った。

 

「ほら、何にもないよ」

「…そうだね」

「兎たちは竹林が住処だし、私1人じゃここは広すぎる。だからこのままってわけ」

 

 ギィ…と、軋む音を立てながら、壁の木が剥がれ、そして自重に耐えられなくなって落ちる。

 そして、彼女は膝を曲げ、今立っている地面に触れて、その硬く冷たい土に「あぁ…」と声を漏らした。

 ――なるほど、壁だけでなく、そもそも土が悪い。

 

「これは、中々大変そうだ」

 

 触れた土は硬く、柔らかさに吸水性も感じない。

 これではもし、雨が降って地面が濡れた場合、水を綺麗に吸い込むことができず、そもそも植物が育たない。

 それに迷いの竹林は、竹が生えている地面はまだしも…

 

「で、どうすんの?一応あんたの頼みで連れてきたけど…」

「そうだねぇ…」

 

 彼女はそう言って、目の前の土、そして崩れたこの空き家に目線を向け、そして考える。

 諏訪大戦まで、まだ時間はある。それに戦力の補充も、まだまだこんなものでは足りないだろう。

 このままゆっくり旅を続けてもいい、だがそれでは何かが足りない、今の自分には"変化"が必要だ。

 何か、革新的な何か。それが欲しい。

 

(…そうだ、最初に決めてたことだ)

 

 ――今の自分には、住居が必要だ。

 

「てゐ、ちょっとお願いがあるんだけど」

「…なんだい」

 

 そう言って、彼女は後ろに立っているてゐに向かって、あざとくこてんっと、首を捻ってニコリと笑う。

 彼女の最初の目標、それは――

 

「ここに住んでもいい?」

「……………は?」

 

 ここに、家を建てることだった。




 てゐちゃん下手すりゃ幻想郷の賢者たちに匹敵する年齢ってマ?
 運が良ければ日曜も出せるかも。

呪術廻戦はどこまで知ってる?

  • 最新の単行本(人外魔境)まで
  • アニメの内容(渋谷事変)まで
  • あまり知らない(領域展開は知ってる)
  • 全部わかる
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。