【本編完結】諏訪子様になった、負け戦を回避したい   作:洩矢廻戦

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 8日連続投稿合計で約6万文字執筆…いやぁ大変でした
 今年の夏か春の終わりくらいには完結行けそうです


7章:酔祭り
32話.あの賑やかな市場、どこに!


 時間の流れとは早いもので、あれから数週間の時が過ぎた。

 最初、この世界に生まれ落ちてから興味のあるがまま、唯一の半身であるミシャグジと旅をしていた時は、もっと時間は緩やかだったというのに。

 鮮明な目的がない時と違い、何かのために一分一秒ですら時間が惜しいと思えるようになって初めて、あっという間に時は過ぎてしまうのだ。

 諏訪子は苦笑いする。自身はほとんど覚えていないが、あの楽しい天狗との宴会もそれと同じようなもので、きっと楽しいからこそ時はすぐに過ぎる、なんと我儘なことか。

 てゐの手を放し、諏訪子は階段を下り始める。

 同時に感動の息を呑みこみ、諏訪子は目の前に広がる景色を眺めた。

 本来は御社殿とその本殿に続く、数多の建築物を並べるように配置し建築する予定だったのだが、これは他ならぬ諏訪子の要望だった。

 鏡内社もいらない、ただその分本殿を大きく、誰にも真似できないように大きく、この国で一番大きな神社を作りたいと。

 材料や塗料、何より建築のために必要な時間と人材の数々の問題は、何故か諏訪子に絶対服従の意を見せた天狗たちによって解決した。

 今までの簡素な作りのそれとは違う、木造の凝った新たな住居と、そして整備された広い道。

 まだ国と呼ぶには小さいそれ、しかし神が鎮座するに相応しい社は既に。

 

 たった一週間で、この()()神社は完成したのだ。

 

 数十mはある、かつて前世で見た学校の運動場のように広いそれ。

 広場にはびっしりと草が生い茂っており、参拝のために用意された石のタイル。

 まさにかつて前世で夢見た"幻想郷の神社"と呼ぶべきものであり。

 そして何より、これだ。

 

「おお…洩矢神様…」

「ふむ、良き忠誠心であるぞ」

 

 名実ともに神となり、そして敬われ、畏れられる。

 

 ぶっちゃけ諏訪子は調子に乗っていた。

 

 それはもう見事などや顔であり、そして思わず殴りたくなるような愛嬌(?)もある。

 歩けば感嘆、座れば畏怖、歩く姿は土着神。

 神社へ繋がる階段を下りるだけで、それに気づいた()の人間はすぐに気づく。

 一斉に顔をほころばせ、純粋な信仰と一握りの恐怖、それらが諏訪子の持つ異能、神力に瘴気を更に上の物へと引き上げる。

 最初は神としての振る舞い方もよくわからず、内心でびくびく震えながらも民と向き合っていたのも数日だけ。

 その後はまるで嘘のように、こうしてルンルンと鼻歌を歌いながら里を徘徊するまでに至り――

 

「……おっ」

 

 時にひれ伏す者、時に手を振って恐れ知らずに会釈をする者。

 それらに変わらずどや顔のまま、片手を上げて答えてを繰り返してしばらく、人影の中に知った者の姿を見る。

 諏訪子は今まで以上の笑顔を見せ「よっ!」とまるで友人に語り掛けるような口調で、話しかける。

 

「メリー、おはよっ」

「あぁ、おはよう」

 

 遠い未来からの迷い人、マエリベリー・ハーンがそこにいた。

 最初であった時、現代の服装で行動を共にしていた彼女も、もう数週間の慣れが来たおかげで、この時代に合った装束で過ごすのも慣れたらしい。

 初めて装束に腕を通した時は、歩くので精一杯だったというのに。

 懐かしいあの頃を思い出しながら、諏訪子は笑って。

 

「今日も盛り上がってるねぇ」

「そうねぇ。前までと違って天狗たちが山に入れてくれるようになったし、それのおかげかしら」

「勿体ないよねぇ、人間の方がそういうの向いてるのに、天狗が独占してたんだから」

 

 人間と神、その格差を感じない諏訪子とマエリベリーの穏やかな会話。

 里の人間たちは最初、それを微笑ましいという表情で眺め、そしてすぐに自分のやるべき仕事に集中する。

 この光景も既に慣れたもので、里の人間たちにとっては、マエリベリーを含む特定の人間を諏訪子が"お気に入り"として寵愛するのだ。

 神に気に入られたからといって、態度が尊大になったりするわけでも、彼女たちにだけ特別な施しをするわけでもない。

 本当にただのお気に入りであり、楽しく会話をして終わりか、もしくは一緒に散歩をするだけ…本当にこれだけだ。

 一応目で見て判別できるようにと、里の人間たちは普通、直衣(のうし)に似た簡素な純白の衣服を身に纏っているが、マエリベリーのようなお気に入りは別。

 諏訪子が普段着ている、身体の一部と言ってもいい壺装束に近い、動きやすくも特別な装飾を取り付けた専用の服だ。

 ちなみにマエリベリー以外にもお気に入りは三人ほどいるが、これはあからさまなマエリベリーのみの特別扱いを誤魔化すためのカモフラージュと言ってもいい。

 実際に諏訪子が気に入っている人間は、この未来から来た少女一人なのだ。

 

「じゃあさ、今日もせっかくだし採りに行こうか」

「…あれ、まだあれが実るのは早いと思…ってそうか、確か…」

「そーゆーこと!神社はてゐが見張ってるしさ、行こうよ」

 

 ちなみにだが、この諏訪大国(仮)におけるてゐの扱いはかなりのものだ。

 親から子に、そして子が新たな子にと知識を口で伝えていき、そして物語は紡がれる。

 そうしてある一定数の博識な人間たちが、神代の物語を暗記し、そしてそこにいた者の名に気づくことができる。

 つまり気づかれたのである。因幡てゐはかのダイコク様からの祝福を受けた"因幡の白兎"であることを。

 そんな彼女がいるのだ。もはやこの国も安泰であると満足する者もいた。

 しかし同時に一抹の不安が生じる、勿論それはIFの話であり現実味もない、しかし決して無視はできない可能性の話だ。

 もし彼女がこの国を、洩矢神を見捨てた場合はどうなるのか。

 しかしそのような不安も、時が経つにつれて噓のように消えていった。

 彼女の手を取り、笑顔で里を歩く諏訪子と、呆れながらもその手を払おうとはしないてゐ。

 ある時は祭壇上で、堂々と座る諏訪子の後ろに控える形で座っているてゐ。

 そしてある時、お気に入りの人間は決して入れない本殿に、諏訪子に招かれて入っていく様子も見られたからだ。

 洩矢神は因幡の白兎と友人である。

 だが洩矢神が見せる表情と、それに応える態度からしてもしや――

 

「……くちゅっ」

 

 噂をするとなんとやら。

 神社の掃除中であった幸運の兎はくしゃみを一つ。

 

「それじゃあしゅっぱーつ!」

 

 噂をされてるもう一方、諏訪子はそれに気づくことなく。

 マエリベリーの手を取って、同時に駆け出しながら笑みを浮かべる。

 もはや名物となったそれ、諏訪子はこうして、マエリベリーを連れてある場所に連れていくのだ。

 その場所がどこにあるか、もしくは何をしに行っているのかを詳しく知る者はいない、つまり二人だけの秘密だ。

 諏訪子が次第に、駆け足から本気の疾走へと変わり、そして同時に祟り神を呼び出しそれに飛び乗る。

 エイの形をした祟り神に、マエリベリーも同じく飛び乗ったのを確認して、その速度を更に上げる。

 遥か上空で、先ほどまで自分がいた場所を見下ろせる位置に着き、マエリベリーは呟いた。

 

「もうこんなに大きくなったのね」

「だね、しかもまだ数週間だよ?信じられる?」

「いいえ。…ふふ、天狗のマンパワー様様ね」

 

 空から真っすぐ見下ろせば、その光景の素晴らしさがよくわかる。

 ズレも欠陥も存在しない。洩矢神社を中心として、それらを囲うように木造の民家が無数に連なるその配置。

 螺旋階段のように滑らかで、しかし実際にそこに降り立てば、螺旋状に歪み、配置されたその民家に違和感を感じることはない。

 それほどまでに完成された、計算された作りとなっているのだ。

 時に大きく、時に小さく様々な家がそこにはある。だが決してその出来栄えに差異などなく、どれもが平等に職人が手掛けたものと同等の高品質なものであった。

 そして何より、それら民家を全て束ねても、足りないくらいの巨大な神社の敷地と、その前にある広場。

 

「わぁ…!」

 

 それは諏訪子か、マエリベリーか。

 思わず漏らしたその声、そしてそれが向けられた先の景色は――活気そのものであった。

 人が行き来し、誰かと会話するありふれたそれが、その規模を数百人にまで伸ばしていた。

 たった数週間でありながら、人にとっても特別なものでもないほんの僅かな時間で、ここまでの人間が集まっていたのだ。

 どこからか天狗――主に天魔が用意した数十種類の塗料や布といった宝。

 それらを譲り受けたあの日、マエリベリーはそれを思い出す。

 

 

 

 

 マエリベリーも詳しくは聞いていないが、天魔が少しだけ昔のことを、まだ天狗たちが住居を移す前の時代の話を耳にした。

 1000年前。天魔が能力で未来を見据えた頃、かつて住居としていた山を捨て、遥か遠いこの地に住むことを決めた時代だ。

 そのことを、マエリベリーは天魔の屋敷で聞いたのだ。

 その時、天魔の屋敷にいたのはマエリベリーと天魔、そして付き添いの大天狗が数名。

 諏訪子とよく行動を共にした結果、マエリベリーは天狗たちの中でもそれなりの立場を得ることができたため、こうして一人で訪問することも許されるようになった。

 

『もう1000年連絡は来てないが…鬼たちもそれなりにやってるだろうね。…まぁ、私はある意味敵前逃亡したようなものだから、おそらくあの人に殴られるだろうけど』

 

 いつものとは違う、少し着崩して楽な姿勢になった、ラフな格好の天魔はそう言った。

 鬼。そう呼ぶ妖怪のことを語る時、冷や汗をかいていたが見なかったことにした。

 他の天狗もそれは同様で、鬼という単語が出るたびに空気が冷えていたため、きっと諏訪子のと同系統の何かがあったのだろう。

 と、そんなことを懐かしそうに語っていた天魔は。

 

『その時にくす…ごほんっ、まぁ鬼たちから譲り受けた財宝があるんだ、それを使ってくれ』

 

 今くすねたと言わなかったか。

 マエリベリーはつい敬語を忘れてそう問うた、その時の天魔の悪い笑顔は忘れられない。

 どうやらこの女、マエリベリーの想像以上に心が強い妖怪らしい。

 まぁ、常に破滅の未来を強制的に見せてくる能力と向き合っていれば、これくらいの図太さは手に入れて当然と言ったらそれでおしまいだが。

 

『布に塗料…よね、これ…うわっ、これもしかして金!?』

『好きに使ってくれ。もう天狗は君たちの完全な下についた…つまりそれら全ての所有権は洩矢神に、諏訪子様に移ったのさ』

『…お酒もあるわ、しかもあの宴会で出たやつ…』

 

 天魔の言葉を聞きながら、マエリベリーは目の前に広がる宝の山に恐る恐る触れる。

 最初に目に付いた金一色の盃に触れ、そして持ち上げようとして、その盃が秘めた見た目以上の重量に度肝を抜かれた。

 おかしい。いくら金が重い金属であることで有名だとしても、この大きさとは不釣り合いじゃ…

 ――これ、もしや純金なのでは…?

 

『あぁ、それ金だよ』

『いや、知ってるけど…知ってるけどそういうわけじゃ…!』

『ん?あぁそういうこと?人間の中にはかさ増しのために銀を混ぜるのもあるらしいけど…』

『…これは?』

『金だね、純粋なまでに金だね』

『…わお』

 

 天狗、すごい。

 

『お酒も凄い…流石鬼の財宝…』

『中には私たちが作ったのもあるけどね。ところで…メリーちゃん、知ってるかい?』

 

 幾度の訪問と談笑によって、ある意味天魔と最も仲の良い存在となったマエリベリー。

 天魔としての仮面、それらを外した天魔は諏訪子にも見せない、その友好的な態度のまま。

 

『鬼を酔わせる酒…は知ってる通り、あれは呪術要素を取り入れ、まさに毒と呼ぶものに変貌したものであるわけだ』

 

 今でこそ数は少なくなったが、昔は鬼退治と呼ばれる一種の恒例行事があったのだという。

 恒例行事と呼ぶには血で濡れすぎていて、そして人間側もそのような言葉で済ませるには耐えられないくらいには、それを忌まわしく思っている。

 鬼は正々堂々を好むが、人間はその限りではない。むしろ騙し討ち上等、仕込み上等で憎い宿敵を殺そうとするだろう。

 そうして生まれたのが、かの宴会でも用意された、鬼を酔わせる呪いの酒である。

 

『それを飲ませようとしたのよね、あの日』

『では問題、それを()()()()()()()()()行ったとしたら…?』

『…?』

 

 思い返したくない、あの祟り神の群れ。その苦い記憶が蘇る。

 マエリベリーが少し憂鬱になるのも既に見通していたのか、そんな彼女の様子を見ながら面白そうに。

 

『簡単さ。なんと天狗が呪いを込めて作った場合、鬼ではなく神に効くようになるらしい』

『それって…』

『そう、()()()()()()()()()()()くらいにね』

 

 ビシッ

 空間に亀裂が走ったような感覚がした。

 それは天魔だけでなく、後ろに控えていた大天狗たちも同じで――

 

『匂いだけで?』

『然り』

『じゃあ、あの日…祟り神が暴走する前に飲んだのとは別に…諏訪子が最初にああなったのは…酒を飲んだからじゃなくて』

『多分誰かが間違えて紛れ込ませたんだろうね』

『…結局あなた(天狗)のせいじゃないッ!』

 

 なんだかんだで、マエリベリーも天魔という妖怪の性格に慣れてしまっていた。

 

 

 

 

「どうしたー?」

「いや…なんでもないわ…」

 

 悩みの元凶が何か言ってるが、マエリベリーは深く掘り返さないことにした。

 頭痛がする天魔のぶっちゃけもあったが、それでも得るものはあったのだ。

 その最たる例がこの広場…いや、市場の建設であろう。

 砂ばかりでまともに草も生えない無機質な地面。まずはそれを諏訪子の持つ能力で硬く、そして植物が生える程度に、そして土埃が舞わない程度に調整。

 その後は建設を予定している地面にだけ草を生やさず、カチカチに固めて、時に柔らかくしてを繰り返すことで天狗の建設作業を手伝う。

 つい目に入る、つい足が勝手に動く。そんな空気を目指し、出来上がった建物を装飾。

 建物と建物を布で繋ぎ、そしてそれらを赤く、時に青くと色を交互に変えることで色彩も豊かに。

 ――それはバザーと呼ばれる小さな市であった。

 

「うーんいいね、これなら国らしい」

「数週間でこれだものねぇ…これも天狗…あと鬼たちのおかげね、会ったことないけど」

「勿論、それだけじゃないけどさ」

 

 祟り神による飛行を数分。

 諏訪子が天狗の山の隠れた場所、誰も寄り付かない小さな洞窟の前に降り立ち、そして息を吸い込んで――

 

「おーいっ!百々世(ももよ)いるーっ!?」

 

 同時に、洞窟の奥から猛スピードでツルハシが投げられた。

 

「相変わらず手癖悪いなぁ」

「帰れ」

「だから鉱石分けてってば、それで帰るから」

「わかった、帰れ」

「もうちょい私と会話し」

「黙れ帰れ」

 

 一方通行である。

 投げられたツルハシを、鉄輪で器用に受け止めながら、まるで野球ボールでも渡すかのような軽いノリで、それを洞窟に向けて投げ返した。

 マエリベリーはうっすらとではあるが、洞窟の奥から放たれる瘴気と、そして同じく見覚えのある瘴気にはっと息を呑む。

 

「ちょ、もしかして向こうにいるの…」

「ん。そうだよ?多分当たってる、というか見るのは初めてだったね…ってお?」

 

 諏訪子の視線の先、マエリベリーが同じように再び洞窟を見ると、そこには目的の少女が立っていた。

 不機嫌。まさにその言葉が相応しいというか、それ以外の感情が存在しないようなしかめっ面であり、それは諏訪子だけでなくマエリベリーにも向けられていた。

 一言。

 

「…お前、誰だよ」

「私の友達。言っとくけど手出したら許さないからね」

「…チッ」

 

 四肢に付けられたオレンジのリボンは、かつての自分であった過去を醸しているのだろうか。

 目の前で一瞬とはいえ、百々世はマエリベリーに対し悪意を向けた。

 それは勿論、マエリベリーをどうという単純なものではなく打算。マエリベリーという少女が諏訪子の弱点になるかの思惑だった。

 だが諏訪子に言われるよりも先に、百々世はその愚かな考えを自分で消した。

 忌まわしい、憎いほどに理解しているのだ。自分などでは、洩矢諏訪子という格上をどうにかできる力はないと。

 しかし彼女は妖怪である。それも龍を喰らう最恐の妖怪、それの上位種への転生体。

 魂に沁み込んだ、妖怪故の悪意は、諏訪子という格上に植え付けられた恐怖よりも上であった。

 

「私としては、他の子とも仲良くして欲しいんだけどなぁ」

「余計な世話だ、死ね」

「ひっどぉ」

 

 大百足が残した呪いは、どうやら想像以上にきついらしい。

 時たまに、こうして鉱石を貰いにやって来た時に何度か、理性を失い自分を殺そうとしたこともある。

 転生、生まれ変わっても尚憎悪を向けてくるか――

 諏訪子は苦笑いをして。

 

「じゃ、鉱石は貰ったから帰るよ」

「……いいの?」

 

 まるで汚物を相手にしているかのような視線、そして鉱石を渡す際の大げさな動作。

 あらゆる仕草に、百々世…否、大百足の憎悪が宿っているその一連の流れを見たマエリベリーはそう聞く。

 大百足。それも退治されたはずの大妖怪が、今は幼いとはいえ、才能だけなら間違いなく上のものとして復活しているのだ。

 マエリベリーの心配も当然であり、そして万が一彼女が他の天狗にバレた際の問題もある。

 だが、それでも諏訪子は気にしない。

 

「天魔には既に話を通してある。それに彼女がこうして自分を憎んでる…風に思い込んでるのは彼女の前世…大百足が悪いからね」

「じゃあどうするの?大百足はもう倒したんだし…」

「メリー、簡単な話だよ」

 

 目には目を、歯には歯を。

 

「呪いには呪い。瘴気に匹敵する何かをぶつければ、大百足の面倒な遺産も勝手に消えるさ」

「呪いって…」

「これは持論だけどね」

 

 呪いには、呪いをぶつけるのみ。

 

「――愛ほど歪んだ呪いはないよ」

 

 今も目の前で放たれる瘴気と、純粋なまでに憎悪に染まった百々世の視線。

 それらを受けて、それ以上に立ち上る瘴気を身体から発しながらも、諏訪子はそう言った。

 負の感情を、祟りを携える彼女が、愛で解決すると、そう言ったのだ。

 

「あぁそうだ、百々世」

 

 最後に、諏訪子は祟り神に乗りながら、百々世に問う。

 

(めぐむ)は元気?」

 

 あの、見習いの小さな天狗の少女。

 何故今、ここで彼女の名前が出てくるのか、諏訪子の横顔をマエリベリーは見る。

 だがそれよりも早く、百々世が先に口を開き。

 

「――誰だっけ?」

「…ふぅん?」

 

 何故か、諏訪子は笑っていた。

 

 

 

 


 

 

 

 

 突然だが、不審者とはどのような者を指す言葉だろう?

 マエリベリーはこの問いに、まずは空気の違いだと答えるだろう。

 不審者と呼ばれる人間は、例外なく"普通"とはかけ離れた、言葉では表せない何か歪な気配を持っている。

 不謹慎な例えではあるが、もし街中を様々な人間が歩いていると想定して、その中に通り魔がいるとしよう。

 それはどのような空気を、気配を持って生きているだろうか?まず最初に出てくるのは殺気だ。

 人を害そうと考える者、何も考えずあるがままを生きる一般人、その違いは想像以上に目立つのだ。

 あとは衣服であろう。つまり、今から自分は悪いことをします…と宣言するような格好である。

 そうなると顔を、肌を必要以上に見せないような厚着であり、色も目立たない黒や茶といったものも選ばれがちである。

 つまり要約すると、不審者とは「周りとは違う気配」と「衣服の特徴」が当てはまるのである。

 

 

 

 

「フフフ…!なんて将来性の高い市場なのかしら!」

 

 諏訪子は絶句していた。

 マエリベリーも絶句してた。

 てゐも額を手で押さえて絶句していた。

 市場にいる人間たちはどうやら、最初から見えていないようであり、それが今ではとても羨ましい。

 とにかく絶句をしている諏訪子一向の前で、それは一人で語りだす。

 

「あっはっは!天狗風情がと見下してはいたけど…なかなかどうして…!」

 

 その少女は、まさに不審者であった。

 活気に溢れる市場の中心で、誰にも相手をされていない、というより一人で完結している彼女は、傲慢で自己完結した納得と理解の、見るに堪えない空気を醸し出している。

 更に服装、全身を虹色カラーで染め上げ、数多のジッパーで繋がれた奇抜すぎるそのファッション。

 

「……さて」

 

 おそらくは、というよりほとんど確定で神だ。

 下手をすれば今まで以上の、それどころか今の諏訪子よりも上らしいそのオーラを前にしても、何故かマエリベリーは畏怖の感情が湧かなかった。

 こちらに気づいた彼女は、諏訪子たちの内心など知ったことではないと、腰に手を置き、見下すように上体を反らして、言う。

 

「光栄に思え…この市場は私が君臨するにふさわ」

「やれっミシャグジ様」

「あ、ちょま…」

 

 ――ばくんっ

 市場の神、商売の神、無主物の神。

 天弓(てんきゅう)千亦(ちまた)との邂逅は、今まで以上に波乱の物であったという。




 洩矢神社
本作の諏訪子様のはっちゃけ、天狗たちの力を惜しみなく使ったことにより本来の守谷神社の大きさと比べ2.5乗はあります(適当)
まぁでかい、すっごくでかい。でかすぎて掃除が大変なので未来で早苗は泣くかもしれない。
…ま、なんとかなるか(GJ並感)

 誤字報告毎回助かってます。

呪術廻戦はどこまで知ってる?

  • 最新の単行本(人外魔境)まで
  • アニメの内容(渋谷事変)まで
  • あまり知らない(領域展開は知ってる)
  • 全部わかる
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