【本編完結】諏訪子様になった、負け戦を回避したい   作:洩矢廻戦

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 モモがメグしょってやってきたぜェグヘヘヘヘヘ…


33話.吉兆

 天狗の山と呼ばれるその場所は、正確には三つの山が連なって出来ている。

 その中でも一番小さな山、その高所にひっそりと存在する洞窟には、今まで誰も気づけなかった財宝の海があった。

 神代の時に誕生し、龍を喰らい成長し続けた大百足が、その長い生涯をかけて作り上げた、生きる鉱山と言ってもいい。

 洞窟の壁を傷つければ、一呼吸するうちにまるで、人の身体がかさぶたを作るかのように躍動し、その傷から全く新しい鉱石が生まれ落ちる。

 四方八方が金銀そのもの、赤から紫色とりどりの宝石が今も尚新しく生み出されており、そして限りなく膨張を続けている。

 大自然そのもの、そしてどこまでも濁った相反するおどろおどろしい妖力が練り上げる至高の鉱石は、一つ見つければ人生をもう一度遊んでやり直せるほどの価値を秘めているだろう。

 その場所は虹龍洞(こうりゅうどう)

 

「……帰れ」

「そう言われてもな…私もできればそうしたいんだが」

「……フン」

 

 ――何故私がこんな場所に…

 飯綱丸(いいづなまる)(めぐむ)は目の前で顔すら向けずにそう返す大蜈蚣に呆れを込めた息を吐く。

 自分には、天魔ほどの力も立場もない。

 勿論今までに低級の妖怪を殺したことはある、だがそれ以上の実力を持った存在、言語能力を持った妖怪と戦う際は必ず複数人で戦うように心掛けていた。

 一人前…とは口が裂けても言えないが、しかし半人前程度の実力は持っているはずだと自負しているが、しかしどう考えてもこの"任務"とは釣り合っていないように思える。

 

 諏訪子からの命令、それは百々世との定期的な接触であった。

 

 大百足がかつて住んでいた虹龍洞。そこにあの日、洩矢諏訪子という新たな神が君臨した日に。諏訪子と対峙し敗北した大百足。

 天魔や一部の人間たち…正確にはマエリベリーのみだが、大蜈蚣という新たな上位種への転生を、たった数日で果たしてしまったことはかなりの衝撃だった。

 妖怪とは基本的に、種族の強さと数が反比例するものだ。

 弱い妖怪は種を絶やさない為に、生き残るために増えやすく、そしてその分確立した強さを持って生まれる者の数は少ない。

 だが強い妖怪はその逆、例を挙げるとするならば天狗…いや、鬼の方がわかりやすいだろう。

 彼らはどれもが常軌を逸した強さを持ち、そして滅多に数が増えないのだ。

 儀式などでの第三者からの介入というものではあるが、ある確立した強者である妖怪が死に、そして再び生まれ直すという事例は確かにある。

 しかしそれでも、再び生まれ直すのに必要なのは最低でも百年、長くてそれ以上が今までの常識であった。

 ――が。

 

「…………」

「…………」

「……ンだよ」

「……いや…」

 

 大百足ではなく大蜈蚣。

 死後強まる呪いの力は、かの大妖怪を更に上の次元へと昇格させた。

 完全上位互換。上位種族への転生と倍増した筈のその瘴気は、今はただ"畜"が足りていないだけ。

 山を砕き、龍を喰らい。人を蹂躙し国を滅ぼして…そうして数日でも恐怖を集めれば、簡単に大百足時代の自分を超えられるだろう。

 

 だが、それを諏訪子は許さない。

 

 姫虫(ひめむし)百々世(ももよ)にとっての今とは、ただ耐え忍ぶ以外に価値を持たない。

 今日が駄目なら、明日が駄目なら。もし今月でも届かないなら、来月はきっと。

 そうしてずっと繰り返す。自分の身体が成長し、かの土着神を、忌々しい己の宿敵を食い殺すのだと。

 抑えきれない殺人衝動、本能を上から抑え付ける、更に巨大な諏訪子の恐怖。

 忌々しい彼女への憎しみ。そしてそれに現にこうして、情けなく屈している自分に…どうしようもない怒りが溢れる。

 ――そこに、彼女の意思はどれほど残っているのだろうか。

 龍は大百足が死んだその瞬間を、ただ何もできず遠目から見ただけ。しかしそれでも彼の者が残した膨大な恨みの気配は感じ取れた。

 こうして復讐の意を滾らせる百々世の姿を見て、龍はどうすればいいのかわからなかった。

 

「おい、大蜈蚣」

「…………」

「……も、百々世」

「なンだよ」

 

 いきなり名前を呼ぶのはどうだろうか…なんて思っていた龍とは裏腹に、百々世の態度は相変わらず冷たい。

 視線もよこさない、声にも苛立ちすら宿っていない。無関心だ。

 諏訪子のことを話題に出せば、彼女はあっという間に顔を赤く怒りで染め上げ、彼女への憎しみを、恨みを延々と吐き続ける。

 復讐を誓うその姿に、彼女特有の意思は存在しない。

 死んでも恨み、死して尚殺したいと、その怨嗟の名残が百々世の全て。

 諏訪子は自分に対し「彼女の呪いを解いて欲しい」と言った、だがどうやって?

 龍には力がない。天魔のように全てを意のままに操る話術も、諏訪子のような未来を見据えた直感もない。

 そんな自分に、何ができると言うのか。

 

「お前は普段、何をやって過ごしてるんだ」

「…?別に…」

「ほ、ほらあれだ…鉱石を掘るのは諏訪子に頼まれてだろう?ならそれ以外は」

「別に」

「……」

 

 百々世は変わらず、壁をじっと見つめたまま。

 鉱石の輝きに目を奪われているわけでも、暇だからという理由も意味もない、本当に何も考えていないようだった。

 いや、正確には考えられない。と言った方がいい。

 諏訪子と対峙した際の覇気もなく、怠惰でもなく無。まるで植物のような静けさで、同じ妖怪とは思えない。

 ただ静かに時を潰し、そして自分のものではない怨嗟の指針に従い、宿敵と刷り込まれた者へ終わらない憎悪を向け続ける。

 

 ――嗚呼、確かにこれは呪いだ。

 

 設定された記録通り、彼女はただ「そうだから」という曖昧な理由で、自分の意思なく憎んでいる。

 きっとこれは長く続かない。ずっと大百足の呪いに侵され、憎み続けていればそのうち、彼女は自分を忘れ完全に乗っ取られる。

 大百足の消えた自我は、百々世という依り代を犠牲に怨嗟と共に蘇り、そして再び天狗たちに牙を剥くだろう。

 ならば余計に思うのだ。

 

(何故私が…それに万が一が起こる前にあなたが…)

 

 ――殺せばいいじゃないか。

 

「…おい」

 

 洞窟内を一瞬にして、濃密な殺気と瘴気が支配する。

 しまったと思った時には既に遅く、龍は恐怖で震える身体を、無抵抗で百々世に押さえつけられる。

 

「お前、何考えた」

「……何も考えてない。なぁ、少し痛いから離れ」

「嘘つくなよ」

 

 抵抗なんて許されず、そのまま龍は押し倒され、必然的に彼女を見上げる形になる。

 大蜈蚣。龍を喰らう大妖怪の更に上、その一見するとただの小さな少女、それこそ龍とそう違いはないくらいの。

 それなのに、まるで人間が自分よりも大きな熊に会った時、それに似た恐怖と、諦めに似た小さな畏怖を浮かべてしまうような状況。

 両肩を押さえつける百々世の腕は、びっしりと巻き付けられたリボンに釣り合う細く美しい、少女らしい可憐な腕。

 だがそこに秘められた力に、抵抗なんてできはしない。

 

「殺気を向けたよな、お前殺そうと思っただろ。俺を」

「…………すまん」

「はッ!何も考えてないんじゃなかったのかよ?天狗ってのは変わらねぇな」

 

 ギチリと、掴まれた肩が音を立てる。

 その痛みに顔を顰め、なんとか自由な両腕、肘から手指にかけてを動かして、訴えるように百々世の胸を叩く。

 

「…放してくれ」

「嫌だね、このままお前の身体をへし折ってもいいんだぞ」

「……っ」

 

 未だ半人前の烏天狗、そして相手は伝説の大蜈蚣。

 敵う道理も希望もなく、龍の命は今、目の前で獰猛に笑う彼女が全てを握っている。

 生かすも殺すも自由。わかっている筈なのに、その後の"もしも"を想像してしまい、何かがこみ上げてくる。

 一瞬だけではあったが、誤魔化すことのできない龍の恐怖による生理反応は、肩を掴んだままの百々世にはお見通しで。

 

「ぷっ…なんだ、お前ビビってんのか」

「…!うるさいっ私は」

「なぁ、素直に言えよ。俺が怖いんだろ?なぁ」

 

 肌が触れ合うその距離、目の前にある百々世の瞳には、間違いなくあの力が宿っていた。

 いや、これは正真正銘彼女のもの。

 色は違うが輝きはまるで、黒曜石のように深く、美しい。その眼に一瞬、龍は恐怖を忘れて魅入られてしまった。

 彼女はそんな龍の姿を見て、一瞬呆けたと思ったらニヤリと、悪戯っぽく笑い。

 

「――あっ」

 

 その顔を一気に、龍の顔に近づけて。

 口を、唇を龍の――

 

「れろっ」

「ぴぎぅ!?」

 

 涙を舐められた。

 あと変な声が出た。

 

「しょっぱ…なんだ、天狗と言っても人間と変わらないじゃないか」

「お、おおおおおお前今わたっ、わたた…私のわたっ…私ののの」

 

 一気に身体を起こしたせいで、互いに頭をぶつけゴツンッと鈍い音を立てるが無視。

 元から効いてない百々世はとにかく、龍もそれなりに痛みの電気信号を脳が発し続けているが、今はそれに気を向ける余裕もない。

 恐怖からの解放やら、先ほどされた行動のせいやらで顔を真っ赤にする龍を見て、百々世は。

 

「ックク…なんだその顔」

「…!」

「ぷっ…っははははは!なんだそういう顔。お前もできるじゃないか!」

 

 彼女は笑っていた。

 先ほどの自分に似た、しかし純粋に面白いと、そういう綺麗な笑顔だと、龍はそう思った。

 今までずっと一方通行だった。

 何も話さない、抑揚もなく事務的な会話を数回して、そして鉱石を手に洞窟を去る。

 そんな日々をしばらく繰り返して、今龍は初めて百々世の笑顔を見ることができた。

 ずっと身体から発せられていた、大百足の瘴気は鳴りを潜め、今目の前から感じられるのは、姫虫百々世という一人の少女の、妖怪の力だけだった。

 ついその輝くような笑顔に、楽しそうに笑う彼女の姿に、見――

 

「どうした?」

「…いや、なんでも」

 

 危ない、ギリギリセーフ。

 間一髪で取り戻した平常心に感謝して、龍はよしと勝利の拳を握る。

 

「なぁ、天狗」

「…なんだ」

「名前、教えてくれよ」

 

 嗚呼、本当になんて皮肉なことか。

 まるで今までの態度が嘘のように、目を輝かせてそう問う彼女に、龍は苦笑いをする。

 あれだけ頑張って話しかけても、向き合おうとも無反応だった癖に。

 自分の抱いた殺意が理由で、やっと振り向いて貰えるなんて。

 

「……龍。飯綱丸龍だ」

 

 ――愛ほど歪んだ呪いはない。

 それはきっと、これ(友愛)も例外なくそうなのだろう。

 

 

 

 


 

 

 

 

「えっ!あんたが大百足倒しちゃったの!?しかも見間違いじゃなければ…土着神よね?」

「そうなのだー」

 

 日は更に昇り、もうすぐ昼食の時間である。

 そんな中、変わらず不審者を見る目のままの諏訪子一行、そしてミシャグジに下半身を飲まれたままの千亦(ちまた)

 蛇に呑まれた不格好な姿のまま、千亦は続ける。

 

「はぇ~やるわね。土着神ってあれでしょ?信仰されてる国か村から出たら、すっっごく弱体化するっていう」

「らしいね、まぁ私は今までそんなこと一回もないけど」

「……ふぅん…」

 

 諏訪子にとって、かつて住んでいた現代社会のそれと違い、この世界には娯楽がほとんど存在しない故、そうなると必然的にこれが残るのだ。

 神の身体は全能であり、その肉体に排泄機能はなく24時間このコンディションをキープできる。

 睡眠もまた同じく、神の身体で眠る意味はほとんどない。精々かつて人間だったころを思い出し、それに倣って昼寝をするくらいで。

 

 つまり、今の諏訪子にとっての最大の娯楽…それは食事である。

 

 国を繁栄させる、民のためにというのは間違いではないし、決して建前などでもない。

 だが否定できないくらいには、諏訪子が率先して作り上げた農作物のそれには、凄まじい私欲があった。

 米に栗、人参から白菜そしてぶどうに至るまで。

 本来の歴史、この時代では決して存在しない食物をどうにか作りたい…いや、自分が食べたいという理由だけで、諏訪子は奔走した。

 数えきれないほど挑戦した。そして挫折もした。

 細かな品種の違いなど、現代でぬくぬくと過ごしてきた前世を持つ諏訪子にはわからない。

 だが努力虚しく、ぶどうは今でも再現不可能のままであり、諏訪子は不貞腐れて三日くらい引きこもった。

 ちなみに、ぶどうが日本にやって来たのは奈良時代であるらしい。

 そのことをマエリベリーから聞いて、諏訪子はもう二日引きこもった。

 

「まっ大百足を倒したっていうなら納得だわ、この賑やかな市場もね」

「さっき思いっきり乗っ取ろうとしてなかった?」

「……ギクリ」

 

 天弓千亦、その正体は市場の神…または商売の神と呼ばれる存在である。

 その身体が持つ神としての肉体の完成度、そしてどこまでも存在感を示す、透き通るような神々しいそのオーラ。

 史実の神々に詳しくない諏訪子でもわかる。

 

 この少女は圧倒的な格上、それも神代の時から生きる者だ。

 

 しかしいざ戦うとなれば、ほぼ間違いなく諏訪子が勝つであろう。

 まるで他人事のように、目の前で今もミシャグジの拘束から逃れようと身体をくねらせる千亦に対し、冷静に状況を整理する。

 

(神大市比売(かみおおいちひめ)…いや道俣神(ちまたのかみ)だっけ?確か元ネタが…)

 

 諏訪子は千亦の姿を見る。

 目の前ではミシャグジと熱い激闘を繰り広げていた千亦が、息切れをして汗でびっしょりであった。ミシャグジはまだまだ元気である。

 かつて前世で見た知識、そして目の前に生きてやってきたその姿をじっと、穴が開くほどに見つめ続ける。

 まだ数週間。されど数週間で錆びつき、少し欠けてしまった己の思い出を引っ張り出して、そして整頓していく。

 一言。

 

「…タケミナカタ」

「っ」

 

 ()()()だ。

 

「ミシャグジ様」

「ぶわーっ!」

 

 諏訪子が指を鳴らすと共に、ミシャグジは身体を透明にして消えていく。

 空中で拘束されていた千亦はそのまま、ビターン!と思いっきり尻餅をつき、仰向けに倒れてしまう。

 そんな千亦を覗き込み、諏訪子は問う。

 

「タケミナカタ、八坂刀売神(ヤサカトメノカミ)…いや、八坂神奈子って知ってるよね?」

「…………」

 

 諏訪子の問いに対する千亦の表情は、微妙なものであった。

 好いてる様子は見られない、だが嫌うようなそれでもない。

 千亦は八坂神奈子という名前を聞き、しばらく悩むような表情のまま沈黙。

 そして。

 

「メンドクサイヤツ。神のくせに人間みたいにウジウジしてて、その癖人間と違ってしっかりイかれてる」

「いいとこどりじゃん」

「逆よ、逆」

 

 千亦はそう言って、まるで困ったような表情のまま。

 

「神と人間の悪いとこ。それらが絶妙に噛み合ってて…ちょ~メンドクサイ!その癖誰よりも強いんだから参るわ」

「誰よりもって?」

「文字通り。全てよ」

 

 千亦は語る。

 かつて神々が地上を見下ろす聖域。そこで起きた恐怖の災害を。

 全ての、産みの親でさえも恐れ、神々が忌むべきものとして目を逸らしたというその出来事を。

 それでいて誰よりも愛に飢え、そして人間が悲しいくらいに大好きな、そういう神なのだと。

 そう語る千亦は、どこか悲しそうであった。

 

天照大御神(アマテラスオオミカミ)も、あの子の名を呼ばないわ」

「なんで?」

「簡単。怖いからよ、自分よりも強く、そして得体の知れない怪物だもの。全く…そんなとこまでアイツ(スサノオ)に似なくてもいいのに…」

 

 話のスケールが大きすぎて、マエリベリーはとっくに機能停止中。

 てゐもまた、懐かしいあの名を、かつて列島を制覇し、そして一生を苦痛と共に過ごすことを定められた哀しき少女だったもの。

 それのことを思い、口を開く。

 

「…一つ、聞きたいことが」

「うん?あっあんたまさか因幡の白兎!?全くダイコクの奴も物好きな…」

「八坂神奈子は()、どこにいるんだ」

 

 てゐの質問が持つ意味。それを理解したのは諏訪子だけだった。

 千亦は知らない、かつて神奈子が列島を制覇したあの時、その日の夜に()()()()()()

 諏訪子は知る。今も尚闘志を燃やすその相手が、今はどこにいるのかを。

 神奈子がかつて列島を制覇し、太陽を手にしたことを諏訪子は知らない、てゐのみが神奈子の真実を、あの日の夜の()()を覚えている。

 

「あぁ、そういう…」

 

 てゐの質問に対し、千亦は「そういえば」と付け加え。

 そして、告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの子、今も封印されたままよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 そこはまるで、鏡のように美しい世界だった。

 太陽はない。故に影もない。しかし決して暗闇などない、綺麗な青空がそこにはあった。

 

「…ここは」

 

 足元を見ると、そこには普段見慣れた白い床はなく、空以上に深い青の水だった。

 しかし身体は沈まない。それどころか水で足が濡れる感触はなく、普段通りの素足がそこにある。

 雲もなく、純粋な青色の幻想世界の上空で、その者は問いかけた。

 

「ほう、この私を身に宿そうとするか」

 

 その者は、まさに天下無双。

 刀を握る自分だからこそわかる、目前に佇む少女、その肉体を構成する無駄のない配分を。

 時に刀を、槍を、あらゆる武具を携え、時に己の四肢を武器として扱える、まさに武のための身体。

 加えて本来であれば逃れることはできないパフォーマンスの低下、それらが存在しない神故の肉体構造。

 これほどの機能と膂力を持ち合わせながら、彼女は一切の身体機能を損なっていない。

 

「なるほど。刀を使うのか、お前」

 

 御柱と呼ばれ、儀式にも使われる神聖なそれを、まるで座布団のように気軽に扱い、その上に鎮座する姿。

 何者か。そしてここはどこなのか、様々な疑問が湧いて止まらない。

 だが同時に沸き立つのは、この感情は――

 

「良いものを見た、お前のことはそれなりに気に入ったぞ、だがしかし…」

 

 ――恐怖。

 

「私を利用しようなど、思い上がりも甚だしい。更に今は()()()()()()()()()()()

 

 空は快晴、水面も変わらず凪のまま。

 それなのにこの圧迫感。気配がまるで刃物になったかのような。

 肩に重しを乗せられたかのような、一切の反論を許さない暴力的なそれ。

 

「っ…っ」

 

 刀が抜けない。

 柄に手を添え、そこで止まる。

 いざ抜こうと、刀を手に戦おうという思いすらも許さず、鍛え上げた己の肉体が泣き叫ぶ。

 身体が戦闘を拒否している。こんなのは初め――

 

「一度は許す、だが二度はない」

 

 ――ごぷっ

 それが自分の口から、そして腹から直接出た音だと気づくのに、時間は必要なかった。

 数刻遅れてやっと動き出した肉体。咄嗟の回避反応すらも彼女は許さず、そのまま腹を御柱が貫き、そして致命傷を与えた。

 消えていく意識の中、なんとか見たその表情。

 同時に蘇る、直前までの記憶と知識。

 

「分を弁えろ、痴れ者が」

 

 神霊、八坂神奈子。

 数多の神々がその名を口にすらしない、神の中でも頂点に君臨するその存在。

 そうだ、自分は彼女に力を借りようと――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――ひめっ!依姫(よりひめ)ッ!」

「早く包帯を!早くッ!」

「もっと強く押さえて!傷は浅いけど油断したら…!」

「薬!とにかく箱ごと持ってこい!」

 

 激痛のおかげで、意識がはっきりするのも早かった。

 その痛みに一瞬顔を顰めるも、痛みと腹部に感じる違和感の違いから、あの世界で受けた傷ほど大きくないことはわかる。

 それでも少し…いや結構な量の肉が抉られているせいか、溢れる血液の量が半端じゃない。

 訓練以外で怪我をしたのは久しぶりかもしれないなと、自分のことを客観的に見て苦笑いをする。

 手加減された。そのことに普段なら感じる憤りも、今は一切ない。

 それどころか、数百年ぶりの安堵のため息を一つ。

 

「…届かなかった、か」

「依姫ーッ!」

「ぐぇ」

 

 ぎちぃっと嫌な音が聞こえた。

 勿論それは幻聴だし気のせい、いやむしろそうであって欲しい。

 久しぶりの痛みの感覚に酔いしれ、ぼーっと天井を眺めていただけだったのだが、どうやら傍から見れば、それは最悪の予想そのものだったらしく。

 

「駄目よ!今こんなところでお別れだなんて…!そんなの…!」

「い、痛いですお姉様…あ、ちょそこ」

「お願いッ戻ってきて依姫ーっ!」

「いぃ!?そ、その引っ張り方は駄目ですおね、あっ傷跡が…!」

 

 海どころか空を超え。

 星すら違うその場所でも、天下無双の国津神は名を轟かせることとなる。

 痛みに喘ぎながらもなんとか気絶しないで済ませる依姫、そして妹のことを必死に呼び戻そうと半狂乱の豊姫。

 姉妹の下手をすれば"穢れ"が発生しかけるそのコントのようなやり取りは、月の頭脳がやってくる数分後まで続いたという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…私は"ここ"でお前を見てるぞ。…魅せてみろ、洩矢諏訪子」




 よっちゃん
天照大神のと同じノリで降霊したら激おこプンプン丸だった。
ちなみにいくら全盛期神奈子様とはいえよっちゃんに対して圧倒的すぎじゃね?と思ったそこのあなた。
正解です。勿論タネがあります、神奈子様がよっちゃんを招き入れたのはピーのピーでありピーがピーあるつまりピーであるよっちゃんにはピーだったんですね〜
ちなみに最終章のガチネタバレになるのでここら辺はもうしばらく後にタネ明かしします。

 割と最初から呪詞の要素を入れてるので今更感もありますが
 正直に言います、領域展開を入れるかどうかで滅茶苦茶迷ってます
 勿論呪術の領域展開そのままじゃなくて、あくまでも東方Projectの世界観に合わせて作るやつです
 クロスオーバーさせてるんだからマイペンライ!とは思ってるんですが、呪詞と同じく領域名も作っちゃうか、それとも「領域展開!」だけにするか…それとも呪術要素は呪詞とキャラ設定で済ませるか…
 うーん迷います

呪術廻戦はどこまで知ってる?

  • 最新の単行本(人外魔境)まで
  • アニメの内容(渋谷事変)まで
  • あまり知らない(領域展開は知ってる)
  • 全部わかる
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