【本編完結】諏訪子様になった、負け戦を回避したい   作:洩矢廻戦

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34話.はーるばる来たぜ

「諏訪子ー…?諏訪子ー?」

「……」

「すわ…」

「…」

「し、死んでる…ッ!?」

「なわけあるか」

 

 口から魂が抜ける諏訪子。

 マエリベリーの悲痛な声にてゐはツッコミを一つ。

 そして何がどうなってこうなったのか、一切がわからず置き去りにされた千亦。

 夕方の市場はカオスである。

 

「え、何あんた神奈子のこと知ってたの?」

「…………まぁ…色々調べて?というか元から知ってたというか…」

「…ふーん?まぁいいけど…」

 

 フリーズ状態から戻って来た諏訪子が、なんとか千亦の声に反応した。

 正確には前世から知っていた。であるのだが、千亦の訝しげな顔から目を逸らして、その言葉を飲み込むことにした。

 だが諏訪子はそれを伝えるつもりはないし、あるかどうかは知らないが、自分が寿命を迎えて死んだとしても、このことを誰かに伝えるつもりは一切ない。

 別に隠す意味はないが、しかし逆にわざわざ伝える意味も必要もない以上。諏訪子は一生この秘密を抱えて生きていくだろう。

 千亦は続けて。

 

「一応言っとくと、私も神奈子が今どうなってるのかは何も知らないわ」

「……ん?いやさっき封印されたって」

 

 言っていた筈じゃ。

 そう言い切る前に、千亦は指を諏訪子に向けて突き立て。

 

「あのねぇ…じゃあ聞くけど、あまりの神力故に高天原ですら耐えられず、地上に落ちたと言われるあの八坂神奈子よ?」

「え?」

「高天原最強と謳われるタケミカヅチと、当時大陸最強と謳われたタケミナカタ…八坂神奈子の親子喧嘩は…」

「うん??」

 

 少し待て。

 諏訪子はそこまで聞いてからようやく、先ほどから感じていた空気の違い、知識の違いにやっと気づけた。

 神奈子という存在。諏訪子にとっては諏訪大戦、国譲りに至るまでの武神であると同時に、八坂刀売神やタケミナカタを元としたキャラクターであることを知っている。

 故にその元となった史実…特にタケミナカタの敗走神話も覚えていたのだが――

 

「何時だったかしらね…あの子が大陸の半分を制覇したくらいにあの人が…」

「…??」

「見ないうちに"娘が成長して嬉しい"とか、開口一番にやっちゃったのよ」

「…???」

「そしてどうなったと思う?何故か滅茶苦茶神奈子が怒って…手合わせとかそんなもんじゃないわ…あれは戦争よ…タケミカヅチのやつが互角に戦う光景なんて…なんの悪夢かしら」

「…?????」

 

 諏訪子は再びフリーズした。

 

「……やっちまったね」

 

 置いてけぼりの諏訪子の代わりに、てゐが「あ~」と憐憫の表情で呟く。

 てゐも神奈子の過去、つまりは人間と共に暮らし、そして親子の関係であったことは本人から聞いていたからだ。

 勿論千亦はそのような過去を知らない。しかし当時の戦のことは鮮明に覚えている。

 千亦もその時はこっそりと覗くだけで留まっていたが、今思い返しても勇断だったと褒めちぎってやりたい。

 あの手合わせという名の、正真正銘の人外魔境は二度と見たくない。そう何度も思う。

 建御雷神(たけみかづちのかみ)…タケミカヅチは温厚ではあるものの、しかし手合わせが好きなのだ。

 しかも強すぎた。純粋な実力ならばアマテラスよりも上、そのあまりの実力に、ダイコクも一目見ただけで負けを悟る程である。

 

 その結果、彼は神奈子に手合わせを申し込んだ。

 

 戦ではない、それでは簡単に勝負がついてしまう。

 驕りとも言えるそれは、しかし残念ながら揺るがぬ真実であり、彼は「手合わせ」という縛りの下で、出せる全力を出したいのだ。

 勿論神奈子は知ったことではない。

 相手は高天原の最終兵器。しかしだからと言って、まともに取り合ってやる必要が見つからない。

 神奈子の生まれ故郷ではある、だが結局はそれだけで「ふーんそうなんだ」でしかない。

 かつて男と共に過ごし、そして愛を知ったあの小さな家こそが、神奈子の「故郷」であるのだから。

 適当に話をして、それで帰ってもらおう。そう思い話をして――

 「私はお前の親だ」だから親子喧嘩をしよう、そう笑顔のまま告げる姿を神奈子は見た。

 

 その後は地獄であった。

 

 戦いがどこで起こったのかは、てゐは知らない。

 しかし今自分が初めて、神奈子がそのような戦いをしていたを知ったということはつまり、人間や妖怪が観測することのできない、特別な場所で行われたのだろうとてゐは推測する。

 そしてそれは正解であった。

 神々しか見ることの許されない、隔離されたある特殊な世界。それを高天原の神々…そして他ならぬ千亦もその観戦に参加したのだ。

 色々と言いたいことも、思ったこともあるが要約するとすればたった一つ。

 見なかったことにしたい。それだけだ。

 

「やばかったわ…殺気が肌を刺すなんて表現があるけど欺瞞よ、あれは文字通りの串刺しね」

「あ~…なんというかそれは…」

「やばかったわ…本当にやばかったわ……神奈子…あの子があんなに怒るところなんて初めて見たんだもの…」

「……確か高天原から落ちた後、人間に育てられたって言ってたね。…だから神奈子にとっての親はその人間なんだろうさ」

「…え。じゃあ何、親子喧嘩という体ならきっと受けてくれる!とか言ってたあいつ(タケミカヅチ)が馬鹿じゃない」

「……」

「しかもあいつ終わった後なんて言ってたと思う?"いやー本当に強かった、あっちに鈴の神具がなかったとしても勝てたか怪しい"なんて言っちゃってくれて…」

「…………」

 

 ――なんか史実と違う。

 意識が朧気になりながらも、なんとか認識の擦り合わせを終えた諏訪子の結論はこうである。

 おかしい。確かに八坂神奈子は強い、だがどうにもその実態が想像以上…というより前世のそれとは桁違いだ。

 確か八坂神奈子の元ネタとされるタケミナカタもだが、実際に手合わせを申し込んだのは、タケミナカタからの方ではなかったのか…とか。

 そもそも親子喧嘩ってなんだよ…とか。そんな戦いがなんで歴史に残ってないんだ…とか。

 色々と考えてから深呼吸。

 一言、絞り出すように。

 

「…そんな強いの?」

正ー直(しょーじき)

 

 今までに千亦が見せた表情は、どれもが様々な色があった。

 偉大な神として、市場を治めんとする荘厳な顔。

 本当に困ったと、まるで夫を気遣う妻のような顔。

 だが今目の前で、諏訪子に見せるその表情は、そのどれでもない。

 

「私はあの子の過去を知らない。何を知り、何に苦しんできたのかは何も知らないわ」

 

 天弓千亦という神にとって、八坂神奈子とは決して遠くはない縁を持つ。

 親は子に似る…なんて言葉があるが、それがまさか境遇まで似るとは思わなかった。

 かつて八岐大蛇を屠り、今までの評価が一転し英雄として崇め讃えられるようになったスサノオのそれと、神奈子は本当にそっくりだ。

 

「でもあの子が…"あの時"に見せた涙は…いや、その話はいいわ。とにかく私が言えるのは一つだけ」

 

 荘厳、相反、実力主義。

 しかし言うまでもなく――

 

「――最強」

 

 この大陸で右に出る者などいない、膨大な神力。

 そしてそれを何倍にも、何乗にも引き上げる瘴気を見ても。

 大百足を屠り、何百もの祟り神と同化し、生きる呪いそのものに成った諏訪子を見ても。

 その実力を誰よりも、諏訪子本人よりも理解した千亦はそれでも、その言葉を撤回するつもりはない。

 洩矢諏訪子では、八坂神奈子には勝てないと。

 

「諏訪子。あんたは神奈子には勝てないよ、一生ね」

「……!」

 

 嘘ではない。

 マエリベリーも、てゐも、そしてはっきりと「お前は神奈子より弱い」と言い切られた諏訪子も。

 誰もその言葉を否定しない。

 千亦もまた、彼女のことを傷つけるつもりも、そして逆にやめておけばいいという善意で言った訳でもない。

 それはただの事実であり、当然のことを告げただけ。

 疑いようのない事実、それに過ぎないのだ。

 

「……ねぇ、聞きたいことがあるんだけどさ」

 

 何とも言えない静寂の間、諏訪子がぽつりと呟いた。

 

「…神奈子は今、どこにいるの」

「知らないわよ、そんなの」

 

 対する千亦は変わらず、素っ気ない態度で。

 

「封印ってのも言葉の綾ね、どっちかと言うと休眠…?いや、うーん…眠ってるのは…いやでも変わりないから…」

 

 千亦はそう、しばらく言葉に選ぶ様子を見せてから、わかりきった答えを聞く。

 

「因幡の白兎。あんたに聞くけど、あの子が誰かに封印されるなんて想像できる?」

「ない。100ない、これは断言できる」

「でしょ?でも実際…知ってる通り神奈子は姿を消した。それも突然だ、列島制覇直後にそれだったから…もう大混乱よ」

 

 突如話を振られたてゐは、その問いに一瞬の間も置かずにそう答えた。

 

 ――お前が言うなら、きっとそれが起こるんだろうな。

 

 同時にあの日、てゐにだけ見せた顔を、てゐにだけ聞かせた言葉が、想起される。

 

「でも、誰も彼女を追えない。言葉も届かない、というか届けられない。それに気配もチンプンカンプン…探そうにも手掛かりが0なのよ?」

 

 神奈子とそれなりの付き合いだったというダイコクでさえ、神奈子の気配がさっぱりわからなくなったのだと。

 死んだ?絶対に、絶っっっっっ対にありえない。

 つまりそれ以外の方法で、神奈子はこの世界から姿を消したのだ。

 そしてそれができる者も限られ、答えは一つ。

 八坂神奈子を封印できる者、それは――

 

「そうなると消去法で封印なのよ。それも単純明快」

()()()()()()()()()()

「そう、正解」

 

 何のために?

 答えに辿り着いた少数が、その疑惑に苦しむこととなる。

 あれほどの力を持ち、何を持ち得ないのかがわからない。そんな彼女が何故姿を消したのか。

 そして何より、封印されたのが確実であるなら、真っ先に気づくものがある。

 それは――

 

「……どこに封印されてる?」

「それがわかれば苦労しないわ、そもそも自分でやるとはいえ…神を封印できる術なんてかなりの高等技術な筈。なのにそれの情報すらないのよ?どう考えてもおかしいじゃない」

「それは…まぁ」

「大体、封印したとしてどうするの?その後は?一体どうやって封印を解くの?」

「………」

「経年劣化?確かに封印術も永遠じゃない、それじゃあ余計に思うのよ。何のためにそれを?って」

 

 極々稀にだが、人間の中にも封印で命の限りを引き伸ばす者もいる。

 しかしだ、それはあくまでも一種の仮死状態に近いものであり、結局封印が解ければ寿命は人間のまま。

 決して届かぬ未来の景色、それを見たいが為に封印を選ぶだけであり、神である神奈子が望むとは思えないと、千亦はそう説明する。

 

「…………」

 

 てゐはその言葉に、何か思うことでもあるのか、少しだけ表情を暗くして――

 

「待った」

 

 諏訪子が、再び声を出す。

 てゐと千亦の会話を聞きながら、ずっと黙って考え込んでいた彼女は、何かに気づいたのだろう。

 今までの付き合いから、てゐは諏訪子が持つ憶測や経験のそれとは違う、物事の本質を捉えた鋭すぎる勘について充分に理解している。

 故に真面目に、彼女が辿り着いた仮説を聞くことにした。

 

「――大百足だ」

 

 予想外のその言葉に、てゐは聞き返す。

 

「…なんだって?」

「大百足を初めて見た時の、あの繭、あれがただの…自然の造形物だなんて思えない」

「……つまり?」

「あれは、立派な封印術だったんじゃないかって」

「……」

 

 いやそれは…と言いかけたてゐはしかし、よく考えれば割と筋が通っている言葉なことに気づく。

 八坂神奈子の捜索。それは彼女が姿を消した1000年間でも、高天原の神々でさえ成せていない。

 つまりこれは非効率、成功率は一分一厘も存在しない、そうなると最も効率的なのは、神奈子が選んだ封印術の特定だ。

 並の妖怪を封じる、消滅させる一般に流通するものではない。

 そうなると考察できるのは、失われた技術、もしくはどこかに埋もれた、隠された技術である。

 そしてそれに最も近い、龍すらも食らうあの大妖怪を、何百年も封じ続けた巨大な繭、つまりは封印術であり――

 

「完全に同じものじゃないだろうし、もしかしたらただの凄い封印ってだけで、神奈子のとは何の関係もないものかもしれない」

「……」

「でも、調べてみる価値はあると思うんだよね。それに大百足のことは前から詳しく知りたかったし」

 

 ――つくづく、この土着神には驚かされる。

 誰にも気づかれず、無表情の仮面の奥、千亦は心底感心したように内心で呟いた。

 千亦にとって、この諏訪大国はあくまでも仕事場の一つであり、市場と活気に溢れる人間が一番の優先するべき要素。

 諏訪子が誰に喧嘩を売ろうが、誰を超えようと研鑽を積もうが、正直死ぬほどどうでもいい…そう思っていた。

 それは今でも変わらない。諏訪子は確かに面白いが、結局それだけで他人である、友人ですらない。

 絆され、心を通わせるまでに至る因幡の白兎と違って、天弓千亦は間違いなく高天原の、偉大な神々の一人であるから。

 

 天弓千亦は、八坂神奈子の居場所を知っている。

 

 彼女がどのようにして眠りにつき、そして今現在、どこにいるのかも。

 大百足のことも知っている。あの封印が解けそうになっていたのも、天魔が未来に屈し、その修復作業をやめてしまったのも。

 全て見た、見たうえで見殺しにした。

 この国も、まだ小さな村だった頃から知っていた、しかしどうでもいいとすら思っていた。

 人と人が行き来し、そして流通する品物の数々、それらが生む"熱"が…市場たる所以である。

 千亦は仲間ではない。

 ただの傍観者、漁夫の利を得る為に、時と場合に身を任せ、あらゆる立場から利益のみを貪り食う。

 それが、神というものである。

 

「…なら、天魔に話を聞くべきよ」

 

 千亦はその言葉を発した、この場に存在するたった一人の人間を見た。

 諏訪子もてゐも、彼女を場違いなどと思ったりはしない、種族や力の差を度外視した、同じ視点で物を考える仲間の一人であるから。

 それができなかった者がいた。人に育てられたおかげで、力だけで線引きをする愚かさを知った少女がいた。

 だが神としての自分が、それを逆に愚かだと、お前のみが優れているのだと、そう苦しむ少女がいた。

 今この場にいる神は、そのどちらでもなく、二つの価値観を持っている。

 諏訪子の価値観は正真正銘、線引きなど存在しない。

 千亦は逆に、人間は所詮人間であると、そう思っている。

 そして後者。内心で人間を蔑む千亦に対し、マエリベリーは臆せずに問う。

 

「ねぇ、封印術の修復…継ぎ足しをするために、必要な知識は?」

「……言いたいことは分かったわ、要は大百足の封印を手入れ(メンテナンス)できるやつが、その封印について知らない筈がない…でしょ」

「え、えぇそうだけど…」

「ならそれでいいわね」

 

 マエリベリーの聞きたいこと、知りたいことを十二分に説明して、千亦は会話を終わらせた。

 頭に「?」を浮かべるマエリベリー、しかしやはり、てゐはその態度に隠された真意に気づいたのか。

 

「……まぁいい、じゃあ行くよ」

 

 一瞬、千亦に視線を向けてから、すぐに背中を向けて歩き出した。

 諏訪子もそれに続き、マエリベリーもまたそれを追って隊列を組んで歩き出した。

 再び飛行の準備に取り掛かる諏訪子たちを見ながら、千亦は内心で愚痴る。

 

(…ま、あの子が起きたらその時はその時ね。この市場だけは譲ってもらえるように、あの子にごますりでもしようかしら)

 

 諏訪子の勝利など存在しない。

 どうせあいつは負ける、そしてこの国も消えるのだから、せめて市場だけでも貰ってやろう。

 千亦はほくそ笑みながら、そう早く神奈子が目覚めることを祈っていた。

 

 

 

 


 

 

 

 

「知りませんけど」

「え」

「いやだから知らないんですよ」

 

 顔をひくつかせ、冗談だろ?と言わんばかりの諏訪子と、天魔。

 開口一番。屋敷の扉をぶち破りながら「大百足の封印について教えろー!」とノリノリでやって来た諏訪子。

 それに頭痛さえ覚えながら、天魔はゆっくりと諭すように続けた。

 

「あの、私の能力覚えてます?」

「最悪の未来を見せる、だっけ?」

「えぇ、つまり封印の手入れをしようとして、それに失敗する未来が一気に…ね?」

「……」

 

 …つまりだ。

 

「封印の欠陥箇所を直そうとして…そしたら次の瞬間目の前に、大百足が飛び出す未来が…」

「あの…」

「じゃあ別の場所を…と思ってそこを直そうとしたら…今度は山が何故か吹っ飛ぶ未来が」

「……えっと」

「まぁ、はい。要は死ぬほど試行錯誤してですね」

「ごり押しかよぉ!?」

 

 泣き崩れるような動きで、地面に倒れ込みながら諏訪子が叫ぶ。

 手掛かりが完全に消えてしまった、というかは手掛かりですらない行き当たりばったりな行動であるのだが。

 ほぼ演技の入った、諏訪子のうるさいくらいに大げさな泣き声、それをてゐが思いっきり蹴飛ばして止めてから。

 

「もう大百足は死んだ。それに封印の繭も…既に木端微塵で残穢(ざんえ)すら残ってない」

「ほう…つまり?」

 

 ぴくぴくと震え、完全にダウンした諏訪子の背中を椅子代わりにして。

 そこに座りながら、てゐは天魔と向き合う。

 

「完全に眉唾物の…何かの伝承が残ってる場所を教えて欲しい。有力なものは駄目だ、その程度で見つかるならとっくに、この1000年であいつは見つかってるからね」

「ぐ、ぐるじ…」

「そうですね…確かにてゐ殿の言う通り、馬鹿馬鹿しいと切り捨てられるような、それくらいの埋もれる弱い情報でないと」

「ちょ、てゐ…少し位置をずらし…」

 

 てゐの尻の下、バタバタと暴れる諏訪子を、マエリベリーは哀れむように見る。

 天魔もだが、てゐも完全に諏訪子の扱い方に慣れてしまったようで、完全にスルーを決めてしまっている。

 おかしい、前はもう少し畏怖の感情があったはず…

 

「そ、その…そろそろ諏訪子を解放し」

「あっ…ちょっと気持ちよくなってきたかも」

 

 マエリベリーはゴミを見るような目になった。

 一転。先ほどまであった憐憫は既に嫌悪感に変わり、マエリベリーは諏訪子に負けない演技力で、手で口を押さえてそれっぽく大げさに。

 

「……うわぁ」

「待って!?違うって!?背中に圧力がかかってマッサージみたいとかそういうの!そっちじゃないから!」

「……変態」

「あっそれは本気でグッときちゃう」

「でだ、天魔」

 

 てゐがそう言い、勢いをつけてから、一気に腰を落とすように諏訪子の背中に座り直す。

 割と本気で苦しいのか「ぐぎゃーっ!?」と少女が出してはいけない音を出しているが、マエリベリーは気付かぬフリである。

 諏訪子は落ちた。

 

「………」

「大百足に並ぶ存在の封印…そう括ればある程度の目星は付きます」

「だが、そうなると」

「えぇ、そのような危険な存在は人間が、それも何十代も続けて管理をするのがほとんど。つまり封印が劣化し、漏れ出た瘴気を探知してようやく修復作業に取り掛かった私たちとは違う…絶対に封印は解けない」

「となるとそれは論外だ。いつか必ず目覚める予定の神奈子が、永遠に封印される可能性のある手段は使わん」

「はて、そうなると…」

「とぼけるなよ」

 

 本当に目星が付いていないなら、このような無駄な会話をする筈がない。

 てゐのその言葉を聞いて、天魔は己の髪先を手で弄りながら、やれやれと呟いて。

 

「……あなたとの会話は貴重だ。だから長引かせたというのに」

「そういうのはいいんだよ、さっさと答えな」

「…ある馬鹿馬鹿しい噂がある」

 

 瞼を閉じ、まるで物語を読み聞かせるかのように、天魔はゆっくりと続ける。

 

「この世界に存在する、三つの特異点。それに倣った隠れ場所、そこに辿り着けば"かくれんぼ"では敵なし」

「長い、要点を言え」

「……彼の者はまだ、死んでいない」

 

 それは遥か昔、神代の時の話。

 それはかつて死し、彼の英雄神に祝福の剣を残した。

 そしてそれは、今も尚復讐の心に囚われ――

 

「今も生きている、死んでいないと噂される。その者の名は――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 長い長い水中での移動。

 それの終わりは拍子抜けするくらいに簡単に訪れた。

 

「おーっあれかぁ」

 

 海の香りと同時に来る波の気配、それはザバンッと音を立て、見えない壁によって防がれる。

 海月(くらげ)の形をした祟り神に乗った二人は、目の前に広がる島を見た。

 諏訪子は最初に感嘆の声を、続いて暖簾をくぐるように、祟り神から顔だけが出るようにしたてゐが、懐かしいと呟いた。

 時間にして三日。しかし海の中は景色が常に変わるため、諏訪子もてゐも暇を感じることもなく、この旅を続けることができた。

 祟り神の体内、透明な膜から完全に飛び出し、水面の上に立つようにして、諏訪子は思いっきり息を吸ってから。

 

「はーるばる来たぜ…」

 

 叫ぶ。

 

「高松ーぃ!!」

「鬼ヶ島ね」

 

 新たな舞台は小さな島。

 小さな鬼と、小さな村、御伽の国の鬼ヶ島である。




 天弓千亦
元ネタだとスサノオの奥さん。ちなみに味方じゃない。
友達でもないから情報共有もしないし、タメになるようなことを言ってるのも「そういう気分だから」程度で本当に深い意味はない。
諏訪子が負けたら市場を乗っ取れるし、なんなら後から邪魔されたくないから「運よく死んでくれねぇかなぁ」とすら思ってる。

 因幡てゐ
神奈子が姿を消す直前、彼女だけがある会話をしていた。
しかしてゐでさえ、今神奈子がどこにいるのかは知らない。だが逆にそれ以外は、何故神奈子が姿を消したのか…その理由は知っている。
何かの契約か約束か、それを今話すつもりはない。

呪術廻戦はどこまで知ってる?

  • 最新の単行本(人外魔境)まで
  • アニメの内容(渋谷事変)まで
  • あまり知らない(領域展開は知ってる)
  • 全部わかる
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