【本編完結】諏訪子様になった、負け戦を回避したい   作:洩矢廻戦

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 使役系の能力の中でも、呪霊操術の異質さというか悍ましさが作者は大好きです。
 分類的には「悪霊を味方にする」なんて能力なのに、味方になって浄化されるでも改心するでもなく、あの悍ましい見た目と性格のまま、術者のイエスマンに成り下がるのがたまらんのです。
 あと2期pvの芋虫型呪霊出す時の動き好き。


4話.坤サルタント【肆】

 迷いの竹林の朝は早い。

 朝日が昇り、そして兎たちが一斉に目を覚ます頃には、彼女は既に身体を動かし、そして竹林の中でも一際目立つ、その岩の上に立っていた。

 岩の前では、地面を覆い尽くすような形で待機する、無数の兎たちもいる。

 それらをぐるりと見回して、彼女――因幡てゐは話す。

 

「さて、今日は全員いるね?」

 

 じろり。と、てゐの向けた視線の先で、先日行方不明となっていた兎が震え、そして身を縮こまらせる。

 そう、元はと言えば、この兎が持ち込んだ厄介事だ。

 

「…!~~~!」

「あーもう怒ってないってば、あれは事故だからしょうがないって」

 

 てゐにジト目を向けられ、その全ての元凶である、先日群れからはぐれた1匹の兎は、顔を縦にブンブンと振って謝罪の意を見せる。

 その行動を片手で戒めながら、てゐは再び腰に手を当て、目の前にいる無数の兎たちに言い放つ。

 

「じゃ、しばらく物騒なお客が住むことになったけど…あんた達は無関心でいつも通り、適当にダラダラして過ごそうか」

 

 そうしてぱんっ!と手を叩いて音を鳴らし、兎たちは一斉に走り出す。

 四方八方に広がり、石を飛び越え、雑草に飛び込み、そしてたった数秒で、目の前に広がっていた白色の絨毯がなくなった。

 よし。てゐはぐーっと背を伸ばして。

 

「さて、行きますか」

 

 器用にぴょんっと飛び降り、そして歩き出す。

 右へ、左へと一切の迷いなく曲がり、直進。たまに途中で横にある、雑草の中に飛び込む形で、迷わされずに正解の道を進んでいく。

 ――それと同時に肌を刺す、膨大な神力。

 

「全く、もうちょい抑えてくんないかね……後で言うか」

 

 勝手に鳥肌が立ち、そして背筋に冷たいものが走る、"お客"が放つ祟りの気配。

 何の偶然か、彼女によって竹林から出てしまった、仲間の兎を助けてもらったのは事実。

 一応恩はある。だがそれ以上に、勘弁して欲しいというのが本音だ。

 

「っと…で、調子はどう?」

 

 竹の密集地帯を抜け、目の前に広がる、かつて空き家があった場所。

 あの、朽ち果てた木の壁、そして崩れた石垣は、今やその面影すら残っておらず、綺麗さっぱり消えていた。

 先日別れ、そして日が落ちるまでの間で、まさかここまで復興が進んでいたとは。

 

「うーん…あっ」

 

 その、金色の髪が揺れる。

 

「おはようてゐ。見ての通りさ、なかなか順調だよ」

「だろうね。私だけじゃ、どれだけの時間が必要か…わかったもんじゃないからねぇ」

 

 てゐの声に反応し、彼女は振り向き、そしてニコリと笑いながら返す。

 目の前で、こうして笑う彼女の姿は、一般的にもそれは美しい、少女の儚い笑顔…なのだが。

 その全身を包むように放たれる、彼女の"内"に潜む、大量の祟り神の放つ瘴気が、てゐの生存本能を刺激する。

 てゐは顔を歪ませて。

 

「ちょっとちょっと?そのけったいな瘴気どうにかしてくんない?」

「え?別に私は何もしてないんだけど」

「あんたの中だよ中、どいつもこいつも物騒な…」

「あ~…みんなー?もう少し抑えられるー?」

 

 てゐの文句に、最初は?が浮かんでいるような、きょとんとした顔を向けた彼女。

 すぐに解決方法を思いついたのか、自分の腹をすりすりと、軽く撫でながらそう問いかける。

 すると、あの悍ましい気配を放っていた祟り神たちの動きが、ピタリと止んで。

 

「…最初からしろっての」

「ごめんねー?」

 

 てへぺろ。

 舌を出し、両手を合わせて首を捻る彼女の、そのあざとい仕草に、てゐは再び視線を冷たくする。

 彼女――何故か今は自由に行動を続けている土着神、洩矢諏訪子に、てゐはやれやれと首を振って話を締めた。

 そしてふと、彼女の背後で、何かが動いている気配に気づく。

 メキメキと、地を割るかのような低音と、そしてぷっくりと膨れた、地面の一か所。それに視線を向けて――

 

「ん?今何を…」

「おっ、もうすぐだね」

 

 そう問うた瞬間、ボコッ!そんな音を立てながら、その膨れた地面から、緑が飛び出す。

 なんだなんだと顔を覗き込み、そして近づいたてゐは、その突然の変化に「ぅお!」と声を漏らしながら、そして後退する。

 その間も、その飛び出した緑…おそらくは壁の材料にするであろう木は、たちまち成長を続ける。

 そして、その成長具合を見て、彼女は一言零した。

 

「はぇ~すっごい…」

「いやあんたがやったんでしょうが」

 

 迷いの竹林、それに群生する竹にも負けないほどの、巨大な木。

 それが成長を止め、その生命の呼吸すらも感じるほどの、がっしりとした木特有の硬さと重さ。

 彼女は、その大木の表面を撫で、満足そうに微笑んだ。

 

「さ~てさてさて…」

「うわ、すっげぇ悪い顔してる」

 

 フフフフ…と、まるで悪戯を思いついた子供のような、それでいて悪巧みを実行する大人のような、そんな汚い笑顔をしながら、彼女は右手を挙げる。

 そして、そこに今までの祟り神を召喚する際の、あのおどろおどろしい陰の神力ではなく、純白に光る陽の神力。

 ジャキンと、鉄の擦れる音が聞こえた。

 

「洩矢の鉄の輪――」

「ちょ、あん…」

 

 てゐがその行動の意味に気づき、声をかけようとした時には遅く。

 ブンッ!と、彼女が力いっぱいそれを投げ、そして鉄輪が空中で加速し、目の前の木目掛けて突進をして。

 まるで豆腐に包丁を押し込むかのように、ぬるりと滑らかな動きで、鉄輪は大木を貫通した。

 

「さ~て…」

 

 バタン!と、バランスを崩して倒れ込んだ、その大木を、彼女は見つめる。

 そしてくるりと、彼女はこちらを覗き込み、そしてその笑みを深くする。

 その笑顔に、てゐはどうしようもなく嫌な予感がして。

 

「手伝って♡」

「え、ヤダ」

 

 案の定なその言葉に、真顔でそう返した。

 

 

 

 


 

 

 

 

 ギーコ、ギーコ。

 

「とりあえず本社はでっかく作りたくてさ、その準備運動…みたいな?」

「ふーん、そうかい」

『ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛』

 

 ギーコ、ギーコ。

 倒れた大木、その皮を剥ぐために、彼女はその作業を続けていた。

 そして、その手には、拳大の歯を持つ奇妙な見た目をした祟り神。

 

「木の加工も大変だねぇ…あくまでも作るだけ、与えるだけの神の力ってのも…割と不便なもんだよ」

「ま、そこが人間と神の違いだろうよ」

『イヤアアアアアアアア』

 

 ギーコ、ギーコ。

 彼女が呼び出した祟り神、そのむき出しになった歯茎を使い、彼女はまるで研磨をするかのように、それを木に押し付けていた。

 ひゅるる…と、樹皮がさながらかつお節のように、綺麗な渦型に巻かれていき、それと同時に祟り神の悲鳴が響く。

 

『アッ!』

 

 ギーコ、ギーコ、ギッ…

 一瞬不穏な音が鳴り、突如ビクン!と、祟り神の痙攣する身体が硬直して。

 

『キエル エッ』

「あっ、ピチュった」

 

 とうとう限界を迎えたのか、その立派な歯を持っていた祟り神は、その全身を、彼女が呼び出す際の、あの黒い光に似た形状に変え。

 まるで水風船が割れるかのように、その全身を弾けさせて、そして消えた。

 訪れる静寂。

 

「…………」

「…………」

 

 そして、てゐは思わず。といった感じに、一言だけ呟いた。

 

「…あんた、人の心とかないの?」

「ちょ、死んでない!死んでないってば!!」

 

 じと…とか、じろりとか、今まで向けられていたそれとは違う。

 言葉で表すなら…それはギラッだろう、あまりにも冷たく、そして侮蔑するかのようなその視線が、彼女の心を強く抉った。

 それに反論しながら、彼女は両腕を広げながらアピールをする。

 

「大丈夫だって!活動限界を迎えただけだから!私の中でちょっと休んでもらってるだけだってば!」

「その、他ならない活動限界を迎えさせたのはどこの誰なんだい」

「ぐ、ぐぐぐ…!」

 

 両指をピクリと震わせながら、彼女は何も言い返せずに黙り込む。

 その背後に見える、未だ加工途中の大木。それを見て、てゐは言う。

 

「大体、あんな大層な鉄の輪っかを作れるくせに、なんで普通の刃物は作れないのさ?」

「…ない」

「はい?」

「作り方わかんない…」

 

 その、左右の人差し指をツンツンと合わせて、俯きながらそう呟いた彼女に、てゐは空を見上げ、そして「…そうかい」とだけ返した。

 そうしてしばらく、もじもじとした姿勢のまま、彼女は続けた。

 

「だって…私、洩矢諏訪子といったら鉄輪だもん…鉄を作る=鉄輪だもん…」

「はいはい」

「それ以外の作り方知らないもん…地質の変え方も、植物の種類もわからないもん…」

「そうかい」

 

 ――なんか面倒臭くなってきたな。

 てゐの内心は、それだった。

 

「そもそも坤ってどこまでが坤なのさ…それに鉄輪って何で出来てるのさ…元素記号は何なのさ…」

「何を言ってるんだいあんたは」

「だから!仕方ないじゃん!」

 

 キーッ!と、腕をブンブンと上下させながら、彼女はその細長い足で地団駄を踏み、そして叫ぶ。

 その目には、うっすらと涙さえ浮かんでいた。

 

「ミシャグジ様は喋れないし!私の知識はちゃんと伝えられないし!だったら今ある物使うしかないじゃん!祟り神たちを有効活用するしかないじゃん!」

「有効活用という名の虐待じゃないか?」

「だっていい子なんだもん!可愛いんだもん!ほら!」

『菫コ縺ッ"繝溘ヮ繧ソ繧ヲ繝ュ繧ケ"縺ョ繝舌ャ繧ュ窶輔□』

「やめろそいつを出すなっ!」

 

 ゾゾゾと鳥肌の立つ腕を摩りながら、一瞬で三歩ほど離れた距離へ避難した。

 目の前で首を捻る彼女と、その足元に集合している数匹の百足。そのあざとい仕草とは逆に、辺り一帯を支配する神力は、相変わらず恐ろしい。

 

 ――これが、あと何体存在するのだろう。

 

 こんな態度で接してはいるものの、てゐは彼女が恐ろしくて仕方がない。

 

「ごめんごめん、それに丁度良かった。今から少し散歩したくてね」

「散歩だぁ?」

 

 何でそんなことを。と言いかけてすぐに、てゐはそういえばと納得をした。

 そうだ。この土着神は何を血迷ったか、信仰の中心である筈の地方を離れ、こうして物騒な瘴気を垂れ流すヤツだ。

 竹林に来た理由も含め、実力は存在感は迷惑そのものだが、彼女の目的自体は善性のもの。

 まぁこれくらいならいいか。そう内心で呟いて。

 

「はいはい、案内してあげるから付いてきな」

「やっるぅ!」

 

 飛び跳ねる勢いで右腕を上げ、そして上機嫌にスキップをする彼女に、てゐは呆れながら歩き出す。

 そして「あれ?」と、疑問に感じたことを聞いて――

 

「そういや、丁度良かった…って言ってただろ?」

「言ったね」

「あー?…それで…私がたまたま、ここに来なかったらどうするつもりだったの?」

「そうだね…もう一度百足で地面を這って…」

「よし、この話は終わりだ」

 

 

 

 


 

 

 

 

 ――嗚呼、あれが今回の被害者か。

 その言葉を漏らさなかっただけ褒めて欲しい。てゐは心底そう思う。

 

「あんた、もしかしてこれが狙いだった?」

「えー?なんのことかなー?」

「…やれやれ、これ以上物騒になってどうすんのさ」

 

 じりじりと、上空を覆う竹の葉の隙間から、差し込む夕日の光が心地よい。

 何より、こうして身を隠す草むらから香る、新鮮な緑と土の匂いも、彼女にとっては高揚の一部。

 てゐにとっては慣れたもの、しかし彼女は、"彼"の中の心が、この非日常を楽しんでいた。

 だが、それよりも――

 

「…来たよ」

「おっ?いいねいいね!」

 

 今、彼女が最も楽しみにしているのは――

 

『いま、な。ンで…え』

 

 ペタリ。

 彼女たちの視線の先で、目的のそれが、少しずつこちらへ近づいてくる。

 ぎょろりと飛び出す両目と。まるで昆虫のように、巨大で気味の悪い顔と、それを支える、アンバランスな人間の身体。

 妖怪。しかもその妖力は、群れの頭になれる素質を持った、膨大で威圧感のあるものだった。

 ――だが、彼女にとっては。

 

「じゃ、行ってくるよ」

「…ま、どっちにしろ…うちの兎たちじゃ分が悪い相手だ。むしろ助かるよ」

 

 草むらで、互いに目線は妖怪にのみ向け、そして言葉だけでやり取りを終わらせて、それぞれが別行動を開始する。

 てゐはより遠くに、草むらの更に奥の方へ、身体を隠すように後退。

 対する彼女は、そのワクワクとした表情を隠さないで、堂々と草むらから出て、妖怪の前に立つ。

 

「さぁてさてっ」

 

 突如目の前に現れた、彼女の姿に反応し、妖怪は歩みを止めて、その不気味な両目をギロリと向ける。

 対する少女は、やはり楽しみという感情を隠し切れないのか、両手を握った、俗に言うファイティングポーズを取りながら、それに答える。

 その様子を、てゐは呆れた表情のまま、草むらの奥で観察していた。

 

(嗚呼…哀れな妖怪よ、さらば………)

「君は、どんな味がするのかな?」

 

 右手を前に、そして腹の横に置く形で、引き締めた左手の指をほどき、そこに神力を発生させる。

 もはやもう見慣れた、てゐにとっては恐ろしく、そして無条件で鳥肌が立つ行動だ。

 いちいちそれを使うたびに、ビクンと震える身体は勘弁だが…彼女に言っても仕方がないので諦めることにする。

 そして、相も変わらず笑顔のままの彼女を見て。

 

(全く…敵対しなくてよかったよ、本当に)

 

 ――だが、てゐが真に驚いたのはそこではない。

 開かれた彼女の左手、そこにギギュウと、2つの球体が生成、そして変化して現れる。

 それぞれが、まるで生きた魚のように、不規則な軌道を描きながら、彼女の両隣にそれぞれ、完全な姿を見せて配置された。

 

『あア"そぼぉ…』

『イぇでネ…帰ェろ…』

 

 ぺたぺたと。そうして現れた、笠と頭部が一体化した、彼女の膝元まで届くかどうかの、異形の祟り神。

 それぞれの、笠に同化した一つ目が、それぞれ動きをピッタリと合わせて、仲良く2体が戦闘の姿勢を見せる。

 

(()()()()…しかもよく見りゃ、神力もあいつのものじゃない…)

 

 てゐは最初、彼女が己の瘴気、そして戦闘力によって他の神々を降伏させ、そして使役しているものかと思った。

 最初の疑惑はあの百足。どう見ても支配される立場には収まらない、その圧倒的な神格と瘴気。

 何より、呼び出す際の対価だ。いくら支配したとはいえ、所詮は別の人間、そして信仰を糧に生きる別次元の存在。

 それが神々。だがどうにも引っかかる、それが常日頃見せる、彼女の召喚の際の違和感だ。

 

(取り込む…支配でも調教でもなく"取り込む"か…それがあの違和感の正体ってことかね)

 

 いくら上下関係を作ったとしても、その信仰を分けてもらう…といったことは、民の意識に頼らなければ不可能だ。

 結局、それぞれが別々の信仰を得、そして存在を維持し続けるために、神の威光を証明しなければならない。

 信仰が無くなれば、神は例外なく死ぬ。だがもしも、あらゆる信仰を、文字通り1つに纏め、そして上下関係だけではない、本当の意味での一体化。 

 それの数が増え、そしてそれぞれの神への信仰が、もしあの土着神に集まるのだとすれば――

 

(こりゃ、とんでもない奴が生まれたもんだ)

「ほら、来い来~い」

 

 そんなことを思うてゐの前で、彼女は右手も解き、そしてくいっと、相手を挑発するように動かして言う。

 その仕草、何より彼女の楽しそうな顔を見て、舐められていると、そう確信した妖怪が、しゃがみ込んで。

 ――地面に、亀裂が走る。

 

『オ"あ…ッ』

 

 バゴッ!と、地面に走った亀裂が更に、より大きく迸り、そしてそれによって生まれた、凄まじい跳躍力。

 跳んで、飛んで。そして空気を切り裂きながら、妖怪は彼女に向かって突進を開始する。

 その圧倒的なスピードに、彼女が横に配置した祟り神は、両方反応が遅れてしまう。

 ――それらによる、反撃の気配はない。

 

「…フフ」

 

 距離にして、およそ1mといったところか。

 両隣に立つ、その祟り神が主の危機を感知し、そして走り出す。

 妖怪は、勝利を確信して笑う。

 てゐは、その()()に気づいて笑う。

 

「――残念♡」

 

 パチンッ。

 彼女が反撃の姿勢を見せず、笑顔のまま左指を鳴らした瞬間。

 両隣の、笠の祟り神は一瞬で消えて。

 

『あア"ッ"…?』

 

 ――バクンッ!

 彼女の腕をなぞる形で、新たに現れたミミズのような祟り神。

 それが、妖怪を一口で飲み込んだ。

 

 

 

 


 

 

 

 

「媒介なし…そのせいで、召喚の際の…あの予備動作を見切るのは至難の業」

「だね~」

「ちょっとズルくない?今更だけど」

「だね~」

「…上の空かよ」

 

 ルンルン。言葉で表すならそうだろう。

 彼女があの後、すぐにミミズのような形をした祟り神、その口内に囚われた、死にかけの妖怪に手をかざした。

 そしてズズズ…と、溶けるように身体が変化し、そして手のひらに収まる大きさの、紫に光る球体…祟り玉になった。

 てゐがその変化に驚いたのも束の間、すぐに彼女の背中をぽんっと軽く叩くように、見覚えのある祟り神が現れた。

 そしてそれに、てゐは振り向きながら声をかけ――

 

『シャーッ…!』

「あ、お前か?今日は見な、い…なと……」

 

 あの白蛇、彼女の使役する祟り神の中でも、恐らく最上位であろう"ミシャグジ様"、それが楽しそうな声を上げ。

 

 ――口から大量の祟り玉を吐き出し続けた。

 

 数は…最低でも50はあるだろうか、いや、もしかしたらそれよりも上かもしれない。

 まるで水道の蛇口のように、水の代わりに祟り玉を、ノンストップで吐き出し続けているその姿に、てゐは絶句した。

 

「いや、待…」

 

 ボトトトトト…

 まだ止まらない。いや、むしろその勢いが、更に強くなっているようにも見える。

 玉が転がり、そして元からそこにあった玉にぶつかり、そしてそれを更に転がして…

 

「…それ全部さぁ」

「うっまそ~!」

「聞いてねぇし」

 

 ひょいと手に取り、そしてまじまじと観察をして、てゐはその祟り玉からうっすらと感じる、祟り神の特有の、あの禍々しい気配に眉を顰める。

 そしてその、てゐの手にあった祟り玉を奪う形で、彼女は再び口を開けて――

 

「んあ…」

 

 ごくんと、飲み込んだ。

 

「うっま…」

「…よかったね」

 

 彼女の恍惚とした顔を見て、てゐは石の上で寝転んだまま、身体を横に向けて、彼女の食事を見守る姿勢に入った。

 ひょい、ぱくっ…と、まるで動きが鈍ることなく、ハイペースでそれを取り込み続ける彼女に、呆れるしかない。

 本当に美味しそうに食べるものだ。ただそれが、元はどのような存在だったのかは、考えたくはないが…

 

「飽きないの?それ」

「あぁこれ?実は全部味が違うんだよ?今んとこ、不味いのは経験したことないかなぁ」

「ふーん…」

 

 ――まただ。

 彼女が、あの瘴気で満たされた祟り神の幼体、それを1つずつ取り込むたびに、彼女の"内"が、更に猛り狂っている。

 人の形をした、人の悪意そのものと言ってもいいだろう、何かを信じる、純粋な信仰を鼻で笑うような、そんな禍々しくも、そして恐ろしい存在感。

 てゐが畏怖を覚えながらも、その行動を見守っている途中、彼女が新たな祟り玉を、上を向いて飲み込もうとした時。

 

「んあ…っと、こりゃあ綺麗だね」

「ん?」

 

 その、彼女のキラキラと輝く視線と、上擦ったその声。

 それに釣られて、てゐも首を上に、その視線の先を見る。

 ――星が、竹林の葉の隙間から、目を焼く様に輝いていた。

 

「…そうかい、私からすりゃ、見飽きた夜空の1つだけどね」

「ふーん」

 

 よくわからない神だ。

 非常識で、その立ち振る舞いすらも様になるほどの実力と、祟り神を統べるその威圧感も。

 そして、こうしてたまに見せる、子供のように無垢な、自然に向ける瞳も。

 

「あー…なんだかんだ言って、今幸せかも」

「そりゃよかった」

 

 上空に広がる夜空。時々竹の葉によって見えなくなるのか、その度に彼女は上体を揺らして、視線を合わせたまま、夜空を見ようと奮闘していた。

 勿論、器用に食事は続けたままだ。

 

「あーうー…竹の葉邪魔だね…」

「あの家とやらが完成したらさ、そこで食えばいいんじゃない?」

「あ、そっか」

 

 迷いの竹林、その上空に生い茂る葉は、あの空き家があった場所だけ例外で、しっかりと空が見えるようになっている。

 もしもだ。もしあの空き家が修復を完全に終わり、そして家としての機能を取り戻せば――

 

「ま、期待して待ってるよ」

 

 ぱあっと、光り輝いて見えるほどの、彼女の笑顔と食事の光景を眺めながら、てゐは聞こえない程度に、小さくそう呟いて起き上がる。

 せっかくだ、どうせなら他の兎たちも、星空観察に呼んでやろう…そう思い立った時だった。

 

「…ん?」

 

 先ほどまで寝転がっていた、その石の近く。

 そこに見えた、白色の何か。

 

「…んだこりゃ」

 

 見慣れない文字で書かれたそれ。

 誰かの残した謎の紙切れが、てゐの手のひらの中にある。




 古き良き東方二次をイメージして書いてます。

呪術廻戦はどこまで知ってる?

  • 最新の単行本(人外魔境)まで
  • アニメの内容(渋谷事変)まで
  • あまり知らない(領域展開は知ってる)
  • 全部わかる
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