【本編完結】諏訪子様になった、負け戦を回避したい 作:洩矢廻戦
分類的には「悪霊を味方にする」なんて能力なのに、味方になって浄化されるでも改心するでもなく、あの悍ましい見た目と性格のまま、術者のイエスマンに成り下がるのがたまらんのです。
あと2期pvの芋虫型呪霊出す時の動き好き。
迷いの竹林の朝は早い。
朝日が昇り、そして兎たちが一斉に目を覚ます頃には、彼女は既に身体を動かし、そして竹林の中でも一際目立つ、その岩の上に立っていた。
岩の前では、地面を覆い尽くすような形で待機する、無数の兎たちもいる。
それらをぐるりと見回して、彼女――因幡てゐは話す。
「さて、今日は全員いるね?」
じろり。と、てゐの向けた視線の先で、先日行方不明となっていた兎が震え、そして身を縮こまらせる。
そう、元はと言えば、この兎が持ち込んだ厄介事だ。
「…!~~~!」
「あーもう怒ってないってば、あれは事故だからしょうがないって」
てゐにジト目を向けられ、その全ての元凶である、先日群れからはぐれた1匹の兎は、顔を縦にブンブンと振って謝罪の意を見せる。
その行動を片手で戒めながら、てゐは再び腰に手を当て、目の前にいる無数の兎たちに言い放つ。
「じゃ、しばらく物騒なお客が住むことになったけど…あんた達は無関心でいつも通り、適当にダラダラして過ごそうか」
そうしてぱんっ!と手を叩いて音を鳴らし、兎たちは一斉に走り出す。
四方八方に広がり、石を飛び越え、雑草に飛び込み、そしてたった数秒で、目の前に広がっていた白色の絨毯がなくなった。
よし。てゐはぐーっと背を伸ばして。
「さて、行きますか」
器用にぴょんっと飛び降り、そして歩き出す。
右へ、左へと一切の迷いなく曲がり、直進。たまに途中で横にある、雑草の中に飛び込む形で、迷わされずに正解の道を進んでいく。
――それと同時に肌を刺す、膨大な神力。
「全く、もうちょい抑えてくんないかね……後で言うか」
勝手に鳥肌が立ち、そして背筋に冷たいものが走る、"お客"が放つ祟りの気配。
何の偶然か、彼女によって竹林から出てしまった、仲間の兎を助けてもらったのは事実。
一応恩はある。だがそれ以上に、勘弁して欲しいというのが本音だ。
「っと…で、調子はどう?」
竹の密集地帯を抜け、目の前に広がる、かつて空き家があった場所。
あの、朽ち果てた木の壁、そして崩れた石垣は、今やその面影すら残っておらず、綺麗さっぱり消えていた。
先日別れ、そして日が落ちるまでの間で、まさかここまで復興が進んでいたとは。
「うーん…あっ」
その、金色の髪が揺れる。
「おはようてゐ。見ての通りさ、なかなか順調だよ」
「だろうね。私だけじゃ、どれだけの時間が必要か…わかったもんじゃないからねぇ」
てゐの声に反応し、彼女は振り向き、そしてニコリと笑いながら返す。
目の前で、こうして笑う彼女の姿は、一般的にもそれは美しい、少女の儚い笑顔…なのだが。
その全身を包むように放たれる、彼女の"内"に潜む、大量の祟り神の放つ瘴気が、てゐの生存本能を刺激する。
てゐは顔を歪ませて。
「ちょっとちょっと?そのけったいな瘴気どうにかしてくんない?」
「え?別に私は何もしてないんだけど」
「あんたの中だよ中、どいつもこいつも物騒な…」
「あ~…みんなー?もう少し抑えられるー?」
てゐの文句に、最初は?が浮かんでいるような、きょとんとした顔を向けた彼女。
すぐに解決方法を思いついたのか、自分の腹をすりすりと、軽く撫でながらそう問いかける。
すると、あの悍ましい気配を放っていた祟り神たちの動きが、ピタリと止んで。
「…最初からしろっての」
「ごめんねー?」
てへぺろ。
舌を出し、両手を合わせて首を捻る彼女の、そのあざとい仕草に、てゐは再び視線を冷たくする。
彼女――何故か今は自由に行動を続けている土着神、洩矢諏訪子に、てゐはやれやれと首を振って話を締めた。
そしてふと、彼女の背後で、何かが動いている気配に気づく。
メキメキと、地を割るかのような低音と、そしてぷっくりと膨れた、地面の一か所。それに視線を向けて――
「ん?今何を…」
「おっ、もうすぐだね」
そう問うた瞬間、ボコッ!そんな音を立てながら、その膨れた地面から、緑が飛び出す。
なんだなんだと顔を覗き込み、そして近づいたてゐは、その突然の変化に「ぅお!」と声を漏らしながら、そして後退する。
その間も、その飛び出した緑…おそらくは壁の材料にするであろう木は、たちまち成長を続ける。
そして、その成長具合を見て、彼女は一言零した。
「はぇ~すっごい…」
「いやあんたがやったんでしょうが」
迷いの竹林、それに群生する竹にも負けないほどの、巨大な木。
それが成長を止め、その生命の呼吸すらも感じるほどの、がっしりとした木特有の硬さと重さ。
彼女は、その大木の表面を撫で、満足そうに微笑んだ。
「さ~てさてさて…」
「うわ、すっげぇ悪い顔してる」
フフフフ…と、まるで悪戯を思いついた子供のような、それでいて悪巧みを実行する大人のような、そんな汚い笑顔をしながら、彼女は右手を挙げる。
そして、そこに今までの祟り神を召喚する際の、あのおどろおどろしい陰の神力ではなく、純白に光る陽の神力。
ジャキンと、鉄の擦れる音が聞こえた。
「洩矢の鉄の輪――」
「ちょ、あん…」
てゐがその行動の意味に気づき、声をかけようとした時には遅く。
ブンッ!と、彼女が力いっぱいそれを投げ、そして鉄輪が空中で加速し、目の前の木目掛けて突進をして。
まるで豆腐に包丁を押し込むかのように、ぬるりと滑らかな動きで、鉄輪は大木を貫通した。
「さ~て…」
バタン!と、バランスを崩して倒れ込んだ、その大木を、彼女は見つめる。
そしてくるりと、彼女はこちらを覗き込み、そしてその笑みを深くする。
その笑顔に、てゐはどうしようもなく嫌な予感がして。
「手伝って♡」
「え、ヤダ」
案の定なその言葉に、真顔でそう返した。
ギーコ、ギーコ。
「とりあえず本社はでっかく作りたくてさ、その準備運動…みたいな?」
「ふーん、そうかい」
『ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛』
ギーコ、ギーコ。
倒れた大木、その皮を剥ぐために、彼女はその作業を続けていた。
そして、その手には、拳大の歯を持つ奇妙な見た目をした祟り神。
「木の加工も大変だねぇ…あくまでも作るだけ、与えるだけの神の力ってのも…割と不便なもんだよ」
「ま、そこが人間と神の違いだろうよ」
『イヤアアアアアアアア』
ギーコ、ギーコ。
彼女が呼び出した祟り神、そのむき出しになった歯茎を使い、彼女はまるで研磨をするかのように、それを木に押し付けていた。
ひゅるる…と、樹皮がさながらかつお節のように、綺麗な渦型に巻かれていき、それと同時に祟り神の悲鳴が響く。
『アッ!』
ギーコ、ギーコ、ギッ…
一瞬不穏な音が鳴り、突如ビクン!と、祟り神の痙攣する身体が硬直して。
『キエル エッ』
「あっ、ピチュった」
とうとう限界を迎えたのか、その立派な歯を持っていた祟り神は、その全身を、彼女が呼び出す際の、あの黒い光に似た形状に変え。
まるで水風船が割れるかのように、その全身を弾けさせて、そして消えた。
訪れる静寂。
「…………」
「…………」
そして、てゐは思わず。といった感じに、一言だけ呟いた。
「…あんた、人の心とかないの?」
「ちょ、死んでない!死んでないってば!!」
じと…とか、じろりとか、今まで向けられていたそれとは違う。
言葉で表すなら…それはギラッだろう、あまりにも冷たく、そして侮蔑するかのようなその視線が、彼女の心を強く抉った。
それに反論しながら、彼女は両腕を広げながらアピールをする。
「大丈夫だって!活動限界を迎えただけだから!私の中でちょっと休んでもらってるだけだってば!」
「その、他ならない活動限界を迎えさせたのはどこの誰なんだい」
「ぐ、ぐぐぐ…!」
両指をピクリと震わせながら、彼女は何も言い返せずに黙り込む。
その背後に見える、未だ加工途中の大木。それを見て、てゐは言う。
「大体、あんな大層な鉄の輪っかを作れるくせに、なんで普通の刃物は作れないのさ?」
「…ない」
「はい?」
「作り方わかんない…」
その、左右の人差し指をツンツンと合わせて、俯きながらそう呟いた彼女に、てゐは空を見上げ、そして「…そうかい」とだけ返した。
そうしてしばらく、もじもじとした姿勢のまま、彼女は続けた。
「だって…私、洩矢諏訪子といったら鉄輪だもん…鉄を作る=鉄輪だもん…」
「はいはい」
「それ以外の作り方知らないもん…地質の変え方も、植物の種類もわからないもん…」
「そうかい」
――なんか面倒臭くなってきたな。
てゐの内心は、それだった。
「そもそも坤ってどこまでが坤なのさ…それに鉄輪って何で出来てるのさ…元素記号は何なのさ…」
「何を言ってるんだいあんたは」
「だから!仕方ないじゃん!」
キーッ!と、腕をブンブンと上下させながら、彼女はその細長い足で地団駄を踏み、そして叫ぶ。
その目には、うっすらと涙さえ浮かんでいた。
「ミシャグジ様は喋れないし!私の知識はちゃんと伝えられないし!だったら今ある物使うしかないじゃん!祟り神たちを有効活用するしかないじゃん!」
「有効活用という名の虐待じゃないか?」
「だっていい子なんだもん!可愛いんだもん!ほら!」
『菫コ縺ッ"繝溘ヮ繧ソ繧ヲ繝ュ繧ケ"縺ョ繝舌ャ繧ュ窶輔□』
「やめろそいつを出すなっ!」
ゾゾゾと鳥肌の立つ腕を摩りながら、一瞬で三歩ほど離れた距離へ避難した。
目の前で首を捻る彼女と、その足元に集合している数匹の百足。そのあざとい仕草とは逆に、辺り一帯を支配する神力は、相変わらず恐ろしい。
――これが、あと何体存在するのだろう。
こんな態度で接してはいるものの、てゐは彼女が恐ろしくて仕方がない。
「ごめんごめん、それに丁度良かった。今から少し散歩したくてね」
「散歩だぁ?」
何でそんなことを。と言いかけてすぐに、てゐはそういえばと納得をした。
そうだ。この土着神は何を血迷ったか、信仰の中心である筈の地方を離れ、こうして物騒な瘴気を垂れ流すヤツだ。
竹林に来た理由も含め、実力は存在感は迷惑そのものだが、彼女の目的自体は善性のもの。
まぁこれくらいならいいか。そう内心で呟いて。
「はいはい、案内してあげるから付いてきな」
「やっるぅ!」
飛び跳ねる勢いで右腕を上げ、そして上機嫌にスキップをする彼女に、てゐは呆れながら歩き出す。
そして「あれ?」と、疑問に感じたことを聞いて――
「そういや、丁度良かった…って言ってただろ?」
「言ったね」
「あー?…それで…私がたまたま、ここに来なかったらどうするつもりだったの?」
「そうだね…もう一度百足で地面を這って…」
「よし、この話は終わりだ」
――嗚呼、あれが今回の被害者か。
その言葉を漏らさなかっただけ褒めて欲しい。てゐは心底そう思う。
「あんた、もしかしてこれが狙いだった?」
「えー?なんのことかなー?」
「…やれやれ、これ以上物騒になってどうすんのさ」
じりじりと、上空を覆う竹の葉の隙間から、差し込む夕日の光が心地よい。
何より、こうして身を隠す草むらから香る、新鮮な緑と土の匂いも、彼女にとっては高揚の一部。
てゐにとっては慣れたもの、しかし彼女は、"彼"の中の心が、この非日常を楽しんでいた。
だが、それよりも――
「…来たよ」
「おっ?いいねいいね!」
今、彼女が最も楽しみにしているのは――
『いま、な。ンで…え』
ペタリ。
彼女たちの視線の先で、目的のそれが、少しずつこちらへ近づいてくる。
ぎょろりと飛び出す両目と。まるで昆虫のように、巨大で気味の悪い顔と、それを支える、アンバランスな人間の身体。
妖怪。しかもその妖力は、群れの頭になれる素質を持った、膨大で威圧感のあるものだった。
――だが、彼女にとっては。
「じゃ、行ってくるよ」
「…ま、どっちにしろ…うちの兎たちじゃ分が悪い相手だ。むしろ助かるよ」
草むらで、互いに目線は妖怪にのみ向け、そして言葉だけでやり取りを終わらせて、それぞれが別行動を開始する。
てゐはより遠くに、草むらの更に奥の方へ、身体を隠すように後退。
対する彼女は、そのワクワクとした表情を隠さないで、堂々と草むらから出て、妖怪の前に立つ。
「さぁてさてっ」
突如目の前に現れた、彼女の姿に反応し、妖怪は歩みを止めて、その不気味な両目をギロリと向ける。
対する少女は、やはり楽しみという感情を隠し切れないのか、両手を握った、俗に言うファイティングポーズを取りながら、それに答える。
その様子を、てゐは呆れた表情のまま、草むらの奥で観察していた。
(嗚呼…哀れな妖怪よ、さらば………)
「君は、どんな味がするのかな?」
右手を前に、そして腹の横に置く形で、引き締めた左手の指をほどき、そこに神力を発生させる。
もはやもう見慣れた、てゐにとっては恐ろしく、そして無条件で鳥肌が立つ行動だ。
いちいちそれを使うたびに、ビクンと震える身体は勘弁だが…彼女に言っても仕方がないので諦めることにする。
そして、相も変わらず笑顔のままの彼女を見て。
(全く…敵対しなくてよかったよ、本当に)
――だが、てゐが真に驚いたのはそこではない。
開かれた彼女の左手、そこにギギュウと、2つの球体が生成、そして変化して現れる。
それぞれが、まるで生きた魚のように、不規則な軌道を描きながら、彼女の両隣にそれぞれ、完全な姿を見せて配置された。
『あア"そぼぉ…』
『イぇでネ…帰ェろ…』
ぺたぺたと。そうして現れた、笠と頭部が一体化した、彼女の膝元まで届くかどうかの、異形の祟り神。
それぞれの、笠に同化した一つ目が、それぞれ動きをピッタリと合わせて、仲良く2体が戦闘の姿勢を見せる。
(
てゐは最初、彼女が己の瘴気、そして戦闘力によって他の神々を降伏させ、そして使役しているものかと思った。
最初の疑惑はあの百足。どう見ても支配される立場には収まらない、その圧倒的な神格と瘴気。
何より、呼び出す際の対価だ。いくら支配したとはいえ、所詮は別の人間、そして信仰を糧に生きる別次元の存在。
それが神々。だがどうにも引っかかる、それが常日頃見せる、彼女の召喚の際の違和感だ。
(取り込む…支配でも調教でもなく"取り込む"か…それがあの違和感の正体ってことかね)
いくら上下関係を作ったとしても、その信仰を分けてもらう…といったことは、民の意識に頼らなければ不可能だ。
結局、それぞれが別々の信仰を得、そして存在を維持し続けるために、神の威光を証明しなければならない。
信仰が無くなれば、神は例外なく死ぬ。だがもしも、あらゆる信仰を、文字通り1つに纏め、そして上下関係だけではない、本当の意味での一体化。
それの数が増え、そしてそれぞれの神への信仰が、もしあの土着神に集まるのだとすれば――
(こりゃ、とんでもない奴が生まれたもんだ)
「ほら、来い来~い」
そんなことを思うてゐの前で、彼女は右手も解き、そしてくいっと、相手を挑発するように動かして言う。
その仕草、何より彼女の楽しそうな顔を見て、舐められていると、そう確信した妖怪が、しゃがみ込んで。
――地面に、亀裂が走る。
『オ"あ…ッ』
バゴッ!と、地面に走った亀裂が更に、より大きく迸り、そしてそれによって生まれた、凄まじい跳躍力。
跳んで、飛んで。そして空気を切り裂きながら、妖怪は彼女に向かって突進を開始する。
その圧倒的なスピードに、彼女が横に配置した祟り神は、両方反応が遅れてしまう。
――それらによる、反撃の気配はない。
「…フフ」
距離にして、およそ1mといったところか。
両隣に立つ、その祟り神が主の危機を感知し、そして走り出す。
妖怪は、勝利を確信して笑う。
てゐは、その
「――残念♡」
パチンッ。
彼女が反撃の姿勢を見せず、笑顔のまま左指を鳴らした瞬間。
両隣の、笠の祟り神は一瞬で消えて。
『あア"ッ"…?』
――バクンッ!
彼女の腕をなぞる形で、新たに現れたミミズのような祟り神。
それが、妖怪を一口で飲み込んだ。
「媒介なし…そのせいで、召喚の際の…あの予備動作を見切るのは至難の業」
「だね~」
「ちょっとズルくない?今更だけど」
「だね~」
「…上の空かよ」
ルンルン。言葉で表すならそうだろう。
彼女があの後、すぐにミミズのような形をした祟り神、その口内に囚われた、死にかけの妖怪に手をかざした。
そしてズズズ…と、溶けるように身体が変化し、そして手のひらに収まる大きさの、紫に光る球体…祟り玉になった。
てゐがその変化に驚いたのも束の間、すぐに彼女の背中をぽんっと軽く叩くように、見覚えのある祟り神が現れた。
そしてそれに、てゐは振り向きながら声をかけ――
『シャーッ…!』
「あ、お前か?今日は見な、い…なと……」
あの白蛇、彼女の使役する祟り神の中でも、恐らく最上位であろう"ミシャグジ様"、それが楽しそうな声を上げ。
――口から大量の祟り玉を吐き出し続けた。
数は…最低でも50はあるだろうか、いや、もしかしたらそれよりも上かもしれない。
まるで水道の蛇口のように、水の代わりに祟り玉を、ノンストップで吐き出し続けているその姿に、てゐは絶句した。
「いや、待…」
ボトトトトト…
まだ止まらない。いや、むしろその勢いが、更に強くなっているようにも見える。
玉が転がり、そして元からそこにあった玉にぶつかり、そしてそれを更に転がして…
「…それ全部さぁ」
「うっまそ~!」
「聞いてねぇし」
ひょいと手に取り、そしてまじまじと観察をして、てゐはその祟り玉からうっすらと感じる、祟り神の特有の、あの禍々しい気配に眉を顰める。
そしてその、てゐの手にあった祟り玉を奪う形で、彼女は再び口を開けて――
「んあ…」
ごくんと、飲み込んだ。
「うっま…」
「…よかったね」
彼女の恍惚とした顔を見て、てゐは石の上で寝転んだまま、身体を横に向けて、彼女の食事を見守る姿勢に入った。
ひょい、ぱくっ…と、まるで動きが鈍ることなく、ハイペースでそれを取り込み続ける彼女に、呆れるしかない。
本当に美味しそうに食べるものだ。ただそれが、元はどのような存在だったのかは、考えたくはないが…
「飽きないの?それ」
「あぁこれ?実は全部味が違うんだよ?今んとこ、不味いのは経験したことないかなぁ」
「ふーん…」
――まただ。
彼女が、あの瘴気で満たされた祟り神の幼体、それを1つずつ取り込むたびに、彼女の"内"が、更に猛り狂っている。
人の形をした、人の悪意そのものと言ってもいいだろう、何かを信じる、純粋な信仰を鼻で笑うような、そんな禍々しくも、そして恐ろしい存在感。
てゐが畏怖を覚えながらも、その行動を見守っている途中、彼女が新たな祟り玉を、上を向いて飲み込もうとした時。
「んあ…っと、こりゃあ綺麗だね」
「ん?」
その、彼女のキラキラと輝く視線と、上擦ったその声。
それに釣られて、てゐも首を上に、その視線の先を見る。
――星が、竹林の葉の隙間から、目を焼く様に輝いていた。
「…そうかい、私からすりゃ、見飽きた夜空の1つだけどね」
「ふーん」
よくわからない神だ。
非常識で、その立ち振る舞いすらも様になるほどの実力と、祟り神を統べるその威圧感も。
そして、こうしてたまに見せる、子供のように無垢な、自然に向ける瞳も。
「あー…なんだかんだ言って、今幸せかも」
「そりゃよかった」
上空に広がる夜空。時々竹の葉によって見えなくなるのか、その度に彼女は上体を揺らして、視線を合わせたまま、夜空を見ようと奮闘していた。
勿論、器用に食事は続けたままだ。
「あーうー…竹の葉邪魔だね…」
「あの家とやらが完成したらさ、そこで食えばいいんじゃない?」
「あ、そっか」
迷いの竹林、その上空に生い茂る葉は、あの空き家があった場所だけ例外で、しっかりと空が見えるようになっている。
もしもだ。もしあの空き家が修復を完全に終わり、そして家としての機能を取り戻せば――
「ま、期待して待ってるよ」
ぱあっと、光り輝いて見えるほどの、彼女の笑顔と食事の光景を眺めながら、てゐは聞こえない程度に、小さくそう呟いて起き上がる。
せっかくだ、どうせなら他の兎たちも、星空観察に呼んでやろう…そう思い立った時だった。
「…ん?」
先ほどまで寝転がっていた、その石の近く。
そこに見えた、白色の何か。
「…んだこりゃ」
見慣れない文字で書かれたそれ。
誰かの残した謎の紙切れが、てゐの手のひらの中にある。
古き良き東方二次をイメージして書いてます。
呪術廻戦はどこまで知ってる?
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最新の単行本(人外魔境)まで
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アニメの内容(渋谷事変)まで
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あまり知らない(領域展開は知ってる)
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全部わかる