【本編完結】諏訪子様になった、負け戦を回避したい   作:洩矢廻戦

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若さを肯定しつつも
はりぼての達観が青ざめ、挫けていくのを眺めるのが
私達は大好きなのです

 ――芥見下々


43話.はりぼての達観

「あら、これは小さなお客様だこと」

「―――」

「わかってるの?あなたのような存在がここに来る意味を…ってん~?あなた、なんか……あれ?どこかで見たことあるような…」

 

「――――」

「ん!?あ~っ!そういうこと!あなたも物好きね…」

「……―――」

「で、そんな身体で何しにここに来たのよ?それに付き添いまで…」

 

「―、―――」

「…なるほどねぇ、それは確かに面白そうだわ。魅力的かもネ」

「―――…―」

「うん。確かに、創作意欲を刺激される提案だわ。私のことよくわかってるじゃない」

 

「―。―――」

「いいわ、その話受けてあげる。でも…」

「………」

 

「ちょっと調子に乗ってるんじゃない?」

「……」

「目的、理由など些末なこと。あなたは私に会いに来る…ここに来ることそのものが、どういう事かわかってるのかしら?」

「…」

 

「――神域を冒して乗り込んで来ておいて、逃げられると思うなよ?」

「………………」

 

「ぷっ…あははは!…もう、そんな顔しないでよ。年甲斐もなく盛り上がっちゃうじゃない」

「……」

「言った通りよ。あなたの話受けてあげる、ちゃ~んと利用されてあげるわよ。それで?そっちのあなたはどうするの?」

「……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…うにゅ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――敵だ。

 不完全とはいえ、所詮分割された魂の一つとはいえ、それが今滅ぼされた。

 こいつは敵だ。

 偉大なる本体が、八岐大蛇が()()()()()の一つが消えた。

 頭を失った木行首の身体が溶け、そして完全に消滅する。

 まるで最初から、そこに首などなかったかのようであった。

 

「ははっ、瘴気ってのはずるいなぁ」

「お気に召した?」

「あぁ…最高だ!」

 

 二人は笑い、そして背中を預け合って再び弾幕を捌いていく。

 今までとは比べ物にならない密度で襲い掛かる弾幕。

 火行首の放つ炎が、金行首の放つ光の弾幕が諏訪子たちの身体を囲うように四方八方から襲い掛かる。

 直撃はしていない、しかしその炎と光が持つ熱は間違いなく脅威。

 諏訪子が持つ鉄を蒸発させるという本来ならばあり得ない現象。

 

 今までに見たことのない、相棒とも呼べる武器のその哀れな姿に、諏訪子は今までで以上の驚愕を受ける。

 

「めんどくさ…!」

 

 咄嗟に坤を創造する力、それを再発動し崩れた鉄輪を再構築する。

 その僅かな隙を見逃す行首ではない、しかし彼らによる攻撃は諏訪子を襲わなかった。

 炎と光の弾幕に隠れ、細く見えにくいように諏訪子の首を狙った水の剣。

 それが、諏訪子の首に接触――

 する前に、その全てが散らされる。

 

「諏訪子!次はどれを狙う!?」

「赤いやつ優先!あいつのせいで鉄輪が役に立たない!」

「了解!」

 

 一瞬で作戦の趣旨を伝え、速度を上げる。

 諏訪子の次のターゲットは火行首。

 萃香が能力でそれを散らし、諏訪子がその安全地帯へ飛び込むように跳躍。

 同時に頭上に展開するのは、飛行用に圧縮した鉄輪。

 

(さっきよりも熱が上がってる…それに向こうも弱点に気づいたな…)

 

 諏訪子が持つ特効とも言える特殊な力である瘴気。

 それは八岐大蛇の魂そのものである行首も例外ではなく、一度喰らえば不完全とはいえ、受肉の進行が振り出しに戻ってしまう。

 だが、それと同じく行首もまた。諏訪子が持つ祟り神、そしてその弱点に気づいた。

 いくら諏訪子と同じく瘴気を持とうと、それでも実力は所詮有象無象の一つに過ぎない。

 破壊されれば一定時間の呼び出しが不可能になり、中には自身に匹敵する異能を持った祟り神もいるのだ。それを使い捨てるのはあまりにも勿体ない。

 混ぜて瞬間的に使う手段もある。使い捨て、ただの道具として割り切る手段もあった。

 しかし、彼らは生物なのだ。

 いくら亜種とはいえ、人間ではなくとも、彼らは神という立派な生物。

 生物が本来恐れ、そして怯えるのは熱。

 火行首の放つ炎の弾幕による、祟り神たちのパフォーマンスの低下は避けられなかった。

 

(さっきの熱で鏡の子が破壊されなかったのは運が良かった…でも、もう迂闊にあの子を含めた祟り神は出せないね…徹底的にメタ張りやがってよぉ…そのせいで飛ぶのも自前じゃんか)

 

 四方八方から降り注ぐ水の剣を避け、少しずつ行首に近づいていく。

 しかしあと一歩が踏み出せない。あと少し、自分の間合いに行首を入れるのが。

 今まで萃香に集中して放たれていた攻撃は、今やそのほとんどが諏訪子に向けられている。

 鉄輪と祟り神を封じる強烈な熱波。

 諏訪子レベルの瘴気でないとそれは防げず、そうなると飛行能力を持つ祟り神、それこそ虹龍でさえ、この熱波を完全に遮断できる程の瘴気を持っていない。

 そして何より、こちらが抱える圧倒的な不利に気づかれた。

 

「チッ!力が足りないか…!」

 

 何百回目の土と水、その攻撃を弾いて萃香は苦虫を嚙み潰したような顔になる。

 萃香の能力が随時、諏訪子を含めたあらゆる弾幕の中から、致命傷に成りうるもののみを散らし、無効化していた。

 しかし逆に言えば、萃香は先ほどからそれしかできていない。

 疎の力で炎と光を散らし、土と水の剣を鬼の身体能力で防ぎ続ける。

 巨大化するという手段もあったが、相手がその巨体に見合った大きさの弾幕を放つなら良かった。

 しかし先ほどから、行首が放つ弾幕はどれもが小さく、樹木も水も武器としての形で襲い掛かっているのだ。

 もし思い通りに巨大化してしまえば、小さく防ぐのもやっとなその攻撃が、諏訪子に当たってしまうだろう。

 そのためこの戦いが始まってから、萃香は巨大化という手段を取らず、本来の身長のまま攻撃を捌き続けていた。

 しかしこれでは。

 

「萃香!ちょっと炎なんとかして!」

「もうやってる!というかこれ以上炎の方に能力の割合(リソース)弄ると他の攻撃がお前に届くぞ!」

無問題(モーマンタイ)!」

 

 右へ下へ、上へ左へと垂直移動を繰り返す諏訪子。

 時に急加速とゆっくり、そしてより精密な位置調整を繰り返すことで、神回避を繰り返していた。

 今でさえ精一杯、全力の回避でこれなのだ。

 もし萃香がそれ以外の攻撃、それの妨害を緩めてしまえば――

 諏訪子は笑う。

 

「もう見切った。後は全力で突っ込むだけ」

「……嘘じゃないだろうね」

「勿論。閻魔様に誓って」

 

 その一言で充分だった。

 もしもの失敗、万が一の保険という第二第三の選択肢は既になく。そこにあるのは唯一の確信。

 限界まで密度を大きくさせ、鋼鉄の如き防御力と鬼の破壊力を実現させていた萃香、その身体が逆転する。

 身体の輪郭はそのままに、初めて諏訪子と出会った時のそれとは違う、限りなく実体を少なく、そして霧のように全てがすり抜けるように。

 足を地につけ、迎撃と防御の為だけに使われていた拳は、今この瞬間役割を放棄する。

 両手を合わせたのと同時に、諏訪子は萃香の背中にぶつかる勢いで出す。

 実体化を解いたことで、諏訪子は萃香の身体にぶつかることなく、同じく行首の攻撃すらもすり抜け、無効化する。

 

(力を火の首に7:光の首3に調整…!)

 

 萃香の操る疎の力。

 実体化していない今の萃香に一切の攻撃は当たらず、逆に行首の方が一方的な干渉を受けることとなる。

 疎の力によって、残る行首の中で唯一諏訪子に対し有効打を与えられる筈だった炎、その熱が無効化されていく。

 だがその分、諏訪子に数と勢いが更に増した攻撃は――

 

「グレイズグレイズ…!とにかくグレイズ…!」

 

 幸運にも速度はそこまでではない、しかし当たれば致命傷なのは変わりない光弾。

 熱による妨害もなくなり、再びエイの祟り神を呼び出し、回避に専念する諏訪子。

 息も吐けない緊張。

 弾幕の雨を潜り抜け、息をやっと吐き出せたその時にすら、彼らは容赦など一切しない。

 空から降り注ぐ土塊の雨。

 四方八方から牙を剥く水の剣。

 それが、一気に――

 

「っぶねぇ!」

 

 咄嗟に繰り出す祟り神を二体。

 入道の祟り神は諏訪子の身体を貫かんとする水の剣、その全てを重力で叩き潰す。

 もう一体、諏訪子が両手で粘土をこねるように頭上に広げ、避け切れなかった槍の雨、その内の数本を防ぐ。

 乱雑な使い方と攻撃の痛みに、祟り神は静かに泣いた。

 そして目前。諏訪子が間合いに入ったその瞬間、火行首の瞳には一瞬恐怖が浮かぶのを、彼女は見逃さなかった。

 

『ッ来』

「ほいっ」

『る、な…』

 

 諏訪子が触れて数秒。

 触れられた場所から放たれる瘴気、それの漆黒の侵食によって鮮やかだった行首の身体は朽ちていく。

 そして、成すすべなく、行首は絶命した。

 

『ふざけるな…!貴様ァ…!』

「萃香、もう私たちの勝ちだよ」

 

 ()()()()

 諏訪子は間違いなくそれを確信し、そしてそれが真実であることを、萃香もまた理解する。

 先ほどまでの苦戦。諏訪子と萃香がこの行首に苦戦していたのは、彼らが八岐大蛇の分霊だからではない。

 実際祟り神たちの持つ異能は、どれもが行首の攻撃を防ぎ、そして見事に通用した。

 逆に萃香もまた、その力で防戦一方というわけではなく、ただ諏訪子のサポートをしていただけ。

 それは萃香が力を半分にしたからでも、行首と力の差があったからでもない。

 ただ、ひたすら相性が悪いだけに過ぎなかった。

 萃香の今の妖力では、八岐大蛇本体から魂を分け与えられ、妖力そのものとも言える行首には響かない。

 黒い絵の具で染まった湖に、同じく白の絵の具で染めた一滴の水を入れるのと同じ。

 同じ絵の具という括りでは、同じ妖怪の萃香では膨大な行首の肉体、妖力のみで構成された剥き出しの急所へ有効打は与えられない。

 しかし瘴気は違う。

 かつて、一時的にとはいえ崇められ、讃えられた経験のある八岐大蛇、その分霊である行首では辿り着けない力。

 それはまるで虫のように、行首の魂と力を喰らい、破壊する忌み嫌われし力。

 行首をワインに例えるなら、諏訪子の力は泥水。

 たとえ一滴でもそれが混じれば、ワインはひとたびその存在を保てなくなり――

 

『嗚呼、嗚呼そんな…そんな…』

 

 唯一の抵抗手段だった炎、火行首を失った。

 蘇生は叶わないが、貴重な回復手段を持つ木行首も失った。

 残る金と水と土の三体の行首は、目の前に迫る死という絶望に怯え――

 

「萃香、今度は水だけを全力で散らして!」

「了解」

 

 死に物狂いでの反抗。

 今までの力以上に、振り絞った全力で放たれる、数千もの水の剣。

 それは今までのと比べて、数倍の大きさの物もあれば、小刀にも等しい小さな物もある。

 少しでも今までと違う、初見の造形と攻撃パターンを使うことで、萃香の能力による干渉を少しでも減少させようと企んだ。

 頭上から降り注ぐ水の剣。

 前後左右から襲い掛かる土塊と、その隙間を補うように配置された大量の砂による津波。

 そしてそれらよりも先に襲い掛かる、光弾による先制攻撃。

 機能を停止した水以外の、その全てが諏訪子に襲い掛かる。

 

「洩矢の鉄の輪」

 

 自分の身体を中心に、土星の環のように展開された二つの鉄輪が高速回転を始める。

 空気を裂き、紫の妖しい光を放ちつつ、瘴気を纏うその姿。

 その回転は凄まじく、鉄輪の間を潜ろうと潜り込む光弾と土塊は、全てが弾かれかすり傷すら与えられない。

 裂かれた空気が悲鳴を上げ、その風圧によって砂の津波は押し返され、何の役にも立たない。

 誰にも邪魔されることなく、諏訪子は空中へ飛び出す。

 そしてすぐに、次に始末するべき対象を見つけた彼女は、己の出せる最高速度で――

 

『やめ――』

「やだ」

 

 ばちゅん。

 水行首は風船が破裂するように、首の全てが消し飛んだ。

 鉄輪による飛行能力。それの細かな制御を捨てた全力の直進運動である。

 大気を裂き、まるで弾丸のように突っ込むその行動は、瘴気によって必中必殺そのものへと昇華していた。

 せめてその隙を――

 八岐大蛇はその生態上、首と首が近い位置にある。

 つまり今も、諏訪子の間合いに入ったままであり直ちに攻撃に移らなければならない。

 だがもう、今残っている行首にそこまでの力は残ってなどいない。

 迎撃の行動に移る前にはもう、金行首の頭上には鉄輪を振り上げる諏訪子がおり。

 

「ここ、弱いんだって?」

『ふざけ――』

 

 ぐちゃっ。

 諏訪子が鉄輪を思いっきり叩きつけ、瘴気を流し込み絶命。

 たった数十秒。それだけで水と金の二体は破れ、その魂を失った。

 割合で表せば八割ほど、八岐大蛇に預けられた異能が砕け、失われていく感覚は冷たく、そして残酷だった。

 同時に、行首はこの覆しようのない現実に憤る。

 夢にまで見た現世への復活。現実と夢想の狭間であるこの場所に隠された、誰にも邪魔されない筈のこの場所。

 愚かにも侵入を許した自分を、最初に仕留めきれなかった己の慢心を。

 そして、自分の知らぬ第三者。"何か"を企む者に。

 何故、何故邪魔をする。

 何故この場所を、この世界のことを教えた…!

 何故。()()()()しか知らない筈のこの場所を、何故。

 

『あと少し…!あと少しで完全顕現ができ』

「もういいから」

 

 身体は、魂は既に負けを認め、逃げることすらできない。

 それでも、いくら紛い物とはいえ、八岐大蛇そのものではないとはいえ、その魂にこびり付いた彼の意識が叫ぶ。

 

『貴様など、貴様など本体の前では――』

「じゃあね」

 

 諏訪子は投擲の姿勢に、そして別れの言葉と同時にそれを開放。

 今まで以上の瘴気を纏い、空中を走るその鉄輪に対し、最後に残った土行首は抵抗しない。

 ただひたすらに、みっともなく諏訪子を呪い。キンッという軽快な音と共に切断される。

 消えていく最後の行首。そして薄れゆく魂の残穢。

 諏訪子は欠伸を噛み殺し、呟いた。

 

「…やっぱなんとかなったじゃん」

 

 

 

 

「へぇ~本当に勝っちゃったんだぁ」

 

 パチパチパチ。

 頭上から響く声と音。盛大な拍手を以って降り立ったその少女。

 敵意はなく。その無駄に間延びした声からは、一切の覇気も感じられない。

 あまりに突然の、これほど怪しくわかりやすい第三者だというのに、その少女に警戒をしたのは萃香だけだった。

 

「お前…」

「ん~?」

 

 萃香の敵意。それは鬼の持つ元来の圧。

 しかしその少女は、萃香の放つ圧倒的なプレッシャーを簡単に受け流していた。

 背中から生える、二対の黒翼をピコピコと動かし、顔を傾げて。

 

「君。もしかして山の四天王?」

「……それがどうした。お前は誰だ?」

「そんな警戒しなくていいって、のんびりいこ?」

 

 上着は紫の半袖で、その袖口は注連縄(しめなわ)を思わせる装飾で固定されており、その下にある長袖は紫。

 臙脂(えんじ)色のロングスカートといい、裸足と草履。

 服に使われている色の種類や装飾の数々が、今はいない筈の()()を思わせる。

 未だ警戒を解かぬ萃香。

 少女はその敵意を変わらず、まるで最初からないものとして扱っている。

 だが諏訪子だけは、目の前の少女の姿を見て――

 

「……(うつほ)?」

「うにゅ?誰それ」

 

 そっくりだった。

 あまりにも、身長も顔も。

 だが諏訪子が呟いた名前を、目の前の少女は否定した。

 

「もしかして誰かと勘違いしてる?」

「……いや、まさか、じゃあ…」

 

 諏訪子は信じられないと思ったが、だがすぐにその考えを振り払い、もう一度少女の姿を観察する。

 確かによく見れば、諏訪子が最初に思い浮かべた少女に似ている…というよりほぼ瓜二つなのだが、その顔の造形は正に霊烏路空そのものであった。

 癖毛気味な美しい、長い黒髪。しかし頭部には緑のリボンではなく、代わりに紅葉の装飾がついた注連縄が一つ、帽子をかぶるようにある。

 間違いない、この少女は――

 そして、この――

 

「まぁいいや。とりあえず…」

 

 少女はまるで同情するかのように、悲しそうな表情で。

 

「一応様子を見に来たんだけど…予想通りというか何というか、どうやら君。随分と危機管理能力がないようだね」

 

 諏訪子に対し、そう言った。

 

「……早く逃げた方がいいと思うよ?だって…」

 

 先ほどから。

 もういない筈のそこから。

 既に消えた筈の。

 そこから放たれる違和感は――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「八岐大蛇の受肉、半分とはいえ終わっちゃってるんだから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――ズッッ

 

 

 

 

 もう既に、消失したと思っていた残穢。

 見えないくらいに薄れ、もはや効力を発揮しないくらいに弱体化した妖力が作った、小さな肉塊の王座。

 それが、諏訪子の背後でゆっくりと、まるで泉から出てくるように姿を見せる。

 まるで星雲のように朧げな、赤黒い謎の煙が次第に、()()の髪なのだと気づいたのは、その音が聞こえてから。

 繭から目覚めたその王は、その化身は――

 

『――頭が高いな』

 

 一言。

 その言葉が意味するよりも前に、諏訪子と萃香は地面に膝をつく。

 反応も、何が起こったのかすらわからない現象が、そして何より。理解したくないその真実に、萃香は理解させられてしまった。

 地面も、そして他ならぬ自分の身体にも、何かの干渉を受けたような形跡は一切ない。

 妖力の残穢も、何も。

 ――身体が、戦闘を拒否している。

 

「――っ、え。な…」

 

 諏訪子もまた、萃香の次に気づいてしまった。

 無意識とはいえ、自分が今何をしたのか、そして一瞬とはいえ怯えたのだと。

 新たな敵。

 今まで以上の、正真正銘の敵。

 硬直した身体に鞭を打ち、力を込めて立ち上が――

 

『貴様か?』

 

 すぐ横。

 諏訪子の隣に立つ、その龍王。

 

『我の受肉(完全復活)を邪魔した愚か者というのは』

 

 身体が、動かない。

 

「…お前」

 

 諏訪子は隣に立つ、不完全な龍王を見上げ、そして同時に肩を震わせる。

 予備動作などなく、文字通りいつの間にか隣にいたその者。

 美しい。人形のように整った、美少女とも呼べる完璧な顔の造形と、星雲のように鮮やかな赤黒い長髪。

 そして、まるで筋線維のように細かく、時に樹木のように空白のある、胸を含めたあらゆる場所が不完全で、醜い形だった。

 下半身に関しては肉体がなく、あの行首と同じような、ただ妖力そのもので輪郭を保っているだけ。

 先ほど少女が言っていた、不完全な受肉というのはこういうことなのだろう。

 半分とも言った。

 不完全な筈だ。

 それなのに、こんな――

 

「洩矢の鉄の輪ッ」

 

 決断は早かった。

 諏訪子は今までに行ってきたのとは比べ物にならない速度で、そして全力を込めた一撃を放つ。

 大気を裂き、分霊とはいえ八岐大蛇の一部を貫けるまでに成長した貫通力。

 そして纏う瘴気は、妖力による防御など容易く無効――

 

『鬱陶しい』

 

 ――ピタリ

 音が聞こえなくなった。

 八岐大蛇が諏訪子よりも早く動き、そして先ほどまでずっと回転していた鉄輪、それを素手で握ってから。

 鉄輪は減速すら許されず、完全に静止し1mmも動かない。

 それどころか、瘴気を纏った筈の鉄輪に触れて、彼の手にはかすり傷すらない。

 あらゆる力を、妖力による防御や肉体すらを蝕む力が、通用していない。

 

(…!?おいおいおいおい!ふざけんな!今更そんなド直球なチートありかよ…!)

 

 あまりにも今更すぎて、笑ってしまいそうになる理不尽。

 瘴気はしっかり効力を発揮している。鉄輪も回転していた。

 それでも、こうして止められ傷一つない。

 つまり、そこから導き出される答えは。

 

(私の瘴気でも()()()()()()くらい…ふざけた)

『やはり貴様だったか』

 

 八岐大蛇が、華奢な右腕を振り上げ。

 

(圧倒的な――)

『死ね』

 

 妖力が。

 手が。

 力が込められた。

 それが。

 頬――

 

 

 

 

 ドゴアッ!!!!!

 

 

 

 

「あ~あ、だから逃げろって言ったのにさぁ」

 

 八岐大蛇の拳が、諏訪子の顔面に触れた途端、パッと姿を消してしまう。

 その原理を既に知っている少女は、欠伸を噛み殺しながら、これから響くであろう轟音に備えて耳を塞ぐ。

 案の定、すぐに響く轟音。

 視線を向けた先では、凄まじい量の血液を撒き散らしながら吹っ飛ぶ、既に死に体の諏訪子が映っていた。

 少女の優れた動体視力でやっと、その後ろ姿を見られるくらい、凄まじい速度で彼女は吹っ飛んだ。

 

「八岐大蛇はさ、妖力量が馬鹿すぎて身体能力(フィジカル)も馬鹿なんだよ。半分しか受肉できてなくても…ざっと神奈子様の倍はあるんだよ?無理無理」

 

 八岐大蛇による、技とも呼べないただの殴りで、諏訪子は最初に地面に叩きつけられた。

 だが不幸にも、半端な角度で地面に叩きつけられたせいで、その勢いを受け止め切ることができなかったのだろう。

 残った衝撃を逃がすため、彼女の身体はそのまま顔面を地面に埋め、それで大根でもすりおろすかのように吹っ飛んでしまった。

 なまじ空中で殴られるか、垂直に地面に叩きつけられるだけならどれほど良かったことか。

 だが、あの殴られ方と吹っ飛び方では、復帰するのにかなりの時間がかかる筈だ。

 少女が呆れる視線の先、全身を血で真っ赤に染め、顔がズタズタに引き裂かれたその哀れな敗者。

 

「うーん、やっぱ予めあそこに行っといて良かった、これじゃあ絶対勝てないもん」

 

 楽観と傲慢で構成された。

 はりぼての、負け知らずだった土着神の達観は既に、音を立てて崩壊した。




 謎の少女
霊烏路空にそっくり、神奈子様に似た衣服を身に纏う謎の神。一体何烏なんだ…()
諏訪子様がんばえ~

 八岐大蛇(本体)
半分しか復活できてないけど妖力量は神奈子様の神力に比べ倍


 諏訪子様はまだギリ生きてます

呪術廻戦はどこまで知ってる?

  • 最新の単行本(人外魔境)まで
  • アニメの内容(渋谷事変)まで
  • あまり知らない(領域展開は知ってる)
  • 全部わかる
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