【本編完結】諏訪子様になった、負け戦を回避したい   作:洩矢廻戦

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 タイトルから察しているかもしれませんが「アレ」は滅茶苦茶気合を入れますのでお楽しみに


49話.先代結界①百万鬼夜行

 ほんの小さな違和感だった。

 最初は本当に、気にも留めない小さなものだった。

 虹龍洞はその構造、山の上部にあるという特徴から、外の変化にはかなり敏感な場所である。

 雨が降りそうな時には百々世は当然、(めぐむ)でさえ違和感を感じる程、虹龍洞は常に変化する。

 肌が焦げそうな晴天の日は、それこそ喉が渇いて仕方がないくらいに、空気は乾いて不快感が凄まじい。

 幸いなのは唯一、湿度と違って変わらないのは洞窟内の温度ということだろうか。

 虹龍洞とは一種の生物。人間が太陽の熱に苦しみ、夜の冷たさに怯えるのと同じ、虹龍洞は生物そのもの。

 その変化の数は計り知れず、それこそ両手の指を使っても数えきれないくらいだ。

 (めぐむ)がここに足を運ぶようになってから、それなりの日数が過ぎても尚この洞窟のパターンとも言うべき特徴、変化の方向性を把握できていない。

 しかし、今。

 今日の虹龍洞の変化は劇的なものであった。

 穏やかに呼吸を続けていた虹龍洞が、小さな違和感のすぐ後、突如爆発するように躍動した。

 

「な、なに…?」

 

 洞窟が怯えている。

 まるで恐怖に泣き叫ぶかのように、洞窟内に風が吹く。

 ギラギラと輝く数多の鉱石たちがたちまち、その"何か"を感じ取ってからというもの、時間経過で放つ光の量が増えていく。

 まるで危険信号を発するかのように、洞窟内に響く不協和音、岩が軋み、鳴くような音。

 生き物が何かに怯えるような、身体を震わすようなその現象。

 あまりにも突然。起こったその現象に龍は尻餅をついて怯え――

 

「ぐっ…ぅ…!」

 

 声が聞こえた。

 自分のものではない、別の誰かが苦しみ喘ぐ声。

 それが誰の悲鳴か、龍はすぐに理解した。

 すぐだった。

 まるで条件反射のように、龍は彼女に向かって走り出した。

 今も洞窟は揺れている。"何か"の気配は今もある、言い表せない焦燥が胸中で暴れている。

 だがそんなことが、頭から一切消えるくらいの衝撃が、龍の身体を突き動かした。

 

「ッ百々世!おい!しっかりしろ!」

「ぐぅ…ううっ…」

「おい!しっか、り…っ!?」

 

 そして龍もまた、突如襲い掛かって来た頭痛に顔を歪めた。

 頭が割れそうだった。

 まるで陳腐な言葉の表現だったが、突然苦しみだした百々世と同じく、自分にも突如襲い掛かってきたそれ。

 理由は。

 原因は――

 脳を直接食い破られるかのようなそれに、龍は百々世を抱えながら何とか歩き出す。

 今までの様子とは一変して、百々世の表情には一切の余裕がない。

 そして時折、彼女の身体から溢れ出す――瘴気。

 

「ぐっ…ぅ…う…!」

 

 頭が砕けたかのようだった。

 百々世の身体から溢れる瘴気を少しだけ、本当に少しだけ吸ってしまっただけで、ただでさえ辛かった痛みが更に、数段階上のものへ変化した。

 足が止まり、喉元までせり上がってきた胃液を飲み込んで。

 再び歩く。

 

「おい…俺は置いていけ…」

「クソッ…一体何が……」

 

 龍は、百々世の言葉を無視した。

 

「ッおい!お前じゃこの瘴気は…」

「聞こえないな!悪いが何も聞こえない!」

「……馬鹿」

 

 できるだけ呼吸を抑え、龍はようやく目的の場所に着いた。

 長い洞窟をくぐり抜け、目に映るのは以前と変わらない、美しい山の景色。

 ――その筈だ。

 

「…………おい、あれは…」

 

 ――あれはなんだ?

 山も、集落も、今も発展を続ける国も、以前と同じ美しい景色だ。

 逢魔が時。半分ほど沈む太陽を背に。

 国を見ているそれは。

 山、国の外殻に位置する、あの大量の肉塊は――

 それは、あまりにも異質だった。

 かつての大百足退治とは違う景色が、地獄絵図が。

 

「何なんだ…一体…ッ」

 

 鬼が、いる。

 かつて天狗たちを下僕にしていた、暴虐の化身。

 千にも達する鬼の軍団が、国に向かって行進している最中だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 鬼が座っている。

 天魔の屋敷に。

 天魔の為だけに用意された玉座に、一人。

 かつて山の大将として降臨し、そして天魔が同族を連れて逃げるように、去った後に神奈子によって統治されていた筈の鬼。

 あの頃の恐怖も薄れ、大体の天狗たちが鬼を忘れていたという頃合いを、まるで狙ったかのように彼女は現れた。

 かつて天狗を下僕とし、好き放題に暴れ、気に食わなければ、暇になれば玩具感覚で殴り殺す、そんな暴虐の化身が。

 今になって、そしてその大将すらも、こうして現れた。

 

 ――何故今になって。

 

 天魔はわからない。

 それはきっと、背後に立つ二名の大天狗も同じだろう。

 立ち姿こそ堂々としているが、天魔は彼らが今も、鬼に対し忘れられない恐怖を植え付けられている事を知っている。

 内心で怯える大天狗を手で制止し、その怯えを悟られないようにしてから、天魔は一歩前へ踏み出した。

 

 ――いや、今だからこそか。

 

 だがしかし、外れて欲しい直感が今回ばかりは、どうしようもなく正しいのだと、目の前で座る鬼が視線でそう答えたのだ。

 天狗の頂点たる天魔、その屋敷の中だというのに、彼女らはまるで自室のように占拠している。

 本来は天狗の中でも限られた、選ばれた者しか入れない屋敷だというのに、天魔の権力を象徴する座だというのに、彼女は我が物顔でそこにいる。

 空気が重い。

 存在感が違う。天魔にも匹敵する圧倒的な実力と、そして決して薄れることのない返り血が染み込んだ暴虐の証。

 山の四天王――茨木華扇は本来、天魔が座る場所である筈のそこを、堂々と占拠し、笑っていた。

 

「よぉ天魔。恥知らずの卑怯者」

 

 かつての大将を前にしても、相も変わらず威風堂々とした態度を崩さない。

 天魔は華扇の挑発を聞き流し、呆れたように息を吐いた。

 

「何故あなたがここに?」

「ハッ、私たちから逃げるように住居を変えて、お山の大将をやってるお前が言うのか?」

「私は何故、ここにいるのかと聞いたのですが」

「焦んなよ、今話してやる」

 

 軽蔑。

 侮辱。

 そのどれもに誇張した表現はなく、嘘すらない文字通り本心の言葉。

 華扇は本気で、そして憎むわけでも嫌うでもなく、純粋に天魔を、天狗を見下して笑っているのだ。

 自分よりも劣る者だと、取るに足らない下僕だと。

 天狗そのものを下に見た発言に、天魔は勿論大天狗たちですら、それに反抗することができない。

 そして、言う。

 

「人間を殺す」

 

 華扇はその見た目通り、凛とした声で何でもないように告げた。

 その言葉を聞き、天魔の背後に立っていた大天狗も、敵意を露わにする。

 人間であれば即失神するような、濃密な敵意と殺意によって充満する小さな部屋の中で。

 華扇は変わらず、続けた。

 

「この国の人間を殺す」

「…………今何と」

「人間を殺す。続けて言おう、塵殺(おうさつ)だ。諏訪大国に住む人間…女子供から皮だけの年寄り。全員殺す」

 

 一字一句先ほどと同じ事を、そして更に装飾を加えた悪辣な言葉を華扇は吐く。

 大天狗が思わず息を呑み、天魔もまた一瞬だけ、眉を動かし反応する。

 華扇は見下すような顔をして、そして明るく笑ってから。

 

「邪魔が入るだろうな。だからお前も手伝え」

 

 告げた。

 命令だった。

 決して断りなど許さない、絶対的な存在であった。

 

「……我々に、我ら天狗一同に、洩矢神を裏切れと」

「知らん。誰だそれは」

 

 天魔の代わりに問うたのは大天狗。

 それに対し華扇は知らんと、興味なさげに酒を飲みながら。

 天魔が諏訪子の為に用意した、極上の味を誇る、しかし酔わないように度数を調整した贈り物が。

 

「まっず」

 

 盃が砕ける音がする。

 華扇はそれを、投げ捨てた後の残骸に唾を吐いた。

 そしてすぐ、苛立ちを交えた声で。

 

「八坂神奈子が復活した。後に一匹余すことなく全ての鬼が…それこそ過去と全く同じ、塵殺を禁じて飼い慣らされるだろうよ」

「…………」

「気に食わん。だからあいつよりも先に殺す。あいつが私たちを邪魔するよりも、人を一人助ける前に二人殺す。三人でも四人でも、とにかく殺す」

「…………」

「邪魔するやつは皆殺す。肉を裂き、骨を砕き。その全てを肴にして、鬼の華たる蹂躙を再び取り戻す」

「……」

「ちなみにだが、邪魔するやつは殺す…というのは」

 

 華扇は僅かに身体を動かす。

 だがそれだけで、見上げる程の巨山が動き、自分を見下ろしているかのような印象を感じた。

 

「天魔。お前を含めた天狗全員もだぞ?」

 

 屋敷のあちこちから、何かが破壊されたような音が聞こえてくる。

 華扇の殺意と狂気に染まった瞳が、天魔を射抜き動きを封じる。

 そうしてあっという間に、動けない天魔を囲うように数人の鬼が現れた。

 

「…洩矢神が動きますぞ」

「知らん、ならそいつも殺す」

「後悔しますぞ」

「餓鬼が、くどいんだよ」

 

 今度こそ、華扇は本気で凄んでみせた。

 今までのとは毛色が違う、本気の苛立ちと手が出る直前の、鬼の暴力性が爆発しそうな気配。

 これ以上の問答はいらないと。

 早く結論を出せと言わんばかりに、華扇は妖力を解放し、静かに答えを待つ。

 再び選択を迫られた天魔。しかし答えは既に決まっている。

 ゆっくりと息を吐き、強張る身体を少しずつほぐして。

 

「……そうですね」

 

 軽く、手を握りしめて。

 躊躇う要素は無い。

 もはや、これまで。

 今までに味わった屈辱も、そして歴史も。全て。

 最悪の決断の時――が訪れるよりも先に。

 

「…これが答えです」

 

 旋風の如き動きだった。

 華扇が完全に油断し、舐め腐った態度を崩さなかったからこそ、その蹴りが炸裂した。

 天魔の振り上げた足が、下駄が華扇の顔面を貫き、吹き飛ばす。

 首と胴を泣き別れにさせる程の攻撃力、その衝撃を何とか耐えた華扇の身体は、畳を削りながら後方に吹っ飛び続ける。

 片足を突き出したままの天魔を、他の鬼は勿論。大天狗すらも口をぽかんと開いたままで。

 

「――茨木華扇!そして他の鬼ども!」

 

 天魔が声を張り上げる。

 

「これが私の、天魔の!我ら天狗の返答よ!」

 

 天魔はこの時、初めてその表情を変えた。

 鬼に今まで向けられていたのと同じ、獰猛な見下す笑みだった。

 

「我らの頂点は既に洩矢神……諏訪子様だと決まっている!今更他の神に負けたやつに、それこそコソコソと鬱憤を晴らすような小心者どもに、付き合ってやる道理などない!そうだろう!!」

 

 それは、完全な決別だった。

 

「自分を負かした神が現れたから、邪魔されるのが嫌だから今のうちに暴れようだと?そんな汚い性根で我ら天狗を顎で使うなど――笑止千万!そうだろう!茨木華扇…!」

「……」

「貴様の言い訳も、妄言も最早聞くに及ばず!誰が貴様の命令など聞くか」

「…クハッ」

 

 鬼が、大天狗全員が怯えた。

 天魔だけが唯一、聞こえてきた小さな笑い声と、幽鬼のように立ち上がり、こちらに向かって歩くその姿を見た。

 無防備なところへ直撃を喰らった顔面は、その鼻が潰れ、そこから血をダラダラと流している。

 ダメージは間違いなく刻まれている。

 しかしその足取りは確かで、表情もまた怖気が走る、鬼らしいもの。

 どこまでも透き通った、純黒の殺意に満ちた瞳だった。

 

「面白い。人間よりも先にまず、お前から殺してやろうか?」

「負け惜しみなんてみっともない。そうだろう?元上司様」

「あぁわかったよ。じゃあ――」

 

 踏み込む動作も。

 空気の揺らぎも。

 予備動作すらなく。

 

「まずはその羽から剥いでやる」

 

 華扇の凶器と化した腕が。

 天魔の心臓を貫かんと――

 

「む…」

 

 天魔に向けて放った筈の貫手。

 それは本来であれば天魔の口から侵入し、脊髄をそのまま破壊するものだった。

 しかし華扇の腕は、寸前で肘の先から切り飛ばされていた。

 

「楓!」

「天魔様、改めてご命令を」

 

 楓である。

 白狼天狗の中でも選ばれた者しか名乗ることが許されぬ「犬走」の妖怪。

 彼は天魔を守るよう、以前よりも切れ味の鋭く改良された、専用の刀を構えて鬼を睨む。

 天魔は笑った。

 

「命令は二つだ」

「はい」

「一つは時間稼ぎ、そこの鬼どもをできるだけ抑え込んでくれ」

「御意」

「二つ目は簡単だ。――私を守ってくれ」

「…御意」

 

 天魔はその時、ほんの一瞬だけ、悪戯に笑う少女のそれと同じ顔を、楓に見せた。

 声が震えたような気もする。身体が、耳が歓喜で揺れそうだ。

 今までの彼女の苦悩と、それに寄り添えなかった己に対する嫌悪と後悔。それを払拭するかのように、彼は力強く頷いた。

 

「指揮もお前に任せる。敵対しといてあれだが、茨木華扇は凶悪だ、最悪あいつは無視してもいい」

「大丈夫なのですか?それで」

「あぁ、今()()()

 

 その言葉に、楓は何も心配いらないと納得した。

 

「天魔様は」

「私は少し用事がある」

 

 翼をはためかせ、天魔は天井を突き破りながら上空へ飛び立つ。

 そして、右手に持った団扇を思いっきり振り下ろし。

 

「天狗の意地、見せてやろうじゃないか!」

 

 山を覆い尽くす程の。

 国を。

 洩矢の大地にある全ての妖怪と人間を飲み込む。

 巨大な竜巻が、天魔の風が吹き荒れた。

 

 

 

 


 

 

 

 

 そして、同刻。

 日はほとんど沈み、橙色の空が黒に変わっていくその最中。

 天魔の住む屋敷がある筈の山が、丸々一つ竜巻によって覆い尽くされた光景を、龍は見た。

 

「ッ天魔様…!」

 

 本気だ。

 今まで数える程しか見たことがないものの、その竜巻と弾ける偉大な妖力は、間違いなくあの人のものだ。

 天狗の象徴たる風、そしてそれを異能による補助もなく純粋に、ただ己の純粋な実力のみで成すという、正に絶技とも呼ぶべきそれ。

 そして何より、時間が不味い。

 夜が来る。

 彼らが、千にも達する鬼の軍団が、闇夜に紛れるのだ。

 そして、人間はそれに気づいていない。

 

「クソッ…クソ…!」

 

 ――どうすればいい?

 いや、そもそも自分には何ができるというのか。

 未だ見習いに過ぎぬ自分が、一体どう役に立てるというのか。

 こうしている間にも、日は沈んでいってしまう。

 誰も彼らに気づけない、誰もそれを防げない。

 鬼の軍団は、その脅威は国に住む人間に――

 

「うっ…」

 

 百々世の身体が震えた。

 今までの痛みを堪える震えとは違う、痙攣だった。

 骨が軋むのもお構いなしに、百々世の身体が見せた変化は凄まじい。

 

「百々世?」

 

 俯いて顔は見えない。

 だが少しずつ痙攣が収まり、苦しみに喘いでいた彼女の声が聞こえなくなるにつれ、同時に得体の知れない何かを龍は感じたのだ。

 身体から溢れ出す瘴気は、たちまち元の場所に戻るかのように、百々世の身体に逆流していく。

 虹龍洞の奥、歩いてきた道の周り全てに散らされ、空気に溶けていた筈の瘴気ですら、形と色を取り戻し、一つの雲ができた。

 それはとぐろを巻いた蛇のように、上空で蠢いている。

 百々世がかつて自分に見せたのとは違う、別の誰かの瘴気――

 

「百々…」

 

 突然静かになった百々世の目を、俯いている彼女の顔を見ようと。

 龍がその顔を覗き込もうとするよりも先に、彼女は口を動かした。

 

『あぁ……』

 

 ――殺気。

 龍は咄嗟に百々世の…いや、百々世ではない別の誰かの身体から手を離し、上空へ飛んだ。

 そして案の定。先程まで龍が立っていた場所には、妖力と瘴気が纏われたツルハシが突き刺さっていた。

 それを握るのは、勿論――

 

『いい身体だ。今までにない』

 

 ――あいつだ。

 声も違う、妖力も変質した別の何かだ。

 瘴気も同じ、喋り方に関しても論外で、彼は終ぞ人語を口にすることなどなかったから。

 それでもわかる。

 たとえ人の姿を取ろうとも、言葉を得ようとも。

 龍は、天狗は。

 その悪意の正体を、既に理解していた。

 

()()()…!」

『忘れもしない。この屈辱は、この呪いは。未来永劫』

 

 それは、かつて土着神に敗れた、龍殺し。

 歴史の闇に埋もれる筈だった、敗者の姿。

 黄泉返りを果たした大妖怪、その者だった。

 

『私の名は堕涅(だくり)。小娘、お前に問おう』

 

 大百足――堕涅が死の間際に残した呪い。

 それは次世代への希望であり、百々世という妖怪の人生、その全てと価値観を塗り替える忌まわしいものである。

 最初こそ、彼の思い通りに百々世は諏訪子を憎み、それに違和感を覚えることもなく、ただ毎日を憎悪で満ちた時を過ごしていた。

 それが変わったのは、最近になってから。

 虹龍洞に足を運ぶようになった――飯綱丸龍のせいだ。

 大百足が一時的に、長くは持たないとはいえ、こうして顕現したのは。

 その邪悪が、牙を剥く先には――

 

『私が作った器。姫虫百々世とはどのような関係か』

 

 神奈子の復活と同時に広がった波動は、堕涅の復活を早めてしまった。

 堕涅もまた、神奈子が選んだ方法と同じ封印術"器"によって、そして既にそれは破ったとはいえ、それに囚われていた過去は消えない。

 共鳴とも呼ぶべきだろう。神奈子が復活したことをまだ知らない龍には、その答えに辿り着く為の判断材料が足りない。

 あと数秒で、日は完全に沈み、百鬼夜行が始まってしまう。

 人間が犠牲になる。築き上げた国が崩壊する。

 何より、こうして身体を乗っ取られた彼女を。

 国の人間を守るよりも前に、この龍殺しの大妖怪を――

 

「…私の親友だ」

 

 龍は恐れを捨て、ただ真っすぐ堕涅と向き合った。

 そこにいたのは、見習いの天狗でも一人の少女でもない。

 気高い山の支配者、空を統べる偉大な妖怪。

 

「――百々世は私の親友だ。たった一人の」

 

 だから。

 

「……返してもらうぞ、その身体」

『………………』

 

 堕涅の顔から、表情が抜け落ちた。

 その瞳は、動揺で揺れるでもなく、怒りで震えるでもなく、ひたすら冷たい虚無。

 しばらく両者は向き合って、耳に痛みを覚える程の静寂が下りる。

 無表情のまま、先に堕涅が口を動かした。

 

『私は……』

 

 ぐにゃあ。

 ゆっくり不吉に、不気味に気色悪く。

 百々世が絶対に見せないであろう笑みを浮かべて。

 

『――鉄の味が好きだッ!!』

 

 跳躍。

 龍は風を巧みに操り、その突撃を避ける。

 互いにぶつかる殺意と敵意。

 再び、拮抗はここに生まれる。

 

 

 

 

 それと。

 

 

 

 

「華扇のやつはしゃぎすぎだろ…っておー!こりゃあいい国だ」

 

 並ぶもう一つの拮抗。

 

 

 

 

 霜月の時、日が沈むその魔境。

 諏訪大国を中心にした、天魔の張った巨大な風による結界。

 その中の拮抗、展開は早くも。

 ――苛烈を極めることとなる。

 

「――ひもじいのう」

「――歯がゆいのう」

「――早く殺したいのう」

 

 闇から声が聞こえた。

 日が沈み、電気による文明の灯のない世界が静寂と、深い黒に沈んでから、それは聞こえた。

 彼らは進軍する。

 彼らは目前に広がる、人間という名のご馳走を求めて歩く。

 血を、肉を求める暴虐の化身たる鬼の、儀式とも呼ぶべき工程を経て形成された軍隊。

 華扇を主としたその鬼たちは、全てが妖力を、力と魂を共有し、文字通り全ての鬼が一つに、群れという名の一つの生物となる。

 それが百鬼夜行。

 そしてその儀式の中でも、()()は最も特別な存在として書に記された。

 苛烈を極めるその者たち、その名は――

 

 

 

 

 "百万同一鬼"

 二度目の進軍。かつて蒸土大戦にて、当時猛威を振るっていた最古の武装国家"砲鯨(ほうげい)"をひと月で制圧した生物兵器。

 土壌を踏み平し、犠牲となった人間も、女も赤子も皆等しく土に還す行為は、たとえ味方がやられようとも決して止まらず。

 命尽きるまで、その加虐に身を任せる。

 歴代最強の百鬼夜行。

 

 

 

 

「……へぇ、あいつ。見ないうちにいい顔になったじゃないか」

 

 "星熊勇儀"

 真名・星熊童子。

 歴代の鬼の中で最も優れた肉体、そして最高の出力の異能を携えた膂力の権化。

 語られる怪力乱神。

 

 

 

 

「ッハハハハハハハ!!いいぞ天狗ッ!まずは食前酒として貴様の肉を喰らってやろう!!!」

 

 "茨木華扇"

 真名・茨木童子。

 かつて起こった未曽有の災害。"鈴紋(れいもん)事件"において、当時解決に赴いた帝直属の暗殺部隊"海淵藍連隊(かいえんらんれんたい)"に属する全ての人間を殺害した悪鬼。

 奸佞邪智の鬼。

 

 

 

 

 "堕涅"

 黄泉返りし大百足。

 八坂神奈子の神力に共鳴し、抑留していた魂から自我を取り戻した黒い悪魔。

 古代に黄泉返った龍殺し、その復讐と食欲は限りなし。

 

 

 

 

 同盟はなく。

 策もなく。

 どれもが等しく力を持ち、そして思うがままに暴れ、殺す暴虐の悪夢。

 拮抗した実力。錯雑とした相性によって混雑する戦況は、正に混沌。

 三竦みの四つ巴。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だがその一角が。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――血吸改童子切(ちすいあらためどうじぎり)

 

 堕ちる――

 

 

 

 

 "伊吹萃香"

 真名・酒吞童子。

 長らく不在だった「山の四天王」それは全ての鬼が欲し、そして手に入れようと画策した異能の頂点たる称号。

 かつてこの世に生まれ落ち、そして初めて群に属することになってから約三ヶ月。山の四天王の席を我が物にした天才…それが空白にした特権。

 人を知り、愛を知り、弱さを知ったその鬼は、長らく席を空けていた鬼は。単独での百鬼夜行の妨害に名乗りを上げた。

 ――古代の異能が、始動する。




 百鬼夜行
グリードアイランドみたいな相互協力型の儀式
力と命を皆が共有するので、文字通り彼らを全滅させないと百鬼夜行は止まらない
なお相手は萃香である

 堕涅
私は鉄の味が好きだ

 勇儀
塵殺には興味なし(面白そうだから様子を見に来た)

 華扇
また神奈子に邪魔される…せや!ならその前に好き放題殺しまくったろ!の意
邪悪度100% 後に仙人になった彼女にとって、この時代はとんでもない黒歴史となる(かわいいね♡)

 萃香
(同族皆)血祭りにあげてやる

 次回から本格的に「先代結界(せんだいコロニー)」開始(明日の五時か六時くらいに)
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呪術廻戦はどこまで知ってる?

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