【本編完結】諏訪子様になった、負け戦を回避したい   作:洩矢廻戦

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 もうすぐであのシーンを出せるかも…


51話.先代結界③初見必殺

 姫虫百々世という器を手にし、自我を取り戻した堕涅は笑う。

 その記憶を盗んだことで、その目論見がほとんど成功するであろう現実に、近いうちに果たされる完全復活を。

 野望を携え、堕涅は再び空を飛ぶ龍に対し、大百足を放つ。

 

「くっ…」

 

 なんとか回避し、再び風を巻き起こす。

 しかし堕涅は勿論。百足にすらもそれは効かず、彼らからすればそよ風に吹かれた程度だ。

 龍の抵抗も虚しく、堕涅による悪意は確実にその身を、精神を削っていく。

 最初こそ空を飛べるという、天狗故のアドバンテージを武器に、風と妖力の弾幕で戦っていたものの、その優勢が崩れたのはすぐで。

 

(ボウ)(ボウ)(ボウ)

 

 かつてのあの時と同じ、堕涅の身体から溢れ出す瘴気。

 それは足元を這う彼の眷属、妖力で強化された百足によって更に強く、個ではなく群としての強さを披露していた。

 百足たちが足場を作り、その上に乗る形で堕涅は宙を舞う。

 それどころか、百足は自分の仲間すらも足蹴にし、そのまま人間でいう肩車に近い原理で高さを得て、そして龍に向かって飛んでいく。

 間一髪でそれを避け、体勢が崩れた龍の頭上から、ツルハシが振り下ろされた。

 

「ぎ…っ」

 

 容赦など一切ない、本気で殺す勢いで放たれた一撃。

 ズガンッ!と鈍い音を立て、血を吐きながら龍は落下した。

 それを追うように、堕涅もまた百足で作られた足場から飛び降り、足を振り上げる。

 落下し、地面に叩きつけられた龍に追い打ちをかけるよう、その翼を折る勢いで思いっきり、落下のエネルギーを味方に振り下ろす。

 激痛。

 

「がッ…っ……!」

『ハハッ、やっとだ。やっと…』

 

 翼を折られ、肋骨を粉砕され、目に涙を浮かべる龍の首を、堕涅は乱暴に掴んで起き上がらせる。

 加虐の悦に浸り、自分の命、復讐にしか興味のない彼は、笑った。

 姫虫百々世が決して見せる筈のない、邪悪で可愛げなどない笑みだった。

 

『お前を殺せば、この身体は永久に…』

 

 堕涅は笑い、両手を龍の首に添え、そして力を込めた。

 いくら天狗といえど、妖力で強化された手、そして首という身体の急所を破壊されれば、簡単に絶命してしまう。

 この時、この身体で、姫虫百々世が殺すからこそ、この復活は完全なものとなるのだ。

 魂を抑留させ、そして神奈子の神力に共鳴し、自我を取り戻した堕涅。

 しかしそれは一時的、つまり再び時間が過ぎてしまえば、折角取り戻した自我も失い、次に復活できるのは何時になるかわからない。

 ならばどうするか。

 肉体に宿るもう一つの魂――姫虫百々世の自我を消す。

 堕涅にとって、姫虫百々世の弱点はあまりにも都合がよく、そしてすぐにそれを壊せる脆弱な存在だ。

 姫虫百々世の魂を沈める為には、飯綱丸龍という唯一彼女が心を許した存在、親友である彼女を殺す必要があった。

 堕涅本来の能力、瘴気や大百足による殺害ではなくあくまで、"姫虫百々世"の力で殺す。

 その身体で、彼女にとっての親友の身体で、手で。

 

 姫虫百々世の身体で直接首を絞め、殺して魂を沈める。

 

 「自ら友を手にかけた」という傷を刻み、姫虫百々世の魂を完全に崩壊させる。

 嫌でも思い知らせる。

 じっくりと魂に刻む。

 自分の腕が、手が親友の首に触れる感触も、そしてそのまま殺す感触も全て。

 二度と復活の妨げにならぬよう、自分の邪魔にならないよう。

 そうすることで、魂の意思も削ぐ。

 

『じゃあな』

 

 力を込める。

 呼吸を封じ、苦しさから龍の身体が暴れ出す。

 それに比例し、首を絞める力が更に強くなる。

 

「ッぅ…ぅぅ……」

 

 首を折る勢いで力を強め、そして思いっきり地面に叩きつけ、覆いかぶさるような態勢に移る。

 背中の痛みで顔を顰める余裕もなく、更に強く、堕涅はトドメと言わんばかりに全妖力を、首を折る為だけに使う。

 龍の身体の反抗も弱まり、静かに痙攣し、そして足先から段々と静止し、命の灯が消えていく。

 その時。

 

「――ぅ、ぁ…」

 

 龍の命が終わる寸前。

 意識を手放し、そのままこと切れる寸前で。

 ――()()()衝撃が堕涅を襲う。

 

「――間に合ってよかった、無事かい?」

 

 その者の声を、堕涅は知っている。

 長く美しいその髪も、宝石のように輝く翼も。

 あの頃と変わっていない。選ばれた強者、空を統べる天狗の頂点。

 

『天魔ァ……!』

 

 堕涅は、()()()()()()()()()()()()()

 天魔はそれを見ても、まるで予想通りと言わんばかりに、底の知れない笑みを浮かべていた。

 唯一理解できていないのは、先ほどまで首を絞められ、そして殺されかけた龍だけで――

 

「おい」

 

 ()()の口が動く。

 右手に血管が浮き出る程、自分の首を絞めながら、彼女は言う。

 

『お前、なんで動ける?』

 

 自分の首を絞めながら、()()は答えた。

 

「?いや俺の身体だし」

『ハッ…』

 

 その声は。

 その笑みは。

 

「…悪い、心配かけた」

 

 龍が好きだと。

 そう自信をもって言い切れる、その優しい笑みを浮かべるのは。

 

『姫虫百々世め』

「人の身体で何してんだよ。――返せ」

 

 間違いなく、姫虫百々世本人のものだった。

 

 

 

 


 

 

 

 

 拮抗した四つ巴、その崩壊。

 歴代最強の百鬼夜行、日本最古の武装国家を滅ぼした"百万同一鬼"の儀式を行ったのは華扇である。

 今回の進軍においては、彼らへの力の配給を行っていたのも彼女であり、同時に最も彼らと繋がった存在とも言えるだろう。

 魂と魂の繋がった関係、一方通行とはいえ妖力を、自分の命を注ぐのが百鬼夜行だ。

 つまり――

 

「…なんだ?」

 

 天魔の屋敷はもはや、原形などない無残なものであった。

 肌を撫でるような精巧な畳は既に、泥と火によって滅茶苦茶に崩壊しており、壁や天井など言うまでもない。

 天井は既に、最初の崩壊から連動するようにたちまち、壁から柱へと亀裂が走り、鬼との戦いによる風圧で全てが消え去った。

 というより。屋敷を最初に破壊したのは他ならぬ天魔なのだが――この話は後にしよう。

 天魔からの命令。華扇の足止めを行っていた楓は、突如動きを止めた周りの鬼全員に、疑いの視線を向ける。

 

「考え事とは余裕だな」

「…………」

 

 天狗たちを片手で捌きながら、華扇はその違和感の正体を考察する。

 凄まじい勢いで消えていく、自分と繋がった同胞の命と力を感じる。

 たった数秒で、百鬼夜行による強化を施した筈の鬼たちが呆気なく絶命していくのが、嫌という程にわかる。

 勿論これは一時的な死であり、時間さえあれば何度でも黄泉返りを果たせるのは確かだ。

 だが、だがもしも。

 もしも全員が死んでしまえば、百鬼夜行は儀式として成り立たず、崩壊して本物の死が彼らを襲う。

 二度と日の光を浴びることも、酒を飲み殴り合うことすらもできない。

 夜の眠りとは違う。

 本物の死。

 それが、千人いる筈の彼らが。

 

「不味いな」

 

 華扇は気に食わないと顔を顰め、それをまた、楓も同じく気に食わないと不快感を露わにする。

 自分は所詮白狼天狗だ。相手が鬼、しかもそれが山の四天王となれば、勝てないのは当然だ。

 だからこその時間稼ぎ、幸い楓は生まれつき()()()()。 

 天魔の見た未来の為、そして最善の選択の為にもここで命を捨てる真似はしない。

 決して有効打を与えようとはせず、同じく致命傷は絶対に避けるように意識する。

 最初こそ戯れとして、右手のみで相手をしようと笑って挑発した華扇を、あえて相手をして時間を稼いでいたが、今ではもう両腕が解禁されている。

 鬼らしく短気。鬼らしく自分勝手だが、しかし今ではそれがむしろ都合がいい。

 このまま、天魔の目的が達成されるまで時間を――

 

「――お前か」

 

 気配が変わった。

 今までの、言い知れぬ迫力はそのままに、何かを見つけて歓喜する。そんな声。

 突然の変化に、楓は一気にバックステップで距離を取り、警戒心を更に一段階引き上げ、瞬きを忘れて睨む。

 華扇は周りで戦っている鬼も、天狗も。

 自分以外何も見えていないように、一人でくつくつと笑い、そして。

 

「――ッ!に、逃げられるぞ!」

「なっ!?」

 

 華扇の身体が透明になっていく。

 大天狗が最初に叫び、続けて楓が周りに視線を向けると、その言葉が真実であることを、それの意味することを否が応でも理解してしまう。

 その変化は華扇だけでなく、天魔の屋敷に突如現れた鬼の援軍、彼らもまるで萃香のそれと同じように、霧となって消えていく。

 それだけではなかった。

 華扇の身体が、他の鬼の身体が透き通っていくにつれ、崩壊した屋敷の風景も変わっていく。

 めくれあがっていた畳は、その全てが以前の、天魔が華扇に一撃を入れた直後のそれと変わっていない。

 華扇が天魔に吹っ飛ばされ、身体を引き摺ったことでついた跡。

 それだけだ。

 今まで華扇と、取り巻きの鬼と戦い続け、二次被害を被っていた筈の壁や天井は、まるで戦いなど最初からなかったかのように、元の姿を取り戻していた。

 ――()()

 

「…してやられたな」

 

 すっかり元に戻った室内に、天狗のみが残される。

 おそらくは能力によるもの、それもここまで、自分ですら術中に嵌められる程の格の高い能力。

 今思えばむしろ、何故気づけなかったかわからないくらいに、先ほどの流れは不自然そのものであった。

 いくら気配を抑えたとはいえ、あれ程の数の鬼が突如屋敷に侵入し、天狗たちを囲むなど普通なら考えられない。

 あの時。既に天魔以外の天狗の全員が――山の四天王・茨木華扇の「()()()導く程度の能力」に欺かれていたのだろう。

 大天狗の一人が、楓の顔色を伺って。

 

「もしや天魔様のところに…」

「いやそれはない。あの人は未来が見えたと言った、つまりこうして逃げられること…そしてその後起こる"何か"も計算の内だろう。となると、茨木華扇の目的は天魔様ではない」

「しかし…そうなると茨木華扇の目的は何所に…」

「とにかく、人間たちの避難が最優先だ。急ぐぞ」

 

 今まで相手をしていたのは、ただの幻覚。

 表情は不満げで、それは自分の力が届かなかったこと、まんまとしてやられた不甲斐ない自分自身に対するもの。

 自身への戒めを含めた吐息を一つ、同時に空を見上げて…

 

「…………」

 

 先ほど天魔が飛び立ったせいで、天井に開いた大穴。

 そこからぴゅうぴゅうと風が流れ込んで来るそれが、まるで彼女が笑っているようにも思えて。

 

「…………はぁ…」

 

 畏れ多くもどこか抜けた。

 敬愛する上司のことを思い、楓はため息をもう一度吐いた。

 

 

 

 


 

 

 

 

 華扇は見る。

 もう半分にまで数を減らした、自分が築きあげた最高傑作たる百万同一鬼を見る。

 見下ろす先、血と臓物が間欠泉のように吹き荒れ、地獄絵図を現在進行形で生み出している者の正体を。

 

「――萃香」

 

 思わず、名前を呼んだ。

 目前から放たれる懐かしい気配と、暴力による嵐。

 そして同時に、どうしようもなく衰え、牙の抜け落ちた親友の姿が、嫌でも目に入ってしまう。

 失望はあった。

 落胆も殺意も、憤りすらも。

 それくらい今の彼女は、あまりにも人間に染まりすぎていた。

 血と臓物を浴び、かつての仲間を塵殺する姿は確かに、自分と変わらない鬼本来の姿だろう。

 しかし目を見ればわかる。あれは何かを守る為の光だ。それは人間が持つものだ。

 人が誇り、鬼が古来より捻り潰してきたものだ。

 故に。

 

「久しいなぁ」

 

 華扇は、萃香のその輝きを。

 

「――萃香」

 

 捻じ伏せ。

 砕き。

 ――否定したくなったのだ。

 

「ッかせ」

 

 ()()を使い、同胞を血祭りにあげ。

 その疲労は決して無視できるものではない、故にその突然の攻撃を。

 萃香は、防ぐことができなかった。

 

「ハハッ!随分弱ってるじゃないか!あ"ぁ!?」

 

 反応の遅れた萃香の顔面に、鬼の呪術で作った鬼火と拳をぶち込む。

 人の常識でははかり知れぬ異能、その一端が、その全容が明らかとなる。

 首がもげそうになる程の衝撃。それを何とか堪えて意識を失わずに済んだ萃香に、華扇は再び接近する。

 弾速に等しい拳が炸裂する。

 萃香は頭を少し横にずらして、それを回避する。

 右手を固く握りしめ、カウンターを華扇に喰らわせようとした時だった。

 華扇は避けなかった。

 ――萃香の腕が()()()

 

「ッ…!」

 

 ぐにぃと、華扇の身体を避ける歪な変化だった。

 萃香の拳のまるで、歪んだレンズ越しに見たかのような変化は、実際はただの錯覚で、自分の身体は間違いなくそこにある。

 幻覚。――それに気づいた時には既に、何もかもが遅かった。

 振り抜いた拳を戻すよりも早く、華扇のもう片方の腕が躍動する。

 貫手だった。

 

「チィッ…!」

 

 鬼の桁外れの身体能力と、そして萃香が今までに築き上げた戦いの知識。

 貯蓄した殴り合いのノウハウのおかげで、当たれば致命傷は免れないその攻撃を、萃香は密度を操り、今度は難なく無効化して距離を取る。

 鬼と鬼。

 しかしここにいるのは、山の頂点たる王が二人。

 同じ四天王同士、その間にある空気はとてつもなく重く、険しい。

 

(…腕が戻ってる、異常はなし。痛みも何もない)

(今の違和感は…まるで霧を殴ったような…)

 

 山の四天王同士、数える程でしかないとはいえ、互いに戦ったことはある。

 しかしそれはハンデとして、公平性の為に異能を封じた殴り合いの試合でしかない。

 萃香も、華扇も同じ。互いに持つ能力の詳細や、それこそ技の一つも知らない。

 唯一例外なのは勇儀、そして華扇の二人だけ。

 かつて八坂神奈子と戦った際、華扇は仕方がないとはいえ、勇儀に己の奥義である三歩殲滅を見せてしまっている。

 だが萃香は違う。

 萃香は華扇の技を、能力も四天王奥義も知らないし、華扇もまた同じく、萃香の能力と奥義の詳細を何も知らない。

 互いに条件は同じ。

 初見による手札の探り合いから始まった。

 

「久しぶりだな、華扇」

 

 張り詰める空気の中、萃香はそう笑って言う。

 その甘くなった態度、以前と違い尖っていないその気配。

 華扇は嫌悪で眉をひそめる。

 

「一応聞くが、お前この国を滅ぼしに来たんだよな?」

「あぁ?」

 

 わかりきったことを聞いてくる萃香に、華扇は声を荒げ。

 

「なんでこの国を狙った?なんでこの時にわざわざ"百万同一鬼"まで引っ張り出しやがった」

「…………」

「理由はなんだ?なんで今日なんだ?それで何を成すつもりだ?」

「何。鬼が暴れるのに理由なんているのか?」

 

 ――コイツ…

 

「私たち鬼の本領は暴力だ。暴力!一方的な蹂躙、勇気ある強者がそれを討ち、長い怨嗟の螺旋が私たちの人生そのもの」

「あっそ」

 

 ――なんか…

 

「暴れない鬼など、牙を抜かれた従属など鬼ではない。何もかもが思い通りに、そんな首輪は鬼にとって生き恥だ」

 

 ――ムカつくな。

 腑抜けた態度、以前と変わらぬ飄々とした表情。

 しかし妙に癪に障る。想像より遥かに、先ほどまで感じていた憤りとは別種類の。

 

「八坂神奈子は都合よく消え、そして再び現れた。だからその面に唾を吐いてやる」

「…はぁ?」

「あいつが再び支配者を気取ってくるのなら、先にそいつの守るものを全て壊す。全て殺す、――そして嘲笑ってやるだけだ"言われるより先に殺してやったぞ"とな」

「なんで?」

「…楽しいから」

 

 ――あぁ…これは……

 

「じゃあ何だ、今日お前が行動を起こしたのは、完全に偶然ってことか?」

「…おい」

「コソコソ意趣返しか何かは知らねぇが、お前餓鬼かよ?まるで親の視線気にして悪さをする餓鬼じゃねぇか」

「……萃香」

「いや否定はしないさ、だがどうにもこう……」

 

 ――この感じは。

 ――この、逆鱗の隣をなぞられているような。

 この――

 

「……つまんなくね?」

「お前、人間に絆されたか!!」

 

 否定したい。

 壊したい。

 ぐちゃぐちゃに潰して殺したい。

 目の前で殺し、復讐の炎を燃やす人間を嘲笑い、そして殺した時の。

 ――あぁ、あの頃と同じだ。

 鬼の本能が暴れ出し、理性が飛ぶ寸前の加虐による至上の悦。

 それを、華扇は萃香に対して向けていた。

 

「――鬼呪術解放」

 

 凄惨な笑みだった。

 失望、戦意。

 苛立ちの全てが殺意に変換された、鬼ですらも恐れる程の濃密な死の気配。

 華扇は右手を開く。

 その手の平の上に現れた、血で染まる真っ赤な骸骨。

 物質の具現化、そしてその媒体として使われるそれは、間違いなく本物の骸骨だった。

 本来物質の具現化というのは、その物質に対し凄まじい思い入れを、そして夢に出てくるレベルでの見慣れた経験がなければ成立しない。

 新鮮な血液、殺して皮を剥いだ直後でなければ感じることのできない死臭が、その真っ赤な骸骨から放たれる。

 そして、それが当たり前に感じる程に、華扇は人を殺し続けてきたという証明であり――

 

羅城門骸山(らじょうもんむくろやま)!」

 

 華扇が宙に放り投げた骸骨は、たちまち加速して見えなくなる。

 いや、正確には段々と萎むように収縮し、そして米粒くらいの大きさになってから、動きを止めた。

 ――妖力の起こり。

 萃香が全力で背後に飛んだのと、頭上から襲い掛かる骸骨の波。

 雪崩のように牙を剥く大量の骸骨の数は、華扇が今までに殺した人間の数に比例し、増えていく。

 その骸骨の数は、千数個。

 

「っと、こりゃあ初めて見るなぁ!」

 

 あくまでも余裕を崩さずに。

 萃香のその態度が余計、華扇にとっては怒りの炎を更に強く、脳を焼き焦がす程の耐えがたいものだった。

 ――お前だけが。

 

「それ以上恥を晒す前に――死ね」

 

 お前だけが、あの日敗北を味わっていない。

 鬼の全てが否定され、牙を抜かれ、生き様を否定された経験を。

 

 ――お前だけが。

 

 許せない。

 群れなど必要ないと、団結して何かを蹂躙する喜びも、お前は何も見せなかった。

 華扇は、ただ妬ましいくらいに憎かったのだ。

 誰よりも自由で、自分と違って鬼としての敗北を知らず。

 それどころか、勇儀と同じ何かを得た――

 

「四天王奥義……」

 

 足を思いっきり振り下ろし、地面が隆起する。

 地中から生え、華扇を囲むように配置された巨大な石柱に、華扇の妖力、そしてどんな相手にも必ず命中する呪術を込める。

 華扇は知らないが、萃香は身体を散らし、それによって一方的な攻撃と絶対的な回避性能を持っている。

 そして偶然にも、華扇が山の四天王の中で最も、呪術に秀でていたのもあって、その必中能力は異能を超える。

 つまり、この攻撃は萃香でも避けられない。

 それに応えるように。

 

「四天王、奥義」

 

 萃香もまた、足を踏み込んで姿勢を低くする。

 獲物を見つけた肉食獣のように、一切の無駄がなく即、相手に襲い掛かれる瞬発力を兼ね備えた姿勢。

 同時に、辺り一帯に散らした自分の身体を、()()()()()()()()()身体を更に、薄く広げていく。

 互いに手札を晒す。

 自分のとっておきを、情報というアドバンテージを互いに捨てる。

 ここで、勝負を決めるのは――

 

「――三歩」

 

 華扇の操る石柱が。

 

「…三歩」

 

 萃香の握る高密度の拳が。

 

「殲…」

「壊――」

 

 初見で殺す――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

三・歩・(ひっ)(さつ)!!!

 

 怪力乱神の、理を超える破壊力。

 じり…肌を直接ぶん殴るような風圧。それが()()によって引き起こされたものだと理解した時には、既に遅く。

 目の前に現れた拳圧による暴風と、瓦礫による弾幕を前に、華扇は叫んだ。

 

「~~~ッ!この馬鹿!」

 

 すぐさま石柱を操作し、螺旋状に展開することで盾の代わりに。

 一番近い三本の石柱が折れ、残った七本の石柱に至っては四本まで亀裂が走っている。

 華扇の全力、妖力で強化してもこのダメージ。

 姿を見ないと思っていたら、これだ。

 塵殺に興味も示さず、その辺をぶらぶら散歩しているのだろうと思ってはいたが、まさか突然乱入してくるとは思いもしなかった。

 華扇でさえ反応が遅れ、身体の一部に瓦礫での切り傷が刻まれる程の速度、そして言うまでもないこの威力。

 何より恐ろしいのは、少なくともこれ程の攻撃力を、殲滅力を持った巨大な波動を、何百mと離れた山の中から、こちらに向けて放ったことだ。

 そしてそれを唯一、無防備に喰らったのは――

 

「勇儀ィ…!」

 

 ――しくった。

 ――散らした身体がほとんどかき消された…!

 ――本ッ当に運がいいよなぁお前は!

 ――嗚呼クソったれ!!

 

 三歩壊廃の予備動作、それは相手の身体を固定し、絶命の一撃を必中させる為の唯一の欠点。

 萃香が華扇の身体を悟られることなく、不可視の肉体で固定したタイミングで、この時に丁度よく。

 全てを吹き飛ばす風圧の攻撃――それはあまりにも効きすぎた。

 萃香とて勇儀の性格や求める戦いの美学は理解しているし、彼女が自分の弱った時を、それこそ漁夫の利を狙って攻撃してきたわけではないことは、ちゃんとわかっている。

 だが言葉だけで。

 理性と美学だけで。

 ――戦いの愉悦を抑えられる程、鬼というのは簡単な生き方をしていない。

 

(無意味な虐殺はしないやつだ…国への被害は最小限に、あくまでも要注意するべきは華扇)

 

 萃香の意識は。

 

(あいつの膂力は怪力乱神がなくとも威力は絶大。つまりここはあえて――)

 

 華扇の敵意は。

 この時、一つに向けられた。

 

(勇儀から)

(勇儀を優先して)

 

 ――狩る。

 大地が割れ、大気が悲鳴を上げて断裂を生む。

 全身が訴える鈍い痛みを、萃香はそれすらも推進力に変えて走り続ける。

 再び瓦礫が、引っこ抜かれたばかりの大木が弾幕として襲い掛かる。

 

「――いいなぁ!萃香!華扇!!」

 

 彼女は、勇儀は笑っていた。

 逸らさず、曲げず。ただ地面に直線を刻んで向かってくる二人に。

 拳を振るい、その残像が身体の周りにまるで、土星の環のように存在している。

 右手を振り抜き、その隙に足を踏み込んだ衝撃で浮き上がる瓦礫、それを残った片方の腕で弾き飛ばす。

 空白などどこにもない、子供一人も通れない弾幕の壁が、萃香と華扇に襲い掛かる。

 石柱を。

 刀を。

 両者がそれぞれ己の武器を取り出し、そして弾幕を最低限捌き、その速度を更に上げていく。

 決して衰えることなく。

 戦意を、戦いの愉悦を胸に、三人は本能に任せて暴れ続ける。

 弾幕が止み、一瞬だけ静寂が訪れる。

 華扇は警戒心を一段階引き上げ、一瞬とはいえ様子見として、防御と前進から意識を外してしまった。

 

「――テメェはよぉ…」

 

 轟音。

 破壊の嵐が一瞬の静寂で、その分威力を溜めこみ、突如として解放された。

 上空から降り注ぐ瓦礫、それの一つ一つには間違いなく勇儀の妖力が込められていた。

 破壊した対象、その無機物に妖力を流し込む能力の拡張。

 防御を捨て、全ての力を前進することに集中させた萃香は、その破壊の雨が降り注ぐよりも先に、木に捕まって身体を回転させた。

 一か八か。回転力を味方にした全速力の先。

 斧のように振り下ろされた萃香の足を受け止め、勇儀は笑う。

 互いに積もる話もある。

 だが、今はただ。

 

「もっと大人しく(コンパクトに)戦えってんだ」

「私は贅沢者なんでね、満腹のその先を求めてんだ」

 

 鬼の本能に身を任せよう。

 山の四天王が一人、星熊勇儀。――参戦。




 羅城門骸山
元ネタはロスワ、殺した人間の骸骨を召喚して雪崩みたいに放つ

 三歩壊廃
一歩目→身体を散らして相手の身体を固定
二歩目→足を踏み込み接近
三歩目→攻撃する拳だけ実体化(それ以外を透過)させて無敵モードでぶん殴る
相手ぶっ殺しゾーン

 三歩必殺
一歩目→足を踏み込み接近
二歩目→振り上げた足を叩きつけて反撃を封じる
三歩目→ぶん殴る
初見で殺す三歩必殺

 三歩殲滅
一歩目→足を踏み込み石柱を出す
二歩目→呪いを込めてそれを標的にロックオン
三歩目→ファンネル発射
黒歴史絶賛更新中(将来時たまに思い出し枕に顔を埋める模様)

 明日五時に出します
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呪術廻戦はどこまで知ってる?

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