【本編完結】諏訪子様になった、負け戦を回避したい   作:洩矢廻戦

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 普段は8000文字を最低に、物語のキリの良さに合わせて最低4000~7000とその都度に変えてるんですが今回は久しぶりにかなり短め。
 その代わりこの後の人外魔境編は一万文字でお送りするのでお楽しみください


59話.「勝つさ」

 きっかけは、かつて諏訪子の前で披露された、埴安神袿姫の絶技による現象。

 斬撃が飛ぶ。

 気が付いたら、あっという間にとしか言えない刹那の予兆。

 あの技だ。

 ただ切るのではなく、ただ武器を振るって空気を切り裂くのでもなく。

 諏訪子にとって、袿姫の見せた"それ"は手本だった。

 神だからこそできる。

 祟り神だからこそ使える。

 人間や妖怪、神から西洋の魔法使い、全ての力と相殺する瘴気。

 それの、目指す果て。

 

「初め、あらゆる妖怪と対峙した私は、ただ相手の妖力、肉体を相殺・中和無効化するよう、瘴気をただ相手にぶつけていた」

 

 恨みの力、憎しみが持つ力とはここまでなのか。

 最初こそ困惑し、どう扱おうかと悩んでいたものの、あっという間に「困惑」は「慣れ」に退化してしまった。

 慣れてしまえば向上は望めない。

 停滞の道を選べば、二度とその先へは進めない。

 進化のきっかけ、そして掴んだ技術の一端。

 彼女は、才能に愛されていた――

 

「袿姫の見せた斬撃は私の目指す先だった。あれは今までの私のように斬撃を飛ばしていたわけじゃない。あれは()()だ」

 

 熱や湿度の違いによる"面"を。

 生物、無生物全てに宿る弱点である"目"を。

 袿姫が見せた、諏訪子が再現したその技の行きつく先は。

 

「至難の業だったけど、実に良い手本だった。――まだ未完成だけどね」

 

 そして、今はまだ至っていない最後の極地。

 その技術の果て。

 いつか、この世界を形作る"境界"を――

 

「…じゃあ、もう一度言おうか」

 

 紫の光を纏い、鉄輪を片手に諏訪子は続ける。

 その、今までのとは比べ物にならない威圧感は"成った者"特有のそれであり、決して油断などできないと。

 八咫烏は、こちらを見下ろす土着神――洩矢諏訪子という"敵"に対し思う。

 この者は、危険だと。

 

「もう少しさ、言葉を選んだ方がいいんじゃない?」

 

 その、放たれる瘴気と。

 今でとは比べ物にはならない――

 

「――今際の際だぞ」

 

 怒気。

 否。――殺気。

 それを強く認識した瞬間、既に神奈子は、動けない八咫烏の代わりに動き出していた。

 そして、右腕を強く叩きつけるように動かし、諏訪子の振り下ろした鉄輪を受け止めた。

 八咫烏が反応するのも遅れる程の、文字通り神速のやり取りだった。

 ――ヂヂッ

 鉄輪本来の切断力、神力と瘴気による乗算された破壊力を前に、神奈子は純粋な身体強化で耐えてみせた。

 一見すると、互いに譲らない拮抗を保っているようにも見えるその戦い。

 それは、ずっと待ち望んでいたもの。

 

 ようやく訪れた。

 ――史上最強の国津神。

 ――古代最強の土着神。

 

 姿も、能力の制限も。

 気力も戦場も未だ不完全で、まだ望みの果てには至っていない。

 だが、ようやくこの時がやって来たのだ。

 洩矢諏訪子と八坂神奈子。

 ――長い時の果てに、ようやく二人は出会ったのだ。

 洩矢諏訪子VS八坂神奈子、その序章。

 

「ッ――!しばらく見ないうちに変わったね。チルノ」

「……」

 

 ――何がどうなってんだか。

 諏訪子は内心で愚痴を吐く。

 今までどこにいたんだ。

 何でチルノの身体を乗っ取ってるんだ。

 何故突然眠ったんだ。

 ――お前は本当に最強なのか。

 埴安神袿姫と何を取引したんだ。

 ――なんで私を閉じ込めた。

 堕涅ってなんだよ。

 ――大百足はそんなに危険なのか。

 お前は大百足とどういう関係だったんだ。

 ――なんでいきなり鬼がやって来たんだ。

 ――嫌だ、百々世には生きていて欲しい。

 なんで鬼同士で戦ってたんだ?

 ――なんで千亦と戦ってたんだ?

 何故。

 何故なんだ。

 お前の目的は何なんだ。

 一体、どうして――

 ――本当に、一体何がどうなって。

 

「あーっ!もう!面倒くさい!」

 

 ――いや、今はとにかく後でいい。

 鉄輪を仕舞うと共に、諏訪子は着地し、再び向き合う。

 ずっと意識していた宿敵。

 ライバル。

 将来自分を負かす予定の者。

 それが、自分のよく知る者の身体を借りて、こうして顕現している事実に。

 てゐからある程度推測は聞いていたとはいえ、それでもやはり飲み込むのには時間がかかる。

 苦笑。

 

「しかし困った。この身体だとまともに戦うことができん」

 

 神奈子は、眉を顰める諏訪子とは違い。

 苦笑しながら、自分の手の平に視線を落とし。

 

「お前も気づいているだろうが、私本来の肉体。全盛期の力は未だ取り戻せていない」

「だろうね。今の私でも勝てそうだ」

「…そうかな?」

「なんとなく」

「…この身体を、殴れるのか?」

「――あーん?」

 

 真偽はどうあれ理由はどうあれ。

 わざわざ諏訪子を戦闘不能にし、その間に百々世を殺そうとしたことに変わりはない。

 凶悪なのだろう、危険なのもわかってはいる。

 しかしそれでも。

 それを決めるのは私なんだ――

 

「あんたは私の国に、将来の脅威を取り除くって意味であろうと勝手に入って来た」

「…そうか」

「神の国にさぁ、他所の神が勝手に入って来たらどうなるか知ってんの?」

「そうだな。既に痛い程過去に思い知ったさ」

「昔話?長生きしてると会話のテンポも悪くなんのね。まぁ――」

 

 再び神力を放出し、戦闘態勢を取る諏訪子。

 武術のぶの字もない構え、戦いに慣れていない素人のそれではあるが、しかし決して侮れない。

 彼女は、技術を超えた純粋な暴力の領域に立っている。

 だが、神奈子の優勢な態度は揺るがない。

 むしろ面白そうに、言った。

 

「…戦る気か?」

 

 諏訪子はすぐに答えた。

 

「あれ?もしかして私がこれをみすみす逃すと思ってんの?」

 

 ――相手の全力を待つ必要などない。

 諏訪子は武人でも、高潔な平等精神を持っている訳でもなく、ただその日その気分で生きているだけ。

 かつて恋焦がれ、そして夢想した創作物の世界。そこに生まれ直すことができた喜びを噛み締め、身の丈にあった生き方をするだけ。

 それは「洩矢諏訪子」として、この世で決めた生き方でもあり、価値観でもある。

 そして、それは第一に死にたくない、楽をしたいというどこまでも人間の、捨て切れなかった感情の下に成り立っている。

 

「そう言って。私に見逃して欲しかったんでしょ?残念ながら私は特別な訓練を受けててね」

 

 再び鉄輪を。

 そして、背後に彼女が最も信頼し、そして最大戦力である白蛇、ミシャグジを顕現させ。

 より一層透明に、神力を湧かせて言い放つ。

 

「――妖精(チルノ)なら本気で殴れる」

 

 ――私は思ってるよ。チルノのことはお前を殺してから考えればいい。

 そう、本気で言っていることがわかり、神奈子は想像以上だと、その笑みを更に深いものにした。

 果実は実り、それどころか既に熟成を終え、今こうして目の前に立っている。

 

「さっき千亦で死んだのは不味ったかな?おかげで、こうして対峙すると余計に理解できる――」

 

 諏訪子の視線は、神奈子の頭上の方陣に向けられていた。

 以前と変わらない。透き通る氷で出来た、妖精の生命力の化身である方陣。

 だがわかる。

 以前、諏訪子がここに()()し、そしてその直後に感じた神奈子の神力。――否、存在感。

 それと比べて、今の神奈子は――

 

「…気づいてるか」

 

 それを、神奈子は肯定した。

 

合計(トータル)四回だろ、つまり後は三回」

 

 ――八坂神奈子に残された、妖精の復活能力を扱える許容数。

 先ほど、無制限の――を放つ為に犠牲にした一回。

 それのせいで、今の神奈子に残された復活回数は三回。

 肉体のリセットを直接見ていない諏訪子でさえ見抜ける程に、今の神奈子は致命的な弱体化をしていたのだ。

 神奈子は笑い。

 

「そうだな。後三回なのは認めよう」

 

 諏訪子の考察を肯定した。

 

「だが、お前のその薄ら笑いを消すには充分だ」

「ハッ!薄ら笑いはお互い様でしょ?余裕ないくせにさぁ」

「いいのか?いくら妖精は死なないとはいえ、復活するとわかっていても、お前は友を殺せるのか?」

「御託は終わり?」

「…本気でこの妖精ごと殺す気か?」

「おいおいおいおい、今更日和ってんの?」

 

 獰猛で凶悪な。

 瘴気の溢れる凄まじい笑みを浮かべ、諏訪子は言い切る。

 

「――3(スリー)カウントなんて待たずにぶっ殺してやるよ」

 

 ――本気だ。

 本気で諏訪子は今この場で、八坂神奈子と戦ってもいい、むしろそれを求めて言っている。

 対峙する神奈子も、それを傍から静かに見守る八咫烏も、そう理解させられる程。

 諏訪子が浮かべた笑みには"圧"が込められていた。

 だからこそ――

 

「私に今できることを考えた」

「――神奈子様」

 

 神奈子のアイコンタクト。

 それだけで、八咫烏は彼女の言わんとすることを、そして何をするつもりなのかも既に察し、ある術を展開した。

 それは俗に言う"式神術"に区分される、マーキングした対象と、それの視界を共有する基本の技術。

 神力を練り上げ、作り上げた透明な壁に、八咫烏は己の従える式神の見る景色を映し出す。

 ――そこにいたのは。

 

「なっ…!」

 

 諏訪子が初めて動揺を見せる。

 そこに映っていた景色、その中の、見知った金髪の少女。

 居心地を悪そうに、不安げな様子で周りに視線を向ける友達の姿に。

 そしてその背後に佇む、

 未だ驚愕したままの諏訪子に、神奈子は言う。

 

マエリベリー・ハーン(小娘)を人質にする」

 

 ――洩矢諏訪子は妖精とはいえ、復活できるからとはいえ知人を倒すのに躊躇を持たない。

 神奈子は事前にそう考察し、そしてそれが間違いではないことが、今この場で戦いが起こらないことを察した八咫烏のみが、安堵の息を吐く。

 神奈子とて軍神。偉大な戦の王の血筋を持った女であり、死を迎えるのは病と衰弱以外のものしか認めないと思っている。

 そんな彼女が今この場で、甘く見て本来の4割程度の実力しか出せないまま、この最高の対戦相手との機会を使い切るなど、言語道断。

 実際は害する気も、人質として本当に利用する気もないのは、諏訪子もなんとなくだがわかっている。

 これは詭弁、建前にしか過ぎない。

 嘘だとわかっている。本当に人質にしている訳がないのだと、知っているぞと無視して戦いを始める選択だってある。

 それでも、従わざるを得ない。

 従いたいと思ってしまった。

 神奈子の目。その渇きと比例した熱い視線が。

 ――一瞬だけ、そう思わせた。

 

「…わかるだろう?洩矢諏訪子」

「――…対価は?」

「時間だ。私本来の肉体を、そして全盛期以上の力を身に着けた、最盛期での戦いを」

 

 ――そして、長い沈黙を破った彼女が。

 成長し、強くなり続けた彼女たちが、やっと交わす宣戦布告。

 それは、諏訪子自身が待ち望むと共に、まだ来ないでくれとさえ思っていた二律背反の未来。

 

 原作(史実)通りの、負け戦。

 

 神としての尊厳、信仰による命を懸けた、生存競争という名の儀式。

 

「大和は。――否。八坂神奈子は諏訪大国、洩矢諏訪子へ挑戦を申し込む」

「………」

「洩矢諏訪子よ、私が勝てばお前の国を――その民の信仰全てを貰い受ける」

「……」

 

 ――どう答えるか。

 彼女に返す、自分の今を伝える最善の言葉。

 

(……まぁ私としても、神奈子と戦う前にやることをやっておきたい。それに()()もまだ未完成…下手に挑めばこっちが負ける…しかし本来の神奈子が相手だ……どうする…)

 

 仮にここで、諏訪子が見逃したとしよう。

 その間にこちらも鍛え、強くなったとしても、相手がそれより強くなってしまえば意味はない。

 それは一種の賭けであった。

 今の未熟な状態で、弱った神奈子を相手にして勝てるのか。

 じゃあ仮に、神奈子を見逃し猶予を与え、結局復活して自分より強くなった神奈子を相手にして、それでいいのか?

 ――第三の選択は。

 ――今ここで死力を出し切るか?

 ――しかし、神奈子にはまだ切札もありそうで。

 考える"もしも"と、最善と最短の道。

 諏訪子はため息。

 

「…はぁ、今の月は?」

霜月(11月)だよ」

 

 諏訪子の問いに答えたのは八咫烏。

 そして再び、神奈子に問う。

 

「神奈子、あんたが全盛期の力を取り戻すのは?」

「一か月は欲しい」

「…じゃあ師走(12月)でいいでしょ」

「へぇ、随分自信満々なんだね。君」

「もし負けても文句は言わないでよね」

 

 神奈子の提案を聞き、そして素直に従う諏訪子。

 それに対し、八咫烏が再び横から口を挟むが。それを諏訪子は完全に無視した。

 八咫烏は青筋を額に浮かべ、頬を膨らませる。

 が。すぐに表情を変えて、小馬鹿にするような笑みを浮かべて。

 

「……勝つ気かい?」

 

 答えなど、既に前から決まっていた。

 

「神奈子。あんたは逆にどう?」

「何がだ?」

「そこの烏は上から目線だけど。…あんたはどう?私に勝てるつもり?」

「…はっ」

 

 意趣返しの挑発。

 不愉快だと顔を歪める八咫烏と反比例し、神奈子は笑って。

 

「言わずもがな…だな」

 

 同じように、挑戦的に笑ってみせる。

 史上最強と古代最強。

 八坂神奈子と洩矢諏訪子。

 奇しくも、二人が選んだ言葉は同じ。

 ――両者が同時に、言い放つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「勝つさ」」

 

 それは、目覚めの勝利宣言だった。




 洩矢諏訪子
勝つさ

 八坂神奈子
勝つさ

 始まります、最後の戦いが。

呪術廻戦はどこまで知ってる?

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