【本編完結】諏訪子様になった、負け戦を回避したい 作:洩矢廻戦
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近い未来。人は超常現象の全てを科学の一言で終わらせるようになってしまう。
文明の利器に守られ、殺すことを恐れ、殺されることを恐れる仮初の安寧で成り立つ時代が来る。
――不変恒常的なものだと思い込む、欺瞞で成り立つ幻想を否定する世界が。
その幻想の衰退を、止められる手段はあるのだろうか?
まだ、その答えは誰にもわからない。
史実通り
わからない。
まだ未来はわからない。
だが一つ言えるのは、この戦いは人間たちにとって、それまでの歴史で最も苛烈で、規模の大きな"祭り"であることだけ。
風が、大地が、雨と雷が交雑する死の世界。
その場所に選ばれたのは、諏訪大国から南に離れた、ある荒野であった。
決戦の場を提案したのは神奈子である。
神と神の戦いは、必然的に地盤を崩壊させ、嵐が吹き荒れる天変地異のものとなる、正に人外魔境。
この戦いの大義名分が「信仰と国の強奪」である以上、己の戦いに巻き込み、本来守るべきである筈の人間を二次被害で虐殺するのは本末転倒。
故に、決して誰も犠牲にならず、なるのは敗者…神奈子か諏訪子か、負けた者のみである。
哀れな敗者を荒野に置き去りにし、勝者が掴む栄光、国と人間、彼らと共に生きる権利が与えられる。
ただ、簡単な答えがそこにあった。
そうして一人、その戦場に辿り着いた者がいる。
紫がかった青髪と、赤と白で彩られた上半身、その胸の中心で輝く真澄の光。
草履が地面を擦る音、口元には僅かに笑みを浮かべた姿。
――史上最強の国津神、八坂神奈子。
その立ち姿には圧倒的な、強者にしか許されない、底知れない"何か"があった。
両腕を組みながら歩く神奈子は、目前の先にいる彼女を、自分と同じく死地へ、戦場の中心に向かって歩いていた。
だが神奈子と違い、その歩き方は軽く、スキップを交えた楽観的なものだった。
――しかし、強い。
神奈子と同じく大胆不敵でありながら、そこには以前"見た"頃とは違う、甘さも油断もない。
決意と実力に裏付けられた、強者のみに許される振る舞いである。
――古代最強の土着神、洩矢諏訪子。
両者は近づく。
互いにかける言葉はなく、ただゆっくりと、無言のまま戦場を歩いていた。
一歩、一歩と距離を縮めて、ようやく二人は鉢合わせた。
そして、無言で見つめ合った。
「………」
「………」
――これが最後の戦いだ。
それは、両者が今、共通して思っていることだった。
規模、目的、両者がここに至るまでに経験した全て。
鍛えた肉体。
身につけた技術。
磨きあげたセンスや、場当たり的な発想や瞬発力。
全てが伝わる、伝えられる唯一の相手。
――絶対的な強者、それ故の孤独。
その渇きを満たすのは、愛という名の対等を与えられるのは――
「…不思議な気分だね」
一触即発。
高まる緊張と張り詰めた空気。
――その筈だった。
これから戦いが始まるというのに、どうにも心が落ち着いている。
戦いの愉悦、期待と焦燥は既に鳴りを潜め、今や見る影もない。
口にした通り、諏訪子も不思議で仕方なかった。
「本当なら、もっと明かすべき、話す必要のある何かがあったんだ」
「そうかもな」
神奈子は同意した。
「この戦いのきっかけは、意味は何だったのか」
「この勝負の理由に、意味などない」
「神同士の戦争にしちゃ薄い事実だ。…あんたはそれで満足?」
「少なくとも、不満など感じたことはないな」
「じゃあ何で魂を保存し、時を渡って
「………」
会話を続けながらも、二人の放つ威圧感によって、空気は更に膨らんでいく。
互いの視線が交差し、敵意と言う名の稲妻が迸り、更に緊張を高めていく。
帯電した空気が膨らむようなそれが、限界を迎え破裂するのもそう遠くはない。
――いや、既に。
「言葉は無粋」
神奈子が両腕を解く。
その瞬間、神奈子の手から少し離れた位置で滞空する、巨大な柱が一本出現した。
背中に四本ある内の一本、それが一切の残像すら見せず、文字通りいきなり座標を入れ替え、出現したのだ。
表面を平らに加工し、注連縄が巻かれた多角形の柱――御柱。
「…理由なんて今更か」
対する諏訪子は、両腕を広げた。
身体を中心に、まるで土星の環のように配置された、二つの鉄輪。
さながら日本刀の如く、重厚な刃物特有の輝きと威圧感を纏っている。
それの切っ先は紫色に、妖しい光を放っていて。
「…その鉄輪、お前の最大の矛にして、身を守る為の鱗でもあるのか」
神奈子は即座に、わざわざ投擲という手段を封じる、身体に纏うその戦い方の持つ意味を見抜く。
諏訪子もまた、舌なめずりを一つ。そして神奈子の一挙手一投足を見逃すまいと、目を見開き呼吸を忘れた。
両者の視線が切り替わり、「闘争」の為の純粋な瞳に変化する。
同時に、神奈子と諏訪子を閉じ込めるかのように、半径数十kmにも匹敵する巨大な結界が下ろされる。
それは神同士の戦い、国と神の存亡を賭けた戦争、その儀式の一部。
結界が完成する。
――「帳」が下りる。
――それが合図。
――あと少し。
あと――
その瞬間、神奈子は既に仕掛けていた。
ほんの僅か、出遅れた形で諏訪子が腕を振り上げ、対応する形になった。
お互い、渾身の力を込めた一撃が交差し合う。
神奈子の攻撃。
これでもかと神力を練り上げ、貯め込めた御柱による振り下ろし攻撃。
回避はない。
諏訪子はそれに対し、利き腕であるが故に、咄嗟に動かせた右腕を使い、鉄輪で迎え撃つ。
一瞬遅れた防御。
目の前の存在に対し、一切の油断も手加減もなく繰り出した一撃が、互いの標的を捉えた。
そして、爆発した。
比喩ではない。
二人の攻撃が交わった一点、鉄輪と御柱のぶつかったその場所に。
神奈子と諏訪子、二人の力に圧迫された空気が弾け、閃光を撒き散らす。
――人外魔境、真の始まりの狼煙が吹き荒れた。
神奈子の行動は早かった。
振り下ろした御柱が抵抗され、一瞬動きが鈍ったその刹那を見逃さず、次の行動に移っていた。
物理法則を無視し、慣性を無視した真横への攻撃。
それの矛先は、鉄輪を斜めにずらし、攻撃を受け流す衝撃で飛ぶように回避をした諏訪子であった。
たとえ行動順が逆転しようと、上から振り下ろす形での神奈子の攻撃は、諏訪子にとって圧倒的な不利となる。
諏訪子はそれを見抜き、力の拮抗が発生するよりも先に、鉄輪を操作し行動を変えた。
受け止めるのではなく、受け流す。
――
だがこの一か月、本来の肉体と出力を取り戻した神奈子には既に、その目論見は看破されていた。
諏訪子は咄嗟に神力を込めてガードするも、その威力は絶大なもの。
衝撃を殺し切れず、御柱が諏訪子の腹に突き刺さる。
胃液が逆流し、口から吹き出す。
もはや密着状態とも言える超至近距離。
神奈子はそのまま指を動かし、操作を継続した御柱は、諏訪子の身体の中心を捉えたまま、更に加速する。
身体が吹っ飛び、岩に衝突する。
そのまま岩の反対側から抜け出た諏訪子は、その吹っ飛び続ける身体を器用に動かし、軌道を修正する。
空気を裂き、地盤を砕く程の速度で殴られたというのに、その意識は鮮明に、ただ目前の敵にのみ向けられていた。
断崖絶壁。何十mもある巨大な自然で出来た岩の壁にぶつかる寸前、諏訪子は身体を回転させ、腕を壁に向かって突き出す。
ガァンッ!と轟音と共に、諏訪子が壁を
「――やるかッ!」
顔を上げ、叫ぶ諏訪子。
ボルテージの上がった諏訪子に対し、神奈子もまたそれと同等の、もしくはそれ以上の戦意を漲らせて動いていた。
既に目前には、神奈子の振り抜いた拳がある。
肘を曲げ、その分溜めた運動エネルギーを回避に活用。
諏訪子の鼻に触れる寸前で、神奈子の拳は空を切る。
身体を突き飛ばし、バク転の要領で壁を上り、そして神奈子も負けじと追いかける。
たった数秒。
諏訪子が壁を上り切り、空中を舞ったのと。
神奈子がそれに追いつき、両腕を固めて振り上げる行動が、同時に行われたのはその数秒であった。
今度は間に合わず、無防備な額を殴られ、再び諏訪子は吹っ飛ぶ。
地面に衝突し、何度もバウンドを繰り返す。
だがその間も、鉄輪は回転を一切緩めずにいた。
「シィッ…!」
獣染みた叫びと共に、サイズを変更させた鉄輪が地面に触れる。
切断力を下げ、摩擦力に特化した鉄輪はその回転力を武器に、諏訪子の身体に速度という名の恩恵を与えた。
鉄輪が地面に触れた途端、諏訪子の殴られた衝撃で生まれた慣性は一瞬で書き換えられ、逆転する。
諏訪子の蹴り、そしてそれを察知した神奈子の両手。
両者がぶつかり、拮抗する。
しかしそれは、先ほどから行われているやり取りは決して一方が有利なものではない。
神力の総量、出力から本人の格闘技術は間違いなく神奈子が圧倒的であり、今行っている
蹴り上げによる勢いが衰え、崩れる寸前の拮抗を前に、諏訪子は後ろに跳躍。
再び両者が距離を取り、両者がそれぞれ使い慣れた武器を手に、再び戦意を滾らせて向かい合う。
上がるボルテージ。
敵意と戦意と殺意。三つの連なる感情で作られた、殺傷能力とも呼べる圧。
決して誰にも邪魔できない、邪魔されない究極の緊張感。
神と神の戦い。
まだ準備運動。これでまだ準備運動――
張り詰めた緊張を保ったまま、神奈子は笑った。
「――速度を上げるぞ」
同意など求めていない。
が。どうしても伝えたかった言葉であり、そして"これから"を予見させるものであり。
そして、対する諏訪子の答えも既に――
「――来いよ」
今度は逆。
神奈子の鋭い蹴りが炸裂する。
そして同じく、先ほどの神奈子を模倣したかのように、全く同じ挙動で、両手で抑え込むように受け止め、防御。
すぐに距離を取る。
諏訪子は動かず、神奈子は足を滑らせるように絶妙な間合いを維持している。
腕が、拳が軌道を刻み、風圧を撒き散らす。
両者一歩も動かず、反撃による致命傷、防御など一切考えない殴り合い。
互いに放つ拳。互いに受け流す為に振り上げた前腕。それらが火花を発する程の接戦。
摩擦による痛みも、熱さよる怯みすらもなく、両者はただ夢中で殴り合い、殴り続け合う。
そしてそれが終わったのは、諏訪子の振り切った腕が空を切ったのと同時だった。
――いない!
――転移?
――違う!下だ!
諏訪子が咄嗟に視線を下に、そして未だ拳を振り抜いた体勢のまま、刹那とはいえ硬直状態に陥った自分を狙う、神奈子の姿を見た。
凄まじい柔軟性を発揮し、上体を反らすことで諏訪子の攻撃を避けた神奈子は、人差し指と中指のみを伸ばした、簡易的とはいえ能力を発動する為の「印」を結んでいた。
気づけた。
だが、既に遅い。
神奈子が印を解き、諏訪子に向けた瞬間、凄まじい突風が彼女を襲う。
バゴンッ!と人体から発してはいけない鈍い音が響き、風で吹き飛ばされた諏訪子の身体が再び、岩の壁に激突し。
そして止まった。
「お?」
諏訪子の身体が埋まる。
神奈子の操る原子レベルの能力操作による、疑似的な空間支配によって成される技。
それが諏訪子を襲う。
「おぉ――」
硬直。
しかし突風は止まずに、そのまま勢いを増していく。
とうとう壁が限界を超え、諏訪子の身体は再び壁を突き抜けて飛んでいく。
まず最初に、地面に頭がぶつかった。
次に肩。
勢いを殺し切れず、それどころか肩からの着地によって回転運動が増し、更に吹っ飛ぶ速度は跳ね上がる。
何度も、何度もバウンドを繰り返す。
そうしてやっと止まった時には既に、諏訪子の身体は最初の位置から数百mは離れた場所にあった。
自由を取り戻した諏訪子は、お返しとばかりに鉄輪を片手に、防御と攻撃の比率を攻撃に寄せた。
その瞬間。やってきたのは重過ぎる蹴りだった。
再び、諏訪子の身体は衝撃で突き飛ばされる。
それを追うように、神奈子は地面に足が埋まる程の身体強化を施しながら、追跡を続ける。
一歩動く度、神奈子の足からクレーターが発生する。
更に一歩。ドゴン!ドゴン!と音の重さは膨れ上がり、それに比例し脚力も増す。
再び、神奈子の蹴りが諏訪子に炸裂する――
「洩矢の鉄の輪」
よりも早く、諏訪子は動いていた。
咄嗟の反撃。
ほとんど無意識に近いそれで放たれた鉄輪は、諏訪子と神奈子を囲うように、円の形に地面を抉り、そして諏訪子の右手に帰って来る。
突如傾いた地面。
鉄輪による重心移動の阻害によって神奈子はバランスを失い、諏訪子の顔面を消し飛ばす勢いで放たれた蹴りは、不発に終わることとなる。
しかしその威力は凄まじい。
頬を掠っただけでありながら、諏訪子は頬の皮どころか肉までが裂け、鮮血が舞うのを見た。
それだけでなく、風圧によって肩にまで衝撃が伝わることで、僅かとはいえ骨に亀裂を走らせる程にまで。
――だが。
「…ち――との…み――」
だが、諏訪子は既に動いていた。
「ほう?」
神奈子の感心したような声。
それは目の前で、瞬きをした間に再生を終え、頬の肉どころか肩の僅かなダメージすらも癒していた諏訪子に対する賞賛であり。
それと同時に、湧き上がる疑問と推測によるものであった。
目の前で起こった現象。
自分のとは違う、謎の再生力。
そして一瞬、彼女の背中に見えた何かの気配。
――おもしろい。
ただ、今まで以上に楽しめそうだと、変わらぬ期待を胸に、神奈子は跳んだ。
「
諏訪子も負けじと跳躍。
だがそれにより、足から地面を離したほんの僅かな隙を突く形で、神奈子は再び指を突き立て、能力を発動。
風を操り、抉れた地面を操作し、浮き上がらせる。
意表を突かれ、足を離した瞬間に襲い掛かる、巨大な地面をぶつけられた衝撃と慣性。
体勢を崩し、地面を滑るに落下した諏訪子に対し、神奈子は一切の容赦はない。
風による操作を再び発動、変更点を加えて今度は真横に、諏訪子の身体を壁で挟んで潰すように動かした。
そして、神奈子は動く。
空を地面に、足場を作り加速した神奈子はその勢いのまま、諏訪子の身体を浮かべた地面ごと蹴り飛ばす。
諏訪子もまた、それをまんまと喰らう程甘くはない。
身体に纏った二つの鉄輪を総動員させ、自分の身体がちょうど抜けられるくらいの大きさの穴を作り、そこから神奈子に向かって突撃。
降り注ぐ岩と土埃。
諏訪子の振り抜いた拳を、神奈子は右手で軽々と受け止めていた。
――刹那。
神奈子の神力がかき消された。
いや、正確には右手のみ。
しかし間違いなく、ゴリゴリと何かを削るような音を立て、神奈子の濃密な神力の守りを突き破った諏訪子の拳が、神奈子の右手に収まっていた。
神奈子が掴んだ右手を引っ張るのと、諏訪子が自由な左腕を動かすのは、同時であった。
緻密な重心、力の移動…筋肉の動きを予測し、操る匠の技術によって、諏訪子の殴りは不発となる。
薄皮一枚、しかし途方もなく遠い達人の間合いに踏み込めず、隙を晒した諏訪子の額を、神奈子は頭突きでぶち抜いた。
再び、両者は距離を取る。
地面にぶつかるよりも前に、諏訪子は両手を突き出す形で地面を叩き、衝撃を殺す。
対する神奈子は、体勢を整えている最中の諏訪子を襲わず、じっと見つめたまま降下していた。
遅れて、ようやく神奈子が先ほど諏訪子に向けて放った、地面を抉って出来た巨大な投擲物が落下する音が聞こえた。
たった数秒に凝縮された、何万何億通りの予測による殴り合い。
粉塵が舞い、両者はただ先ほどよりも悲惨な、無茶苦茶に抉れた地面を見て、静かに笑った。
――まだ、まだまだこんなものじゃない。
――ここまでの規模の戦いは初めてだ。
――楽しい。
――嗚呼!楽しい…!
結界による閉じ込め。それは決して本人には止めることも、解除することもできない一回切りの儀式による恩恵。
第三者が、そして閉じ込められた神が外に出ることができるのは、相手を殺すか殺されるか。
死ねば勝負の決着がつき、同時に結界内に抑留していた魂が儀式の終了と共に、結界が解除されると同時に黄泉に行く。
勝者しか残らない。残さないという強い意志の下に、この戦場は成り立っている。
だからこそ、両者はただ漠然とした感謝の思いを浮かべていた。
それは、己の内にある強者の渇きを癒せる場と、それに相応しい相手がいる現実。それに向けたものであった。
「全部あんたが壊したことにするからね」
「……どの口で?」
――
絶対的な自信の下に、神奈子は諏訪子に対しそう言った。
生き残るのは自分だと、お前ではなく私だと、そう言い切る意味も込めた言葉を――
「やばっ千亦が配信してんじゃん!」
「………」
諏訪子はその皮肉に気づくことなく、ただ呑気に戦場の無残な有様を眺めていた。
千亦の名を聞き、一瞬己の皮肉に気づいていない諏訪子に向けたものとは違う、別のしかめっ面を神奈子はする。
仕切り直しの意味を含めたため息を吐き、神奈子は諏訪子と向き合った。
が、それもすぐに終わる。
「…もっと上げられるでしょ?速度」
「………あぁ」
「ここまで来たら…」
「言葉じゃない、だろう?」
ウォーミングアップは終わった。
互いに充分身体は温めた。
両者既に、戦意も肉体のコンディションもバッチリな、これからの戦いへの備えを終えた状態である。
――言葉は無粋。
これから行う技は。
そして技術のぶつかり合いは、決して誰にも計り知れない。
両者同時に。
誤差0.001秒にも満たない極限の鍔迫り合い。
その真の開戦の狼煙の名は――
「莫大な神力量と出力…それによる鉄壁の守りを貫く為、諏訪子は瘴気による特効を軸に戦いを進めているみたいだ」
その戦いを、洩矢神社に集まったあらゆる魑魅魍魎、妖怪から神に至る全てが見ていた。
自我すら危うい低知能な妖怪から、人の言葉を理解し、感情すらも覚えた古参の妖怪。
中には生まれたばかりの、未だ実力としては未熟としか言えない産土神から、高天原から下りてきた偉大なる始祖神まで。
全てが、人外魔境の戦いを観察していた。
諏訪子と神奈子を閉じ込めているのは「帳」と呼ばれる儀式の結界。
両者の同意と、明確に決められた日時と戦いの意思、そして両者がそれぞれ勝った場合、負けた場合の報酬とその代償を設定して、ようやく展開できる大掛かりな結界だ。
決して誰も、あれに入ることも邪魔することもできない。
帳の条件である、当事者を除く「あらゆる神と妖怪の侵入を禁止する」という効果によって、彼女たちは決着がつくまで決して逃げることはできないのだ。
「…瘴気…か」
最初にそう零したのは、心配そうな表情のまま、目の前に浮かぶ巨大なモニター…ではなくカードを眺める少女。
千亦の操るカードの集合体。それが地面から少し離れた位置に浮遊し、洩矢神社の敷地中央に佇んでいる。
それを、必死に手を握りしめて見つめる少女。
――人間。マエリベリー・ハーン――
「大百足、八岐大蛇の討伐でも使っていた、あらゆる万物と対を成す負の力…だっけか?」
次に零したのは、普段は片手に持っている筈の瓢箪を地面に置き、あぐらをかいてカードを見上げる少女。
立派な二本の角と、そして身体から溢れる底のしれない妖力は、彼女が強者であることを否が応でも理解させられる。
――山の四天王。伊吹萃香――
「確かに神奈子の神力が消されてたな、どういうこと?」
次に喋ったのは、氷の妖精・チルノだ。
そんな彼女の疑問に答えたのは、迷いの竹林の現主である――因幡の白兎・因幡てゐである。
「私らの妖力を更に練り上げ…というかもっと上の異質な力そのものだな。人が人に対し本気の殺意を向けるような、真に忌み嫌われ、恐れられた存在にしか扱えない…そういう力だよ」
「てゐ、あんたは使えるのか?瘴気」
「舐めんなできるわけねーだろ」
(感覚としては理解できる…)
萃香に対する鋭いてゐのツッコミを聞きながら、唯一理解できたのは同じ瘴気を扱える――大蜈蚣・姫虫百々世。
そんな百々世の隣に座り、てゐに続く形で喋り出したのは。――天狗・飯綱丸龍とその上司、鞍馬天満と犬走楓だった。
「唯一の弱点として、瘴気はそれ以上の、自身と比べ倍以上の力をぶつけられると、逆にこちらが消されるというものがあるのですが…それは諏訪子様も例外ではないようですね」
「仮にあの莫大な出力での防御を、それ以外の手段で突破できれば。――勝つよ。諏訪子様は」
「…しかし逆を言えば、瘴気による特効を含めても現在のように、こうして互角に持ち込むのがやっと…」
そんな天狗三人に続く形で、声を上げたのは――大妖精。
「そういう話であれば、何故神奈子さんは見た感じ、全然神力が減っていないんですか?瘴気を打ち消すには、それの倍の何かが必要なんですよね?」
「あたい知ってる!多分こう…無理して一気にぎゅいーん!って力を出してるんだ!」
「…減ってないんだよ?」
「じゃあ節約!決着が早くついちゃうから嫌なんだ!」
「…ついていいよね?というか減ってないんだってば」
「確かに!なんでだろ!?」
「………」
それは尤もな話だ。
だが、戦いに疎い大妖精には、その疑問に対する正しい答えがわからないのだろう。
しかし逆に言えば、戦いに身を置いた者であれば、神奈子の異常性とその強さがわかるということであり。
「それに
「それはちょいと誤解があるね」
大妖精の疑問に答えたのは、萃香と同じ鬼特有の圧を持ち、そして萃香よりも一回り大きな身体を持つ少女。
――山の四天王・星熊勇儀――
「そもそも
「待て、さっきから何当たり前のように
――山の四天王・茨木華扇。
彼女は勇儀の言う内容に、呆れた顔のまま続けて言った。
「
「だが…神奈子に燃料切れなんてあるのか?」
「それはあくまで量のみに物を言わせた場合の話だろう。たとえどれほど効率を上げようと、総量を増やそうとあの燃費の悪さはどうにもならん。つまり常識的な運用が前提というわけだ、
「実際どうなんだ?市場の神さんよ」
そう言って、勇儀はこの巨大な配信施設を稼働中の、ある意味この中で、最も神奈子のことをよく知る彼女に問う。
彼女は、市場の神である天弓千亦は、憎らしいという風に表情を変えて、一言。
「神懸かってる」
同じ神である筈の千亦でさえ、神奈子の強さをそう表現するしかなかった。
「それに神力も話にならないわね。直感で私の倍以上はある」
「能力発動までのキレ、徒手空拳からあらゆる地形を利用した環境への適応能力…小癪だが認めるしかないだろう」
「はっはっは!やっぱ相変わらず滅茶苦茶だなあいつは!」
「つまり二人とも、燃費が理由で
「――おい」
一言。
姫虫百々世の零したその一言で、華扇と勇儀、そして萃香までもが。
千亦も、この場にいる全員が、一斉に巨大なカードに視線を向け――
そして、見た。
「…来るぞ」
諏訪子は人差し指のみを伸ばし、合わせる。
残りの指同士を絡め、親指を仕舞うように畳む。
神奈子は親指と人差し指で作った円を、鎖のように合体させて、残りの指を絡ませる。
中指のみを伸ばし、そして頂点で交わるように配置させる。
古代最強の。
史上最強の。
――不動明王印が。
――愛染明王印が。
両者が刻む、始める異能の頂点。その世界の一端。
その名は――
――
帳による結界内では、対になる二人の必中命令が重複し、打ち消し合っていた。
互いが領域を展開した状態での戦闘。
どちらかが大きなダメージを負い。
どちらかの領域が崩壊すれば、即座にどちらかの必中能力がどちらかを襲う。
拮抗という次元を超えた、互いの一挙手一投足が、互いの力の波長と同調した、互いに互いを生かし、互いに殺し合う究極の鍔迫り合い。
外殻のない心象風景の具現化と、莫大な神力と瘴気のぶつかり合いによる互角の戦いは、そう長くはもたなかった。
――両者が領域を展開してから13秒。
――両者の領域が、同時に崩壊した。
そしてそれは、既に神奈子にとっては計算の内であり――
「まだ終わってない」
神奈子は既に、御柱を顕現させ。
領域展開直後の、高まる緊張感によるゾーンへの突入。
その高まる戦意を瞳に宿し、今まで以上に神力を滾らせ、第二ラウンドに突入していた。
「――勝負はこれからだろ?」
――そしてそれは。
「あ~…そうか、そうだな…」
相対する諏訪子も同じであり。
「――そーかもなあ!!」
同じく。
領域展開直後のゾーンに突入し、両腕を広げて笑って答えた。
神奈子がその隙を見逃す筈もない。
既に、神奈子の身体は踏み込みによる加速を終えていた。
大地を。
空気を味方に。
一切の無駄も、油断もなく、冷静に諏訪子の首を刈り取らんと手刀を繰り出す。
史上最強の国津神。
古代最強の土着神。
どちらが挑戦者になるかは――
「…洩矢の鉄の輪」
――背後から感じる。異質な気配。
神奈子の手刀が空を切り、無防備となった背中を晒す。
史上最強と古代最強。両者の格はこれで、どちらが挑戦者となるかはこれで決まる。
唯一動かせた目と首で、神奈子は諏訪子の指、その上で小さく光る"赫"を見た。
無限に膨張する銀河の。
星の粒のように。
「――
――指の隙間を零れた。斬撃。
鉄輪が切り裂く空間、その歪みによって生まれた斬撃が、神奈子の身体を穿つ。
咄嗟に振り上げた左腕は、無様にもそのまま切断され、そして肩から腰に走る一本の赤い線が、神奈子の身体に刻まれ、そして吹き飛ばす。
岩の壁に激突し、そして崩落する瓦礫に埋もれ、神奈子は決定打を喰らったという結果のみを噛み締めることとなる。
どちらが挑戦者となるのかは、この一撃で決定づけられた。
史上最強の国津神。
――古代最強の土着神。
失った腕を再生させ、立ち上がる神奈子。
それに対し、諏訪子はただ自信満々に、指を突き立て笑いを一つ。
「勘違いしてるみたいだから言っとくけど…」
――人外魔境諏訪決戦、その開幕。
「そっちが
「
――最強
洩矢の鉄の輪・
元ネタはロスワ青霊夢の「夢想転生・
空気を断絶し、その歪みによって生まれた衝撃波、斬撃を飛ばす技。
ちなみにまだ「未完成」である。
リアルの都合で次から最低週一投稿になるかも
感想と評価ビシバシ下さいな
呪術廻戦はどこまで知ってる?
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最新の単行本(人外魔境)まで
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アニメの内容(渋谷事変)まで
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あまり知らない(領域展開は知ってる)
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全部わかる