【本編完結】諏訪子様になった、負け戦を回避したい   作:洩矢廻戦

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作者「おっ!テレビで呪術廻戦0やってる!…あ、CM…」
羂索「夢と現実の間…呪いさ」
作者「ウアアア死滅回游ノアレダーッお見事です羂索ボー。やはり私が睨んだ通り、あなたは強い呪術師だ」

 突然のCV櫻井(羂索)はクソビビったけど本当にかっこよかった…見ててよかったです、マジで。


7話.ぶらり祟り旅

 ――メリー!

 声が、聞こえる。

 

(…これは、夢)

 

 未だ意識がハッキリとしない、まどろみの中で身を泳がせながら、少女はそう確信する。

 いや、夢なら今までずっと経験した、侵入し、実感し、その幻想の世界に、己の肉体を投影してきたはずだ。

 ――だけど、これは違う。

 

(最後に会ったの、いつだったかしら…)

 

 夢に落ちる。

 その幻想の世界は、瞼と意識を落とす数、それと同じかそれ以上に存在した。

 失われた文明。ひび割れ、荒れ果てた大地と地平線の、遥か未来の世界と、それとは反対に、生命の溢れる緑一色の、原初の地上のような世界。

 少女は――マエリベリー・ハーンはこれらの世界を、夢の舞台を旅してきた。

 彼女にとって、夢は違う世界。

 

 ――メリー!

 

(これは、夢じゃ…)

 

 ――だけど、これは違う。

 耳に残る、"彼女"の声に思いをはせながら、マエリベリーは意識を覚醒させる。

 夢ではない、ここは現実。だからこの覚醒も、真の意味で覚めるものではない、そんなことは知っている。

 あの土も、竹も、己が身を置くその全ての景色が、どれも全てが現実のものだと、衰弱した自分の身体が、嫌というほど証明した。

 ――そして、目の前の、あの少女も言っていたから。

 

『夢と現実の(はざま)(まじな)いさ』

 

 その声が。

 "彼女"のものよりも強く、マエリベリーの耳に残ったままだった。

 

 

 

 

 

「う、うん…」

 

 赤。

 意識が鮮明になり、閉じた瞼に差し込む日の光が、マエリベリーの視界を、淡い赤で埋め尽くす。

 意識は完全に覚醒を果たす、しかしこの覚醒は、この謎の世界に囚われたままという現実を、再び己に示すもの。

 現実逃避をするため、瞼を開こうとしないまま、マエリベリーは瞳を閉じたまま、しばらく首をぐるりと動かして、ため息を吐く。

 そしてとうとう覚悟を決めて、マエリベリーは瞼を開いた。

 

「…家?」

 

 まず最初、マエリベリーの目に入ったのは木。

 天井、今自分が寝転がっている住居のそれが、数m先の四角い空間に敷き詰められている。

 だがよく見れば、木と木の接合部分は少しおかしい、マエリベリーがいた時代では、欠陥住宅という言葉では表現しきれないだろう。

 脆く、やっと雨を防げるように加工されたそれを見て、再び疑惑が浮き上がる。

 

「ここは…」

 

 身体を起き上がらせて、視線を上から横へ、天井から床に伝うように、ゆっくりと視線を動かしていく。

 ――そして、竹林が見えた。

 

「…えっ」

 

 ()()()()()()

 マエリベリーの視線の先、そこには意識を失う前、自分が囚われていたあの竹林があり、本来そこにあるはずの、家の壁は存在していない。

 視界の端で、この家の支柱であろう太い角材と、本来壁があるはずの目の前の空間で、竹林は相変わらずの、鮮やかな緑色の光を放っていた。

 ひゅうう…と、竹の隙間を通って鋭く変化した、その冷たい風が頬を擽る。

 

「――あ、やっと起きた」

 

 気配を感じた、それと同時に耳に入る、マエリベリーが意識を失う前に聞いた、あの声。

 咄嗟に振り向き、そして僅かに怯えと警戒心を纏って、視線を向けて、その声の正体を見る。

 目の前の彼女は、ケラケラと笑って、それを受け止めた。

 

「おー怖がってるねぇ。まぁ仕方ないか、あんなことがあったんだしね」

「………」

 

 指で頬を掻きながら、彼女は警戒心を露わにする、マエリベリーの隣に移動して、そのまま座って、話し続けた。

 

「とりあえず、記憶はどこまであるかな?」

「…眠って、気づいたらあの竹林で、目が覚めるまで歩いて…」

「なるほど、大体わかった」

 

 うんうんと頷きながら、彼女は首を右へ、左へと傾けて、マエリベリーの話を聞く。

 途中で話を切り上げられて、むっと彼女を睨むと、彼女はそれも、笑って受け入れる。

 そして、右手に握るそれを、こちらに向けた。

 

「これ、君のでしょ?」

「…!それ、私の…」

「返すよ、名前も書いてあったしね」

 

 彼女の手にある日記帳を、マエリベリーはひったくる勢いで受け取って、その状態を確認する。

 竹林の散策中、どこかで落としてしまったそれだが、目立つ汚れも傷もなく、落とす前の状態と何ら変わっていない。

 鮮やかな茶色と、指に吸い付く革の触感、そしてそこに書かれた己の名前。

 それにほっと、胸を撫で下ろして。

 

「私の可愛い祟り神たちがね、それを拾って届けてくれたんだ、感謝しなよ?」

「…?祟り神…?」

 

 "祟り神"、その言葉を聞いて、マエリベリーの顔に、更に疑惑の色が強く浮かぶ。

 神、というのは言葉としては知っている、自分が通っていた学校でも学んだ、かつて昔にあった信仰()()()()()

 今では誰も意識しない、遥か昔に消え果てた、その概念。

 ――だが、その疑惑はすぐに晴れる。

 

「ほら」

 

 彼女が、ニコリと笑って、右手を上に向け、そしてその中で輝く、黒い球体を目にした。

 そして、それが変化を完了する――

 

『ア"いぇ…ルるルル…』

「っ!?」

 

 生物の範疇に収まらない、おぞましく禍々しい、その見た目。

 肉が崩れ、抉れたように滅茶苦茶な構成をしたその見た目と、そして漏れるうめき声が、マエリベリーに生理的な嫌悪感を与える。

 そんな気持ちの悪いものを、目の前の彼女は残る左手で、つんつんと突きながら、首をこてんと傾げて。

 

「じゃあ、改めて自己紹介しよう…洩矢諏訪子。土着神の頂点…を後にやる予定の、ちょっと凄い神様さ」

 

 自分と同じ金髪を、風で靡かせながら、そう笑いながら言った。

 

 

 

 

 

「落ち着いた?」

「…そう見えます?」

「だよねぇ~」

 

 ――風が心地よい。

 何とか形になった、家の天井とその縁側。だがそれでも形になっているのはほんの一部で、完成までには程遠いもの。

 試行錯誤で木を削り、叩き、固定して座り心地、寝心地を確認しながら、やっとできあがったこの場所。

 そのまともに形の成っている縁側の1つに、距離を詰めるようにぎゅうぎゅうと、2人は座って空を眺める。

 

「つまりはだ。君は実際には遠い未来に住んでいて、夢を見ると同時に色んな世界を旅していた。でも何故か今回は、夢じゃなくて本物の世界…しかも昔の時間に飛んじゃった…ってことだよね」

「多分。…というか、信じてくれるんですか?未来から来た…なんて」

「逆に聞くけど、マエリベリーはさ、いきなり見知らぬ大地に飛ばされて、妖怪だの祟り神だの人間じゃないだの…信じられる?」

「…えーっと」

「ま、しょうがないか。でも私は信じるよ、だってその方が面白そうじゃん、あと敬語はいらないよ」

 

 ――だって()()()()()()()

 どう返したものかと、目の前で困ったように視線を逸らすマエリベリーに、彼女は内心でそう零す。

 マエリベリー・ハーン。彼女もまた、"彼"の知識の中にいた人物であり、本来この迷いの竹林を訪れるには、少しばかり早いはずの存在。

 何故。自分が原因?イレギュラーな誕生を果たした、この洩矢諏訪子という存在が、彼女をこの世界におびき寄せたのか――

 そうして、しばらく考えて。

 

「ま、いっか」

 

 そう、切り捨てた。

 

「とりあえず、信仰も無条件に受け入れるのもしなくていい。妖怪を名乗る変な奴と、神を名乗る変な生き物がいる変な世界…最初はその認識でいいよ」

「そ、それでいいのかしら…」

「だってさ、いきなり"神様を信じてみよう"なんて難易度高いじゃん?まぁ後々にしよう、とりあえずは…」

 

 じっと、彼女はマエリベリーを見つめ、そして両者に沈黙が降りる。

 そして、この問題の核心に入る。

 

「どうやって帰るか…だね」

「…っ、それは」

 

 そもそも何故、マエリベリーはこの古代日本にタイムスリップを果たしたのか。

 何故目が覚めず、元居た時代に帰れないのか、何故の疑問は尽きず、その解決策も何もわからない。

 そして、彼女が選んだ対策法は――

 

「ま、なんとかなるでしょ」

「…はい?」

「突然こっちにやって来た…それはつまり、突然何かの拍子に、向こうに戻れるってことかもしれないじゃん?」

「い、いやいや!それは…!」

「大丈夫だよ、()()()()()()

 

 ――マエリベリー・ハーンは元居た時代に帰還する。

 彼女の心の中で、その推測がより強く、そして固く確信に至り、揺るがないものになっていく。

 "彼"の知る知識の中では、この少女がどのようにして、どの拍子に戻ったかの詳しい知識はない。だが、()()()()()()()知っている。

 しかしマエリベリーは、納得いかないと訴えて。

 

「も、もしかしたらもう、二度と元に戻れないかもしれないじゃない!?それなのに…」

「じゃあどうする?もう一度、夢から覚めることを信じて、竹林をずっと歩き続ける?」

「…っ」

「したいならそうしたら?まぁ、推奨はできないけどね」

 

 ぶっきらぼうにそう返す彼女に、マエリベリーはしばらく顔を俯かせて、膝の上に置いた握り拳に力を入れる。

 ここで彼女の言葉に怒り、この場所を出ていくことは簡単だ。だがその後は?

 この、魑魅魍魎の溢れる危険な時代に、たった1人で旅ができるのだろうか?

 そんな漠然とした不安に、身を震えさせていた時だった。

 

「私は神だけど、鬼でも悪魔でもないよ。君のことをほっとくわけないじゃない」

「…えっ」

「付いてくる?私たちに」

 

 相変わらず、こてんと、あざとい仕草をしながら、首を傾けて楽しそうに笑う彼女。

 一瞬、マエリベリーは呆気に取られ、そしてすぐに、彼女の言った言葉にも、耳を疑いながら聞き返した。

 

「助けて、くれるの?」

「当ったり前じゃん!1人は寂しいよ?それは私もそうだからさ」

 

 ――もし、自分にミシャグジ様がいなかったら、どうなっていただろう。

 あの、未知に溢れた古代の日本、襲い掛かる、言語を使えぬ魑魅魍魎。

 彼らもそう、勝利し、手駒にする度に増えていく、自分の仲間たち。彼らの存在があったから、今の自分がある。

 

「とりあえずさ、何も考えずに生きてみよう?不安から目を逸らすのは悪いことじゃない」

「…でも」

「まぁこれは持論だけどね。先に不安があろうとなかろうと、今を楽しむことは、どちらの立場でもできること」

 

 彼女は右手を差し伸べる。

 マエリベリーのそれよりも、少し小さく、そして柔らかい少女の手。

 

「とりあえず楽しもう?この世界も、そう悪いもんじゃないよ?」

 

 その、慈愛に溢れた瞳と表情を見て。

 マエリベリーは、その手を――

 

「私を、助けて」

「任せて」

 

 握って、受け入れた。

 

 

 

 


 

 

 

 

「新たな仲間を紹介しやすっ!」

「ま、マエリベリー・ハーン、です…」

「はい皆拍手ゥ!!」

『イ e エ え ア" あ ア  ッ』

「いや、おい待て」

 

 ――ぱちぱち

 率先し、妙にハイテンションで騒ぐ彼女と、その隣で恐れ多い様子で、少し抑えめに自己紹介をするマエリベリー。

 それらを囲う形で配置された、これまた奇妙な見た目をした、人間の手が複数、地面から生えているかのような姿をした、主に釣られてハイテンションな祟り神たち。

 そして、冷静に右手をあげて、話題を切り出すのはてゐ。

 

「諏訪子、あんたさぁ…」

「はいなんでしょう?」

「やっと情報を入手して、これからだって時に…突如竹林に戻ろうって言ってさぁ…」

「はいなんでしょう?」

「一日、あの水の金魚の中で待機させて…それで、やっと戻ってきたと思ったら…」

「…なんでしょう?」

「せ・つ・め・い・!」

 

 フシャー!と、まるで威嚇する猫のような威圧感で、てゐがそう叫ぶ。

 そう、昨日あの白蛇から…ミシャグジ様から連絡を受けた彼女は、今までの話題を振り切り、すぐに竹林へと向かいだした。

 最初こそ違和感を感じたものの、「すぐに戻る」と言ってから、上空から竹林に向けて、即飛び降りてしまったことから、仕方ないと割り切り、彼女の帰りを待った。

 ――そう、今も上空で佇む、この金魚の祟り神の中で。

 

『も" も" … 』

「いやごめん…彼女、かなり衰弱してたしさ?無理に上空に引っ張るのもあれかなぁって…」

「こいつを竹林の中に呼べばいいだけだろ」

「………」

「"あ!思いつかなかった!"って顔してるんじゃないよ!」

 

 未だ困惑したままのマエリベリーの前で、彼女はてゐにポカポカと胸を叩かれ、苦笑いを零している。

 先ほどまであった、得体のしれない存在という認識が、間違ってたのではないかとも思えるほど、その顔と空気は柔らかく、優しいものだった。

 そして、困惑は更に加速する。

 

「アンタ!諏訪子と同じ金色の髪なのね!」

「え、えぇ…」

「あの…心配しなくて大丈夫ですよ?きっと帰れますから!」

「あ、ありがとう…」

『 い i イ" e E え エ …』

 

 くるくると、自分の身体を囲って飛翔する、小さな妖精たちに話しかけられて、マエリベリーは更に、どうすればいいのかと悩みだす。

 たまに聞こえる、祟り神の放つうめき声に、妖精たちの可愛らしい鈴のような声と、目の前で叫ぶ、うさ耳少女の声。

 悪い人…いや人ではないが、それにしたって摩訶不思議すぎる。

 

「あ、あはは…」

 

 マエリベリーは、これこそ夢だったらなぁ…と、そう思った。

 

 

 

 


 

 

 

 

「レッツゴー!オーキドーキ!」

「元気そうだねぇ…」

「当ったり前じゃん!旅といえば"これ"でしょ!」

「私は、あんたのそういうとこがよく分からんよ…」

 

 ルンルンと、一行の先陣を務め、真っ先にと早歩きをしながら、楽しそうに笑う彼女に、てゐはやれやれと首を振る。

 長く続くその山道を、彼女は坂を登ることが何も辛くないと、体力の温存など度外視した、消耗の激しいスキップを繰り返しながら、移動していた。

 

「おー!ここまで遠出したのは初めてだぞ!」

「チルノちゃん!あまり遠くに行っちゃ駄目だよ!」

「おおぉ!なんだあの花は!?大ちゃんこっち!」

「あーもう!言った傍からああっ!」

 

 そして、そんな彼女を追い越して、チルノと大妖精が空を飛ぶ。

 左右に広がる森林、それらの間をくるりと周り、器用に間を潜って、アクロバティックな飛行を繰り返しながら、自然に鬼ごっこが始まった。

 そんな様子を眺め、上を見上げる彼女は、やっぱり彼女らしいと笑って。

 

「うーんチルノらしいなぁ…やっぱり妖精はああでなきゃ」

「元気ねぇ…あんなに元気いっぱいだと、後から燃え尽きないか心配だけど…」

「心配しなくていいって、妖精は生命力の塊だから…そうだ、マエリベリーは?」

「メリーでいいわ。それに、私もまだまだ元気いっぱいだし」

 

 隣に並び、歩幅を合わせて歩くマエリベリーに、彼女はそう聞いて、そしてその答えに笑みを浮かべる。

 うーん…と、腕と背を伸ばしながら、彼女はあたり一面に広がる緑と、目の前にそびえ立つ、巨大な山を見た。

 ――そう、彼女たちは今、()()()旅をしている。

 

「歩く旅も悪くはないけど…やっぱ一度、空を飛んだ時の快感を味わうと…ねぇ?」

 

 最初、彼女は自身の祟り神に乗って、上空に飛んで山を越えようと提案した。

 しかしそれに、待ったをかけたのは他ならぬてゐだ。

 てゐは長生きだ。たとえ竹林に籠っていたブランクがあろうとも、その年長者の知識には従うべきだと、そう受け止めて、徒歩での旅を開始した。

 あ~…と、再びため息を吐いて。

 

「うーん空飛びたいなぁ~…歩くのも嫌いじゃないけども…」

「諦めな、それに飛んだところで、そう上手くいくとは限らないよ」

「…ちょっとてゐ、それどういう意味?」

「あぁ確か…ここら一帯は天狗の所有地って噂だ、下手に飛んで撃ち落とされるのは勘弁だよ」

「――天狗、かぁ…」

 

 てゐがそう零した言葉の中、"天狗"という名に反応して、彼女は期待に目を輝かせて、笑った。

 そうだ、天狗といえば"あの子"がいるかもしれない…と、鼻歌を歌いながら歩き続ける。

 それにこの、足から伝わる土の感触も、嫌いじゃないから。

 しかし天狗といえば…と、彼女はてゐに話しかける。

 

「え、天狗って縄張り意識凄いって噂じゃなかったっけ?今の私たち大丈夫?」

「あんたは天狗を何だと思ってるのさ…いくらなんでも、山道を歩く程度じゃ突っかかってこないって」

「うーん…ならいっか」

「それに、旅は長いよ?村とやらに着くのは…いつになるか」

 

 手を軽く組みながら、そうぼやくてゐ。

 そう、大妖精の言う村。それを目指して、彼女たちは今、この巨大な山を越えようと、山道を歩いている。

 噂で聞いた、ある小さな村の話…それを大妖精から聞き出し、彼女たちはそこに向かおうと、徒歩での旅を始めた…のだが。

 まず最初、目の前にそびえ立つ山を見て、彼女たちはワクワクしながら、その山を登った。

 体感時間で言えば2時間ほど、途中何回か休憩を挟み、そして太陽がより強く輝いた正午頃、やっと着いた山頂で、それを見た――

 

 目の前に()()()、5つの山。

 

 最初に登った山よりも、そのサイズが小さいのが救いだろう。

 だが"彼"にとっての、現代感覚の抜けない心が、それに軽い絶望を覚えたのは言うまでもない。

 大妖精も、てゐも、マエリベリーも、その目の前の景色に、呆気に取られたものだったが…

 ――ここに、例外が1人。

 

「アハハ!早くこっち来なさいってば!」

「マジで元気だねぇ…」

 

 旅を始めて数時間。

 その間、一切の調子が変わらない、チルノの楽しそうな姿を見て、彼女は和やかに笑う。

 空中で旋回を繰り返し、縦に横にと飛行を繰り返すチルノは、この旅のモチベーションを、知らないうちに維持している重要なものになっていたのだ。

 疲れ知らずの無邪気さ、お転婆なその妖精の姿は、彼女だけではなくマエリベリーや大妖精も、癒されるようなものだった。

 すると、マエリベリーが声を上げる。

 

「うーん…そろそろお腹が空いてきたわね…」

「あ、もうそんな時間か」

 

 ぐぅ…と、控えめに鳴った腹の音を聞いて、マエリベリーが切り出したことで、その歩みが一時的に止まる。

 そういえばそうだ、この旅の仲間はほとんどが人外、人間は1人だけで、食事が特別必要なのも彼女だけ。

 

「よし、じゃあここで休憩にしようか。…おーいチルノ!おやつの時間だぞー!」

「おやつ!?食べる食べる!」

 

 食事が必要だから、という説明はせずに、あくまでも「おやつ」で釣る。

 そして彼女の思惑通り、チルノは何の疑問も抱かないまま、上空からぴゅーんと急降下し、彼女の目の前に降り立つ。

 

「こいつが美味いものを探してくれるから…それに従ってね?」

「了解!」

『ごッ…こっちィ~…』

 

 ぽんっと、軽く手を振る仕草と共に、召喚された祟り神に指示を出し、彼女はチルノにそう話す。

 呼び出された、空を泳ぐ骨と神経で構築された魚のような祟り神が、森の方へ動くと同時に、チルノも飛翔し、それを追う形で、大妖精も飛翔する。

 

『あま、アマい、のこ…っちィ~』

「そっちか!待て待て~!」

「あっチルノちゃん!」

 

 森に入り、その後ろ姿が完全に見えなくなったのを確認して彼女は再び左手に、新たな祟り神を呼び出す。

 そして再び呼び出される、空を泳ぐ魚と祟り神を指差して、てゐとマエリベリーに続けて言う。

 

「じゃあてゐにメリーも、こいつらに従って食べ物収集ね」

『お、オいしイの…こっちィ〜』

『う、マイの…こ、っ…チィ〜』

「……もう突っ込むの疲れたわ」

「同感だね」

 

 ふよふよと漂う祟り神の後を追い、チルノと同じように、てゐとマエリベリーの2人も、食べ物を集める為に、木々の奥へ歩き出す。

 その姿を見届けた後、彼女は再び、右手に新たに神力を集中させて、黒の球体を作り出す。

 それが練られ、形を変化させていく様子を眺めながら、呟いた。

 

「私の分はどうしようか…」

 

 再び彼女によって呼び出され、巨大な身体をしならせる白蛇…"ミシャグジ様"とは別の、蛇の祟り神。

 それの背に乗り、ぐーっと背を反らしながら、目の前に広がる青い空を、彼女は見つめる。

 その様子をこっそりと、彼女の後ろにある木の影から、隠れて見つめる少女がいた。




 旅はいいものです。

呪術廻戦はどこまで知ってる?

  • 最新の単行本(人外魔境)まで
  • アニメの内容(渋谷事変)まで
  • あまり知らない(領域展開は知ってる)
  • 全部わかる
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