【本編完結】諏訪子様になった、負け戦を回避したい   作:洩矢廻戦

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 あと2話で完結、その後はまたゆっくりと古代スタートのテンプレ通りに書いていきたいですね。
 ついでに、京都幻想劇団様。クラウドファンディング目標金額達成おめでとうございます。


72話.古代幻想神話諏訪大戦・序

 太陽は既に役目を終え。夜の帳が下りていた。

 数多の星々が光源として輝いており、電気の通っていない古代の夜だというのに、その明るさは現代とそう変わらない。

 澄んだ空気。

 星々を遮るものがない快晴の夜。

 見渡す限りの広大な宴会場。夜空の下に集う一同たち。

 招かれた客人たちは、皆が祭りの開催を楽しみに――

 

「そこ。皿が足りないから足す!」

「は、はいっ!」

「こら!そこつまみ食いしない!」

「すみませーん!」

「肉をもっと用意して!あと食前酒の量が足りないから――」

「てゐ様ー!コレどこに置けばいいんですかー!?」

「それくらい自分で考えろ!」

「てゐ様!お皿を割ってしまいました!」

「勝手なことするな!」

「どっち!?」

 

 ――待つことはなく、徹底的にこき使われていた。

 洩矢神社の整備。そして政策の中心として機能する上層部の人間が数名。

 百鬼夜行を経たことで、その数を多く減らしたものの、しぶとく生き残った数百の鬼。

 そしてそれらを皆、等しく片手でねじ伏せられる程の圧倒的な神格を持った、神代の時代を生きた神霊が十数名。

 その他を含め、合計で千を超える人外たち――その中でも特に印象に残るのはやはり、率先して宴会の準備を続けている()()()()だろう。

 視線の先にいるのは、一見すると人間の少女にしか見えないそれは、つい最近まで妖怪…兎そのものだった。

 長く生きた動物が妖怪となり、そして力を身に着けると同時に知性を会得し、人の姿を手にするのは常識。

 だが彼女たち『イナバ』はどうだろうか?

 妖怪として大成する程の年月を生きた訳ではない。

 知性を会得する程生きた訳でもない。

 人の姿などもっての外。それなのに彼女たちは、人の姿と知性を手に入れ、こうして目の前でテキパキと作業を続けている。

 

「人化の法……それもかなり高度なものね」

 

 埴安神袿姫は、思わずそう零した。

 

「袿姫様?」

「見事な()ね。全は一、一は全…いや正確には、あなたが全の象徴?」

「さぁね」

 

 隣に座る従者の言葉を無視し、袿姫はてゐにそう言った。

 諳んじるかのように。

 問いでもなく、ただ独り言を零すかのような仕草で言った。

 てゐがそれを無視したとしても、袿姫は気にせず、ゆっくりと時が過ぎるのを待っていただろう。

 袿姫の推測、そして意味深に答えてみせた、イナバを率いる長であるてゐの二人を、訝しげな目で見る埴輪の少女。

 天上天下の創作者(クリエイター)、埴安神袿姫の最高傑作。

 ――突然変異。完全自律型埴輪兵、杖刀偶磨弓(じょうとうぐうまゆみ)

 

「袿姫様。それはどういう…」

「おっと磨弓ちゃんは駄目。いつか自分でも気づけるようにならなくちゃ」

「は、はぁ…」

「ふん」

 

 思わずといった磨弓の疑問を、袿姫は優しい笑みで止め、そして興味を失ったかのように、視線をてゐから外した。

 てゐもまた、同じように踵を返し、袿姫から距離を離していく。

 その背中からは、一瞬だけ漏れ出た彼女ではない別の何かが持つ力が。

 "起こり"に近いその波動が可視化された一瞬の次に、てゐは再びイナバ達に言葉を投げかける。

 

「お前たち!諏訪子のやつはもう近い!最後の準備を始めな!」

 

 袿姫の一つ奥の列。そこで配膳を終えかけていたイナバも、身体を硬直させ。

 そしてすぐ、彼女たちはその顔を喜色に染め上げ。

 待ってましたと言わんばかりに、背後で待機していた残りのイナバたちが動き出す。

 臼を持ち、米を持ち。

 てゐの指示によって、無駄のない統率の取れた動きで、皆が餅を作り始める。

 

「一つ搗いてはダイコク様~♪」

「二つ搗いてはダイコク様~♪」

「三つ搗いてはダイコク様~♪」

 

 餅を搗く。

 練っては搗いてを繰り返す。

 イナバたちの歌声に合わせ、餅が躍動。

 がやがやと盛り上がっていた宴会場の空気は、イナバたちの微笑ましい歌声によって、更に明るく賑やかに。

 よくもまぁここまで…袿姫は内心でそう思う。

 その感嘆の向ける先は宴会そのものではなく、集まった者たちに対してのものだ。

 国が栄え、人が増え、そして祭りを開催することは、何も珍しいことではない。

 神が自身の威光を示す。国に住む者たちの団結力を高めるといった目的、それで得られる恩恵は、人の思いに生死を委ねる神にとっては非常に重要だからだ。

 だが今回の祭り…いや、宴会は袿姫がかつて天から見下ろし、そして観察し続けてきた並の神々と国、それとは全く違うことを、既に理解していた。

 神は人の思い、信仰によって命を与えられる。

 それは逆に言えば、人からの思いでしか生きることができないということ。

 だが今回、洩矢神社に集まった者は人外の方が多い。

 まるで、彼女は信仰をそこまで必要としていないような――

 

「……来たわね」

 

 そこまで考えて、袿姫は推測を止めた。

 誰が意図して作った訳でもなく、自然と静寂が訪れた。

 餅を搗き、歌い、あくせく働くイナバたち数百人が、一斉に動きを止め、そして()()を見た。

 洩矢神社の境内に繋がる階段。

 その下から、()()は来た。

 力の存在感…不吉の塊としか言えないそれが、辺りの空気に重みを与え。

 ゆっくりと、彼女はやって来る。

 足音は三つ。

 まず最初に見えたのは背後に浮かぶ巨大な注連縄。

 史上最強の国津神。

 ――八坂神奈子。

 

「待たせたな」

 

 緊張の滲む一同を前に、神奈子は無邪気に笑いながらそう言った。

 軍神としての威厳はそのままに、どこか可愛げのある表情でもあった。

 

「へぇ、こういう感じなのね」

 

 その神奈子に並ぶ形で、もう一人の少女が姿を見せた。

 身長は同じくらい。だがその服装は、今の古代では珍しい、洋風のもの。

 草木のように鮮やかな髪と、そして決して神奈子に劣ることなく、堂々と優雅に日傘を片手に持つフラワーマスター。

 ――風見幽香。

 

「予想以上。随分慕われてるのね」

「まぁね」

 

 二人の姿に視線を奪われ、硬直していたのはそこまで。

 幽香の声に答えた、その三人目の声と姿が露わになった途端。呼ばれた神代の者以外、神社にいた全ての参加者が一斉に動き。

 そして、首を垂れる。

 

 畏怖。

 敬愛。

 そして、抗えぬ生存本能の叫び。

 

 理性を侵食する『恐れる感情』そのものが、人間から妖怪、数多の生物を支配し、そして空気を一色に染め上げる。

 ――洩矢諏訪子。

 

「こっちに座って」

 

 人外魔境の勝者であり、そして新たなる王として覚醒したその者は、かつての姿のままそこにいた。

 一斉にひれ伏す人間たち。

 妖怪から、そして面白そうに観察を続ける神代の者、袿姫を含む原初の神々に陽気に手を振った後。

 彼女は、檀上に降り立った。

 足を踏み込んだその瞬間には、神奈子と一緒に、そして同時に瞬間移動に近い速度で、皆を上から見下ろせるその場所にいた。

 今回限りの祭りの舞台、たった一つの玉座の前。

 神奈子、諏訪子の二人がその特注の席を眺め、そのすぐ後に、諏訪子は笑いながら指をさし。

 

「こっち」

「はいはい」

 

 神奈子を、壇上から降りるように命じた。

 

「……へぇ」

 

 その、一見意味のないように思える行動を見た幽香は、笑みを深くしてそう声を漏らした。

 神奈子も承知で、いや。そもそもこの行動は最初から、既に当人たちの間で決まっていたのだろう。

 動揺が広がる参加者を無視して、神奈子と諏訪子は、ただ台本通りに事を進めるだけ。

 諏訪子より一段下、そこに用意されていた席に、神奈子は座った。

 

(これほどわかりやすいものはない…か)

 

 諏訪子のと比べ、一回り小さく、そして必然的に諏訪子を見上げ、格差をつけるかのような壇の仕組み。

 露悪的とも言える、そしてあまりにも理不尽に、視覚を通して理解させられる、現実。

 八坂神奈子は、洩矢諏訪子に負けたという、その事実。

 その直後だった。

 玉座に腰かけた諏訪子が、袖から出した紙に目を通し――

 

「私の戦いを、そして神奈子の戦いを見届けた者、そして噂を聞き、ここに興味半分でやって来た者もいるだろう」

 

 何名かが肩を震わせる。

 それを無視し、コホンと咳を一つ零してから。

 

「様々な憶測がある。様々な解釈がある、そして疑う者もいる。だからここで改めて、私は宣言しようと思う」

 

 諏訪子の身体が光り出す。

 その直後、神奈子の身体が一層強く光り輝き、そして煙が生じて姿を隠す。

 諏訪子の身体はその間も輝きを強く、そして長く続けており、未だ変化を続けている。

 次に、皆が煙が晴れたその場所。神奈子が先ほどまで座っていた場所に視線を向け。

 神奈子の姿を見た者たちは、皆が驚愕の視線を向けた。

 そこにいたのは、齢十数程の少女にまで小さく、背が縮み、力が委縮した神奈子の姿。

 そしてその直後、神社全てを覆いつくす、圧倒的な『厄』の気配が、皆の心臓を鷲掴みにした。

 

「真実は…」

 

 橙色のアイライン。

 同心円状に変化した目と、頬の上を走る橙色の蛇皮紋様。

 そして背後には、八坂神奈子のと同じ、鉄輪と融合した巨大な注連縄。

 

「――私が(洩矢諏訪子)だ」

 

 ――私が勝者だ。

 異論など認めない。

 誰も疑惑を挟むことなど、濁った信頼を寄せる必要などない。

 ただそこに、漠然とした真実。断言する勝者の言葉さえあればいい。

 

「お。ぉぉ…!」

 

 最初はか細く、小さな声だった。

 それは感激か、それとも畏怖か。

 だが間違いなく、それは最初の火種だった。

 声が。

 動揺が。

 最後に、大気を割る勢いで、皆が一斉に立ち上がり。

 

『ぉおおおおおおおお!!!!!』

 

 更に、多くの声が重なった。

 それに満足し、諏訪子は手に盃を持ち、そして上にした。

 叫び、皆が同調して盃を掲げ、そして待ちきれないと満面の笑みを浮かべた。

 人も、妖怪も、神でさえ関係なく、皆がその通りにした。

 

「さて!それじゃあ――」

 

 各々の瞳の奥。

 そこから溢れる期待の光。鏡のように夜空を映す瞳を見て。

 諏訪子は息を吸い、そして――

 

「――乾杯!!」

 

 その宣言と同時に、一気に盃を傾け、酒を飲んだ。

 始まりを示す宣言と行動、その二つを目にした皆が。

 

『乾杯!!』

 

 声を張り上げ、同じく盃を傾けた。

 人妖一体となった声が響き。

 皆が同じく、美酒と空気に酔いしれる。

 長き歴史の幕開けとなる、原初の宴会の始まりを告げたのだった。

 夜の帳が下り、青白い月夜と星々の下で。

 最後の、()()()()()()()()()()が始まった。

 

 

 

 


 

 

 

 

 やはりと言うべきか、最初に一番騒ぎを大きくしたのは天狗。

 正確にはそれらの集う場所であり――姫虫百々世と飯綱丸龍によるものだった。

 諏訪子の座る場所、そこからだと人影に遮られることはなく、その全容をしっかりと見ることができる。

 そして騒ぎの内容は、思った以上に平和なものだった。

 初めて目にする数多の御馳走を前に、目を輝かせる百々世を、龍は優しい笑みで見守っていて。

 

「うめェな龍!これなんだ!」

「それはただの肉…っておい。喉詰まるぞ」

「わかってるっての。これくらいな――うっ」

「ほら見たことか!水!誰か水を持って来てくれ!」

「ハハハ!食べ盛りなのはいいことだよ?百々世くん」

「天魔様!百々世を甘やかさないでください!!」

「な…なぁ…あれ大蜈蚣だよな?あの龍殺しの…」

「あぁ。堕涅の生まれ変わりの筈だぜ」

「信じられねぇ…どう見てもガキじゃねぇか…」

「見た目だけは、な。お前だってあのとんでもねぇ瘴気を感じるだろ?下手すりゃかつての洩矢神レベルだ」

「……信じられねぇ」

 

 変わらず怖がられてはいるが、思ってた以上に関係は良好らしい。

 

「ほら、次はゆっくり食べ…って待て待て待て!!その手に持ってるのはなんだ!」

「餅。あ、おーい兎!それとそれもくれ!その緑色の餅も!」

「馬鹿!お前に餅はまだ早い!ほらこっち!食べやすくふやかした米があるから!最初はこれで喉を慣らし…」

「老人か赤ん坊かどっちなんだ?俺は」

 

 …どうやら心配はいらないようだ。

 結局、どうしても我慢できないと両腕を振り上げた百々世に根負けし、初めての餅の体験が始まった。

 心配そうに百々世を見つめる龍と、その二人を面白そうに観察する天魔。

 初めて食べた餅。それに百々世が満面の笑みを浮かべたのを見て、百々世も、こっそり遠くから見つめていた、餅を手掛けたイナバたちも笑った。

 

「どう?神奈子」

 

 視線を移せば、視点を変えれば。

 そこに映るのは妖怪、違う種族の彼らが、同じ机を共有し、美酒を分かち合っている。

 鬼も、天狗も、そして数多の他種族も。皆が同じ場所にいる。

 諏訪子より一段下、そこに用意されていた席に座りながら、神奈子は感嘆の息を漏らした。

 

「…あぁ。そうだな…」

 

 正直。驚いたのだと神奈子は言った。

 それは宴会の規模。用意された飲食のレベルの高さでもなく、集った者たちの割合だった。

 

「本当に…いい景色だ」

 

 鬼や天狗が割合のほとんどを占めており、参加者の約6割がこれだった。

 そして3割の神々。埴安神袿姫や、今もこっそり宴会場を練り歩いている最中の玉造魅須丸に、全身に包帯を巻いたまま、不貞腐れた態度で酒を飲んでいる天弓千亦。

 イナバたちはまだ気づいていないようだが、よく見ると人間組の中に、極めて少量ではあるが、異質な気配を纏う麗人がいた。

 すれ違った妖怪のほとんどが顔を驚愕させており、それなりの存在なのがわかるその男。

 これだけでも大体の予想はつくが…極めつけは背中に背負った弓矢であり、諏訪子はすぐにその男の正体に気づいた。

 ダイコク様。大国主もこっそりと宴会に参加し、人間たちと一緒に酒を飲んで――

 

「人間がいるんだな」

 

 残り1割。それが人間の参加者だった。

 その中に紛れる神。…タケミナカタ(八坂神奈子)にとっては複雑であろう相手(ダイコク様)に気づいているのか…はわからない。

 が、諏訪子は神奈子の言った「人間がいる」という言葉が秘めた意味に、にへらと笑って。

 

「私も、まさか1割()来るとは思わなかった」

 

 1割。

 たった1割の人間が、この魑魅魍魎溢れる宴会に参加することを、自ら志願した者の数。

 古来から続く鬼と人間の関係、鬼退治もそうだが、人間と人外の間に作られた溝は深く、それが埋まることは決してない。

 個人ではなく、種族としての敵対意識。

 一杯の酒を交え、諏訪子と神奈子は視線をある場所に向けた。

 そこには、人間の男と人外の女が二人。

 

「人と妖怪が共に過ごせる世界…か」

「夢物語だな」

「でも。私()()()作れた」

 

 人を呪い、祟り。

 恐れられるしかできない神が、宴会という限られた場所、空間だけとはいえ、人と妖の共存する時を作れた。

 そう諏訪子が言うと、神奈子も同意し、確かにな。とだけ言って。

 

「それはいつになる?」

「数万年は無理じゃなーい?それに、私が作るのも無理」

「じゃあ、誰がそれを作るって言うのさ?」

「それは…」

 

 そう言われて、諏訪子は指を慣らし、()()()()()()()()()に向けて(カイ)を放つ。

 そして視線を横に、いつの間にそこにいたのか、千亦が酒に酔いながら吐いている愚痴を、魅須丸が宥めている場面より更に向こう。

 せわしなく働くイナバたちの傍で、絶えず指示を飛ばし続けているてゐの隣に立っている少女、幽香に視線を向けたのと同時に。

 

 

 

 

 スキマに、諏訪子は飲み込まれた。

 

  

 

 


 

 

 

 

「連絡が来ないわね」

「……なに?」

「ま。予想していた所ね。どうせ邪魔されると思ってたから」

 

 ()()()()()()()、因幡てゐにとってその言葉は、決して聞き流せるような内容ではなかった。

 指示を一時停止し、その顔を険しいものにして――

 

「おい」

「だから、予想してたって言ってるでしょ?それに…ただのお喋りなんだからそうムキにならなくてもいいじゃない」

「分かってて言ってるのか?あんた」

「……驚いた。昔見た時と全然違うわね」

「……」

 

 幽香はてゐの目を真っすぐに見て、言った。

 

「多少弱者ぶるあの態度も悪くはなかったけど、なるほど。あなたを変えたのはあの女?」

「目的を言え」

「……わかったわよ」

 

 野卑とも呼べる、荒々しさを孕んだ獰猛な笑み。

 幽香は敵意の滲みだしたてゐの視線を真正面から受け止め、そして言う。

 

「友人の頼みよ」

「友人?あんたに友人」

「腐れ縁とも呼ぶわ。そいつに頼まれたのよ。"あなたの目で、あなたの価値観であの国を見定めろ"ってね」

「目的は」

「知らない。興味もなければ知りたくもない。あ、そのうちあれが勝手に動くでしょうね」

 

 ()()

 太陽の畑。それは人間たちの間でも有名な場所だ。

 そこにいる妖怪はとても狂暴で、機嫌が悪い時にもしも、バッタリと遭遇してしまえばほとんど死が確定する。

 迷い込まなければいい。…そう言っていた人間は、彼女が散歩をしている時、たまたま道を遮ってしまい殺された。

 会えば死ぬ。迷い込めば殺される。向こうからやって来ても殺される。

 まさに『妖怪』らしい、凶暴さと強さを持った存在が風見幽香。

 いつ、いったいどの時代から生きているのかは誰も知らない。

 ただ自然と、いつの間にかそこにいたという事実のみ。

 

「で、さっき言ってた連絡ってのは?」

「文字通りよ。ある程度時間が経ったら、向こうから私に連絡を取るようになってたんだけど、結果はこの通り。どうやらあなたの神に妨害されたようね」

「……」

「国中の()()()を閉ざす…か。全く、魅せてくれるじゃないの」

 

 あの風見幽香が『友人』と呼ぶ存在。

 そして、今彼女が言ったことが正しければ、その友人とやらの連絡手段は、諏訪子でなければ防げない程のもの。

 間違いなく程度の能力。

 だが、てゐの知識の中に、そして知人の中にそのような芸当ができる者は存在しない。

 そうなると、その者は異端。

 諏訪子と同じ、早生の――

 

「その友人とやらの名前は」

「…まぁいっか、これくらいなら。名前は…」

 

 

 

 

 その妖怪の名前は――

 

 

 

 

「八雲紫。まぁ近いうちに会えると思うわよ」

 

 

 

 


 

 

 

 

 満開の桜の木の下に、彼岸花が咲いている。

 今まで見た中で、最も美しく恐ろしい、彼岸の空気。

 風に四季折々の花びらが、霊魂が舞い、視界が埋まっていく。

 自然と、今自分がどこにいるのかがわかる。

 桜吹雪が過ぎ去ると同時に、目の前に広がる圧巻の景色に、諏訪子は心を奪われた。

 

()()()()。星の流れは最初に定められているものです。華のように鮮やかに、鳥のように優雅に…とは言いません。風や月のように、ただ流されろ、そこにいろとも言いません」

 

 幻影。

 彼岸の木の下に、少女が一人眠っている。

 古代に馴染む為の着物ではない、初めて諏訪子が、彼女と出会った頃のと同じ、現代の服装。

 それの髪を撫でる、もう一人の少女は続けて言う。

 

「天知る。地知る。我知る…人知る」

 

 笏を手に、赤く燃えるように光り輝くそれを向けて。

 その少女は、静かに問いかけた。

 

「星の記憶。歴史の歪み、そして慟哭は必ずいつか知れるもの。…あなたに言う必要はありませんが、それでも」

 

 彼女のことを、諏訪子は既に知っている。

 光を囲い、闇を映す鏡。

 少女の背後、そこに浮かぶ巨大な鏡が、ある景色を映し出していた。

 そこには諏訪子がいた。

 神奈子がいた。

 神奈子の操る風、そして腐食の蔓によって、()()()()()()()く光景が。

 その鏡が見せるものは。

 そして、目の前の少女の正体は。

 

「お初にお目にかかります。…ヘカーティア様の命により、本日から裁き人としての資格を得ることになりました。――私は初代閻魔大王」

 

 ――四季映姫・ヤマザナドゥです。

 その宣言と同時に、諏訪子は彼女の背後に立っていた。

 木の下に倒れ込む、友人を庇う為に。

 

「……」

「ただ眠っているだけです。人間にとって、ここは随分心地良いらしい」

 

 眠るマエリベリーの身体を抱えた諏訪子に、映姫は背中を向けたまま、静かに、諭すように続ける。

 ゆっくりと、映姫は手に持つ笏――悔悟の棒を握り。

 風が凪ぐ。

 

(カイ)

 

 斬撃は、掠りもせず宙に向かって飛んでいく。

 映姫が笏を軽く振るうと共に、諏訪子の放った斬撃を受け流したのだ。

 当てるつもりはなく、精々が警告の為に頬を切る程度に抑えたもの、境界を断つ程の力もない。

 それでも、先ほどのは間違いなく斬撃そのものだった。

 それを、映姫はいとも簡単に弾いてみせた。

 

「このような笏で防がれるのが予想外?当然でしょう、これは悔悟の棒。これは罪の重さと数によって、棒の重さ、強さが変わるのですから。――それとも、自分は潔白だとでも?」

「否。決してそれはありえない、それを償う手段も、そして唯一の逃げ道も…」

「あなたの罪とは?星の嘆きとは?歴史の啼哭とは?…そして、そもそもそのきっかけとなった――」

 

 映姫の視線が、鋭くマエリベリーを穿つ。

 諏訪子もまた、完全体となって映姫を迎え撃つ。

 

「罪深き"時の流れ人"も含めて。私が公平に裁きを下します」

(無闇には飛び込めない。…後手に回る…が)

 

 史実を書き換え。

 歴史を歪め。

 その果てに、そしてその後を委ねる、最後の審判が下される。

 

(どんな攻撃でも対応する……!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「領域展開」

 

誅罰至信(ちゅうばつししん)




 最近久しぶりにウソつき!ゴクオーくんを読みました。
 面白いですね。

呪術廻戦はどこまで知ってる?

  • 最新の単行本(人外魔境)まで
  • アニメの内容(渋谷事変)まで
  • あまり知らない(領域展開は知ってる)
  • 全部わかる
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