【本編完結】諏訪子様になった、負け戦を回避したい 作:洩矢廻戦
では。
「領域展開――
冷徹なる声明が、世界を上書きすると同時に響き渡る。
あまりにも早すぎる結界の展開速度と、彼女自身の内面をそのまま形作ってみせたかのような心象風景の具現化。
直感で領域展開の発動を察知した諏訪子は、反射的に両手に握りしめた鉄輪へ神力を漲らせ、地を蹴った。
領域が完成し、相手が攻撃をするよりも先にこちらが攻撃を叩き込む。
そして、その一撃で領域を破壊させようという判断。
――だが。
「ここではあらゆる暴力行為は禁止されています」
その思惑は不自然なほどに減速していく己の身体と、静寂を破る映姫の言葉によって遮られた。
「勿論。私もです」
そう言いながら、映姫は迷いのない動作で自身の頭部へ向かって蹴りを放ち、それがぶつかる直前で完全に停止した諏訪子に向かって、右手に握った笏を向けた。
そしてこれ見よがしに軽く叩くように腕を動かすが、その笏もまた諏訪子の運動と同じく空中でゆっくりと減速し、寸分狂わぬ位置でぴたりと停止する。
互いに攻撃は不可。その事実を身をもって証明したのだ。
「戻りなさい。これは戦いではないのですから」
「……」
映姫の凛とした声には、揺るぎない絶対的な法が宿っていた。
ここでは神の威光すらも、この閻魔が定めた規則の前では一粒の塵に過ぎないのだ。
「…………」
圧迫感に満ちていた諏訪子の全身から、スッと神気が萎んでいく。
敵意の無意味さを悟った諏訪子は、静かに手中の鉄輪を消し去り、構えを解いて映姫の指示に従った。
「……続けて」
「えぇ」
よくよく観察して初めて分かるほどの、小さくも温かみを孕んだ笑みが映姫の口元に浮かんでいた。
両者を包み込む白と黒のみで構成された心象風景は、静止することなく、流麗な変化を絶やすことなく、今も常に動き続けている。
まるで万華鏡のようにくるくると回り、白と黒の板状の背景が幾重にも絡み合い、白と黒、黒と白と、光と影の反転のように色を交互に変えながら無限の深遠を見せている。
善と悪。罪と罰。生と死。
曖昧さを一切許さず、すべての事象を明確に二分する彼女らしい、厳格で美しき心象風景。
いつの間にか用意されていた装飾のない簡素な木の椅子に腰かけ、諏訪子は小さく息を吐いて映姫の続きを聞く体勢に入る。映姫もまた、背筋を正して静かに話を切り出した。
それは、諏訪子がこれまで自らの心の奥底に封印し、あえて目を逸らし続けてきたこの世界の真実。
「――マエリベリー・ハーンは一体何者なのか」
その名を耳にした瞬間、諏訪子の胸の奥が微かに揺れた。
当然、それはずっと気になっていたことだった。
かつて存在した前世の記憶においても、終ぞ彼女がその正体を知る機会はなく、そしてこの変革された世界にやって来たことで、永遠にその真実を解き明かす機会を失ったと思っていた、その存在の根源。
向かいに座る映姫は、まるで読心能力でも持っているかのように直球でその言葉を口にしたのだ。
気になるか?と問われれば、当たり前だろうと諏訪子は思う。
だが、それは死に物狂いで追い求め、どうしても知りたい……というほどの執着であったかと言われればそうでもなく、もし気が向いたら、あるいは奇跡的に運が良ければ知ってみたいという程度の、淡い好奇心に過ぎなかった真実だった。
しかし今、自身に起こった不可解な現実の真相に、あの少女の存在が深く関わっていると知った今は、話がまったく別。
「時の流れ人。そしてその因果がもたらした歴史の変化を。…あなたは知る必要がある」
「……」
「いえ…寧ろ、今のあなたなら察したのではありませんか?彼女の特異性に」
きっかけは、
人外魔境が終わってから、諏訪子の視界にはあらゆる無生物、生物が持つ弱点とも言える"目"が、空間、境界の歪みが映っていた。
霊力から妖力、魔力や神力といった力の違い、そして個を証明する魂の違い。
色や形、光のような感覚すら、鮮明に見えるくらいに変わったのだ。
――だからこそ、気づいた。
「結論を言いましょう。マエリベリー・ハーンは遠い未来…数万年後の世界からやってきた人間」
「……」
静寂の中、映姫の声が重重しく響く。
「人間です。――
「――――」
静まり返る白黒の世界に、その言葉だけがはっきりと残った。
同時に、諏訪子の脳裏で途切れ途切れに繋がっていく、既視感の正体。
「
諏訪子は静かに目を伏せ、ため息交じりに言葉を漏らした。
ずっと感じていた、あの違和感の正体。
自分なりに推測を重ね、記憶の断片とこの世界の設定を照らし合わせて辿り着いた結論。
諏訪子が心の奥底に、そっとしまっていたその推測が決して間違っていなかったことを、映姫は深く深く頷いて肯定した。
「人と人が番い、そして子を成して鼓動を刻む。…ゆっくりと成長し、そして寝て、起きるだけの」
「正真正銘の人間」
言葉を重ねるごとに、その事実の重みが両者の間に横たわる。
――だが、彼女は決して本来の意味での"ただの"人間ではない。
諏訪子は内心その答えを察しながら、映姫に向かって問いかけた。
「………あの時。私がここに呼ばれる前に開いたスキマ、あれからはメリーと同じ何かを感じた」
「逆ですよ。あれは私がマエリベリー・ハーンに干渉し、彼女を媒体として発動したスキマですのです」
「でも、紫の気配でもあった」
「…………」
「そっくりだとか、似ているとかそういうレベルじゃない。――あれは抜け殻でもなく、正真正銘
「でしょうね」
映姫は動じることなく、ただ当然の帰結であるかのように静かに肯いた。
「話を戻しましょう」
そう続ける映姫の背後で、空間を切り裂くように巨大な浄玻璃の鏡がゆるやかに浮かび上がる。
「八雲紫があなたに興味を持ち、そして諏訪大国に足を踏み入れたと同時に、私は八雲紫に気づかれる前に、マエリベリー・ハーンをここに呼びました。万が一にも、八雲紫にマエリベリー・ハーンを
鏡に映る過去と未来の交差点を見つめながら、諏訪子は息を呑む。
マエリベリー・ハーンの正体、それはいとも簡単に、諏訪子の目の前に提示されることとなった。
八雲紫という大妖怪との、あまりにも類似性の強い容姿と雰囲気。
そして、彼女が持つ空間能力の類似性、その真相。
映姫は笑みを消し、厳格な表情で言った。
「おそらく数万年後。幻想が否定された世界で溜まった八雲紫の妖力、その片割れの生まれ変わり……だから魂が同じなのでしょう」
「力の片割れ…妖力そのものか」
「マエリベリー・ハーンは、妖怪として生まれる筈だった自らの運命を退けたのです」
その言葉の響きに、諏訪子の胸が強く締め付けられる。
片割れ、生まれ変わり。
そしてその魂は巡り巡って、気が遠くなるほどの時空を超えて古代の時代――あの生い茂る竹林で洩矢諏訪子という神と出会うに至る。
運命、という言葉が陳腐だが頭に浮かぶ。
「彼女の異能が空間系…それも"境界"なのもそういうことです」
映姫は鏡に視線をやりながら言葉を続ける。
「一個体の妖怪、その漏出した力が実体を得るということは、それほど珍しいものではありません。正確に言うと少し違いますが…極論、鬼や天狗のような種族が長く繁栄しているのは、その領土が同じ種族、同じ力の溜まり場と化しているからです」
「……」
「しかしそれでも魂は同じ、たとえ妖怪ではなく、人間として生まれ落ちたとしても…その魂は、妖怪と同じなのです」
正確には八雲紫本人ではなく、本人と同然と言える膨大な力の片割れではあるが。
だがそれでも、巡り巡った生まれ変わりであることに変わりはない。
「知っていますか?世界には同じ顔を持つ人間が3人いるという説話があることを」
「うん」
「しかし正確には、身体や魂の構造には絶妙な差異があり、同じではなく結局はそっくりな何か、他人でしかない」
推し量るように、映姫は白黒の空間越しに真っ直ぐな視線を諏訪子へ向ける。
「あなたも知っているように、この世界に"同じもの"は絶対に存在し得ません。魂となれば尚更」
「だから会わせたくなかったと」
「えぇ。決して存在しない筈の、ありえない同一が同じ世界に、同じ時間軸で互いを観測した場合――最悪影響が出るのは歴史だけではない可能性があります」
「何が起こるかわからないってことね」
「はい。何が起こるかわかりませんから」
「ふーん」
二人の視線が交差する。
もし、八雲紫とマエリベリー・ハーンの二人が直接対面し、互いを完璧に認知してしまったら。
両者の目が合った途端、片方が存在の矛盾によって突如として消滅するかもしれないし、もしかしたら互いの存在が不可逆的に融合し、一つの怪物へと変貌してしまうのかもしれない。
真相がどうあれ、歴史と存在の崩壊を防ごうとした映姫の懸念は決して間違いではなかった。
「彼女は幻想を、夢を見ています。彼女は夢に迷い込み、そして時空を越えてここに来た」
「時の流れ人」
「そうです。そしてそれが原因か、それとも………あなたが原因か」
「私が?」
突然指をさされ、諏訪子は目を瞬かせた。
「そうです。あなたというイレギュラーが生まれたのがきっかけで、マエリベリー・ハーンがここに来たのか…それとも逆に、マエリベリー・ハーンがここに来たことで、あなたというイレギュラーが生まれたのか…はわかりませんが」
「鶏と卵どっちが先か、みたいな?」
「その認識で合っています。」
映姫は、諏訪子の例えを素直に肯定した。
「それで?あんたはメリーをどうしたいのさ」
諏訪子は椅子の背もたれに深く体重を預け、腕を組みながら問い詰める。
「どう、とは?」
「わざわざこんな場所に…地獄に招待までして、八雲紫から引き離すなんて建前で、本当は何をしたいのさ?」
「何も」
「…何も?」
諏訪子は眉をひそめる。
「ただ、私はこの人間を家に帰すだけです」
「…はい?」
「助けるだけですよ」
「はい??」
あっけらかんとそう言った映姫に、諏訪子は目を見開いた。
「マジで言ってんの?」
「マジも大マジ、本気ですよ」
「どこでその言葉を知ったんだか。…裏はないんだよね?」
「強いて言えば、それが私の…元地蔵、初代閻魔としての仕事です。迷える人間を導き、守護する。それが理由では不満と?」
「いや、むしろ信用でき過ぎるくらいだ」
「それは何よりね」
その時。殺伐とした審判の場において、初めて映姫は小さくほころぶように笑った。
閻魔としての峻厳な威厳や、相手の罪を咎める教育者のような固い表情ではなく、それは一人の可憐な少女のような、あどけない笑顔と少し崩れた喋り方。
それから、彼女は恥ずかしそうに咳払いを一つ挟むと、再び居住まいを正した。
「こほん、私の力は当然…」
「知ってるよ」
白黒はっきりつける程度の能力。
それが彼女の、
「なら結構。簡単に説明すれば、マエリベリー・ハーンが今いるこの時代、そして本来いた時間軸の世界を対極と仮定し、その繋がりを明確なものにします」
「それで彼女は元に戻れると?」
「えぇ。私の力、領域内で能力性能が上昇した今ならそれができます」
「必殺を省いた分の縛りか」
「そして、均衡を崩した現在。未だ不安定なままの新しい歴史の世界はこれで、ようやく安定したものとなる」
「なら…」
「ですが」
映姫は再び、一切の情を挟まない閻魔としての厳格な空気を醸し出した。
「彼女の記憶は消える」
「…なんでさ」
すかさず諏訪子の声が鋭くなる。
「縛りです。数百や数千ではなく、数万年分の時の旅…それを事故ではなく故意に起こすとなれば、代償はそれなりのもの」
「消える内容は?」
「彼女がこの世界に来てから、そして目にした、変わった歴史の全てが
「随分曖昧だね」
「忘れるわけではありません。無くなるというわけでも、空白の記憶として脳を占めるわけでもない。ただ――全てが"夢"となる」
夢を見る。
そう、人間は誰しも夢を見るのだ。
夢の中で自分は空を飛び、見上げるような巨体の怪物と死闘を繰り広げられる。
記憶の整理に過ぎない脳の働きが、空想と現実の常識を混ざり合わせ、幻想の世界を作り出し、子供も大人も一時的にそれに酔いしれることがある。
だが目が覚めてしまえば、それは儚い泡沫となって消え去っていく。
決して、鮮明には思い出せない。
ただ『何か夢を見ていた』という、切ない現実の感触のみがそこに残るのだ。
マエリベリー・ハーンが、この遥かなる古代の世に迷い込み、肌を刺すような朝日の光を見たことも。
現代の文明より遥かに劣る、しかしそれでも生きるために大切な、腹を満たす温かな食事の記録も。
排気ガスで汚されていない、美しく澄み渡る、あるがままの夜空を見上げた記憶も。
たった数ヶ月。
それでも間違いなく、彼女はこの世界で生きて、笑っていたのだ。
なのに。
「ままならないものだね」
諏訪子は静かに目を閉じ、深く長いため息を吐き出してから呟いた。
「でも、仕方ないんだよね」
「えぇ。勿論」
映姫が指をパチンと鳴らすと、背後に浮かんでいた巨大な鏡が滑らかに降下してきた。
「我々閻魔は、浄玻璃の鏡という鏡を持っています。…この鏡には映した者の人生が映るのですが、同時に、ある世界線を…平行世界と呼ばれるものを見ることがある」
かなり珍しいのだと、そう付け加えて。
「そして今回、"私が今ここにいる世界"は、それらの中には決してない、全く新しい歴史の世界線でした」
そう言って映姫が示してみせた鏡の表面には、無数の『もしもの世界』が揺らめいていた。
諏訪大戦の結末は無数に存在する。しかし非常に残念なことに、そのほぼ全てに共通していた事実は――『洩矢諏訪子の敗北』であった。
その後の顛末に多少の違いはあれど、諏訪子が敗れ、王国を失うという大前提が変わることはない。
信仰を完全に奪われ、洩矢諏訪子と共存することなく、八坂神奈子が単独の神として最後まで君臨し続ける世界。
あるいは、信仰を奪い切れなかったことが理由で、歪な形で生まれた守矢の二柱という立場の世界。
「ですがあなたは。その抗えぬはずだった歴史を変えた」
本日二度目の、柔らかく優しい笑みを映姫は浮かべる。
「マエリベリー・ハーンが妖怪の運命を退け、人として生まれたのと同じように。――あなたも、自らの運命を退けた」
「――」
「天晴れです」
いつの間にか諏訪子の目の前に歩み寄っていた映姫はそう言って、まるで幼子を労うかのように優しく諏訪子の頭を撫でた。
「あなたのやったことは、決して罪ではない」
「…」
「罪深き…とは言いました、しかし勘違いしないで欲しいのは、それが罰を与える程のものではないということ」
映姫ははっきりと告げた。
この場所に、裁かれるべき真の罪人は一人もいない。
ただ、天界や冥界、そして地獄の全ての法にも当てはまらない、それだけの奇跡の物語なのだと。
「私は閻魔。迷い人を、そして罪人を裁き、あるべき場所へ導く存在。…故に私が、あなたに言えることはただ一つ」
白と黒のみで構成されていた上空に、巨大な扉が出現する。
それは白と黒、どちらかが優れるとも劣るとも言えない、完璧な均衡で釣り合った形と量の、重厚な白黒の双子門であった。
「あなたは、彼女を待つ覚悟がありますか?数万、数十万の時の摩耗。掠れて、薄れて、消えかけることもなく。彼女を裏切らないと」
そう誓えますか?
映姫は眼差しを強くし、諏訪子を見つめて問いただした。
「夢はいつか覚めるものです。あなたは彼女を、マエリベリー・ハーンを決して忘れることなく、そして記憶を衰えさせることもなく、彼女を、未来で受け入れる覚悟はありますか?」
「………」
胸の奥を突き刺すような問いかけ。
……嗚呼、随分と。
「随分人間に優しい閻魔様だ」
「それが
映姫はそう言って胸を張り、本日三度目の優しい笑みを浮かべた。
「記憶が戻る確率は?」
「…私はこの時代での出来事が、彼女にとって"夢"となる、としか言っていませんが?」
「とぼけんなよ。もし完全に忘れてそれっきりだってんなら、それこそ"記憶が無くなります"とだけ言っとけばいいんだ」
「………」
「記憶は確かに消える、だけど消えた記憶は戻るんでしょ?でもそれはきっと低い可能性、そしてそれは――」
「はい。マエリベリーの記憶の復活はあなたにかかっています」
「………思い出す可能性は?」
「0。それも限りなく」
「……」
そんな絶望的な数値を突きつけられてもなお。
「いや、楽しくなってきた」
諏訪子の唇には、運命を跳ね返してきた神ならではの不敵な笑みが浮かんでいた。
甘い香りが鼻腔を擽った。
いつもそれを間近に感じ、そして毎日欠かさず目にしてきた香気。
柔らかい黒髪が、自分の指と爪の間をすべり抜けてくすぐったい、そんな愛おしい感触も。
「……ん」
目が覚めた時、目の前には紫色の色彩が広がっていた。
自分の身体を優しく包み込む柔らかなベッドシーツと、部屋全体に充満する慣れ親しんだ香水の匂い。
――現代。
科学の智慧と、化学繊維の空気に満ちた世界。
「んみゃ……メリー……?」
嗚呼、
何故か不意に、心に浮かんだ感情がそれであった。
同時に何か、胸の奥底に確実に存在していたはずのものが、ぽっかりと抜け落ちて欠けてしまったような、耐え難い寂寥感が襲う。
「蓮子……?」
「もう起きたの?……ってやば!もう二時間は寝てるじゃん!」
「催眠状態だったから」
いつもの光景だ。
昨日も、そして何年も前からずっと目にして、そして付き合ってきた親友のその姿。
宇佐見蓮子は、とろんとした眠たげな目のまま、倒れ込むようにマエリベリーの胸元へ抱きついてくる。
「っと。ちょっと蓮子」
「眠い~……もっと寝てたい~……」
「……もう」
夢を見ていた。
昔からずっと、二人で手を繋ぎ合って、精神を同調させた状態で見る不思議な幻想の世界。
今日もこうして、マエリベリーは蓮子を抱きかかえる体勢のまま、意識を手放し、夢を見たのだ。
そう、とてもとても長い夢を――
「……あれ」
夢。
「……でもあれは」
長く、気が遠くなるような旅の夢。
――
「?メリー……?」
水面に揺らめく朧月。
立ち昇る夏の入道雲と、肌を刺すような熱い日差し。
一面に広がる秋の原野。そして、凍てつく冬の海。
記憶の名残が、夢の切ない余韻となって胸を締め付ける。
「メリー?」
いつの間にか、蓮子が心配そうな表情で彼女の肩を小さく揺らしていた。
「どうしたの?」
「……いえ。何も」
「そう? ならいいけど……」
――紫の桜の花。
一瞬、マエリベリー・ハーンの脳裏に、鮮烈な光景が浮かび上がった。
この世のものとは思えないほどにその場所は冷たく、そしてどこまでも明るかった。
「それよりメリー! 今回の夢はどうだった? 私はねー、目が覚めたら赤い――」
蓮子の無邪気な声が、急に遠く離れていく。
不思議と、その感覚の変化を怖いとも思わず、違和感を覚えたりもしなかった。
現代の現実の空間。洋室の一室のその空間の一角に重なるようにして、
まるで影送りのように、朧気で不明瞭な者がそこに佇んでいたのだ。
「お久しぶりです」
その鈴を鳴らすような声は、不思議とよく耳に届き、心へと響いて入ってきた。
「偶然の出会いと気まぐれの行動。……結果論とはいえ、自ら選んだことです。途中で放棄した責任を、今こそ最後まで果たしなさい、マエリベリー・ハーン」
手に持つ黒い笏を、彼女はある特定の場所に向けていた。
「ある場所に行きなさい。もう、その場所は分かっているでしょう?」
静かに、マエリベリーはその言葉に耳を傾けていた。
「
その声は、まるで道を示す教師のように。
そしてそれは、まるで迷子をあるべき場所へ導く道標のように。
「
続く、静かなる言葉。
「
風もない部屋の中に紫の桜吹雪が舞い散り、謎のその姿は光の中に溶けるように消え去った。
マエリベリーは舞い散る幻の花びらに抱かれ、確かな記憶の名残を胸に宿す。
ずっと、ずっと。
静まり返る部屋の中で、彼女が最後に指し示した方角を見つめ、立ち尽くしていた。
タイトル通り。
メラニズム様、そして『東方闇魂録』へ捧ぎます。
呪術廻戦はどこまで知ってる?
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最新の単行本(人外魔境)まで
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あまり知らない(領域展開は知ってる)
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全部わかる