【本編完結】諏訪子様になった、負け戦を回避したい   作:洩矢廻戦

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  呪術廻戦×東方Projectのクロスオーバーなので、マエリベリー・ハーン=八雲紫説も呪術ナイズしないと…ということで出来上がった今回の設定です。
 では。


73話.メラニズムに捧ぐ

「領域展開――誅罰至信(ちゅうばつししん)

 

 領域の展開。

 あまりにも早すぎる結界の展開速度と、心象風景の具現化。

 必中効果が発動するよりも先に、こちらの攻撃を叩き込――

 

「ここではあらゆる暴力行為は禁止されています」

 

 その思惑は、減速する身体と映姫の言葉によって遮られた。

 

「勿論。私もです」

 

 そう言いながら、映姫は自身の頭に蹴りを放ち、そしてぶつかる直前で停止した諏訪子に向かって笏を向けた。

 軽く叩くように腕を動かし、それが諏訪子と同じく、ゆっくりと減速して停止する。

 そうだ。これから始まるのは。

 

「戻りなさい。これは戦いではないのですから」

「……」

 

 戦いではない。

 諏訪子は鉄輪を仕舞い、映姫の指示に従った。

 

「……続けて」

「えぇ」

 

 よくよく観察して分かるほどの、小さな笑みが映姫の口元に浮かんでいた。

 白と黒のみで構成された心象風景は、変化を絶やすことなく今も動き続けている。

 まるで万華鏡のように回り、白と黒の板状の背景が絡み合い、白と黒、黒と白と色を交互に変える。

 彼女らしい心象風景だ。

 いつの間にか用意されていた簡素な椅子に腰かけ、諏訪子は映姫の続きを聞く体勢に入り、映姫もまた、話を切り出した。

 諏訪子が今まで、目を逸らして来た真実を。

 

「マエリベリー・ハーンは一体何者なのか」

 

 ずっと気になっていたことだった。

 前世でも終ぞ、彼女が知る機会はなく、そしてこの世界にやって来たことで、永遠に機会を失ったと思っていた、その真実。

 某覚妖怪の如く、読心能力でも持っているかのように直球で、映姫はその言葉を口にした。

 気になるか?

 当たり前だろう。

 だがどうしても知りたい…という程でもなく、気が向いたら、運が良ければ知ってみたいという程度の話に過ぎなかった真実。

 しかし今、この突然起こった現実の真相に、その真実が関係していると悟った今は。

 

「時の流れ人。そしてその因果がもたらした歴史の変化を。…あなたは知る必要がある」

「……」

「いえ…寧ろ、今のあなたなら察したのではありませんか?彼女の特異性に」

 

 きっかけは、境界(せかい)を観測する目を手に入れた時。

 人外魔境が終わってから、諏訪子の視界にはあらゆる無生物、生物が持つ弱点とも言える"目"が、空間、境界の歪みが映っていた。

 霊力から妖力、魔力や神力といった力の違い、そして個を証明する魂の違い。

 色や形、光のような感覚すら、鮮明に見えるくらいに変わったのだ。

 ――だからこそ、気づいた。

 

「結論を言いましょう。マエリベリー・ハーンは遠い未来…数万年後の世界からやってきた人間」

 

 そう。

 

 

 

 

「人間です。――()()()()()

 

 

 

 

 既視感の正体。

 

()()()()()とは思ってた」

 

 違和感の正体。

 自分なりに推測、考察を重ねて辿り着いた結論。

 諏訪子が心の奥にしまったそれが、決して間違っていないことを、映姫は頷いて肯定した。

 

「人と人が番い、そして子を成して鼓動を刻む。…ゆっくりと成長し、そして寝て、起きるだけの」

「正真正銘の人間」

 

 ――だが決して、本来の意味での"ただの"人間ではない。

 内心その答えを察しながら、諏訪子は聞いた。

 

「………あの時。私がここに呼ばれる前に開いたスキマ、あれからはメリーと同じ何かを感じた」

「あれは八雲紫のですよ。私が命じましたから」

「そっくりだとか、似ているとかそういうレベルじゃない。――あれは抜け殻でもなく、()()()()()()()()()だった」

「でしょうね」

 

 話を戻しましょう。そう続ける映姫の背後に浮かぶ浄玻璃の鏡。

 そこには変わらず、本来辿る筈だった世界線が、本来の歴史そのものが映し出されている。

 

「私が八雲紫に命じ、スキマを通してあなたをここに呼ぶのと同時に、私は八雲紫に気づかれる前に、マエリベリー・ハーンをここに呼びました。万が一にも、八雲紫にマエリベリー・ハーンを()()させるわけにはいかないので」

 

 マエリベリー・ハーンの正体。

 それはいとも簡単に、諏訪子は知ることとなる。

 あまりにも類似性の強い容姿。

 能力の全ての真相。

 映姫は笑みを消して、言った。

 

「おそらく数万年後。幻想が否定された世界で溜まった八雲紫の妖力、その片割れの生まれ変わり……だから魂が同じなのでしょう」

「力の片割れ…妖力そのものか」

「マエリベリー・ハーンは、妖怪として生まれる筈だった自らの運命を退けたのです」

 

 そしてその魂が、巡り巡って古代の時代。

 迷いの竹林で――洩矢諏訪子と出会うに至る。

 

「彼女の異能が空間系…それも"境界"なのもそういうことです」

 

 一個人の妖怪、その漏出した力が実体を得るということは、それほど珍しいものではない。

 正確に言うと少し違うが。極論鬼や天狗のような種族が長く繁栄しているのは、その領土が同じ種族、同じ力の溜まり場と化しているからだ。

 

「しかしそれでも魂は同じ、たとえ妖怪ではなく、人間として生まれ落ちたとしても…その魂は、妖怪と同じなのです」

 

 正確には本人ではなく、本人同然の力の片割れ。

 だがそれでも、生まれ変わりなことに変わりはなく。

 

「知っていますか?世界には同じ顔を持つ人間が3人いるという説話があることを」

「うん」

「しかし正確には、身体や魂の構造には絶妙な差異があり、同じではなく結局はそっくりな何か、他人でしかない」

 

 推し量るように、映姫は真っすぐに視線を向ける。

 

「あなたも知っているように、この世界に"同じもの"は絶対に存在し得ません。魂となれば尚更」

「だから会わせたくなかったと」

「えぇ。決して存在しない筈の、ありえない同一が同じ世界に、同じ時間軸で互いを観測した場合――最悪影響が出るのは歴史だけではない可能性があります」

「何が起こるかわからないってことね」

「はい。何が起こるかわかりませんから」

「ふーん」

 

 両者の目が合った途端、片方が突如消えるかもしれないし、もしかしたら互いが融合し、一つになったりするのかもしれない。

 真相はどうあれ、映姫の懸念は決して間違いではなかった。

 

「彼女は幻想を、夢を見ています。彼女は夢に迷い込み、そして時空を越えてここに来た」

「時の流れ人」

「そうです。そしてそれが原因か、それとも………あなたが原因か」

「私が?」

「そうです。あなたというイレギュラーが生まれたのがきっかけで、マエリベリー・ハーンがここに来たのか…それとも逆に、マエリベリー・ハーンがここに来たことで、あなたというイレギュラーが生まれたのか…はわかりませんが」

「鶏と卵どっちが先か、みたいな?」

「その認識で合っています。」

 

 映姫は、諏訪子の言葉を肯定した。

 

「それで?あんたはメリーをどうしたいのさ」

「どう、とは?」

「わざわざこんな場所に…地獄に招待までして、八雲紫から引き離すなんて建前で、本当は何をしたいのさ?」

「何も」

「…何も?」

「ただ、私はこの人間を家に帰すだけです」

「…はい?」

「助けるだけですよ」

 

 あっけらかんとそう言った映姫に、諏訪子は目をまん丸にした。

 

「マジで言ってんの?」

「マジも大マジ、本気ですよ」

「どこでその言葉を知ったんだか。…裏はないんだよね?」

「強いて言えば、それが私の…元地蔵、初代閻魔としての仕事です。迷える人間を導き、守護する。それが理由では不満と?」

「いや、むしろ信用でき過ぎるくらいだ」

「それは何よりね」

 

 その時。初めて映姫は小さく笑った。

 閻魔大王としての威厳、相手を諭す教育者のような顔ではなく、一人の少女の、あどけない笑顔と崩れた喋り方だった。

 咳ばらいを一つ。

 

「私の力は当然」

「知ってるよ」

 

 白黒はっきりつける程度の能力。

 それが彼女の、ヤマザナドゥ(楽園の閻魔)の力だった。

 

「なら結構。簡単に説明すれば、マエリベリー・ハーンが今いるこの時代、そして本来いた時間軸の世界を対極と仮定し、その繋がりを明確なものにします」

「それで彼女は元に戻れると?」

「えぇ。私の力、領域内で能力性能が上昇した今ならそれができます」

「必殺を省いた分の縛りか」

「そして、均衡を崩した現在。未だ不安定なままの新しい歴史の世界はこれで、ようやく安定したものとなる」

「なら…」

「ですが」

 

 映姫は再び、閻魔としての厳格な空気を醸し出した。

 

「彼女の記憶は消える」

「…なんでさ」

「縛りです。数百や数千ではなく、数万年分の時の旅…それを事故ではなく故意に起こすとなれば、代償はそれなりのもの」

「消える内容は?」

「彼女がこの世界に来てから、そして目にした、変わった歴史の全てが幻想(ゆめ)となるでしょう」

「随分曖昧だね」

「忘れるわけではありません。無くなるというわけでも、空白の記憶として脳を占めるわけでもない。ただ――全てが"夢"となる」

 

 夢を見た。

 夢の中では、自分は空を飛んで、見上げるような巨体の怪物と戦ったこともある。

 記憶の整理に過ぎないそれが、空想と常識を織り交ぜた幻想の世界を作り、そして子供は、大人もそれに酔いしれることがある。

 だが、終わればそれは泡沫となる。

 決して、鮮明には思い出せない。

 ただ『夢を見ていた』という現実のみがそこにある。

 マエリベリー・ハーンが、この古代の世に迷い込み。

 朝日を見て。

 現代より遥かに劣る、しかしそれでも大切な、腹を満たす食事の記録も。

 排気ガスによって汚されていない、美しい、あるがままの夜空も。

 たった数ヶ月。

 それでも間違いなく、彼女はこの世界で生きていた。

 

「ままならないものだね」

 

 諏訪子は、ため息を吐いてから。

 

「でも、仕方ないんだよね」

「えぇ。勿論」

 

 映姫が指を鳴らすと、背後に浮かんでいた巨大な鏡が下りてきて。

 

「我々閻魔は、浄玻璃の鏡という鏡を持っています。…この鏡には映した者の人生が映るのですが、同時に、ある世界線を…平行世界と呼ばれるものを見ることがある」

 

 かなり珍しいのだと、そう付け加えて。

 

「そして今回、"私が今ここにいる世界"は、それらの中には決してない、全く新しい歴史の世界線でした」

 

 諏訪大戦の結末は数多くあり、そして残念ながら、その全てに共通するのが――『洩矢諏訪子の敗北』だった。

 その後の顛末に違いはあれど、その大前提は変わらなかった。

 信仰を奪い、洩矢諏訪子と共存することなく、八坂神奈子として最後まで生き続ける世界も。

 同時に、信仰を奪えなかったことが理由で生まれた、守矢の二柱という立場の世界も。

 

「ですがあなたは。その歴史を変えた」

 

 本日二度目の、彼女の優しい笑み。

 

「マエリベリー・ハーンが妖怪の運命を退け、人として生まれたのと同じように。――あなたも、自らの運命を退けた」

 

 ――天晴れです。

 いつの間にか、目の前に立っていた映姫は、そう言って諏訪子の頭を撫でた。

 

「あなたのやったことは、決して罪ではない」

「…」

「罪深き…とは言いました、しかし勘違いしないで欲しいのは、それが罰を与える程のものではないということ」

 

 映姫は言った。

 この場所に、真の罪人は一人もいない。

 天界や冥界、そして地獄の全ての法に当てはまらない、それだけの話。

 

「私は閻魔。迷い人を、そして罪人を裁き、あるべき場所へ導く存在。…故に私が、あなたに言えることはただ一つ」

 

 誅罰至信(ちゅうばつししん)の形が変わり、白と黒のみで構成された上空に扉が出現する。

 決してどちらが劣るとも、勝るとも言えない釣り合った形、量の白黒の門だった。

 

「あなたは、彼女を待つ覚悟がありますか?数万、数十万の時の摩耗。掠れて、薄れて、消えかけることもなく。彼女を裏切らないと」

 

 そう誓えますか?

 映姫は真っすぐに、諏訪子を見つめて問いただした。

 

「夢はいつか覚めるものです。あなたは彼女を、マエリベリー・ハーンを決して忘れることなく、そして記憶を衰えさせることもなく、彼女を、未来で受け入れる覚悟はありますか?」

「………」

 

 嗚呼、随分と。

 

「随分人間に優しい閻魔様だ」

「それが(閻魔)ですから」

 

 映姫はそう言って、本日三度目の優しい笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「記憶が戻る確率は?」

「…私はこの時代での出来事が、彼女にとって"夢"となる、としか言っていませんが?」

「とぼけんなよ。もし完全になかったことになるなら、それこそ"記憶が無くなります"とだけ言っとけばいいんだ」

「………」

「記憶は戻る。でもそれは可能性、そしてそれを――」

「はい。あなたにかかっています」

「………可能性は?」

「0。それも限りなく」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 甘い香りが鼻腔を擽った。

 いつもそれを間近に、そして毎日見てきた。

 柔らかい黒髪が、指と爪の間を通ってくすぐったい、そんな感触も。

 

「……ん」

 

 目が覚めた時、目の前には紫があった。

 身体を優しく包むベッドシーツと、部屋に充満する香水の匂い。

 現代。

 化学繊維と智慧の空気。

 ――()()()()

 

「んみゃ…メリー…?」

 

 何故か、浮かんだ感情だった。

 同時に何か、胸の中にあった筈の何か、それが欠けたような感覚がした。

 

「蓮子…?」

「もう起きたの?…ってやば!もう二時間は寝てるじゃん!」

「催眠状態だったから」

  

 ()()()()光景だ。

 昨日も、そして数年前からずっと目にして、そして付き合ってきた友人のその姿。

 宇佐見(うさみ)蓮子(れんこ)は、とろんとした目のまま、倒れ込むようにマエリベリーの胸に――

 

「っと。ちょっと蓮子」

「眠い~…もっと寝てたい~…」

「…もう」

 

 夢を見ていた。

 昔からずっと、二人で手を繋いで、繋がった状態で見る幻想の世界。

 今日もこうして、マエリベリーは蓮子を抱きかかえる体勢のまま、意識を手放し、夢を見た。

 そう、長い長い夢を――

 

「……あれ」

 

 夢。

 

「…でもあれは」

 

 長く、気が遠くなるような夢の世界。

 ――迷い込みたくなるような、あの幻想(ゆめ)の世界は。

  

「?メリー…?」

 

 水面の朧月。

 夏の雲、あの刺すような熱い日差し。

 秋の原。そして冬の海。

 記憶の名残が、夢の余韻が切なく――

 

「メリー?」

 

 いつの間にか、蓮子が心配そうに肩を揺らしていた。

 

「どうしたの?」

「…いえ。何も」

「そう?ならいいけど…」

 

 ――紫の桜の花。

 一瞬、マエリベリー・ハーンの脳に、ある光景が浮かんだ。

 この世のものとは思えないくらい、その場所は冷たく、そして明るかった。

 

「それよりメリー!今回の夢はどうだった?私はねー、目が覚めたら赤い――」

 

 蓮子の声が遠くなる。

 不思議と、その変化を怖いとも、違和感を覚えたり等もしなかった。

 現実の空間。部屋の一室のそのある場所に、重なるように彼女はそこにいた。

 まるでかげおくりのように、朧気で不明瞭な誰かが、そこにいた。

 

「お久しぶりです」

 

 その声は、不思議とよく耳に響いて入って来た。

 

「偶然の出会いと気まぐれの行動。…結果論とはいえ、自ら選んだことです。途中で放棄した責任を、今こそ最後まで果たしなさい、マエリベリー・ハーン」

 

 手に持つ笏を、彼女はある場所に向けていた。

 

「ある場所に行きなさい」

 

 静かに、マエリベリーはそれを聞いていた。

 

「死者を裁き、罪科に相応しい償いを与える。生者を説き、その生に正しき在り方を示す」

 

 その声は、まるで教えるように。

 

「…私がするのはそれだけです。それが私の存在価値」

 

 まるで、何かを導くような。

 

「故に、生者であるあなたに、迷えるあなたに私が言える事はただ一つ」

 

 

 

 

 続く、言葉。

 

「後悔の、無いように」

 

 

 

 

 桜吹雪と共に、彼女は姿を消した。

 マエリベリーは風に舞う花びらに抱かれ、記憶の名残を胸に。

 ずっと、ずっと。

 部屋の中で、彼女が指した方角を見て、立ち尽くしていた。




 作者が初めてハーメルンを使って読んだ作品は『東方闇魂録』でした。

呪術廻戦はどこまで知ってる?

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  • アニメの内容(渋谷事変)まで
  • あまり知らない(領域展開は知ってる)
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