【本編完結】諏訪子様になった、負け戦を回避したい   作:洩矢廻戦

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 9評価数の赤バーをフルにするのがいつかの夢。
 今回の挿絵もvivo様に描いてもらいました


76話.剣狂※

 月の都に夜はない。

 正確に表すとするなら、昼はなく、常に夜でしかないため、地上で言うところの、昼夜の概念が存在しないとも受け取れる。

 地上では朝、つまり昼にかけては太陽が地面を照らし、夜は逆に、空で月が輝いている。

 しかし月の都には、夜を代表する月光はなく、常に仄かな明るさの、太陽からの光が通るのみ。

 月の科学技術は、地上よりも遥かに優れたものであり、実際都の中央にそびえ立つ、巨大な時計塔を含む、住民それぞれが、各々の時計を所持しているが、基本眠くなれば寝る。目が覚めたらそのまま起きる。といった、あまりにも自由な生活を送る者がほとんど。

 その例外は、都久親王や細愛親王。何より八意思兼のような、月の重要人物だが。

 それ以外に位置する彼女は違う。

 

「おはよー…」

「おはよぉ…」

 

 未だ眠気の残る眼を擦りながら、一人の少女が扉を開けた。

 欠伸を噛み締めながら挨拶をすると、先に部屋にいた少女の同僚もまた、同じく眠気をまだ払拭し切れていない状態で、柔らかな返事をする。

 大きな欠伸を二つほど解放した後、部屋に入ったばかりの彼女の()が、ぴこんっと、そんな音が聞こえてきそうなくらいに伸ばされ。

 

「え、まさか今日も?」

「そのまさか。今日もまただよぉ…」

 

 ウサ耳を生やした、年頃の少女の姿。

 しかしその肉体を構成する遺伝子。何より彼女たちが持つ"神秘"の質は、どれも地上の妖怪のそれとは一線を画す。

 一見すると、地上の遥か先の未来――現代でよく見る学生服のような衣装を身に纏っているが、よく見ればスカートや胸ポケットに隠された拳銃や手榴弾、そして太ももに装着されたホルスターといい、どれもが今の時代、神秘全盛の古代の世とは思えない、超近代的な装備がそこにはある。

 

 玉兎。

 月の都のヒエラルキーの象徴であり、今も尚、()()()を償うために戦う奴隷たち。

 『穢れ』を嫌う、月の少数の貴族たちの代わりに、命を奪う権利を与えられた使い捨ての駒。

 

 部屋に入って来たばかりの、マル耳の玉兎は、先ほど柔らかい言葉を返した、トンガリ耳の玉兎に対し、聞いた。

 

「昨日もじゃなかった?飽きないよね」

「だよねぇ。しかもみんな弱かったからねぇ」

「あいつらが弱いんじゃなくて、強いのは依姫様が相手したからでしょ」

 

 えへへー。と、本当に意味を理解しているのか怪しい返事をした同僚に、マル耳はため息を吐く。

 

 ――あらゆる存在は、名を失うとその存在を失う。

 誰が言ったか、月の都にもそんな言葉が浸透しているが、それは逆に言えば、名前のない存在には、それ相応の価値は付随しない。

 マル耳。トンガリ耳。あなた、君、あいつ、私、それ、あれ…

 玉兎に限らず、妖怪たちも基本、名前を生まれつき持っている者、もしくは与えられた者というのは珍しい。

 しかも玉兎に関しては、現状の立ち位置が主の代わり、贖罪の為の使い捨ての駒という扱いなのだから。

 

 こういう時に限り、こいつの名前を呼べないのが恨めしい。

 未だにヘラヘラと、ふわふわな笑顔を見せる同僚の姿に、マル耳は二回目の、深い深いため息を吐いた。

 

「早く行こ。どうせ今回も三下の集まりでしょ」

「マル耳ちゃん口わる~い」

「うっせ」

 

 装填された弾丸の数を確認し、二人は扉をくぐり抜けて外に出る。

 本来であれば、戦場に向かうためにかかる時間は一瞬で、それこそ言葉通り、瞬きをする間に終わる筈のこと。

 しかし今日は都合が悪く、普段玉兎を含む、戦場への通路を担当している上司は現在、他の用事があり、動けない。

 噂で聞く限りでは、最近かの月の賢者、八意思兼が大層可愛がっていたという、あの赫映姫が地上に追放されたことがきっかけらしい。

 あれ以来、八意思兼という権力には、以前ほどの力はない。

 何より八意本人が、赫映の追放が実施されてからというもの、事務的な会話すらしない程に、研究室に籠っているとの噂だった。

 玉兎たちからすれば大したことのない、それこそ興味の薄い話題ではある、が。その中で唯一、彼女たちにとっても他人ごとではない話題があった。

 

 八意思兼の後継者。

 ――月の賢者が唯一弟子にとった、二人の姉妹。

 

 それこそ、玉兎たちの直接的な上司であり、軍部の最高権力者である細愛親王よりも、ずっと彼女たちにとっては身近な存在、それが綿月姉妹。

 月の科学兵器を使いこなす、天性の運と戦の知恵を持つ、綿月豊姫。

 彼女の異能、『山と海を繋ぐ程度の能力』は、あらゆる古今東西。地上から月、そして月であればどこでも、裏側だろうと、都から静かの海、更には豊かの海にかけて、いつでも好きな時に、一瞬であらゆる量の兵器や軍隊を転送できる。

 この力もあり、現在豊姫は月の最高指揮官である細愛親王の次に重宝される存在となった。

 月人の争いで、彼女の手を借りない展開は、きっと訪れないだろう。

 そして――

 

「依姫様、今日も張り切ってたねぇ」

「…そのせいで訓練が前よりきつくなったのは勘弁だけど」

「うへぇ…思い出したくないなぁ」

「私を見捨てて仮病で訓練休んだこと、今でも覚えてるからね」

「…うへへ」

 

 ゴツンッ!

 マル耳が右手に持っていた拳銃、そのマガジンに当たる部位を思いっ切りトンガリ耳の脳天に叩きつけた音が響く。

 流石に並の人間以上の耐久を持つ玉兎であっても、同じ玉兎から、しかも不意打ち気味に攻撃を喰らったとなれば、やはりそれなりに痛いのであろう。

 今までふわふわ、へにゃへにゃとした空気を醸し出し続けていたトンガリ耳が、この時初めて、そのキャラ作りを忘れて、その場に蹲っていた。

 

「お"…ッごォお"お"…」

「調子に乗るな」

「は、はい…スンマセン……」

 

 これから戦場に向かうというのに、どうにも空気が引き締まらない。

 マル耳は思い出す。以前とは打って変わった、現在の月の都の問題。

 そして、それに慣れてしまったこの現状を――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 突如、妖怪が定期的に月にやって来るようになった。

 最初こそ、それはもう凄まじい騒ぎになって、慌てて武器を持参してやってきた玉兎たちが、必死に防波堤を築くことで対処していたものの、それも長くは続かなかった。

 知識だけで知っていた『穢れ』という概念。玉兎からすれば、月の貴族とは違い、穢れにそこまで嫌悪感を持っている訳ではない。

 別に殺生をすることで、寿命が発生しようが、それで結果的に死のうが、別にそこまで気にすることはない。

 死ぬときは死ぬ。むしろ永遠の贖罪に生きる人生に、寿命というゴールが発生する分、戦って損はないとさえ言えるくらいだ。

 有象無象、魑魅魍魎の妖怪に、最初こそ恐怖し、防戦一方であった玉兎たちであったが、それも最初の数日だけ。

 しばらく守りを続けていくうちに、彼らを構成する肉体は、玉兎より上なのは確かだが、月軍が所持する戦車や、簡易的なバリアよりも下であると判明した。つまりはどれだけ恐ろしい見た目であろうとも、結局は『生物』に過ぎない。

 それが露呈してからは、今までの防戦一方が嘘のように切り替わり、怒涛の反撃を繰り出した。

 並の妖怪は、玉兎が常備しているオートマチック式の拳銃ですら、簡単に致命傷を与えられるレベルだし、それより上、他のよりも二回りは巨大な妖怪が相手なら、背後からの援護射撃も含めて、数発腹に弾を打ち込めばいい。

 それがわかってからは、最初こそ過剰に用意された化学兵器も、玉兎以外の人員、すなわち細愛親王直属の、月人のみで構成された特別軍隊もいた筈が、いつしか消えてしまった。

 

 結局。慣れてしまったのだ。

 妖怪など、取るに足らない存在なのだと。

 自分たちにも、玉兎にも勝てない存在など、警戒するに値しないと。

 

 元来サボり癖があり、そして初日の緊張もあって、完全に油断した玉兎たちは、ある日に再び妖怪がやって来た時も、そのような気持ちで戦場に出た。

 ――それが、彼らの目的だった。

 

 

 

 

 その日にやって来た妖怪は、今までのとは全く違った。

 その肉体は鋼のようで、どれだけ銃弾を撃ち込んでも怯まず、傷一つ付きはしない。

 額から生えた角も、そして口から生える牙も、今までの肉塊崩れのような見た目をしていた妖怪と違った、完成された、生物としての形がそこにあった。

 鬼。そう名乗ったその妖怪は、呆然と立ち尽くす玉兎――そう、他ならぬマル耳の首を無造作に掴み、持ち上げて。

 そして、覗き込みながら言った。

 

 ――俺たちのことを舐めていただろう。

 ――だから、殺す。

 

 食って、殺して。

 その後、最後に残った女を、好き放題に甚振って殺す。そう宣言した。

 思わず失禁しそうになる程の、本能的な恐怖がマル耳を襲った。

 背後にいた仲間たちも、皆震えて腰を抜かしていて、その時にやっと、自分たちの失敗を自覚した。

 死。

 呆然と、『そういうもの』として認識していた概念が、今目の前に、形としてそこにある。

 せめて最後位は抵抗を、そう思い、腕を動かして銃を向ける…そんな簡単なことすらできない。

 全身の神経、そして何より理性が認めている。――もう助かりはしないと。

 ぐっ…と、首を絞める力が強まるのを、その時マル耳は感じた。

 このまま、あっという間に首が折られ、死亡――

 

 

 

 

 ――とはならなかった。

 カチンッ。そんな金属音が鳴り響いた次の瞬間。マル耳の身体は解放され、そして自由落下して尻もちをつく。

 何があったのか、その時マル耳は、恐怖に身を任せ、瞼を閉じなかったことを、自分で褒めてやりたかった。

 それくらいに、美しい人がいた。

 たった一瞬。月の科学でも貫けなかった鬼の肉体を、その人は一瞬で、まるで布でも裂くかのように、華麗に切断していた。

 胴。首の二つを同時に斬り、致命傷を与える。

 鬼は覆しようのない致命傷を負い、そして唯一の希望である回復能力、反転術式の要である首自体が泣き別れになってしまったことで、抵抗を許さずに即死。

 右手に持った日本刀には、あまりの速度と斬り方の工夫からか、一切の血が付着していない。

 

 ――大丈夫ですか。

 

 日本刀を鞘に納めることで発生する音、鍔鳴り。

 マル耳がそれを聞いたのは、鬼の肉体が、斬撃によってズレるよりも先。

 達人。それも以前よりも遥かに、レベルの違うその強さ――

 マル耳はその時から、彼女の虜となっていた。

 数十年前の神降ろし。その実験で致命傷を負い、そして死の間際から復活してからというもの、怒涛の勢いで実力を鍛え上げた剣士。

 ――今や荒魂の化身たる、細愛親王すらも超えた存在。

 八百万の神々の異能を使いこなす、()()()()()()――綿月依姫。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それからというもの、月に攻めてくる妖怪の対処には、必ず依姫が同道するようになった。

 依姫は元より、師匠である八意から、戦の指揮の為の勉強、経験を積ませるために、何度か玉兎の訓練を見ていたこともあり、実際玉兎との相性はかなり良い。

 月でそれなりの権力を持つ、立場にいる者は基本、玉兎を穢れ上等で仕事を続ける奴隷、言い方をぼかせば、ペットだと見下している。

 唯一の例外。それこそ月の賢者の異名を持つ、八意思兼と、その弟子である綿月姉妹という訳だ。

 そしてその判断は正しく、依姫が参戦することが決定した次の戦い――すなわち鬼の次にやって来た妖怪は、また姿が変わっていた。

 背中から翼を生やした、手に団扇を持った妖怪だった。

 鬼のように鍛え上げられた肉体ではなく、それこそ依姫より少し鍛えられた程度の、少なめの筋肉量。

 だが、妖怪に限らず人外は共通して、自分の身体の見た目は自在に変えられる。

 見た目だけで強さを測れる訳ではない。実際に玉兎は、鬼の襲来という失敗があった為か、その日は一人も、油断をする玉兎の姿はなかった。

 銃を持つ手に、無意識に力が込められる。

 

「援護は無用。しっかりと見ていてください」

 

 同時に、依姫が一歩前に出る。

 鞘を左手で持ち、だらりと両腕を垂らしたその立ち姿に、依姫と相対している妖怪――天狗の一人は思わず、にやりと笑った。

 刀。あの刀だ。

 彼らは東にいる、天狗の本拠地から遠くかけ離れた、異国で活動の根を広げている珍しい部族であり、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()とは違う存在。

 鉄の技術も、何より肝心の剣術も、白狼天狗が多く存在する故郷のと比べ、あまりにも雑な、蓄積の足りていない知識だった。

 ――だからこそ、彼らはこの戦争の兵士に、()()()()()()()()()()のだが。

 

「――"伊豆能売(いづのめ)"よ」

 

 チャキ――

 刀を鞘から抜くと共に、依姫の身体に神性の光が満ちる。

 『神霊を呼ぶことができる程度の能力』その顕現の元に、月人の肉体に原初の神々。国津神、そして天津神の異能が。

 無条件、無反動でこの世に顕在化する。

 

「――我が剣に宿り、穢れを打ち消せ」

 

 伊豆能売。

 それはかつて、イザナギの禊の際に生まれた二神に続く、禍を直す為に生まれた三神、その一柱。

 その異能は、生物の死がもたらす『穢れを祓う』という、単純明快な能力。

 だが逆に言えば、それ以外の能力はなく――

 

「隙あり――!」

 

 目を瞑り、神を刀に降ろした依姫の頭上から、一人の天狗が滑空する。

 腰に携えた、無骨な刀を鞘から抜き、それを大きく振り上げて、下ろす。

 依姫の持つ刀に比べ、刃文もない、鞘も派手な装飾ばかりで、機能美の欠片も存在しない。

 振り下ろされた刀に対し、依姫は一度も目を向けることなく、その場で片膝をつき――

 

 ガキンッ!という鈍い金属音が響いた。

 

 薄紫のポニーテールが宙を舞う。

 天狗の振り下ろした刀は、依姫が地面に突き立てた刀の鞘によって受け止められ、刃先があと少しで届かず、停止した。

 月の技術。何より普段から依姫が持ち歩いたことにより、一種の『神具』となっているその刀は、鞘も決して例外ではなく、凄まじい耐久性を誇る。

 チャキ…と、依姫の右手に握られた、剥き出しの刀が揺れ、妖しい光を放ち――

 

「がっ――」

 

 ザンッ!という音を立て、一瞬で天狗の身体が、縦に真っ二つに両断される。

 その瞬間。再び依姫の握る刀から、最初に見せた神性を持つ光――伊豆能売の力が溢れ出し、辺りを照らす。

 一人の天狗が、妖怪が死に、発生する筈だった穢れが、あっという間に消え失せる。

 カチッ――

 再び、刀が鞘に納められ、次の標的は――

 

「貴様ッ…!」

 

 ヒュンッと、風を切る音が一つ。

 玉兎の目には、依姫の持つ刀の剣跡。それが銀色の糸のようにも見えた。

 殺された仲間の敵討ちか、冷静さを失い、激昂して左右を挟むように飛んできた二人の天狗。

 依姫は目を瞑り、己の肉体の感覚。視覚以外の全てを使い、最適な動きを構築する。

 

 右手に持っていた刀を、左手に向かって放り投げ。

 左手で持っていた鞘を、こちらは逆に右手に向けて投げる。

 その時、刀は順手持ちではなく、逆手持ちとなり。

 ――鞘、そして刀の二刀流で、左右からの天狗の攻撃を、難なく受け止める。

 

「ッ…!」

 

 人外。それも妖怪の最上位である天狗の、空中からの攻撃。

 妖力による身体能力向上も含めて尚、二人掛かりで一度も、身体を震わすことができなかった。

 その容姿に見合わぬ、凄まじい身体能力(フィジカル)もそうだが、何より単純な――

 

「あっ」

「ガッ」

 

 ――単純で純烈な、圧倒的な技術。

 依姫の身体を中心として、まるで輪のように剣跡が刻まれ、天狗二人の肉体が両断される。

 そして彼らも同じく、依姫の刀に宿る伊豆能売の力によって、その穢れごと浄化され、この世から完全に消失する。

 地獄にも行けず、輪廻にも乗れない完全な無。

 三回の斬殺。それでやっと、残りの天狗たちは、今目の前にいる少女、それが持つ力の危険性を理解したのだろう。

 思わず後退りし、口からは震えた吐息が零れている。

 

「ひっ…」

 

 ――話が違う。

 ()()は言った。これは一方的な戦いになる筈だと。

 妖怪の中でも最上位の自分たちは、決して鬼にも劣らないと。

 全滅した鬼の軍隊と違い、あなたたちは必ず成果を上げられると――

 

「に、逃げ――」

 

 翼をはためかせ、逃げようとする天狗たち。

 たとえ故郷を離れ、堕落した存在であろうとも、彼らが空の支配者なことに変わりはない。

 その速度は音速に匹敵し、手筈通りに、彼らは用意された()()()に向かい、飛翔し――

 

摩訶般若波羅蜜多心経

 

 それよりも先に、依姫が地面に刀を突き立てたことにより、純白の壁が展開される。

 天狗たち。月の都に攻め入った重罪人を、決して一人も逃がさないと、依姫の目から光が消える。

 次に訪れたのは――決壊。

 死の恐怖。転生もできない、永遠の虚無の恐れから、天狗たちの絶叫が、戦場を埋め尽くす。

 その後の結末は、語るまでもないだろう。

 

 

 

 

 だが、ある意味で天狗たちは、最後は幸運だったのかもしれない。

 依姫が展開した結界によって、彼らは最後の希望、スキマからの脱出を胸に、それを抱いたまま息絶えた。

 純白の結界、その向こうにあるスキマ。

 それはもう、天狗たちを待つことはないまま、既に最初から、完全に通路を閉じていたのだから。

 

 

 

 

「…凄い」

 

 ――圧倒的。

 正に、彼女こそが最強の存在。

 あの時、命を助けてもらった時から既に、それは疑いようのない事実であったが、今一度、改めてそれを、マル耳は実感した。

 

「見ましたか?」

 

 流石に何十も斬ると、刀に血が付くのは避けられなかったらしい依姫が、遠心力を利用し、ブンッ!と刀を振り、血を振って落としていた。

 だというのに、彼女が刀に宿した伊豆能売の力のおかげで、彼女自身にも、そして先ほどまで戦場だった、血と臓物で溢れかえるこの場所には、一切の穢れが存在しない。

 これこそ、彼女が数週間前から定期的に訪れる妖怪、侵略者の対策に駆り出される一番の理由だった。

 

「はい、依姫様」

「前例に倣えば、次の襲撃は一ヶ月後…全く困ったものね」

 

 結局、今回も玉兎の参戦は必要とせず、一人で片付けてしまった。

 流石にこれが何度も続くようであれば、玉兎たちにも怠惰の意識が再び戻る。依姫は内心で、既に次にするべきことを考えていた。

 

 ――となると、実戦演習は今回で終わりにして、次からは本格的に、玉兎たちに新たな兵器の使い方を教える必要があるだろう。

 

 最近、姉が自慢げに見せてきた綺麗な扇子。月の最新兵器である、対象の物質を全て素粒子レベルに分解するという、あまりにも物騒なものを思い出し、ブンブンと頭を振って、思考から追い出す。

 …流石にあれを玉兎に持たせるのは怖い。

 それに、あの兵器は一つ作るのに莫大な経費がかかる。実際月の都でそれを所持しているのは、開発者である永琳の弟子という、唯一無二の権力を全力で使用し、所有権を手にした豊姫だけなのだ。

 

「依姫様?」

「…いえ、何でもありません。あなたたちは本部へ戻りなさい、今日は自由行動とします」

「は、はい!わかり…」

「「やったー!休みだー!」」

 

 マル耳の返事をかき消す、残りの玉兎たちの巨大な歓声。

 ジト目で振り返れば、マル耳の視線の先では、やはりというべきか、トンガリ耳がぴょんぴょんとその場で飛び跳ねて、その喜びを全身で表現している。

 呆れたものだ。最初はあれだけ鬼の襲撃の後、妖怪に怯えていたというのに。

 ため息を零しながら、マル耳は視線を戻し、依姫を見る。

 彼女は既に意識を切り替え、神降ろしの新たな準備に取り掛かっていて、背後で騒ぐ玉兎たちのことは、既に忘れているようだった。

 刀を鞘に納め、それを両手で持って、再び程度の能力を発動する。

 今度のは、刀に神を降ろすのとは違う、肉体の全てに。綿月依姫という存在を依り代にした、より完全な神降ろし。

 降ろす神は、同じく伊豆能売。

 血と臓物で濡れた、月面の地面を洗浄するために、より出力を上げた祈りの力が、辺りを白く照らす。

 

 ――マル耳は思う。

 彼女はいつも、事務的に刀を振るう。

 昔、ある事件をきっかけに大怪我をして以来、彼女の実力は拍車をかけて強くなり、もはや細愛親王ですら、程度の能力を解禁すれば、相手にならない。

 

 だからこそ思うのだ。

 そんな彼女を、一度とはいえ破ったという、ある神。

 それに、今の彼女が、より()()()、その力を証明する機会が。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

此乃仁波可之知ぁ安於計禰ぇば加利

 

【挿絵表示】

 

 

 いつか、訪れるのだろうかと。




 反転術式
本作では魔力、妖力、仙力などあらゆる力を使って身体能力を強化できるが、それを二倍消費することで傷を癒せる技術。
ただし例外として、霊力と普通の魔力があり、極論霊夢は自分の身体の傷を治せないし、魔理沙も『普通の魔法使い』を止めない限り、一度ついた傷は即座に治すことができない。

 こんな展開見たい!この設定を知りたい!っていうのがありましたら作者のTwitterでどうぞ。
 展開の要望に関しては、もしかしたら採用するかもしれません。

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