【本編完結】諏訪子様になった、負け戦を回避したい   作:洩矢廻戦

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 本作に表紙が付きました!(作しらす干し様)。

【挿絵表示】



78話.The Starry true

 人々の騒動。それは時が過ぎても、一向に収まることはなかった。

 夜の帳に包まれてから数時間。都の人々は今も尚、まるで昼のそれと変わらない熱を保ったまま、和気藹々と談笑に耽っている。

 その異様な気配は言わずもがな。この都に何かが起きている、それは間違いない。

 直接的な精神操作。その類でないことは確かだが、かといってそれ以外の気配、妖怪や神のような、人外特有の匂いは何も感じない。

 段々夜の闇も濃くなり、そして知性を持たない妖怪が、辺りを彷徨うような時刻になってやっと、諏訪子は都の人々の持つ異質な気配、その正体に気づけたのだ。

 最初、それこそ都を訪れたばかりの時は、現代の基準で表すとしたら、その時刻はおよそ8時。

 なるほど。確かに違和感を覚えるものの、それでも細かな差異に気づけない時間帯なのは間違いない。

 何より諏訪子が、かつて人間だった頃の感覚を未だに持っているのもあって、余計に気付くのが遅れてしまったのだ。

 

 この世界は、現代と違って夜の脅威は凄まじい。

 ここは古代の世。たとえ都の中であろうとも、生まれて身に着けた夜への警戒心を考えれば、こんな時間で外に出ているのは、おかしいと言えた。

 ――だというのに、皆昼のような態度でそこにいるのだから。

 

 電線やLEDが普及していた現代と違って、都の夜を照らすのは、松明のような弱い光のみ。

 かがり火こそあれ、それが照らす夜の闇は所詮、たかが知れるというもの。だというのに、人々は今も、途切れることのない談笑を続け、生きている。

 9、10…11時を過ぎ、深夜になっても流れは途切れず、人々は今もずっと、空っぽの笑顔で生きている。

 ――異変。そうとしか呼べない何かが、今起こっている。

 

「人々は皆、突如としてこのように、時間を忘れた生活を続けるようになりました」

 

 甘い香の匂いがふわりと漂い、諏訪子の真横に、彼女は頬同士がくっつきそうになる程の距離で、現れた。

 

「近いよ青娥」

「すみません()()()殿」

 

 ふぅっと、優しく耳に息を吹きかけながら、ケラケラと笑う青娥。

 この仕草の一つ一つで、一体何人の男を罠にかけてきたというのか。そう考えると、自然と己の中でムクムクと湧き上がっていた感情が、凄まじい勢いで冷めていくのを感じた。

 

「話を戻しますと、あのように人々は真夜中だろうと関係なく、まるで昼のそれと変わらない生活を、より短い間隔で繰り返すようになったのです。夜なのに朝食分の食事をとり、そして朝になった時には昼食を、昼になったら…」

「ちょっと待って、睡眠は?」

「それこそ人によると言えます。平均で二日もの間、彼らは一切眠ることなく、次第に限界が訪れては地面に倒れ、そしてようやく眠っては起きる。その繰り返しですわ」

「ふむふむ…絶対何かいる奴じゃん。都のお偉いさんは何してるのさ?」

「…ふふふ」

 

 ――あ、手遅れなんだな。

 …青娥のわざとらしい笑みに、諏訪子は即座にそれを確信した。

 しかしそうなると、もう一つの懸念がある。都の大王だ。

 これ程の規模。そして彼女という、曲者ではあるものの間違いなく、それなりの格を持った何かが、村ではなく都にいるのだ。

 事態をどこまで把握しているのか、対策は練っているのか?対策があるとしても、それを実行できる人間はどれ程残っているのか?

 謎が謎を呼ぶ、夜の都を歩きながら、諏訪子は首を傾げて考える。

 そんな内心を見透かして、青娥は蠱惑的な笑みを浮かべながら、言う。

 

「ご安心を。あの御方は正気です。何より私が、そんなつまらない終わり方は許しません」

「あっそ…にしても、なぁ…」

 

 諏訪子は――陰陽師。現在は東風谷と名乗っている諏訪子は、意識を()()()()たちに向ける。

 その気配は、都の中央にいる青娥でさえ、はっきりとわかる程濃密な、そしておどろおどろしい祟りの気配。

 ニコニコと、その笑みは更に深まるばかりで、青娥は先ほどからずっと、上機嫌のままだった。

 人間の本能。生物として備わった死への恐怖。それを煽る祟り神の気配に、彼女は何も感じていないというのか。

 今はまだいないようだが、彼女はそう遠くない未来で、忠実な下僕としてキョンシーを選ぶような性格だ。

 そう考えると、所詮は身体から溢れる程度の瘴気を放つ祟り神など、可愛いものにしか思えないのだろう。

 一応、都に新たな騒ぎを持ち込まないよう、外に配備させた祟り神たちには、身体から漏れる瘴気を最小限にするよう命令し、力を制限させている為、妖怪の気配に慣れていない一般人には、これを察することは出来ない。

 尤も、それは逆に、それなりの実力を持った者には、都の外にいる祟り神全ての気配が筒抜け…ということなのだが。

 

「大丈夫なんだよね?」

「ご安心を、話は既に通しています。無駄ないざこざは生みませんわ」

「ならよし」

 

 問題を解決する為、ここで新たな問題を生む必要はない。

 諏訪子の懸念、そして期待に応えるように、青娥は無駄な手間をこちらにかけさせることはなく、既に話を終わらせていたらしい。

 ……都の"大王"の正体。それはもしかしなくとも、記憶の通り()()なのだろう。今にして思えば、自分の今の戦い方は、少し彼女に申し訳ないと思ってしまう。

 神の状態ではなく、人間の肉体だろうとも、配下の祟り神は祟り神に過ぎず、その内面に秘められた"欲"は、とてもおどろおどろしい。

 その内面会の機会が来た時には、軽く詫びを入れておこう。そう諏訪子は思った。

 

「……………」

 

 何やら視線を感じる。

 じっと、こちらに熱っぽい視線を向ける青娥。

 ため息半分に顔を向けて、諏訪子は話しかける。

 

「…なに?」

「ふふ…いえいえ、これほどまでの祟り神、一体どのようにして集めたのか、興味が尽きませんわ」

「残念だけど企業秘密でね、誰にも教えるつもりはないよ」

「あらあら、それは残念ですわ」

 

 もっとも、教えたとしても、それを実現できる者は一人もいないだろうが――

 現在の諏訪子の肉体は人間。それ即ち、神であった頃の力を、一時的に捨てているも同然なのだが、それでも妖怪、祟り神を取り込む力は健在であった。

 操作範囲、出せる種類も変わっていないが、唯一とも言える弱体化要素は、祟り神との感覚共有だろう。以前は祟り神の肉体、特に視界とシンクロすることで、その場に居なくとも、より鮮明な景色を脳に流し込むことができた。

 しかし人間の身体、特に脳の構造では、人外の感覚にとても追いつくことができず、脳が焼き切れる可能性があった。

 それ故に、諏訪子は祟り神との感覚共有に制限をかけた。それが視界を含む、シンクロレベルの低下。

 勿論旅に出る前、諏訪子が神奈子との感覚共有を切った理由もこれで、決して旅に早く出たい、面倒な仕事は全部丸投げしたいから、それに都合もいいから同時に…という邪念があった訳ではない。決して。

 それに陰陽師という立場も、これから旅を続けるにあたって都合がかなり良い。

 たとえ人間に変化し、弱体化しようとも、今までに取り込んだ祟り神はそのまま使える為、実力の方は一切問題がない。

 そして言い逃れができない唯一の懸念である寿命。特に老いに関しても、そこまで気にする程ではないだろう。

 何せもう、この時代には仙人を含む、魔法使いのような寿命を克服し、実質的な不老となった人間が少なからず存在している為、異端者としての迫害…それこそかの魔女狩りレベルのものは起こりにくいだろう。

 旅の途中で、適当な妖怪やら産土神やらに、呪いをかけられて寿命が延びてしまった…のような言い訳も、神秘の存在する古代では通用する。

 …まぁ隣にいる()()には、それが嘘だと気づかれているようだが。

 と、その時、諏訪子の脳内に、祟り神からの報告が響く。

 文字にして表すことのできない、祟り神特有の共通言語ではあるが、支配下に置いた影響か、自動的に意味が翻訳され、脳内にインプットされていく。

 その結果は、本日三度目の妖怪の退治。

 

「…捕らえた。このまま真っすぐ外に行く」

「助力しましょうか?」

「うん、お願い」

 

 言葉は短く、そして最大限の意を込めて。

 青娥が頭の簪を取り外し、それを前方の壁に向けて投擲すると、直線状に穴が空く。

 民家の壁、塀、再び民家の壁と、まるで視界映像がループしているかのように、全く同じ景色が二回、三回と続く。

 それらを通り抜けて、都の外、簡易的な、対妖怪用バリケードの向こうに見える、夜空を見上げるように直立する、芋虫のような見た目をした祟り神。

 その口の中には、都に侵入しようとしたであろう妖怪、その細い腕のみが露出しており、残りの身体は祟り神に喰われたまま。

 

「飲み込むなよ。後で取り込む」

 

 諏訪子が右手をかざすと、祟り神の口内に閉じ込められていた妖怪。その唯一見えていた腕がまるで、ちぎった粘土のように不定形な形にへと変化し、そして宙を漂う。

 そしてすぐ、諏訪子の右手に握られたのは、懐かしい、かつては毎日のように行っていた、生成した祟り神を支配下に置く儀式。

 即ち――

 

「ん……」

 

 ごくんっ、と喉を鳴らして、妖怪がまた一体取り込まれる。

 陰陽師として世を過ごし、そして旅を続ける予定の諏訪子。その事を大雑把に、かいつまんで話すと、青娥は両手を、ぽんっと音を鳴らして叩き、提案したのだ。

 

 経験値を稼ぐ為にも、都の守護を手伝ってくれないか。と。

 

 警備はどうした、と言いそうになって、そこでようやく諏訪子は事態を…というより現状の酷さを改めて把握した。

 都の一般人でさえああなのだ。そして青娥の態度からするに、都の大王を除く上層部の一員も、この異変の被害者なのだ。

 それすなわち。夜の間に都の入口を、妖怪から守る為の人員すらもまともに機能していない、あまりにも危険な状態ということ。

 どうやら以前までは、意外にも青娥が夜中に都の警備を任されていたらしいのだが、それでも限界が来たらしい。

 仙人といっても睡眠は必要で、あくまでも不老であって不死ではない。

 それにその不老でさえ、周期的に訪れる死神を退けなければならず、失敗すれば、命の輪廻から外れた極悪人として、普通の悪人以上の地獄へ落とされることとなる。

 「頑張って起きてたんですよ?」と、よよよ…なんて効果音が聞こえてきそうな、あまりにもわざとらしい泣き真似をしながら語る青娥に、諏訪子はなんとも言えない思いを覚えた。

 喋り方や雰囲気は、言わずもがなあまりにも胡散臭いが、その癖に行動の一つ一つは妙に律儀なのである。

 そのことを指摘すれば、彼女はニンマリと、蠱惑的な笑みを浮かべ。

 

 ――気に入ったから、あの人の事。

 

 砕けた口調で、そう小さく言った。

 それ以上、彼女がかの大王について多く語ることはなかったが、寧ろ彼女の思いは、それくらいの言葉が妥当なのだろうと思う。

 彼女はただ、面白いものが好きなのだ。

 誰かを気に入り、何かを好きになり、愛と知識を注ぎ込み、それの行く末を見てみたい。

 良くも悪くも多趣味で、そして多くに関心を向ける彼女だからこそ、"今の好み"である大王に対しても、多くの言葉を向けることはないのだ。

 だからこそ。彼女はいとも簡単に、国を傾けるような行動をする。

 

「あの人は昔から、聖人として持て囃されていた。だからこそでしょうね、周りが当然と信じていた価値観や教えに、心の内では反発した」

 

 妖怪を取り込み、祟り神を新たに配置。

 そして仕事を終えて、都に戻る道を歩きながら、青娥は語った。

 

「人は死ねば、極楽浄土に行きます。勿論悪人か善人か、その違いで死後の世界での扱いや解釈は変わる…それでも共通するのは、いずれ新たな命として、再び現世に舞い降りるということ」

 

 流派や個人によって、差異が生まれることはあるが、基本は変わらない。

 仏教による、死後の教えとは、死が最後にあるものだ。

 しかし都の大王は、その教えに疑問を持っていた。

 人が死ぬことを是とし、生まれ変わるという事実が納得できなかった。

 何故。人は死ななければならないのか、何故死を恐れることはまだしも、死を否定する考えは美徳とされないのか。

 たとえ人でなしになろうとも、死を克服したいという"欲"は、本当に間違ったものなのか?

 そう、己の考えに惑う王の姿は、青娥にとってはまさに、鴨が葱を背負った姿そのものだったのだろう。

 

「そこで道教を薦めたのです。あの教えの最終目標は不老長寿、人の寿命に悩むあの人にとってはまさに、甘い蜜そのものでしたから」

 

 しかし問題が一つ。

 今でこそ、かの『諏訪大戦』によって神の分布が変化し、神道を信仰する勢力は凄まじい影響力を手にした。

 

 ――その最たる例が、元より神道を支持していた物部氏。

 

 諏訪大国という、あまりにも強い影響力を背後にした彼らを、どのようにして攻略し、討ち滅ぼしたのか。

 青娥が言うには、物部一族の中で唯一、神道ではなく、道教を元から崇拝していた()()()()を、スパイとして勧誘することに成功したらしい。

 そして何より、物部氏はあくまでも、諏訪大国と同じ思想、同じ信仰の種類というだけで、直接諏訪大国の、それこそ神道の一つ、八坂神奈子と何かしらの対話を試みたことがあるわけでもない。

 最初こそ、神道を崇拝する巨大な一族が滅び、そして諏訪大国の動きを警戒していたらしいが、答えは沈黙。

 それも当然であった。そもそも諏訪…神奈子や諏訪子自身、人の信仰を縛る行為は既にやめており、もう今では無頓着な状態。

 最低限、存在を確保するための信仰も必要としていないため、ある意味この世界で一番自由な神、とさえ言えるだろう。だからこそ、諏訪大国に従属している訳でもない物部氏が滅びようと、神奈子を含む諏訪大国は、何も動きを見せなかった。

 そんなこともあって、神道一強であった世の宗教勢力は、こうして以前のバランスを取り戻し、そして仏教は以前よりも強く、人々の間に浸透するに至ったのだ。

 

「勿論簡単には懐柔できませんでした。道教とは極論、どのような凡人であろうとも、正しい手段を使い、そして辿っていけば…誰であろうと不老になれる教え。それでは政治が成り立たないと」

 

 政治とは、時に個人の力を度外視し、集団で纏めて権力で抑え付ける必要がある。

 国を動かし、人を動かすための手法として、時として残酷に、個人の能力…個性を殺さないといけない。

 しかし道教。しかも誰でも超人になれる手法が蔓延するとどうだろう。

 それを権力で圧制し、情報に制限をかけたとしても、その拮抗は必ずいつか崩壊し、組織の腐敗が早まるだけだ。

 腐敗しない組織、国などこの世界には存在しない。

 ならば簡単な話で、腐敗しないような政治ではなく、もしも腐った場合、それをいかようにして切り捨てられるか…が、優れた政治だと、そう語っていたらしい。

 

「その考えに同意し、私もある入れ知恵をしました。一般人間での情報操作や外聞の…まぁ簡単に言えば、私たちだけが道教を支持し、民には仏教を信奉させればいいのでは?と」

 

 結果として、青娥たちの目論見は成功した。

 都にいる全ての人間は、ちゃんと今でも仏教を信奉しており、何より青娥が入れ知恵をした王を含む、不老を目指す者の道教信奉もバレていない。

 後は時間が解決し、いつしか大王は不老を手にし、この都を永遠に繁栄させていくのだろう。

 青娥がそう確信した時、その時にはもう。――この都に異変が訪れていたのだった。

 

「上手く行き過ぎた。そう気づいた時には遅く、そして原因もわからないままで」

 

 度重なる、自然がもたらす不作という不幸。

 征伐軍による、対物部氏に向けた敵意が蔓延する、重苦しい雰囲気。

 きっかけは何だったのか、今ではもはや知る由もない。

 しかし最初に、都の均衡が瓦解したのは、誰かが零した言葉だったのは確かで。

 重苦しい空気を、新たな救いである仏教を。

 それに喜び、そして一転した表情、感情を持った彼らは、一言。

 

 ――()()()()()()()

 

 誰が発したのだろうか、そんな声が、今も都から聞こえて来る気がする。

 そうだ、何も変わらないのなら、何をしても良いんじゃないか?

 そうだ、もっと刹那的に生きれば良いのだと。

 だがそれを許せば、次第に都の人間の心は、理性は解放され、それと同時に秩序が乱れていく。

 しかしその原因がわからない。故に青娥は、こうして外から来た"異分子"たる諏訪子を利用したいのだと、そう言った。

 

 

 

 

 …しかしだ。

 

 

 

 

「…でもさぁ」

 

 その結果が、目前にある襖である。

 既に都に戻り、そして手を引っ張られながら、諏訪子はずるずると青娥の後ろを追い、そして壁を通り抜け続けた。

 …今思えば、この時点で疑問を浮かべるべきだったのかもしれない。

 あれやこれやと、廊下を巡回していた警備の男を、寒気のする程の甘い声とワードで言い包めて、そしてまた足を動かし、右へ行っては左へ行き、壁を通り抜けて。

 そして今、諏訪子の目の前には、この都の大王、その寝室への入り口があった。

 

「…今?早くない?」

「いえいえ、既に話は通してあると言ったでしょう?それに都の住民たちも、いつ理性の枷が外れるかわかりません。善は急げですよ」

 

 邪仙が何を言ってるのか。

 まぁとにかく、ここまで来たからには、選択肢はもうない。

 諏訪子ははぁ…と、僅かばかりの緊張を胸に、襖に指をそえ。

 

「お邪魔しまーす」

 

 手のひらを押し付けるようにし、襖を滑らせて視線を向ける。

 といっても、元から動く襖を目で追って、ただ元通りに、視線を前にしただけなのだが。

 しかしだ、その前に、距離にして10cmもない至近距離。

 

「いらっしゃい」

「……」

 

 そこに、翁の面があればどうだろうか。

 少なくとも諏訪子は、驚くわけでもなく、ただ困惑の沈黙を選んだ。

 隣に立つ青娥も、あらあらと口に手を当て、微笑ましいものを見るような顔をしていた。

 沈黙。

 

「…………」

「…………」

「ふむ、失敗したようだ」

 

 能面越しに、少しくぐもった声が聞こえた。

 ただやはりというべきか、その声は凛としていて、何より少女のそれと同じ抑揚。

 諏訪子の記憶通りの、大王の正体がそこにいた。

 

「ふむ、見たところかなり若い陰陽師のようだ」

「豊聡耳様。この方の実力は本物ですよ、私が保証します」

「わかってる。お前がそう言うのなら、つまりそういうことだからね」

「あらあら、嬉しい限りですわ」

 

 固まったままの諏訪子を他所に、二人は気さくな会話を続けていた。

 勿論その間も、都の大王は、翁の面をつけたまま。

 

「…大王様って、意外とお茶目なんだね」

「勿論、今だけさ」

 

 胸に手を当て、笑って。

 

「もう私のことは、青娥から聞いているんだろう?それに…あの式神?を見ればわかるさ、君は陰陽師として、それなりの実力を持っているとね」

「ふぅん、なるほど…」

 

 少しいい気持になった。

 

「まぁ、事前に話を通してなくても大変だったけどね、あの祟り神の"欲"は」

「本っ当にごめんなさい」

 

 一気に申し訳なさがこみ上げてきた。

 速攻で頭を下げて謝罪すると、彼女は少し笑って。

 

「いいよ。それに少しうるさかっただけで、すぐに慣れたからね」

「は、はぁ……」

 

 流れるように面を外し、ニコリと笑う彼女。

 獣耳と見間違う程の、二つに尖った髪。その僅かに金色の混じった茶髪も、彼女の『聖人』という異名の説得力を高めている。

 人を時に、芸術作品に例える者がいるのも頷ける。確かに彼女の整った顔や、身に纏うカリスマと、こちらに過度な緊張を持つことを許さぬ、親近感を与えるような優しい声。

 しかし凛とした、透き通ったような声。なるほど、これは確かに、工夫次第で周りに己の性別を隠すことも容易いか。

 

豊聡耳神子(とよさとみみのみこ)。どうぞよろしく、若き陰陽師よ」

 

 こちらを見透かすような、鋭い眼光は、親しみのある声とは真逆であった。

 諏訪子はその視線に戸惑うことなく、じっと彼女を、その眼を見据え――

 

「…………」

 

 そして、ある確信をしてから、右手を前にし。

 

「どうもよろしく」

「あぁ」

 

 友好の証として、都の大王――神子と手を繋ぎ、そして笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(犯人見ーつけた)




 第2部一章のラスボスの正体、これでわかった人結構いるんじゃないでしょうか?
 ちなみに、2部が終わった後は3部も開始。
 そして主人公はレミリアで、そのまま吸血鬼異変突入で〆を想定してます、お楽しみに。

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