【本編完結】諏訪子様になった、負け戦を回避したい   作:洩矢廻戦

85 / 147
 虎柄の毘沙門天ってあんまり話題にならないけど、個人的にえげつない神曲だと思います。
 あとお気に入り登録数がもうすぐ5000行けそうなのでバンバン登録お願いします。


82話.虎杖の毘沙門天

 ――妖怪とは何なのか。

 時にふと、そんな考えが、日常の合間に現れた。

 極論。それは人が何かを『恐れる心』が具現化し、そして牙を剥く()()

 人は人の腹に宿り、そして産まれて声を上げるが、妖怪はそうではない。

 人の感情。その力がまるで渦のように奔流となり、一か所に集まることで、いつの間にかそこにいる。

 人間の中には、時に、腹の中にいた頃の記憶がある者もいる。だが妖怪の場合は、その"前"はない。

 長く生きた妖怪や、生まれつき強者であることが約束された、天狗や鬼のような妖怪もそうだが、その姿は人間に近い。

 だというのに、その命はあまりにも軽い。

 名を失えば、恐れを失えば、彼らはいとも簡単に、これまで生きた痕跡の全てを、最初からなかったものにされる。

 血も、肉も、骨もあって、内臓もある。

 妖怪と人間。その共通点に、否が応でも気づかされるのも、そう長くはかからなかった。

 

 ある日。初めて、妖怪を己の手で殺した。

 

 今まで、まだ『魔法使い』になる前の、身体の傷も治せない『人間』だった頃の白蓮は、妖怪退治というものを経験したことがなかった。

 法力を練り上げ、それが発光するだけで、魔を退ける作用がある為に、何もせずとも、大抵の妖怪は逃げ出した。

 大抵の妖怪といっても、それはロクに言葉も発せない、強さの等級も、下から二・三番目の、その辺の茂みに隠れているような、本当に弱い妖怪だけで、それ以上の凶悪な妖怪には、それはただ不快感を与えるだけ。

 今思うと、あの生まれ故郷である里は、とても平和な場所だったのだと。改めて、自分が住んでいたあの場所が、とても満ち足りた、つまらないものに思えてしまった。

 ――そんな油断、慢心が、あの日にようやく崩れた。

 茂みから飛び出すように、鋭利な爪をこちらに向けて駆け出して来た、野良犬の風貌に似た妖怪。

 荒れた山道を歩いていたのもあって、その時、白蓮は視線を下にして、周りに気を向ける余裕がなかった。

 だからだろう、その時白蓮は思わず、力加減を忘れた全力の法術、防衛用の弾幕を放ってしまった。

 鼻腔を突き刺すような、強い刺激臭。

 野生の世界に籠った者の、獣の強い血の匂いと、消化途中だった腹の中身、それが内臓の肉片と共に、混ざりながら拡散する姿。

 ――だがすぐに、妖怪の肉体は消失反応を起こし、血の跡すら残さずに消えた。

 ――消えてしまった。

 

 

 

 

 妖怪と人間の違いとは何だ?

 外法に手を出し、もはや純粋な人間ではなくなった白蓮は、時にそれを考える。

 景色を眺める時、食事の時、睡眠の前。

 あらゆる無意識の時間に、その問いが頭に出しゃばってくる。

 血も肉もある、彼らとの違いはなんだ?

 

(名前…)

 

 白蓮の肉体は、不老であり不朽。

 全盛期を保ち続け、そして燃料である魔力さえ尽きなければ、文字通り永遠に生きることだってできるだろう。

 そんな自分は、間違いなく人外であり、人でなし。

 だからこそ余計に思うのだ。――前の自分と、今の自分の違いは何か?

 身体の隅々に張り巡らされた血管。内臓から骨、全盛期に戻ったという、以前と比べた肉体を構築する微々の違いこそあれ、基本構造は変わらない。

 そして何より、思うのはただ一つ。人でなくなった自分と、同じく人ではない妖怪。

 

 ――この二つは、他の人間から見れば同じではないか。と。

 

 妖怪も人間も、名を失えば、いとも簡単に存在を保てなくなる。

 死を恐れ、生きたいと願い、その日を必死に足掻く姿が、まるで若返りの禁術に手を出した、――あの日の自分のようだった。

 その考えが確信に変わったのは、妖怪を助けるようになってから、数週間の時が経ってから。

 相手にする妖怪は、里の人間たちの依頼によって大きく変わる。農作物を守って欲しい。そういった願いの場合は、簡易的な結界を張ったり、妖怪や害獣相手に、ここを襲ってはいけないという刷り込みを行う為、何度か牽制を込めた攻撃をする。

 わざわざ法力を使うのは、一種のパフォーマンスのようなものだ。

 旅の途中、新たな活動拠点として、白蓮はこの都を選んだ。

 というのも、ただ目的も無しに場所を決めた訳ではなく、そこにはしっかりと打算があった。

 これから先、白蓮は自身の肉体の劣化…即ち老化を防ぐ為に、妖怪たちから外付けの魔力を補給しなければならない。

 とどのつまり。以前のような、過疎化の進んでいた里とは違う、人が大勢いる…妖怪が生まれる要因の恐れが集まる、栄えた場所が必要だった。

 選択肢は一つ。

 かの列島制覇を果たした、この大陸で唯一、『国』の称号を手にした唯一の場所、諏訪大国は、八坂神奈子…つまり神の視線が常に降り注いでおり、それは今の白蓮には都合が悪い。

 となると、他に優れた都の数々、その中のどれかを選び、そこを拠点とする。

 ――そして、白蓮が選んだ場所が、この都。

 

 ――讃岐造(さぬきのみやつこ)

 二つ名を、『竹取の翁』。その都で知らぬ者はいない、かの諏訪大国の"帝"とも交流があると噂されている、天下の成り上がり人。

 

 そんな彼が愛情込めて育て上げた、ある娘を一目見たいと、都には多くの人々が訪れる。

 しかもほとんどが男。つまりはどこまでも一直線な、我先にと色目当てに足を運ぶ、哀れな独身男性たち。

 案の定。都の入り口を男たちが通るたびに、門番の者たちは「またか…」という、呆れの表情を隠そうともせず、面倒くさそうに彼らの相手をしていた。

 白蓮の場合は、やはり珍しい女性の客ということもあって、ほんの少しだけ驚かれたが、一応仕事なのもあり、申し訳なさそうに、身分証代わりの何かを提示するように指示された。

 持参していた経典。そして以前から文を送り、廃棄される寸前であったある寺の土地。その譲渡契約を終えた証である文の一部を、白蓮は提示した。

 問題もなく、結果として白蓮は、この都の一住民として、名実共に認められることとなったのだ。

 しかし、問題が一つ。

 

「人食い妖怪…ですか」

 

 白蓮が寺を引き継ぎ、一ヶ月程が過ぎた頃。

 最初こそ、廃墟になりかけていた寺。という二つ名に惹かれて、物見遊山のついでに訪れた人間の内数人は、見事に白蓮の信徒となっていた。

 勿論。彼らが反発する様子を見せずに、素直に白蓮を慕うようになった要因には、彼女が持つ、()()()()に勝るとも劣らない、非常に整った容姿がある。

 そして何より、彼女が以前里にいた頃から築き上げた、『人に見せる顔』もある。

 そんな白蓮を慕い、そして時にこうして、白蓮にとっては都合の良い依頼――すなわち妖怪関連の事件を、彼らは持ってくる。

 白蓮の言葉を聞き、まだ了承もしていないのに、目の前の男は、両手を絡めて。

 

「はい!白蓮様の力があれば、きっと解決できると思い…!」

 

 いやぁ助かった。ありがたや。

 と、仮に了承の言葉であろうと、次の言葉を、無理やり遮りそうな勢いで、男は両手を頭より上の位置に、そして感謝の意を表すために、何度も頭を下げていた。

 しかし、男の態度を度外視しても、今回の依頼は、白蓮からしても見逃すことはできないもの。

 妖怪。それも人食いとなれば、それなりの等級の強さなのは確かだ。

 そうなると必然的に、秘めた妖力量もそれなりで、それを利用すれば、白蓮が己の身に施した、若返りの魔法を、長期間維持することもできるかもしれない。

 白蓮は「大丈夫です」と、男の肩に触れ。

 

「私が何とかします、だから後は任せてください」

「ぉぉ…!感謝します…!白蓮様」

 

 途端。再び男の表情が崩れ、地に頭を付ける勢いで、深々と頭を下げた。

 それを窘めながら、白蓮は計画的に、そして利己的に、その依頼の詳しい内容を、頭の中で反芻する。

 ――人食い妖怪、虎の妖。

 

 

 

 


 

 

 

 

 妖怪。

 その中でも、人間から不当な迫害を受けている者がいる。

 その事実に白蓮が気づけたのは、本当に偶然の賜物としか言えないだろう。

 あくまでも、最初は欲の為であり、己の外付けの魔力補充。その為だけに、妖怪を隠れて助ける。

 彼らは危機に敏感で、一度妖怪の返り血を浴びるならまだしも、自分の意思で、彼らを『殺す』という選択肢が頭に浮かぶようになれば、彼らは鋭敏にそれを察知する。

 依頼の裏で、白蓮は何度も彼らを助けた。

 白蓮は戦いについて、それこそ法力のような、加護に近い技術は知っていても、それ以上のことは知らない。

 "縛り"すら結ばず、ただの口約束だけで、彼ら妖怪を生かし、そして、二度とここに近づいてはいけないと、そう警告する。

 それが今の今まで、周りにバレずに上手く行っていたのも、白蓮自身が、彼らから恩知らずの危害を喰らっていないのも、全てはただ、運が良かっただけ。

 

 ――はりぼての達観。

 

 未だ、彼女はそれに気づいていない。

 

「ここ、かな…」

 

 山。

 天を貫くような…とは安直な表現ではあるが、そびえ立つ木々から枝分かれした、深緑色の葉が、月の光すらも遮っている。

 そんな、自然が作り出す漆黒の山道を、白蓮は慣れたように、荒れた道を軽々と進む。

 人であることを止め、その結果として、白蓮は常人を遥かに凌駕する身体能力、そして五感を手にしたことで、夜であろうと、昼とそう変わらない明暗で視界を確保できる。

 恐らく、あの山の頂点近くにいるでしょう。…そんな、手掛かりとも呼べない証言を頼りに、白蓮は歩みを止めず、周りに意識を張り巡らせる。

 いくら視界が使()()()状態でも、視線の届かない場所、死角を含む不意打ちだけは、人を止めようと変わらない。

 肉体は頑丈に、治りやすくなったとしても、急所は変わらず首であり、力を練り上げる腹…丹田周辺に重い一撃を喰らえば、その後の対応は厳しい。

 故に、こうして守るべきは――

 

「…………!」

 

 ――殺気。

 

「――シッ…!」

 

 首。続けて、肩から胴にかけての守り。

 左手で首を、万が一を防ぐ為に、練り上げた()()を、首に集中して集め、その後纏うように全身に張り巡らせる。

 何度も、何度も繰り返して身に着けた、白蓮の防衛術。

 最初にあえて、身体に魔力を纏わなかったのは、相手を油断させる為。

 突けば崩れ、裂けば両断される、人間の柔らかい肉体。

 妖怪からしてみれば、力を抜いた今の白蓮は、正に鴨が葱を背負って来たようなもの。

 勿論。これが通用するのは、強さの階級も、下から数えた方が早い。そんな弱小妖怪のみ。

 中級の、数十年は生きたそれなりの妖怪であれば、それがただの罠であることも、人間でありながら、霊力を持たない異質さに、簡単に気付ける。

 そして最も危険な、かの"花畑の妖怪"や"山の四天王"のような、()()の妖怪ならば、それすらも乗り越え――

 

「あなたが"人食いの()妖怪"?」

【――ッ…ッ!】

 

 ――虎。

 少なくとも、存在はしているらしいそれを、実物を見た者を、白蓮は知らない。

 人が言うには、それはとても大きな、山猫に似た風貌をしている。

 時に、それは黄褐色を主にした、黒い縞模様をしている。

 全長は、住処は、そして主食は。

 そんな、真実を知らず、ただ「怖いものだ」と、そう噂する人々の恐れ、その集大成が、目の前に。

 

「…あなた」

 

 白蓮が一歩、その獣に近づこうとする。

 すると、人食いの獣はまるで、恐れるように身体を震わせ、そして――

 

「――ッ、その傷…!」

 

 音を立てず、静かに倒れた。

 白蓮は思わず、その妖怪の脅威、人食いという二つ名を忘れ、急いで駆け出して、その匂いに気づく。

 血。

 僅かに香る、獣特有の野生の匂いと、それに混ざって漂う、人と変わらぬ赤い血液の、その匂い。

 既に、白蓮の意思は決まっていた。

 

「――治します」

 

 膝をつき、手を伸ばす。

 その時、先ほどまで見せていた、痛みで喘いでいた獣の肉体が、凄まじい勢いで、白蓮の手の動きに反射するように、地面を擦って後方に跳ぶ。

 ギロリと、色を失いかけていた獣の瞳に、強い敵意と怨嗟の色が浮かぶ。

 

【…何のつもりだ】

「言ったでしょう、あなたを治す」

【何のために】

 

 己の使命。

 そんな言葉が似合うような、そんな殊勝な生き方をしてきた訳ではない。

 自分の善意は、いつも己の目的、欲を満たす経過点でしかなかったし、その原点はきっと、これから先も呪いとなる。

 だが、そんな自分だからこそ、死を恐れて、命を延ばした自分だけが、死んだ弟の跡を、彼の理想を体現できる。

 そう、自分自身へ告げるように。

 

「…それが、私にできることだから」

 

 反応はなかった。

 一回り大きく、その眼を開き、獣は一言も発さない。

 白蓮は、その反応を無視して、血の匂いが最も濃い、腹部に手を合わせ、そして傷の深さを改めて知り、息を吞む。

 酷いものだった。

 臓物が転び出る。そんな基準をとっくに超えている。

 皮膚を裂き、肉と骨を断ち切って尚、その内臓の中心部にまで、刃物が通った跡がある。

 内臓を支える筋肉など、とっくに断たれている筈。それなのに、こうして今も、獣の意識は鮮明で――

 不自由そうに喉を鳴らす、獣の声が聞こえてくる。

 

【できること。か、滑稽だな…人間】

 

 ――その声は、嘲笑。

 死の淵に立っても尚、妖としての自尊心、これまでの生涯を、決して失いたくないと、そう願う『生』の欲。

 獣は、ただ見下していた。

 

【私を治した後はどうする?――今度こそ、私を殺すのか?】

 

 ――お前以外の人間に。

 獣の発する言葉に、白蓮は何も答えられなかった。

 

【同胞を殺し、里を焼き、そして私を斬った。…そして治して、また同じことをするのか?】

「…………」

 

 ――また、だ。

 妖怪は、人間の恐怖を糧に生まれる。

 生まれるだけならまだしも、彼らは存在を保つ為、人がその日を生きる為に、食事をとったり、睡眠をとったりするのと同じように、人を襲って怖がらせる。

 恐怖は伝染し、何より人間というものは、皆が共通して臆病だ。

 我々人間は、襲われる前に彼らを打ち倒してしまえばいい。そう考える者が、多数となってから、余計にそれは止められなくなった。

 彼ら人間。そして彼ら妖怪。そのどちらが間違っているのか、どちらが正しいのか。どちらが黒で、どちらが白か。

 それを定められる者は、この世にいない。

 争いを望まぬ妖怪。

 同じく、争いを望まない人間。

 両者もまた、この遺恨しか残さない、一方通行の憎しみ合いの、被害者の一人なのだ。

 白蓮は、ただ哀れみを感じた。

 

【治した先はどうするつもりだ。妖怪に加担し、妖怪を生かし、その先に何を求める】

「加担とは違います」

【何故】

 

 どこが違う。そう獣は問う。

 

【事件・事故・病気、私たちが介入せずとも、人間は勝手に我らを恐れ、そして死ぬ、殺し殺される】

「…………」

【人が死ぬのは当たり前だ。妖怪が死ぬのも当たり前、目の入らない場所にある、真実だ】

 

 口元を歪めて、嘲笑の色を浮かべたまま。

 

【それが、自分の目の前でだけは、看過できないとでも言うつもりか?】

「そうだとしても、です」

 

 生気を失いつつある眼。

 しかし、そこに宿る、炯々とした赤い閃光。

 それが、より強く白蓮を射抜く。

 

【窮地にこそ、人間の本音というものは出る】

 

 ――風。

 白蓮が次に感じたのは、頬を強く掠った風と、頭部と背中に強く感じた、衝撃。

 視界いっぱいに広がる、星空を隠す木の葉の群れと、そして。

 

【答えろ。お前は何故、私を助けようとした】

 

 強く輝く、殺意の眼光。

 それが、自分を押し倒し、牙を剥き出しにした、獣のもの。

 恐怖はなかった。

 何故なら、その声にあったのは、空虚さと。

 

【答えろ。――さもなければ殺す】

 

 恐ろしい言葉に宿るのは、深い失意。

 最初に出会った時の、あの強い敵意や殺意はない、上っ面だけの警告、死の予告だったから。

 

「私は………」

 

 ――昔から、運動も勉強も、人並み以上にできた。

 ――でもそれを、一度だって「自分にしかできない」と、思ったことはなかった。

 

「私は"人でなし"です。見てくれは人間でも、その実体は決して同じではない」

 

 ずっと、人より少し先を行くだけの人生だった。

 弟が人を助け、自分はそれより少ない人間を、ただ仕事だからと、流されるように、甘い言葉を垂れ流す。

 そうして、「救われました」と、安堵の笑みを浮かべる信徒に、ただ「終わった」と、枯れた思いを抱くだけ。

 

「妖怪も人間も、『死を恐れる』感情は変わらない。人の姿をした私だから、人間だった私だから、誰よりも早く気づけただけ」

 

 ――最初は、ただ利用したいだけだった。

 妖怪は所詮、自分がより長く、若くあり続ける為だけの、利用するだけの存在だと。

 その認識が変わったのも、若返りによって人間を辞めた、自分だからこそ気づけたこと。

 

「あなたの言う通りです。今の私に、"都"を変える力も、ましてや"国"を変える力も、こうしている間にも、犠牲になっているであろう妖怪たちも、救えない」

 

 今度は、白蓮がまるで可笑しいと、そういう顔をして言った。

 

「でも、だからといって、今目の前にいるあなたを、見捨てる理由にはならない。少なくともそれに限っては、『今の私ができること』だから」

【…………】

 

 獣は、何も言わない。

 

「『あなたを助ける』、これは私にしかできないこと、もしこれから逃げて。私はどうすればいいんですか?」

 

 少しだけ。

 その時、獣の瞳に浮かんだ色に、今までのとは違う。別の感情が見えた。

 

「あなたを見捨てたら。私は食事の時、睡眠の時、散歩をしている時…そんな、ふと気持ちが途切れた時に、あなたを何度も思い出す」

【…………】

「その度に、あなたを思い出す。『元気にしているだろうか』と、考えて、その度に『自分は悪くない』って、『あぁ、あの時に助けていれば』…そう自分に言い聞かせて生きろと?」

 

 せめて、死から目を逸らした半端者として。

 不老長寿の人でなしとして、長い長い生を、せめて。

 

「私は、死がとても恐ろしい。だから、自分が死んだ時のことなんて、想像だってしたくないし、できない」

 

 白蓮の思いが、獣の心を打ち震わせる。

 

「だからこそ。――生き様で後悔はしたくない」

 

 とても、強く美しい瞳で。

 白蓮はそう、強く自分に言い聞かせるように、告げた。

 

 

 

 


 

 

 

 

 白蓮が信仰している神は、神としての格もそれなりに高く、信徒の数もそれなりである。

 というのも、それは信仰による恩恵…つまるところ、信仰先の神がもたらす力が、民にウケやすいものであったからだ。

 

 仏神・毘沙門天。

 

 誰が最初に広めたか、毘沙門天を信仰すると、財産に関する不幸を祓ってくれるだの。

 毘沙門天を信仰すれば、勝負運が改善されるだの。といった内容が、白蓮に対し「信徒になりたい」と、そう告げた者の本懐だった。

 厳密に言うと少し違うが、だからといって、目的は何であれ信仰したいと、信徒になりたいと言ってくれた彼らを切り捨てるのも、白蓮は強く躊躇った。

 それに、毘沙門天を信仰している白蓮にも、彼らとは違う、また別の問題があった。

 それは神聖。つまるところ、毘沙門天が持つ神の気配によって、寺に妖怪が近寄りがたいと、そういった現状があった。

 若返りを維持する為にも、そして自分の中に新しく芽生えた理想――『妖怪も人間も平等に救う』という、目的の為に、妖怪が近寄れない現状は、白蓮にとっても都合が悪い。

 何より、毘沙門天は大陸全土に寺を持ち、本人が多忙であるため、白蓮のいる場所には滅多に顔を出せない。

 これでは信徒たちの信仰にも、いつかは綻びが生じてしまう。

 ――そんな二つの問題を、解決する方法。それは。

 

「…いやしかし」

 

 ――これはないだろう…

 そう言いたげな、目の前の少女に、白蓮はニコニコと、含みを持たせた笑みを一つ。

 

「似合ってますよ、(しょう)

「…………うぐぐ」

 

 獰猛な獣の風貌はなく、そこにあるのは、中性的な美を感じさせる、一人の麗しい少女。

 かつての姿は、以前とは違い、黄金に近くなった黄と、そして光るような黒の混じった髪色が名残りとなり、頭上には蓮を思わせるような装飾品。

 宝塔。そして槍の二つを持った彼女の背を押し、白蓮は歩き出す。

 

「みんな待ってますよ、ほら早く」

「ちょ…まだ心の準備が…!というより、まだ納得が…!」

「ほらほら、早く行きなさいな、代理人さん」

 

 毘沙門天代理・寅丸(とらまる)(しょう)

 白蓮の理想。それを叶える為に選ばれた、妖怪でありながら、神の栄光と進行を宣う、特別な存在。

 小さな一歩。しかしそれは、間違いなく確実なものであり――

 白蓮はこれからの、世界を変えられるという淡い願いに、頬を緩めた。




1部→諏訪子VS神奈子(八咫烏&反獄王)
2部→諏訪子VS依姫(■■■装備Ver)
3部→レミリアVS■■■■(本作トップシークレット)
4部→霊夢VS正邪(東方原作主軸)
5部→さとりVS瑞霊(■■乗っ取り&■■■■■Ver)
 がラスボスの予定です、お楽しみに。

投稿時間は何時がいいか

  • 7:00~9:00
  • 10:00~12:00
  • 13:00~15:00
  • 16:00~18:00
  • 19:00~21:00
  • 22:00~0:00
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。