【本編完結】諏訪子様になった、負け戦を回避したい   作:洩矢廻戦

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 本作は原作:東方Project総合評価第13位なんですが、もうすぐで12位になれそうな今日この頃。
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83話.ハイカラ少女と小さな賢将

 たとえ、かの『竹取の翁』によって栄えた都であろうと、人口はそれほど多くはない。

 というのも、確かに都には、かのかぐや姫を一目見たいと、四六時中…都の門の前に、他の集落からやって来た大勢の男たちがいる。

 しかし、それらはほとんどが日帰りで、わざわざここに永住することを選ぶ者は、割合にして一にも満たないであろう。

 単純明快な話だ。かぐや姫を見ることができない。これだけ。

 まだ、ただの竹取であった頃であったならまだしも、今やかのご老公は、"帝"に並ぶ天下人。

 家の周りを徘徊する防衛。そしてそもそもの話、建築された築地塀が高すぎて、中の庭はおろか、縁側に視線を届けることすら叶わない。

 それに、かといって中にこっそり侵入しようと考えるような、少数の愚か者は、とっくの昔に牢の中で。

 先陣を切った彼らの、同じ轍は踏まないと、冷静さを取り戻した男たちは、落胆と共に、元居た場所に帰るのだ。

 しかしだ、そんな彼らの内数人が、見事に白蓮の元に集い、こうして祈りを捧げているのはどうなのだろう。

 勿論。最初は白蓮も困惑したし、何か裏があるのではないか…とさえ考えた。

 だが冷静に考えれば、この時代はまだ、某諏訪大国がいい例だが、神の持つ権力、威光による圧力は決して侮れない。

 白蓮の信仰先は毘沙門天。今も代理の王として、諏訪大国に君臨している八坂神奈子。そして謎に包まれた真の王、土着神・洩矢諏訪子には劣るものの、その知名度は上から数えた方が早い。

 そんな神を祀る寺。そして代理がいるというのに、どう危害を加えようというのか。

 それに、信徒となった男たちは、何だかんだで教えもちゃんと聞くし、迷惑行為をしたという話もない。

 最初こそ心配したが、それが後に杞憂だと分かると、白蓮と星は互いに安堵の息を漏らしたのだった。

 ……というのも、かぐや姫が駄目だったからこっちを。という、男たちの、往生際の悪い欲望によるものではあるのだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 元虎の妖獣、寅丸星。

 あの日、妖怪としての自尊心(プライド)から、強がって白蓮を押し倒したまではいいものの、結局は怪我の深さと激痛で意識を失い、目が覚めたら寺の中。

 そこからはもう、あっという間に話が進んだ。

 自分は人ではなく『魔法使い』であると、この寺では毘沙門天を祀っており、そして他ならぬ自分も、それを信仰していると。

 神の信仰。それは妖怪としてそれなりの、長い年月を生きてきた星にとっては、知識としては知っている…その程度の話だった。

 何やら難しい話を続ける白蓮に、うんうんと、反射に近い挙動で頷き続け、痛みで朦朧とする頭で、何とか断片的な話だけでも、頭に入れて時間が過ぎ。

 

「それじゃあ、これから毘沙門天様に弟子入りしましょう」

【あぁ。……ん?】

 

 ――気がついたら、いつの間にか自分は毘沙門天の弟子となっていた。

 困惑する星を他所に、白蓮と毘沙門天が何やら勝手に話を進めており、もう流れは止められない。

 あっという間に、星は人間の姿と神聖を手にし、あの毘沙門天の代理となって、今もこうして、人間たちに崇められている。

 正直、悪い気はしない。

 その日その日を必死に生きる、獣の生き方に嫌気が差していたのも、また事実。

 星は運良く、それなりに強い妖怪であり、同時に長く生きた妖怪であったが故に、白蓮と出会うあの時まで、なんとか人間に狩られることがなかった。

 だが、あの日は運が悪かったのだ。

 山にやってきた、ある()()()()()()に致命傷を与えられ、冷静な判断なんて出来ない状態だった。

 そうでなければ、霊力の反応の見えない、いかにも罠ですと言っているような、あの時の白蓮の誘いに、寅丸がまんまと乗ることはなかったであろう。

 毘沙門天の加護。そして何より、初めて経験した人間の生活。

 初めて、動物の肉ではなく、きちんと調理された、人間の『料理』を食べた。

 初めて、人間に恐れられる以外の感情を、敬う心を向けられた。

 ――初めて、人間を救った。

 

「星」

 

 ――あの妖獣だった頃には、もう戻ろうと思っても戻れないだろう。

 こうして近くで、白蓮という人間の温かさを知り、そして言葉を交わす度に、自分の中に今まであった、恨みや怒りが緩和していく。

 もう今や、あの頃のように人を憎み、怒りに身を任せた生き方は、恨みに滅ぶ結末は訪れない。

 人並みの言葉で表すことしか出来ない、己の語彙力が妬ましい。

 

「星」

「はい」

 

 振り返れば、『にぱー』という言葉が宙に漂うのを錯覚する程、気の抜けるような笑顔を放つ、白蓮の姿。

 

「今日もお疲れ様」

「いえいえ、これくらいは」

 

 白蓮の労いの言葉に、星は照れくさそうに、緩む頬を指で誤魔化すように伸ばしながら、言う。

 その立ち振る舞いはら元が妖怪とは思えない程で、今の彼女は知性、そして神として相応しい天与の才能に溢れている。

 代理とはいえ、毘沙門天の化身という、分かりやすい畏怖の先。

 毘沙門天は人気のある信仰神であり、それの分身とも言える存在と気軽に謁見することが出来る。そんな餌に、人間が食いつかない筈もなかった。

 最初こそ、ぎこちない表情と、強ばった声が目立っていたものの、それも数回の、信徒の参拝の相手をした時にはもう、慣れてしまったらしい。

 何より、白蓮にとって嬉しかったのは、まだ本当に少数ではあるものの、この寺に、妖怪が近づくようになったこと。

 人も妖怪も、平等に救われる権利がある。

 人間と妖怪が、共に争いを忘れて居られるような場所。

 夢物語でしかない、ただの理想論を叶える第一歩。それこそが、白蓮が星を毘沙門天の代理に選んだ理由。

 毘沙門天の放つ神の気配で、寺の周囲はおろか、近くにある山にすら、よっぽどのことがないと妖怪が現れない。

 仮に現れるとしても、それは最初からまともな思考もできない、理性なき敵意の塊。

 極論。要は白蓮の理想に必要な優しい妖怪は、怖がって寺に来てくれないのにも関わらず、人を傷つける悪い妖怪だけは、変わらず近くにやって来る…ということだ。

 これを解決する為、白蓮は星を毘沙門天の代理にし…結果として、それは見事に成功したと言えるだろう。

 まだ信徒の数もそれなりで、優しい妖怪と出会えた数は、それよりもっと少ない。

 それでも、着実に成果は出ているのだ。

 そのことが嬉しくて、白蓮は毎日が幸せのように思えた。

 そんな時である。

 

「ごめんください」

 

 白蓮はその声を聞いて、一瞬「聞き間違いかな?」と思った。

 もしかしたら幻聴だったのかもしれない。幸せの中、ついうっかり変な声が聞こえたような…そんな気がしたような……うん、そんな気がしたに決まってる。そうだろう。

 白蓮だけでなく、星もまた、「何か聞こえましたか?」と、ぽかんとした表情で、首を傾げて白蓮に問うた。

 気のせいだ…と言うよりも前に、再び声。

 

「ごめんくださーいっ!!」

 

 先程よりも、更に大きく響く声。

 ………聞き間違いではなく、どうやら本当に誰か、見知らぬ客が訪れたようだった。

 ただ、白蓮と星が、両者共その声に対し、疑問を浮かべている理由は、やはりその声の主が発する「ごめんください」という、元気いっぱいな挨拶である。

 そもそも、寺を訪れるような人間…偶に妖怪もそうだが、その来訪理由は、主に三つに分けられる。

 

 一つは物見遊山のついで、噂を聞き、毘沙門天を参拝してみようかと、足を運んだ人間。

 一つは妖怪、かつて過去に白蓮が助け、悩みを聞いた心優しき妖怪が、白蓮に会うためにこっそりと、人目を忍んでやって来る時。

 そして、最後の一つが依頼。妖怪退治、そしてそれ以外の、害獣駆除や悩み相談を含めた、白蓮個人に用がある者の来訪。

 

 しかし、今聞こえてきた活気のある声は、それらとは合致しない。

 悩みを持っているような声色ではないし、かといって依頼であるなら、ここまで調子の良い声で、わざわざ門の前で叫ぶ意味があるだろうか?

 悩んでいても仕方がない。と、白蓮は疑問半分に、門の前に立っている、その来訪者に視線を向けて。

 

「今行きます」

 

 と、声をかけてから、すぐに歩き出した。

 簡素な作りの門に手をかけ、さほど力を入れる必要もなく、ギィィ…と、僅かに軋む鉄の音が響き渡る。

 白蓮の視線の先、そこにいたのは、一人の少女。

 

「あ、どうも〜」

 

 目の前にいたのは、白蓮とそう変わらない歳の少女だった。

 一見すると、尼を思わせるような、紺に近い色の頭巾を被っているが、その中に隠れた、彼女の髪色が、白蓮の目に映る。

 薄氷を思わせるような、控えめに、鮮やかに輝く青髪。

 この時代では――否。少なくとも、一般人ではありえない気配。

 陰陽師のような、高い実力を兼ね備えた者。もしくは白蓮と同じ、見た目は人間でも――

 

「単刀直入に聞きたいんだけど。――ここって妖怪匿ってたりする?」

 

 ――白蓮の警戒度が、最高潮に達した。

 

「…何のことでしょう」

「あ、警戒させちゃった。ごめんごめん、確かにこの聞き方じゃ敵みたいだよね」

 

 警戒心を向けられているのにも関わらず、少女は動揺することもなく、ただ冷静に両手を上に、戦う意はないと、そう表していて。

 

「私もねー、ここに居させて欲しいなぁ…って思ったり」

「……はぁ」

 

 白蓮は、思わず困惑の息を吐いた。

 

「あ、自己紹介がまだだった。私は雲居(くもい)一輪(いちりん)。ここでお世話になりたいと思っておりまする故…」

「……それは…信徒になりたいと?」

「まぁそれもあるけど…一番はそうだね、見てもらった方が早いかな」

「…?」

「見てて」

 

 未だ困惑したままの白蓮の前で、彼女は何やら小さな声で、誰かに話しかけるような挙動を見せた。

 白蓮がそれに疑問を投げかけるよりも前に、一輪の肩から首にかけて、先程まで透明だった"それ"が、その真の姿を露わにする。

 どんより。そんな表現が相応しい、常識を超えた質量を秘めた、巨大な雲。

 決して少なくない妖力量と、空気が震えるような重圧。

 思わず息を吞み。

 

「これは…もしや入道…?」

「"見越し入道"…聞いたことある?」

「えぇ、知識としては」

 

 見越し入道。

 夜道や坂道を歩いている人間の前に、僧の姿として現れ、突如として、その肉体を大きく、『見越し』の名に恥じぬ程の規模に巨大な姿に変化する妖怪の名だ。

 そのまま見上げていると、場合によってはその者は、喉を締め上げられて死ぬらしい…が、「見越した」と、一言言えば、見越し入道は簡単に消える。

 しかし、その情報が広まったのはそう昔の話ではなく、本当にその言葉が有効なのか、それで自分の命は助かるのか…と、疑問は尽きなかったと聞いている。

 しかし今、目の前にいるのは間違いなく、あの見越し入道であり。

 何より、そんな彼と『共生』している一輪から感じる、力の波長は僅かに違和感があり――

 そして、白蓮のその直感は正しいと、一輪は語る。

 

「昔、人間を襲ってた"雲山"を私が退治してね。その時、私と一緒にいたいって言うから"縛り"を結んだの」

 

 "入道使い"。

 あまりにも珍しい、この世界でたった一人、一種族。つまり唯一無二の存在が、現在の雲居一輪なのだという。

 四六時中、入道と共に生き続け、彼の妖力を浴び続けてきた一輪は、いつの間にか己の肉体が、純粋な人間ではない、不老長寿のものになっていたらしい。

 以前までは、妖怪退治を主な仕事として生計を立てていたが、雲山という相棒、己の半身を手にしたことで、妖怪という種族に対し、以前までのとは違う、別の感情を持つようになったという。

 迫害されるのを防ぐ為、正体を隠しながら放浪を続けていく内に、雲山伝いに、ある噂を耳にした。

 ――それが、妖怪を受け入れる寺。

 

「そういうことなら……」

 

 断る理由なんてない。白蓮はそう断言した。

 

「歓迎しますよ、あなた達二人を」

「やったっ!」

 

 花が咲くような笑顔である。

 そんな一輪の頭を、隣に浮かんでいる雲山が優しく撫でており、一見すると、まるで親子のようにも見える。

 

「いやぁ最近。また陰陽師の勢力が強くなってきちゃってね…同業のにバレると色々面倒で」

「あぁ……」

 

 苦笑する一輪だったが、その話題は決して、白蓮にとっても無関係という訳ではない。

 陰陽師。以前からいた『呪術師』と()()した、今の力ある妖怪退治の仕事人である。

 数十年前、神童の名と共に爆誕した期待の新人、停滞していた陰陽道、そして呪術に革新をもたらした異端児。

 名を、"物部(もののべの)崔爾(さいじ)"。噂によると、かの物部一族に生き残りがいたとか、今この世界で唯一、あの一族の血を受け継いだ者…だとか。もしくは、たまたま名前が同じだけの、無関係な一族だとか。

 彼に関する噂はいくつかあれど、共通してそこにあるのは――圧倒的な実力。

 時に風神と呼ばれる程の、風に位置する陰陽術を自在に操るその姿は、老いてなお全盛。

 彼が作り出した、育成プログラムとも呼ぶべき、とことん簡略化され、そして効率的に広まった陰陽師の知恵。

 今までの陰陽師は、呪術師のように誰でもなれる者ではなかった。

 呪術とは入念な準備と努力、そして呪いの対価である希少品を集める…あまりにも手間がかかるが故に、その道を選ぶ者は非常に少ない。

 しかし、崔爾はそんな停滞していた技術界隈に、誰でも力を…そう、人間であれば誰でも使える妖怪退治の専用道具である、陰陽玉や針の増産、量産に手を出した。

 そんな彼の愛弟子という"計星(けいせい)"や、"(かね)千鶴(ちづる)"という、今世を代表する若手の新人の存在もあって、今の都を含めて、陰陽師の存在はとても大きなものとなった。

 しかし、それによる弊害もまた。

 

「最近私のとこにも配られてきたこれ、前ならともかく、"入道使い"になってからは使えなくて…」

 

 一輪が見せた物は、正にその、陰陽玉と呼ばれる物だった。

 陰陽師、または格式の高い神を祀る神社と、そこに勤める巫女にしか与えられなかった筈の、希少価値の高い道具。

 それが今では、少し高めの外食に行く感覚で、陰陽師に頼めば即座に発注してくれる、便利な物。

 最初は勿論、以前から陰陽玉の制作を承っていた神社の一部から、かなりの反抗があったらしいと聞く。

 しかし現に、こうして妖怪対策の道具が一般人にも広まっている事により、妖怪の被害は以前より激減し、そして誰もが、一度は憧れた『陰陽師の力』を使えるという蜜。

 崔爾の栄光、名誉は留まることを知らなかった。

 

「それに噂だと、あのかぐや姫の護衛にも選ばれたらしいし」

「崔爾が…?しかしあの人は確か…」

「数十年。老いても変わらず女好きってね、でも仕事ができるのは確かだからさ」

 

 唯一、有能な彼の欠点でもある、女好きという特徴。

 一輪が先ほどから、彼について語っている時たまに、絶妙な表情を見せていたのは、きっとそれと関係があるからなのだろう。

 と、そこまで考えてから。

 

「しかも最近じゃ、あの"東風谷"って陰陽師も頭角を現してきてね、妖怪退治から足を洗うのも、今がいい機会なんじゃないかと思ってさ」

「…東風谷?」

 

 聞いたことのない名前だ。

 しかし、今の話の流れからして、彼(もしくは彼女)も、同じ陰陽師の一人なのだろうか。

 そう考える白蓮に、一輪は続けて。

 

「最近有名になった若い陰陽師でね、なんとびっくり、妖怪を取り込んで自分の式神みたいに扱っちゃうんだって」

「取り込む?」

「式神みたいに作り上げる訳でもなく、洗脳に近いものかな。…いやぁ、前に妖怪退治をやってた時に、一度だけ仕事を一緒にしたことがあったんだけど、あれは凄かったなぁ」

 

 その言葉は、白蓮からしてみれば、聞き逃せない内容であった。

 一輪の知る限り。その東風谷という、陰陽師にしては珍しい、若い女性でありながら、その実力は都随一。

 今の老いた崔爾とは違う、全盛期の崔爾と比べ、どちらの方が強いのか。という話題は、都でも時々、一定の間隔で盛り上がる程の、今話題の二人。

 白蓮はまだ、その両者と会ったことはないが、その警戒心は今、数段階上のものに変貌した。

 ――勿論。東風谷という陰陽師にだ。

 妖怪を取り込む、そして(しもべ)として使う。

 それに、陰陽師という立場から見ても、白蓮と対立する可能性は、決して零ではない。

 容姿。それに彼女の人となりの一つも知らない内に、警戒心を持つのもどうかと思うが、しかし油断はできない。

 前ならまだしも、今の白蓮は魔法使いであり、霊力を扱えぬ人外の一種。

 まだ、最近増えた陰陽師のほとんどが、相手の霊力を感知できる程の、道具に頼らない素の実力を持っている訳ではない。だからこそ、白蓮は今もこうして、都に住み続けられるのだが…

 

(それもいつまで持つか…)

 

 時期を見て、また別の場所に移ることも考えなければいけないだろう。

 弟の残した法力、それによって作り上げた寺がある限り、土地さえ用意すれば、白蓮はいつでもどこでも、自由に旅を再開できる。

 ならば今も、こうしてこの都に残る理由は何か?その中の一つに、一輪が言った、その若い陰陽師が新たに付け加えられた。

 …警戒心は、ある。

 相手は現役の陰陽師。相手が人外であるならば、妖怪だろうとそれ以外だろうと、敵として決して容赦はしないだろう。 

 しかし、同時にどうしても、彼女に聞いてみたいことがあるのも、また事実。

 妖怪を取り込む。それは一体どのような感覚なのか。

 数多の妖怪を相手にし、それでも尚、人と妖怪は分かり合えないと、他の人間と同じことを、あなたは言うのか。

 そして――自分の甘い理想論を、どのように解釈するのか。

 

「あの~…」

 

 と、再び一輪の声。

 思考の海に浸かるのを中断し、白蓮はこほんと、申し訳なさを表しながら、話を戻す。

 

「あぁすみません。それで…」

「その、後ろにいる鼠?妖怪なんだけど…」

「…はい?」

 

 鼠?鼠なんてうちにいただろうか…

 そう思い、一輪が指さす先、己の背後に、白蓮は視線を向けて――

 

「…鼠を甘く見ると死ぬよ」

 

 振り返った先。

 くるりと丸い、灰色の獣耳が見えた。

 

「…えぇと」

「何だい、君が私をここに呼んだようなものじゃないか」

「…もしかして毘沙門天様の」

「そう、あの方に命じられてね」

 

 鼠、そして、彼女が手に持っている宝塔。

 それは間違いなく、星が普段から手に持っていた筈の、毘沙門天代理を象徴する唯一無二の一品。

 何故…そう思うよりも先に、寺の奥から、「あれ!?宝塔がない!!」と、若干涙声の混じった、悲痛な叫びが聞こえてきた。

 困惑。

 

「ふむ、ちゃんと綺麗に扱ってるようで感心したよ、信仰もそれなりか」

「ない!ここにも!あぁこっちにもない!?」

「…妖獣が代理になると聞いて驚いたが…いやしかし、これは下手をすれば、人間がやるよりも…」

「あっち!?ならこっち!?あぁない!どこにもない!」

「…………もう少し静かに探せないのかな?」

「ああっ!そこにあった!!」

 

 びしゃんっ!と凄まじい勢いで襖が開かれ、涙目の星がこちらに向かって、凄まじい速度で駆け出すのが見えた。

 流石、元妖獣とも呼ぶべき身体能力であるが、今それは関係ない。

 苦笑。

 

「改めて、私の名はナズーリン。異国の名だから、ここの文字では当てられないよ」

「宝塔ーッ!」

「…まぁ、ご察しの通り。毘沙門天様からの使いでね、彼女の動向を監視することになった」

 

 半ば取り上げるような勢いで、ナズーリンの手から宝塔を取り返した星。その喜びっぷりは、そのまま宝塔に頬擦りを始めてしまいそうな程のものだった。

 そんな星の姿を見て、呆れたような顔をするナズーリン。

 白蓮は問う。

 

「監視って、それ…私たちに言っても良かったのですか?」

「いいや?正直こうして姿を見せるのも予定外さ。本来なら、部下の鼠をここに住まわせるつもりだったからね」

 

 ただ。

 そう、彼女は付け足して。

 

「妖怪と人間。…両方を救いたいっていう君の教えはそれほどでもないけど、毘沙門天様が妖怪にも信仰されるってのは悪い気がしない。なら、最初にあえて正体と目的を明かしてから、負の面を受け入れた方がいい」

「…」

「そうして、その後の成果について話し合い、互いに良い関係を築く。……その方が得じゃないか?」

 

 要は打算ありき。なのだと、ナズーリンは語る。

 そしてその言葉は、白蓮からしても断る理由はどこにもなく。

 

「…えぇ、そういうことでしたら」

 

 ――これから更に賑やかになりそうだ。

 "入道使い"の一輪。そしてナズーリン。

 新たに増えた住居者と、そしてこれから変わるであろう、都の陰陽師の勢力図。

 僅かな不安。だがそれを大幅に上回る程の、淡い期待が、白蓮の心を満たすのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――ある船幽霊を退治して欲しい。

 その依頼が来たのは、それから三日後の話。




 天部の仏神「毘沙門天」の代理が現れる!?
 賑やかになった妖怪寺は代理も信徒も住居者も人外ばかり!
 立ちはだかるのは恐怖のためなら数多の船を沈めるのも厭わない船幽霊。
 だが聖人白蓮が怖気付く道理はない!
 全員処刑!一人残らずあの世行き!(違う)

 あと東方智霊奇伝本編ははよ宮出口瑞霊と博麗家の関係を明らかにしてもろて。

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