【本編完結】諏訪子様になった、負け戦を回避したい   作:洩矢廻戦

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 この調子だと2部は40~50話で完結ですかね。
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87話.逆罰

「虎の妖怪ですか?」

 

 自分以外に、それを見たことはあるか。

 そう白蓮に問われた星は、首を左右に振って。

 

「…いいえ、ありえません。そもそもの話、虎の妖獣という種類自体、数が少なくて。…だから、かつての仲間の特徴は全員把握してますから」

「…そう」

「もしその妖怪が、かつての私の仲間だったら…とは考えましたけど……でもやっぱり、覚えがないですね…」

 

 もし、人間に滅ぼされた仲間の一人だったなら。

 その甘い希望は、一瞬の期待を持つことすら許さず、他ならぬ星自身の口から、それを否定された。

 不当な扱いを受けた彼女らの、一度ついた心の傷を、再び掘り返してしまうような問い。

 星は、白蓮に向けて小さく笑って。

 

「聖。気にしないでください。私はもう、過去の恨みを受け入れました」

 

 ぎこちなく眉を下げて。

 

「もう充分悲しみました。もう充分人を恨んで、それを間違いだと理解できました。全部、あなたがいたからなんですよ」

「……」

「私は、あなたに会えて本当に良かったと思ってます。ナズーリンだって、きっとそうです」

 

 だから。

 そう付け加えて。

 

「聖のおかげで、その妖怪も助かった。それだけでいいんです」

「…うん。ありがとう、星」

「~っ!…こほんっ!」

 

 照れ隠しに、咳払いを一つ。

 

「そ、そのっ…その妖怪なんですけど、本当に虎だったんですよね?」

「…?えぇ」

「黄色の体毛と、黒い縞模様の?」

「そうだけど…」

「……う~ん」

 

 再び、沈黙。

 

「う~~~ん……気のせいですかね…?私のいた群れとは違うってだけかもしれないし…それこそ、もっと別の場所から、例えば異国から流れてきた…」

 

 歯切れが悪いのは、星にとっては随分と久しい、同族の疑いがある妖怪というだけではない。

 白蓮は今や元人間。しかし、だからと言って、他の者との繋がりを断てる程、人間という生き物は決して強くはない。

 妖怪と人間。出自の違いによる、種族特有の力とも呼ぶべきか、妖怪は同族…特に動植物関連のものに関しては、より強く"共振"が起こりやすい。

 もしも、その白蓮が助けたという妖怪が、かつての星と同じ虎の妖獣だとしたら――

 

「う~~~ん……」

 

 ――今の星は、既に毘沙門天そのものとも言える存在であり、かつて血に飢えていた頃の本能、そしてその象徴である妖力は影も形もない。

 強いて言えば魂。自身の存在の確定(アイデンティティ)の為に、僅かに微量ながら、自己補完の範疇で妖力を回しているという点はあるが、そこは置いておくとして。

 そう、結論としては、どれだけ人に、神に近い存在であろうとも、その本質は妖怪である為、過去のではなく、今の星にも例外なく"共振"は起こる。

 同族の血。傷つく気配に対し、何も感じないという事態。

 だが、あの白蓮が妖怪を、それこそあまりにも分かりやすい、獣型の妖怪を見間違う?

 それこそ、自分という存在を助けた白蓮は、既に『虎』という動物も、それから生まれた妖怪の特徴も知っている。

 …考えすぎだろうか?星は形容しがたい疑惑を覚えて。

 

「気にしすぎ…ですよね」

「?」

「いえ、何でもありません」

 

 そう、笑って話を終わらせる。

 白蓮もまた、星の不安が杞憂に終わったことを察して、同じように、笑った。

 

 ――もし、運命というものが少し形を変えていたら。

 

 こうして、互いに面と向かって話し合うことすらもできずに、別の未来が訪れていたのかもしれない。そう白蓮は思う。

 それこそ。あの日に深い傷を負っていた星と偶然出会い、そして自身の教え、願いが通じたことで、素直に治療に応じてくれたから、今の寺が、この場所がある。

 かつて血肉を口にしていたとは思えないくらい、思慮深い彼女の姿に、白蓮はただ、純粋に誇らしいと思った。

 互いに、はにかんだ笑いを向けあっていると、もう一つの声。

 

「聖~?」

 

 ふわりと、宙に浮いていた状態から、両足を地に付けた体勢に。

 その後、とてててっという音が鳴りそうな、軽い足取りで走り、こちらに向かって。

 

「ムラサ」

「おかえりなさ~い」

 

 まるで、主人の帰りを待っていた犬みたいだと、星は内心でそう思った。

 白蓮に関しては、ただ純粋無垢に「慕ってくれてるなぁ」程度の喜びなのだろう。だが星は知っている。この船幽霊が、白蓮に対してかなり重い感情を持っていることを。

 元地縛霊。そして現・聖輦船の船長、村紗水蜜。

 人外同士、同じ人間を慕う仲間同士。

 星にとっては、白蓮は命の恩人であると同時に、彼女が持つ、眩しいと思うくらいに輝く救いの理想、優しい願いと性格に絆された。

 しかし彼女にとって、同じ『命の恩人』であっても、それは地縛霊からの解放も含めた、文字通りの救済を意味する。

 新たな命。そして解放と、打算のない善意による白蓮の言葉は、彼女に心酔とも言える程の、熱狂的な好意に変換されている。

 地縛霊をやめ、人を襲うことをやめて、今まで犠牲になった人間の分、その罪を清算する為に、彼女は妖怪の本能を抑えて、今も生きている。

 だが知っている。星はその誠意に似た形の誓いに籠められた真意を、知っている。

 それは逆に言えば、白蓮の意思に従い、妖怪としての自分を殺し続けているというだけに過ぎず。

 もし、白蓮が何かの危機に陥った場合は、きっと彼女は――

 

「ムラサは本当に変わりましたねぇ…」

 

 本当に。

 そう付け足したのは内心で、込めた真意は悟られないように。

 

「あの頃は…ってやめてよー…あの時の自分は色々と駄目だった時期なんだから」

「はいはい」

「フフフ…」

「もう、二人して意地悪する」

 

 地縛霊ムラサ。

 あの時、星は寺に待機し、信徒たちの相手を続けていた為、その依頼を受けて旅立ったのは、一輪と雲山、そして白蓮の二人だ(雲山は数から除外)。

 朝早くに荷物を纏めて、帰ってきたのは夕日が沈みだす頃。

 その時、寺の掃除をしていた星の前に現れたのは、まるで米を担ぐかのような体勢で、頭に巨大なたんこぶを作った船幽霊を抱えた白蓮と、気まずそうにしている一輪と雲山。

 又聞きに過ぎなかったが、それでも唯一、今回の依頼は人が何人も死亡し、そして充分過ぎる程に恐れを溜めた、船幽霊が相手だとは聞いていた。

 しかしこの、人懐っこい雰囲気を纏う少女が、まさか。

 呆気に取られるのも束の間、そのまま白蓮は、彼女を抱えたまま寺に上がり、自室に戻ろうとしていた為、星も必死になって止めた。

 人が死に、その原因である彼女を、何故こうも危機感を持たずに扱えるのか。

 星の持っていた事前情報のみだと、そう思うのも無理はなかったし、いくら白蓮が強くとも、この世界に絶対が存在しないことも、嫌という程理解している。

 故に、星は白蓮から、船幽霊退治の依頼…その当時の話を詳しく聞いた。

 他ならぬ、目を覚まして状況を把握できていない、ムラサも交えて。

 

 すると、予想通りとも言うべきか。

 ――ムラサ、彼女もまた、"共振"による被害者の一人であった。

 

 妖怪。それは自分自身も例外ではなく、その行動に合理性を求めすぎてはいけない。

 それでも、妙な引っ掛かりを覚えたのも確かで、それは白蓮も同じだった。

 彼女は確かに、恨みによってこの世にしがみつく地縛霊。だが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 最初の被害者は水無月(6月)

 そう、水無月(6月)

 

 

 

 

 それは、今では眉唾の伝承。

 ある男が、偽りの神である■■■を滅ぼした、それと同じ月。

 

 

 

 

 違和感。

 残穢もなく、元の理性を取り戻した地縛霊ムラサ…否、水蜜は今や、大切な家族の一員。

 毘沙門天の加護もあって、たとえ再び"共振"が発生しようとも、その理性が奪われることはない。

 だから、もう――

 

 

 

 


 

 

 

 

「"共振"っていうのはね、ある種の呪い(まじない)みたいなものなんだよ」

 

 青。その一色のみを塗りたくったような、そんな昼のことだった。

 屋敷の前には、相変わらず"かぐや姫"目当てにやって来た男たちが屯していて、しかし強硬する度胸も、門番に直接、直談判する勇気もない彼らは、右へ左へぐるぐると旋回していて。

 そんな様子を見て、「まるで虫みたいだ」と、心無い一言をぶっちゃけた彼女。

 東風谷。そう名乗る陰陽師の横顔を、輝夜はじっと見つめた。

 

呪い(まじない)?」

「そう、とびっきりの呪い(まじない)さ」

 

 彼女は輝夜の言葉に、空へ視線を向けたまま。

 

「"共振"といっても色々種類があってね。例えば妖怪間での危機感の共有…分かりやすく言えば、遠くで自分と同じ種族の妖怪が、誰かに傷つけられた時に、何か嫌な予感がする…みたいなね」

「それって本当にあるの?」

「あるよ、()()()()理解できる」

 

 そう言って、彼女が指を振るうと共に、大量の穢れが一点に集中する。

 東風谷の人差し指、そこに凝縮された、漆黒の球体をよく見れば、何十から何千もの、小さな触手の塊が、まるで海藻のように蠢いている。

 本能的な嫌悪すら覚える、彼女が取り込み、支配した妖怪の姿。

 しかし輝夜は、そんな彼女が見せる妖怪。――穢れの塊にすら、喜々とした視線を向けて。

 

「人は人と混じり、そして子を成す都合上、他人との物理的な繋がりは非常に薄い。…その点、妖怪は単純明快に、『何かを恐れる』という共通認識から生まれる。だから実質的には、天狗も鬼も、全ての妖怪は兄弟みたいなものなんだ」

 

 禁忌を犯し、蓬莱の薬で肉体を変化させたからこそ、理解できる。

 穢れの本質。それはこの世界の神、それすらも司る…まさに万象(システム)そのものが生み出した法則。

 それを恐れて、月に逃げた先人たちの事を思うと、輝夜はおかしくて仕方がない。そう思えるのだ。

 何せ、こんなにも面白い。

 人間の癖に、老いる者の癖に、人間を辞めた者がうじゃうじゃと、この地上には存在する。

 恐れ、忌み、そして嫌って逃げて、この世界の法則から目を逸らし続けている、彼ら月の人間が、どうにも滑稽に思えたのだ。

 ――混沌の中にこそ、彼らが真に求める進化は存在するというのに。

 

「そういう、種族間で共通する第六感も含めてだけど。それが"共振"…そして」

「…そして?」

「最後。(のろ)いの"共振"だ」

 

 呪い。

 東風谷は続けて。

 

「気配が大きすぎるもの、息を潜めているもの、既に何かに取り込まれているもの」

 

 妖怪は、その出自から種族関係なく、魂が繋がっているという。

 ならば。同じく人の感情から生まれた、神と呼ばれる存在も、また同じように"共振"の概念があるのか?

 その疑問に答えるとするなら、否。 

 確かに両種族、神と妖怪は共通して、人の思いから生まれた存在であり――

 

「理不尽だけどね。この世界は善意よりも、悪意の力の方が強い。だからこそ、"共振"で発生するほとんどの被害が、人間の犠牲が発生する事態になる」

 

 その最たる例は、大百足・堕涅。

 堕涅は死後、己の転生回数を縛り、そしてその分の力を、後世に誕生する己の分身――姫虫百々世に託した。

 天狗・飯綱丸龍との交流によって、彼女は己の自我を手にし、そして憎悪に負けない、強い自制心を手にしたことで、堕涅の乗っ取りを防ぐに至った。

 だが、それよりも前。

 龍との交流が始まるよりも前。百々世は一度も会ったことがない筈の、初対面の相手である諏訪子に対し、凄まじい憎悪を向けていた。

 あれこそが、堕涅の残した恨み。――それに"共振"した百々世の実態だったのだ。

 

「それを防ぐ方法はたったの二つ。一つは元凶のそれ…"共振"の元となった負の感情の塊…妖怪でも、堕ちた神でもいい、それを消す。そして最後は――」

「それを跳ね除ける、強い自制心」

「そう、正解」

 

 お見事。そう言って笑う彼女の目には、謙遜の色はどこにもなく。

 純粋に、"かぐや姫"としてではない、"蓬莱山輝夜"として、そう褒めた。

 ――そういえば、月にいた頃も、こうしてくれる人が一人だけいたっけ。

 懐かしい、遥か昔の記憶の欠片が、一瞬脳内を駆け巡る。

 

「でも、なんで今その話をしたの?確かに陰陽師の仕事を知りたい。って言ったのは私だけど」

「う~ん。そうだなぁ…」

 

 輝夜と東風谷の関係は、実際はそれほど長いものではない。

 言葉にして表すならば一ヶ月。しかし実際には、一日のうち約半分もない、それこそ昼から夕方の少し前、ほんの数刻しか会うことができない、雇い雇われの関係であった。

 その理由は単純明快。東風谷は陰陽師としては、口から手が出る程に周りが欲しがる程の、凄まじい才能を持っていた。

 彼女を代表する異能。それは妖怪を取り込み、そして支配するという単純かつ、革命を起こす陰陽師の才能。

 個の優れた実力と反比例して、無駄に数だけは増えていく最近の陰陽師とは違って、東風谷の持つ実力は疑いようのない価値を持つ。

 故に、輝夜がこうして屋敷に彼女を呼べる時間にも限度があり、こうしている間にも、彼女に届く依頼の数は、右肩上がりに増えていく。

 

「ぶっちゃけさ、私はただお爺ちゃんより強いってだけで、陰陽師としてはそれ程でもないのよ」

「そういうものかしら」

「そういうもん」

 

 だというのに、彼女は自身の力を驕ることはなかった。

 それどころか、むしろ今の自分の強さに、()()としているようにも見えて――

 

「妖怪退治だって、ぶっちゃけ生計を立てる為にやってるようなもんだからね。今の時代、これが一番儲かるからさ」

「…意外だったわ。あんな自己犠牲の塊みたいな力を持って、そこまで割り切れるのね」

「ん?あぁ取り込みのこと?そんな言い方されるのは初めてだな…」

 

 唯一、他の髪とは違い、金色に輝く前髪の束を一本、指で弄りながら。

 

「味が薄ければ足す、濃ければ嵩ます。私にとって妖怪退治って、水や調味料みたいなものでさ。義務感だとか弱者救済だとか、そういう特別な感情は乗っかってないよ」

「…なるほど、道理で。納得したわ。あなたが…」

「あなたが?」

「友達少ないってこと」

 

 輝夜の鋭い言葉に、東風谷は愉快そうに笑って。

 

「君がなってくれてもいいんだよ。輝夜」

「…悪くない提案ね。じゃあこっちもそれなりに条件を示そうかしら」

「ほう?」

「①私を退屈させないこと。②私と対等であること…」

「ははっ、いいね。それ」

 

 互いに、肩肘を張る必要はなく。

 月人。更には蓬莱人である輝夜と、どれだけ特殊な異能を持っていたとしても、所詮は人間に過ぎない東風谷。

 間にある隔たり。そこには決して埋めることのできない、諸行無常の時間の差が存在する。

 それを踏まえて、輝夜は笑う。

 

「東風谷」

「なに?」

「あと数日で、月からの使者が来るのは知ってるでしょう?だから、今のうちに言っておこうと思ってね」

 

 嗚呼、本当に楽しみだ。

 輝夜の目的。それに必要な鍵こそが、彼女。

 ただで帰ってなるものか。

 思い通り、お前たちの言いなりになってたまるものか。

 たった一つ、子供のような我儘で、そして反骨精神のみで、輝夜はこの計画を、今日この日。確固とした目的として選んだ。

 

「――次。月の使者が来たら、全力で嫌がらせをしてやりなさい」

「…倒すんじゃなく?」

「そうそう、嫌がらせ。問答無用でよ?あいつらが二度とこっちに来たくない!って思うくらい…とびっきりのやつを!」

 

 ――この時、輝夜は知る由もなかった。

 同刻、月の都では現在『赫映姫の送迎役』として、あの八意思兼が立候補し、参加が決定したことを。

 近い未来、()()()()()()、ただの笑い話で済むはずであった両者の対立が起こることを。

 そして。

 

「――了解、その時を楽しみにしててよ」

 

 東風谷(諏訪子)も。

 輝夜(赫映)も。

 白蓮も。

 彼女らの選択が。

 この善意が、あの地獄を生み出したのだと――

 

 

 

 


 

 

 

 

 かぐや姫の住む屋敷が、都の中心なのは間違いない。

 ここはそんな、かぐや姫の住む屋敷から少し離れた場所にある、小さな集落。そこには都の中心とは違った、静かで人情に溢れた、独立した村のような雰囲気が漂っている。

 しかし、いくら小さな集落とはいえども、都の一部であることに間違いはなく。

 都の中央。それこそ竹取の翁本人を目当てに行き交う商人。そしてかぐや姫目当ての男連中が、稀に一休みのため立ち寄る…そうして、宿駅に近い形で発展した場所であり。

 そんな場所に、白蓮は足を運んでいた。

 理由はやはり、寺に舞い込んできた依頼だが、それとは別に、白蓮自身がこの場所の、そしてこの依頼を優先した理由がある。

 その理由である、齢五程度の小さな少女は、白蓮の背中にぴったりと引っ付き。

 小さな手で、白蓮の肩をぱんぱんと、可愛らしい力で叩き。

 

「おもくない?」

「重くないですよ、大丈夫大丈夫」

「んー…」

「それじゃ、早く帰りましょうか」

 

 少女がしがみつく己の背中は、ちゃんと安心を与えられているだろうか。

 白蓮にとってはもう、夜の山道は慣れたもので、今更どうということはない、本当にどうでもいい、ただの景観の一つに過ぎない。

 が、子供にとってはそうもいかないのだ。子供は感情に、本能に素直で、無意識のうちに、大人たちが内側に秘めた思いや、危険というものを察知する。

 大丈夫。大丈夫と、少女を決して不安にしないよう、白蓮は何度も何度も言葉を投げかけて、ゆっくりと山道を下る。

 少女の腿の裏を、優しく支えて歩き出し、数分。

 道中で()()()()()()()()()()()()。白蓮は無事に、依頼通り山で迷っていた少女を、しっかりと保護して帰ってくることに成功したのだ。

 歓声が、白蓮とその背中に引っ付く少女を包み込み、軽いお祭り騒ぎとなった。

 少女の母親。今回白蓮に依頼を持ち込んできた母親は、涙を流しながら「良かった」と、親子の再会を果たしていて。

 肝心の少女本人は、未だに自分が先ほど、どのような状態だったのかを理解していないのか、頭に「?」を浮かべているような、呆けた顔で首を傾げていて。

 

「白蓮様。本当に…本当にありがとうございます…!」

「どういたしまして。無事でよかったですね」

「はい…はいっ…!」

 

 依頼を受け、そして山に突入して、帰ってくるまでを含め、時間にしておよそ2時間。

 白蓮が必死になって、山の中を虱潰しに走り回り、必死に少女を探している間に、それだけの時間が経過していた。

 だというのに、肝心の少女本人は、以前山に遊びに来た時、たまたま見つけたという花畑に入り浸っていて。

 白蓮がやっと少女を見つけた時には、そこで呑気に、彼女はぐーすかと遅い昼寝をしていたのだ。

 思わず、脱力してしまったぐらいだ。

 この肝の据わりっぷり、そして有り余る元気さは、きっと将来、大物になるに違いない。

 そう、白蓮は確信した。

 

「最近は、前よりも妖怪の数が少ないとはいえ…」

 

 と、言ってもだ。

 それでも、夜の山は本当に危険で、今回はただ運が良かっただけ、ということを忘れてはいけない。

 白蓮がそのことについて触れようとすると、少女の母もわかっているのだろう、心底申し訳なさそうに、額に手を当て。

 

「はい、最近は陰陽師の人たちから、妖怪退治の道具を譲っては貰ってるんですが…」

「というと…」

「以前も、あの子が使い終わった後の退治道具を片手にやって来て、何があったの?って聞いたんです。そしたら…」

「…そしたら?」

 

 少女の母は、とても言い難そうな顔をして、続けた。

 

「あの子、これがあるから大丈夫って。そう言うんですよ、それに、私はもう妖怪を倒せるんだって…」

「………」

 

 子供特有の、無邪気さ故の危険というものだろう。

 まだ善悪の物差しが完成しておらず、道を歩く虫や、小さな動物相手にも、時々悍ましい暴力を振るう子供がいる。

 勿論。そういった事態に直面した時は、厳しく叱って強制をするべきだと考えているのだが、今回は少し事情が違う。

 少女を襲った妖怪。少女はただ身を守っただけで、そこに子供特有の、無邪気な暴力的思考はなく。

 しかし、そういう『安全策』を知ってしまったせいで、危機管理ができないのでは?そう懸念しているのだ。

 ――だが、白蓮の脳内には、ただ一つ。

 

(嗚呼……だから――)

 

 その妖怪について、白蓮は何も知らない。

 だがしかし、そのもしもを自分が経験したら…そう考えると、同時に思うのだ。

 無邪気に、ただ身を守る為だけに、力を振るう幼子。

 それに、ただ逃げ惑うしかできない、妖怪という種族の定め。

 ――その屈辱は、一体どれ程のものなのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その妖怪が、どうか復讐の念に染まっていないことを、ただ願う。




 あ~早くぐちゃぐちゃにしたい。

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