【本編完結】諏訪子様になった、負け戦を回避したい   作:洩矢廻戦

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 6〜7年前。まだ中学生だった頃、ジャンプを初めて買いました。
 当時は「ポロの留学記」が一番好きで、それの番外編を求めてジャンプGIGA(2017.vol1)を買い、そして偶然見つけたのが「東京都立呪術高等専門学校」でした。
 その中でも私は「エクソアーツ」「火久摩の手」「ブリキライオン」「ジュゲム!!」そして「東京都立呪術高等専門学校」を特に好んで追いかけてました。
 そこから計4冊、それぞれの物語が完結するのを見送って、数ヶ月経って忘れた頃に、友達から「呪術廻戦」を読んでみろと勧められ、そこから色々あって…

 この数年間、本当にあっという間でしたね。


4章:霹歴
89話.竹取奇勝


 満月の時が近づく。

 都の空気は、より張り詰めたものとなり、もはや事情を知らぬ筈の一般人の目にも、分かりやすく何かがあると、そう確信させる程の力があった。

 かぐや姫がいなくなる。それが示す都の『先』を憂う者。目先の報酬に囚われ、浮き足立つ者。

 最初は五分五分だった両陣営の数も、満月が近づく度に、段々と後者の割合の方が多くなり、張り詰めた緊張感を保っている者は、数える程しか残っていなかった。

 妖怪による被害もなく、必然的に陰陽師の仕事が減る筈が、実際に都にいる陰陽師の中に、その事に不満を抱く者はいない。

 依頼主である讃岐造。彼が集めた陰陽師の全員に対し、平等に、定期的な給付を約束したことが大きいだろう。

 気が緩むのはどうかと思うが、かといって、過度な緊張で普段の実力(パフォーマンス)を存分に発揮できないのに比べれば、遥かにマシというものだ。

 そう感じる理由は、たった一つ。

 

 今日とうとう、月の使者が地上に舞い降りる。

 

 正直。未だ実感がなく朧気だ。

 いつも、空を見上げた時に見える月。

 遥か遠い、雲の先にある、真っ白な、巨大な空の穴。

 そこに人が、自分たちと同じ人間が、こちらよりも遥かに優れた文明を築き上げ、生きているのだと。

 それが、とうとう明日にやって来るのだ。

 崔爾。そして東風谷のように。あれだけの強さを持つ陰陽師が集まり、万全の体勢で迎え撃つ。

 勿論、話し合いで済むのが一番良い選択肢ではあるのだが、その望みが残されているのなら、わざわざ都中の陰陽師を『全員』集める必要はないだろう。

 それが意味する事とはつまり、高確率で、戦いが起こるという事。

 

「あなたは怖くないの?」

 

 あまりにも。

 今まで、感じる機会を滅多に失った感情であるそれを、妹紅は直球に問うた。

 子供というのは純粋で、純然たる感情と欲求で動く生き物だ。というのは誰の言葉だったか。

 白蓮は、こちらを見上げる妹紅に対し、答える。

 

「怖い、ですか」

「違う世界の人が来るんでしょ、それに、もしかしたら戦争だって起こるかもしれない」 

「戦争って…諏訪大戦のような?」

「そこまでとは言ってないけど……」

 

 実際。恐怖はない。

 むしろあるのは、もしもの被害を想定した際に肌を刺す、肝が冷えるような、鳥肌のような感覚。

 魔法使いは、この国(日本)では未だに、白蓮しかいない程の、凄まじく希少な存在。

 今はまだ、白蓮の正体を紐づける何かは存在しない。が、妹紅が今、自分に対してそう聞いたのは、きっと子供の直感というものなのだろう。

 

「そうですね。…私はまだ怖くない」

 

 実際に、白蓮はよほどのことがないと死にはしないだろう。

 

「ただ、讃岐造も、陰陽師も心配です。争いは、起こらないのが一番だとは思っていますが…」

「…でも」

「あなたの父もですよ、妹紅」

「――」

 

 妹紅の父は、決して俗に言う『いい人』ではなかった。

 もし『いい人』であるなら、妹紅はともかく、正室が産んだ子の顔すら覚えていない訳がなく、自分よりも二回りも下の、それも子供であるかぐや姫相手に、求婚をする筈もない。

 人間として、始原的な感情である、愛情はきっと、歪んだ貴族教育による影響もあったのだろう。

 誠実ではない、人として出来ているという訳でもない。

 だがそれでも、妹紅にとってはたった一人の、血の繋がった父だった。

 

「話は聞きました。屋敷の防衛戦…あなたの父と、その直属の征伐部隊も参加すると」

「…」

「心配ですか?」

 

 その答えは、数秒もかからずに返ってきた。

 

「…部隊だけでいいのに、自分も前に出るって言って聞かなくて。剣も弓も、まともに使えないのに」

「それは…」

「かぐや姫に。…あの人にいい所を見せたいって、そう酔っぱらいながら言ってるのを聞いた」

「…………」

 

 どこまでも、自分勝手な男なのだろう。

 話によれば、妹紅は外聞の影響を考慮し、周りには嫡女と偽り、日々を過ごしているのだと言う。

 自身を産んだ母。その顔はもう記憶からすっぽりと抜け落ち、唯一の肉親である父はあの様。

 妹紅はまだ、子供だというのに。

 見た目、そして身長だけなら白蓮とそれほど変わらないが、実際白蓮は、見た目より遥かに長い時を生きている。

 故に、今の妹紅と同じような、家族の愛情に飢えた子供の相手は、数え切れない程に経験してきた。

 

「……私は、きっと恵まれた人間なんだと思います」

 

 縁側に座りながら、白蓮は少しだけ、妹紅と距離を近づけて。

 

「父も母も。…弟も、そして弟からも、私は愛された」

「…………」

「最初から恵まれた、持って産まれた人間である私が、きっとあなたに教えられる事はない」

 

 その言葉は、ある種の決別でもあった。

 

「右へ左へと足を運び、良くあれと、善くあれと謳いながら。――その実、誰よりも生き汚い」

 

 それが自分だと。

 白蓮は、それを包み隠さずに告げる。

 

「たとえ第三者が肯定しようと、それが世間では正しい意見だったとしても。…当人からすれば、それは煩わしい戯言に過ぎない」

「…なら」

「私は、私たちができることは限られています。そして私には、あなたの心を、真に救うことはできない」

「――っ」

「でも、だからこそ」

 

 白蓮には、妹紅を救うことはできない。

 ――だが必ず、代わりに救う誰かが、きっと現れると、そう確信している。

 

「…この世界は、因果応報が平等に下ることはない。きっと、私が救えなかった者の中には、恨みを捨てきれなかった者もいたでしょう」

 

 救った者の中に、本来は罰せられるべき、どうしようもない悪人だっていただろう。

 

「恨み、妬みが廻るこの世界で、私たち仏僧ができることは、ただの応急処置に過ぎないことかもしれません。人の傷は完全には戻らないし、失った命も、尊厳も決して回帰することはない」

 

 恐怖と尊厳を核とし、生きる妖怪と相対したからこそ。

 信仰の利益を求め、上っ面だけの誠意と善意を表す人間を知り。

 世の汚さと、その雲泥の狭間を生きる、小さな記憶の欠片を。白蓮は知っている。

 

「だけど、そんな良いことも悪いことも含めて、世の中は廻るんです。因果応報には収まらない何かが」

「…………」

「願わくは、あなたの隣に、いつか大切な誰かが立つことを」

 

 白蓮では決して、妹紅の孤独を埋めることはできない。

 枯れた愛情によって、心身の傷を治すことも、慰めることもできはしない。

 何故なら、自分は彼女とは違うから。

 年齢も、寿命も違う、真の対等者には成り得ない、ただの他人に過ぎないのだから。

 深呼吸を挟み、妹紅は一言。

 

「…………私、友達もいないんだよ」

「これからですよ、人間の命は長いんですから」

「…そういうものかな」

「えぇ、きっと」

 

 きっと、これからも。

 真の意味で、妹紅は失った家族の熱を、取り戻す機会を手にすることはないのだろう。

 友人ができて、いつかは恋人もできて。

 たくさんの人間に囲まれて、笑って、それでもきっと、どこかで寂しさを覚えるのだろう。そう、妹紅も自覚しているのだろう。

 消極的な反応で、未来の『もしも』を想像するその顔は、まだ不明瞭で、どこか他人事のような気配がしていたから。

 暫く、互いに言葉を飲み込み、静寂。

 相変わらず、空に浮かぶ巨大化した月を眺めながら、妹紅は再び。

 

「…私さ、陰陽師になりたかったんだ」

 

 そう、月に手をかざしながら言う。

 

「正確には、それしか道がなかったとも言えるかな。家あんなだし、それに出自も」

「…そう、ですか」

「父上には隠れて、妖怪退治の道具を家に持って帰って、こっそり練習したりもしたよ。バレた時は…まぁ」

「………怒られましたか」

「いいや、何も言われなかったよ。とことん無関心だったね」

 

 苦笑いをしながら、妹紅はしかし、以前とは違う、決して暗くない顔と声の抑揚で。

 

「ねぇ、一つ聞いてもいい?」

「はい」

「白蓮ってさ。――妖怪と仲良くしたいの?」

 

 ――妹紅からすれば、それは虎穴に入る覚悟を持って、それでも投げかけた質問だった。

 陰陽師。彼らが妖怪に対して向ける感情は、藤原家の血を引く妹紅にとって、決して無関係とは言えないものだった。

 貴族社会の汚れた価値観に触れ続けて、他ならぬ、縁側を歩く陰陽師本人の話し声。それらは普段、屋敷の目立たない隠し部屋で一日を過ごす妹紅の耳に、よく入るものだった。

 

 妖怪は、知性も誇りもない汚れた害獣であると。

 それらは所詮、自分たちが成り上がる為の、金稼ぎの相手にしか過ぎないと。

 

 基本。陰陽師を志願する者のほとんどが、妖怪に対する復讐心を持っている。

 家族を、友人の命を奪われた者が、自分と同じような悲劇が再び、起こってしまわないように。

 だからこそ、妖怪に対して負の感情を持っていない、東風谷と白蓮が、理解できないものだった。

 東風谷の無関心とは違う。先ほど自分にも向けた、慈悲の感情を、妖怪にも向ける白蓮が、特に。

 白蓮の反応は、とても穏やかなものだった。

 

「…そうですね、きっと」

「…きっと?」

「言ったでしょう。恨みや憎しみは、この世界をずっと廻ると。…私が彼らに手を差し伸べるのは、それに終止符を打ちたいからなのかもしれません」

 

 白蓮が救った、救えた妖怪の数。

 それは両手で数えられる程度しか存在せず。

 それらは、救えた者たち以外の、それこそ数百から数千の、魔法使いとなってからの長い年月で知り合った妖怪のほとんどが、全て白蓮に牙を剥いた。

 それでも。諦めることはなかった。

 願いを突き通し、理想。夢。それらを一緒くたにした、善性の教えを、真に理解し。――叶えることはできない。

 誰よりも、白蓮自身が、それを理解していた。

 

「妖怪は、恐怖が核となっている構造上、仏僧の修行を真面目に行えば、少しずつ存在が消失するのです」

「………それは初めて聞いたかも」

「あまり知られていませんしね」

 

 それでも、毘沙門天代理のような、神と同一の扱いをする場合のみ、例外ではあるのだが。

 

「それに、妖怪と対話する機会自体が、そうそうありません。…知られている通り、妖怪が人間の前に現れる時は、基本空腹を満たす為」

「…うん」

「つまり相手を殺し、その肉を齧る為で。…その空腹による理性の摩耗が、本来は言葉を発せる筈の彼らから、対話の機会を奪うのです」

 

 仮に、腹が満たされた状態の妖怪でも、対話に答えない者もいる。

 傲慢。嘲笑の色を隠すことなく、徹底的に人間を見下す妖怪だっている。

 それどころか、人間の恐怖のみを欲しがり、食べる為ではなく、ただ面白半分に、人間を殺したいが故に。

 白蓮に対し、話が通じると、そう思わせる為に対話に答えるふりをした、悪い妖怪もいた。

 

「じゃあ、もっと強い妖怪なら…」

「いいえ、そう甘くはありません」

 

 妹紅の疑問を、白蓮は即座に否定した。

 

「…鬼も天狗も含めて、誰も、彼ら上級妖怪は、こちらの声に耳を傾けることはありませんでした」

「………そっか」

「それに、対話に成功した妖怪が、しばらく見ないうちに、腹を満たしていたのでしょう。私の事を忘れ、妖怪の理性に呑み込まれ、再び人を襲っている者もいました」

「…」

「本当に、大変なんですよ」

 

 何十回、何百回。

 一体どれ程の回数をこなし、その恐怖と向き合ってきたのだろう。

 妹紅は知らない。

 屋敷の使用人の目を盗み、都の飲食店にこっそりと足を運ぶだけで、真の意味で『外』を知らない。

 自分の知らない世界を、自分でも味わったことのない、人間と妖怪の、薄汚れた世界を、彼女は知っている。

 そのことが、妙に妹紅の興味を唆る。

 

「妖怪は人間を殺すし、妖怪はそんな人間に殺される。って言ったよね」

「…」

「ならさ、その恨みとか憎しみの連鎖を止めて。………それこそ、数百年か数千年、ずぅっと同じことを続けてたら」

「………」

「妖怪と、分かり合えると思う?」

「大変な道ですよ」

 

 本当に大変だ。

 正直、何度も挫けそうになって、何度も何度も苦しんだ。

 不可能だ。

 ――だが。

 

「絶対に、意味がないなんて事はない」

「………そっか」

 

 白蓮は信じている。

 その、何の確証もない張りぼての達観を。

 再び、二人は夜空を見上げ、そして感嘆の息を漏らす。

 最大級の規模であろう、今夜限り、特別仕様の満月。

 この世のものとは思えない程の、神秘的なその光景に、思わずため息を吐き――

 

 

「………?」

 

 その視線の先にある、僅かな違和感。

 違和感の正体。それが、月の白と同化していることを、白蓮の優れた視力が見破り。

 遅れて、妹紅もそれに気づく。

 

「………船…?」

 

 月の、白い光に混じって見えるそれが。

 白蓮と、妹紅の視線の先に移る、黄金色に似た輝きが。

 ――それが、達観を崩す合図となったのだった。

 

 

 

 


 

 

 

 

 船だと見破ったのは、集結した陰陽師の中でも、ほんの一握りの少数であった。

 水もない、宙に文字通り浮かび、そして虚空を漕ぐその動きは、陰陽師の技術でも再現できない、別世界の技術(テクノロジー)の証明であり。

 故に、残りの若く、経験も浅い陰陽師や兵士たちは、恐れ戦いていて、中には腰が抜けた者すらもいた。

 

「このっ…!」

 

 弓を持った、選ばれた勇気ある者が数名、彼ら月の使者に反逆しようと、空に向かって矢を放つ。

 が、それは呆気なく、まるで矢に命が宿ったかのように、突如空中で軌道を変えて、船に当たることなく、そのまま飛んでいく。

 妖術。ましてや霊力でも呪力でもない、未知の存在である謎の力。

 月の科学力。それが古代の世、鉄砲すらもまともに扱えない、哀れな地上人の前に、堂々と顕現した。

 そして、船の中から人が現れた。

 

「おやおやこれは、高貴な()()姫ではありませんか」

「…………」

 

 同じ発音。同じ言葉でも、そこに込められた意味は違う。

 嘲笑の色を隠すことなく、にちゃにちゃと笑うその使者の男に、輝夜は顔を顰めて答えた。

 

「随分老けたわね、向こうでも相変わらず、親王にへつらっているのかしら?」

「フン。どうやら地上でも、高貴な生活は相変わらずのようで」

 

 使者の男にとって、輝夜は決して良い印象を持った子供とは、口が裂けても言えない存在である。

 それは妬み。

 産まれた時から既に、月の誇りである最高頭脳の象徴である、八意思兼の寵愛を受け、そしてそれに仇を返す形で、地上に流刑となった子供。

 自分が必死に求め、それでも届かない立場と力を、最初から持っていた癖に、それの価値も知らない、小さな子供。

 男の顔に浮かぶのは、確かに妬みだがそれだけではない。

 敗北感。

 ――知っている。理解しているのだ、この上なくハッキリと。

 その、地上でも衰えることのない、生まれ付き、自身の周りに星が廻っているかのような、『持っている(程度の能力)者』特有の、覇王にも近い気配。

 妬みの原動力。それは劣等感そのものであり――

 

「地上の穢れに染まれても、あなた達よりは綺麗だわ」

 

 輝夜は、そんな男の内心を知っているのか。

 それとも、知らないのにも関わらず、相手の本心を、直感で察したのか。

 『持たざる(程度の能力)者』として、この世に産まれてしまった男が大嫌いな。

 ずっと、月で浴びせられた、哀れみの、嘲笑の顔で、輝夜は言う。

 

「…………なに?」

「あなた達月の人間も、地上とそう大差ないわね。…そう言ったのよ」

「…貴様」

「ほら、そうやって怒るところも本当にそっくり。私に求婚してきた男たちの中にもいたわ。――あなたみたいな醜男が」

「――ッ!?貴様ァ!!」

 

 男の、堪忍袋の緒が切れた。

 それに、そもそもの話として、男は出発前に。月の都で、都久親王から直接、より細かく、迎えの船に()()()()()()()()には知られないよう、任務の詳細を告げられていた。

 その内容とは、相手は既に穢れのそのもの故に。――何回でも殺していいということ。

 どうせ、彼女の自由気ままな性格を考えれば、地上を気に入り、そして月に戻ることはないと、そう予知していたから。

 そして、都久親王の予想は見事に的中しており、男の叫びに続けて、輝夜が言う。

 

「私はここに、地上に残るわ。帰りの船は、あなた達だけで勝手に乗りなさい」

 

 ――断るのなら、四肢を千切ってでも連れて帰れ。

 都久親王が言った命令が、逆上した男の脳内にフラッシュバックし、そしてすぐ、男の顔を真っ赤に染める程の怒りは、冷める。

 その代わり、湧き上がるのは嗜虐の笑み。

 ニマリと、意を得たような悪趣味な顔を浮かべた男の様子に、輝夜は何かを察したのだろう。

 その顔から、見下し、挑発するような笑みが消え、代わりにやって来たのは。――無表情。

 

「――下衆以下ね」

「ううむ仕方がない。赫映姫がこちらの要求を呑まぬなら…………」

 

 男が、殺意を滲ませた視線を向ける。

 それに真っすぐ、輝夜も負けじと視線をぶつけ、互いに敵意と殺意が入り混じる、視線同士の戦いが繰り広げられ。

 ギロリ。

 と、男の視線が、輝夜の後ろにいた、讃岐造に向けられた。

 

「殺れ」

「――ッ!」

 

 男が命じる。

 背後で待機していた、兵士の一人が、見たことのない武器(ライフル)を構え、それを讃岐造に向けて。

 そして、バンッ!と、凄まじい反響が――

 

 

 

 

「狙撃銃か、いいね」

 

 

 

 

 ぐにゃり。

 まるで粘土をこねるかのような、そんな気軽な態度で。

 乱入者は妖怪を片手に、放たれた銃弾を受け止めた。

 

「私も人間相手であれば、通常兵器は積極的に取り入れるべきだと思うよ」

「なっ…!?」

「ま、霊力も込めてないんじゃ、妖怪相手にはこの程度だけどね」

 

 妖怪の身体にねじ込まれた、月の科学の力。

 抽出した銃弾を、手のひらで転がしながら、そして、それを為した少女の――陰陽師の姿が露わになってから。

 残りの、月の使者が放つ重厚な気配に呑まれていた、約数十名の、選ばれた陰陽師たちが再起する。

 

「さて、反撃だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【………………………………人間】

 

 その裏では――




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