【本編完結】諏訪子様になった、負け戦を回避したい   作:洩矢廻戦

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 話数表示を少し弄りました。
 あと宇佐美イケメン過ぎて笑う。


90話.千年理想郷

 否定はしない。

 最初から、都久があの少女に。"赫映姫"という存在価値のみを見て、利用しようと思い立った瞬間から、もはや心は決まっていた。

 八意思兼。――真名、永琳は月の都という故郷に対し、もはや一抹の未練もなかった。

 だから最初から、この迎えの使者としての立場を選んだ真の理由も、目的もきっと、都久にはお見通しだったのだろう。

 故に、永琳は最初から、迎え用の船での待機命令に、強く反論することはなかった。

 むしろ、相手の動きが既に知れている以上、別の動きに集中できる。

 そう思っていた――

 

「…これは」

 

 船内で矢の補填作業を行っていた永琳が聞いたのは、先に外に出ていた衛兵たちの、その悲痛な叫び声。

 地上と月では、文字通り文明のレベルが違う。どれだけ優れた個の力があろうとも、月の科学の前には無力。

 贔屓目を抜きにしても、それは絶対の理である筈だった。

 故に、永琳は疑問を胸に抱えながらも、愛用している弓と矢を両手に、部下の制止を無視して、外に飛び出た。

 

 目の前に広がっていたのは、穢れの海。

 数多の妖怪が群を成す、魑魅魍魎の集まりであった。

 

 閃光が視界を埋め尽くし、爆発による轟音が、鼓膜を叩く。

 それらの発生源である、月の衛兵が放つ科学兵器の数々は全て、目の前にある、文字通り黒い波そのものと化している、妖怪の肉壁によって遮られている。

 元より、地上は穢れに満ちた場所であり。

 月ならばまだしも、元から穢れで溢れかえる場所でなら、つまり地上で、地上の人間相手ならば、たとえ何人殺しても問題はない。

 悪意はなく、意味のある殺人ではなく、ただの()()

 月人にとっては所詮、地上に住む生き物とはその程度の存在で、準備してきた兵器のレベルも最低限のものであった。

 ――そんな慢心が、彼らに牙を剥く事となる。

 

「…驚いたわね」

 

 永琳にとってはさほど脅威でもない、下っ端の衛兵たちを後ろに下がらせる。

 最初に輝夜を出迎えようと、永琳より先に出しゃばった使者の男は、巨大な蛙の妖怪に、首から下を咥えられた状態で、哀れに失神している状態だった。

 永琳は弓を構え、目の前の人間に――

 

「まさか地上で、ここまでの手練れがいるとは思わなかったわ」

「それはどうも」

 

 腰の辺りまで伸びた黒い長髪と、前髪の一房に交じる、金色のメッシュ。

 地上の人間に稀に見られる、常人を超えた先に至った者特有の、能力によって変質した髪と気配。

 肉体を流れる霊力の総量は、永琳のよりも遥かに下。

 だが、決してそれのみで、純粋な脅威度を測れるほど、この世界は甘くない。

 

「かぐや姫はそこにいるのかしら?」

「どうだろうねぇ」

 

 分かっている癖に、彼女はあえて誤魔化すような口調で。

 

「素直に渡してくれないのね」

「まぁね、そっちこそ。本当は分かってるんじゃない?」

「………」

 

 ――()()()()()

 口をつぐんだ永琳に、控えていた衛兵が聞く。

 

「八意様?」

「………」

 

 その声は、戸惑いではなく、疑惑。

 永琳に対し、何かあったのかと疑問を呈する趣旨のものとは違う。何かやましいことでもあるのか、そう射抜く声の質だった。

 その理由は分かっている。――最初から、永琳は警戒されているのだ。

 こうしている間も、輝夜に味方し、月を裏切るかもしれないと。

 

「私たちは、あなた達の言う"かぐや姫"を連れ戻さないといけないの」

 

 弓を前に、霊力を込めた矢を番う。

 その目標は、目の前に立ちはだかる、地上の陰陽師。――東風谷。

 東風谷もまた、指先からおびただしい量の穢れ、瘴気を垂れ流しながら、新しい妖怪を顕現させ――

 

「月に早く帰らないといけない。けど…」

 

 込めた霊力が臨界点を超え。

 白く、魔を祓う聖なる力と成した瞬間。

 永琳は、番った矢の矛先を上にズラした。

 

「――後ろ、任せたわよ」

 

 永琳が矢を放つ。

 そして貫かれる。――月の使者の男。

 "赫映姫"に焦がれ、彼女を妬み、仮に月に戻れば、約束された報酬と立場、権力を手にできたであろう、哀れな男。

 終ぞ親王にはなれなかった、名も知らぬ、どうでも良い男の命を、永琳は奪った。

 同時に。

 

「ガっ」

「ァ…!」

 

 どぷんっ――

 粘性の強い、巨大な泡のような形をした、東風谷の操る妖怪が動く。

 永琳の攻撃。――反逆に対し、即座に行動を再開し、その頭に銃口を向けるよりも先に、東風谷は一手を打っていた。

 酸素を奪い、呼吸すらままならない、即席の水槽。

 もがき、苦しむ彼らの隙を見逃すことはなく。

 両手に矢を、そしてその矛先を、両隣に立つ月人の喉に対し、寸分の狂いなく突き立てる。

 鮮血が吹きだし、それを、彼らの首に今も纏わりついたままの妖怪が、飲料水代わりに吸収し。

 静寂が訪れ、一言。

 

「お見事」

 

 吸収し切れず、僅かに飛び散る血液が、永琳の頬を濡らす。

 同時に、目の前に立つ陰陽師たち。東風谷を除くほとんどの人間が、呆気に取られたままで。

 永琳のそんな一言にも、やはり、反応したのは一人だけで。

 

「やるねぇ」

「あなたこそ、初めて会ったのによく合わせられたわね」

 

 そう言って、永琳は笑って距離を詰めた。

 血に濡れているというのに、その姿からは、ある種の神秘性すら感じ取れる。

 東風谷の後ろにいた、数名の男たちが、顔を赤くしているのが見える。

 永琳はそれを無視し、再び。

 

「悪いけど、もう少し付き合ってくれる?」

「勿論」

 

 ――心強い味方を手にした。

 元より、味方など考えたこともなかった永琳だったが、先ほど一瞬とはいえ、正確な指示を妖怪に伝え、的確なサポートをこなしてみせたその一連の流れに、感嘆する程だった。

 先ほどの攻撃も、永琳からすれば、場の混乱に乗じて前倒しにした反逆に過ぎないが。

 相手から、陰陽師たちからすれば、突然仲間割れを始めたように見えただろう。

 だというのに、目の前に立つ少女、東風谷だけが、永琳の動きに動揺することも、困惑することもなく、ただ冷静に、更には永琳を助けたのだ。

 

 ――まるで、()()()()()()()()()()()()()()()()ように。

 

 想定とは違うものの、これは逆に、あまりにも万事順調過ぎるくらいには、永琳を中心に物事が進んでいるとさえ思えた。

 再び、弓と矢を装備し直し、先ほど自分が出てきた場所へ。

 月からの使者。その証明である巨大な舟の上に並ぶ、残る衛兵たちに向かって、永琳は矢を番えた。

 彼らは、言葉を失っていた。

 

「悪いわね。私が味方するのはたった一人なのよ」

 

 一瞬の静寂。

 だがそれは、永琳の告げた言葉。決別と裏切りを意味する台詞が終わってからすぐに、怒号となって塗り潰される。

 反逆だ。誰かがそう叫ぶ。

 裏切者め、そう唾を飛ばして罵る男に、永琳は何も思わない。

 何十にも重なる男たちの叫び。その中で、一際よく響く声がする。

 

「やはり、こうなりましたか」

 

 白い、大きな月に照らされる三十余名の衛兵たち。

 舟の上で、それぞれが皆、武器を携え、永琳に向けて、一斉にその銃口を向けている。

 その中で、唯一他の者とは違い、金色の装飾が付けられた、月の軍服を着た男が、一歩前に出て言う。

 

「都久親王の予想は的中していたようです。一応聞きますが、今からでも遅くはないですよ?」

「それはどういう意味かしら?」

「勿論。あなたの反逆を見逃す…という意味です」

 

 ――ただ。

 そう付け加えて、もう一言。

 

()()は…赫映姫はしっかりと回収させてもらいます」

「…呆れた交渉術ね。私が反逆した意味も、理由も知って尚それをほざくの?」

「えぇ。私たちにはその正当性があります。――あなただから、許されたものを」

 

 倦んだ声で、彼は永琳を見下しながら。

 

「あなたが作った禁忌。蓬莱の薬は月の都に本来、あってはならないもの、そして…それを服用した者も、例外なく」

「……」

「しかし知っているでしょう?()()()は我々のような不老ではなく、正真正銘の()()()、不老不死。穢れこそ実に醜いものですが、そこに秘められた資源としての価値は、とても測り知れない」

「…だから?」

「赫映姫は実に使()()()

「舐めるんじゃないわよ」

 

 呆れ。

 そして、それを凌駕する怒りが、永琳の肉体を支配する。

 

「それで、私が以前のように、月の科学を支えて終わり?冗談じゃないわ。いつまで子供のつもりよ」

「あなたは『月の頭脳』としての、己の価値と意味をもっと知るべきだ。それにあなたが月を裏切れば、依姫様も豊姫様も悲しみますよ」

「――それこそくだらない冗談ね。あの二人は、もうあなたたちでは使()()()()くらい、立派な子に成長したわ」

「…残念です。本当に」

 

 男は、嘆く様に首を振った。

 

「では、もはや慈悲など必要ありませんね。――全員、この場にいる者を」

 

 男が腕を上げる。

 それに合わせ、残る月の衛兵たちが、それぞれが銃口を永琳にではなく――

 それ以外の、陰陽師にでもなく――

 真後ろにある、未だ一般人が隠れる民家に向けて。

 

「――不味ッ」

 

 その意図に気づいた東風谷が。

 永琳が、そして屋敷の奥に隠れていた輝夜が。

 一斉に、彼が命令を下す直前に、動き。

 

「穢れた人間を――」

 

 

 

 

 ――刹那。

 正に、一瞬の静寂があった。

 

 

 

 

「皆殺、し…」

 

 糸が張り詰め、切れる。

 男の顔を、横一直線に走る、赤い線。

 

「――に?」

 

 ごとん――

 鮮烈な赤。

 噴水の如く、頭の上半分を失った、男の亡骸から血潮が吹きだす。

 困惑や動揺、そして驚愕が伝染するよりも先に、その正体が露わとなる。

 

 

 

 

 刃物の如き切れ味を誇る、砂利と瓦礫の混じった旋風。

 それは、正に生きた巨大な嵐、そのものだった。

 

 

 

 


 

 

 

 

 屈辱の日々だった。

 己の命に指がかかった、妖怪としての矜持を砕かれ、失意と恨みに満ちる日々だった。

 妖怪とは、人の恐れとは別に、己の心の在り様に、強く依存する生命体だ。

 普段の()であれば、絶対にそのような思考に陥る筈もなく。

 それほどまでに、()()()()は深く、致命的なものだったのだ。

 

 愚かな人間だった。

 

 ただ死を待つだけだった、ゆっくりと衰弱し、最後は血も肉も残らず、忘れられるだけだった自分に、手を差し伸べる女がいた。

 人でなし。その身に滾る力が霊力ではなく、魔力と呼ばれる、異国由来のものであると、そう丁寧に説明までして、彼女は妖怪である自分を救った。

 理解の及ばない、気色の悪さを覚えた。

 嘲笑のない、哀れむことも、愉快と思う程の余裕すらないくらいには、彼女はしっかりと()()()ていた。

 彼女は言った、「争いを好まない妖怪もいる」と。

 ――彼は、それのみを哄笑する。

 

【本当に――】

 

 霊力による、妖怪としての肉体が朽ちる呪い。それをまんまと、彼女は解除した。

 おかげで、()()()姿()を取り戻せる――

 

【…嗚呼】

 

 一つ、命が消える。

 妖怪として、衰えて死ぬだけだった自分は、こうして再び自由を手にした。

 そうして湧き上がる、嗜虐の欲望。その矛先は、目の前を無謀にも横切った、小さな野良犬。

 力を少し、取り戻す。

 

【――これだ】

 

 二つ、己の口から零れ落ちる、()

 油断し、山に迷い込んだ陰陽師の一人。

 ()()()()()()、ずっと動かずに待機していた、辺り一帯の妖怪たち。

 その目的と、理由に気づくことなく、しばらくは安全だと、そう高を括って侵入してきた、哀れな人間を喰い殺す。

 獅子や虎すら生温い。 

 見た者に、根源的恐怖を、生理的嫌悪を与える、その醜悪な姿。

 

 

 

 

 全ての始まりは、ある商人が持ち込んだ書物である。

 異国の信仰、知識と恐怖が混じって作られた、その呪具とも呼べる爆発物は、ある日突然、行方不明となった。

 その後、大陸の全土に散らばったそれは、人々の噂話、その地特有の伝承や、恐怖の質によって肉を、骨を作り上げ、自立するに至る。

 それは文字通りの、全く別の系統に位置する神。

 

 ――それは、四凶

 

 善人を忌み嫌い、悪人に媚びる『渾敦(こんとん)』。

 正義の人間を喰い殺し、誠実な者の鼻を齧る『窮奇(きゅうき)』。

 全てを喰らう、魔すらも飲み込む『饕餮(とうてつ)』。

 そして――

 

 

 

 

【嗚呼…本当に愚かだな。俺は】

 

 もはや、以前白蓮が見た姿はそこにない。

 野良犬程度だったその体躯は、体毛だけでも二尺に及ぶ。

 岩を砕き、大地に亀裂を走らせる、躍動する全身の筋肉。

 虎であった頃の名残が消えた、人の顔と豚の歯が融合した、その恐ろしい風貌。

 ――笑う。

 

【こうして、湧き上がる憎しみを抑え込むことができないのだから。…だがその次に】

 

 ――嗤う。

 ゲラゲラと、彼は。

 

【その次に愚かだったなァ――小娘(白蓮)ェッ!】

 

 ――哂う。

 凶悪頑迷。

 時代の賢人が、どれほど強く諭そうとも、決して心が変わることはなく。

 善言を弁えていない、決して分かり合えぬ、情けなどかけてはならぬ、凶悪無比な怪物が一人。

 彼こそが。

 ――その名を、『檮杌(とうこつ)』と呼ぶ。

 

【――いい時が来たようだな】

 

 ある日から、ばったりと妖怪の目撃情報と、そして被害が消えたこの都。

 その全ての発端は、檮杌が仕組んだことであった。

 かつて己に牙を剥いた、そして他ならぬ、()()()()()()()()()()()()()

 何十年も、その後を追っているのにも関わらず、一向に情報は出てこない。

 傷ついた自尊心と比例し、日に日に弱っていく肉体に鞭を打って、檮杌はずっと、この都の周りにある山を、ずっと廻り、巡り続けていた。

 たとえ弱体化しようとも、並の妖怪では相手にはならない強さを持った檮杌は、地道に傘下を増やし続けた。

 その目的は、全てこの時の為に――

 

【やはり、光は生で感じるに限るな…!】

 

 ――()()

 妖怪が共通して狂暴に、そしてより強く、血を求めるようになる時間。

 檮杌の周りに集まる、数多の妖怪たちは、今日この日に備えて、飢えた己の欲望に蓋をして、ずっと待ち続けていたのだ。

 この日、都に住む人間たちを、討ち滅ぼす時をずっと。

 

【無力で哀れな人間も、憎き陰陽師も】

 

 獲物はそこに。

 

【女も子供も、蛆のように湧いている。――素晴らしい】

 

 檮杌は笑う。

 それに同意し、共鳴して、背後に控える妖怪たち。

 その数は――1000万は下らない。

 

【――塵殺だ】

 

 伝承通りの()()()()

 それが、都に向かって一斉に解き放たれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――土着()()召喚。

 ――雲結、火車。

 ――裕磨、晒し首、骸山、虹龍、土着神霊。

 

「――逃げろ!!!」

 

 ――東風谷(洩矢諏訪子)一か八か。

 無差別の、配下の妖怪(祟り神)一斉放出。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 最初に見せた、月人に対する威嚇も込めたものとは違う、本気そのもの。

 それが黒い波となり、同じく山から土砂崩れのようになだれ込んできた、大量の妖怪とぶつかり、拮抗する。

 その後、東風谷の首に向けて、風の刃が複数放たれる。

 

「――ッ!お前…!」

 

 間一髪でそれを避け、僅かに切れた肌から、一滴の血が垂れる。

 咄嗟に反転術式を発動し、すぐにそれは治ったものの、一度でも、少しだけ掠っただけとはいえ、一撃を加えることに成功した…そのことに変わりない。

 檮杌は、その醜い人面を歪ませて、愉悦に浸る。

 

【どうした陰陽師?随分と焦っているようだな】

 

 思わず、舌打ちを零す。

 現在の東風谷は、取り込んだ全ての妖怪を、都全土に行き渡るように配置している為、使える戦力はもうゼロ。

 ミシャグジに関しては、今は国の管理や防衛も含めて、諏訪大国に置いてあり、ここに呼び出すことは不可能。

 そのことを見抜き、檮杌は笑いながら続ける。

 

【くはっ…覚えているぞ、というより話は聞いているぞ。我らが同胞を取り込み、洗脳し、駒として扱う塵め】

「ハッ、随分な言われようだ…」

【おかげで同胞の数もかなり減らされた。その恨み、ここで晴らさせてもらう】

「ッああそう!」

 

 檮杌の言葉に、東風谷は声を荒げながら答える。

 思わず、そして焦りを隠す余裕すらなく、呻き声を上げた。

 

 ――頭が焼き切れそうだ…!

 

 神ではなく、人の肉体で行う並列作業。

 民家を中心に、都の人々を守るように指示し、そして襲い来る妖怪たち全てに、それぞれ最適な命令を下す為、視覚の共有による制限を一時的に解除。

 人化によって、以前とは明らかに出力も、利便性も落ちた身体と脳で、何とか彼女は動く。

 震える身体と、狭窄する視界。そして頭の奥底で感じる、僅かな痛みを無視して、()()()は己の影に手を入れる。

 荒れる呼吸音と、バクバクと五月蠅く主張を続ける心臓を、意識の外に追いやって。

 

「そっちこそ、()()()からのお客の癖に…」

 

 ――烏合では相手にならないな。

 最終手段として、万が一の一対一(タイマン)用に常備し、隠していた武器。

 それを影から取り出し、両手でしっかりと質量を確認してから、その鞘から、抜く。

 

「どのツラ下げて、ここで暴れてるんだって話よ…!」

 

 それは、何の変哲もない日本刀であった。

 東風谷の影――つまり大量に取り込んだ妖怪たちの溢れる妖力を浴び続けた、正真正銘の妖刀。

 その刀を見て、初めて檮杌は、その顔に愉悦と嗜虐以外の、戦いの為の、理性的な光を宿らせる。

 

【…ほう】

 

 現在、東風谷は脳の容量(キャパシティ)のほとんどを、先ほど一斉に放った妖怪たちの指示に使っていることで、それ以外の能力の使用ができない状態にある。

 それはつまり、人化を解いて本気を出すことも同じで、もし無理やりにでもそれを行えば、器の脳だけでなく、それを動かす己の魂に傷がつく。

 一時的に配下の妖怪を、彼らの操作を解除し、その隙に人化を解除するにしても、その隙に更に、被害に遭う人間の数が増えてしまうだろう。

 ――なら、今この状態で。

 

「これをお前如きに使うのは…」

 

 鞘から抜かれて、ギラリと輝く銀色の刃から。

 ――透明な、赤い蛇が出現した。

 

「…胸糞悪いけどね」

 

 刀を扱うだけの陰陽師ならば、東風谷以外にも数え切れない程存在する。

 戦いの度に霊力を宿し、一時的に効力を、切れ味を増幅させるだけのものとは違い、それは名刀という括りを超えた、文字通り異質な存在。

 檮杌自身、それを目にした機会は数える程しかなく、その中でも、目の前で光り輝くその刀身は、今までのとは比べ物にならない程の力を秘めていると、そう確信した。

 

 天叢雲剣も、ミシャグジと同じく諏訪大国に保管されている。

 仮に影の中に仕舞っていたとしても、人間の身体ではまともに触れることはできない。

 妖怪、祟り神も含めて、都の人々を守るのに精一杯。

 ――人化を解く余裕もなく、ならば。

 

 気配が変わる。

 檮杌は、静かに問うた。

 

【我が名は檮杌。――改めて聞こう、貴様の名を】

「東風谷。…あと残念だけど、あんたと戦うのは私だけじゃなくて――」

 

 

 

 

 そして、もう一人。

 

 

 

 

「手伝うわよ、東風谷」

 

 弓を片手に、檮杌を強く睨むのは、永琳。

 彼女もまた、先ほどの一瞬、山からなだれ込んできた妖怪の波を、東風谷によって救われた者の一人であり。

 最初の、月の使者と衛兵への反逆を手助けしてくれたことも含めて、この場に立っている。

 讃岐造、そしてその他陰陽師たちは、何とか混乱から正気に戻り、都に侵入してきた魑魅魍魎たちの相手をするべく、一斉に飛び去っていった。

 それは、信頼という名の別行動。

 東風谷、そして永琳の二人でならば、この檮杌と名乗る存在を倒す、もしくは一時的に封じられるのだと。

 

「それで、どうする?」

「とりあえず殺す。…のは、正直今はかなり厳しいかな」

 

 永琳の問いに、東風谷は少し、謙遜した態度で答えた。

 

「今回の満月。普段のそれとは訳が違う、これじゃあどれだけ瀕死にしようと、強化された自然治癒力で復活する。その間に、犠牲者が更に増えるのは勘弁」

「なら?」

「――なら答えは一つ、満月が終わるまで、一時的に封印する」

「了解」

 

 弓を番える永琳。

 刀を手に、霊力を込める東風谷。

 そして、檮杌の肉体から迸る妖力が、空間を軋ませる三つ巴。

 ――互いに、いつでも動ける状態。

 

「…来い」

 

 握った刀に、東風谷が霊力を流す。

 その刀は、長い時を経て大成した、歴史に名を刻むレベルの呪具、その一つ。

 所有者の生命力に、霊力を吸収し、何倍・何十倍にも増幅させることで、その真価を発揮する。

 東風谷の霊力が増幅され、そして具現化しする。

 能力や結界術を通した霊力の物質形成とは違う。それは霊力そのもの。彼女の魂、命の形である、赤い蛇。

 それが、東風谷の身体の周りを揺蕩い、牙を剥く。

 

"業軋(なりぎし)"

 

 命を懸けた防衛線、その()()の狼煙が上がる。




 うおおおおおおおおおお白蓮さん待ってろ曇らせてゲロ吐かせちゃるっ
 ちなみに刀の名前は、いつか原作カグラバチの二次創作を書きたいなぁと思った時用にネタ帳に残しておいた、オリジナル妖刀の名前です。

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