【本編完結】諏訪子様になった、負け戦を回避したい   作:洩矢廻戦

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 今日、やっと酒が飲める歳になりました


92話.堅紅

 静かだった。

 あれだけ賑やかだった、人によって栄えていた場所が、漆黒の壁によって閉鎖され、かつての影も形も残っていない。

 無だった。

 あれだけ、あれだけ人間が、文化が、人々の生気があった場所には。

 もう――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「都の主街区はほぼ壊滅。そしてこちらの被害者はゼロ。ですが…」

「宿泊していた他村の村長、そして代理も含めて安否が不明。おそらく()()()で…」

「その責任問題で、今他村の住民と、残された藤原家の兵から糾弾の声が…」

「政治的空白…!文字通りの空白だぞ!」

「ハッキリ無事だと断言できるのは、都に活動を集中させていた陰陽師…崔爾や東風谷を含む、手練れの者たちだけ」

「それ以外の陰陽師は?」

「不明です。檮杌襲来の少し前、山の見回りや他村へ出張の仕事に出かけた者は……………今も連絡が取れず」

「放たれた妖怪の数は1000万を下らない!どれだけ少なく見積もっても、あと500万匹はあそこにいるんだぞ!?」

「誰が張ったかは知らないが…あの『浄界』でどれだけ持つか…だな」

「今は、でしょ?『浄界』だって無敵じゃない」

「そんな中、生き残った者たちの疎開計画を今から練らなければならんのだ」

「各地に陰陽師を複数配置し、廃村から山のどこでもいい、とにかく場所を確保するんだ。やれ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「都全域を避難区域に指定!?本気か!?」

「土地主はどうだ?」

「もう死んでるよ、というかそれどころじゃないだろうに」

「皆死んでたら税金も何もないだろ?」

「その後、完全に立ち入り禁止区域とする…ってさ」

「フン。…正に人外魔境だな」

「数ヶ月前に張り直した結界。それを今回、檮杌を封じている『浄界』に合わせて機能を変更する」

「結界の対内条件を変える!?そんなことできる人材いるのかよ!」

「崔爾様の手でだ、そして逆に、対外条件は東風谷様が担当する、これで妖怪の侵入を拒む都の結界は、檮杌を含めた、都に今もいる妖怪を、外に出ないようにする結界に早変わりだ」

「『浄界』っていつまで持つんだ?」

「帝邸機能の集中を都に!?正気か!!??」

「あの方はかぐや姫に恋慕しておられる、これくらいはするさ」

「このままでは都に閉じ込められていない、他の場所で発生した妖怪の対応が遅れるぞ!今!多くの生還者と被害者の対応で陰陽師が忙しい、この時期に!!」

「だから私は反対だったんだ!あんな小娘の警備如きに!」

「それより、例の容疑者はどうするのだ?」

「それどころじゃないだろう!?今はとにかく、残された人間の対応をどうするか――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………聖?」

 

 空気は、冷え切っていた。

 まだ夜は明けていない。だというのに、白蓮は部屋の荷物を片付けていて。

 襖を開けると、ナズーリンの目に、彼女の背が映った。

 あまりにも、小さな背だった。

 

「……………………」

 

 いつかは、こうなることは覚悟していた。

 妖怪に手を差し伸べる。人と理解し、幸せを分かち合う関係など、茨の道と言わずに何と呼ぼうか。

 仏の意思に背かぬ限りは、ナズーリンからすればどうでもいい。

 そう、どうでもいい筈の少女だった。

 

「…聖」

 

 恨みに滅ぶ。

 彼女は人と妖怪の、憎み憎まれ合う関係を、いつしかそう表現していたが、ナズーリンは、それを間違ってはいないと思った。

 今回限りではなかった。

 以前から、白蓮は妖怪を助け、傷を治し、そしてそれが終わった途端に、喉仏を喰い千切られかけた経験があった。

 理性のない妖怪でも、逆に理性も知性も兼ね備えた妖怪でも、人間を恨む者は、いる。

 恨み、妬み、それでも賢く、白蓮の救いと善意を上手く利用し、最後は歯向かい、その優しい心に泥を塗る。

 何回も、何回もあった。

 それでも、望みを捨てきれなかったのだ。

 いつか叶えばいいのに。

 ――そう、聖白蓮という個人に対し、強い思い入れを覚えてしまった。

 

「…これから、どうする」

「……………………」

 

 日が昇り次第。

 妖怪たちの力が最も弱まる、満月の終わりと、朝日が重なる絶好の瞬間を、彼らは狙うだろう。

 その時であれば、警備に回る陰陽師たち、その戦力をある程度集め、確実に。――白蓮を殺せる。

 ナズーリンの問いに、白蓮は暫しの沈黙を。

 そして、絞り出すように。

 

「…私は、ここから消えます」

「………」

「檮杌が言ったのは、私についてだけの情報です。…この寺も、星たちの事も、私とは無関係にして…」

「やめろ」

 

 止めた。

 息継ぎを忘れて、言葉を区切ることなく、繋げて続けた白蓮の肩を掴み、無理やり。

 

「聖。私たちに気を遣うな」

「……………」

「君はここに居てもいい、むしろ駄目な理由がない。私もご主人も、それに一輪やムラサも、皆同じ気持ちだ」

「…つかってない」

「これは、君だけの問題じゃないんだ。…いつかはこうなると思っていた、今回はその予想の中でも、一番最悪だったがね」

「…」

「その上で。私たちは君の思想を肯定し、共に生きることを選んだんだ。――私たちも、同罪だ」

「――違う」

 

 光を失った、涙の跡が残る顔で。

 白蓮は言った。

 

「私が居たいか、居たくないかの話じゃないんです。…私は、私は――」

 

 ――死ね。

 

「……………………私は、たくさん人を殺した」

 

 ――自分だけ死ね。

 

「もう、一緒にはいられないの」

「………」

 

 ナズーリンは、瞼を閉じた。

 己の罪悪感に駆られた、ある種の自暴自棄とも呼べるその姿は。

 白蓮が今までに対話し、そして救ってきた人間たちと、全く同じ姿なことに、ナズーリンは気づく。

 そして、歯を食いしばる。

 

 ――あれだけ人を、妖怪を救ってきた少女を。

 ――今度は、誰も救えないのか。

 

 今の自分では、彼女を救うことができないのか。

 涙が出そうになるくらいに悔しく、だがそれに甘えることは、他ならぬナズーリンが許せなかった。

 誰よりも苦しみ。

 誰よりも、悔しく理不尽に晒され。

 これから、――殺されるというのに。

 それなのに、今も尚、彼女はナズーリンや星たちを心配し、彼女らに魔の手が及ばぬよう、自分一人で罪を背負うつもりなのだから。

 

「……………」

 

 もう、何も言えなかった。

 たとえ、どんな言葉を投げかけようとも、今の白蓮の心は救えない。

 彼女の心は、もう壊れかけている。

 寄り添うことも許されない、絶望的な現実が、ここにあった。

 そうしている間に、白蓮は立ち上がり、荷物を持たずに外へ出ようと歩き出していて。

 それの背中を追いながら、ナズーリンは問う。

 

「…じゃあ、これからどうするつもりだい」

「………妖怪の数を、()()()()()()

「…は?」

「――ッ聖!!」

 

 寺を出る寸前、もう一つの声が響いた。

 なりふり構わず、都に向かおうとする白蓮の背中に突進し。 

 彼女の腕を、強く引いて。

 

「………星」

 

 白蓮は、涙の枯れた顔で、消えそうな声で笑った。

 

「…本当に、立派になったわね」

「……やめてください、もう」

「仮に私との関係が明らかになっても、今のあなたなら大丈夫。毘沙門天代理になら、誰も手を出せ」

「――やめて!」

 

 寅丸星として、この世に生まれ変わった時からずっと、一度も見せなかった、悲痛な顔だった。

 白蓮の言葉を、深夜だろうと関係ないと言わんばかりの、大声で遮り、そして。

 

「駄目です。あなたがいないと、私は」

「星。私はもう、あなた達に迷惑しかかけないから」

「駄目…」

「噂は聞いたでしょう?藤原家当主も、宇坐の村長も、そしてあの村の…小さな子も」

「聖」

「私が殺したの、全員」

 

 星は、顔を引き攣らせながらも、それを止めることができなかった。

 音もなく、ただゆっくりと流れる涙。――白蓮の両目から、本当に小さな、涙の粒が、顔に線を刻んでいた。

 

「私のせいなんです。私が彼を…檮杌を助けたから」

「……………………それ以上は」

「彼が、人を害することのみに生きる、異国の邪神だと見抜けなかった。私が――」

「駄――」

「私が、彼を助けなければ良かったんで――」

 

 ――パンッ!

 甲高い、痛々しい音が響いた。

 

「…………………」

「あ。こ、この…ちがっ」

 

 赤く腫れあがった、白蓮の頬。

 そして、それを作った元凶である、星の右手。

 星の右手に、僅かに込められた妖力。それが白蓮の肌を叩いたことで、小さな裂傷を作っていて――

 決壊し、星の顔が涙で染まった。

 息を止める沈黙は、本当に僅かな間だけで。

 

「駄目です…あなたが、()()()言ったら駄目です…!」

「………」

「駄目。やめて…!あなたが今まで、生きてきた意味を、否定しないで…!」

「…星」

 

 認めたくなかった。

 絶対に、その現実を、他ならぬ白蓮の態度と、それを否定できない材料の数々も。

 どれも、無常に――

 

「星」

「嫌っ!聞きたくない!」

 

 耳を塞ぎ、歪に身体を揺らして。

 まるで子供のように、泣きながら訴えた。

 

「今まで…」

「嫌だ!嫌…!嫌だよ…っ」

「今までありがとう。星」

 

 ふわりと、大好きな香りがした。

 泣き喚き、しゃがみ込んだ星の身体を、優しく抱きしめる白蓮の、その香り。

 優しく頭を撫でて、そして、笑って。

 

「あなたと会えて、本当に良かった」

「……駄目、行かないで…!行っちゃ駄目です聖…!」

「――また、いつか」

 

 悲しさも、悔しさも織り交ぜた。

 白蓮が必死に作った、痛々しい笑顔だった。

 

「…あ」

 

 もう、星は限界だった。

 泣く余力も、彼女に行くなと訴える力も残っておらず。

 ただ、虚ろな視線で、地面を見つめるのみ。

 それを、ナズーリンは静かに、じっと見ていた。

 両手から、強く拳を握りしめたせいで、血が出ていることにも、気づかずに。

 

「…行ってきます」

 

 彼女を、止めることはできなかった。

 力も覇気も失った、星の言葉にならぬ、僅かな呻き声のような音だけが、ナズーリンの耳に入っていた。

 星は、本当に小さな声で。

 すぐ傍にいたナズーリンで、ようやく聞き取れる程の声量で、零す。

 

「私は、神様なのに……………………」

 

 星はそれに、答えや反応を求めてはいないだろう。

 ここで、ナズーリンが反応しようと、逆に反応せず、聞こえなかった振りをしようとも、それでいい。

 ただ、己の心の中にあった、一つの毒を吐き出す作業のようなもので。

 ナズーリンは前者。

 そしてその上で。

 

「…なんで、誰も救えないんですか……………」

 

 その問いに、答えることはできなかった。

 

 

 

 


 

 

 

 

 ――宮廷総監部より通達――

 

 一、先日生存が確認された『四凶』の一柱、檮杌の封印作業の続行。

   続き、讃岐造を主軸とする『竹取の都』、その永久的な閉鎖と封印を確定。

 

 二、藤原家の生存者、その使用人から元征伐部隊の人間を全て、新たに編成した『対檮杌特殊討伐部隊』に統合させることを決定する。

 

 三、物部崔爾、東風谷を主軸とした『浄界』の維持・強化の人員以外、どのような例外も認めず、封印した『竹取の都』内への侵入を禁止する。

 

 四、今回の事件を引き起こした重罪人、聖白蓮を確保。その後見せしめとして、磔にして焼死させることを決定する。

   もしも抵抗され、確保が厳しいと判断した場合は、五の規則に繋げ、当人の判断に全てを任せる事とする。

 

 五、聖白蓮の死刑執行役として――

 

 

 

 


 

 

 

 

 ――パンッ!

 白蓮が手を叩く。

 夜の静寂で、その音はより、鼓膜に鋭く響き、痛い程に存在を主張する。

 静かな都であるが、それはあくまでも、夜の闇に紛れているだけ。

 こうして、何度も音を立てて、同時に少しでも、"人間の香り"を放てば――

 

「……………」

 

 ――パンッ!

 ――パンッ!!

 

【おいでェ…おいでぇ…えぇ…】

 

 声がした。

 白蓮の背後、倒壊した瓦礫の山から。

 こちらを覗き込む、醜悪で恐ろしい存在が。

 

【ここは危なイ。あったかイご飯】

「…………」

 

 ――パァンッ!

 再び、もう一度手を打ち合わせて音を鳴らす。

 

【お歌も歌えるよ、お父さんもお母さんも、お姉ちゃんもお弟も、先生モッイルよ…】

「私に弟はいません。もう死にました」

 

 妖怪。

 『竹取の都』に封じられた、残る数百体の妖怪。

 あれから、都の陰陽師が死に物狂いで退魔の力を注ぎ、全力で退治したことで、全盛の頃と比べて、その数は非常に少なくなった。

 だが、何より。

 それだけで妖怪が、1000万もいた彼らが消える訳ではない。

 彼らが数を減らした理由、陰陽師によって退治されたのとは別の。

 もう一つの、その理由。

 

【私に弟はイマセン。もう死にましたぁアあぁぁああ】

「……………………」

 

 ――腐臭がする。

 決して隠すことも、誤魔化すことも叶わない程に、全身から発せられる匂い。

 それは、人のではなく、妖怪の。

 ――()()、匂い。

 

 

 

 

【ァァアああアアアアああッあっっあ""ああ"あ"あ""あ""!!!!!】

 

 白蓮の周りから、一気にそれらは現れる。

 言葉も理性もない、その凶悪無比な人外たち。

 都の結界で閉じ込められ、人も食えず、己の飢餓感に殺された、哀れな者共。

 その矛先が、すぐに同じ仲間の筈の妖怪に――共食いという禁忌に手を染めるまでには、僅か数十分もかからなかった。

 彼らは何もせずとも、結界の中で殺し合い、仲間を食い、そして勝手に、恐怖が足りずに自滅していく。

 なら、せめて――

 

「出ましたね」

 

 牛と蛙が合体したような、巨大な妖怪が飛び掛かる。

 同じく、白蓮の右側から、まるでリスのような身体を持った、しかし頭部は人間という、嫌悪感を刺激する妖怪が襲い掛かる。

 先ほどまで、仲間の亡骸を齧っていたのであろう、彼ら。

 その口端と、剥き出しになった牙からは血が滴っており。

 同時に、何十何百もの、死体の匂いが放たれていた。

 

「――ッ!」

 

 白蓮は飛び出し、そして走り続ける。

 その後を追い、そして騒ぎを聞きつけた、全く別の妖怪もまた、動く白蓮と、それを追う仲間に反応する。

 腹を空かせた彼らにとっては、白蓮とは決して逃してはならない、最高級の餌。

 同時に、どうしても白蓮を追えない、鈍足な妖怪は。

 賢く、白蓮を追うことを優先せず、こちらの獲物に集中し、喰い殺す。

 飛び出す血潮と、鈍足な妖怪が放つ、思わず耳を塞ぎたくなる絶叫。

 そして。

 

【あはハハハハハハハあはっ、あはハハハハハハハ】

【ちょうだイィいいいいいいいいい】

【あかっあ、赤あかアカ…あ、おはっ!青はど、こどこ!っ!?】

【きゃはははははははははははははははははははははははははははは】

 

 ――哀れな。

 ただ、そう思う。

 できるだけ多くの、魑魅魍魎共を引きつける為に、白蓮は走る。

 だが、その時ふと、視界の隅に映る、民家の成れの果てを。

 かつて栄えた、あの輝かしい都の終わりを目撃する度に、白蓮の脳には、あの景色がフラッシュバックする。

 鼻から上を両断され――

 

「…う」

 

 あの、小さな、未来ある子供が――

 

「ッぐ…」

 

 僅かに喉からせり上がった胃液を、気合いで飲み込み、走る。

 ひきつけた妖怪の数は、およそ四十。

 それら全てが、一直線に並び、白蓮の背中を追っている。

 白蓮は走るのを止め、振り返り。

 

「…………」

 

 両手に込めるは、魔力。

 一度、不慮の事故で妖怪を殺して以来、封印してきた本気の力だった。

 津波のように、目の前にいる四十余りの妖怪たちは、口を大きく広げ。

 白蓮を飲み込もうと、迫る。

 

「――ッ!」

 

 ――それ(明確な殺意)を選べば、もう二度と戻れない。

 妖怪との共存、それを望んでいた分際で、最後の最後に、罪滅ぼしで妖怪を殺すのか。

 そう、己の中にいる、もう一人の自分が蔑む。

 思わず、込めた魔力の流れに乱れが生じる。

 が、それは一瞬だけで。

 すぐ、白蓮が力を込め直した拳を、妖怪たちに向かって放つ寸前。

 

「――道連れアンカー」

 

 目前の妖怪の、頭から何かが突き出した。

 それは伝染し、背後から続いて突進していた、残りの妖怪全てにも。

 頭部を食い破るように、内側から出現したアンカーが、妖怪たちを絶命させた。

 それが、空中でくるりと旋回し、持ち主の場所へと帰っていくのが見える。

 背後。

 

「……………………」

 

 それの正体。

 自分の代わりに、妖怪を殺した存在の名を、白蓮は知っていた。

 

「…聖」

「戻って、ムラサ」

 

 村紗水蜜。

 かつて地縛霊として、多くの人間を傷つけた彼女。

 改心し、罪を償う為に、白蓮の思想を、理想を実現させる為に生きることを選んだ彼女が。

 今、目の前にいた。

 思わず顔を逸らし、白蓮は早歩きで、その場から去ろうとする。

 村紗が言う。

 

「何してるの」

「ムラサ」

「早く戻ろう。ここに入れる陰陽師は限られてる、直接顔を見られる可能性は低い。だから今のうちに」

「やめて」

 

 ――自分とは違う。

 ムラサは地縛霊として、そして"共振"で、意図せず人を殺してしまった。

 自分とは違う。彼女は救われるべき、忌み嫌われてはいけない、ここにいてはいけない。

 ――自分なんかと、一緒にいてはいけない存在だから。

 

「当たり前のように受け入れないで。――なかったことにしないで」

「私だってそうだよ、違いなんてない」

「違わない。あなたと違う。――私は、私のせいで、私が引き起こしたせいで!人が死…」

「――私たちだってそう」

 

 村紗は、断言した。

 

「――私も、同じ人殺し」

「…………ッ」

「私は、聖みたいな優しい心を持ってない。知らない人間が死のうとも、不幸になろうとも知ったこっちゃない。…でも、あなたは違う」

 

 知らない人間の為に。

 赤の他人の為に、本気で苦しみ、そして泣ける心。

 妖怪、怨霊。種族の垣根を超えて、そこにある尊いものを、村紗は守りたかった。

 そして、そんな優しい心を持てない自分。

 人外として、決定的に違う価値観を持つ自分のせいで、白蓮がずっと、悩み続けようとも――

 

「私は、あなたが大好きだから」

「……………」

 

 ――甘えるな。

 思わず、その言葉に救いを見た。

 どうしようもない、己の自分勝手さに、白蓮は顔を苦痛で歪めた。

 村紗の、その言葉は"呪い"だ。

 一度でも、それを、彼女が指し述べた手を受け取り、願いを肯定してしまえば。

 ――自分を許さないと誓った、己の戒めが緩んでしまう。

 

「私は――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ」

 

 新しい声が。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…一人じゃないんだ」

 

 炎翼が、見えた。

 

 

 

 


 

 

 

 

「ご苦労だったな、()()

「……………」

 

 時は少し遡り。

 都を襲った四凶、檮杌が封印され、数時間。

 まだ、満月が強く光り輝く時の、一幕である。

 

「…労う気なんてない癖に」

「……そう言うな、こちらとしても、君の申し出はありがたい。今はとにかく人手が欲しいからな」

「よく言う、私を無理やり当主にしたのはそっちでしょ」

()()()()だからな」

 

 彼女を呼んだ陰陽師の一人は、そう言う。

 それに対し、当の本人は、まるで苦い記憶を呼び起こされたかのように、顔を酷く顰めた。

 

「………」

 

 ()()は唯一、一族の中で異能を持って産まれ、そして生き残った存在。

 前の当主…つまり彼女の父親は、都を檮杌が襲ったそのすぐ後に、唯一壊滅的被害が発生した、都を外れた()()()にいた。

 讃岐造の屋敷にいた筈の彼が、一体なぜ、そんな場所に移動していたのか。

 

 ()()()()()()()()()()()

 同時期に、一切の目撃情報と共に、消息を絶ち、行方をくらましたかぐや姫。

 彼女を最後に見たという、陰陽師の一人からの情報は、その村の方角に向かった。

 

 上記の事を考えれば、その答えは一つであった。

 

「ヒッヒッヒ、あの父親の種から産まれたとは思えんなぁ」

「……………………」

 

 一人、手練れの陰陽師である老婆が、彼女を見て笑う。

 元より、妾を多く、そして二回りも年下のかぐや姫に対し、本気で言い寄っていた前当主は、陰陽師からしてもいい笑い話だった。

 だが、それでも、彼女にとっては大切な父親。

 決して愚弄され、いい気にはならないだろうと、他の陰陽師は、老婆に対し非難するような視線を向けた。

 だが、肝心の彼女は、無表情のまま。

 それに対し、表情を変えることもなく、続けて。

 

「これで、私がそれなりに使えることは証明できた?」

「フン。妖怪程度なら、それこそ退治道具を持った一般人でもできるだろう、私たちが問うのは…」

「別に、知り合いだからとか、そういうのは関係ない」

 

 だが、そこに秘められた、ドス黒い感情。

 

「あいつのせいで、罪もない一般人が死んだ、殺された。――心配なら、"縛り"でも結べばいい」

「………」

「だから、一切の容赦なんてしない」

 

 以前とは違う、白髪の髪。

 そこに、恨みの炎を滾らせて、彼女は宣言する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「聖白蓮は私が殺します」

 

 五、聖白蓮の死刑執行役として。

   藤原家当主・藤原妹紅を任命する。




 ランキングに乗ると作者が喜ぶので評価とお気に入りよろしくね。

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