【本編完結】諏訪子様になった、負け戦を回避したい 作:洩矢廻戦
『原頭喫水染』の領域がもたらす環境効果。
それによる、底なしの海が、今も妹紅の足から、頭にかけてを呑み込まんと躍動する。
さざめき、暴れる黒い水面。
それは船幽霊ではなく、この世に恨みを残し、人を傷つけることによって、自己を確立させていた時代の――『過呪怨霊』であった頃の村紗、その回帰した力の象徴である。
妹紅は普段、霊力による身体能力の向上を施しているが。
今こうして立っている間にも、その比重は足元へ、特に水面と接している足元に、より高密度の霊力を纏わせている。
その理由こそ、この領域の環境効果である、底なしという海の特徴。
もしも、霊力による強化を施していなかった場合は――
(この水…本来は妖力を消費して具現化し、操るのとは別。……領域を展開した時点で、対内条件の成立と併用した別系統の力の源…燃料切れは期待できないか)
天才の本領。
陰陽師としての知識と。
こうして実際に、曇りのない己の眼で見たことにより、その推測はより高次の、確信のそれへと変わる。
(霊力で足を強化。…これは最重要だね、見た目こそ普通の水だが、浮力や呼吸の問題は無視できない…!)
見た目だけに惑わされるな。
その性質がもたらす、全ての事象を疑うべくして疑え。
戦いの基礎として身に着けた、疑心暗鬼の心を今一度胸に刻み、妹紅はゆっくり息を吐く。
(一時的に下に潜っての奇襲…も、
妹紅が両手に鉤爪を纏い。
対峙する村紗も、身体の周りに水を浮かべて、底の抜けた柄杓を片手に、構える。
――アンカーによる重攻撃、なし。
――同時に、炎の遠距離攻撃に対する防御策、なし。
仮初のものとはいえ、領域を展開したとは到底思えない。
絶望的な有利不利の差が――
「デスパレート…――」
ジュッ――
「クロー…!?」
拮抗が、崩れる。
妹紅が普段、近接格闘の際によく利用する、炎の鉤爪を装備する技である、『デスパレートクロー』。
炎翼の維持と、そして圧縮の為に使う炎の分量を調整し、己の両腕に纏わせるという、シンプルながらも、分かりやすく強く、扱いやすい良技。
だが、今回いつも通り、炎を身体に纏わせようとした途端、妹紅の両腕から、一切の熱が消失する。
「なっ…!?」
それこそが、村紗が真に見据えた勝利――
領域内の、環境効果に全てを賭けた戦術であった。
妹紅は己の炎の造形力を高める為に。
常時、炎の持つ温度を最低限のものにしている。
皮膚が弱い者、そして子供のような例を除き。
基本、人間が熱によって火傷する温度は45度とされている。
妹紅は炎翼による直線加速、そして殺傷性を高める為に、攻撃する瞬間。
そして逆に、攻撃が自身に被弾した瞬間に限り、その温度を一気に引き上げている。
妹紅が自傷してしまわないよう、常時調整を利かせて身に纏う炎。その温度では、領域内に
「
妹紅が彌虚葛籠を発動し。
その後、シン・陰流による簡易領域に移行するまでの間。
ほんの数秒でしかない、たった一瞬の隙に浴びせられた水。
それが真に効力を発揮するのは、妹紅の服、それに染み付き、固定することで動きを鈍くするのではなく――
――それを起点に、見えない水を身体に纏わりつかせたのか…!
最初。あれだけしぶとく呼吸器官を狙い、窒息による作戦勝ちを狙っていたのは、
水による呼吸不全。それを念入りに妹紅に植え付けることで、呼吸を妨げない、特殊な性質を持つこの技を。
濃密な水素に対する警戒を、妹紅は薄くしてしまったのだ。
――全てはこの時の為に。
そう。今、この状況下において妹紅は。
体外での炎の操作が、不可能となった――!
二重、三重に重ねられた作戦の上、ようやく届いた起死回生の策。
そして、これにより妹紅は――
「――蓬莱人形」
妹紅の身体に、炎のような形の紋様が浮かぶ。
その顔から、一切の焦りが消失し、代わりに、静かに役割を遂行する、歯車の瞳が完成した。
知識がどれだけあろうとも。
どれだけ、技術の習得に手間取らない天才であろうと。
戦闘経験の浅さだけは克服ができなかった妹紅は、
――だが、冷静に現実を受け止め、全ての炎熱操作を、己の肉体の内側で完結させる。
その効果は、霊力による基礎能力の向上とは比べ物にはならない、更なる身体能力の向上。
凄まじい機転の速さ。そう評価するしかない。
(でもこれで――)
それを見て、村紗もまた、静かに妹紅を見やる。
元より劣勢。力の差、互いの地力の覆せないであろう、圧倒的な差。
これだけ、有利な状況を味方につけながら、相手には理不尽な不利を押し付けて尚。
それでも、村紗の顔に安堵の色は一つもない。
(――私の土俵に持ち込んだ)
その意思は、鋭く重い。
幽霊である自分の死。それは人間のとは違い、軽く尊いものではないだろう。
が、それでも村紗は、今この瞬間の勝負にて、己の全霊を捧げることを、魂に誓う。
全ては、
もし、自分がここで負けてしまった場合。この複数の分身と統括する、本体の妹紅はすぐにでも、白蓮の下へ駆けつけるだろう。
白蓮の強さは信頼している。だが
まともに抵抗すらできず、命を無抵抗で捧げることすら考えられる。その未来は、絶対に避けないといけない。
絶対に倒す。
生きて帰って、白蓮の、今の荒んだ心を救う。
もう一度、間違えた生き方をしていた自分を、変えてくれた恩人である彼女を。
――今度は、自分が救う。
「……来い」
拳を構え、挑発する妹紅。
それに同調し、同じく拳を構える村紗。
知識。経験を積み重ね、形となった妹紅のそれとは違い。
村紗のはただ、見様見真似で拳を上にあげ、そして力を込めただけの、中身のないもの。
普通なら、この時点で既に、両者の格付けと勝敗は雌雄を決していただろう。
だが、それは人間同士の場合――
「足元がお留守よ!」
手掌による、術の指向性の設定を放棄した、不意打ちの一撃。
妹紅の足元から、螺旋状の水の槍が射出された。
「ッ――と」
妹紅はまず、片膝を沈める体勢に移った。
その時間は、秒数にして0.1秒にも満たないであろう程の、慣れた動作であることが伺える。
そして、霊力による身体強化によって、妹紅は地面から数m程跳躍し、回転。
肉を穿ち、骨を砕き。
身体に穴を開ける勢いで放たれる、槍の数々。
体外での炎の展開を封じられ。
水の蒸発という、最も単純で最適な手段を封じられた妹紅は、これに対し、受け流す以外の道はない。
その為、空中に跳びはねたのだ。
「づっ…!」
飛来する。必殺の鋭利さを誇る攻撃の雨。
最初にぶつかったのは、妹紅の右肩を狙う、一本の槍。
そこに右の手のひらをぶつけ、槍の側面を叩く様に。
そして、空中に浮かぶ己の身体を、押して横に移動させる要領で。
妹紅は、皮膚を裂き、肉を僅かに千切るという犠牲のみで。
その後に襲い掛かった、数本の、残りの槍の雨を避けた。
「ハッ!随分お粗末じゃない?」
妹紅は挑発する。
が、その言葉は、挑発の意味があると同時に、本心の言葉が滲み出たものでもあった。
実際に、村紗が放った槍の攻撃は、最初の狙いこそ良かったものの、その後の余り、残った槍の矛先は、最初の一本のと大して変わっていない。
あれでは、初撃さえ良ければ後はどうとでもなってしまう。実際片手を僅かに負傷した妹紅が、それ以外に傷を負っていないのが良い証拠。
故に、妹紅はそれの真意を探る意図も含めて、言う。
「見た感じ戦い慣れてないみたいだけど、それで本当に勝つつもり?」
「ほざきなさい。所詮人間と人外の差、そうして余裕でいられるのも今の内よ」
「強がり?」
「えぇ、これは傲慢って言うのよ」
村紗の返答。それは地縛霊であった頃の、全盛の力を振るうのと同時に見せた、威厳の色。
妹紅の反応を待つことなく、村紗は再び、柄杓を振るい、『原頭喫水染』の地面にある、底なしの海に命令を下す。
同時に。
妹紅の視線の先で、――柄杓の先が
「な――!?」
初めて、妹紅は純粋な動揺を見せたかもしれない。
落下運動を続ける今の身体は。体内で完結させた、炎熱操作の延長戦である『蓬莱人形』による、肉体の外付けの強化だけではどうしようもない。
仮に、即消火されることを考慮し、それでも炎翼を展開させるとしても、体内に保管した炎の
結果として、妹紅は炎翼による軌道修正、柄杓の束縛という、奇妙な技を避けきることができず。
その腕に、まるで生きた蛇のように、柄杓が纏わりつく。
だが、忘れてはいけない。
柄杓による束縛はあくまでも、先ほど振るった…それはつまり、水を操作する為の動作。その延長線に過ぎないのだ。
妹紅がハッと気づいた時には遅く。
コンマを挟むことなく、文字通り一瞬、次の瞬間襲い掛かった、巨大な水の鉄槌。
槍という分かりやすい殺傷性のない、ただ相手を「叩く」という目的にのみ特化した一撃。
だが、殺傷性を捨てるという即席の"縛り"により、水の成形速度、そして硬度や密度に
その結果、妹紅はミシリと、左半身全体に、滲むような痛みを抱え。
次の瞬間、そのまま領域の地面に挟まれ、叩き潰された。
「ギッ…!?」
咄嗟に霊力を纏い、身体が領域の海に沈まないようにする。
だが、それによって逆に、妹紅は叩きつけられた事による衝撃を逃がせなかった。
(骨がイったか……)
妹紅は冷静に、今の自分が負ったダメージを把握し、次の対策を練り上げる。
(この感じ…領域内にいるってだけじゃないな。…分身の方が、勝手に力を必要以上に使ってる)
意識を向けるのは、領域を構成する外殻の向こう側。
最初に、白蓮を追いかけるようにと指示し、それ以降コンタクトを断っていた、己の半身。
陰陽師としての技術と、妹紅が持つ炎の異能を複合させた分身。
括りとしては式神ではあるものの、共有する力、そして記憶も含めて、それは文字通り、もう一人の妹紅そのものなのだ。
炎の過剰な生成。そして既に、白蓮に追いつき、戦いを始めているというのに、未だに止めを刺していない。
分身の自分に対し、本体であるこの場にいる妹紅は、仕方ないというため息を吐き。
「…まぁ私だからね」
実際に、こちらの妹紅が白蓮を追う側に回ろうとも、結果は同じだったであろう。
それほどまでに、今の妹紅が白蓮に対し、思うところがあるのは事実である。
妖怪との共存、生き物の垣根を超えた、理想の果て――幻想の世界を夢見たことを。
そして、その夢への第一歩を、裏切りによって踏みにじられ。
何より、白蓮自身が、折れてしまったという現実が。妹紅は許せなかった。
「だからこそ。――お前だけはここで落とさせてもらう」
故に。
妹紅は怨霊ムラサという、目の前の存在を終わらせることを誓った。
檮杌の例が生じたことで、より一層、殺人経験のある村紗という存在は、決して許容できるものではないのだ。
改心した、今はもう大丈夫。そのような言葉に、「そうですか」と安心できる人間など、果たしてどこに存在するだろうか。
どうしようもない現実だが、所詮人間と共存できる妖怪など、人を害したことのない、希少な者に限った話なのだ。
白蓮の理想は、決して叶うことはない。
それは、決して覆しようのない事実だった。
彼女が夢見るのは、文字通りあらゆる妖怪との共存。だが、妹紅は知っている。
陰陽師として、そして肉親の死という経験からも、そして他ならぬこの目で、都に攻め入ってきた妖怪たちの、どうしようもない醜さを知った。
彼らが喜々として、人々の暮らしてきた場所を破壊する姿も。
逃げ遅れた人間を、甘い言葉で誘惑し、そして喰い殺そうとする所も見た。
例外など、決してあってはいけないのだ。
人を傷つけ、恐れられるのが妖怪であり、生まれついての定めでもある。
一人でも、その均衡が崩れてしまえば。
村紗をなぁなぁにして、結果として、区切りを用意しなければ、訪れるのは第二の悲劇だ。
白蓮の過ちを、決して過去の、忘れ去られた幻想のものにしてはいけないのだ。
だからこそ、妹紅は立ち向かう。
妹紅は踏み込み、前屈みになった瞬間に――
「――ガハッ…!」
加速。
そして
絶大な衝撃を与え、鈍ると思っていた左側からの奇襲。――妹紅の狙い通り、村紗の防御反応は遅れてしまっていて。
結果として、ボキッ!と痛ましい音が一つ鳴り響くと共に、村紗の身体がくの字に、そして妹紅とは逆に、右腕が折れた。
ただ肉体を強化しただけではない。
その技に裏付けられたのは、力と重さ、そして――速度。
秘密は妹紅の足裏に見えた、小さな炎。
今までずっと使わなかった、炎翼による加速の要領――不意打ちの速度上限の解放。
吹き飛ぶ村紗を追い、妹紅は駆ける。
「シッ――!」
駆けるというより、跳ぶと表現した方がいいだろう。
一度足を踏み込めば、二重の強化術、基礎的な霊力の身体強化と、体内限定の『蓬莱人形』による豪速が解放される。
村紗の身体が、足が再び踏みしめられることはなく。
それより先に、妹紅が振り上げた拳が、村紗の鳩尾に吸い込まれるように突き刺さる。
硬直は、一瞬。
爆発が起こったかのような衝撃と共に、村紗の身体は宙を舞い。
その先に、ただ上に跳んだだけの妹紅が、両手を組み合わせて、大きく上にし――
即。振り下ろす。
「っらぁ!」
ダブルスレッジハンマー、後世ではそう称される技だ。
全体重を込めた、妹紅のその一撃を頭に喰らった村紗は、血と胃液を嘔吐し、そのまま転がるように、更に横へ吹き飛んだ。
妹紅は、それを追うことはしない。
「…戦闘経験は、まだ浅い自覚はあったけどさ」
左手。人差し指と中指、そして親指を弓に見立て。
妹紅は残る右手で、弓を引く動作を再現する。
その瞬間、数分ぶりに、あの炎の矢が出現して、妹紅はそれを番った。
村紗はその光景に、舌打ちする余裕すら残っていない。
今まで使うことができなかった、体外での炎の造形能力が復活している。
それはつまり、彼女の身体を覆いつくし、常時消火活動を続けていた筈の、濃密な水素が失われたという事。
「うぅ"…ぇっ……」
「あんた程じゃなかったね」
――圧倒的な、戦いの才能の差。
それは時に残酷で、いざ対峙した際の、心の底から屈服してしまう、あの感覚を、村紗は知っている。
覚えている。
今でも、初めて白蓮と出会い、そして救われた――
「初見の技ならなんとかなったかもしれないね、けど…」
妹紅は続ける。
矢を村紗に向けて、柄杓の動きを、不意打ちを警戒して、より集中して。
視線を、村紗の傷だらけの身体、特に先ほど、自分の蹴りで折った腕に向けて。
「…けど、もう終わりでしょ?」
ギシリ――
妹紅の言葉に同意するように、そんな音がふと響く。
ピシリ――
その音は、今度は更にハッキリと、大きく聞こえた。
そしてそれの発生源は――領域の外殻。
「もう、正真正銘の限界って感じかな」
パキッ――
妹紅の身体を、一筋の月光が照らす。
そして、十数センチ程の厚さしかない、真っ黒な結界の残滓、領域の外殻だったものが、雨のように降り注ぐ。
二つ、三つと、時間が過ぎる度に、領域には多くの穴が発生していて、最初にあった、夜の海そのものだった『原頭喫水染』の、小さな世界が崩れ始める。
差し込む月光の数が増え、とうとう、妹紅の身体だけでなく、村紗も含めて八割程が照らされ。
外殻の天井部位に、おびただしい数の亀裂が走っている。
――いつ、領域が崩壊してもおかしくない。
「もう一度聞くけど。――諦めな。そうしたら楽に退治してあげる」
改めて、聞く。
理性のない、知性も感じられない獣のような妖怪であれば、そのような問答はしなかっただろう。
だが、村紗は元地縛霊、つまりかつては人間という、
だからこそだろう。妹紅の提案はあくまでも、最低限、相手の尊厳に歩み寄った、情けに近いものでしかない。
――彼女は、今も心は人間なのだ。
――だからこそ、何度も
「抜けてるんじゃない?」
村紗は笑う。
折れた腕と、疲弊した今の状態では、まともに柄杓を振るうどころか、水の基本生成すらままならない。
妖力の枯渇という、目で見る以上に理解できる死に体だったからこそ、妹紅はそこに集中した。
――否。
――集中、してしまった。
「不完全だろうと、領域は領域――」
村紗が左手で、文字通り上を指さし。
それに、妹紅が視線を同じように向けた途端――
「――上も」
崩壊寸前の領域、『原頭喫水染』。
それが最後に振り絞り、
「――
かつて白蓮が乗っていた。
法力で作った船の原型を、――妹紅の上から突き落とす。
一般的に、人間は5~6Gで失神すると言われている。
そして、村紗がかつて、地縛霊だった時代に取り込み、今も生得領域に収納していた舟は、ある変化を遂げていた。
村紗の妖力を浴び続け、結果として、"浴"に近い現象を引き起こした舟は、見た目に収まらない重量、そして強度を体現しており。
それの持つ重量、領域内による術式精度の向上により、現在妹紅の身体には、約40G程の負荷がかかっている。
高いGにより、血液が下肢に集中し、脳が虚血状態になるのを防ぐ為。
妹紅は下半身を重点的に強化し、その次に優先して、全身に強化を施す。
だが、咄嗟に無理な体勢で受け止めてしまった為に。
妹紅の右腓骨と踵骨にはヒビが入っている。
そして、領域の下にある、底なしの海。
仮に潜ってしまえば最後、それは生得領域の主である村紗の許可がなければ、決して外に出ることは叶わず。
文字通り――死ぬまで溺れることとなるのだ。
「ぎッ…ぐぅぅぅ…!!」
――そして、舟を顕現させ続けるのにも、限界が存在する。
村紗の鼻から、おびただしい量の血が流れ出て、下にある海と混ざる。
脳に近い、鼻からの出血。
それがどれほど危険な状態かは、人間だろうと、妖怪だろうと共通する事。
舟の顕在持続。底なしの海を解除しないよう、領域の外殻が崩壊する速度を、必死に抑える。
脳が焼き切れる程の負荷、そして逆に、文字通り身体に襲い掛かる負荷。
村紗と妹紅は、今この瞬間に、ようやく真の拮抗を手にし。
――両者、いつ死んでもおかしくない、そんな状況であった。
「しぶといっての…!早く潰れなさいよ!」
血を吐きながら、村紗は叫ぶ。
無理をして喋ったせいか、領域の外殻の破片が、パラ…と再び、三つほど剥がれて落ちたのが見え。
「ぐ…ぐぐぐ…!」
「クソッ…!早く早く!」
舟を何とか支え、膝をついて耐える妹紅。
ぐしゃりと、また鈍い音が響き、片膝をついた妹紅の体勢が、更に斜めに移行する。
凄まじい重量。二重の強化術でも敵わないのか、妹紅の膝が潰れ、肉と骨の断面が見える。
村紗は必死に耐える。
妹紅もまた、必死に
だが、その目的は違う。
村紗にとっては、それは己の死から逃れる為の、足掻きの為の耐久に見えただろう。
だが違う。
妹紅にとって、今のこの時間は、決して生き延びる為のものではない。
その意識が向けているのは、もう一人の為に――
「ぐぅう"う"う"う"」
――ぐちゃっ!
片膝どころか、今度は腰まで潰れ。
目と鼻、口と、あらゆる穴から血液を吹きだしながらも、妹紅は必死に舟の重量に耐えていて。
だが、下半身を失い、もはやまともに霊力を練ることはできない。
霊力は、腹で練るものだ。
村紗の予想通り、下半身を失ってからしばらくは、なんとか必死に耐えていた妹紅だったが。
霊力を生み出す、最も重要な臓器を失い、その残り火にも限界が訪れ。
フッ――と、妹紅の全身に走っていた、強化術の光が消えた。
「あ――」
刹那。
スローモーションに映る、妹紅の最後。
何と運が悪いのか、妹紅が最後に、霊力での強化がままならなくなった瞬間に、『原頭喫水染』が完全な崩壊を迎え。
遅れて消失反応を始める、呼び出した舟と、領域が解除され、戻った地面に挟まれ、潰された。
もう少し、『原頭喫水染』が維持できていれば、彼女は下半身を潰されながらも、海に沈み、まだ命は助かった可能性があった。
――だが、運命は彼女に微笑まず。
――藤原妹紅、
投稿時間は何時がいいか
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7:00~9:00
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13:00~15:00
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16:00~18:00
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19:00~21:00
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