pixivとかなろうにも、完全オリジナルの作品出してるから良ければ見てね
昼間は紅葉が美しく舞い散る鮮やかな名もなき森も、夜にはなりを潜め、暗く静かな無彩色の世界に変わり、月明かりだけがその世界に色をもたらす。
「はぁ…はぁ…!」
男は息も絶え絶えになり、血が滴る右腕を抑えながら苦しそうに走り続ける。
「きひひ…」
何処まで走っても聞こえる不気味な笑いと、血が滴り痛む右腕が着実に体力と精神を蝕み、男の生きる気力を奪う。
「ほれほれ、逃げろ!でなければ死んでしまうぞ~!」
「ひ、ひぃ!誰か!誰かぁぁ…!ぁぁ!!」
一縷の望みに掛けた必死の叫びも木の根に足を取られた事で転び、それすらも途切れてしまう。
「なんじゃ、もう終わりか…つまらんのう…
ま、人間にしては些かすばしっこかったがな」
長い爪にボロボロの布切れを纏った血色の悪い老人がゆっくりと舌なめずりをしながら、闇の中から現れる。
「さて、走って喉が渇いたから、お主の血で喉を潤すとするか」
老人が腕を振り上げ、気色の悪い笑みをしている姿を見て、死を悟って怯えながら男は目を瞑る。
嬉々として、その腕が振り下されようとする刹那。
「水の呼吸、弍の型…」
凪いだ水面に落ちた一雫の様に静かで優しく響く様な美しい声。
すると
「水車!」
バシャァァ!
青い波柄の円の斬撃が老人の腕を断ち切り、濁った血が辺りに飛び散る。
「…な…!」
呆気にとられた老人が腕を見た瞬間、老人の首がずれてぼとりと落ち、燃え尽きた様にばらばらと灰になって崩れていく。
「…?」
男はゆっくりと目を開けて、自身の命がある事に安堵し、目の前に立つ何者かを見る。
黒く長い髪を束ねた美しい女性が刀に付いた血を払う姿と、少し寂しげな血の付いた顔が目に映り、その気高さに目を奪われる。
女性が顔に着いた血を拭い、刀を鞘に納め、優しく微笑み手を伸ばす。
「間に合ってよかった、大丈夫ですか」
優しく暖かな天女の如き微笑みが生き延びた安堵と未だに残る恐怖心を包み込み、自然と涙が零れる。
「あ、あの…助けて…下さ…」
差し出された手を握ると、忘れていた痛みが右腕に走る。
「その腕…お待ちください」
そういって屈んだ女性が羽織の裾部分を破り、傷口に当て、巻き付けて止血する。
「もう少しで仲間が来ますので…」
「違います…まだ…!」
「他にもまだ…鬼が…?」
男は頷く、かなり深刻な状況らしい。
「水柱様!!」
全身を黒い服と布で覆われた人が二人走ってきて、彼女にむかって頭を下げる。
「ちょうど良かった彼らは「隠」とよばれる私の仲間です、治療は彼らに任せます」
女性が紹介すると、隠と呼ばれた二人が今度は男に頭を下げる。
「この方をお願いします、どうやら他にも鬼が居るようですので、私は引き続きこの山を探します」
「あ、待っ…!」
何かを言おうと手を伸ばすが、「水柱」と呼ばれた女性は、目にも止まらぬ速さでどこかへ走り去ってしまった。
「ふふ、お礼でしたらまた後で…」
唯一見える目元が笑みを浮かべ、男の右腕へと屈み、救急箱を開く。
「ち、違う!」
涙を流し懇願する男をなだめようともう一人の隠が近づき、左手側に同じように屈む。
「もう大丈夫ですから…落ち着い…」
「逃げて!!!」
突如として、凄まじい速さで男の両手が二人の首を掴む。
「あ…が……なん…」
「あ、あああぁぁぁあ…!」
男は泣きながら人間とは思えない力で二人の首を絞め続け、抵抗する動きを見せるもしばらくして二人の動きが止まり、だらりと力が抜けた後に手を放す。
「あ、あああぁ…いや…嫌だァァ…!」
嘆きの涙を流しながら勝手に体が動き出し、冷たくなった二人を抱えて夜の森を走り出す。
しばらく走り続け森すら抜けて、草が生えた平地へと辿り着く、そして二人を下ろし、今度は泣きながら自分の首をじわじわと締め始める。
「あ…やだ…死にたく…ないぃ…」
苦しむ男の目の前、少しだけ草が生えていない場所の土が少し盛り上がり、生物で気では無い無機物な腕が現れ、少しずつその全貌が顕になる。
関節がからくりの様な形をした、八尺はあろうかと思われる大きな、12対程の人型の腕と、八対の虫の足を持つ、百足と蜘蛛が混じった様な無機質な体、髪の毛で隠れた見るからに陰険そうな女性の顔、そしてその右目に「下陸」と書かれた瞳を持つ、歪な生物が盛り上がった地面を掻き分け現れる。
「あ、ぁりがとう、ございます…い、いひひ…貴方、いい人なので…じっくり食べてあげます、ひひ」
はにかんだ笑みを浮かべて、怯えるような不気味な声でそいつは笑う。
男の耳にもうその言葉は聞こえてない。
「は、柱来たら…めんど、く…くさい…家で…食べちゃお…いひひ…」
そういうと、隠と男の死体を持ちやすい大きさにちぎり、それを抱えて再び地面の中へと潜っていった。
数時間後
「
日が昇り始めた名も無き山で、唯一の生存者だった男を任せていた二人の隠の名前を呼び続ける。
「何処ですか!!居たら返事して下さい!!」
目に涙を浮かべ、薄々気づいている事実を受け入れまいと必死に山中を駆け巡り、もう五週は、それなりに大きいこの山を回っている。
息も少し乱れ始め、顔には汗が滲む。
(…落ち着いて、三人は生きてる…絶対に…)
そうやって自分に言い聞かせ、再び走り出そうとした瞬間
「もうやめろ、
その姿を見かねた男が、彼女の名前を呼び、その肩を掴んで制止する。
赤と黄色が入り交じって弾けた様な髪と瞳、纏う白い羽織には裾に燃えるような柄が施され、顎には僅かに生えた無精髭はその者の戦いに身を置いた年期を感じさせる。
「でも
…ここに確かに居たんです…もう一度探せば…!」
そう言いかけた奏凪と呼ばれた女性に、男は平手打ちをし、突き刺すような熱を纏った瞳で見つめ、厳かに言葉を続ける。
「俺達は鬼殺隊である前に一人の人間だ、例え柱であろうと一つの過ちで救えない者も居る
俺達はそんな無念も背負って生きていかなくては行けない、柱になったばかりの君には少々酷かもしれない、だがそれでも足を止める事は許されないんだ」
押し潰すような圧と共に、実感のこもった厳しい言葉を淡々と突きつける。
女性は悔しさから拳を握り、俯いて、歯を食いしばり堪えようとする涙がその頬を伝っている。
「君は確かに、そんな一つの油断で三人の命を取りこぼした
ならばこれからは、それ以上に多くの命を救えるように戦い、繋いでいくのが柱の役割だ、今までの様に自身が生きる事だけを考えれば良い訳ではない、それが出来なければ柱の資格は無い、君はもう守る側なのだから」
「…っ…はい!!」
嗚咽混じりに涙を流し、奏凪は大声で返事する。
その姿を見届けた男は、彼女の頭にポンと励ますように手を一瞬だけ置き、そのまま振り返って歩き始める。
奏凪は涙を拭って前を向き、腫れた目のまま男の後ろを着いていくように歩き始める。
(…奏凪が助けた筈の彼ら…死体すら見つからないのは違和感を感じる、血気術も持たないこの山の鬼なら、食い荒らした後死体なり衣服や血が残る…
つまり…俺達が知らないもう一体が居た…気配の隠し方が異常に上手い鬼か…もしくは"十二鬼月"の内の一体か…なんにせよ…)
まだ止まらない涙を拭きながら着いてくる奏凪の方をチラリとみる。
(奏凪に出会って居なくて良かった、柱とはいえまだ十五歳の子供、それに先代の急逝による殆ど穴埋めに近い任命…確かに才能に満ちているとは言え、それゆえ脆い部分も多い
今回の任務も、本当は俺がしっかりするべきだったが、奏凪には辛い思いをさせてしまった
俺も彼女に偉そうに言えた立場じゃないな、全く情けない)
睨む様に正面を向き直し、変わらない速さで決意を新たに歩いていく。
(俺も彼女以上に精進しなくては)
普段は明るく感じる陽の光も、葉の影のせいか、自責の念によるものだろうか、不思議と暗く感じる。
紅葉満ちる森の中を、二人は寂しげな足取りで歩いていった。
ーーーーーー
べべん!!
気がつくと、土を掘る手が畳の様な地面へと突き刺さっていた。
部屋を埋め込んだような無限に続く空間、並んだ部屋の一つ一つが複雑に入り交じり、忙しなく動き続けている。
「こ、こここ「無限城」!?…ふひ、は、は初めて…み、見たぁ…ひひ…綺麗…!」
戸惑いつつもその景色に感嘆の言葉を漏らし、辺りをキョロキョロと見回す。
「
首筋を刺されたような冷たく鋭い、圧倒的な強さと傲慢さを感じさせる声が綴蝉と呼ばれた怪物の後ろから響く。
少し質素な服を纏った男は、どこからとも無く現れた。
その赤黒い、美しさすら覚える瞳には、煮え滾るような怒りの感情が込められていた。
「…何をやっている?貴様の気分程度で、柱を二人もみすみす逃がすとは」
淡々と、しかし殺意を込めた言葉が、綴蝉の体を突き刺す。
「貴様は最下といえ、十二鬼月なのだ
ここ九十年、顔ぶれの変わらない面々…だが貴様が柱を殺したのは何年前だ? 柱如きも殺せぬ十二鬼月に、なんの価値がある?」
「ひ、ひぃぃぃ…!」
「これ以上、私を失望させるな
貴様の代わりは居なくとも、これ以上失態を犯すなら貴様がいる必要などもはや皆無だ」
男は踵を返し、振り返ること無く歩いていく。
「…次にここに来るのは、貴様が死んだ後か」
べべん!!
「貴様が死ぬ時だ」
脳に直接響く様な最後の一言。
それと同時に聞こえた琵琶の音が響き、目の前の襖が勢いよく閉められた時には既に掘り進んでいた途中の土の中だった。
「…ふひひ…は、初めて口を…この私に叱咤を…きひひひ…!!」
狭い空間で所狭しと歓喜に満ちた表情で地面と壁をボコボコと叩き、地面を揺らす。
「…柱…こ、殺せば…も、もっともっと血をくれるかなぁ…!そしたら、そしたらぁ…!」
無邪気で邪悪な笑みを浮かべ、右目に浮かぶ「下陸」という文字を一層輝かせる。
「入れ替わりの血戦してぇ、上弦になってぇ…!
もっともっとあの方の血を貰うんだぁあああはははは!!」
地の底から響く、恐ろしい喜叫。
子供のようにはしゃぐその異形の笑い声は、一帯の大地を揺らす。
今宵もまた別の名も無き山に、赤黒い花が咲き散ろうとしていた。
はい、主人公が出て来ません、お疲れ様でした!
多分次回に出ます。