鬼滅の刃 ~零の空~   作:ぬそん

6 / 6
バチバチに原作のネタバレ入っています。
気をつけてください


一人の姉妹

パラパラ…

砂浜を染めていた光は徐々に輝きを失せて行き、辺りに舞い散る濃い砂煙の中に一つの人影が立ち尽くしていた。

「……ふぅー…な?良いもん見れたろ?」

少しづつあらわになっていく影が楽し気な深呼吸と共に弾け飛んだ腕を瞬く間に再生し、期待の眼差しを少し先の残火燻る濃煙へ向け続けている。

「…おーおー…くくくっ…」

友人と話すように軽く砕けた口調で目の前の煙へ話しかけると、僅かに煙が盛り上がり、力強く踏み込んだ足が先行して煙を突き破り破壊被へと猛進を始める。

「…そうだよなぁ…!」

煙から飛び出たその姿勢は何かを潜るように低く、その高さを維持したまま距離を詰めていく。

「まだまだ足りねぇよなぁ!!」

 

「昊の呼吸…弐の型!」

ヒュルルル…!

由月の持つ刀が明るく濃い炎の模様に包まれ、見下す破壊被へ向けて大地を蹴り、刀を振り上げる。

「”炎天空々(えんてんからから)”!」

シュボォ!

振り上げられた刃が破壊被の胸元を掠め、僅かに血が滴る。

「はっはぁ!良い熱さだ!お前も盛り上がってんじゃねぇか!?」

由月は刀を持ち上げた勢いに任せて身体を一回転させ、再び下から潜り込むように刀を振り上げる。

「はぁぁ!!」

二度、三度、四度…炎の模様が幾度となく弧を描き、後退して躱す破壊被の身体へと少しずつ深く、着実に切り込んでいく。

再生が辛うじて間に合わないほどの速度で二度目は腕を落とし、三度目は片足を削ぎ、四度目は片目を潰し、五度目で遂に脇腹へとめり込ませ、胴を袈裟に両断した。

「っ!!」

破壊被は切り離され、落ちていく自身の半身を止める事が出来ずに地面へと体が落ちる。

眼前に振り上げた刀を返し、頸を狙おうと睨む由月の姿が映る。

そんな中で、鬼はある一点を見つめ

「…ははっ…」

 

独り、嗤った。

「血鬼術…」

「!!?」

「“粘万雷(ねばりばんらい)"…!」

 

辺りへ散っていた破壊被の血が一斉に輝きだし、瞬く間にパン!とした破裂音と光を放ち同時に弾け始める。

由月の目の前に跳ねていた血も弾け、至近距離からその爆発を受けて怯ん事で、振り下ろし始めていた刀の軌道が狂う、その頸を狙った筈であろう渾身の一撃は破壊被の髪を僅かに掠め、無情にも空を切ってしまった。

「…あー、危なっ…そんなに焦んなよ、もっと楽しもうぜ」

破壊被は砂浜に寝転びながら、余裕綽々の態度で由月を見上げる。

「くっ…!」

再び首を狙おうと刀を持ち上げようとした瞬間、残っていた破壊被の下半身が由月の脇腹へ真横から蹴りを喰らわせた。

「ぁが…!」

ミシミシ…!

意識外からの攻撃をモロにくらい、喰らった部位から嫌な音を立てながら由月は海の方へと蹴り飛ばされ、水面へと叩きつけられる。

「…よいしょ…っと…」

すぐさま破壊被は体を再生し、伸びをしながらゆっくりと立ち上がる。

「ふぃー、久しぶりにやったなー、今の分裂攻撃」

爪先で軽く地面を叩き、頭に付いた砂を払う。

 

ザパァン!!

「……はぁー……はぁー…っ…!」

由月は膝を付きながら何とか水面から体を出すが、肋骨が折れた事で呼吸する度に激痛が走り、顔を歪める。

「……ゲボっ…ゲホ…!」

呼吸しようとするも口から血の塊を流し、それが海に溶けて薄くなり、少しずつ広がっていくのが目に入った。

「どーする?もう終わらせちまって良いかー?」

遠くの方から聞こえる、忌まわしい声。

刀を浅瀬へと刺し、ふらつきながら立ち上がり、焦げた右頬から滴る血を少し拭う。

「おーい、聞いてるかー?」

 

「ふぅぅぅ…!」

(どうやら…血の量に応じて火力と範囲が上がるらしい…極小の量だったからこれだけで済んだ…逆に言うとこれ以下の威力は無いという事…しかも…)

「っ…」

刀を握っている僅かに腕が震え、更にその先の刀身は刃こぼれまでしていた。

(手首から先だけの爆発でも…受け流し切ったはずなのにこの威力……恐らくさっきのが最後の機会…それも逃したという事は私の体力が夜明けまで持つかの戦いに…)

『…昔っから堅いなぁ、由月(ゆづき)は…』

「…姉さん…?」

『変わって、由月には厳しい相手だよ』

「…でも今、この体は…!」

『大丈夫、後は任せて』

 

(……返事が無ぇな、何か一人で喋ってるし…遊べねぇなら殺すか)

破壊被が僅かに屈み、一気に由月の方へと突っ込んで行く。

由月は相変わらず動かない。

その手が目の前まで迫ろうとした時…

 

プツン…

 

目の前から鬼狩りの姿が一瞬にして消えた。

そして灰よりも白く明るい総髪が視界の最下で僅かに揺れ、大きくうねった。

 

スパァン!

破壊被の腕が浅瀬に飛沫を上げながら落ちる。

「昊の呼吸 漆の型…」

ヒュルルル…

斬り上げた刀を返し、更に後ろへと、正面から見えなくなる程に振り上げた刃を上半身の捻りを加えて放つが、ギリギリで横方向に躱されてしまう。

「そいつはさっき見た…ぜ…!」

嘲笑いながら躱した破壊被が反撃で仕留めようとした瞬間、一度放った彼女の足が風圧で荒れる水面から離れ、宙に浮く。

「改!!」

「っ!!」

刀を振るった勢いそのままに空中へ飛び上がった事で体を一回転させ、空を舞いながら頸へ向かって再び全力で振るう。

「”凶乱神風・旋(きょうらんかみかぜ めぐり)”!!」

「ちっ!」

破壊被が咄嗟に斬られた腕を再生し、両手で頸を防御した。

 

ガキィィィン!!

 

鉄同士がぶつかり合う様な鈍く鋭い音と共にその衝撃で周りの海水が二人を中心に円形に弾け飛び、水底が顕になる。

それ程の威力だったが片腕を切断したところで止まってしまい、頸を落とすには至らない。

破壊被は勢いが止まったのを見計らい、腕にめり込んだ刀を強引に弾き返す。

「やっぱり花火は…」

腕から刀が離れ、空中に投げ出されて逃げ場の無い所を狙って腕から滴り落ちる血を投げ、不敵に笑う。

「打ち上げてこそだよな!!」

血気術 “紅飛沫蜂(べにしぶきばち)

 

血が赤く光りすぐさま小さく爆ぜて、赤黒い火花達が辺りへと飛び散る。

一つ一つが燃える刃のような熱と鋭さを秘めながら全身を満遍なく覆うように迫ってきた。

「っ!」

その圧倒的な量の火花を全てを止めることは出来ないと悟り、何とか致命傷になり得る攻撃のみを捌き切るも、左足や肩を貫かれ、その熱さによって瞬く間に傷付いた部位が焦げて血が止まる。

「っ…とと…いったー」

痛みを堪えながらも何とか着地し、貫かれた左足を庇うように立っている。

 

「…ふぅー、貴方…名前は…?」

「…あん?」

突如話しかけられた事に破壊被は疑問を感じる。

(…何か雰囲気が違うな……いやまぁどうでもいいか…体もボロボロだし、気にする事ぁ無い)

「…破壊被、自慢じゃねぇがまぁそこそこ歴のある上弦だ」

「…そっか」

「俺が名乗ったんだから、お前も名乗れよ」

「あ、ごめん…私は昊柱…紅禰陽由(あかねひより)、それでさっきまで貴方が戦ってたのが禰 由月(かたしろ ゆづき)…」

「……はぁ?さっきぃ?」

「私達、姉妹で鬼狩りやってるの」

「…姉妹ぃ?苗字違うし一人じゃねぇか…誰か中に入ってんのか?…まぁ、確かにそんなやつが下弦に居たが…」

「…うん、居るよ、と言っても心に…だけどね」

「……あぁ、なるほど…つまり選手交代って訳だな!」

「まぁそうなるかな?」

「いやー!お前も難儀だな!ボロボロの体渡されて!」

「そんな事ないよ、由月は頑張った」

「頑張った…ねぇ、それで飯が食えるなら苦労はしねぇんだけどな」

「貴方、ご飯食べるの?」

「そうか!そういや鬼か!だっはっは!!面白ぇな!お前!」

「……私は面白くないかなぁ、だって貴方…沢山人殺してるし… 妹も虐めたし…」

陽由が刀を強く握ると同時に髪を結っていた紐が千切れ、解放された髪が風に靡く。

 

「……あ?」

「そんな奴の言葉」

ヒュルルル…!

昊の呼吸 伍の型 “晴天の霹靂”

「面白い訳ないじゃん」

バチィ!!

「!!」

先程とは比べ物にならない速さで破壊被へと迫るが速度も動きも一度見ている事で刀を振るより前に頸を防御する。

しかし、刃が頸に迫る事は無く陽由はただ低く、懐に潜り込むだけで止まった。

「………は?」

(何で振ってねえんだ!?そういう技じゃねぇのか…!?)

ヒュルルル…

弐の型…

呆気に取られる破壊被を他所に陽由は技を放つ。

炎天空々(えんてんからから)

雷の如き鋭さの踏み込みと共に炎を纏った刃が真下から弧を描き、両断まで行かずとも鬼の体を深く斬りあげた。

 

ズバァ!!

 

「ぐ…!」

(型を繋げた…!?同じ型じゃなくて別々の型を…!?)

破壊被は本能的に陽由から離れようと、自らの足先を爆破して自身の体を吹き飛ばし、距離を取る。

陽由も爆発に巻き込まれない距離まで瞬間的に下がり、大きく吹き上がる海水の中、破壊被を追う。

(こんな性質…始めてだ…!基本はどいつもこいつも単発で放つ…!連続で放つ事はなっても繋がってはいないからな…!)

ヒュルルル…

壱の型“(とびたち)

(型を繋げる呼吸…俺…いや無惨様が知る限りそんな事が出来る呼吸は一つしか無い…!)

 

日の呼吸…かつて単身で鬼舞辻無惨を追い詰めた剣士、継国縁壱が使用したとされる呼吸法。

現在使われる水、炎、岩、雷、風の原点とされ、別名「始まりの呼吸」と言われていた。

始まりと言うだけあってその強さと性質は他とは一線を画す。

計拾参の型から織り成されるその呼吸は全ての型が繋がっており、それを幾度となく繰り返す事で夜明けまで鬼と戦い続ける事が出来るという物。

他の呼吸は連続で放つ技はあれど、別の型が繋がっている事はまず無い、全て単発として放つのが前提で作られているであろう動きをする。

いわば、それぞれの呼吸の型は一つの技として既に完成しているという事になる。

日の呼吸も一つ一つの技は完成されているが型数だけで言えば拾弐の型しかない、それを繋げていくことで始めて拾参の型が生まれる、それが日の呼吸の力であり完成品。

ただ技を放つだけでは未完成のままなのだ。

 

(…確か黒死牟がそんな事を偉そうに語っていた…!だがこれに関してはなんも聞いてねぇぞ…!)

爆ぜながら逃げる破壊被とそれを追う陽由、月に照らされる海岸を荒らしながら二人の鬼ごっこは続く。

陽由の斬撃も頸には届かず、破壊被の爆破も上手く凌がれていく。

 

だが鬼と人間である以上、体力の差は明白であり、何より陽由は肋骨が折れ、左足と肩を貫かれてしまっている。

いつ倒れてもおかしくない程の体、しかし陽由はひたすらに戦い続ける。

逃げては追い、再び逃げては追い、爆破による土煙が収まらぬまま、別の爆破によって砂煙が舞散り、少しまずつ辺りが見えなくなっていく。

(…くそ…こいつまだやれるのか…!)

体力、肉体共に優勢である筈の破壊被の方が何故か追い詰められている様にさえ見え、破壊被自身もそう感じている様な表情を浮かべる。

「…割ともう限界だろうが!何で動けてんだクソ女!!」

「……何でって…」

不思議と余裕が生まれた陽由は少し微笑みながら静かに答える。

「長女だから」

「!!」

ガキィン!!

破壊被の焦りを突き崩し、遂にその刃が鬼の頸を捉えた。




因みに日の呼吸と他の呼吸の解釈は自分なりのものです、合ってるかは知らないのでここだけの設定と思ってて下さい。
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