黒トリガー『S』 作:コーエツニイサン
セレナード様をワートリの世界に投入。
チートや!チーターやんそんなん!
……ここは?
暗い、何も無い。いや……何も認識できない?
『━━!━━━!』
『━━━!━━━!』
何か聞こえる……。これは、私に対してでしょうか?
『頼む!━━━!』
『お願い!━━━!』
頼み?願い?懇願?……状況は何も分からない。
『頼む!この子を守ってくれ!』
『お願い!この子に幸せを!』
しかし、私の意識に流れてくる2つの大きな力と、暖かな光に自然と口が開く。
「お任せ下さい。そのオーダーを拝命します」
私が思うより、ずいぶんと穏やかな声が自分という個体から出た。
目を開ける。すると視界が広がった。
私が認識した世界は、一言で表すならば滅んでいた。
建造物は全て崩れ、瓦礫の山に。生存者らしき姿も見当たらない。まさに故国とも言える状態だ。
私がいる場所は……ここは病院でしょうか?
壊れたベットや医療器具が散乱し、とてもじゃないが治療の空間とは言えない。
私の傍には2つの石膏像が倒れていた。それぞれ男性と女性。何かの拍子に壊れたのか、男性像の方は両手両足が無くなっている。女性の方も背中に3ヶ所ほど穴が空いている。どちらも人間だとしたら致命傷だ。
そして次の瞬間、2つの像は粉々に崩れ、残ったのは元の形がわからない灰の山となった。
不意に背後から音が聞こえた。
「うっ……ぅうん?」
当然振り返る。そこに居たのは車椅子に座る茶髪の少年。おそらく2桁にも届いていないだろう子供。
その子を見た途端、私の中から情報が溢れてくる。
「……マモル?」
私は少年の名を口にした。なぜか私はこの子の名前を知っていた。
「君は、誰?」
マモルからの当然の疑問。私とは何なのでしょう?
「それが……私にも分からなくて……」
マモルは不思議そうに首を傾げると、周囲を確認し始める。そして目的のものを見つけてそこを指す。
「この病室の鏡……だったもの……かな?」
マモルは自信なさげに、地面で割れて散らばった鏡片群を示した。私はその中でも大きな欠片を覗き込む。そこに映ったのは……
「これが……私?」
そこに居たのは、黄金色のヘルメット・肩・腕のアーマー、下半身は白いサルエルパンツを身につけている。それだけでも普通の人間には見えないのに、極めつけのように背中には羽衣の様な帯が2本浮いている。
そんな中、私の中から浮かび上がる名前を呟いてみる。
「……セレナード」
「セレナード。それが君の名前?」
「はい、おそらく。この身にインストールされている情報の中では、これが一番しっくりきます」
私の名前。そして守護対象の名前。それらを認識したことで、自分の中にある情報が徐々に整理されていく。
やるべき事が明確になっていく。
「そう。私はセレナード。マモルの黒トリガーであり、マモルの幸せを守護することを目的に生み出された存在です」
「……そっか。黒トリガー。……父さんも母さんも、ボクを君に託したんだね」
「マモル……」
「大丈夫だよ……敵国が攻めてきた時から、こうなるんじゃないかって思ってた。ボクの両親はこの国を支えるトリガー研究者だったから。最後までこの国のために生きたんだよ」
この国は小国だった。規模は大国からすれば1つの町レベルだろう。それでも技術力を持って、星海の中で独立を守っていた。
だがそれもこれまでの話。現在は目の前にあるように全てが廃墟に。マザートリガーを奪われたこの星は、あとは闇に消えていくのみだ。
マモルは無理な笑みを浮かべて続ける。
「でも、ごめんね。せっかく出てきてもらったんだけど、どの道、このままボクも死んじゃうと思う」
「マモル……どうか生きることを諦めないで。ご両親の意思を継いだ私にはわかります。2人はアナタの幸せを願っています」
「……でも、この星はもう」
「ですから新たな星へ行きましょう。新天地で新たな人生を。……大丈夫。私が付いていますよ」
あまりの現実に諦観で埋め尽くされていた瞳に、少しだけ光が灯る。しかし、それはあまりにも弱い。今のマモルには乗り越えるべき壁が多い。
祖国の滅亡。両親の死。そして、マモルは生まれつき心臓に病を抱えている。この星では、その心臓病を完治させることができなかった。
彼の両親はずっと治す方法を探していた。それも星の外にまで。だからこそ、彼らの研究所にはそのための手段がある。
「さぁ、行きましょう。研究所には、個人用の星間船があります」
「うん……でも、まず2人のお墓を作ってもいいかな」
「えぇ、もちろんです」
徐々に世界が暗くなっていく。この星の終焉が近づいている。そんな中、私はそれらしい石を見繕い、彼らの墓石とした。そして彼らだった灰の半分をその下に埋めた。残りの灰は、マモルの新たな地へ持っていく。彼らの祖国にて安らぎを。そしてマモルの新天地にて、息子を見守ってもらう。
この星にはもう戻ってくることはできない。今後、マモルが両親の墓参りを行えるようにというのもある。
「ありがとうセレナード。手伝ってくれて」
「気にしないでください。それに、私にとっても彼らは特別ですから。……マモルがいる手前でいうのもあれですが、私にとっても親のようなものです。おかげでマモルとも出会えました」
笑みを浮かべながらそう伝えると。マモルは子供らしい照れを顔浮かべて、少しうつむく。そして再度、ありがとうと口にした。
彼から私に送られる、その言葉に私はとてもうれしくなる。やはりマモルのために生まれたということで、彼の喜び、幸せこそが私の存在理由だと改めて実感する。
「さぁ、もうずいぶんと暗くなってしまいました。この星が完全に終わる前に・・・」
「セレナード?」
「マモル、私の後ろに。敵襲です。怖かったら目を閉じていてください」
視界の端に映ったのは、この国を破壊しつくした原因の1つ。三つ首の、砲撃を主とするトリオン兵。敵国が持ち帰り忘れたか、それともわざと置いていったのか。様子を伺っていると、そのトリオン兵もこちらに気づく。
三つ首の先にある砲塔が、こちらに向けてチャージを開始した。初めから避ける気も逃げる気もない。その選択肢は車いすであり、激しい動きは難しいマモルにとって不可能。だからこそ私に与えられた能力は、コレになったのかもしれない。
三条のレーザーが迫ってくる。それに対し行うのは片手をかざすだけ。
レーザーが私たちに迫り、後ろに隠れるマモルが思わず私を力強く握る。
「大丈夫ですよ」
いつもの柔らかな口調を一切変えず、マモルを安心させる。そして、私に着弾する手前で、レーザーはすべて来た道を引き返した。そのまま発射口に直撃し、トリオン兵は沈黙した。
反射。攻撃の跳ね返し。私に備わった基本性能の一つ。マモルへ降りかかる害を、そのまま相手に送り返す力。
「さて、参りましょう」
目をぱちくりさせるマモルを見て、笑みを浮かべながら車いすを押し始める。私はあくまでもトリガー。その黒トリガーを使用しているのはマモルですよと、心の中で思いながら。
研究所は、国の重要施設となっていただけあって、その形を保っていた。施設の地下にある星間船の格納庫に入り、そのまま出立の準備を始める。研究所内で集めることができた、水や食料といった最低限のものを積み込みながら、モニターを見つめる。そこに映っているのは、現在ここから近い星。この国との友好関係や、その星での難民や捕虜の扱い方などを、データと見比べる。そしてなにより、マモルの病気を救う手立てや可能性があるか。
そしてため息をつく。周囲の惑星国家や乱星国家に、こちらの条件を満たすものはない。中にはマモルの両親が既に渡り、治療法がないとわかっている星も多い。どうしたものかと、モニターの中の一際大きな星を見据える。
「玄界」
ここの情報は少ない。こちらからすればありえないほど大きな星。人口も多いと聞く。しかし、トリオン技術は未発達で、こちらの世界からの人さらいの標的によくされる。データとしてはこの程度。
トリオン技術が未発達であれば、私がマモルを守りやすい。自分で言うのもあれだが、私の性能はこちら側でも屈指のものだという自負がある。
それにトリオン技術が未熟ということは、それに変わる技術が玄界の生活を支えているのではないか。しかし、それは未知という可能性でしかない。期待できるものではない。
「どうしますか?マモル。ここから向かえる場所で、可能性があるのは玄界しかありません。それも情報が無い、未知という可能性でしかありませんが」
「セレナードはどう思うの?」
「……マモルがどこを選ぼうと、守りきることを約束します。だから私は、マモル自身に決めて欲しい。アナタの新たな人生の最初の一歩を」
私はマモルの武器でしかない。この線引きは必要だ。
「うん、玄界に行こう」
「了解しました。では、参りましょう。私たちの旅の始まりです」