黒トリガー『S』   作:コーエツニイサン

3 / 5
今回は実力派エリート視点。




第3話

読み逃した!

 

そう思った時には、もう事は起こっていた。

 

人型近界民の出現。それは予知には現れなかった事だ。今までこんな事は有り得なかった。だからこそこんなに焦っているのだが。

 

既に茶野隊が交戦し、緊急脱出した。そして次は三輪隊が、現地に向かったという。

 

このまま三輪隊が接触すれば、敵対以外の未来は無い。交渉の余地も無く発砲するだろうからな。

 

近界民には友好的な奴らもいる。そんな奴らとこっちの世界の架け橋になるのが、自分たち玉狛支部だと言うのに……出遅れたか。

 

「はぁ、実力派エリートが聞いて呆れる……」

 

 

自虐をため息とともに吐き出し、気持ちを切り替えることとする。頭でオペレーターから先程届いた情報を整理する。

 

現状分かっているのは、ゲートから現れたのは2人の人型近界民。その内の1人が、こちらの攻撃を反射するトリガー使い。攻撃の反射……厄介だな。何か発動の条件でもあればわかりやすいのだが。俺の黒トリガー、風刃の遠隔斬撃はどうなる。

 

 

 

そして追加の情報が入る、三輪隊が交戦を開始した。

 

 

クソ、やっぱり間に合わなかったか!相変わらずフットワークが軽いなアイツらは。

 

よりによって近界民に深い恨みがある三輪を行かせるとは。わかってはいたが、城戸司令も初対面から過激な事だ。

 

「ゲートの座標まで後ちょいっ!」

 

と思った次の瞬間、自分の視界内で大きな衝撃波が、轟音を散らし横切った。そしてその中から2つの緊急脱出反応がする。

 

 

三輪隊の狙撃手2人がやられたか!

 

一瞬だけ呆然として、すぐに気を引き締める。そして、最悪の想像を浮かべてしまう。

 

この攻撃の規模、まさか!?黒トリガーなのか!!

 

現場に向かう足取りを、さらに早める。

 

もう一度同じ攻撃が、今度は別方向に放出される。そしてまた、2つの緊急脱出反応。

 

まさか、三輪隊が3分と持たないとは。ますます黒トリガーの可能性が増してきた。チンタラはしていられない。

 

とにかく今は近界民の姿を見なければ。相手の姿さえ見えれば未来が開ける筈。それまではただ現場に着くことだけを考えろ。

 

 

 

 

それはただ待っていた。

 

黄金色のヘルメット・肩・腕のアーマー、そして背中には羽衣の様な帯が2本浮いている。まるで神聖さすら感じるような佇まい。

 

穏やかな微笑を浮かべ、蝶を指に乗せている。

 

「ほら、お行きなさい。巻き込まれるんじゃありませんよ」

 

言葉を聞いて、蝶は羽ばたく。それを柔らかな表情で見送っている。

 

「すみません。待たせてしましたか?」

 

柔らかい声をかけられて、焦る心が落ち着いていくのを感じる。これまで何人もの近界民と出会ってきたが、これほど柔和な雰囲気を放つ人物は初めてだ。声も表情も仕草すらも、この世の人間とは見えない。

 

この人が先程、ボーダー隊員を6人を緊急脱出させたとは思えない。それほど戦いというものから離れたような存在。

 

「いや、今来たところだよ」

 

おかしい。トリオン体では感じない、冷や汗の様な気持ち悪さを感じる。その不快感の理由は分かっている。

 

……未来が……見えない。

 

目の前の近界民の姿を捉えた。なのに自分のサイドエフェクトは何も言ってこない。こんなことは今までになかった。

 

今までは呪いのように自分に未来を見せつけてきたくせに。

 

心の中で悪態をつき、それを悟られないように意識しながら近界民に近づく。

 

「貴方は私と話してくれますか?」

 

気持ち悪さを飲み込み、平常心で答える。幸い、向こうは好戦的ではないようだ。穏やかな表情でこちらの返答を待っている。あんな無慈悲な攻撃を見ているからか、それは酷く歪に思えた。

 

「あっあぁ……もちろん。俺はボーダー玉狛支部、実力派エリートの迅悠一。俺は近界民にも良い奴がいるって知っている。アンタが何を目的にこっちに来たのかによっては、仲良くやっていきたいと思っているよ」

 

「それは良かった。玄界の皆さんが、揃いも揃って襲いかかってきたら、流石に対応に困りましたからね」

 

「まぁ、それは悪いな。ウチも一枚岩じゃないし、そっち側に家族が連れ去られた奴もいる。少しは理解してくれないか?」

 

「えぇ、構いません。家族が危険にさらされて、怒らないなんて人はいないでしょう……私もその1人です。先程少し面を食らってしまって、私の家族を隠してしまいましたが」

 

にこやかな笑顔の中の目が、少しだけスッと細くなる。なるほど、三輪隊は見事に地雷を踏んでくれたと。怒り心頭という訳ではないのを祈るしかないな。

 

「それで、アンタたちの目的はなんだ?」

 

「私たちの目的は……新天地での当たり前の日常。一言で言えば、私たちは国を失った、難民なんですよ」

 

「難民……そうか」

 

「貴方が心痛む必要はありません。星の海ではよくある事です。小国が強国の気まぐれで滅びる。積み上げた物が崩れ去るのはいつも一瞬です」

 

「アンタがいてもダメだったのか?」

 

「……黒トリガーなんて、いつも全てが終わった後に生まれますからね」

 

なるほど、滅びが確定した後に作られたのか。そしてやはり黒トリガー……。

 

難民の黒トリガー、なおのこと受け入れるべきだ。問題があるとしたら、俺のサイドエフェクトがこの人には反応しない事。未来が見えないというのがこんなにも不安になるか。

 

「あぁ、申し遅れました。私はセレナード。貴方とは良い関係を築けそうです。よろしくお願いしますね。ユウイチ」

 

穏やかな笑みで、右手を差し出してくる。不安を押し殺し、それに応えようとしたした時、セレナードは違う方に視線を向けた。それはボーダーの本部がある方角。

 

 

 

「これは……今度は大所帯ですね」

 

 

避難区域の街並みの屋根を渡って近づいてくる影が5つ。良い感じで話が纏まりそうだったのに。そりゃ三輪隊がやられたらこの人たちが出てくるだろうけど。

 

「げっ、太刀川さん」

 

「太刀川隊、現着。よぉ、迅。面白いことになってきたなぁ。俺もまぜろよ」

 

「風間隊、現着。近界民を確認した。これより交戦する。迅、お前も手伝え。これは城戸司令からの命令だ」

 

おいおい、せっかく話せる近界民なんだぞ。少しは空気読んで欲しいな城戸さん。

 

 

 

「ユウイチ、こちらの方々は?」

 

「……ウチの精鋭部隊だ。見ての通り、友好の気配は無いな」

 

既に抜刀してるし。この分だと当真もどこからかこちらを狙っているか。

 

「フム……私はこの後お願いごとをしたいのですが、どうすれば穏便に済むと思いますか?こちらの流儀を尊重したいのですが」

 

穏便に、ねぇ……。本部の忍田派はともかく、大多数の城戸派はガッチガチの近界民排除主義だ。どんなにセレナードたちが穏やかで、無害をアピールしたところで排斥に動くだろう。

 

だとしたら……むしろ逆か。力を見せつけ、抵抗するのは損だと。受け入れる方が役に立つと見せつける。城戸派内で揉めることになるかもしれないが、城戸さん自体はそこの度量はある人だ。

 

「……じゃあ、圧倒的に。パフォーマンスを含めて」

 

ボーダー最精鋭が歯が立たない。そんなトリガー使いは撃破より、取り込みの流れになるはずだ。ならここは穏便になんてやってられない。

 

「なるほど……では、致し方ありませんね。玄界の勇士よ。この私、セレナードがお相手しましょう」

 

その瞬間、太刀川さんや風間さんを見て、精鋭部隊の未来が確定してしまった。やはりセレナードの姿は映らないが、全員漏れなく、緊急脱出だ。

 

あーあ、まぁ黒トリガーが本気を出せばそうなってしまうか……。さて、この事後処理どうするかねぇ。

 

「さぁ、おいでなさい」

 

俺は……まぁ、離れとくか。巻き込まれたくないしな。




迅の予知曰く『いろいろあったが』ボーダーの最精鋭は全滅するそうです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。