黒トリガー『S』 作:コーエツニイサン
刀型のトリガーを持つ男が、吹き飛ばされる。宙を舞い、地に叩きつけられ、トリオン体の損傷が拡がる。そこから漏れるトリオンは、限界値に達してしまった。
「まったく……隙が見えない。なんだその無茶苦茶なトリガーは」
ボーダーNo.1部隊のエンブレムに亀裂が入る。
「素晴らしい攻撃でした。玄界の勇士たちよ。私の力をわかってもなお、付け入る隙を探す不屈の姿勢……お見事です。名前を伺っても?」
「太刀川慶だ……やれやれ、反射の条件の1つでも見つけれたら良かったんだがなぁ。見てろよ、次は一太刀入れてやる」
「フフ、それは楽しみです」
「……三輪隊、風間隊に続き、太刀川隊も全滅、か」
城戸司令の言葉に部屋が静まり返る。
ここはボーダー本部の会議室。今回の緊急事態に、そこに集まったボーダーの首脳部は、先程終結した戦闘……いや一方的な蹂躙の報告を受けた。
「どうなっとるんだ!精鋭部隊の敗北など!」
静まり返った空気を引き裂く怒号の出処は、本部開発室の鬼怒田室長。目の前で起こった出来事に、怒りというより衝撃を受けたのだろう。彼の自信作も含む、こちらの技術が完敗したのだ。ボーダー技術のトップとして、その衝撃は一際なのだろう。
「それもただの敗北ではない。相手の力、その底を見ることもできないままの惨敗だ」
冷静に戦況を分析しているのは、忍田本部長。まぁ、先程の戦闘をいくら分析したところで、出てくる答えは、圧倒的、その一言に尽きる。彼らが磨き用いた多くの技術や戦術が、究極の力の前に破れた。
「攻撃の反射、言葉にするだけなら単純だが、不意打ちにも包囲攻撃にも対応される。さすがは黒トリガー様だな」
普段と変わらず、飄々とした物言いの玉狛支部林藤支部長。元々、胆力のある人だが、それでも余裕を感じるのは、現在お騒がせ中の近界民に、既に彼の懐刀が対応しているからだ。
しかし……彼の暗躍にしては、いつもより少々荒さが見える。想定外の事でも発生したのか?まぁ、それもすぐにわかるだろう。
そう思い、煙草に火をつけた。煙を吸い込み心を鎮める。
「林藤支部長!そんな呑気な事を言ってる場合ですか!」
メディア対策室の根付室長は焦っている。彼の頭の中には最悪のケースが想定されているに違いない。万が一、この戦闘結果が漏れ出た場合の話だ。
避難区域内での戦闘だったため、外部に漏れ出ることはないが、それでも人の目はどこにあるかわからない。あんな戦闘結果が外部流出したら、ボーダーの信用は地に落ちる。私の対外交渉も、当然ハードモードになるだろう。
目下の問題は内部だな。今回戦闘を行った精鋭部隊たちは、このボーダーの要なのだ。それが通じない近界人が既にこちらの世界に侵入しているなど、パニックを起こす関係者がいてもおかしくは無い。
なので今回の件は、一部の人間にしか伝わっていない。その他の人間には、人型近界民が来たことすら伝わってないだろう。しかし、人の口に戸は立てられない。最悪は記憶処理行ってでも隠さないといけないが……っと、これは私の考えるタスクではないな。
「そもそも!どうして迅は加勢しなかった!奴も黒トリガーなら、対抗できるのではないのか!」
「同じ黒トリガーとはいえ、相性が悪すぎる。風刃の強みは遠隔斬撃。不意打ちでも反射される以上、風刃では手が出ないだろう」
「しかしですねぇ、このまま手をこまねいている訳には……」
「……唐沢君、君の意見は?」
城戸司令が私に意見を求めてくる。こんな状況で意見など1つしか出てこないが。
「私の意見ですか……言ってもよろしいので?」
暗に、城戸司令の現在の方針『撃退』とは違うと伝える。トップの意見と違うのだ。お断りは必要だろう。
「かまわん。聞かせてくれ」
「そうですね……取り込みしかないのでは?いや、もう降伏と言うべきですかね」
「何ィ!?」
「戦争で勝てないことがわかった以上、するべきことは損切りでしょう。相手と交渉の場を設け、落とし所を探る。それがセオリーです……もちろん敗者側が不利にはなりますが」
「負けを認めろというのですか!?」
「えぇ、ですが、今はまだ取引になると思いますよ。戦闘を聞く限り。向こうにとっては全力を振るうまでもない相手なのでしょう?我々は」
そう言って忍田本部長に視線で尋ねる。本部長は苦々しく答えた。
「先程の戦闘、相手の黒トリガー使いは、1歩も動いていない。文字通り1歩もだ。そして反射以外の反撃を一切行わなかった。遊ばれていると言っても過言では無い」
「……忍田本部長。君や天羽ではどうなる?」
ノーマルトリガー最強の男と、ボーダー最強戦力。この2人を投入すればアレを撃退できるか。いや……どうだろうな。
「自分では言いたくないが、私はあの相手に役に立たない。そして天羽の勝敗はわからないとしか言えない。ただ、黒トリガー同士の戦闘は、周囲にどんな影響が出るか……」
忍田本部長の言う通り。黒トリガー同士の戦闘など、それはもう収拾がつくものでない。コントロール出来ない戦争はそれこそ最悪の事態に繋がりかねない。自分も一言入れておくか。
「私も天羽君を出すのは反対です」
「聞かせてくれ」
「こちらが天羽君を出せば、向こうも真面目に戦争段階になるかもしれません。相手が遊びの段階でいるうちなら、落とし所を探るのは容易ですが……。それにこちらの底を見せるのは、まだ時期尚早かと」
良くも悪くも、天羽君はあくまで最終手段だ。それまでに手を打てるのなら、それに越したことはない。
「……林藤支部長。黒トリガーと迅はどうなっている」
「今、迅から連絡があった。奴さん、もうすぐここに来るってよ」
戦力の差を見せつけた。主戦力を壊滅させた。その後はまぁ、当然降伏勧告だろう。そして、組織の敗北なら、その責任は首脳部がとる。
「どっどどうするのだ!?」
「落ち着いてください、鬼怒田室長。そう荒事にはなりませんよ」
「ほっ本当かね!?唐沢君!?」
「えぇ、こちらに理不尽な要求をするにしては、向こうの行動が大人しすぎる。あれだけの力を見せておきながら、相手が能動的に行った攻撃は、三輪隊への2回のみ。まぁ、三輪隊の近界民への態度からして、何かしら一悶着あったというのは想像できます。
しかし、相手がやった事は、たったそれだけなんですよ」
「言われてみれば……」
「向こうはそもそも侵攻しに来た訳では無いのでしょう。我々からの攻撃に正当防衛をしていたと言ってもいい。
こちらの初期対応は、向こうの心情からすれば最悪に近い。玄関先で殴られたようなものでしょうからね。それでも理性的に振る舞うだけ理由が向こうにはあります……まぁ、憶測ですがね。
問題はその要求が我々の許容範囲内かどうか、と言うだけの話です。こればかりは聞いてみないとわかりませんが……どうします?城戸司令」
「近界民と交渉……」
「しっしかしそんな上手くいくものかね」
「どの道やるしかありませんよ。事実、我々は喉元に剣を突きつけられていますから。あぁ、臆してはいけませんよ。交渉事の大原則です。底を見抜かれたら、交渉はそこで終わり。そうなれば向こうの言い分を飲む以外に、助かる道がなくなってしまいます」
「実力派エリート迅悠一!客人を連れてきました!」
「……入りたまえ」
……さて、我々を壊滅させたのは、神か悪魔か。いけないな、昔からこういう危険な時こそ、楽しくなってくる。これだから交渉人はやめられない。
入ってきたのは車椅子に座る少年近界民と、その車いすを押す、神々しさを纏う近界民。
何人かが息を呑んだ。自分も思わず吸っていた煙草を落としそうになる。
存在に飲み込まれる。一言で表すなら、そういう状況だった。これを人ならざる雰囲気とでも言うのだろうか。
「はじめまして、ボーダーの皆さん。私はセレナード。こちらはマモル。本日は、皆さんにお願いがあって参りました」
ハァ… 困ったなァ
まさかもう休日が一日終っちゃうなんてェ…
頭の中ではなんとなく構想があるみたいだから
急いで書きたいけど
もう疲れちゃって 全然指が動かなくてェ…