黒トリガー『S』   作:コーエツニイサン

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引き続き唐沢さん視点。


第5話

「はじめまして、ボーダーの皆さん。私はセレナード。こちらはマモル。本日は、皆さんにお願いがあって参りました」

 

いや、あんなに実力の差見せといてお願いはないだろ。どう見たって脅しの間違いでは。

 

飲まれそうになるのを堪えて、聞く姿勢をとる。

 

「……ボーダーの最高司令官、城戸正宗だ。まずはそちらの要望を聞こう」

 

「こちらの要望はただ1つ。玄界での当たり前の日常を与えて欲しい。その一点だけです」

 

おや、意外だったな。これだけの力を持ちながら求めるのは日常とは。その黒トリガーを持ちながら日常など、送れるはずもないというのに。

 

「近界民がこちらでの日常を望むと?」

 

「えぇ、我々は祖国を失った、言わば難民です。どうか受け入れてはくださいませんか?」

 

完全無欠の様な黒トリガーが難民になるだと。まったく、近界とはどんな魔境だ。しかし、そのおかげで交渉に可能性が見えてきた。

 

「我々が近界民に向ける感情は理解しているかね?」

 

「もちろん。その上でお願いしているのです」

 

「であれば、その要望が我々にとって受け入れ難いというのも、理解してくれないかね?」

 

難民と聞いたとはいえ、城戸司令はあくまで強硬な態度を崩さないか。……少しやりずらいな。難民ということは、彼らにもう帰る場所は無い。こちらの要求を強気に呑ませることができるが、逆に向こうには呑む余裕があまり無い。

 

そして行き過ぎた場合は、向こうからの反撃と。奇妙な綱渡りになったな。

 

「おや、こちらのユウイチには、我々の境遇に理解を示して貰えたのですが……」

 

「……そこの迅はボーダーにとっては、ただの一隊員に過ぎない。ボーダーは私の組織だ」

 

「貴方の納得が頂ければ良いと?」

 

「そうだ。だが私が近界民に向ける感情は変わらない。この感情を飲み下せるような対価が必要だ」

 

「難民である我々に、そちらに差し出せるようなものはありませんが……」

 

「その黒トリガーを貰い受けたい。その対価として、君たちのこちらでの生活を保証しよう」

 

まずは強気に、通るはずのない要求を行う。黒トリガーを素直に渡すとは思えないし、渡されたら渡されたで、後は処理すればいい。

 

「それは……」

 

「そっそれは!ダメ、です」

 

「マモル……」

 

おや、車いすの少年が反対するか。セレナードよりも、少年にの方が黒トリガーに思い入れがあるのかもな。例えばそう……黒トリガーの大元が彼の親近とかか。

 

「なら話にならない。これは交渉なのだ。そちらの要望だけを呑む事など出来ない」

 

黒トリガーと当たり前の日常、天秤がおかしいが、難民という一点だけが、それを補正する。

 

「でも……セレナードは渡しません」

 

「マモルと言ったかね?我々は黒トリガーを要求しただけで、彼の身柄は求めていない。黒トリガーさえ渡してくれれば、君たち2人の要望は呑む」

 

そもそも君たちの身柄は我々にとって厄介事の種でしかない。

 

それはそうと、どこにこの交渉の落とし所を持っていくか。黒トリガーを手元に置くには、2人の身柄をボーダーに抑えるしかないが。

 

「黒トリガーを渡す、我々の日常を保証する……その2つは両立出来ないんですよ、キド司令」

 

「……どういう事だ?」

 

「改めて自己紹介を。私はセレナード。マモルのためだけに生み出された、自立型黒トリガーです」

 

「自立型黒トリガーっだと!?近界にはそんな技術があるのか!?」

 

ほぉ、自立型黒トリガー。武器が意思を持ち、少年を守るか。黒トリガーとは正しく不思議の産物というわけだ。

 

「いえ、これは私だけの、奇跡のような誕生でしょう。ただそれ故に、マモル以外の人間に、私を起動させる事は出来ません」

 

少年以外動かせないか……。黒トリガーの価値は下がり、少年の価値が上がる。そして力を取り込むには、彼らを取り込まなければならない。

 

「そうか……どうりで」

 

「ユウイチ?どうかしましたか」

 

「いや、あーコッチの話だ。ちなみに城戸さん。セレナードの言うことは確かだよ」

 

「何か見えたのか?」

 

「いいや、むしろ逆さ。セレナードに関しては何も見えなかった」

 

なるほど……迅悠一のサイドエフェクトは未来視。その条件は相手の顔を見れば自動発動だったか。サイドエフェクトは、そこの自立型黒トリガーを人として見てない。

 

一目見た瞬間に、セレナードには人間味は無いと思っていた。迅悠一の暗躍にしては、彼が常に後手後手に回っていると感じたが、こう繋がるか。

 

「となると、ことさらに厄介だな。受け入れた難民が、黒トリガーと共に街を出歩く。この事を許容していては、街の防衛を主とする我々の存在意義が無い」

 

流石に穏健派の忍田本部長も、そこは譲れないか。ただでさえ、ボーダーの隊員がトリガーを用いるのでさえ、我々上層部は慎重に事を運んでいるのだ。様々な規則と、情報規制を用いてね。

 

彼らはそれを逸脱する存在だ。規則も規制も、あの武力の前には意味をなさない。

 

「ボクたちは暴れたりしません」

 

「口先だけなら何とでも言えるわい」

 

「仮に、マモルに危害が加わりそうになれば、自立型黒トリガーはどうするのかね?」

 

「えぇ、全力をもって、その害を消し去ることでしょう」

 

ブレないか。さすがは意思を持つ黒トリガー。この少年を守ることが、最優先事項なのだろうな。

 

「やっぱり武力を行使するじゃないか!そんな事を街中でされれば、ボーダーの信用が……」

 

やれやれ、情報は出揃い始めた。そろそろまとめに入るとしよう。譲れない事と譲れない事をぶつけ合っても、何も解決しない。

 

「……流れを変えましょう。これでは交渉はまとまりません。

 

我々の懸念点は君たちが近界民であること。そして看過できない武力を保有していること。しかし、これはどうしようもない。生まれを変えることなどできはしないし、子供を襲われて反撃しない保護者など普通はいない。

 

鬼怒田室長、娘さんが目の前で暴漢に襲われたらどうします?」

 

「決まっとる!ボコボコにぶん殴ってやる!」

 

「えぇ、そうです。この感情は我々も近界民も変わらない。であるならば、問題はその力だ。そればかりは自由に解き放てるものじゃない。となると、我々の傍で管理するしかない」

 

管理と言っても、見張ることしか出来ないが。まぁ、手を出せないのはお互い様だ。彼らも、せっかく手に入れた生活基盤を、自らの手で破壊する愚行はしないだろう。

 

「……唐沢君、君はこの近界民をボーダーに入れろと言っているのかね?」

 

「なにィ!?」

 

「近界民を組織に入れるなんて正気ですか!?」

 

「前例はあるでしょう?それもいろいろ」

 

林藤支部長の方を見やる。玉狛支部のエンジニアは、元々近界人なのだ。それに、既にボーダーは近界民の王族を亡命させているのだ。

 

どんな組織にも例外というのは存在する。型に当てはめれないのならば、また例外として処理すればいい。

 

まぁ、今回は黒トリガー持ちなので、例外中の例外になるだろうが。

 

「おっなに。ウチで預かろうか?」

 

「林藤……」

 

この黒トリガーを玉狛支部へ、それはできない。ボーダー内部のパワーバランスが偏る。それを城戸司令は認めないだろう。

 

「流石に黒トリガーです。この場合はボーダー本部預かりとするべきでしょう」

 

「とはいえですよ、ボーダー本部には多くの人の目が……」

 

「まぁ、近界民であるということは秘密にする必要はありますが、本部だからこそ都合がいいのでは?

 

現状、彼らが近界民という事を知っているのは、我々とボーダー最精鋭部隊……あぁ、あと茶野隊もいましたか。まぁ、監視の目としてはこれ以上ない人選だと思いますが?」

 

周りからの反応は小さい。ボーダー側の落とし所はこんなところか。

 

「さて、そして君たちについてだが、黒トリガーを所有したまま、普通の日常など送れるはずもないというのは、わかるだろう?なら譲歩できるのは、ボーダー内部での日常、そういうことならこちらも可能だ」

 

「私はマモルの幸せを守護する存在です。軟禁など、許すことはできませんよ」

 

「軟禁じゃない。ボーダーの隊員の様な規則を守って貰うだけだ。……この街、三門市はボーダーとの繋がりが強い。それは街の様々な場所に、我々の目があるということだ。

 

もちろん最初は、ボーダー本部内での生活になるだろうが、徐々に行動許可範囲を広げることは可能だ」

 

「そしてボーダーのために私の力を貸せ、ということですね」

 

「その通り」

 

「1つ、私の力を貸すことについて条件があるのですが」

 

「条件?」

 

「えぇ、私は先程も言った通り、マモルの幸せを守護するために生まれた存在です。あらゆる行動方針の根底にはそれがプログラムされています……そしてこれは私の意思よりも優先される」

 

なるほど。武器らしいプロテクトがかかっているのか。それが本当か嘘か、それは我々には判断できないが。まぁ、自我を持った兵器には当然、そういう規制が施されるというのは理解できる。

 

「つまり、彼がここでの暮らしを、幸せだと思ってくれれば良いと?」

 

「えぇその場合、私はマモルの幸せを守護するため、持てる力全てを使うと約束しましょう」

 

こんなところか。ふぅ、思いもよらない決着だ。




ハァ… 困ったなァ
まさか導入パートがまだかかるなんてェ…

見切り発車だから、詳細な設定考えてなくてェ…

もう疲れちゃって 全然指が動かなくてェ…
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