黒トリガー『S』 作:コーエツニイサン
「はじめまして、ボーダーの皆さん。私はセレナード。こちらはマモル。本日は、皆さんにお願いがあって参りました」
いや、あんなに実力の差見せといてお願いはないだろ。どう見たって脅しの間違いでは。
飲まれそうになるのを堪えて、聞く姿勢をとる。
「……ボーダーの最高司令官、城戸正宗だ。まずはそちらの要望を聞こう」
「こちらの要望はただ1つ。玄界での当たり前の日常を与えて欲しい。その一点だけです」
おや、意外だったな。これだけの力を持ちながら求めるのは日常とは。その黒トリガーを持ちながら日常など、送れるはずもないというのに。
「近界民がこちらでの日常を望むと?」
「えぇ、我々は祖国を失った、言わば難民です。どうか受け入れてはくださいませんか?」
完全無欠の様な黒トリガーが難民になるだと。まったく、近界とはどんな魔境だ。しかし、そのおかげで交渉に可能性が見えてきた。
「我々が近界民に向ける感情は理解しているかね?」
「もちろん。その上でお願いしているのです」
「であれば、その要望が我々にとって受け入れ難いというのも、理解してくれないかね?」
難民と聞いたとはいえ、城戸司令はあくまで強硬な態度を崩さないか。……少しやりずらいな。難民ということは、彼らにもう帰る場所は無い。こちらの要求を強気に呑ませることができるが、逆に向こうには呑む余裕があまり無い。
そして行き過ぎた場合は、向こうからの反撃と。奇妙な綱渡りになったな。
「おや、こちらのユウイチには、我々の境遇に理解を示して貰えたのですが……」
「……そこの迅はボーダーにとっては、ただの一隊員に過ぎない。ボーダーは私の組織だ」
「貴方の納得が頂ければ良いと?」
「そうだ。だが私が近界民に向ける感情は変わらない。この感情を飲み下せるような対価が必要だ」
「難民である我々に、そちらに差し出せるようなものはありませんが……」
「その黒トリガーを貰い受けたい。その対価として、君たちのこちらでの生活を保証しよう」
まずは強気に、通るはずのない要求を行う。黒トリガーを素直に渡すとは思えないし、渡されたら渡されたで、後は処理すればいい。
「それは……」
「そっそれは!ダメ、です」
「マモル……」
おや、車いすの少年が反対するか。セレナードよりも、少年にの方が黒トリガーに思い入れがあるのかもな。例えばそう……黒トリガーの大元が彼の親近とかか。
「なら話にならない。これは交渉なのだ。そちらの要望だけを呑む事など出来ない」
黒トリガーと当たり前の日常、天秤がおかしいが、難民という一点だけが、それを補正する。
「でも……セレナードは渡しません」
「マモルと言ったかね?我々は黒トリガーを要求しただけで、彼の身柄は求めていない。黒トリガーさえ渡してくれれば、君たち2人の要望は呑む」
そもそも君たちの身柄は我々にとって厄介事の種でしかない。
それはそうと、どこにこの交渉の落とし所を持っていくか。黒トリガーを手元に置くには、2人の身柄をボーダーに抑えるしかないが。
「黒トリガーを渡す、我々の日常を保証する……その2つは両立出来ないんですよ、キド司令」
「……どういう事だ?」
「改めて自己紹介を。私はセレナード。マモルのためだけに生み出された、自立型黒トリガーです」
「自立型黒トリガーっだと!?近界にはそんな技術があるのか!?」
ほぉ、自立型黒トリガー。武器が意思を持ち、少年を守るか。黒トリガーとは正しく不思議の産物というわけだ。
「いえ、これは私だけの、奇跡のような誕生でしょう。ただそれ故に、マモル以外の人間に、私を起動させる事は出来ません」
少年以外動かせないか……。黒トリガーの価値は下がり、少年の価値が上がる。そして力を取り込むには、彼らを取り込まなければならない。
「そうか……どうりで」
「ユウイチ?どうかしましたか」
「いや、あーコッチの話だ。ちなみに城戸さん。セレナードの言うことは確かだよ」
「何か見えたのか?」
「いいや、むしろ逆さ。セレナードに関しては何も見えなかった」
なるほど……迅悠一のサイドエフェクトは未来視。その条件は相手の顔を見れば自動発動だったか。サイドエフェクトは、そこの自立型黒トリガーを人として見てない。
一目見た瞬間に、セレナードには人間味は無いと思っていた。迅悠一の暗躍にしては、彼が常に後手後手に回っていると感じたが、こう繋がるか。
「となると、ことさらに厄介だな。受け入れた難民が、黒トリガーと共に街を出歩く。この事を許容していては、街の防衛を主とする我々の存在意義が無い」
流石に穏健派の忍田本部長も、そこは譲れないか。ただでさえ、ボーダーの隊員がトリガーを用いるのでさえ、我々上層部は慎重に事を運んでいるのだ。様々な規則と、情報規制を用いてね。
彼らはそれを逸脱する存在だ。規則も規制も、あの武力の前には意味をなさない。
「ボクたちは暴れたりしません」
「口先だけなら何とでも言えるわい」
「仮に、マモルに危害が加わりそうになれば、自立型黒トリガーはどうするのかね?」
「えぇ、全力をもって、その害を消し去ることでしょう」
ブレないか。さすがは意思を持つ黒トリガー。この少年を守ることが、最優先事項なのだろうな。
「やっぱり武力を行使するじゃないか!そんな事を街中でされれば、ボーダーの信用が……」
やれやれ、情報は出揃い始めた。そろそろまとめに入るとしよう。譲れない事と譲れない事をぶつけ合っても、何も解決しない。
「……流れを変えましょう。これでは交渉はまとまりません。
我々の懸念点は君たちが近界民であること。そして看過できない武力を保有していること。しかし、これはどうしようもない。生まれを変えることなどできはしないし、子供を襲われて反撃しない保護者など普通はいない。
鬼怒田室長、娘さんが目の前で暴漢に襲われたらどうします?」
「決まっとる!ボコボコにぶん殴ってやる!」
「えぇ、そうです。この感情は我々も近界民も変わらない。であるならば、問題はその力だ。そればかりは自由に解き放てるものじゃない。となると、我々の傍で管理するしかない」
管理と言っても、見張ることしか出来ないが。まぁ、手を出せないのはお互い様だ。彼らも、せっかく手に入れた生活基盤を、自らの手で破壊する愚行はしないだろう。
「……唐沢君、君はこの近界民をボーダーに入れろと言っているのかね?」
「なにィ!?」
「近界民を組織に入れるなんて正気ですか!?」
「前例はあるでしょう?それもいろいろ」
林藤支部長の方を見やる。玉狛支部のエンジニアは、元々近界人なのだ。それに、既にボーダーは近界民の王族を亡命させているのだ。
どんな組織にも例外というのは存在する。型に当てはめれないのならば、また例外として処理すればいい。
まぁ、今回は黒トリガー持ちなので、例外中の例外になるだろうが。
「おっなに。ウチで預かろうか?」
「林藤……」
この黒トリガーを玉狛支部へ、それはできない。ボーダー内部のパワーバランスが偏る。それを城戸司令は認めないだろう。
「流石に黒トリガーです。この場合はボーダー本部預かりとするべきでしょう」
「とはいえですよ、ボーダー本部には多くの人の目が……」
「まぁ、近界民であるということは秘密にする必要はありますが、本部だからこそ都合がいいのでは?
現状、彼らが近界民という事を知っているのは、我々とボーダー最精鋭部隊……あぁ、あと茶野隊もいましたか。まぁ、監視の目としてはこれ以上ない人選だと思いますが?」
周りからの反応は小さい。ボーダー側の落とし所はこんなところか。
「さて、そして君たちについてだが、黒トリガーを所有したまま、普通の日常など送れるはずもないというのは、わかるだろう?なら譲歩できるのは、ボーダー内部での日常、そういうことならこちらも可能だ」
「私はマモルの幸せを守護する存在です。軟禁など、許すことはできませんよ」
「軟禁じゃない。ボーダーの隊員の様な規則を守って貰うだけだ。……この街、三門市はボーダーとの繋がりが強い。それは街の様々な場所に、我々の目があるということだ。
もちろん最初は、ボーダー本部内での生活になるだろうが、徐々に行動許可範囲を広げることは可能だ」
「そしてボーダーのために私の力を貸せ、ということですね」
「その通り」
「1つ、私の力を貸すことについて条件があるのですが」
「条件?」
「えぇ、私は先程も言った通り、マモルの幸せを守護するために生まれた存在です。あらゆる行動方針の根底にはそれがプログラムされています……そしてこれは私の意思よりも優先される」
なるほど。武器らしいプロテクトがかかっているのか。それが本当か嘘か、それは我々には判断できないが。まぁ、自我を持った兵器には当然、そういう規制が施されるというのは理解できる。
「つまり、彼がここでの暮らしを、幸せだと思ってくれれば良いと?」
「えぇその場合、私はマモルの幸せを守護するため、持てる力全てを使うと約束しましょう」
こんなところか。ふぅ、思いもよらない決着だ。
ハァ… 困ったなァ
まさか導入パートがまだかかるなんてェ…
見切り発車だから、詳細な設定考えてなくてェ…
もう疲れちゃって 全然指が動かなくてェ…