クソみたいな人生のあなたに──ぷれぜんと・ふぉー・ゆー! 作:こんぺいと
(死ぬ、のかな……)
レーラは、崩壊した村の中、目の前に鎧を纏ったなにかが来たのを認め、そう考えた。
一瞬だった。鎧を纏った誰か達が来て、そして村は瞬く間に怒号と喧騒に包まれた。父と母は死んだ。見てはいないが、多分死んだ。
故に、逃げるあてもないレーラが諦観の念に包まれていたのも、仕方のないことだと言えるだろう。剣を片手に騎士がガチャリ、と音をたて静止した。
「年端もいかぬ娘か……だが、人ひとり生かすわけにはいかん。ここで、死んで貰おう」
そして、騎士が剣を大きく振りかぶる。最後の光景がこんな物騒なのなんて嫌だな、とレーラは思い、目を瞑り──
「クソみたいな人生のあなたに──ぷれぜんと・ふぉー・ゆー!!」
朗々と響いたその声に、レーラは遂に己の耳が狂ったのかと錯覚した。ここは戦場であったはずだ、なぜこんな呑気な声が聞こえるのか、と。
そして、そろそろ届くであろう刃を今か今かと待ち続け……数秒は経っただろうか。流石におかしいと感じ他レーラは、ゆっくりと目を開いた。
──いつの間にか、
そして、それの後ろに、正反対の色を放つ存在がいた。灰色の世界の中、唯一光り輝く純白を纏うその少女は、奇妙な事に瞳を閉じて、だが確かにこちらを見ていた。
「……なに、おまえ」
ボロボロの体に鞭打ち、よろりと立ち上がる。先ほどの声の主は、あれだとレーラはなんとなしに察していた。
だがちぐはぐだった。あまりにも、合わなかった。
先程の陽気な声と、目の前の静謐な雰囲気を纏った少女が、合わない。
まるで、
「先ほど言ったではないですか! クソみたいな人生のあなたに──ぷれぜんと・ふぉー・ゆー! ですよ!
ねえ、欲しいでしょう?!」
表情を欠片も動かさず、
この世界にはまま見るその姿が放つ違和感を捨て置きながら、レーラは問い返す。
「……なにが?」
「力が!! ぱわーですよ、レーラ! 要するに、ぱわー・おぶ・じゃすてぃす、です」
「……どういう」
「欲しいでしょう? 帝国の騎士を殺す力が。その帝国の進軍を止められず己を、己の村を死地へ追いやった王国の軍を」
「別にいい」
む、とそこで少女は一瞬停止した。そして、直ぐに動き始める。
「本気ですか?」
「本気」
首を傾げると、少女は騎士を指さす。
「殺されるのですよ?」
「……妙な勧誘を受けるよりは、いい」
レーラは覚えていた。両親から再々聞かされたこと──「危機で差し伸べられる手は、掴んでならない。なぜならそれは悪魔の手に違いないのだから」という言葉を。
どこかの書物かなにかから引っ張て来たのか知らないが、要するにレーラの両親は「性悪説」でも唱えていたわけだ。
「うーん、困りましたね。ちなみにあなた、正気ですよね?」
「正気。だからさっさと──」
そこで、少女は始めて表情に変化を見せた。頬が吊り上がる。閉じた瞼が歪む。
それは、いわゆる「笑み」という表情を作り出し、
「──まああなたの意志なんて知らないんですけどね!!」
少女は流れるように掌を上に向けた。仄かな光が立ち上る。
そして、あまりの急展開に止まっていたレーラに向けて、放った。
煌々と輝く光の風が眼前に迫る。呆然とそれを見つめながら、最後に耳に言葉が届く。最悪ななにかを想起させる、それが届き──。
『あなたの行く末に、溢れんばかりの血と涙がありますよう──』
そして、世界は色彩を取り戻した。