リコリコ店員のスター   作:官隆

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Nothing seek, nothing find
Nothing seek


【天馬家】

 

〜リビング〜

 

「……ねむい」

 

 久しぶりに喫茶リコリコに訪れた翌日、オレはリビングのソファに突っ伏していた。

昨日は久しぶりにリコリコでボドゲ大会に参加したので、帰るのが遅くなり、寝るのも遅くなってしまった。

…いや、帰るのが遅くなったのはボドゲ大会だけでなく、千束と話しすぎたからか…

まぁ、とにかくオレはとても眠い。ベットに潜り込み、もっと眠っていたい。

だが今日は昼頃にワンダーステージで練習がある。今、眠ってしまっては寝過ごしてしまう自信がある。…顔を洗って、眠気を覚ますか。

 

 そう考え、洗面所に向かおうとすると、玄関から扉が開く音が聞こえる。

この時間に両親は帰ってこない。となると―

 

「おにいちゃ〜ん!ただいま〜!」

 

やはり咲希か。オレは玄関の方に向かい、咲希を出迎える。

 

「おかえり咲希!一歌達とのお泊り会は楽しかったか?」

「うん!あれ、お兄ちゃん?なんか眠そうだけど大丈夫?」

 

 咲希がオレの事を心配そうに見つめる。

一瞬で普段のオレと違うと気づくとは、流石は俺の妹だな。

 

「…昨日は寝付きが悪くてな、少し眠るのが遅かったんだ。まぁ、咲希の顔を見たら、眠気など一気に吹き飛んでしまったがな!ハァーハッハッハッ」

「そう?無理してない?」

「いいや、全く無理なんてしてないぞ!大丈夫だ!」

「お兄ちゃんの大丈夫は全然信用出来ないなぁ…」

 

 信用がないとは、失礼な妹だ、まったく……

そう思っていると、咲希はあ、と何かを思い出したように声を上げ、フッフッフと可愛らしい笑い声を出しながらこちらを見てくる。

 

「どうした?何か良いことでもあったのか?」

「うん!なんと昨日いっちゃん達とお買い物してた時なんだけどね!こんなものをゲットしちゃいました〜!」

 

 そう言って突き出してきたのは、二枚のチケットであった。

 

「それは?」

「バイキングのチケット!!私といっちゃんがくじ引きを引いたらどっちも当たったの!」

「ほぉ、凄いではないか!」

「でしょ!で、期限的に、今度の祝日に行こうと思うんだけど、なんとこのチケット、一枚に付き2人まで行けるの!それが4枚!」

 

 一枚で2人、それが4枚。なるほど、咲希が何を言いたいのかわかった。

つまり―

 

「そ、れ、で、お兄ちゃん!一緒に行こ!ワンダショのみんなと一緒に!!」

 

 こういうことだよな。

オレとしても咲希の意見は尊重してやりたい。しかし、残念なことに咲希の言う祝日は千束と久しぶりに出かける日だ。残念だが、オレは一緒に行くことはできない。どう断ろうか…本当の理由は言えないし…あ、そういえば

 

「…すまないな咲希。その日は丁度(類たちは)鳳財閥に連れられてご飯に行く予定だったはずだ。一緒に行けそうにない」

「えぇ〜?!そんなぁ?!」

 

 咲希はガッカリした表情を浮かべる。 

そのことに少しだけ罪悪感を浮かべるが、こればかりはしょうがない。

いや、というか、オレに千束との約束がなくても、類たちと出かけていたし…どちらにしても無理だったんじゃないか?

 

「そっか、残念だなぁ…」

「すまないがオレではなくて別の奴を誘ってやってくれ!」

「…うん、わかった!…じゃあ誰を誘おうかなぁ…冬弥くん?いやでも…」ブツブツ

 

 咲希はブツブツと呟きながら自分の部屋へと向かった。

それを見届け、オレは洗面所に向かっていった。

 


 

【喫茶リコリコ】

 

 咲希と話した日から数日が経ち、約束の日の前日になった。

オレは千束から、明日どこに行くかをもう一回話したいと言われたため、喫茶リコリコの前に来ていた。

扉には《Closed》と書いてあり、既に時刻は閉店時間である。

従業員という立場があるオレはそれを気にすることなく中に入る。

 

「千束、約束通り来た…ぞ?」

 

 中に入ればいつものように千束に笑顔で迎えられる、そう思っていたのだが…

 

「………」

 

 そんなことはなく、中には椅子に座り、腕を組みながら、なにかを考え込んでいる千束がいた。

…いや、何だあれは?

 

 中々見ることがない重い雰囲気を纏う千束の姿を見て、オレは戸惑いを隠せない。

なにがあったのだろうか?辺りを見渡すと、居間でゲームの片付けをしているクルミを見つけた。オレはクルミの方に向かい、何があったのか聞いてみる。

 

「なぁ、クルミ。千束が凄い真面目そうな顔で考え込んでるんだが、なにかあったのか?」

「知らん。VRゲームやり終わってから、ずっとあんな調子だ」

「VRゲーム?」

 

聞いてみると、少し前まで千束はこのVRゲームの対戦ゲームで遊んでいたらしい。で、終わってみたら、あんな風になったと。

となると、そこまで重要な話でもない…のか?

…一応聞いてみるか

 

「千束、そんな真面目な顔をしてどうした?何かあったのか?」

 

 聞いてみると千束は、こちらを見ることなく、そのままの状態で質問をしてくる。

 

「…ねぇ司、聞きたいことあるんだけどいい?」

「あ、あぁ」

 

 いつもより真面目なトーンの千束の雰囲気に、オレは戸惑いながらも頷き、息を呑んで千束の次の言葉を待つ。

どんな話題が来ても、解決するために力を貸そう。そう決意していたが、彼女の口にした言葉にそんなものははじけ飛んでしまった。

 

「司はさ…たきなのパンツ見たことある?」

「……は?」

 

 なにを言ってるんだ、こいつは?

たきなの…パンツ?

…いや、いやいや聞き間違いだ!そうに違いない!

いくら千束でも、こんなことを聞いてくるわけがない!…はずだ…

もう一度聞いてみよう!そしたら違う答えが返ってくるはずだ!

 

「――すまん、もう一度言ってもらっていいか?」

 

 聞いてみると、千束は顔をこちらを動かし、先程よりも大きな声で同じ質問をしてくる。

 

「だ、か、ら!司はたきなのパンツ見たことある?」

 

 そう聞いてくる千束の顔からは、ふざけている雰囲気は感じられない。

とても真剣な表情でこちらを見ている……

 

「あ、」

「あ?」

「――あるわけ無いだろうがぁぁあ!!」

「うわぁ!?」

 

 千束はオレの突然の大声に驚き、椅子から転げ落ちる。

シリアスな顔してなんてことを聞いてくるんだ、この変態は……!

 

「いたたぁ…もぉ〜声大きいなぁ!鼓膜破れたかと思ったぁ!」

「お前がヘンな事を聞いてくるからだろ!!な、なんだ!?いきなりぱ、パンツなんて!?」

「あ~そういうのいいから。クルミは?見たことある?」

「おい!?」

「あるわけ無いだろ」

 

 千束を問い詰めるが、千束はオレを軽くあしらいクルミに質問する。クルミはオレが質問されている所を見ているからか、対した動揺もなく冷たい声で即答する。

 

「なんだ?ノーパン派か?」

「いやいや、違うけど…」

「じゃあたきなが何履いてようが自由だろ」

 

 VRゲームを片付けながら、クルミは返答する。それを聞き、千束は押し黙り、顔を俯かせた。暴走が収まったか?

…いや、オレには分かる。これまでの経験からして、コイツはこんな事で止まる奴ではない、何かやる。

そして予想通り千束は何か覚悟を固めたような目をして、たきながいるであろう更衣室に向かって行き――

 

「って待て待て待てぇぇええ!!」

 

 オレは咄嗟に千束の腕を掴んだ。千束はいつになく真剣な顔でこちらを見る。オレはそれに少し気遅れてしまうが、この真剣な表情で相棒のパンツのことを考えていると思ったら、そんなものは消えてしまった。

 

「なに?止めないでよ司」

「いや、なにしようとしてるんだ!?」

「なにって、確認だけど?」

 

 確認…今の話の内容から何の確認かは察する事はできる。

だが―

 

「確認って…いくら相棒でも、それは…」

 

 流石に無いだろ…

なんだったら、これからのたきな並びにリコリコ全体でのお前への対応も変わってくる。

 

「というか何がどうしてそんな話になったんだ?VRゲームやってからこうなったとは聞いたが…」

「…これは確認しなくちゃいけないんだよ、もしアレが見間違いじゃなかったら華の十六歳があんなもの…」

「?どういう事だ?」

「……」

「っておい!」

 

 千束はオレの腕を振り払うと、ドアを勢いよく開けて、更衣室の中に入っていった。

オレは中が見ないように慌てて後ろを向いた。そこから少しの間、時が止まったかのような静寂な時間が流れる。暫くすると、中の方から声が聞こえてきた。

 

『…なんですか?』

『何…これ?』

 

 更衣室の中からたきなの声と千束の声が聞こえてくる。

だが聞こえてくる千束の声は若干だが震えてるように感じる。

たきなの下着を見ただけだよな?なにをそんなに驚いて……?そんなオレの疑問は、次の千束の言葉で全て吹き飛んでしまった。

 

『下着です』

『そうじゃなくて、男物じゃん!!』

 

「…はぁ!?!?!?!!」

 

 今後ろからとんでもないのが聞こえてきたんだが!?

オトコモノ、男物って言ったか!?どうしてそんなものを履いてるんだ!

まさかそういう趣味が!?

しかし、次の言葉にオレは更に驚愕した。

 

『…これが指定なのでは?』

『し、指定ぃ!?』

 

 指定…?指定だと!?

どういう事だ!?たきなのやつそれが当たり前のように言っているが、オレが知らないだけで本当にこの店にそんな指定があったというのか!?いや、オレが来なくなったこの数か月でできたのか!?

いやいや待て!!指定ということは、まさか―

 

「千束も…男物を?!」

「ンナワケあるかぁ!!」

「ガッ!?」

 

 呟きを聞いた千束は容赦なくオレの背中を叩く。

 

「ッ〜〜〜〜〜!?」

 

 コ、コイツ、本気で叩いたな!?

お前のパンチはシャレにならないんだ!?自覚しろ!?

オレが睨みつけるが、千束はそれを無視して、ミカさんがいるであろう方に向かって声をあげた。

 

「先生ぇ!!」

「…なんだ?」

 

 呼ばれたミカは店の奥から出てきた。

その表情から、大体の話の内容は理解していることが察せられる。

 

「説明してもらいましょうか!」

 

 そこから暫くして、ミカさんに対する尋問が始まった。

千束は右手でたきなの手を掴み、カウンターを"バン"と力強く叩き、カウンターの向こうで腕を組んでいるミカさんを力強く見ている。オレは千束の左側に立ちながら、その光景を眺めていた。

 

「…『制服はこちらで支給するから、下着は持参してくれ』と」

「…どんな下着がいいのかわかなかったので」

 

 ミカは千束からの視線を特に気にすることなく言った。それにたきなが付け足すように補足する。

いや、この時点で少しおかしい気がしたが、まぁ、いい。問題は―

 

「――たきな、持参してくれと言われて何で男物…トランクスなんだ?」

「いや店長が」

「あぁ、好みを聞かれたからな」

「アホかぁぁー!」

 

 千束が叫び、オレは頭を抑えていた。聞いているだけで頭が痛くなる会話だ。

なんだ、店長の好みだから履いたって。というか、男性にパンツの好みを聞くって、華の16歳がどうなんだ?えむでもそんなことを聞かないぞ!

 

「ですが、これ履いてみると結構開放的で…」

「そうじゃない!」

 

 たきなは叫ぶ千束を見て首を傾げている。どうやらいまいち現状を理解できていないようだ。

これにはDAの教育はどうなっているんだ、と思わずにはいられない。

千束も同じようなことを考えているのか頭を押さえて天を見上げている。

 

「…ごめん、司…明日の予定変更ね」

「…あぁ」

 

 謝られるが、これはしょうがないと思う。これを放置しておくのはある意味で危険だ。

 

「たきな、明日の12時に駅集合ね」

「…仕事ですか?」

「ちゃうわ!パンツ買いに行くの!あ〜、制服で来るなよ、私服なし、ふ、く!!」

 

 千束がドアから顔を覗かせて言うべき事を言って帰っていく。千束がいなくなると、そこから少しの間、その場に気まずい空気が流れる。たきなはそんな空気に気づかないのかオレ達の方を向き、質問をしてくる。

 

「指定の私服はありますか?」

「「……」」

 

 オレとミカさんは天井を仰ぎ見て押し黙ってしまった。

 

「…私服に指定はないぞ」

「ですが…」

「自分の持っている服を着てくればいいから、な」

「…はい」

 

 なんだろう、これならえむの相手をしてる方がマシなんだが…というか、オレは本当に16歳の相手をしているのか?相手にしているのが16歳ではなくもっと下の小学校低学年のように思えてくる。

 

「それともう一つ、聞きたいことがあるんですが」

「…なんだ?」

 

 きっと明日なにを持ってくればいいんですか?とかそんなことだろう。もう動揺しな―

 

「買う時の参考にしたいので司さんのパンツの好みを聞かせてください」

 

 その場の空気が凍り付いた。見ていたミカさんとクルミはドン引きしており、俺は絶句してしまった。

もう動揺しないと決意したが、流石に無理だった。16歳の少女が真顔で自分のパンツの好みを聞いてくるという状況。言葉にすると馬鹿みたいな状況だが、直面すると言葉が出ない。というか恐怖すら感じてしまう。

そんなオレの様子を見て、たきなは首を傾げるが、何かに気付いたのか付け足すように言う。

 

「種類がわからないのであれば、色だけでも大丈夫ですよ?」

「いや、そういうことじゃない!あぁ、もう!たきな!」

 

 たきなの見当違いな補足に、反射的にツッコむとオレはその勢いにまま、話し始める。

 

「たきな、参考について聞きたいなら男のオレではなく、同性の千束やそこにいるクルミに聞け!そっちの方が色々力になってくれるから!」

「わかりました」

「いや、おい、僕を巻き込むなよ」

 

 クルミが何か言っているが、知ったことではない。

今回の舞台はリコリコ全体だ!お前だけ観客でいるのは許さんぞ!

 

「それとたきな!その質問もう誰にも、特に男にはするなよ!」

「え?なぜ―」

「するなよ、絶対に!」

「は、はい」

「ではオレは帰るからな!また明日!」

「は、はい。また明日」

 

 オレは逃げるように入口の取っ手を掴み、大きな鈴の音を鳴らしながら外に出て、小さくため息を漏らす。

なんか精神的に一気に疲れたな…明日の買い物、大丈夫だろうか?

明日への小さな不安を抱え、オレは帰っていくのだった。

 

 




皆さん、お久しぶりです。約1年ぶりの投稿です。
まずは、投稿できなくてすいませんでした!
リアルの方で忙しくて、中々かけなかったんですが、
これからちょくちょく投稿を再開していきます!
どうぞよろしくお願いします!
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