中央暦1639年 4月3日
-日本国 首相官邸-
クワ・トイネから伝えられたロウリアと開戦する可能性と軍事支援要請を聞いた枢木は急いでNSCを招集した。
「--クワ・トイネからの軍事支援要請だが、忌憚無き意見を求めたい」
枢木の言葉に、まず外務大臣が答えた。
「総理。まず我が国とクワ・トイネの間に国交こそあれど、軍事的な条約や協定がありません。それに、仮に派遣しようとしても国会や世論の説得に時間がかかると思われます」
外務大臣はOCU加盟国に対する支援ならいざ知れず、第3国となると軍の派遣に慎重となる。
たいして、外務大臣の言葉に経産大臣が反論した。
「しかし、締結していないから軍事支援をしないというのはよい判断ではありません。クワ・トイネからの食料輸入が途絶えてしまいます。さらに、既に数万規模の邦人がインフラ整備、農地開拓団として派遣しています。邦人保護という点で日防軍派遣は妥当かと考えます」
「それはクワ・トイネが防衛に失敗した場合です。現状で負けが確定したわけではないでしょう?」
「それはそうですが、勝てる要素があるなら我が国に支援を要請はしないと思うのですが……」
ここで一拍入ると、枢木が防衛大臣に質問した。
「防衛大臣。クワ・トイネはロウリアの侵攻を阻止できるかね?」
「ロウリアの戦争目的が不明瞭なので確証は持てませんが、兵力差10倍ではほぼ勝てないかと……」
「では逆に聞くが、ロウリアがクワ・トイネを征服するのにかかる時間は?」
「中世の軍隊なので、クワ・トイネ全土となると年単位でかかるでしょう。しかし、馬匹が移動手段なので、占領地における糧秣の調達が容易です。補給切れによる撤退は期待できません」
枢木は考え込むと、防衛大臣に指示を出した。
「防衛大臣。派遣戦力の選定とロウリアに対する偵察を計画してくれ」
「わかりました。急ぎ準備します」
「官房長官。各政党と会議の場を設定してくれ。クワ・トイネに対して軍事支援を国会で採決することになる。根回しを頼みたい」
「わかりました」
「首相。ということは……」
「外務大臣。戦争が外交上非常に厄介なのは百も承知だ。だが、OCU設立からここ半世紀。最近だとハフマン紛争に参加したんだ。派兵すること自体珍しくない。それに……」
枢木は一拍置くと、話を続けた。
「軍事は政治の延長だ。国家の危機に必要なら
「――わかりました。クワ・トイネとの安全保障条約を策定します」
「頼んだよ」
会議の後、日本はクワ・トイネ救援のため準備を開始した。
中央暦1639年 4月4日
-クワ・トイネ公国 公都クワ・トイネ-
午前の業務が落ち着く時間。仲嶋は先日の軍事支援に対する返答のため、カナタの執務室を訪れていた。
「――仲嶋大使。先日の軍事支援の件。本国はどのような回答を?」
「まず。我が国と貴国の関係ですが、同盟関係ではありません」
「そうですか」
カナタは中嶋の言葉に、“日本は支援しない”という回答であると考えた。
個々人の良心ならともかく、国家が国家を助けるというのは簡単ではない。まして、それが戦争となれば腰が重くなるのも仕方がない。
カナタは仲嶋の言葉を逆の意味で聞いていると、仲嶋はさらに話を続けた。
「――よって、我が国は貴国との安全保障協定を提案します」
「アンゼンホショウ協定? 同盟と何が違うのですか?」
「……それについては、追って実務者会議で内容を詰める必要があるでしょう」
「そうですか」
「話を戻しますが、喫緊の事態が迫っているということもあり、我が国は貴国にいくつか要請があります」
仲嶋はカナタの側近にクワ・トイネ語の要望書を渡した。
『日本国からクワ・トイネに対する要請一覧
:クワ・トイネ国内における日本国防軍部隊の入国。展開許可
:両軍の連絡室の設置
:ロウリア-クワ・トイネ国境上空の日本国籍航空機の飛行許可
:マイハーク近傍に4km×4kmの土地購入及び軍用施設の設営許可』
カナタは日本の要望書の内容に困惑したが、軍事支援に対する対価ではなかったので胸を撫でお降ろした。
「要望書の件は分かりました。急ぎ担当部門に話は通しておきます」
「ありがとうございます」
その後、日本はカナタの許可が降り次第、マイハーク近郊に野戦飛行場と駐屯地の設営を開始した。それと同時にロウリア軍の行動を確認するため、無人機の国境上空への派遣も開始された。
中央暦1639年 4月9日
-ロウリア王国 東方征伐軍野営地-
ギムの町から国境を超えた数km先。ロウリア軍東方征伐軍は巨大な野営地を築いていた。
「第1。第2兵団は隊列を維持しながら前進っ!!」
「騎兵隊は全速前進で突撃っ!!」
「弓兵隊。魔導士団は前衛兵団の援護」
作戦計画では、この軍がクワ・トイネ侵攻の主戦力となっている。
軍の集結は完了している。特に、征伐軍先遣隊である東部諸侯団は命令に備えて訓練に勤しんでいる。
「第1兵団は前進を継続。第2兵団は~~」
「騎兵隊は敵側面へ移動っ!! そのまま~~」
そんな訓練を東部諸侯団所属の魔導士ワッシューナは国境の先を睨んでいた。
他所から見たらのほほんと散策しているように見えるが、ワッシューナ自身は国境を越えた先の状態を自らの目で確認しているのだ。
ワッシューナは軍に属する魔導士団の一員ではなく、東部諸侯団団長のジェーンフィルア伯爵お抱えの専属魔導士だ。魔導の指導以外にも、軍略や政治において多くの助言を与える参謀的な役目も担っていた。
「……風は涼しいけど、湿度は低い。戦うのに申し分ないか?」
少し高いところをワイバーンの編隊が通過していった。飛竜隊も作戦に向けて編隊飛行訓練を行っている。
「……あれ?」
ワッシューナはワイバーンが見えるさらに遥か遠くに違和感を覚えた。
「……“光の精よ。遥かな先を我の前に映したまえ”」
詠唱をしながら手をかざすと、直径1m大の魔法陣が現れた。
ワッシューナが行った魔法は、単純に言うと魔法で作る望遠鏡である。
展開した魔法陣越しに何千m先を観察すると、そこには明らかにワイバーンとは違う体躯の何かが飛んでいた。しかも、顎の下にある1つ目がこちらをじっと覗いているのを確認した。
「あれはなんだ? 翼があるからワイバーンの一種だと思うが、あんな種類見た事ないな。それより羽搏いていないしワイバーンなのか?」
ワッシューナは
対して、ロウリア軍の戦力配置を確認した日本は、クワ・トイネ派遣軍の編成を大馬力で開始した。
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