OCU日本国召喚   作:Bu3og

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第13話

中央暦1639年 4月14日

-クワ・トイネ公国 国境の町『ギム』-

 

 早朝。薄っすらと朝靄が漂う国境線付近。国境警備の物見櫓では歩哨がロウリア側を監視していた。

 

(寒いなぁ。早く交代が来てくれればいいんだけど……)

 

 見張っていると、国境側からザッザッっという音が耳に入り込んだ。

 

(……これは足音?)

 

 歩哨はじっと耳を澄ましたが、朝靄が晴れるとともにその正体に気付いた。先ほどの音は、膨大な数の歩兵が歩く音だったのだ。

 

「まさか……まずいっ!」

 

 歩哨はすぐさま警鐘を鳴らして詰所に非常事態を伝えた。

 詰所の兵士は警鐘の音を聞くと、先任の兵士が指示を出した。

 

「ロウリア軍の侵攻だっ!! 狼煙を挙げろっ!! ギムにこのことを知らせるのだっ!」

「はいっ!!」

 

 先任は物見櫓に登ると、ロウリア軍の全貌を確認した。

 

「――何という数だ……っ!!」

 

 朝靄が完全に晴れた平原から見える光景に先任も歩哨も絶句していた。そこには数万という数のロウリア軍が戦列を敷いて進んでいたからだ。

 

 

 西方騎士団司令部に緊急招集された騎士団長モイジをはじめ、各隊隊長が集まっていた。

 

「ロウリア軍の侵攻は確かなんだな?」

「はい。複数の監視詰所より同様の狼煙が上がっています」

 

 モイジは手持ちの戦力を確認した。

 歩兵2500。弓兵200。重装歩兵500。騎兵200。軽騎兵100。飛竜24騎。魔導士30人。

 ロウリア軍の規模は事前に哨戒していた飛竜隊の報告から数万規模であるのは確かだった。

 

「まともにぶつかってはどう戦っても勝てない。住民の避難はどうだ?」

「ある程度進んでいますが、今だ住民の3分の1が残っています」

「総司令部にこのことは伝えたか?」

「第一報で伝えました」

「……少なくとも、全住民が脱出するまで時間を稼ぐ必要がある、最前列に重装歩兵。その後方に歩兵を配置。弓兵と魔導士は歩兵戦列の後ろに展開。軽騎兵と騎兵は敵の騎兵に備えて後方で待機。飛竜隊は敵飛竜の接近に備えて上空にて待機せよっ!!」

「「「はっ!!」」」

 

 クワ・トイネ西方騎士団はロウリア軍の接近に備え、ギムの街から1km西方に陣を敷いた。

 

 ロウリア軍が越境してから約1時間。両軍はお互いを視認できるほどの距離まで接近していた。

 

 アデムは自陣を見渡せる丘の上から、クワ・トイネ軍とギムを観察した。

 

「フフン。敵はギムを守る形で布陣しましたか……」

 

 アデムは戦いの推移を予測しながら、伝令に伝えた。

 

「飛竜隊の半数を敵飛竜隊に対して攻撃させ、もう半分は敵歩兵を攻撃しなさい。騎兵は敵の両翼を包囲するように展開。歩兵隊は隊列を維持しながら前進っ!!」

 

 指示が下された各隊は行動を開始した。モイジも敵の動きに呼応して対応を指示した。そして、戦場の様子は数千m上空の無人観測機でも確認した。

 

 

中央暦1639年 4月14日

-OCU日本 国防省-

 

「――戦況はどうだね?」

「戦力差は歴然です。長くても2日。最悪今日中にギムは敵の手に落ちるかと思われます」

 

 東京都市ヶ谷にある国防省の庁舎に設置された情報処理センターでは、ロウリアとクワ・トイネ国境の上空を監視している無人機の通信映像が大型スクリーンに映されていた。

 

「安海少将。防衛大臣が到着しました」

「わかった。お通ししろ」

 

 日防軍士官は安海の指示された通り、防衛大臣の田澤を室内に案内した。

 

「ご苦労。どうだね安海少将」

「クワ・トイネ軍は劣勢です。計算では数日程度でギムはロウリア軍の手に落ちると思われます」

「侵攻してくるロウリア軍の規模はわかっているのか?」

「監視の結果。侵攻用に集結しているのは総勢26万。ギム侵攻には3万の兵が投入されています」

「航空戦力だけで片付く規模じゃないな」

「そうですね」

 

 安海は田沢の言葉を肯定した。

 

「大臣。統合軍参謀部の参集が完了しました」

「わかった。安海少将。大きな動きがあったら報告してくれ」

「わかりました」

 

 田澤は部下と共に情報センターを後にし、別フロアの会議室へと案内された。

 

「田澤大臣が入室されます」

 

 会議室前の士官が中にいる参謀達へ報告した。参謀総員が起立し、大臣に敬礼を送る。

 田澤は参謀たちに座るよう促すと、上座の椅子に案内された。

 

「三垣統合軍参謀長。まず内閣としてクワ・トイネに対する部隊の派遣が決定した」

「聞いております」

「そうか。それでだ。派遣は何時頃できそうだ?」

「クワ・トイネからの要請と部隊規模で変動します。それを吟味して案をいくつか策定しました」

「それなら、まず迅速に展開する案を説明してくれ」

「わかりました」

 

 会議室が一様に暗くなり、正面にスクリーンが表示された。

 スクリーンにはロデニウス大陸が表示されている。

 

「まず第一案ですが、海上部隊と水陸機動部隊によるロウリア王国強襲案です。王国の首都ジン・ハークの北部に港があり、まずここを水陸機動部隊によって強襲。制圧します。その後、一定規模の地上部隊を港にピストン輸送。態勢が整い次第ジン・ハークへ進撃します。作戦開始から終了まで最短で1ヵ月。最長で3ヵ月と見ています。クワ・トイネに対する救援ですが、主に航空部隊を派遣して対処する予定です」

「この案の利点は?」

「まずロウリア王国はクワ・トイネに対する侵攻と我が軍に対する防御という二正面作戦を強要出来ます。反面、クワ・トイネに対する救援が航空部隊だけなので、クワ・トイネとロウリアの戦力差では我が方が作戦を完遂する前にクワ・トイネの防衛線が崩壊する可能性があります」

「なるほど、第二案は?」

「第二案ですが、まず陸上部隊をクワ・トイネ軍に合流させ、敵侵攻軍を撃退。そのまま反転攻勢にでます。こちらの利点ですが、クワ・トイネ軍と合流することで防御態勢が盤石なることが挙げられます。ただ、クワ・トイネ国内のインフラが貧弱ですので、纏まった戦力の展開が困難なことが挙げられます。この案ですと、停戦まで最短4ヵ月。最悪1年は掛かる見込みです」

「我々は兎も角、外務省が喜びそうな案ではあるな……。他に案はあるのか?」

「第3案があるにはあります」

「説明を」

「わかりました。第3案ですが、第1案と第2案を同時並行で進める案です」

「何故それが第3案なんだ?」

「投入戦力が多いので、消費する物資や燃料が膨大になります。特に燃料に関してですが、物資統制法で備蓄は維持していますが、大規模な戦力投入となると現状の備蓄分では作戦完遂前に地上部隊及び航空部隊の燃料が不足する可能性が試算されています」

「しかし戦時物資統制法が……。あぁ。特災時物資統制法で民需分が統制されているのに、戦時統制でさらに絞られたら経産省と財界がキレかねんな」

「そうです」

「まぁ。3案とも内閣で提案してみる。内閣からより細かい要求が入ると思うが、派遣戦力の選定だけは進めてくれ」

「わかりました」

 

 田澤は防衛省から内閣府へと移動した。

 

 内閣府にはNSCのメンバーが集まっており、最後のメンバーが田澤だった。

 田澤が席に座ると、枢木が資料に目を通しながら質問した。

 

「――防衛大臣。日防軍の状態は?」

「現在派遣戦力を選定中です。あとは我々(=総理大臣)がどういう目標を設定するかどうかで、有効な戦略案を提示してくれます」

「そうか。外務大臣。クワ・トイネからは何と?」

「本格的な侵攻が始まったということもあり、可能な限り迅速な戦力派遣を希望しています。それに対して、部隊の選定と準備に時間がかかると回答しています」

「それでいい。それで各自に聞きたいが、この戦争目標を何処に置くべきか……」

 

 枢木の言葉に、田澤が反応した。

 

「最低限の目標はクワ・トイネに対する侵攻軍を壊滅させ、国境線まで戦線を戻す必要があります。そこから先は外交で解決するか、軍事的に解決するかで別れそうですが……」

「そうなると、クワ・トイネに対する派遣は必要になるな」

「はい」

「……仮にだが、日防軍がロウリア軍に敗北する可能性は?」

敵航空兵力(ワイバーン)魔導兵力(未知の技術)に対する懸念があります。さらに補給切れの状態で戦力差があれば敗北する可能性もあります。しかし、それだけの状況が生じない限り、我が方が勝利できます」

「よろしい。防衛大臣。この戦争における戦略案はあるかね?」

 

 田澤は枢木に統合軍参謀部から出された3案を説明した。

 

「軍事的合理性の第1案に外交重視の第2案。コストがかかる分両方の良いとこ取りな第3案か……」

 

 枢木は思考を一巡させると、田澤に答えを出した。

 

「まずはクワ・トイネ救援を優先したい。しかる後、停戦講和を図るためにロウリア王国に対する停戦交渉と進撃案を計画してくれ」

「指示しておきます」

 

 

 枢木の指示が入ると、クワ・トイネ-ロウリア国境以外にも、ロウリア王国沿岸や内陸に対する偵察と情報収集をはじめた。

 

 同日日没後、ギム陥落が無人機によって確認された。




用語解説

『軍事的合理性』
 戦争の勝利ではなく、自軍が敵軍を効率的に撃破するたの戦術的戦略的勝利だったり、作戦成功のためにどれだけ労力と損害を減らし、戦果拡大ができるかという性質。ただし、プロ特有の専門外に関する知識や知見不足で別の問題が生ずる。

『政治的要求』
 軍事的合理性と異なる性質。最たるものは占領地に対する死守命令や外交上の要求。損害が大きいパターンがあり、さらに職業軍人の考えから飛躍しているため、しばしば軍人側が政治不信に陥る案件になる。
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