OCU日本国召喚   作:Bu3og

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第16話

中央暦1639年 4月22日

-クワ・トイネ公国 ギム-

 

 国境に本陣を置いていた東方征伐軍はギムに本陣を構え直し、周辺の偵察と占領地域の拡大を繰り返していた。

 

「パンドール将軍。シャークン提督より魔信が届きましたっ!」

「ほぅ……。大方。クワ・トイネ艦隊と接触して蹴散らしたという報告であろう?」

「いえ、それが、“日本艦隊と接触。敵の圧倒的な魔導砲により我が艦隊劣勢なり。急ぎ飛竜隊の支援を乞う”との事です」

「何っ!? 劣勢だとっ! 4000隻を超える艦隊が劣勢とはどういうことだっ!?」

「申し訳ありません。詳細については不明です」

「まったく。日本艦隊がどんなものか知らんが、あれだけの規模の艦隊で劣勢になるとは……! 待機しているワイバーンの数は?」

「はっ! 400騎になります」

「よろしい。ならば300騎を艦隊の支援に向かわせるのだっ!!」

「急ぎ指示を伝えますっ!」

 

 ロウリア軍は東方征伐軍の指揮下にあるワイバーン400騎の内300騎を艦隊支援へと派遣した。

 

 

 砲撃を継続する茶臼のCIC内では、戦闘前の緊張感が時間とともに緩和しつつあった。というのも、相手は数こそ膨大だが古いタイプの帆船ということもあり、鴨撃ち状態なのだ。

 CICで砲撃の指揮を執る砲雷長が愚痴を言い始めた。

 

「……これでは、実弾を使う訓練だな」

「そうですな。致し方なしと言えば致し方ありませんが……」

 

 砲雷長はCICの最も大きなディスプレイを眺めた。茶臼の主砲である160mm連装滑空砲2基4門は一斉射ではなく、各砲門が時間をおいて逐次発射している。発射レートは5秒に1発という遅さだが、それでも装填から発射まで完全自動化されている速射砲だ。1時間近く砲撃を続けているおかげで600を超える敵船を沈めている。

 

「主砲の残弾は?」

「ーー我が艦の160mm砲は残り3割です。駆逐艦やフリゲートはもっと少ないかと」

「それなりに弾を消費したが、相手はまだ4分の3以上残ってやがる」

「近づいて機関砲とCIWSで攻撃しますか?」

「そうするしかあるまい。司令。敵艦隊との距離をーー」

「対空レーダーに感。方位215より敵味方不明航空機群が接近しつつあり」

 

 ディスプレイの中央に自艦隊が映っており、そこから南西方面辺りから接近する機影があった。

 

IFF(敵味方識別装置)打ちます……反応なし」

「……クワ・トイネのワイバーン?の可能性はないか?」

「方向からしてありえないかと考えます」

「よろしい。探知した航空機群を敵と断定し敵艦隊と距離を取る。艦隊針路330度」

「針路330度ようそろ」

 

 攻撃を止めた日本艦隊はロウリア艦隊から離れる方向に変針した。

 

 同じ頃。日本艦隊の圧倒的な攻撃を前に絶望していたシャークンは日本艦隊の動きを訝しんだ。なぜなら、圧倒的に優勢なのに離れていくからだ。

 

「日本艦隊めぇ。次は何をしようというのだ……」

 

 およそ4分の3にまで打ち減らされたロウリア艦隊だったが、攻撃が止まった今でも日本艦隊の動きを注視していた。

 

 日本艦隊と少し距離が離れると、魔導通信士がシャークンに報告した。

 

「提督。東方征伐軍よりワイバーン300騎を派遣した旨が先ほど魔信で届きました」

「何っ!? それは良い報せだ!」

 

 日本艦隊からの圧倒的な攻撃と機動力を前にシャークンは絶望していた。有効な策が思いつかないからだ。しかし、その絶望もワイバーンの来援によって打開できると判断した。

 

「諸君っ!! 我らが危機に友軍が答えてくれたぞっ! これぞ天啓!! この隙にマイハークへ向かうぞっ!!」

「「「おおぉぉぉ!!」」」

 

 ロウリア艦隊の指揮は絶望の淵から鯉が滝登りをするかの如く回復した。しかし、日本艦隊はロウリア艦隊の動きをほとんど把握していた。

 

 

「ーー敵艦隊。再度隊列を整えて北東に針路を向けています」

「この動き、不明航空群に合わせてきたな……」

「再度反転して、敵艦隊への攻撃を再開しますか?」

「いや、相手の足は遅い。不明航空群を撃退してからでも間に合うだろう。敵艦隊とは着かず離れずの距離と方向を維持する」

「わかりました。各艦には対空警戒を厳にするよう伝えます。後、間に合うかわかりませんが、沖縄の空軍に上空援護が可能か確認します」

「頼んだ」

 

 日本艦隊は迅速に、しかし冷静に戦闘態勢を維持した。

 

 ロウリア艦隊は日本の強力な攻撃を前に、戦意喪失した数十隻の軍船が離脱という名の脱走を始めている始末だった。しかし、なお2800隻以上は隊列を維持していた。

 その上空を300騎ものワイバーンが通過した。

 飛竜隊の指揮官であるアグラメウスは味方艦隊の惨状を確認しつつ、20km先にいる敵に目を向けた。

 

「ーーたった9隻でこれだけの艦隊に打撃を与えたか、しかし、所詮軍船。これだけのワイバーンを落とすのは不可能だっ!!」

 

 アグラメウスは勝利を確信していた。ワイバーンが地上。もしくは海上からの攻撃で落とされたことがないからだ(アグラメウスの記憶の中だけでだが……)

 的になるであろう軍船に近づいていくと、軍船から白い煙が何条と空へと伸びていった。

 

(あれは何だ? 狼煙か何かか? しかしすごい勢いで伸びていったな……)

 

 アグラメウスが考えるうちに、そこそこ離れていた味方ワイバーンがいきなり爆音と黒煙に包まれ、焼け焦げたワイバーンが落ちていった。

 

「何だっ!?」

≪第7飛竜隊のワイバーンがやられましたっ!≫

≪一体何なんだ?≫

≪攻撃っ? 攻撃なのか?≫

 

 飛竜隊全体に動揺が広がると、次々と味方の飛竜が謎の爆音に包まれていく。

 

「くそっ! こんな攻撃。聞いたことがないぞっ!!」

 

 アグラメウスは必死に相手の攻撃を見極めようとした。辛うじてわかるのは、とてつもない速度で矢のようなものが向かっていき、爆発するということだけだった。

 対処しようにも時間と共に味方ワイバーンは次々と落とされていく。

 

≪クソッ。一体何なんだっ!?≫

≪ダメだぁっ! こっちに来るぅぅっ!!≫

≪死にたくないっ! 死にたくなッーー≫

 

 アグラメウスのワイバーンに載せられている魔導通信機から味方の断末魔が次々と舞い込んできた。

 ものの十数分で300騎居たワイバーンは10騎以下にまで打ち減らされていた。

 

(クソッ! クソッ! クソッ! いったいどうすれば……!)

 

 自らの常識が容赦なく目の前で打ち砕かれていく光景に、アグラメウスは未だに考えがまとまらなかった。しかし、死神はとうとうアグラメウスに狙いをつけた。

 視界にちらっと入ったそれ(艦対空ミサイル)は、アグラメウスが叫ぶ間もなく炸裂し、痛みもなく意識を永遠に刈り取った。

 指揮官であるアグラメウスを失ったロウリア軍飛竜隊は、もはや烏合の衆同然となり、生き残ったのは隊列の最後尾を飛行し、戦意喪失して逃げ出した1騎だけだった。

 

 茶臼のレーダー上から航空脅威はなくなり、その光景は艦橋から眺めるブルーアイもしっかり確認した。

 軍船でワイバーンは落とせない。ブルーアイの中にある常識はミサイルがワイバーンに直撃するとともに爆散した。

 艦橋では乗員が淡々と作業していたが、ブルーアイだけは放心状態だった。

 

「……私は何を見たんだろうか? どう報告すれば……」

 

 ワイバーン300騎の()()を確認したのは、何もブルーアイだけではない。救援を頼んだシャークンも目の前で起きた現状に対して呆然としていた。

 

「300ものワイバーンをたった9隻の軍船だけで返り討ちだと? クワ・トイネはかの魔帝と同盟の契りでもしたというのか?」

 

 艦橋トップで力なく立っているシャークンをよそに、参謀は日本艦隊の動きを報告した。

 

「提督っ! 日本艦隊が我が艦隊に接近してきますっ!!」

 

 もはや絶望に染まったシャークンは日本艦隊に目を向ける以外できなかった。

 視線の先には、日本艦隊はその俊足でロウリア艦隊の1km先まで接近していた。

 

(あぁ神よ。どうか御慈悲をお与えください……)

 

 多くのロウリア水夫は呆然としていた。艦隊は半分以上残っている。しかし、たった9隻の日本艦隊を前に、戦意というものは無くなっていたのだ。

 

「提督っ!! ご指示をっ。 提督っ!!」

 

 参謀は職務を果たそうと、シャークンへと声をかけた。しかし、逃げることもできないと察したシャークンは、もはやどうすることもできないと諦めていた。

 

 日本艦隊は攻撃を再開した。以前のような爆発ではなく、代わりにブオオォォやドンッドンッという軽い太鼓のような音が戦場に鳴り響いた。

 日本の軍船から猛烈な速度で橙色の何かが飛んできて、それが当たった船は船体に多くの風穴を開けられたり、水兵に当たるとまるで爆発したように弾け、血肉を甲板にまき散らした。

 マストの根元で小さく爆発が起きると、マストは音を立てながら倒壊し、水夫を何人も下敷きにした。

 

「くそっ!! もうだめだっ!! 船を捨てろおおぉぉっ!!」

 

 参謀はシャークンの状態に絶望すると、最後の務めと言わんばかりに船を捨てるよう水夫に叫んだ。また、参謀も一目散に海へと飛び込んだ。

 

 船体に開けられた穴から海水が流れ込み、軍船は勢いよく傾いた。

 シャークンはこの時、甲板から海へ投げ出された。

 

 

「ーー敵船1撃沈。さらに1撃沈」

 

 ブルーアイはロウリア軍水兵に同情していた。目の前のもはや屠殺としか言えない行いに、敵兵であるという意識は消えていた。

 

≪茶臼より各艦へ攻撃中止。繰り返す。攻撃中止≫

 

 CICから突然の攻撃中止命令に一瞬艦橋は戸惑ったが、すぐ平静に戻った。

 

「敵艦隊反転……いえ、潰走状態です」

 

 レーダーの表示ではロウリア艦隊が日本艦隊から離れようと動いているのが見て取れた。

 

「我々は勝ったのですか?」

 

 ブルーアイは恐る恐る航海長に質問した。

 

「そうです。我々の勝利です」

 

 対して、航海長はさも当然のように電子海図を睨んでいる。

 

≪茶臼より22戦隊。96戦隊各艦は敵溺者の救助を実施せよ。33戦隊は周囲警戒となせ≫

 

 茶臼をはじめ、海戦に参加した9隻は銃砲弾が空になるほど攻撃を継続した。そのおかげで4400隻もの敵船の内、2900隻以上を撃沈した。まさに大勝利である。

 

 その後、日本艦隊は救助作業を行い。最終的に5000人以上のロウリア兵を救助し、捕虜にした。その中にはシャークンも混じっている。

 

 ブルーアイは寝室にて今回の海戦に関する報告書を書き下ろしていたが、どう書けばいいか頭を抱える羽目になった。

 

 

 ほぼ同時刻。ギムに本陣を置くロウリア東方征伐軍司令部は錯乱状態となっていた。

 300騎ものワイバーンを艦隊救援に差し向けたものの、断片的に入ってきた飛竜隊の魔信から聞こえてくるのは、日本艦隊の攻撃が苛烈を極めており、戦果らしい戦果を挙げず。1隻も破壊できないまま全滅したということだった。

 

「300騎ものワイバーンが何故? ニホンとは一体どんな奴らなのだ?」

 

 本陣天幕でパンドールは思考に耽っていたが、答えは出なかった。




用語解説

IFF……Identification Friend or Foe
 敵味方識別装置。ごく初期型はWW2大戦前に開発されている。当時の電波技術では周波数が同じだけで信号が混線することがざらだった。そこで質問波と応答波を用いて敵味方を判別していた。現代では電波技術と情報技術の発達により、信号内により細かい情報を載せることができるようになっている。
なお、IFFは主に軍用航空機で用いられることが多い。船舶や民間機ではAIS(自動識別装置)。陸上では同士討ちを防止するためCIP(戦闘識別パネル)というものがある。

近況報告的なもの
提督業もイベントが終わり、独立傭兵業も3周目を終えたので、執筆を再開しました。

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