中央暦1639年 1月15日
-ロデニウス大陸北東海域-
真っ白な雲が浮かぶ青空に1匹と一人が空を飛んでいた。
竜騎士マールパティマはワイバーンに跨って洋上において哨戒任務に就いていた。
(……船も怪獣もいない。今日も異常はなさそうだな)
マールパティマはクワ・トイネ公国軍に属している竜騎士だ。
最近。クワ・トイネは国境を接しているロウリア王国からの侵攻に備えていた。
ロウリア王国はロデニウス大陸の西半分を有する大国だ。ただ、その国是として人間至上主義を掲げており、亜人や獣人を公然と差別……否。排斥しようとしている。
クワ・トイネ。そして隣国であるクイラ王国は人間もいるが、亜人や獣人も国民として受け入れており、国是の違いからロウリアとの外交関係は常に険悪な状態にあった。
それが表立って軍事的緊張につながったのは、現ロウリア王国国王がロデニウス大陸統一を掲げてからだ。
国是の違いから対立は避けられないと両国は判断し、国境付近の防衛線強化や警戒網構築を図っているのである。
マールパティマはその警戒網構築の一環として洋上における哨戒任務に励んでいるということである。
マールパティマの視線が前を向いたとき、芥子粒のようなものを見つけた。
視力に自信があるマールパティマはそれが何なのか把握しようとしたが、記憶の中で特徴が一致するものはなかった。
その芥子粒が徐々に近づいてくると、その形にマールパティマは驚愕した。
「何だ? あれは……」
マールパティマが見たそれは、翼はあっても羽ばたいておらず、ウーという甲高い音と共に近づいてきたのだ。
ロウリアのものかわからないが、規則に則りマールパティマは魔導通信機を起動させ、現状を報告した。
「マールパティマからマイハーク司令部。不明騎が北東から接近中。直ちに監視する」
≪マイハーク司令部からマールパティマ。不明騎の国籍は確認できるか?≫
「現在確認中」
マールパティマは不明騎の周りに国籍が確認できるものがないか観察した。
不明騎は陶器のような光沢を持っていながら、それとは違う素材でできているようだった。
観察していると、不明騎はこちらを避けるように大きく旋回を始めた。
羽の先端あたりに赤い円が目立つように描かれていた。
「マールパティマからマイハーク司令部。赤い円が描かれている」
≪赤い円? 確認する。そのまま監視を継続せよ。応援を派遣する≫
不明騎は旋回した後、大陸の沿岸を沿うように飛行を続けた。
不明騎の体は大きさの割に羽は細く異常なまでに横へ長かった。しかし、それだけ横に長いからなのか、速度はワイバーンと大して差はなく。追跡は対して苦労しなかった。
追跡を続けている、魔導通信機に通信が入った。
≪第6飛竜隊リーダーからマールパティマ。現在位置を報告せよ≫
「マールパティマから第6飛竜隊リーダー。不明騎は大陸に沿ってマイハーク方向へ飛行中」
≪第6飛竜隊リーダーからマールパティマ。不明騎に対して警告を行う≫
「マールパティマから第6飛竜隊。了解した」
追跡を続けていると、不明騎の遥か前方に第6飛竜隊のワイバーンが見えてきた。
≪第6飛竜隊各騎。不明騎に対して警告を行う! 導力火炎弾用意っ!!≫
一度当たれば歩兵の戦列を吹き飛ばすほどの破壊力を有する導力火炎弾が11騎のワイバーンそれぞれの口先に生成された。
ワイバーンの口から発射されるという瞬間。不明騎は攻撃されるのを恐れるように沖合へと針路を変更し、逃げるように去っていった。
マールパティマと第6飛竜隊は追撃しようとするが、不明騎は速度を上げたため、最終的に北東へと消えていった。
「……いったいなんだったんだ?」
マールパティマと第6飛竜隊の一同は不明騎が見えなくなると基地へと針路を向けた。
≪マイハーク司令部から第6飛竜隊各騎。直ちにマイハーク基地へ帰投し、司令部へ出頭せよ≫
マールパティマは一抹の不安を抱えながら帰投した。
同時刻。クワ・トイネの経済都市マイハーク。そこの城塞の上には防衛騎士団が臨戦態勢を整えて整列していた。
衛兵の1人は第6飛竜隊の飛んでいった先を単眼鏡で見張っていた士官が報告した。
「ーーイーネ団長。不明騎は針路を変更して、北東へと向かったようです」
「そうですか。他に不明騎の報告はありますか?」
「現在のところ、あの一騎以外報告はありません」
「今回は何事もなかったということですか……。伝令! 騎士団は防衛体制を解除。警戒体制に移行します。各隊隊長に伝えてください」
「わかりました」
不明騎発見からマイハーク市内は慌ただしかったが、騎士団が順次撤収したため市内は次第に平穏な状態へと戻っていった。
港で働いてる港湾職員と船員が先ほどのことを話していた。
「何だったんだろうな。あれは」
「さぁな。ロウリアの新しいワイバーンだったのかもしれないな」
「今回は何事もなかったが、これからもあんなことが続いたら、船を出せやしねぇ」
「まったくだ」
マイハーク内の市民は空に現れた不明騎に不安を抱きつつも、その話題でもちきりとなった。
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