OCU日本国召喚   作:Bu3og

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第20話

中央暦1639年 5月5日

-OCU日本 国防省-

 

 日本国防軍の制服組最高指揮官の執務室に2人の士官が入ってきた。

 

「――失礼します。三垣統合軍参謀長」

「どうした安海少将。鞍田大佐」

「占拠されたギム周辺の敵軍ですが、先発隊と思しき集団が移動を開始しました」

「規模と向かっている先は?」

「規模は凡そ5万。恐らくですが、城塞都市エジェイへと向かっているかと思われます。到着予定時刻は5月8日の昼頃です」

「エジェイ周辺の我が軍の展開状態は?」

「21旅団の一部は既に到着しています。しかし、旅団総戦力の内、半分がまだ国内で輸送待ちです」

「……輸送計画と展開予定としては順調なのかね?」

「輸送及び展開は予定通り進んでおります」

「予定通りか……連絡室と外務省によるクワ・トイネとの折衝は上手くいっているのかね?」

「クワ・トイネ政府上層部とは上手くいっているようですが、エジェイのクワ・トイネ軍指揮官との調整に手間取っているようです」

「……その指揮官の素行調査(HUMINT)については別で考えるとして、今ある戦力だけでも進発はできないかね?」

「可能ですが、先ほども言ったように任務旅団の戦力が現状半分しか集結できておりません。それでもよろしいのですか?」

「……未だマイハーク入りしていない部隊の輸送計画は前倒しできないのかね?」

「海軍の第1。第2輸送隊(揚陸輸送艦部隊)の全艦が輸送任務に従事しています」

「なるほど、前倒ししようと思ったら、民間船を借りないといけないわけだ……」

「そうなります」

「……首相と経済産業大臣に現状を報告して、船を借りれないか頼んでみよう」

「よろしくお願いします」

 

 三垣は電話を取ると、急いで首相に状況を連絡した。

 首相も経済産業大臣も、国内の物資状況から民間船の軍事支援投入には否定的だったが、エジェイ敗北後のロウリア軍の戦略がクワ・トイネ敗北をほぼ確信させる事態となることが予想され、最終的に首相と経済産業大臣の連名で海運業界に高速カーフェリー数隻を海軍に貸与する方向で調整が行われた。

 

 

中央暦1639年 5月6日

-クワ・トイネ公国 城塞都市エジェイ-

 

 エジェイ。この都市はクワ・トイネ西部防衛の要である。

 二重の城壁が建築されており、城壁の高さは10mを超えている。所々に投石器やバリスタが配備されていおり、その戦闘力は計り知れないものが存在する。

 また、エジェイにはクワ・トイネ軍のほぼ半数に当たる3万の兵力が駐留しており、来る侵略に備えて多くの糧食や資材が貯蓄されている。

 エジェイ防衛騎士団の軍司令部では騎士団長のノウ将軍が大声で軍上層部の連絡士官に吠えていた。

 

「ーー反撃するならまだしも、エジェイ防衛だけなら現有兵力だけでも十分だというのが何故わからんのだっ!?」

「ですから、軍上層部としては、今後の作戦のために日本軍と連携する必要があると言っているのです」

「ふんっ! いきなり上層部は得体の知れない相手に救援を頼み込んで、そんなポッとで送り込まれて、それをいきなり頼れなぞっ。誰が考えるものかっ!!」

「兎にも角にも、首相から“日本軍に全面協力すること”と命令を受けておるのです、将軍の発言や行動で日本が撤兵するようなことになれば、国家存亡に関わりますよっ!?」

「あぁそうだ。だから他所の軍に頼るのは好ましくないという話なのだ。国防の本質を何と考えておるのだっ!!」

「いいですかっ!? 相手は我が方の10倍近くの兵力なんですよっ!? エジェイに我が全軍を集結させても抗し切れるわけないでしょうっ!!」

「数字でしか物事を図れんバカばかりが上層部を占めているのか? もうよいっ!! エジェイ防衛は駐留する騎士団のみで行う。良いなっ!!」

「~~後日軍務卿と首相の命令文をお持ちしますっ!」

「ーー精々私を納得させるしっかりしたものを拵えることだっ!」

 

 騒音のような口論はやっと終わった。

 21任務旅団長の河内は部屋の前でため息をついた。あんな持論を展開する人物に追加の情報提供や要請をしなければならないのかと。

 

「……廊下でもまずい言葉が聞こえてくるんだが、それでも行かないといけないのか?」

「河内旅団長。私も何度か折衝した身として言わせてください。ノウ将軍はある意味生粋の軍人です。感情の高ぶりはともかく、言っていることは正当です」

「現状が見えないという点では詭弁だがな」

 

 扉が乱暴に開かれ、部屋から出てきた連絡士官が河内達に気づかず、すごい剣幕で廊下を進んでいった。

 部屋の雰囲気は最悪だった。しかし、河内達は任務達成のためノウ将軍と連絡調整は必須なのだ。

 2人は意を決して入室した。

 河内達が部屋に入ると、腹の虫が治まっていないノウ将軍の代わりに、補佐官が空気を替えるため口を開いた。

 

「お疲れ様です守谷中佐っ!! ロウリア軍の動きはどうですか?」

「チェタレヴ参謀。今朝新しい情報を入手しました。その前に、本日は当方の上官をお連れしました」

「そうでしたっ! ノウ将軍。早朝に連絡があった日本国防軍の指揮官が参られました」

 

 ノウは河内を全く見ず、先ほどと打って変わって平静な声で話を始めた。しかし、目は明らかに激昂したままだった。

 

「……失礼だが、先ほどの話は聞かれたのですかな?」

「えぇまぁ……。ノウ将軍の声は戦場でもよく聞こえるでしょう。そのようなに猛将に率いられる兵はさぞ精鋭とお見受けします」

 

 河内は皮肉交じりの冗談で場を和ませようとしたが、頭に血が上っているノウには火に油を注ぐようなものだった。

 

「そうですか。聞こえていたなら当方の意思はわかるでしょう?

エジェイ防衛は騎士団のみで達成いたします。日本の方々は反撃の時までゆっくり戦力の滋養に努められよ」

 

 一見したところ、今後の反撃のために友軍の温存を図っているように聞こえるが、先ほどの口論があるため言葉通りに受け止めることができなかった。暗に邪魔をするなと言っているのだ。

 微妙な間が流れたが、守谷は早朝に入った情報をノウに提供するため、臆することなく口を開いた。

 

「……ノウ将軍。今朝ギムを占拠するロウリア軍の一部がエジェイへ進軍し始めました」

「……それは本当ですか? 守谷中佐」

「ギムを常時監視しています。間違いありません」

「……相手の兵力がどんなものか確認していますか?」

「騎兵は含まず、歩兵(弓兵や魔導士を含む)だけの戦力が5万です」

「そうですか。となるとロウリア軍先発隊がエジェイに達するのは3日乃至4日というところですかな」

「当方の参謀部もそのように試算しております」

「日防軍はエジェイにどれだけ集結しておりましたかな?」

「……現在1個大隊と2個中隊のみです。ノウ将軍」

「であるなら、議論の余地はありませぬ。先ほども申したように“戦力の滋養に努められよ”」

「……わかりました。戦力が整うまでエジェイ防衛には加勢いたしません。ただ、エジェイが危機に瀕したならばノウ将軍の許可なく参戦いたします。よろしいですか?」

「もちろんです。後、エジェイより離れた場所での活動は我々は関知いたしません」

「そうですか。それでは失礼いたしますノウ将軍」

「……何か伝えることがあるなら、またご訪問されよ」

 

 河内と守谷は何とも言えない感情を抱きながら部屋を後にし、野営地へと戻っていった。

 

 2人が部屋を後にすると、参謀の一人がノウ将軍に苦言を呈した。

 

「閣下。流石に救援に来た友軍相手にあのような言葉はまずいかと思いますが?」

「何を言っておる。奴等。5万もの敵兵が迫っているというのに、寄こした戦力がたった1000人程度しかおらんのだぞ? 本気で戦う意思があるのか疑わしいわっ!」

 

 ノウは日本の派遣戦力から援軍派遣が本気でないと誤認した。

 確かに、守谷が説明した1個大隊と2個中隊の合計人数は700人にも満たない。しかし、現代陸軍の戦力は人以外の装備が肝要なのである。

 

 

 野営テントまで戻った河内と守谷は、摩耗した精神を回復するためコーヒーを淹れた。

 

「はぁ……。守谷はあんな頑固者と話してたのか。油断した」

「まぁ。今回は虫の居所と間が悪かったですね……これからどうしますか?」

「戦力が集結するのは5月15日の予定だ。相手の方がエジェイに早く着く。大人しく野営地周辺の防御に徹しよう」

「わかりました」

 

 河内はノウとの調整不足から、両軍の有機的な連携は不可能と判断し、仕方なく残りの戦力が到着まで野営地防衛に専念することとした。

 

 

中央暦1639年 5月8日

-クワ・トイネ公国 エジェイ西の平野-

 

 空に雲一つない快晴の日。エジェイから西5kmの平野部にロウリア軍5万が到着した。

 現在先遣軍団を率いているのはジェーンフィルアである。

 隷下の工兵は指揮官用の野営テントを建てていたが、ジェーンフィルアは他の指揮官と参謀を参集して、屋外で軍議を開いていた。

 

「さて、道中特に抵抗もなくエジェイまで近づくことができたが、いざ現有戦力だけであの要塞を攻略するのは不可能だろうと思う。よって、ここは本隊の到着を待つこととする。何か異論はあるかね?」

 

 参謀やワッシューナは同意したが、副将のアデムは違ったようだ。

 

「ジェーンフィルア侯爵。本隊到着まで何もしないということですか?」

「ワイバーンと騎兵隊がないでな、斥候を出すこともできん」

「それなら、少数の兵を夜間の内に城壁に近づけるのはどうでしょうか?」

「夜間にかね? 攻城兵はいるが、城壁から弓矢の攻撃を受けるのが関の山だと思うのだが?」

「そうではなく。弓の射程ギリギリまで近づいて、角笛を吹いたりドラを鳴らすのです」

「…そんなことをして何かになるのかね?」

「単純です、敵兵に我が軍が攻めて来るぞという法螺を吹くのです」

「つまり、エジェイの兵士に緊張を強いて心身を削る策ということなのだな?」

「そうです。逆にその法螺に我慢できず、城壁から打って出れば、数が多い我らが有利です。籠り続けても我が軍本隊の戦いが少しは楽になるかと存じます」

「よろしい。アデム。その策を採用しよう。よい成果を期待しておるぞ」

「フフフ。お任せください」

 

 その日の夜、アデムは早速ハラスメント部隊を編成。エジェイに対して襲撃を開始した。

 

「弱卒揃いの亜人どもめぇ!!」

「悔しかったらこっちにこいよぉ~!」

「てめぇらそれでも一端の兵隊かぁ!?」

 

 篝火を炊きながら、城壁の上から200m先でロウリア軍が罵詈雑言と太鼓。角笛でクワ・トイネ軍の気を引いた。

 

「攻撃の前触れか?」

「城壁の兵は何をやっておるっ!!」

「弓兵隊を回せ!」

 

 クワ・トイネ軍も士気が高く城壁の上から矢を放って対処した。

 

「おっと。矢が飛んできたぞっ!」

「言われた通り。ここは引き上げるぞっ!」

 

 矢が飛んでくると、ロウリア軍は蜘蛛の子を散らすように引き上げていった。

 

「隊長。ロウリア軍は引き上げましたっ!」

「恐れおののいて引いていったかっ!」

「隊長。今度は北西の壁にロウリア軍が現れましたっ!」

「まったくっ! 別の弓兵隊を行かせるのだっ」

 

 城壁近くでロウリア軍が騒ぎ、クワ・トイネ軍は弓兵隊を回し攻撃する。そのようなことが夜中複数個所で繰り返された。

 

 夜が明けると、ロウリア軍は運悪く戦死した味方の遺体を残し、何事もなかったようにエジェイの城壁から野営地へと引き上げていった。

 ノウも夜中の角笛やドラの音のせいで目を覚まし、ご機嫌斜めの状態で朝の軍議に参加していた。

 

「ーーというように、ロウリア軍は夜中城壁から少し離れたところから騒いで引き上げるということを繰り返しております」

「うぅむ。夜襲をするなら静かに攻撃するはず……ロウリア軍は何を考えておるのだ?」

「何かしらの下調べではないかと考えております」

「くそ。戦力差があるせいで打って出ることができん。小癪な奴らだ」

「城壁を守る兵には何と?」

「……通常より配する兵を増やし、夜襲に備えるよう伝えよ」

「わかりました」

 

 ノウは部下にそう指示を出したが、この判断。アデムの策にまんまと嵌ってしまったことを意味していた。

 夜間襲撃は1週間近く続いた。最初の一日二日なら何ともなかったが、3日目を過ぎたころからエジェイの兵士に影響が出始めた。

 夜直に立っていた兵も、昼間には攻撃に備えて防護柵の整備や武具や防具の手入れに勤しんでいるのだ。さらに夜直に立っていない兵も角笛やドラの音で目を覚まし、睡眠を妨害されていた。

 エジェイの兵は目に隈を作りながら昼間は作業を行い、夜間はロウリア軍の嫌がらせのせいで気が休まらない日が続く形となり、少しずつ士気が削がれていった。




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