中央暦1639年 5月18日
-クワ・トイネ公国 公都クワ・トイネ-
エジェイ決戦の翌日。ロウリア軍先遣隊を撃退したと報告を受けた政治部会参加者は歓声を挙げていた。
「ーーまさか。先遣隊とはいえロウリア軍を撃退するとは」
「日本様様ですな。今晩はどんな安酒でも美酒となるでしょう♪」
「エジェイから敵は撤退しました。次はギム奪還ですね」
カナタは官僚や大臣の言葉に耳を傾けているが、内心戦争中であるということを鑑みて軽い檄を飛ばした。
「各自。エジェイでの戦いはまさに我が公国において分水嶺と言える戦いだったでしょう。しかし、ギムを奪還したからと言って戦争が終わるかは別の話です。各自、戦争勝利、及び将来停戦できる交渉材料の具体策を考えてください」
「「「はっ!! わかりました」」」
政治部会参加者はカナタの言葉を聞いて浮かれていた自分たちを自省した。
同日
-ロウリア王国 王都ジン・ハーク-
「ーーいったいどういうことだっ!! パタジンッ!!」
パリンッという音が玉座に響き渡った。パタジンの報告にハーク王はワイングラスを盛大に床へ叩きつけたからだ。
「もっ。申し訳ありません。目下情報を集めていますが、何分生還者も少なく、その情報も荒唐無稽なものが多いため、未だ正確な情報を集約している段階です」
「……して、これからどうするのだ?」
「……将校団と今後の予定を協議する必要がありますが、海軍は3分の1しか残っておりません。以後クワ・トイネの海上侵攻を警戒するに留めます。陸軍ですが国境とギムに20万とワイバーン101騎が残っています。いかに相手が強大でも、防御に徹すれば敵軍の侵攻は防げると判断します」
「防御に徹すれば……か。勘違いするでないぞパタジン。大陸統一が目的であって、敵の反攻を防げば終わりではないからな」
「ははぁ。肝に銘じております」
ハーク王は荒々しく振り返ると、居室へと戻っていった。
パタジンは将校団が待機している会議室へ戻ってきた。部屋には参謀と共に王国三大将軍のミミネルとスマークが待機していた。
王の叱責を受けた後ということもあり、パタジンは気が進まなかったが、軍議を開くために招集した。
「諸君。由々しき事態だ。シャークン提督の艦隊は壊滅し、東方征伐軍26万の内6万が失われた。今後の戦略を見直さなければならない」
「パタジン殿。6万の兵が失われたのはいったい何が起きたのですか?」
「先日。エジェイから戻ってきたアルデ副将の話曰く、クワ・トイネ軍が強力な魔導を用いたり、ゴーレムや鉄の荷馬車で突撃してきたそうだ。パンドールからも、斥候に出ている騎兵隊がワイバーンのようなものに連日攻撃を受けているらしい」
「強力な魔導に
「そのような報告は入っていない」
「そうなれば、クワ・トイネに強力な軍事支援を行う国家が現れたということでしょうか?」
「しかし、ロデニウス大陸の近くでもっとも強力な国家はパーパルディア皇国です。我が国の支援をしながらクワ・トイネの支援もするでしょうか?」
「彼の国の国力は我が王国を圧倒するほどだ。するしないは別として、しようと思ったらできるだろう」
「たしかにそうですが……そういえば、魔信で“赤い丸”の国章が描かれていたと何度も報告が入っています」
「あぁ。確か4か月程前に哨戒中の軍船からそんな報告があったな。確かニホン……まて、その支援している国家がニホンなのか?」
「報告をまとめるなら、そういうことになるかと」
「……そうなると、我々は認識を改めなければならないな」
「それはつまり、ニホンは我が国を圧倒するだけの軍備があると?」
「既に18万もの兵力を失っているのだぞ? クワ・トイネ軍が一夜にして強力になったというより説得力がある」
「しかし、そうなるとニホンに対してどう戦いますか?」
「大軍はダメ、艦隊もダメ、ワイバーンもダメときた。さてどうしたものか……」
その夜、何も決まらない会議だけが夜を徹して続けられた。
中央暦1639年 5月20日
-ロウリア王国 北の港-
「ーーそれで、お前は日本の戦いを見たんだな?」
「ええそうです。もはや次元が違うとはこのことでしょう」
ロウリア王国北の港。多くの漁民や水兵が生活するこの町では、戦時中ということもあり、巡回の兵が多く歩き回っている。
そんな街で庁舎の隣に建てられた一軒の建物に数人の異邦人が集まっていた。
彼らはパーパルディア皇国の国家戦略局という機関に属する職員である。彼らの目的は、表向き『支援したロウリア王国における戦争観戦』が目当てであるが、実態は『戦争終了後の手形回収』である。
そもそも、ロウリア王国が50万もの兵隊や500騎ものワイバーンを揃えることができたのは、この国家戦略局がパトロンとして出資したからだ。
話を戻すと、パトロンとして出資した国家戦略局では『ロウリアは苦も無くクワ・トイネとクイラを併合する』と予想していた。しかし、日本がこの戦争に介入し始めてからロウリア軍勝利の予想は悉く外れ、それどころか1か月半で総戦力の20%を喪失しているという現状である。
この職員の中で偶然日本の戦いを観戦した人物がいた。
彼の名前はヴァルハル。シャークンの艦隊に同乗し、マイハーク陥落を眺める予定だった。その愉快な予定も日本艦隊に出会ったことによりご破算となった。そして、日本艦隊の絶望的な戦いを運よく見ることができた人物でもある。
もう片方の人物はロウリア国内で情報収集をしている諜報員の一人だった。
「その、ニホン軍の戦い方や武器はどんなのだったんだ?」
「恐らくですが、内燃機関を用いた動力船です。さらに、船体は木製ではないのは確かです」
「木製ではない? ミリシアルの魔導戦艦みたいなものか?」
「そうです」
「俄かには信じられないな……せめて魔写の一つでもあれば納得できるんだが?」
「すいません。魔写は持って行ったのですが、撮影前にロウリア軍が敗走してしまい、撮影できませんでした」
「……それなら仕方ないか? しかし、本国は珍しいことに“ニホン”の情報を欲しがっている」
「はぁ。それは何故ですか?」
「私も又聞きだが、1月頃にエストシラントの沖合にニホンの軍艦が現れたらしい」
「そっ、それは本当ですかっ!!」
「まぁ。私はそのときエストシラントに居なかったから、先日帰国したとき同僚から聞いたんだ」
「まっ……まさか、本国は
「いや、確かその時は“ミリシアルが来た”という認識で第1外務局が相手をしたらしい」
「しかし、やってきたのは“ニホン”という知らない国家だったと……」
「そういうことだ。まぁ、やってきた船がヴァルハルの言うミリシアルの魔導戦艦もどきなら、いきなり蛮族相手みたいな交渉は控えたらしい」
「それならよかったですが……」
「ただ、本国でニホンの事を知らない奴は多い。この戦いで可能な限りニホン軍の情報を集めてくれ」
「わかりました。ビスキー監督官」
ヴァルハルとビスキーは新たな資材を纏めると、それぞれ担当している場所へと歩み始めた。
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