OCU日本国召喚   作:Bu3og

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第24話

中央暦1639年 5月25日

-クワ・トイネ公国 マイハーク-

 

 マイハークは日本の支援によって現代建築が増えている。しかし、元のレンガ造りはまだまだ多い。そんな光景が広がっている中、町はずれのだだっ広いその土地だけはクワ・トイネでは見られない風景が広がっていた。

 

 辺りがまだ夜闇に包まれている時間。マイハーク航空基地には48機もの軽攻撃機が出撃を前に整列していた。

 同じ時間。パイロットたちはタワー横のテントに詰めていた。マイハーク基地は順次航空基地としての機能を拡充しているが、タワーとレーダー施設以外、なのだ。

 テント内にパイロット48名のほか、航空陸戦群第201連隊司令の桃井が音頭を取っていた。

 

「ーーよし。全員集まったな。ブリーフィングを開始する」

 

 スクリーン一面にギム周辺の航空写真が映し出された。

 

「約3週間。ギム周辺の敵騎兵隊に対する攻撃を実行してきた。だが、今回はギムに駐留する敵軍主力へ大隊全機を用いて攻撃を加える。何か質問は?」

「参加する戦力は我々だけですか?」

「いや。我々が攻撃を仕掛ける前に、空軍の戦闘機隊が航空優勢確保に動く。諸君らの攻撃はその後だ」

「司令。航空攻撃だけでは敵地上戦力に対する撃ち漏らしが生じると思うのですが、その場合補給後に再出撃ですか?」

「第2次攻撃は計画しているが、ギム制圧のために第21旅団とクワ・トイネ軍1万が展開する。多少打ち漏らしても、彼らが処理する手筈だ」

「わかりました」

「他に質問はないな? 既に空軍の戦闘機隊は出撃してる頃合いだ。各自遅れるなよっ!」

「「「了解っ!!」」」

 

 パイロット達は個人装備を整えるためにテントを後にした。

 装備を整えたパイロットは指定された機の点検を始めた。

 フィクションの世界だと、パイロットと搭乗機はセットのようなイメージがある。しかし、日防軍全体でそのような運用はしていない。

 パイロットや機体の消耗や運用に偏りを生じさせないためだ。

 

 日が差し始めると、離陸序列に則って整列しているAT-41のAPU(補助動力装置)が起動し始めた。

 48機ものAPU機動音はすさまじく、未だに寝ている市民を起こすには十分な轟音だった。

 

≪イーグルクロー1。イーグルクロー2。滑走路進入を許可する≫

≪イーグルクロー1。滑走路へ進入する≫

≪イーグルクロー2。滑走路へ進入する≫

 

 タワーの指示に従い、2機のAT-41が滑走路に入り、順次離陸していった。

 

≪ーーイーグルクロウ8。離陸を確認。ブルーガル1。ブルーガル2。滑走路進入を許可する……≫

 

 タワーの通信が忙しなく待機中の機体に伝わる。そして、最初の機が離陸してから30分後、最後の機体が滑走路へと進入した。

 

≪グレイカナリー7。グレイカナリー8。離陸を許可する≫

≪グレイカナリー7。離陸する≫

≪グレイカナリー8。離陸する≫

 

 順調な滑り出しで最後の2機が離陸した。

 空には46機の軽攻撃機が編隊を組んでおり、残りの2機が合流すると、700km先のギムへと針路を向けた。

 

 第201連隊第1大隊がマイハーク基地を発ってから10分。本土から飛んできた戦闘機隊とAWACSが近づいてきた。

 

≪こちら空中管制機“アルバトロス”。当作戦の管制全般を行う。符丁を読み上げた機は応答せよ。ヴァイオリン1……≫

 

『アルバトロス』は戦闘序列毎にコールサインを読み上げた。

 なお、今回参加した航空戦力は以下のとおりである。

 

『ギム攻撃任務航空群』※仮称

第21航空団『アルバトロス』

 ↓

 ↓→第3航空団

 ↓ ↓→第1飛行隊『ヴァイオリン』

 ↓ ↓→第2飛行隊『トランペッター』

 ↓

 第201連隊第1大隊

 ↓

 ↓→第1中隊

 ↓ ↓→第1飛行隊『イーグルクロー』

 ↓ ↓→第2飛行隊『ブルーガル』

 ↓

 ↓→第2中隊

 ↓ ↓→第1飛行隊『ファルコンエッジ』

 ↓ ↓→第2飛行隊『ジャックスパロウ』

 ↓

 →→第3中隊

 ↓→第1飛行隊『ハンマーホーク』

 ↓→第2飛行隊『グレイカナリー』

 

 現在ギムに向かっている航空戦力は空中管制機1機。戦闘機16機。軽攻撃機48機である。

 

≪アルバトロスから各機。ギム周辺の最新情報を伝える。ギム周辺には依然として敵軍が駐留しており、町を中心に防御陣形を展開している。

 まず戦闘機隊によって付近の敵航空戦力を排除する。航空優勢が確保され次第。航空陸戦群は敵地上戦力への攻撃を実施する≫

≪≪≪アイコピー≫≫≫

≪よろしい。作戦を開始する。ヴァイオリン及びトランペッターは増速し、ギム上空へ侵入せよ。航空陸戦群はギムの手前50km地点で待機せよ≫

≪ヴァイオリン1よりヴァイオリン各機。航空優勢を確保する≫

≪トランペッター1よりトランペッター各機。攻撃を許可≫

 

 戦闘機16機が一気に速度を上げて前に出た。

 最高速度1800km(約マッハ1.5)でかっ飛ばす『F-4C』戦闘機を前に、巡航速度600kmのAT-41をものの数秒で引き離していった。

 『F-4』はOCU加盟国向けではなく、日本国防空軍の前身である航空自衛隊が装備していたF-2の後継機として開発された第6世代戦闘機だ。

 なお、F-2と比べステルス性やネットワーク能力はもちろん高いのだが、それ以上に求められたのは第5世代機を圧倒する空対空戦闘能力と無人機共同戦能力だ。

 そのコンセプトの基。2030年代から研究を開始、2040年代に試験機による各種試験を実施。2060年代にF-4として誕生した。2096年の段階で現在国防空軍の数的主力を占めているのがF-4CとDである。さらに、性能向上型の配備も進められている。

 なお、さらに時代が進み、2060年代には第7世代戦闘機の概念が示されており、2090年の段階で先行量産型であるF-5AとBが飛行教導団と第1航空団に少数だが配備され始めている。

 今回投入されたのは有人で単座のF-4Cだけである。本来の運用なら無人機を引き連れるて出撃するのだが、参加した部隊の中に無人機はいない。

 観測用や哨戒用の無人機をガンガン飛ばしているのに、戦闘用はなぜ飛ばしていないのか? それには相応の理由がある。

 観測用や哨戒用の無人機であれば通信衛星がなくとも、ラジコンの要領で直接管制用の大型送受信機でも運用はできるのだ。だが、こと戦闘用となれば送受信に必要な通信量は必然的に膨大なものとなる。無人機管制レーダー車では、距離はともかく通信量の処理に限界があるため、衛星抜きでは管制できないのだ。

 なので、現状通信速度と容量を圧迫する戦闘用無人機はすべて本土の格納庫で眠っているのである。

 話を戦場に戻そう。16機の戦闘機はものの6分でギムを視界に納める距離に到達した。

 

 

 ギムに陣を敷くロウリア軍本隊は、妙な地響きが兵士やワイバーンに伝わると喧騒が陣地内で一気に広がった。そんな喧騒が広がれば、寝床が豪華な将軍クラスも出っ張ってくるというものだ。

 多くの兵士が何事か話しているさなか、パンドールは当直隊長を問いただした。

 

「隊長っ!! 一体何だ。この騒ぎはっ!?」

「はっ! 謎の地響きが兵たちに伝わり、動揺しておりますっ!」

「地響きだとっ!? クワ・トイネの大規模魔法の前兆か?」

「わっ、わかりませんっ!」

 

 ロウリア軍は超音速で飛来する戦闘機のソニックムーブがあまりに広い範囲で地面に響いているため勘違いしたのだ。

 慌てふためく兵士を横目に、見張りをしていた兵士が隊長の元へ駆け寄ってきた。

 

「隊長。北東の空から猛烈な速度で何かが飛んできますっ!!」

「何だとっ!? 待機中のワイバーンで迎撃するんだっ!!」

「わかりましたっ!!」

「これは敵襲だ。急いで笛を鳴らせっ!!」

「わっ。わかりました!!」

 

 ブオォーという角笛の音が鳴り響くと、テントから軍装を整えた兵士が次々と整列し始めた。

 20万もの兵力だ。戦闘態勢が整うまで纏まった時間が必要だった。

 その時間を稼ぐためワイバーンが何騎も飛び立った。もし、相手がクワ・トイネ軍なら適切な判断だった。しかし、実際に接近してきているのは日防軍なのだ。

 ワイバーンが飛び立つのは彼ら(戦闘機)の前に餌を蒔くに等しい行いだったのだ。

 

≪ヴァイオリン3。FOX1。FOX1≫

≪トランペッター6。FOX1。FOX1≫

 

 空を駆けたワイバーンが空対空ミサイルの爆炎に包まれた。しかも、1騎や2騎という数ではない。

 飛んだら飛んだだけ堕とされていく。

 

「ワイバーンが落ちたぞっ!!」

「遠くからバリスタの矢が飛んできたぞっ!」

「バリスタの弾が爆発するかっ!?」

「ホントだっ!! 俺は見たんだっ!!」

 

 下で並んでいるロウリア兵が空を見上げていると、ワイバーンを落とした存在が猛烈な速度で通過していった。

 戦闘機が通った後にソニックムーブと砂嵐が巻き起こった。ロウリア兵はそれが何なのか理解できない。

 

「何が飛んでいるっ!?」

「早いっ! ワイバーンの速度じゃないぞっ!?」

「ワイバーンはまだ上がらないのかっ!?」

 

 動けるワイバーンは大急ぎで空に上がろうとするが、先手を取られている段階で応戦することは困難だった。

 

「クソッ!! こんなの戦いじゃねぇっ!!」

「魔導士団は何をやっているっ!! 敵のワイバーンを攻撃せよっ!!」

 

 次々と味方のワイバーンを落とす敵ワイバーン(F-4C)に対して、5000人の兵力を誇る魔導士団が攻撃を開始する。

 地上から火の玉が空へと飛んでいった。見る人が見れば脅威を感じるのだが、戦闘機乗りから見れば見た目が派手な花火でしかない。

 

≪ヴァイオリン6からアルバトロス。地上から対空攻撃を確認≫

≪アルバトロスからヴァイオリン6。損害を報告せよ≫

≪ヴァイオリン6からアルバトロス。損害なし。見た目が派手なだけで弾速は遅い≫

≪了解した。アルバトロスから各機。聞いての通りだ。敵対空砲火に注意せよ≫

≪ヴァイオリン1。了解≫

≪トランペッター1。了解。そんな間抜けはいないと思うがな≫

 

 F-4とワイバーンの戦闘は一方的だった。空の彼方此方にワイバーンの命で咲いた黒い花が広がっていく。そして、地面にはワイバーンや竜騎士だった残骸が降り注いでくる。

 

「うわああぁぁぁっ!!」

「ひいいぃぃ……」

「あぁ……ワイバーンが……」

 

 戦列を敷いている歩兵のほぼ全員が空を見上げ、味方のワイバーンが次々と落ちていく様をただ見守ることしかできなかった。

 

 最初のワイバーンが堕とされてから10分。ロウリア軍のワイバーンは1騎も残らなかった。

 空の戦いをすべて見ていたパンドールはその光景に絶望していた。

 いくら20万の兵士が手元にあるからと言って、宝石に等しいワイバーンが一方的に落とされているのだ。士気を保つには無理があった。

 

「いったいどうすれば……」

 

 パンドールは呆然自失だった。そして、知らないうちに敵ワイバーン(F-4C)は消え去っていた。

 その代わり、別の敵ワイバーン(AT-41)編隊が飛んできた。先ほどより数が多い。

 

「今度は何だ? どう対処すれば……」

 

 パンドールは指揮官の責務として対処法を思いつこうとしたが、ワイバーンはダメ。魔法もダメ。バリスタや弓矢はあっても、あの速度で飛ぶ相手に効果的ではない。

 

 

 航空優勢を確保したギム上空に攻撃機隊が突入した。

 

≪アルバトロスから航空陸戦群。敵の戦列より最適な突入コースを算出した。各チームはコースに沿って攻撃を開始せよ。送れ≫

≪イーグルクロー。了解≫

≪ブルーガル。了解≫

≪ファルコンエッジ。了解≫

≪ジャックスパロウ。了解≫

≪ハンマーホーク。了解≫

≪グレイカナリー。了解≫

 

 航空陸戦群は中隊毎に分かれた。3個中隊のうち、1個中隊はロウリア軍左翼。別の1個中隊は右翼。残りの1個中隊は分散して戦列を包囲するように展開した。

 

「奴ら。こっちへ来るぞっ!!」

「重装歩兵は亀甲隊形っ!! 攻撃に備えよっ!!」

 

 大盾を装備した歩兵が戦列の端を囲うように展開し、大盾を隙間なく構えた。

 本来なら弓矢や投げ槍相手に有効な隊形だが、今回は相手が悪かった。

 

≪イーグルクロー3。ガンズガンズガンズ≫

≪ファルコンエッジ7。FOX4。FOX4≫

 

 軽攻撃機から7.62mm弾や70mmロケット弾の嵐が降り注いだ。

 密集隊形を敷くロウリア兵は的そのものである。

 さらに、近代現代戦で重要な塹壕や土嚢のような防御設備はない。そうなると、ロウリア兵に待ち受ける運命はどうなるのか? 

 それは以前攻撃された騎兵と同じである。

 被弾した兵士は盾や鎧の有無に関わらず銃弾が撃ち込まれ、ロケットの至近にいた兵士は原形が判らないほどの肉片へと変えられた。

 そんな光景は1つや2つではない。軽攻撃機が通過した戦列すべてで発生していた。

 

「うがっ!!」

「ひいぃ!!」

「どこに行きゃいいんだっ!!」

 

 地獄絵図と言えるそんな光景はギリギリ踏み止まっていたロウリア兵の士気を完全に叩き折った。

 攻撃を受けずとも、吹き飛ばされる戦友を前に考える事はどうやって生き残るかという生存本能だけだった。

 攻撃が続けられると、戦列後方の兵士は次々と持ち場を放棄し始めた。

 

「くそっ!! こんなの聞いてないぜっ!」

「逃げるなぁっ!! 持ち場を守れぇ!!」

「死ぬだけの戦いなんて真っ平ごめんだっ!!」

 

 隊長や指揮官は何とか戦列を維持しようと、最初に逃げ出した臆病者を容赦なく切り捨てた。しかし、崩壊した部隊を前に効果はなく、逆に隊長との反りが悪い兵士が隊長を襲って他の兵士が逃げやすくしてしまう始末だ。

 

「パンドール将軍。敵ワイバーンの攻撃は苛烈っ! 鎧どころか大盾も相手の攻撃を防げません。いくつかの戦列はすでに崩壊し始めていますっ!!」

「えぇい。このままでは手も足も出ずギムを放棄するしかないではないかっ!! それだけは断じて阻止せねばならんっ!!」

「しっ。しかしパンドール将軍。味方のワイバーンは既になく、魔導士の攻撃もまるで効果がありません。このまま戦い続けても勝機はありませんっ!!」

「馬鹿者っ!! 仮にギムを放棄して撤退したとして、相手が追撃してこないという保証がどこにあるっ!!」

「確かにありませんが、ここでギムを死守しても我が軍は壊滅してしまいます。どうかご決断をっ!!」

 

 パンドールは迷った。未だ緒戦と言える現状で敗退するなど、自らの軍歴と国王の名に傷を付けることに躊躇した。しかし、現段階で纏まった戦力が消失している。さらに、これだけの早さで戦力を喪失しては継戦どころではないのだ。

 指揮官としての責務と矜持が思考を巡る中、パンドールの考えは何とか纏まった。

 

「……ギムを放棄する。士気を保っている部隊を殿とし、本隊を後退させる!」

「わかりました」

 

 軽攻撃機の攻撃で崩れる戦列は、全体で見れば1割にも満たない規模だ。しかし、戦場に響き渡る轟音が少しづつ士気が残っている兵士にも伝搬していく。まして、戦いによって被害が増えているのならまだしも、ただ一方的に虐殺されるが如く被害が拡大している。

 唯一。戦列の中央で陣取っている軍団はパンドールの命令を受け取ると順次陣形を変更し始めた。

 隊列の変更は上空からよく見えていた。

 

≪ハンマーホーク3からアルバトロス。敵戦列に大きな動きあり。送れ≫

「アルバトロスからハンマーホーク3。詳細を求む。送れ」

≪ハンマーホーク3からアルバトロス。中央の敵を残して他の戦力が後退を始めている。送れ≫

「アルバトロスからハンマーホーク3。戦列から離れた敵歩兵が各方面へ逃亡している可能性はないか確認できるか? 送れ」

≪ハンマーホーク3からアルバトロス。逃亡兵の有無は不明。確認できない。送れ≫

「アルバトロスからハンマーホーク3。了解した。オーバー」

 

 桃井は数秒考えたが、すぐにクワ・トイネ遠征派遣群司令部へと通信を繋げた。

 

「アルバトロスからマイハークコントロール。敵軍に後退の兆候あり。追撃の有無について確認したい。送れ」

≪マイハークコントロールからアルバトロス。派遣群司令の君塚だ。追撃の有無だが、まずギムの奪還を優先せよ。敵が国境線の内側(クワ・トイネ側)にいるなら追撃せよ。送れ≫

≪アルバトロスからマイハークコントロール。了解した。オーバー≫

 

 桃井は司令部との通信を隷下航空隊へと切り替えた。

 

「アルバトロスからハンマーホーク及びグレイカナリー。別の敵戦列へ攻撃せよ。送れ」

≪ハンマーホーク1からアルバトロス。敵戦列を攻撃する。オーバー≫

≪グレイカナリー1からアルバトロス。攻撃を開始する。オーバー≫

 

 航空陸戦群の中で攻撃を控えていた第3中隊が動きだした。

 現状無事だった戦列中央にも軽攻撃機による被害が出始めた。

 

 戦列の中央で指揮しているパンドールは浴びせられる鉛玉の嵐や爆炎に包まれる味方の戦列に唖然とした。

 

「これが、アデムの言っていたことか……っ!!」

 

 パンドールは空を翔ける未知のワイバーン目を奪われていた。

 その未知のワイバーンの鳴き声(機銃の作動音)導力火炎弾(ロケット弾)が耳に届くと、目の前の兵士が何十何百と土と一緒に耕された。

 恐慌状態に陥った兵士は弓を弾いたり手元の石を投げたりして対抗しようとしたが、無意味だったのは言うまでもない。

 

 

≪イーグルクロー1からアルバトロス。我が隊残弾なし。繰り返す。我が隊残弾なし。送れ≫

 

 攻撃を始めて約30分。桃井のヘッドフォンに攻撃隊から通信が入ってきた。さらに、他の中隊からも同様の通信が矢継ぎ早に入ってきた。

 

≪ブルーガル1からアルバトロス。ブルーガル全機機銃もロケットも打ち尽くした。送れ≫

≪ファルコンエッジ1からアルバトロス。ファルコンエッジ隊も残弾無し。送れ≫

≪ジャックスパロウ1からアルバトロス。敵の規模に対して効果不十分。補給して再度の攻撃の要有り。送れ≫

 

 撃ち漏らしは予想の範囲通りだが、その規模は予想外だった。

 アルバトロスとは別にギムから5kmの離れた位置から無人観測機が展開していた。その無人機に映る映像では、未だ15万を超える敵兵が残っていた。

 この無人観測機の映像はアルバトロスに索敵情報こそ共有できるが、カメラ映像を共有できるシステムに対応していなかった。

 

「アルバトロスからマイハークコントロール。攻撃隊による攻撃完了。されど効果不十分につき再攻撃の要有り。送れ」

≪マイハークコントロールからアルバトロス。攻撃隊の補給は整えておく。攻撃隊は後退させろ。オーバー≫

「アルバトロスからマイハークコントロール。了解。オーバー」

 

 48機の軽攻撃機は編隊を組んでギムから離れていった。

 戦場上空に留まる桃井は地上に展開する21旅団に通信を繋いだ。

 

「アルバトロスからHQ21。攻撃隊は第2次攻撃のために撤収した。なお。敵の残存兵力は約15万。送れ」

≪HQ21からアルバトロス。第2次攻撃はいつごろか? 送れ≫

「アルバトロスからHQ21。早ければ2時間後。遅くとも3時間後である。送れ」

≪HQ21からアルバトロス。21旅団は引き続きギム周辺の警戒に当たる。送れ≫

「アルバトロスからHQ21。了解した。オーバー」

 

 空のいる桃井と旅団司令部にいる河内の会話は終了した。

 

 観測無人機から伝えられる敵兵の位置を確認しつつ、21旅団とクワ・トイネ軍はギムから脱走するロウリア兵を狩り続けた。

 

 ギムでの戦いが始まって3時間。21旅団の面々や同行するクワ・トイネ軍兵士は交替で休憩や食事を済ませた。そして、AWACSから旅団司令部に新たな通信が届いた。

 

≪アルバトロスからHQ21。第2次攻撃隊が到着した。21旅団は攻撃完了まで現在位置で待機せよ。送れ≫

「HQ21からアルバトロス。了解した。オーバー」

 

 河内をはじめ、旅団司令部の要員は前線指揮用装甲車(以下AFCV)内に居たが、ジェット機の通過するときの轟音が車内に響いた。

 

 21旅団の各員からギムを見ることは殆どできない。だが、無人観測機やAWACS、攻撃隊の通信からギムの敵兵が地獄に落ちるさまが十分に想像できた。

 第2次攻撃が始まって20分。ギムから何本もの黒煙が立ち上る様子を眺めていると、旅団司令部から命令が下った。

 

≪HQ21から各員。ギムに居座る敵残存戦力は壊滅した。クワ・トイネ軍と共にギムから2km地点まで前進せよ。オーバー≫

 

「聞いたな? ギムを奪還するぞっ! 中隊前進っ!」

 

 この通信を受け取った各中隊は前進を開始した。各中隊の後ろにはクワ・トイネ軍も続いている。

 

 進軍命令が下ってから2時間。時間は既に昼に差し掛かろうとしていた。

 日防軍で8kmを移動するだけなら30分で済むのだが、クワ・トイネ軍と共に進んでいるということもあり、彼らを無視して進軍することができないからだ。

 

 展開する日本・(クワ・トイネ)連合軍隊列中央。そこは21旅団でもっとも強力な戦力である11戦術機甲大隊が展開していた。

 暁はWAPのカメラに映るギムを観察していた。ギムの彼方此方では航空攻撃による黒煙が伸びていたり、撃ち落されたワイバーンの死骸が映っていた。

 

「ーーハンマー1からHQ21。ギムから2kmの地点まで接見した。送れ」

≪HQ21からハンマー1。そのまま待機せよ。送れ≫

「ーーハンマー1からHQ21。待機する。オーバー」

 

 到着次第突撃できると考えていた暁は、肩透かしを食らったものの指示に従い隷下の兵士に待機するよう指示を出した。

 

 数分後。他の大隊も2km地点に到達することを確認した旅団司令部は残っている敵戦列へ砲兵隊による準備砲撃を指示した。

 

 砲弾の風切り音。榴弾が爆ぜる炸裂音。時々人のような物が吹き飛ぶ様が暁の視界に入った。

 

(同情は湧かないし何の感慨深さも感じないが……。今回もまともな戦いにはならなさそうだな)

 

 一通り砲撃が終わると、旅団司令部から進撃命令が下った。

 

「ハンマー1から各車。進軍命令が下った。相互連携を密にしながらギムへ前進せよ。送れ」

 

 暁が駆るWAPのジェネレーターが強力な駆動音を奏でて動き出す。その横のWAPや戦車も併せて動き出す。

 その後ろに控えるクワ・トイネ軍の歩兵戦列も日防軍の後に続いた。

 

「うわっ!? なんだこれ?」

「酷い匂いだ!」

「ワイバーンのようだが? どうやったこんな風になるんだ?」

「ニホンはワイバーンをよく落とせるな。味方で本当に良かった……」

 

 進軍途中、落とされたワイバーンの亡骸や人の残骸を見たクワ・トイネ兵は口々に目の前の光景に驚愕していた。

 

「ハンマー1からHQ21。ギム市内へと突入する。送れ」

≪HQ21からハンマー1。残敵を掃討しつつ、市内を制圧せよ。送れ≫

「ハンマー1からHQ21。警戒しつつ、ギムを制圧する。オーバー」

 

 暁は僚機や随伴歩兵と共にギムへと突入した。辺りは崩れた建物とロウリア兵が散乱していた。

 

「くたばれクワ・トイネの亜人共っ!!」

「ーーファイアボールッ!!」

 

 町中を進んでいくと、死角から生き残っているロウリア兵が弓矢や魔法攻撃を仕掛けてきた。

 

「敵襲っ!」

「あの建物の裏だっ!!」

「攻撃するっ!! 射線上から退避しろっ!!」

 

 ギムの彼方此方で散発的な射撃音が轟いた。空爆と砲撃で目に見える戦列は吹き飛ばされたが、生き残りは一矢報いんと機を伺っていた。しかし、そんな伏撃に対応した装備てんこ盛りな日防軍の前には、正に“一矢分”が限界であり、それどころか、何倍もの擲弾や鉛玉が一斉に飛んでくる始末だった。

 

「建物の制圧完了」

「次はあの建物だ。行くぞっ!」

 

 ロウリア兵を排除しつつ、ギム市内を少しずつ奪還していった。

 

 AFCVに乗る河内は時折外の様子を確認しつつ、地図に書き加えられる報告に思考を傾けていた。

 

「……敵の抵抗は微弱と見ていいか?」

「そのようです。空爆と砲撃が思っていた以上に効果的だったようです」

「それもあるが、大きいのは敵主力が後退したことだな」

「はい」

 

 朝から無人観測機から見続けた結果、ギムに駐留していたロウリア軍20万の内、14万がギムから撤収していた。国境線を超えたことも確認している。

 

「河内団長。ギム中心の制圧完了。後は市内西部の制圧だけです」

「今日中には市内全域を制圧できるな」

「しかし、日が落ちるのは確実と思います」

「相手の状態からしてありえないが、手隙の部隊から国境方面を警戒させろ。力押しで夜襲をされては堪らん」

「わかりました」

 

 日が落ちてからも、ギム制圧戦は続いた。しかし、ただでさえ疲弊したロウリア兵の抵抗も空しく、日を跨ぐ前に最後の一兵が斃された。

 

「河内団長。ギム西部の敵を撃破。ギム全域の制圧が完了しました」

「時間は……もう2200を超えたか。国境方面に展開した部隊は?」

「……第1大隊と第2大隊が展開しています。他の部隊はクワ・トイネ軍と共にギム市内で待機しています」

「わかった。現状とギム制圧をマイハーク基地に伝えといてくれ」

「河内旅団長。タバコですか?」

「あぁそうだ。後、各中隊に交代で休息と整備をさせろ」

「わかりました。お気を付けください」

 

 河内がAFCVから出ると、松明と月明りで照らされ、燃えて崩れた建物と膨大な数の敵兵の死体が目に映った。

 夜警で見回る日防軍兵士は河内に気付くとお疲れ様ですと声をかけて見回りを続けた。

 

 河内は紫煙を燻らせながら、今後の動きを考えた。

 

「……とりあえず、相手に動きがあるまで様子見か」

 

 血と硝煙が混ざる風を感じながら、河内は翌朝を迎えた。




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