OCU日本国召喚   作:Bu3og

26 / 80
第26話

中央暦1639年 6月15日

-ロウリア王国 北の港-

 

 眩い光が港全体を照らした。

 港には千を超える船が繋がれており、水夫たちがそれぞれ作業を始めた。

 ひたすら索の補修をしている水夫に同僚が話しかけた。

 

「今日も一日平和だといいんだがな」

「ああそうだな。ハハハ……」

 

 この2人。もといこの帆船は2ヶ月前に生起した『ロデニウス北方海戦』の生き残りだ。

 いつもなら意気揚々と仕事をするのだが、海戦に敗北した後遺症はいまだに残っていた。

 

「ーーだめだな。上手く索が纏まらない」

「あぁ? 手伝ってやるからしっかりやれよ。甲板長にどやされるぞ?」

「そうれはそうなんだが……。あの甲板長を見ろよ」

 

 視線の先には、樽に座って水平線を静かに眺める甲板長だった。

 

「あの戦いからまだ立ち直ってないな」

「まぁ。ニホンの強さはマジモンだからなぁ……」

 

 2人は雑談しながら索の補修作業を続けていると、いきなり甲板長が立ち上がり叫び始めた。

 

「……ニホンの奴らだっ! 全員船を離れろっ!! 急げっ!!」

 

 甲板長はすごい形相で走り始めた。甲板長の言葉に何事かと船内や艦橋から船長や船員達がわらわらと集まってきた。

 

「甲板長っ! 何だ一体っ!!」

「ニホンの軍船だっ! 港の沖合までやってきやがったんだ!!」

「そんな馬鹿な話がーー」

 

 船長は単眼鏡を沖に向けて覗くと、その眼に正しくニホンの軍船が映っていた。

 

「ーー!! 日本の船がいるぞっ!! 総員直ちに退船しろっ!!」

 

 甲板長をはじめ、水兵達は大急ぎで下船し始めた。

 船長は最後の一人が降りるのを確認すると、大急ぎで船から離れた。

 

 港に係留されている殆どの軍船でも応戦するために出港せず、船から離れようと我先にと市内へ走っていく。

 

 大勢が一斉に港の岸壁から逃げているのだ。港の市民達も怪訝な視線を向けたり、走る水兵に質問している。

 

「おいおい。どうしたんだ? そんなすごい形相で走って」

「馬鹿野郎っ!! こんなところで足を止めてられるかっ!! 沖に日本の軍船が現れたんだ。この港を吹き飛ばす為だっ!!」

「いやいやっ!! お前軍人だろ? 戦わないのかっ!?」

「戦える相手じゃねぇんだっ!! お前も一緒に逃げるぞっ! 船から近いから吹き飛ばされるぞっ!!」

「はぁ? あっ。ちょっと。置いていくなぁっ~~!」

 

 水兵たちの濁流は市民へと伝播し、多くの人々が内陸へと避難し始めた。

 水兵たちが岸壁から逃げ出したころ、海軍司令部でもニホンの軍船の情報は既に把握していた。

 ホエイルは窓から見える喧騒を眺めながら、部下であるカンプから状況を聞いていた。

 

「ーーホエイル提督。岸壁の水兵たちは予定通り軍船から退避しました」

「そうか。予定通りか」

「予定もですが、水兵の必死な動きに釣られて市民も内陸へと向かっています」

「それは僥倖だ。戦の前に避難誘導をせずに済んだか」

「そうなります」

「よろしい。予定通り。港から内陸に繋がる街道にバリケードを構築。設置を完了した街道沿いの建物に弓兵を潜ませるのだ」

「了解しました」

 

 カンプが部屋を後にすると、ホエイルは独り言を漏らした。

 

「……別に水兵が陸で戦ってはいけないという道理もないからな。さて、ニホンは引っ掛かるかな?」

 

 ホエイルは先の海戦後。ニホンと真面に戦っては確実に負けると判断した。しかし、真面でない戦いなら勝てずとも負けない戦いはできるんではないかと考えた。

 とりあえずホエイルは生き残りからの報告を取りまとめ、ニホンの戦い方を分析した。

 最終的に『遠距離魔導主体で攻撃し、基本的に近づいてこない』という結論に至った。

 軍船を平然と遠距離で破壊する魔法の存在をホエイルは知らなかった。しかし、そこで思いついたのは『港に攻めてきたら、最初に軍船を狙うのではなかろうか?』ということである。

 ただ、流石に軍船を並べるだけでは欺瞞に引っかからないと考え、甲板長や船長級にだけ作戦の要点を伝えた。

 普段は船の整備や補修のために水夫が作業しており、出港していないことを除けば軍船の準備をしているようにしか見えない。

 それと並行して、敵陸戦隊が港に攻めてくる(・・・・・・・)ことを前提に、市内制圧に勤しむ敵を撃滅する案を考えたのだ。

 

 港の上空。ワイバーンでは届かない高さにそれは飛んでいた。

 

≪ーーライアー27からファイアバード。多数の市民が内陸へ向かっている。送れ≫

≪ファイアバードからライアー27。了解≫

 

 国防空軍の大型無人偵察機『QR-2』。搭載する複合カメラは港と市内全域を常に監視していた。

 無人機ドライバーから報告を受けたのは、この作戦の指揮を執る空中管制機だ。

 北の港は沖縄からでも900km離れている。攻撃作戦となれば、空中管制機による支援は必須なのだ。

 

≪ファイアバードから磐城。港への攻撃を開始せよ。オーバー≫

「磐城からファイアバード。攻撃を開始する。オーバー」

 

 港から10km。そこには日防海軍最強の軍艦がゆっくりと進んでいた。

 艦名は『磐城』。現代(未来?)に蘇った超弩級戦艦だ。

 艦首に510mm3連装滑腔砲を背負い式で2基。後部マストの後ろに第1砲塔と同じ高さで1基配置されている。

 その艦影は、見る人が見ればまさに戦艦『大和』を思い浮かべると思う。

 『大和』のように見えるその艦の艦橋では、艦隊司令の指原が港の情景を眺めていた。

 その横ではCICと連絡を取る艦長の中沢が報告した。

 

「司令。空中管制機より攻撃許可が下りました」

「よろしい。港へ攻撃を開始せよ」

「了解。CIC。砲撃用意。目標。敵港湾及び敵艦船」

≪CIC了解。目標。敵港湾及び敵艦船≫

 

 艦橋にCICの通信のやり取りを見学していた客人がいた。

 クワ・トイネから観戦武官として派遣されたブルーアイである。

 

「すみません艦長。港を砲撃するのは理解できるのですが、それでは水兵を揚陸することができないと思うのですが?」

 

 ブルーアイには揚陸戦の知識はない。ただ、港の造成は多大な労力を費やされる。それを日本は敵がいるという理由で叩き潰しているのだ。

 

「我が隊は確かに北の港を制圧目標にしていますが、揚陸部隊を展開させるのは東の海岸です」

「東の海岸? そこは砂浜が広がるだけで重要そうなものはなさそうですが?」

「砂浜が広がっていることが重要なんです」

 

 副長の言葉が終わると、艦橋内にけたたましくブザーが鳴り響いた。

 

≪撃ちぃ方ぁはじめぇっ!!≫

 

 CICからの放送が入ると同時に51cm3連装滑腔砲が雷鳴のごとき轟音を響かせながら火を噴いた。

 

 港では未だに数万単位の水夫が退避を続けている。そして、()()は落ちてきた。

 並んでいた軍船や岸壁沿いの建物がいきなり爆発した。それも1つや2つではない。見える範囲だけでも10や20は黒煙が伸びている。

 

「これは一体!?」

「いきなり爆発したぞっ!?」

「沖の船から攻撃を受けたんだっ!!」

「死にたくなけりゃぁ走れっ!!」

 

 退避命令が出てから水兵たちは慌てていたものの、規律を持った退避だった.。しかし、目の前で盛大な爆発がいくつも起きれば正常でいられるはずはなかった。

 さらに、港の軍船以外にも岸壁にほど近い建物や設備にも火の粉が舞った。

 

「クソッ! 港から市内に通じるバリケードが!」

「あんな攻撃の前には、急増のバリケードは意味がないぞ!」

「怖気づくな。ホエイル提督が計画した通りにバリケードを築くんだっ!」

 

 市内で迎撃する予定の兵士たちは、放棄予定の家屋から家具や丸太を持ち出してバリケードを築く。そして、その行動を遥か高空から観測する目があった。

 

≪ライアー27からファイアバード。多数の水兵が船舶及び岸壁付近から退避。さらに、岸壁付近の道という道にバリケードを構築している。送れ≫

「ファイアバードからライアー27。そのまま観測を継続せよ。送れ」

≪ライアー27からファイアバード。観測を継続する。オーバー≫

 

 空中管制機『ファイアバード』のモニターにライアー27から送られてくる市内の映像が流れる。

 戦域管制官である牛島は軽く思案に更けた。

 

(こちらの攻撃に対して要撃するのではなく、一心不乱に船を捨てて内陸に向かっている。しかも港に上陸することを勘案してバリケードを築いている。となると、付近の建物に伏兵がいると考えた方がいいな)

 

 牛島はインカムを起動させると上陸部隊中枢であるHQ14(第14師団指揮中隊)に通信を繋いだ。

 

「ファイアバードからHQ14。敵戦力が市街地戦を想定した準備を確認した。市内突入時に注意されたし。送れ」

≪HQ14からファイアバード。情報感謝する。オーバー≫

 

 揚陸艦3艦に便乗する上陸部隊はフェーズ2(上陸任務)に備えて最終準備に入っている。

 

 『磐城』の砲撃が港の軍船や岸壁に対して満遍なく砲撃を加え続けて1時間。フェーズ1(事前砲撃)終了の通信がファイアバードに届いた。

 

≪ファイアバードからHQ14。上陸任務を開始せよ。送れ≫

「HQ14からファイアバード。上陸作戦を開始する。送れ」

≪ファイアバードからHQ14。健闘を祈る。オーバー≫

 

 ファイアバードとの通信が切れると、上陸部隊指揮官の澤部(第14師団師団長)は麾下の部隊に命令した。

 

「各隊に伝達する。上陸任務の命令が発令された。出撃序列に従い、各隊行動を開始せよ!」

 

 揚陸艦『野間』と『志摩』から水陸両用部隊が発進した。

 低空に攻撃ヘリ。水上にはホバー脚のWAPと水陸両用ヴィークルが砂浜へと向かった。

 

 揚陸予定の砂浜にロウリア兵はおろか障害物の1つも置かれておらず、苦もなく上陸できた。

 WAPを操る児西は辺り一帯にセンサーを走らせる。しかし、敵兵の影はない。

 

「カットラス1からHQ14。A地点に到着。障害物及び抵抗なし。送れ」

≪HQ14からカットラス1。残りの部隊を揚陸させる。A地点の確保を継続せよ。オーバー≫

「カットラス1からHQ14。了解した。オーバー」

 

 児西が辺りを見回していると、第2中隊から通信が入った。

 

≪クロコダイル1からカットラス1。B地点の制圧完了。こちらに敵影はない。そちらはどうか? 送れ≫

「カットラス1からクロコダイル1。A地点でも敵影はいない。送れ」

≪クロコダイル1からカットラス1。残りの部隊を待たず、北の港に対する威力偵察を提案する。送れ≫

「カットラス1からクロコダイル1。提案については上申する。そのまま待機せよ。オーバー」

 

 児西は手持無沙汰を察して司令部に通信を繋いだ。

 

「カットラス1からHQ14。A地点及びB地点において敵影無し。北の港に対して威力偵察を提案する。送れ」

≪HQ14からカットラス1。威力偵察に関しては検討する。そのまま上陸地点の警戒を継続せよ。オーバー≫

「カットラス1からHQ14。了解。オーバー」

 

 司令部との通信を切ると、児西は周辺警戒に意識を戻した。

 

 

 ロウリア海軍司令部では、魔導通信士がホエイルに対して『ニホン軍が東の海岸に上陸!』という報告を届けていた。

 

「ニホンめぇ……! 港に来ると思ったら海岸を上陸地点として動いていたかっ! 海兵の配備はどうなっている?」

「東の海岸に一番近いのは市内東部に配した第4海兵団(5000人)です。迎撃に向かわせますか?」

「……仕方あるまい。戦力の逐次投入になるが第5と第6も後詰として向かわせるのだ。相手はまだ上陸した直後。時間を与えれば橋頭保を築かれる」

「わかりました。直ちに指示を出します」

 

 ホエイルはニホンの動きに苦々しく思ったが、現状指揮下の戦力は軍船を除けばほとんど残っている状態だ。

 陸上戦闘用に用意した3万の内半分を上陸してきたニホン軍に向かわせることを決断した。しかし、統制の取れる兵の動きは空の上から大いに目立った。

 

 

≪ライアー27からHQ14。敵戦力が上陸地点へと向かった。数は推定2万。送れ≫

「HQ14からライアー27。敵兵の接近了解した。オーバー」

 

 澤部はAFCVの中で上陸済みの戦力を手早く確認すると、手早く指示を出した。

 

「相手に騎兵はない。ヴァンツァーと攻撃ヘリで近づいてくる敵をつるべ撃ちにしろ」

「わかりました」

 

 通信士は澤部の指示を手早く通信相手に伝達した。

 

 

≪HQ14からオールヴァンツァー及びオール攻撃ヘリ。敵部隊が上陸地点へと近づいている。接近される前に敵部隊迎撃。カットラス1は指揮を執れ。送れ≫

「カットラス1からHQ14。迎撃に向かう。オーバー」

≪クロコダイル1からHQ14。カットラスと合流する。オーバー≫

 

 HQ14からの命令に対応する部隊はそれぞれ上陸地点の東側に集まった。

 集まったのはWAP12機。攻撃ヘリ8機だ。数千の敵兵の前には心許ない数だが、上陸部隊が揃っていない現状では仕方のない状態だった。しかし、沖には心強い援軍が存在した。

 

≪磐城からHQ14。砲撃支援可能。要請の際、座標を指示されたし。送れ≫

≪HQ14から磐城。砲撃支援に感謝する。オーバー≫

≪HQ14から観測ヘリ。適宜磐城に砲撃座標を伝達せよ。オーバー≫

 

 両軍は港から東1km辺りを目指して動き出した。そして、圧倒的に機動力が優位な日防軍部隊が先に集結した。

 

「カットラスから全WAP。まだ手は出すな。敵が戦列を敷き次第。磐城による砲撃を実施する」

≪クロコダイル了解≫

≪ファルシオン了解≫

≪ホワイトチーク了解≫

 

 12機のヴァンツァーは緩やかに横隊を組んで敵が来るのを待ち構えた。

 児西をはじめ、日防軍側はロウリア軍が戦列をしっかり敷いて攻めてくると踏んでいたが、投入されている兵士は海戦を生き残った者達である。沖の軍船の存在を認知したうえで、密集隊形では一網打尽にされる事だけは確信していた。

 最初に到着した第4海兵団はニホンが爆轟魔法(≠砲撃)を使ってくることを想定して隊列を組み始めた。

 

「全隊。横隊を形成せよ。隣との間隔は広めに取るのだっ! 爆轟魔法の餌食になるぞ!」

 

 陸軍に比べれば錬度不足が否めない動きだったが、何とか形は整えた。

 

「全体前進っ! 敵は少数だっ! このまま雪崩れ込めっ!!」

「「「おおぉぉ~~!!」」」

 

 5000人のロウリア兵は前進を始めた。しかし、これを好機と見た日防軍は早速沖の『磐城』に指示を出した。

 

バット2(観測ヘリ)から磐城。砲撃を要請する。座標X-635。Z-013。送れ≫

≪磐城からバット2。座標X-635。Z-013。砲撃を行う。オーバー≫

 

 『磐城』の艦上に発砲炎が光ると、20秒もしないうちに榴弾の雨がロウリア兵の頭上に降り注いだ。

 

「うわあぁぁぁ!!」

「ニホン軍船からの砲撃だぁっ!!」

 

 爆炎が収まった。第4海兵団の一部は『磐城』のたった一斉射で全滅した。

 いくら榴弾対策で通常より間隔広めの戦列を敷いたものの。バンカーはおろか塹壕すら存在しない密集陣形は砲撃の的でしかない。

 第二射。第三射と撃ち込まれた第4海兵団は壊滅(7割死傷)し、部隊としての機能は喪失した。生き残った兵士は司令部の許可を得ずに市内へと撤退した。

 

≪バット2からHQ14。敵部隊は市内へ敗走した。送れ≫

≪HQ14からバット2。敵部隊の市内敗走了解。引き続き敵部隊に対する観測を継続せよ。送れ≫

≪バット2からHQ14。観測を継続する。オーバー≫

 

 市内突入前の障害はあっさりと粉砕され、現状攻略部隊は足並みをそろえて市内へ進むだけとなった。

 昼を過ぎて10時頃。移動速度が遅い水陸両用ビークルが全て砂浜へと上がり、水陸両用部隊の戦力が揃った。

 澤部は各中隊の集結が完了すると、北の港に対する進撃を開始した。

 

「HQ14から各中隊。北の港へ前進せよ。オーバー」

 

 多数のヴァンツァーやビークルの稼働音が辺りに轟いた。何も知らない人間からすると、まるで魔獣の群れが吼えているように聞こえるだろう。

 

 水陸両用部隊は市内へ近づくと外縁沿いの建物に攻撃を加えた。

 

「攻撃してきたぞっ!?」

「こっちの居場所がバレてるのか?」

「このままじゃ犬死だっ! 引き上げるぞ」

 

 この攻撃に驚いたのは何も知らないロウリア兵たちだ。

 彼らからしたら、建物内から奇襲するという考えは読まれていないと考えていたからだ。

 対して、日防軍からしたら市街地内で可能な限り抵抗してくるだろうという予想は最初から想定していた。

 市内に突入する前、ビークルに乗せている歩兵を下車させ、ヴァンツァーやビークルの死角を埋めるように展開させた。

 

「各班。ヴァンツァーに合わせて前進。怪しいところに擲弾を叩き込め!」

 

 ヴァンツァーがゆっくり市内へ入っていくと、近くの建物という建物から弓矢が飛んできた。

 

「死ねっ! 亜人共っ!!」

「ロウリア兵をなめるなっ!!」

 

 ヴァンツァーの装甲に鏃が擦れる音が何十も生まれる。しかし、銃弾はおろか機関砲弾くらいなら難なく弾くヴァンツァーの前に、弓矢程度の破壊力では塗装に傷を付けるのが関の山だった。

 

「ーーだめだ。近すぎる」

「任せろ。グレネードを使う」

 

 攻撃されたヴァンツァーはすぐさま対応しようとするが、建物との距離が近いため攻撃できない。代わりに随伴歩兵が対処する。

 

 ロウリア軍弓兵は次の矢を放とうと狙いを定めると、リンゴサイズの“何か”が放り込まれた。

 

「何だこれ?」

「油壷……にしてはすごく小さいし、火が付いtーー」

 

 ドンッという音を立てながらロウリア兵がいた部屋は吹き飛んだ。

 

「A班は現在地を警戒」

「B班は建物の制圧だ。GOGO!!」

 

 日防軍兵士は通過する建物に突入しては、待ち構えるロウリア兵を逆に排除しつつ、制圧目標の海軍司令部を目指した。

 

 

「ホエイル提督。ニホン軍の攻撃は強力であり、市内東部の兵団から多数の援軍要請が届いております」

「予想はしていたが、ここまでニホン軍が強力だとは……! 防衛線の現在位置はっ!?」

「最新の報告からすると、恐らく司令部から東へ2kmの所といったところです」

「敵の数は?」

「それは分かりません。街道に沿って敵はゴーレム(ヴァンツァー)鉄の荷馬車(AFV)を街道を進ませ、更に鉄の羽虫(攻撃ヘリ)を空に浮かべて進路上に待機している我が方の伏兵を排除しています」

「現有戦力で阻止は難しいか……」

「司令部防衛以外の兵団を回せば防衛できるかと……」

「だが、相手は強力な爆轟魔法(艦砲射撃)がある。兵力の集中は危険ではないか?」

「相手にその意図があるなら、司令部は既に残骸となっているでしょう。おそらくですが、ニホンは北の港を制圧目標としていると考えられます。なので、移動中の第5。第6を含め、市内西部の第3海兵団を回しても防衛は可能かと思います」

「背に腹は代えられんか……通信士に伝えろ。第3海兵団も東部に向かうよう指示を出すんだ」

「了解しました」

 

 ホエイルはニホン軍の進撃を何としても阻止したい構えであり、そのため現状動かせる総戦力約2万の兵力を東部へと移動させた。しかし、この動きに呼応して日防軍は反応した。

 

≪ライアー27からHQ14。ロウリア軍に動きあり。パターンA-2。繰り返す。パターンA-2。送れ≫

≪HQ14からライアー27。パターンA-2了解。送れ≫

 

 両用戦部隊は揚陸艦で待機させている空中機動大隊(ヘリボーン部隊)が動き出した。また、両用戦部隊の攻撃ヘリ中隊も補給のため揚陸艦へ戻っていた。

 

 市内東部において最終的に2万の兵力が合流したロウリア軍。対して、日防軍部隊は機甲戦力こそ投入しているが、兵員数は700人程度だ。

 両用戦部隊は制圧した建物の窓という窓に兵士がいつでも攻撃できるよう張り付いており、さらに街道にWAPや装甲車が鎮座している。対してロウリア側も遮二無二突撃することを諦め、ニホンの出方を窺っている。

 市内東部の戦闘は、散発的な銃撃音こそ響いてはいるものの、小康状態だった。

 

「HQ14からファイアバード。部隊全体で弾薬が不足している。補給は可能か? 送れ」

≪ファイアバードからHQ14。輸送ヘリが戻ってくるのは早くて1時間後。そちらへ回せるのは3時間後。送れ≫

「HQ14からファイアバード。了解。オーバー」

 

 両用戦部隊は小康状態の中。弾薬不足が目立ち始めた。

 並の戦いなら空中投下なり中継地点を介して補給を送るのだが、今回の作戦では両用戦部隊は敵を可能な限り引き付け、その隙にヘリボーン部隊は敵司令部を急襲。制圧するという流れなのだ。

 作戦自体は予定通りに推移している。しかし、兵力差に起因する弾薬の消耗速度は予定より多く。さらにロウリア側も地の利と工夫で最大限抵抗しており、小康状態と表現したが、正確には両用戦部隊も半包囲状態に陥っていた。

 

 AFCVの中では、ディスプレイに写る各隊の状態に澤部が頭を悩ましていた。

 

「……まずい。一気に攻められたら3時間も持たんぞ」

「戦線を後退させますか?」

「いや、今更後退したら相手の攻撃を誘発しかねない……ヴァンツァーだけ後退させろ。ヘリボーンの急襲に合わせて突っ込ませる」

「わかりました」

 

 ヴァンツァーが封鎖している街道は別の装甲車が改めて封鎖した。

 

 再突入に備えて、ヴァンツァーの指揮は児西が一手に引き受けることとなった。そして、バックパックに収めていた予備弾をすぐ補充ができる箇所に移し替えた。

 

「カットラス1から全WAP。補充が済み次第指示あるまで休んでおけ。オーバー」

 

 他のヴァンツァーから返答が返ってくると、児西も操縦桿から手を放して少しだけ目を瞑った。

 

 

 ロウリア軍海軍司令部では、敵の攻勢が停滞しているという報告が入り。ホエイルをはじめ司令部要員は上機嫌だった。

 

「――ニホンの攻撃に肝を冷やしたが、地の利には勝てなかったようだな」

「そうですな」

「このまま徐々に圧力をかけて、敵を撃退しましょう」

 

 士気が少しだけ回復した海軍司令部だったが、窓から見える岸壁に目を向けた従兵が声を上げた。

 

「てっ、提督。沖合から鉄の羽虫が群れを成してこちらに近づいていますっ!?」

「何だとっ!?」

 

 ホエイルや他の参謀が窓の外を見上げた。視線の先には30機 鉄の羽虫の群れだった。大きさは小さいものもあれば、その何倍も大きく羽が多い物も含まれている。

 

「クソッ! 急いで東部に回した兵団を戻すんだっ!」

「しかし、それでは市内東部の防衛線が崩壊しますっ!」

「馬鹿者っ! ここを攻め落とされたら、勝てる戦も勝てぬぞっ! 第1兵団に司令部を絶対死守するよう厳命するのだっ!!」

「わかりました!」

 

 狂乱状態に陥るロウリア軍を横目に、ヘリボーン部隊は海軍司令部まで1kmという所まで近づいてきた。

 ロウリア兵が鉄の羽虫の攻撃に備えて戦列を整えていると、ブフォォという音が聞こえると、ゴーレムが猛烈な速度で現れた。

 

「馬鹿なっ!? ゴーレムが何でいきなり出てくるんだ!?」

「市内東部にいたんじゃないのかっ!?」

「ええぃっ!! 総員陣形を組めっ! 応戦用意っ!!」

 

 海軍司令部の眼前に展開する歩兵が亀甲体形で構えるが、ヴァンツァーが装備するマシンガンやバズーカが火を噴くと、何百という肉片が辺りにぶちまけられた。装甲車や陣地を破壊するための装備なのだ。歩兵が装備する盾では気休めにもならない。

 

「カットラス1から全WAP。周囲の敵を掃討しろ。オーバー」

 

 ヴァンツァーが確保した空間にタンデムローターの輸送ヘリコプターが着陸した。後部キャビンから歩兵と共に4輪バギー型の無人車両も降ろされる。

 中型輸送ヘリも司令部前の広場や屋根に歩兵が次々とラぺリング降下していく。

 

「第1中隊は敵司令部を制圧する。続けっ!!」

「第2中隊は周囲の制圧だ。行け行けっ!!」

 

 ヘリボーン部隊とヴァンツァー部隊は迅速に海軍司令部の周辺を制圧した。

 海軍司令部では、正に血戦といえる戦い(一方的ではあるが)が繰り広げられていた。

 

「提督っ!! 敵兵が司令部に侵入しましたっ!!」

「……総員。覚悟を決めろっ!! 敵兵の切込みに――」

 

 ホエイルが腰の剣に手を伸ばそうとした瞬間。軽い鐘の音が鳴ったかと思ったら眩い閃光と甲高い音が室内を包んだ。

 ホエイルは反射的に目を覆ったが、何人もの気配が部屋に雪崩れ込んでくることだけはわかった。

 

「クソッ!! 貴様ら何者だっーーガフッ!」

 

 ホエイルは咄嗟に入ってきた人間を問いただしたが、秒と掛からず棍棒のようなもの(小銃のストック)で倒されてしまった。

 

「クリア!」

 

 ホエイルは視力が回復すると、目の前でよくわからない筒(カービン銃)を装備する相手を問い質した。

 

「きっ、貴様ら。何者だっ!?」

「……我々は日本国防軍だ」

「そうか。貴様らがニホンか……」

「あんたが指揮官のようだな。降伏を要求する」

 

 ホエイルは悩んだ。ここで降伏すれば今まで自分たちがクワ・トイネにやってきたことが自身に帰ってくるのではないかと感じたからだ。市内東部では2万もの味方が戦っているが、かといって寡兵の日本相手に苦戦し、さらには司令部すら制圧される始末だ。

 ホエイルは致し方なく降伏を決断することにした。

 

「……わかった。直ちに降伏する」

「貴方の決断に感謝します。わが軍はハーグ陸戦条約に基づき、降伏した将兵の生命及び人道を保障します」

「よくわからないが、感謝する」

 

 

 市内東部では合流した海兵団がニホンの魔導攻撃から身を守るために建物陰で待機していた。

 物陰から相手を確認しようとすると、ほぼ確実にパーンという音が響く。そして、覗こうとした兵士は頭に風穴を開けられて絶命した。

 

「クソッ! 隠れてりゃぁ。あの魔導攻撃は受けないが、こっちも動けやしねぇ!」

「頭は出すなっ! やつらのクロスボウは恐ろしく早くて長いぞ」

 

 兵士たちは戦地で踏ん張っているが、それが勝利に近づいているという意識はなかった。

 ただニホン側が積極的ではないから生きているようなものなのだ。あの雷鳴か古龍のブレスが頭上に降り注げば、彼らが身を隠す建物など何の意味もない。

 海兵団団長は日本の次の攻撃を警戒して、護衛と共にバリケードの影から日本の動向を監視していた。

 

「団長。海軍司令部から魔導通信です」

「司令部からか……繋げ」

≪団長か? 海軍司令部のホエイルだ≫

「ホエイル提督。ニホン軍の攻撃は何とか防いでいます」

≪そのことだが……この話を聞いて混乱しないでほしい。

現在。海軍司令部はニホン軍によって制圧された≫

「そんな馬鹿なっ!!」

 

 ホエイルの言葉に団長は耳を疑った。混乱が兵士の間に広がったが、全員ホエイルの言葉の続きを静かに待った。

 

≪これを聞いている各海兵団に聞いてほしい。ニホン軍は我々に降伏を要求してきた。もし降伏を拒否した場合。全力を以て市内全域を破壊すると伝えてきた≫

「市内全域を? そんなの無理だっ!」

「古代龍でもないと、この街を焼くなんて不可能だっ!!」

「でも、港を破壊した奴らの攻撃は本物だ。戦い続けるのは得策じゃない」

≪栄えあるロウリア海軍将兵の諸君。我々は間違いなくロウリアの歴史に刻まれる戦いを演じた。しかし、此度は相手が悪かった。全将兵は白旗を掲揚し、近くのニホン軍へ投降せよ。これが私からの最後の命令である≫

 

 ホエイルの言葉を聞いたロウリア兵の中には、涙を流したり肩を落とすものが多くいた。

 

「おい。木の棒に適当な白い布を括りつけて持ってこい」

 

 団長は意を決してホエイルの指示に従うことにした。部下の一人が大急ぎで槍の穂先に無地の布を括り付けたものを用意した。

 

シーオーガ(ヘリボーン部隊)からHQ14。敵司令官を捕縛。降伏を受諾。送れ≫

「HQ14からシーオーガ。武器をわが軍の近くに集積。放棄させて司令部に集結させるよう伝達。送れ」

≪シーオーガからHQ14。武器をわが軍の近くに集積。放棄させて司令部に集結させるよう伝達了解。オーバー≫

 

 澤部は敵軍降伏の報せを聞くと、軽く気を緩めたが再度気を引き締めた。

 相手の常識は中世時代レベルだ。敵司令部が降伏しただけで前線部隊がそれに従うかどうかは別である。ただ、澤部の心配は最終的に杞憂で終わった。

 参謀が各中隊の通信を収集していくと、前線で戦っている敵軍指揮官が白旗を持って降伏の意思を伝えているという報告が集まった。

 また、敵軍指揮官の傍に控える通信兵(魔導通信士)から伝えられたのか、部下に武器の集積と司令部への移動を命じていた。

 

「HQ14から各中隊。投降してきた敵兵を敵司令部へ行くよう誘導せよ。送れ」

 

 各中隊から返事が返ってくると、街道を陣取っていた装甲車がゆっくり動き出した。

 ロウリア兵が何も問題を起こさず司令部へ向かうかどうか監視するためだ。

 

 多くの兵士が移動するのを澤部達は見守った。今のところ、ロウリア兵が暴徒化する気配はない。

 

 そろそろ日が落ちようという時。澤部達両用戦部隊の司令部面々はロウリア海軍司令部へ移動し、今後の占領計画を確認していた。

 

「司令。捕虜の住居分配が完了しました」

「そうか」

 

 澤部は接収した執務室から外を眺めた。港の沖合には揚陸艦と護衛のフリゲートが投錨していた。

 

「意外に早くに終わったな」

「えぇまぁ。市内の住民がほとんど居なくなっていたので、予定より占領と巡回が済みました」

 

 市内は現在いつものような賑わいはなく、街道の主要交差には装甲車が監視も兼ねて陣取っている。

 装甲車の銃座で待機する日防軍兵士が四方に目を光らせている。

 

「……住民がほとんどいなくなったな」

「あぁ。あの砲撃(艦砲射撃)で逃げ出したからな」

「けど、逃げ出してくれたおかげで混乱は最小限に抑えられた」

 

 正直。北の港を占領している日防軍の状態はあまり褒められた状態ではない。

 当たり前だが、両用戦部隊とヘリボーン部隊という機動重視の部隊のため弾薬をはじめとする各種物資が心許ないのだ。

 占領維持や巡回なら現状でも事足りる。しかし、ロウリア軍が本気で北の港奪還に動いたら、占領部隊だけで防衛は不可能なのだ。

 日防軍は占領部隊用の補給物資と共に『第22任務旅団』を北の港に送り込む予定だ。

 さらに、ジン・ハークには既に空軍の無人偵察機が常時監視している。

 強いて言うなら1週間は現有戦力で北の港を維持する必要があるのだ。

 

「もう日が落ちる。夜襲には警戒しろよ?」

「わかってる。交代時間は守ってくれよ?」

「つまらないからって寝落ちするなよっ!」

 

 日防軍兵士は夜通し市内の見張りを続けた。

 陥落した北の港と市内は朝方の喧騒が嘘のように静かな時間が流れていった。




解説はありません
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。